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3rdSEASON
隠せない涙
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(1)
ぴろりーん。
スマホの音で目が覚めた。
時間を見る、やばい!!
「愛莉起きて時間やばい」
「ほえ……あ、本当だ!」
愛莉と僕は慌てて起きて着替える。
こうなったのは昨日の夜ゲームを始めたから。
中々終わらず、終わった頃には夜が明けようとしていた。
下に降りると母さんが弁当を作ってくれてた。
「麻耶さんごめんなさい!」
愛莉が頭を下げる。
「どうせ冬夜が原因なんでしょ?気にしないでいいのよ。ね、冬夜?」
「ま、まあそうだけど」
「でも朝までゲーム誘ったのは私だし」
「そのゲームを誘う原因作ったのは冬夜でしょ?じゃ、なきゃ愛莉ちゃんが朝までゲームに没頭なんてするはずないもの」
女性って皆こう勘が鋭いものなんだろうか?
「う、うぅ……」
言い返せない愛莉を見てにこりと笑うと「急がないとまずいんじゃない?」と言う。
「じゃあ、行ってくる」
そう言って家を出た。
体育館に着くと急いで着替えて。コートに向かう。
皆練習していた。
「遅いですよ!片桐先輩!まさか昨日の夜もまた……」
「それはないよ佐倉さん」
「言い訳はいいから早くストレッチしてください」
バスケ部では佐(たすく)と木元先輩と佐倉さんしか知らない僕の秘密。
ストレッチが終わると練習に加わる。
個人練習が終わると3ON3やらをする。
来週には木元先輩たちの引退試合がある。
相手は医学部だ。
現段階では格上の相手だが、今なら勝てる気がする。
女バスも同じだった。
昼休みになるとまた昼ごはんを食べながらミーティング。
「冬夜何やってたんだ?佐とかは知ってるみたいだけど」
蒼汰が聞いてきた。
「ああ、朝までゲームしてただけだよ」
「自己管理出来てねーじゃねーか」
佐が言う。
「佐の言う通りだ。ちょっとだらしないぞ冬夜」
「ごめんなさい。私が誘ったの」
愛莉が赤井君に謝ると、事情を説明する。
「昨日冬夜君がちょっと理由があって眠れないみたいだから、気分転換にゲームでもする?って誘ってそれで終わったのが朝で」
「遠坂先輩は関係ないです。やっぱり朝まで起きてたのは片桐先輩自身の問題です」
佐倉さんが言う。
「最近の先輩余裕見せすぎです。このチームなら絶対にスタメンから外されないと高をくくってませんか?」
「そんな事はないよ」
「だったら前みたいに朝一で練習してるはずです。朝までゲームなんて絶対にしない。夜遅くまで運転なんて普通しないはずです。体調管理する気全くないじゃないですか?」
「ちょっと待てよ。夜遅くまで運転ってなんだよ?」
蒼汰が聞く。
「佐倉さんその話は秘密にしておこうって言ったよ」
花菜さんが言うが、木元先輩が遮る。
「花菜、この際だからみんなに知らせた方が良い。片桐君を止めるにはいい方法だと思う。皆聞いてくれ。実は……」
木元先輩が僕の夜の行動を話した。
「マジかよ、青い閃光って冬夜の事だったのか」
蒼汰君が驚く。
「それは止めさせないと危ないな。ましてや練習疲れでそんなことされたら大問題だ」
真司が言う。
「片桐先輩はもう自分ひとりの体じゃないんです。いや、前からそうだった。遠坂先輩の将来も背負ってるんでしょ?だったらもう少し考えて行動してください」
佐倉さんが言うと僕はうなずくより他なかった。
「まあ冬夜の気持ちも分からんでもないけどな。急に期待背負わされて重圧かけられて、発散したくもなるよな」
佐がそう言うと佐倉さんが窘める。
「佐。甘やかさないで。片桐先輩は……」
「そうやって知らず知らずにプレッシャーかけられて冬夜もそれを受け止めてる。ガス抜きくらい必要だろ?冬夜だって一人の人間なんだぜ?まあやり方に問題があるけどな」
「うん、だからゲームで我慢してって言ったの」
愛莉がそう言う。
「ゲームだったら誰にも迷惑かけないし、冬夜君の体調管理は私が責任もってやればいいって思ってる」
「……冬夜は幸せだな。こんないい彼女がいて」
彼女じゃなくてお嫁さんらしいけどね。
「佐だって佐倉さんっていいパートナー見つけたじゃないか」
「お、俺の話はどうだっていいんだよ!」
佐が慌ててる。
「今は片桐先輩の話をしてるんですよ。どうして私達の話になるんですか!」
「照れることないだろ?」
「冬夜の言う通りだな。今さら何慌ててるんだ佐。毎日送迎されてるそうじゃないか?」
恭太が言うと、佐倉さんが慌ててる。
「そ、それはマネージャーとして通学途中に佐に何かあったらと」
「佐、佐って佐のマネージャーになったのか?」
恭太はそう言って笑う。
「だ、だから……」
佐倉さんが何かを言おうとすると真司が佐倉さんに助け舟を出した。
「佐倉の話は置いておいてで今度の引退試合どうするんだ?やっぱ先輩たちだけで出てもらうのか?だったらそろそろ5人で練習してもらった方が良いんじゃないのか?」
「その話なんですけど……実は先輩から提案があって……」
佐倉さんが何かを言おうとしてる。
「俺達はもう皆部活を引退してる奴らが多い。残ってるのは俺くらいだ。俺も冬夜と少しでもコートに立っていたいから残ってるだけだ。現役メンバーのデビュー戦と考えてくれ」
「いいんすか?折角の引退試合なのに」
木元先輩がいうと蒼汰が言った。
「有終の美を飾りたいからな。その代わり絶対に負けるなよ」
木元先輩が言う。
「了解っす。勝ってパーッと合コンして盛り上がって終わりにしましょう」
「お前が引退するわけじゃないんだぞ」
蒼汰が言うと木元先輩は笑う。
「合コンってお前まだ物足りないのか?」
「結構うちの部と合コンしたいっていうサークル多いんすよ」
「いいのか?そんな事言って。村川に言いつけるぞ」
恭太が言うと佐倉さんが付け足す。
「ちゃんと女バスとの合コンセッティングしてありますから心配無用です」
佐倉さんがそう言うと皆が笑う。
こうやってみんなと笑っていられるのもあと何日だろうか?
木元先輩は引退試合が終わったら引退してしまう。
そして来月には新人が入ってくる。
また過酷なレギュラー争いになるんだろう。
僕だって他人事じゃない。
願わくばこのメンバーで残り2年戦いたい。
そう思っていた。
(2)
「ねえ、今度の引退試合どう思う?」
雪菜がおさげの髪を弄りながら話している。
「うち4年生もういないのにって感じするよね~」
香織が話に乗る。この二人は仲が良い。
「男バスも同じ見たいよ。最近木元先輩しか見ないし」
清美がそう言うと二人が頷いた。
「ていうかさ、不思議だよね両チームとも3年いないって」
「お蔭で私達の出番がきたんだけどね」
香織と雪菜が話している。
私は何となく予想ついていた。
女バスは監督が就任してから練習がきつくなったせい。男バスは片桐君と佐倉さんが入って練習が本格化したからそれまでただの1サークル活動として意識していた3年が逃げ出した。
もっとも片桐君はそこまで本気でやろうとは思わなかったらしいけど。佐倉さんがそれを許さなかった。
その結果とんでもない約束を交わしたらしい。
「てかさ、来年の男バス楽しみじゃない?」
「そうだよね、格段にレベルアップしてるよ、みんな。片桐君が入ってるってだけでもしんどいのに、片桐君が皆の底上げをしてるみたいに強くなってる」
それはちょっと違うんじゃないかな。佐倉さんが全体の底上げをしてるように思えた。あれでバスケ初心者って言うんだから凄い。
「私達も男バスと練習してからレベルアップしてるよ。来年度はとりあえず春季大会優勝したいね」
清美が言う。
「そうだね~今年は惜しかったしね~」
「男バスにも頑張って欲しいんだろうね~。清美ちゃんは」
「そ、それはみんな一緒でしょ?」
「またまた~吉良君の活躍観たいんでしょ、清美ちゃんは」
「ラブラブだもんね~。清美ちゃん達」
「そ、それは私だけじゃないじゃない」
3人のやり取りを聞きながらサンドイッチを食べていた。
「そこ、瑠衣ちゃん。他人事みたいに聞かない!瑠衣ちゃんのネタも上がってるんだからね!」
「そうそう、赤井君とちゃっかり仲良くなっちゃって。接触プレイも頻繁になったとか?」
「え?そうだったの?瑠衣、赤井君と上手くいってるんだ」
3人に突っ込まれて狼狽える私。
「上手くいってるってデートに誘われただけだよ」
「デートまで漕ぎつけたの!?意外と手が早いんだね!赤井君」
「いつデート行くの?」
清美が聞くので答えた。
「今週末の土曜。練習終わったら駅前で待ち合わせ」
「今週末か、来週の打ち上げが楽しみですな、香織」
「そうだね~雪菜」
「ふ、二人はどうなの?誰か付き合ってる人とかいないの」
「私達はバスケ一筋だからね、誰かさんと違って」
「そうそう悲しいかな。この年になって恋人もいないなんて」
「その割には人の恋愛事情に敏感なようね」
氷川監督が入ってきた。
「まあ、そういう話で盛り上がるのもいいけど。自分の役割はしっかりこなしなさい。こなせないならメンバー入れ替えするからね」
「は~い」
皆が返事をする。
それを見て氷川監督が頷く。
「それでいい、まずチームの中で勝ち残って初めて試合に勝てるんだからね。そういうチームを目指しているから」
「はい!」
「……とはいえ。小島さんにはいい刺激になってるようね。弱気だったプレイが積極的になってきてる。赤井君限定だったら困るけど」
「そ、そんなことはないです!」
たぶん……。
「一番問題なのは村川さんね。藤間君とじゃれ合うようなプレイは止めなさい。あまり酷いようだと男バスとの練習やめにするよ」
「は、はい」
村川さんも男バスの藤間蒼汰君と付き合っている。
「とりあえずの目標は5月の大会!新入部員も入ってくるし気合入れて行かないと取り残されるからね!」
「はい!!」
「じゃあ、準備出来た人からコートに来て、いつも通り練習するよ」
そう言って氷川監督は出ていた。
「とりあえず気合入れるのは来週の打ち上げよね?」
「でしょう。私達も3人に負けないように彼氏ゲットしないと」
「て、事は二人共目星つけてるの?」
私は聞いてみた。
「当然でしょう、私は黒田君」と雪菜がいい「私は青山君かな」と香織が言う。
なるほどね。
「じゃ、おしゃべりもここまでにして練習行くよ」
清美が言うと皆立ち上がってコートに向かった。
「蒼汰君~」
「茉里奈~」
2人はあんな調子だ。
私は赤井君とジャンプボールに臨む。
「手加減無用だぞ」
そう言って赤井君は笑みを浮かべる。
「わかってます」
練習に集中!
ボールが放られ私たちは跳躍した。
(3)
神奈先輩に連れられて私は別府の病院に向かう。
「すいません~私が車持ってないばかりに~」
「気にするな、ちょうど暇だったし」
病院に着くと「ここで待ってるから」と神奈さんは待合室のベンチに腰掛ける。
「こんにちは~」
「ああ、今日も来たのか……」
随分な挨拶をする春樹。
「そりゃ~毎日でも来たいくらいですよ~」
「そんなに俺の事心配か。看護師と浮気でもすると思ったか?」
「そんなことありませんよ~」
「じゃあ、なんで来るんだ?」
「せっかくの休みだし顔見れるから~。来ちゃまずい事でもあるんですか~?」
「……あまりみっともない姿を見せたくないからな」
春樹でもそう思う事あるんだ。
いや、春樹だからこそそう感じてしまうんだろう。
「今日はデザートもってきました~」
「ありがとう」
持ってきたケーキを紙皿にのせて春樹に渡す。あとプラスチックのフォークと一緒に。
春樹は甘いものに目が無いらしい。普段の春樹からは想像もつかない一面。
「退院祝いはケーキ食べ放題でいいですね~」
「そんな店地元にあるのか?」
「駅ビルにあるんです~」
「それは行ってみたいな」
ケーキを食べ終えると紙皿とフォークを片付ける。
「片桐は……大丈夫か?」
「どうしてですか~?」
「相手の事気にしてたから」
「皆で説得したから大丈夫ですよ~」
「そうか、ならいいんだが……あいつすぐに熱くなるタイプみたいだから心配でな」
「私は春樹も心配です~」
「えっ?」
私は春樹に抱き着いていた。
「……春樹も金輪際夜山に行くのは無しにしてください。そういうのしたかったらサーキットでしてください。ライセンスとって」
「咲良……」
「どうしてみんなそんな危ない真似するんですか~?……こんな不安な気持ち春樹には絶対分からない」
「……すまん」
私の心底のお願い。もう無茶な運転は止めて欲しい。多分渡辺班の女性全員が思ってる事だ。
「しんみりした話になってしまいましたね~。話題変えましょうか~」
「そうだな……」
そうして1時間ほど喋って私は席を立った。
「神奈先輩に悪いしそろそろ帰ります」
「ああ、気をつけてな」
「春樹も無理しちゃだめですよ~」
「わかった」
待合室にいる神奈先輩を呼ぶと、神奈先輩は「もういいのか?」と聞いてきた。
「はい~。お待たせしちゃまずいと思って」
「私の事は構わなくてよかったのに。もう少しゆっくりしていけ」
「いえ、また今度きます~」
「そうか」
そう言って家に送ってもらう。
「檜山先輩はどうだ?」
「割と普通でした~、片桐先輩の事心配してました~」
「だろうな……あの馬鹿すぐに熱くなるから」
車は10号線でも特に飛ばす車の多い区間に入る。
後ろギリギリに車間距離を詰めてくる。
神奈先輩は左足でブレーキをチョンと踏む。
するとブレーキランプが点灯し。相手は間を空ける。
しかし間を空けたかと思ったら急に無理な追い越しをしかけて無理矢理割り込んでくる。
その後も前の車を同じように抜き去っていく車。
「……どうして男の人って無謀な運転をしたがるんでしょうね」
「スリルを味わいたいとかスピードの向こう側を見たいとか訳の分からない事言ってるけど要するにただの馬鹿だろうな」
「多田先輩も同じような事を~?」
「ある意味トーヤより質が悪いな。トーヤは街中では絶対に飛ばさない。山に入ると無茶な運転するだけだ。誠は街の中で馬鹿みたいに飛ばすからな」
「……山に何があるんですかね~」
「……何もね~よ。危険が待ってるくらいだ。男どもはその事に目を塞いで走ってる。自分は大丈夫だと思い込んで。何もかも目を閉じて耳を塞いでる。だから大切なものに気づいてやらないんだ」
「なるほど~」
「とはいえ私もこんな車乗ってる時点で人の事言えないけどな。一度痛い目見ないとわからないのさ。恐怖を体感して気づくことってあるだろ。それで気づかないならただの馬鹿だ」
春樹は気づいてもらえたんだろうか?
私のアパートの前に着くと私は車を降りる。
「ありがとうございました~」
「いいよ、じゃあまたな」
そう言って神奈先輩は家に帰って行った。
家に帰って春樹にメッセージを送る。
「スピードの向こう側って何だと思いますか?」
「なんだそりゃ」
「先輩はどう考えてますか?」
「そんなものねーよ。あったとしてもそこには決してたどり着けない。その前に限界があるからな」
「先輩は限界めざしてるんですか~?」
「心配するな、もう無茶はしねーよ。お前の泣き顔見たくねーし」
「はい~」
春樹はきっと大丈夫。
私を乗せてる時は危険な運転絶対にしない。
一人でいると不安だけど、それもしないって約束してくれた。
その言葉を信じよう。
(4)
4日目。
セビリア観光をした。
カテドラルやヒラルダの塔、アルカサル、サンタルクス街、スペイン広場を見る。
午後はグラナダに移動しアルハンブラ宮殿、ヘレラリーフェ宮の庭園を見る。
夜はフラメンコショーを見た。
フラメンコショーを見た後は外に出てアルハンブラ宮殿の夜景を楽しむ。
晶ちゃんは今お風呂に入ってる。
僕は出てきて、寛いでる。
Wi-Fiはあるけど敢えて皆と連絡をやり取りしてない。
そんなことよりも晶ちゃんと二人っきりの時間が大事だから。
この8日間だけは皆の事は忘れよう。
そう晶ちゃんと約束してる。
「善君おまたせ~」
晶ちゃんが戻ってきた。
「髪を乾かしなよ、こんなところで風邪引いたら元も子もないよ」
僕がそう言うとドライヤーで髪を乾かし始める。
部屋の間取り一つとっても日本とは違う様式美。
「皆どうしてるかしらね」
「元気でやってるんじゃないかな?」
そんな会話のやりとりをして、僕達は眠りにつく。
そのころ冬夜君達に何があったのかも知らずに……。
(5)
SSに来ていた。
SSには昨日の黄色いEK9が止まっていた。
EK9の運転手はニヤニヤ笑っている。
僕の震える右手を愛莉が必死に抑えている。
「何で昨日は来なかったんだよ」
何も言い返せなかった。
「何も言えないんだな。素直に言えよ『怖くて逃げました』って……」
そう言って笑っている。
こんな屈辱初めてだ。
でも愛莉と交わした約束破るわけには行かない。
破っても困るような罰ゲームじゃなかったけど。
でも愛莉との信頼関係を崩しそうで。
そんな恐怖に比べたらこのくらい耐えるべきだ。
「そっちが勝ったら土下座してやるって言ったな。この場合お前の負けだろ?何してくれるんだ?ガキ」
だめだ、自分を押えなきゃ。
凄く悔しいけど……。
僕はその場に膝をついて土下座をしようとすると愛莉が止める。
「そんなことする必要ないよ。冬夜君」
え?
「バカみたい、他人の車傷つけて怪我させて喜んでるなんてそっちの方が余程子供じゃない。ママに叱られないうちに早くお家に帰ったら?」
愛莉キャラがまた変わってるぞ?
「随分と強気な女だな。……見た目も可愛いし。お前の土下座なんかいらないからその彼女くれよ」
「私彼女じゃないもん、お嫁さんだもん」
痛い、痛いぞ愛莉。その言葉は。
「嫁さんに守られる旦那ってか!笑えるね」
茂さん達も怒りに震えている。
もうこれ以上我慢できない。
「笑えるのはあなた達じゃない?彼女がいないからそんな危険な真似できるんでしょ?いたら絶対にしないよ?冬夜君は言ったら分かってくれた。可哀そうな人達言ってもらえる人もいないんだね?」
「奥さん、あんたの旦那さんは俺達と勝負するって言っておきながら逃げたんだぜ。何も無しってのはちと話が違うんじゃないの?」
「約束なんかしてないじゃん」
へ?
僕と同じリアクションを取る相手。
「冬夜君は『勝ったら土下座するんだな』あなたは『昨日の夜待ってる』って言っただけで勝負なんて一言も言ってないじゃない」
それは屁理屈だよ愛莉。
「その前に勝負しろといったはずだがな……?」
「するとは言ってないもん!」
「って屁理屈言ってるが旦那さんはどう思ってるんだ?」
なんて返せばいいんだろう?
やっぱり謝るしかないんじゃないのか?
「どうせ勝負って言ったって冬夜君の車にぶつける気だったんでしょ?」
「そりゃ冬夜君の車が遅かったらそうなるわな」
「別府の山での事故や地元の山での事故みたいに接触するわけ?」
「相手が遅かったんだから仕方ないだろ?」
「制限速度守ってたのに?」
「制限速度守る車が深夜に山上るなよ」
そう言って男は高笑いする。
愛莉のやろうとしてることが分かった。
男は気づいてないようだ。
「繰り返すけど冬夜君は逃げたわけじゃないよ、危険な運転を避けただけ。冬夜君には関係ない」
「そりゃ屁理屈だろ?確かに来なかったけど逃げただけだろ?」
「……冬夜君は山に言ってないことは認めるのね?」
「ああ、来なかった。逃げたんだよ」
愛莉はにこりと笑う。
「その一言が聞きたかったの」
するとさっきから止まっていた白い高級車から一人の男性と石原君と恵美さんが降りてくる。
「誰だあんたら?」
相手の男が聞くが恵美さんは無視して愛莉に「上手かったわよ」といい、愛莉は「えへへ~」と笑う。
話の呑み込めない男。
高級車から出てきた男性が名刺を差し出した。
弁護士らしい。
「今警察は悪質な当て逃げ事件として犯人を捜しています」
弁護士と名乗った男性はそう言った。
「遠坂さんでしたっけ?返してもらえますか?」
弁護士が愛莉に言うと愛莉はボイスレコーダーを弁護士に渡した。
「これは証拠として提出することが出来ます。先程の話ですとそちらの男性は無関係のようですし」
男はたじろぐ。
「私どもとしても事件として事を荒立てたくない。示談で片づけてもらえるならこの証拠はお渡ししますが」
「……お前らはめたな!それでも走り屋かよ」
「冬夜君は走り屋じゃないよ。立派なバスケの選手だよ」
「バスケの選手が事件に関わったらスキャンダルだよな?」
「自分で言ったじゃない『冬夜君は現場にいなかった』って」
「くっ……」
「どうしますか?この交渉のみますかのみませんか?のんでいただけるのでしたらこちらもそれなりの対応をとりますが。」
「わかったよ!」
男は弁護士に渡された誓約書にサインする。
そしてボイスレコーダーをふんだくるとその場に落として踏みつけて破壊した。
「九州エリア中に吹いて回ってやる。地元エリアには腰抜けの卑怯者しかいないってな!」
「どうぞご自由に~」
「地元の蒼い閃光もたいしたことなかったな。来ただけ損だったぜ」
そう言って男は車に乗って去って言った。
「愛莉最初から企んでたのか?」
「うん、目的は二つあったけどね。どっちも成功した~」
二つ?
一つは走り屋をはめることだとして、もう一つは?
「冬夜君に走り屋じゃないって認めさせること~。もう冬夜君山で危険な走行しちゃだめだよ」
愛莉にしてやられたようだ。
茂さんが言う。
「君の事情は彼女さんから聞いたよ。すまなかったね。もう君たちに頼むような真似はしないから」
「はい」
「愛莉ちゃんよかったね」
「恵美の協力があったお蔭だよ~」
「片桐君、皆ファミレスで待ってるから行こうか?」
石原君が言うと僕の車の後部座席に乗る。
弁護士の人に「助かったわ」と恵美さんが言う。
「いえ、ではまた」と、言って弁護士の人は去った。
(6)
ファミレスで愛莉の話を聞くと歓声が上がった。
「もう、渡辺班に敵なしだな!」
美嘉さんがそう言ってはしゃぐ。
「でも冬夜ももうやめろよ」
渡辺君が念を押す。
「分かってるよ」
僕が言うと渡辺君は皆に言う。
「これからは渡辺班の行動が冬夜の将来に影響する。軽はずみな行動は控えてくれ」
皆は「分かった」と言った。
「でも愛莉ちゃんの秘策見事だったわ」
恵美さんが愛莉を褒める。
「本当は怖かったんだけどね。一歩間違えたら冬夜君巻き込んじゃうから」
「私からもお願いします~、春樹にも言いました~、大切な人が怪我したり失ったりしたらすごいショックです~……そんな思いを遠坂先輩にさせないで」
咲良さんが言うと「わかってる」とだけ伝えた。
「先輩はもっとバスケに向き合ってください。そんなんで世界一を目指すなんて馬鹿にしてます」
「俺からも言わせてもらうぞ、スポーツ選手ならメンタルは遠坂さんがケアしてくれるとしても、体調なんか最終的には自己責任なんだ」
暴飲暴食も控えろと佐倉さんと佐から言われた。
注文が届く。
「ほら、言ってるそばから!!」
「あ、いつの間にこんなに」
「いつも通りの注文だよ」
「だめ!」
ぽかっ
ファミレスを出ると恵美さんと石原君を家に送る。
アパートに着くと二人は降りる。
「じゃ、もう愛莉ちゃんを困らせたら駄目よ?」と恵美さんが言って手を振る。
真っ直ぐ家に帰った。
それからすぐにシャワーを浴びて酎ハイを飲む。
愛莉も持ってきたみたいだ。
愛莉はノートPCを起動する。
いつもの作業を終えると「冬夜君しよっ!」と言う。
僕もノートPCを起動させるとログインする。
皆がそろっている。
ダンジョンに行こうと誘われたが愛莉が断った。
「そんなに時間がないから」って……。
愛莉の新キャラの育成に手伝ってやる。
しばらくするとゲームを止めた。
照明を落としてベッドに入る。
「愛莉今日はありがとうな」
「これも嫁の務めですから」
「……いいお嫁さんをもったよ」
「わ~い」
愛莉は僕にしがみ付く。
「もう駄目だからね、ドライブなら付き合うから」
「わかったよ」
「じゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」
愛莉は眠ってしまった。
今日はつかれたんだろうな。
ありがとうな、愛莉。
愛莉の頭を撫でてやる。
愛莉を抱くようにして眠った。
ぴろりーん。
スマホの音で目が覚めた。
時間を見る、やばい!!
「愛莉起きて時間やばい」
「ほえ……あ、本当だ!」
愛莉と僕は慌てて起きて着替える。
こうなったのは昨日の夜ゲームを始めたから。
中々終わらず、終わった頃には夜が明けようとしていた。
下に降りると母さんが弁当を作ってくれてた。
「麻耶さんごめんなさい!」
愛莉が頭を下げる。
「どうせ冬夜が原因なんでしょ?気にしないでいいのよ。ね、冬夜?」
「ま、まあそうだけど」
「でも朝までゲーム誘ったのは私だし」
「そのゲームを誘う原因作ったのは冬夜でしょ?じゃ、なきゃ愛莉ちゃんが朝までゲームに没頭なんてするはずないもの」
女性って皆こう勘が鋭いものなんだろうか?
「う、うぅ……」
言い返せない愛莉を見てにこりと笑うと「急がないとまずいんじゃない?」と言う。
「じゃあ、行ってくる」
そう言って家を出た。
体育館に着くと急いで着替えて。コートに向かう。
皆練習していた。
「遅いですよ!片桐先輩!まさか昨日の夜もまた……」
「それはないよ佐倉さん」
「言い訳はいいから早くストレッチしてください」
バスケ部では佐(たすく)と木元先輩と佐倉さんしか知らない僕の秘密。
ストレッチが終わると練習に加わる。
個人練習が終わると3ON3やらをする。
来週には木元先輩たちの引退試合がある。
相手は医学部だ。
現段階では格上の相手だが、今なら勝てる気がする。
女バスも同じだった。
昼休みになるとまた昼ごはんを食べながらミーティング。
「冬夜何やってたんだ?佐とかは知ってるみたいだけど」
蒼汰が聞いてきた。
「ああ、朝までゲームしてただけだよ」
「自己管理出来てねーじゃねーか」
佐が言う。
「佐の言う通りだ。ちょっとだらしないぞ冬夜」
「ごめんなさい。私が誘ったの」
愛莉が赤井君に謝ると、事情を説明する。
「昨日冬夜君がちょっと理由があって眠れないみたいだから、気分転換にゲームでもする?って誘ってそれで終わったのが朝で」
「遠坂先輩は関係ないです。やっぱり朝まで起きてたのは片桐先輩自身の問題です」
佐倉さんが言う。
「最近の先輩余裕見せすぎです。このチームなら絶対にスタメンから外されないと高をくくってませんか?」
「そんな事はないよ」
「だったら前みたいに朝一で練習してるはずです。朝までゲームなんて絶対にしない。夜遅くまで運転なんて普通しないはずです。体調管理する気全くないじゃないですか?」
「ちょっと待てよ。夜遅くまで運転ってなんだよ?」
蒼汰が聞く。
「佐倉さんその話は秘密にしておこうって言ったよ」
花菜さんが言うが、木元先輩が遮る。
「花菜、この際だからみんなに知らせた方が良い。片桐君を止めるにはいい方法だと思う。皆聞いてくれ。実は……」
木元先輩が僕の夜の行動を話した。
「マジかよ、青い閃光って冬夜の事だったのか」
蒼汰君が驚く。
「それは止めさせないと危ないな。ましてや練習疲れでそんなことされたら大問題だ」
真司が言う。
「片桐先輩はもう自分ひとりの体じゃないんです。いや、前からそうだった。遠坂先輩の将来も背負ってるんでしょ?だったらもう少し考えて行動してください」
佐倉さんが言うと僕はうなずくより他なかった。
「まあ冬夜の気持ちも分からんでもないけどな。急に期待背負わされて重圧かけられて、発散したくもなるよな」
佐がそう言うと佐倉さんが窘める。
「佐。甘やかさないで。片桐先輩は……」
「そうやって知らず知らずにプレッシャーかけられて冬夜もそれを受け止めてる。ガス抜きくらい必要だろ?冬夜だって一人の人間なんだぜ?まあやり方に問題があるけどな」
「うん、だからゲームで我慢してって言ったの」
愛莉がそう言う。
「ゲームだったら誰にも迷惑かけないし、冬夜君の体調管理は私が責任もってやればいいって思ってる」
「……冬夜は幸せだな。こんないい彼女がいて」
彼女じゃなくてお嫁さんらしいけどね。
「佐だって佐倉さんっていいパートナー見つけたじゃないか」
「お、俺の話はどうだっていいんだよ!」
佐が慌ててる。
「今は片桐先輩の話をしてるんですよ。どうして私達の話になるんですか!」
「照れることないだろ?」
「冬夜の言う通りだな。今さら何慌ててるんだ佐。毎日送迎されてるそうじゃないか?」
恭太が言うと、佐倉さんが慌ててる。
「そ、それはマネージャーとして通学途中に佐に何かあったらと」
「佐、佐って佐のマネージャーになったのか?」
恭太はそう言って笑う。
「だ、だから……」
佐倉さんが何かを言おうとすると真司が佐倉さんに助け舟を出した。
「佐倉の話は置いておいてで今度の引退試合どうするんだ?やっぱ先輩たちだけで出てもらうのか?だったらそろそろ5人で練習してもらった方が良いんじゃないのか?」
「その話なんですけど……実は先輩から提案があって……」
佐倉さんが何かを言おうとしてる。
「俺達はもう皆部活を引退してる奴らが多い。残ってるのは俺くらいだ。俺も冬夜と少しでもコートに立っていたいから残ってるだけだ。現役メンバーのデビュー戦と考えてくれ」
「いいんすか?折角の引退試合なのに」
木元先輩がいうと蒼汰が言った。
「有終の美を飾りたいからな。その代わり絶対に負けるなよ」
木元先輩が言う。
「了解っす。勝ってパーッと合コンして盛り上がって終わりにしましょう」
「お前が引退するわけじゃないんだぞ」
蒼汰が言うと木元先輩は笑う。
「合コンってお前まだ物足りないのか?」
「結構うちの部と合コンしたいっていうサークル多いんすよ」
「いいのか?そんな事言って。村川に言いつけるぞ」
恭太が言うと佐倉さんが付け足す。
「ちゃんと女バスとの合コンセッティングしてありますから心配無用です」
佐倉さんがそう言うと皆が笑う。
こうやってみんなと笑っていられるのもあと何日だろうか?
木元先輩は引退試合が終わったら引退してしまう。
そして来月には新人が入ってくる。
また過酷なレギュラー争いになるんだろう。
僕だって他人事じゃない。
願わくばこのメンバーで残り2年戦いたい。
そう思っていた。
(2)
「ねえ、今度の引退試合どう思う?」
雪菜がおさげの髪を弄りながら話している。
「うち4年生もういないのにって感じするよね~」
香織が話に乗る。この二人は仲が良い。
「男バスも同じ見たいよ。最近木元先輩しか見ないし」
清美がそう言うと二人が頷いた。
「ていうかさ、不思議だよね両チームとも3年いないって」
「お蔭で私達の出番がきたんだけどね」
香織と雪菜が話している。
私は何となく予想ついていた。
女バスは監督が就任してから練習がきつくなったせい。男バスは片桐君と佐倉さんが入って練習が本格化したからそれまでただの1サークル活動として意識していた3年が逃げ出した。
もっとも片桐君はそこまで本気でやろうとは思わなかったらしいけど。佐倉さんがそれを許さなかった。
その結果とんでもない約束を交わしたらしい。
「てかさ、来年の男バス楽しみじゃない?」
「そうだよね、格段にレベルアップしてるよ、みんな。片桐君が入ってるってだけでもしんどいのに、片桐君が皆の底上げをしてるみたいに強くなってる」
それはちょっと違うんじゃないかな。佐倉さんが全体の底上げをしてるように思えた。あれでバスケ初心者って言うんだから凄い。
「私達も男バスと練習してからレベルアップしてるよ。来年度はとりあえず春季大会優勝したいね」
清美が言う。
「そうだね~今年は惜しかったしね~」
「男バスにも頑張って欲しいんだろうね~。清美ちゃんは」
「そ、それはみんな一緒でしょ?」
「またまた~吉良君の活躍観たいんでしょ、清美ちゃんは」
「ラブラブだもんね~。清美ちゃん達」
「そ、それは私だけじゃないじゃない」
3人のやり取りを聞きながらサンドイッチを食べていた。
「そこ、瑠衣ちゃん。他人事みたいに聞かない!瑠衣ちゃんのネタも上がってるんだからね!」
「そうそう、赤井君とちゃっかり仲良くなっちゃって。接触プレイも頻繁になったとか?」
「え?そうだったの?瑠衣、赤井君と上手くいってるんだ」
3人に突っ込まれて狼狽える私。
「上手くいってるってデートに誘われただけだよ」
「デートまで漕ぎつけたの!?意外と手が早いんだね!赤井君」
「いつデート行くの?」
清美が聞くので答えた。
「今週末の土曜。練習終わったら駅前で待ち合わせ」
「今週末か、来週の打ち上げが楽しみですな、香織」
「そうだね~雪菜」
「ふ、二人はどうなの?誰か付き合ってる人とかいないの」
「私達はバスケ一筋だからね、誰かさんと違って」
「そうそう悲しいかな。この年になって恋人もいないなんて」
「その割には人の恋愛事情に敏感なようね」
氷川監督が入ってきた。
「まあ、そういう話で盛り上がるのもいいけど。自分の役割はしっかりこなしなさい。こなせないならメンバー入れ替えするからね」
「は~い」
皆が返事をする。
それを見て氷川監督が頷く。
「それでいい、まずチームの中で勝ち残って初めて試合に勝てるんだからね。そういうチームを目指しているから」
「はい!」
「……とはいえ。小島さんにはいい刺激になってるようね。弱気だったプレイが積極的になってきてる。赤井君限定だったら困るけど」
「そ、そんなことはないです!」
たぶん……。
「一番問題なのは村川さんね。藤間君とじゃれ合うようなプレイは止めなさい。あまり酷いようだと男バスとの練習やめにするよ」
「は、はい」
村川さんも男バスの藤間蒼汰君と付き合っている。
「とりあえずの目標は5月の大会!新入部員も入ってくるし気合入れて行かないと取り残されるからね!」
「はい!!」
「じゃあ、準備出来た人からコートに来て、いつも通り練習するよ」
そう言って氷川監督は出ていた。
「とりあえず気合入れるのは来週の打ち上げよね?」
「でしょう。私達も3人に負けないように彼氏ゲットしないと」
「て、事は二人共目星つけてるの?」
私は聞いてみた。
「当然でしょう、私は黒田君」と雪菜がいい「私は青山君かな」と香織が言う。
なるほどね。
「じゃ、おしゃべりもここまでにして練習行くよ」
清美が言うと皆立ち上がってコートに向かった。
「蒼汰君~」
「茉里奈~」
2人はあんな調子だ。
私は赤井君とジャンプボールに臨む。
「手加減無用だぞ」
そう言って赤井君は笑みを浮かべる。
「わかってます」
練習に集中!
ボールが放られ私たちは跳躍した。
(3)
神奈先輩に連れられて私は別府の病院に向かう。
「すいません~私が車持ってないばかりに~」
「気にするな、ちょうど暇だったし」
病院に着くと「ここで待ってるから」と神奈さんは待合室のベンチに腰掛ける。
「こんにちは~」
「ああ、今日も来たのか……」
随分な挨拶をする春樹。
「そりゃ~毎日でも来たいくらいですよ~」
「そんなに俺の事心配か。看護師と浮気でもすると思ったか?」
「そんなことありませんよ~」
「じゃあ、なんで来るんだ?」
「せっかくの休みだし顔見れるから~。来ちゃまずい事でもあるんですか~?」
「……あまりみっともない姿を見せたくないからな」
春樹でもそう思う事あるんだ。
いや、春樹だからこそそう感じてしまうんだろう。
「今日はデザートもってきました~」
「ありがとう」
持ってきたケーキを紙皿にのせて春樹に渡す。あとプラスチックのフォークと一緒に。
春樹は甘いものに目が無いらしい。普段の春樹からは想像もつかない一面。
「退院祝いはケーキ食べ放題でいいですね~」
「そんな店地元にあるのか?」
「駅ビルにあるんです~」
「それは行ってみたいな」
ケーキを食べ終えると紙皿とフォークを片付ける。
「片桐は……大丈夫か?」
「どうしてですか~?」
「相手の事気にしてたから」
「皆で説得したから大丈夫ですよ~」
「そうか、ならいいんだが……あいつすぐに熱くなるタイプみたいだから心配でな」
「私は春樹も心配です~」
「えっ?」
私は春樹に抱き着いていた。
「……春樹も金輪際夜山に行くのは無しにしてください。そういうのしたかったらサーキットでしてください。ライセンスとって」
「咲良……」
「どうしてみんなそんな危ない真似するんですか~?……こんな不安な気持ち春樹には絶対分からない」
「……すまん」
私の心底のお願い。もう無茶な運転は止めて欲しい。多分渡辺班の女性全員が思ってる事だ。
「しんみりした話になってしまいましたね~。話題変えましょうか~」
「そうだな……」
そうして1時間ほど喋って私は席を立った。
「神奈先輩に悪いしそろそろ帰ります」
「ああ、気をつけてな」
「春樹も無理しちゃだめですよ~」
「わかった」
待合室にいる神奈先輩を呼ぶと、神奈先輩は「もういいのか?」と聞いてきた。
「はい~。お待たせしちゃまずいと思って」
「私の事は構わなくてよかったのに。もう少しゆっくりしていけ」
「いえ、また今度きます~」
「そうか」
そう言って家に送ってもらう。
「檜山先輩はどうだ?」
「割と普通でした~、片桐先輩の事心配してました~」
「だろうな……あの馬鹿すぐに熱くなるから」
車は10号線でも特に飛ばす車の多い区間に入る。
後ろギリギリに車間距離を詰めてくる。
神奈先輩は左足でブレーキをチョンと踏む。
するとブレーキランプが点灯し。相手は間を空ける。
しかし間を空けたかと思ったら急に無理な追い越しをしかけて無理矢理割り込んでくる。
その後も前の車を同じように抜き去っていく車。
「……どうして男の人って無謀な運転をしたがるんでしょうね」
「スリルを味わいたいとかスピードの向こう側を見たいとか訳の分からない事言ってるけど要するにただの馬鹿だろうな」
「多田先輩も同じような事を~?」
「ある意味トーヤより質が悪いな。トーヤは街中では絶対に飛ばさない。山に入ると無茶な運転するだけだ。誠は街の中で馬鹿みたいに飛ばすからな」
「……山に何があるんですかね~」
「……何もね~よ。危険が待ってるくらいだ。男どもはその事に目を塞いで走ってる。自分は大丈夫だと思い込んで。何もかも目を閉じて耳を塞いでる。だから大切なものに気づいてやらないんだ」
「なるほど~」
「とはいえ私もこんな車乗ってる時点で人の事言えないけどな。一度痛い目見ないとわからないのさ。恐怖を体感して気づくことってあるだろ。それで気づかないならただの馬鹿だ」
春樹は気づいてもらえたんだろうか?
私のアパートの前に着くと私は車を降りる。
「ありがとうございました~」
「いいよ、じゃあまたな」
そう言って神奈先輩は家に帰って行った。
家に帰って春樹にメッセージを送る。
「スピードの向こう側って何だと思いますか?」
「なんだそりゃ」
「先輩はどう考えてますか?」
「そんなものねーよ。あったとしてもそこには決してたどり着けない。その前に限界があるからな」
「先輩は限界めざしてるんですか~?」
「心配するな、もう無茶はしねーよ。お前の泣き顔見たくねーし」
「はい~」
春樹はきっと大丈夫。
私を乗せてる時は危険な運転絶対にしない。
一人でいると不安だけど、それもしないって約束してくれた。
その言葉を信じよう。
(4)
4日目。
セビリア観光をした。
カテドラルやヒラルダの塔、アルカサル、サンタルクス街、スペイン広場を見る。
午後はグラナダに移動しアルハンブラ宮殿、ヘレラリーフェ宮の庭園を見る。
夜はフラメンコショーを見た。
フラメンコショーを見た後は外に出てアルハンブラ宮殿の夜景を楽しむ。
晶ちゃんは今お風呂に入ってる。
僕は出てきて、寛いでる。
Wi-Fiはあるけど敢えて皆と連絡をやり取りしてない。
そんなことよりも晶ちゃんと二人っきりの時間が大事だから。
この8日間だけは皆の事は忘れよう。
そう晶ちゃんと約束してる。
「善君おまたせ~」
晶ちゃんが戻ってきた。
「髪を乾かしなよ、こんなところで風邪引いたら元も子もないよ」
僕がそう言うとドライヤーで髪を乾かし始める。
部屋の間取り一つとっても日本とは違う様式美。
「皆どうしてるかしらね」
「元気でやってるんじゃないかな?」
そんな会話のやりとりをして、僕達は眠りにつく。
そのころ冬夜君達に何があったのかも知らずに……。
(5)
SSに来ていた。
SSには昨日の黄色いEK9が止まっていた。
EK9の運転手はニヤニヤ笑っている。
僕の震える右手を愛莉が必死に抑えている。
「何で昨日は来なかったんだよ」
何も言い返せなかった。
「何も言えないんだな。素直に言えよ『怖くて逃げました』って……」
そう言って笑っている。
こんな屈辱初めてだ。
でも愛莉と交わした約束破るわけには行かない。
破っても困るような罰ゲームじゃなかったけど。
でも愛莉との信頼関係を崩しそうで。
そんな恐怖に比べたらこのくらい耐えるべきだ。
「そっちが勝ったら土下座してやるって言ったな。この場合お前の負けだろ?何してくれるんだ?ガキ」
だめだ、自分を押えなきゃ。
凄く悔しいけど……。
僕はその場に膝をついて土下座をしようとすると愛莉が止める。
「そんなことする必要ないよ。冬夜君」
え?
「バカみたい、他人の車傷つけて怪我させて喜んでるなんてそっちの方が余程子供じゃない。ママに叱られないうちに早くお家に帰ったら?」
愛莉キャラがまた変わってるぞ?
「随分と強気な女だな。……見た目も可愛いし。お前の土下座なんかいらないからその彼女くれよ」
「私彼女じゃないもん、お嫁さんだもん」
痛い、痛いぞ愛莉。その言葉は。
「嫁さんに守られる旦那ってか!笑えるね」
茂さん達も怒りに震えている。
もうこれ以上我慢できない。
「笑えるのはあなた達じゃない?彼女がいないからそんな危険な真似できるんでしょ?いたら絶対にしないよ?冬夜君は言ったら分かってくれた。可哀そうな人達言ってもらえる人もいないんだね?」
「奥さん、あんたの旦那さんは俺達と勝負するって言っておきながら逃げたんだぜ。何も無しってのはちと話が違うんじゃないの?」
「約束なんかしてないじゃん」
へ?
僕と同じリアクションを取る相手。
「冬夜君は『勝ったら土下座するんだな』あなたは『昨日の夜待ってる』って言っただけで勝負なんて一言も言ってないじゃない」
それは屁理屈だよ愛莉。
「その前に勝負しろといったはずだがな……?」
「するとは言ってないもん!」
「って屁理屈言ってるが旦那さんはどう思ってるんだ?」
なんて返せばいいんだろう?
やっぱり謝るしかないんじゃないのか?
「どうせ勝負って言ったって冬夜君の車にぶつける気だったんでしょ?」
「そりゃ冬夜君の車が遅かったらそうなるわな」
「別府の山での事故や地元の山での事故みたいに接触するわけ?」
「相手が遅かったんだから仕方ないだろ?」
「制限速度守ってたのに?」
「制限速度守る車が深夜に山上るなよ」
そう言って男は高笑いする。
愛莉のやろうとしてることが分かった。
男は気づいてないようだ。
「繰り返すけど冬夜君は逃げたわけじゃないよ、危険な運転を避けただけ。冬夜君には関係ない」
「そりゃ屁理屈だろ?確かに来なかったけど逃げただけだろ?」
「……冬夜君は山に言ってないことは認めるのね?」
「ああ、来なかった。逃げたんだよ」
愛莉はにこりと笑う。
「その一言が聞きたかったの」
するとさっきから止まっていた白い高級車から一人の男性と石原君と恵美さんが降りてくる。
「誰だあんたら?」
相手の男が聞くが恵美さんは無視して愛莉に「上手かったわよ」といい、愛莉は「えへへ~」と笑う。
話の呑み込めない男。
高級車から出てきた男性が名刺を差し出した。
弁護士らしい。
「今警察は悪質な当て逃げ事件として犯人を捜しています」
弁護士と名乗った男性はそう言った。
「遠坂さんでしたっけ?返してもらえますか?」
弁護士が愛莉に言うと愛莉はボイスレコーダーを弁護士に渡した。
「これは証拠として提出することが出来ます。先程の話ですとそちらの男性は無関係のようですし」
男はたじろぐ。
「私どもとしても事件として事を荒立てたくない。示談で片づけてもらえるならこの証拠はお渡ししますが」
「……お前らはめたな!それでも走り屋かよ」
「冬夜君は走り屋じゃないよ。立派なバスケの選手だよ」
「バスケの選手が事件に関わったらスキャンダルだよな?」
「自分で言ったじゃない『冬夜君は現場にいなかった』って」
「くっ……」
「どうしますか?この交渉のみますかのみませんか?のんでいただけるのでしたらこちらもそれなりの対応をとりますが。」
「わかったよ!」
男は弁護士に渡された誓約書にサインする。
そしてボイスレコーダーをふんだくるとその場に落として踏みつけて破壊した。
「九州エリア中に吹いて回ってやる。地元エリアには腰抜けの卑怯者しかいないってな!」
「どうぞご自由に~」
「地元の蒼い閃光もたいしたことなかったな。来ただけ損だったぜ」
そう言って男は車に乗って去って言った。
「愛莉最初から企んでたのか?」
「うん、目的は二つあったけどね。どっちも成功した~」
二つ?
一つは走り屋をはめることだとして、もう一つは?
「冬夜君に走り屋じゃないって認めさせること~。もう冬夜君山で危険な走行しちゃだめだよ」
愛莉にしてやられたようだ。
茂さんが言う。
「君の事情は彼女さんから聞いたよ。すまなかったね。もう君たちに頼むような真似はしないから」
「はい」
「愛莉ちゃんよかったね」
「恵美の協力があったお蔭だよ~」
「片桐君、皆ファミレスで待ってるから行こうか?」
石原君が言うと僕の車の後部座席に乗る。
弁護士の人に「助かったわ」と恵美さんが言う。
「いえ、ではまた」と、言って弁護士の人は去った。
(6)
ファミレスで愛莉の話を聞くと歓声が上がった。
「もう、渡辺班に敵なしだな!」
美嘉さんがそう言ってはしゃぐ。
「でも冬夜ももうやめろよ」
渡辺君が念を押す。
「分かってるよ」
僕が言うと渡辺君は皆に言う。
「これからは渡辺班の行動が冬夜の将来に影響する。軽はずみな行動は控えてくれ」
皆は「分かった」と言った。
「でも愛莉ちゃんの秘策見事だったわ」
恵美さんが愛莉を褒める。
「本当は怖かったんだけどね。一歩間違えたら冬夜君巻き込んじゃうから」
「私からもお願いします~、春樹にも言いました~、大切な人が怪我したり失ったりしたらすごいショックです~……そんな思いを遠坂先輩にさせないで」
咲良さんが言うと「わかってる」とだけ伝えた。
「先輩はもっとバスケに向き合ってください。そんなんで世界一を目指すなんて馬鹿にしてます」
「俺からも言わせてもらうぞ、スポーツ選手ならメンタルは遠坂さんがケアしてくれるとしても、体調なんか最終的には自己責任なんだ」
暴飲暴食も控えろと佐倉さんと佐から言われた。
注文が届く。
「ほら、言ってるそばから!!」
「あ、いつの間にこんなに」
「いつも通りの注文だよ」
「だめ!」
ぽかっ
ファミレスを出ると恵美さんと石原君を家に送る。
アパートに着くと二人は降りる。
「じゃ、もう愛莉ちゃんを困らせたら駄目よ?」と恵美さんが言って手を振る。
真っ直ぐ家に帰った。
それからすぐにシャワーを浴びて酎ハイを飲む。
愛莉も持ってきたみたいだ。
愛莉はノートPCを起動する。
いつもの作業を終えると「冬夜君しよっ!」と言う。
僕もノートPCを起動させるとログインする。
皆がそろっている。
ダンジョンに行こうと誘われたが愛莉が断った。
「そんなに時間がないから」って……。
愛莉の新キャラの育成に手伝ってやる。
しばらくするとゲームを止めた。
照明を落としてベッドに入る。
「愛莉今日はありがとうな」
「これも嫁の務めですから」
「……いいお嫁さんをもったよ」
「わ~い」
愛莉は僕にしがみ付く。
「もう駄目だからね、ドライブなら付き合うから」
「わかったよ」
「じゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」
愛莉は眠ってしまった。
今日はつかれたんだろうな。
ありがとうな、愛莉。
愛莉の頭を撫でてやる。
愛莉を抱くようにして眠った。
0
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