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4thSEASON
其れは未来
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(1)
「愛莉準備出来た?」
「うん出来たよ♪」
木曜日、僕達は大学から帰ると荷物をまとめた。
パスポートもしっかり持った。
「愛莉急がないとバスに遅れちゃう」
「は~い」
バス停に急ぐとバスに乗る。
「今度も冬夜君フル出場したいね!」
「そのつもりで練習してきたつもりだよ?」
「そうだね!」
駅前で降りると高速バスに乗る。
行き先は空港。
搭乗手続きを澄ませると。一息つく。
「何とか間に合ったな」
「だから大丈夫だっていったじゃない~」
そう言いながらスマホを弄る愛莉。
「今空港につきました」
そんなメッセージをユニティと家に送る。
「気をつけてね」
と皆から返ってくる。
「2人そろって2度目の海外旅行だね♪」
旅行じゃないけどな。
「愛莉、落ち着いたら海外旅行でも行こっか?」
「いつ落ち着くの?」
うーん……8月はユニバーシアード、9月はアジア選手権。冬は多分ユニティの皆で遊ぶから……。
「来年のオリンピックが終わったら?」
「……遠いねえ」
「ごめん」
「いいの。パスポート取ったんだしいつでも行けるんだから」
「そうだな」
そう話をしているとアナウンスが流れる。
「18:10発羽田行き……」
チケットを見せて飛行機に乗り込む。
愛莉は機内放送を聞きながら本を読んでいる。
僕も機内放送を聞きながら外を眺める。
飛行機がゆっくりと動き出す。
離陸ポイントに着くと加速してそして上昇する。
羽田までは1時間半くらい。
その間空を見てる。
下を見ると四国が見える。
何度乗ってもやっぱり楽しい。
「空から見ても夜景綺麗なんだね」
愛莉が身を乗り出してきた。
「そうだな」
夕暮れ時だったから富士山は見えなかった。
羽田に着くと交通機関を使ってホテルの最寄りの駅まで行く。
渡された地図を見ながらホテルを探すと……あった。
ホテルに行きチェックインを済ませるとロビーに見慣れた人がいる。
「愛莉~お久しぶり~」
「由衣さんにゆかりさんも来てたんだ~」
3人は感動の再会を果たしている。
「今回はちゃんと前日入りしたんだな?」
「まあね」
雄一郎の悪態の捌き方も慣れた。
「でも皆練習後だぞ」
「授業後慌てて準備したんだよ」
「相変わらず真面目にお勉強かよ」
「そりゃ留年なんてことになったら大変でしょ」
「明日の授業は大丈夫なのか?」
「ああ、代わりに授業聞いてもらってるから」
ちょうど時間の空いてる人、授業が被ってる人に頼んでおいた。
「片桐、ちょっと話があるんだがいいか?」
監督が呼んでいる。なんだろう?
「お前サークルとか掛け持ちしてるのか?」
「してないですけど?」
「このサイトなんだが……」
監督がタブレットを操作してサイトを見せる。
絶句した。
「乱交狂いのサークルにバスケ日本代表選手加入!?」
そんな見出しが出ていた。
「……ただの悪戯です。僕はサークルには入ってません」
だけど……。
ユニティのサイトが取りざたされていた。
そこには愛莉の画像が。
「この子今連れてきた遠坂さんで間違いないな?」
「間違いないです」
「納得のいく説明してくれないか?お前がそういう事をするとは思えない。だがこういうスキャンダルに敏感にならなければいけない時期だ」
「監督には話しておいた方が良いかもしれないですね」
そう言って3人で話をしている愛莉を呼ぶ。
「どうしたの~?」
監督がサイトを見せる。
「何これ酷い……」
愛莉の顔が青ざめている。
「監督にユニティの説明しないといけないから一緒に来て欲しい」
「う、うん」
愛莉の肩を支えてやる。
愛莉の体は震えている。
監督と別室に行って。事情を話した。
「ユニティって言うのはサークルじゃないのか?」
「ただの仲間の集まりです。現に今はメンバー募集していない」
「タブレット貸してもらえますか?」
愛莉が監督に言うと監督は愛莉にタブレットを渡す。
すると愛莉は検索にユニティと入れてユニティのサイトを見せる。
「これが私達の本当のユニティです」
監督はそれを見る。
「未成年に酒を飲ませてたりしないか?」
「してません!」
「わかった、マスコミにはこちらから正式な回答書を送っておく。お前たちは一切この事をしゃべるな」
「わかりました」
「じゃあ、長旅で疲れたろ?夕食食べてゆっくり休め」
「はい」
そう言って退室する。
「エゴイストの仕業かな?」
「かもな、早速反応してきたらしい」
「冬夜君大丈夫?不祥事で代表入りがダメになったりしない?」
「監督が回答書出すから大丈夫だよ」
「私顔思いっきり出てる。冬夜君のお嫁さんって知られたら……」
そういう事をこういう場で言うんじゃない。
「私文芸秋冬の記者ですけど先程のお嫁さんというのは結婚してるんですか?」
「答える義務はありません」
「そちらのお嬢さんはどういう関係で」
「こ、答える義務はありません」
「実はこういう画像がネットに出回ってましてね」
記者さっき監督に見せられた画像を見せる。
「これ彼女さんですね」
「そういう関係じゃありません」
え?
愛莉の顔を見る。
顔が青ざめてる、唇まで真っ青だ。
記者には気づかれなかったが、愛莉の手が僕のスーツの裾を掴んでいる。
こんなときってやれる事は唯一つだ。
「彼女の言う通りです、彼女とかそんな関係じゃない」
愛莉は泣き出しそうだ。
僕は笑って言った。
「れっきとした婚約者です。やましい事なんて何もない」
愛莉は驚いて僕の顔を見る。
「しかしその婚約者が乱交パーティに出席してるって問題じゃないですか?」
「片桐君!何してるの!?」
スタッフの人が現れた。
スタッフの人は記者を見て言う。
「またあんたか!勝手な取材は止めてくれと言ったはずだ!」
スタッフの人が凄むと記者は退散していった。
「監督から事情は聞いた。何か変な事しゃべらなかったろうね?」
「冬夜君が……私を婚約者って……」
「片桐君!軽はずみな言動は慎んでもらわないと!」
「軽はずみも何も事実ですから」
「公式に記者会見するから。くれぐれも余計な事言わないでくれよ」
「いつするんですか?」
「向こうで試合が終わった後」
「わかりました」
そう言うとスタッフは愛莉を連れて僕には部屋に戻るように言った。
部屋は雄一郎と一緒だった。
「通路での一件聞いたぜ」
「ああ、あれね」
「お前何考えてるんだよ。今が大事な時期だって分かってるだろ?」
「何もやましい事はしてないよ」
「ならいいけどよ……」
心配してくれてるんだな。
「ありがとな」
「礼を言われるようなこと言った覚えないぞ」
「そうだな」
「明日は早く現地入りして調整して午後から試合だ。早く寝ておけ」
「ああ」
そう言いながらメッセージをユニティに送っていた。
(2)
「愛莉大丈夫?」
ゆかりさんが聞いてくる。
大丈夫なわけない。私のせいでまた冬夜君の足を引っ張った。
それでも私の事を冬夜君は「大事な婚約者」と言ってくれた。
嬉しいけど、冬夜君の足を引っ張ってる。
卑劣なのはエゴイストだ。
ありもしない風評被害を流して陥れようとしてくる。
許せない。
皆も注意しないと。
メッセージをユニティに送っていた。
「私もさ、こんなんだからさ彩(ひかる)の負担になってるって思う時あるんだよね」
ゆかりさんがそう言った。
「でも彩は言ってくれた『気にすることねーよ』って……。片桐君も同じじゃじゃないかな?」
「マスコミってそういうスキャンダルに食いついて来るけど時期が経てば飽きてくるから。今良くも悪くも冬夜君注目の的だから」
由衣さんも言ってくれる。
「でも私のせいで冬夜君の夢潰れたらどうしよう?」
「夢って?」
由衣さんが聞いてきた。
あ、言っちゃまずかったかな。
「うん、冬夜君の夢。世界の頂点に立つこと」
「片桐君そんな事かんがえてたの!?」
ゆかりさんが驚いていた。無理もない。
「でも冬夜君なら可能かもね」
由衣さんが言ってくれた。
「でも慢心は禁物だよ。今回みたいにマスコミに足引っ張られることあるし」
「分かってる」
でも不可抗力もあるよ。今回の件みたいにありもしないことを流されたらどうしようもない。
「しっかり自分をもって、何も悪いことしてないなら恐れる必要はない。堂々としてていんだからね」
「うん」
ユニティからメッセージが入った
「愛莉、気にしちゃだめだよ。こんなの想定の範囲内なんだから」
「遠坂さん、ここは我慢する時だと思う。決して馬鹿な考えはよせ」
「愛莉!トーヤの支えになるのはお前しか出来ないんだ。自信持て」
「片桐君、こんなの気にしてたらキリ無いからね、対策はすぐにするから今は試合に集中して」
「片桐先輩だけじゃないんだ。俺も同じ目にあってる」
え?西松君も?
「どういう事?」
「あいつらどういう情報網を持ってるか知らないけど俺の過去の悪戯を蒸し返してネットに流してる。多分それが火種だと思う」
ああ、そういうことね?
「啓介の場合は自業自得だけど遠坂さんは許せないわね」
「大丈夫、ソースはどこにも無いんだ。気にすることはない」
皆が励ましてくれる。
「ありがとう」
「皆なんて?」
ゆかりさんが聞いてきた。
「気にすることはないって」
「そうだって、愛莉が悪いことしてないなら気にすることないよ」
「うん……」
私の事より冬夜君が心配だ……。
(3)
「参ったな……」
ネットの掲示板を見てそう漏らした。
「気にしてるの?」
深雪が聞いてきた。
「俺の場合は事実だしな。隠しようがない」
あいつは女をとっかえひっかえしてポイ捨てしてきた女たらし。
そう書かれてあった。
ご丁寧に過去の写真まで用意して。
地元大の乱交サークル。
そう誹謗されていた。
どう手を打って良いのか分からない。
今更俺がユニティを抜けたところでダメージは変わらないだろう。
大学側からも呼び出しを食らった。
下手すれば退学処分もあり得ると。
ユニティの無実は訴えた。
しかし俺の過去は消えない。
どうすればいい?
そんな時深雪がガムを差し出した。
「それ噛んだら?」
深雪は考えが煮詰まるとガムをかむ。
俺にもやってみろという事だろう。
俺はガムをかむ。
「少しは頭冷えた?」
「ああ」
「啓介のやってきたことは消えない。多くの女性を傷つけてきた」
そうだな。
「でも今は私の旦那として立派に生きている」
「お前にも迷惑かけるかもしれないぞ」
「私は実力で跳ね返して見せる。啓介も同じよ、有無も言わさない実績を残せばいい」
「どうやって残せばいい?」
「これからの行動で態度を示せばいい。今は違うと言えば良い。過去は消せない。でも上書きは出来る」
どう行動すればいいんだ?
「過去のことを暴かれたからって焦る必要はない。そんなの時が経てば忘れられていく。一部の人間が面白がって書いてるだけ」
そうだな……。
「深雪、すまんな。大事なオペの前に……」
「私は大丈夫。誰にも流されない」
深雪はそう言って笑う。
今はその深雪の笑顔だけが頼りだった。
(4)
ファミレスで緊急招集を行った。
お題は西松と冬夜の件。
「あったまくるよね~」
亜依さんが憤慨している。
「でも、事実もあるから……」
咲さんが落ち込んでいる。
そう言えば咲さんもやり玉にあげられていたな。
「咲は変わったよ。それは僕が保証する」
竹本君がそう言う。
「私達大学に在籍できるかどうかも分からないって噂流れてるけど気にする必要ないわ。証拠がないんだから。そんなものあるわけない」
恵美さんが言うと皆頷く。
「私ユニティ抜けた方がいいかな?」
咲さんがそう言う。
俺は首を振った。
「いまさらだよ、抜けたところで相手の言い分を肯定するだけだ」
「恵美さんからネタはもらってる。報復するか?」
誠がそう言う。
「いや、今更だよ。そんな事をしたところで何が変わるわけでもない」
「正志はこれからどうしろって言うんだよ」
「とりあえず今は我慢のしどきだ。俺と亜依で確証を握ってる。問題はそれを出すタイミングだ」
「私の父の会社の下請けだから潰すことも可能よ」
晶さんが言う。
「最後の奥の手だな。今は証拠固めをしつつひたすら耐えよう。皆馬鹿な真似はよせよ。特に晴斗」
「うっす!」
「晴斗は白鳥さんの事もあるんだから慎重に行動してね」
「了解っす!」
亜依さんが念を押すと晴斗は返事した。
「みんな悔しいが今は耐えるしかない。でも反撃のチャンスは必ず来る。それを待とう」
俺が言うと集まってる皆が頷いた。
(5)
朝早くからホテルを発ち羽田に向かいソウルに旅立った。
ソウルに向かうとさっそくアリーナに入る。
皆が練習してる中、僕は無理を言って試合の前に記者会見をしてもらった。
試合に集中したいから。
そう言うとスタッフは承知してくれた。
「くれぐれも軽はずみな言動はとらないでくれよ」
スタッフに念を押された。
そして記者会見は始まった。
「今回の試合の意気込みは?」
当たり障りのない質問が飛ぶ。
「勝ちます。それだけです」
次に直球な質問が飛んでくる。
「片桐選手はサークル活動をしているそうですが」
「してません」
「しかしユニティというサークルに彼女が入っていると」
「彼女じゃありません、将来を約束した大切な人です」
記者団がどよめく。
「しかしその大切な人がふしだらなサークルに入っているのはどう思ってるんですか?」
「ユニティはサークルじゃありません」
「え?」
「ユニティは大切な身内のグループであり掛け替えのない仲間です」
「しかし毎週乱痴気騒ぎをしていると……」
「ユニティのサイト見てください。ただのお遊びです」
「そのお遊びの内容が……」
「記者さんはサイトをみてませんね?そんな遊びは一切してません」
その場でノートPCを開きサイトを確認する記者もいた。
「ではなぜこのような噂が?」
「僕達の噂『縁結びの不思議なグループ』それを悪用するサークルがあると聞いてます。多分そいつらの仕業です」
「あくまでも、自分は関係ないとおっしゃるのですね?」
「そんなに疑うなら証拠を持ってきてください。あるんですか?」
「そ、それは……」
「あるんですか?ないんですよね?」
記者団は黙ってしまった。
それを見てスタッフが言った。
「片桐選手の調整もしたいので、次の質問で最後にして下さい」
一人の女性が手をあげた。
佐古下さんだ。
「片桐選手にとってユニティとはどういうグループですか?」
「高校時代からの友達のグループです。今はメンバーも増えてますが」
「ユニティとバスケどちらかを選べというならどちらを選びますか?」
「迷わずユニティを選びます。でもそんな質問無意味です。選択する必要すらないのですから」
「ありがとうございました」
「それでは以上で会見を終了させてもらいます」
そう言うと僕は退室した。
(6)
「トーヤの馬鹿が!」
朝から緊急記者会見が開かれると聞いていたので見ていたら冬夜がとんでもない事を言い出した。
ユニティの存在の在り方。遠坂さんとの関係。敵対するサークルの存在。それらを全部暴露した。
神奈の口調は怒ってるように見えるが顔は笑っている。
そのとき渡辺君からメッセージが入った。
「冬夜がきっかけを作ってくれた。今がチャンスだ。例の件アップしてくれ」
「わかった」
俺はノートPCを操作してその準備を始める。
あらかじめ作ってはある。ネットに上げるタイミングを待っていただけだ。
「誠何してるんだ?」
「渡辺君からゴーサインがでた。反撃の準備だ」
「おお!ついにか!」
その時ユニティのグループメッセージにメッセージが出る。
「恵美さんも計画を実行してくれ」
「わかったわ」
恵美さんの計画?
「恵美と亜依と渡辺が集めた情報を関係筋を通してマスコミに流すらしい」
神奈が言った。
そうか、それでとりあえず。ユニティの疑いは晴れるな。
ネットの情報だけでは信憑性が薄いから。
「これだけで済まさないからな。エゴイスト。覚悟しておけ」
神奈はそう言って意気揚々としている。
それは神奈だけじゃない。
「こっからは攻撃あるのみだな!」
美嘉さんも興奮してるみたいだ。
しかし、こういう時こそ油断は禁物。
慎重に行かないといけない。
まだ、相手の全体を網羅したわけじゃないんだから。
それに、西松君と咲さんの件も残っている。
どうするべきか?
考えてもしょうがない。
冬夜にでも聞けばすんなり答えてくれるのだろう?
今は冬夜の応援に励もう。
「よし、アップ終わり」
俺はノートPCを閉じる。
「お疲れ」
神奈がこえをかける。
「じゃ、あと頼む。俺そろそろ授業だから」
「あ、私もだ」
そう言って二人で家を出ると、パシャっと写真を撮られる。
神奈は何が起こったのか分からない。
俺はすぐにシャッターを切った男を追いかける。
が、そばにとめてあった車に乗り込むとすぐに走り去った。
やられた!
「どうしたんだ誠?」
「相手はこちらの住所まで把握してたらしい」
「え?」
「同棲生活の事を書き込む気なんだろう?」
「そんな……」
神奈の足は震えている。明らかに動揺している。
「神奈、今日は休め。そんなんで運転は危険だ」
「だ、大丈夫。私は平気だから。それより誠問題にならないか?」
「気にするな。大丈夫だ」
そう言って神奈を抱きしめる。
「落ち着いたか?」
「うん、ありがとう」
「じゃ、気をつけて行って来いよ」
「誠もな」
「分かってる」
車を出す前に、渡辺君にメッセージを送る。
するとすぐに返事が返ってきた。
「相手の手口が分かりやすくていいな。卑劣な手口だ。それなら俺達も遠慮なくやらせてもらおう」
「どうする?」
「先ずは今日の攻勢を見て相手の出方待ちだな」
また出方待ちか。
切り札は先に見せるな。見せるなら、さらに奥の手を持て……か。
まだ先手を取るには時間を要する様だ。
(7)
「冬夜君!」
「愛莉?」
振り返ると愛莉が突然抱きついてきた。
こんなところ記者の前で見せたら……。
フラッシュがたかれる。
慌ててスタッフが間に入って壁を作るが。
「こんなところでそんなことしたらまたスクープになるだろ?」
「冬夜君、『将来を約束した人』って言ったよ。じゃあ問題ないでしょ」
「……聞いていたんだね?」
愛莉は満面の笑みでうなずいた。
「ちょっとだけでいいからさ、愛莉の相手してやってよ」
そう言うのはゆかりさんと由衣さんだったか。
「どうしたんだ突然」
「冬夜君が公衆の面前で『将来を約束した人』とか言ってくれたから嬉しくて」
「そのくらい言わないと通じないだろうなと思ったから」
「それでもいいの♪」
愛莉はご機嫌のようだ。
機嫌悪いよりはいいか。
「じゃ、僕練習あるから」
「うん、応援してるね」
「ありがとう。じゃ、試合終わったらまた」
そう言って愛莉たちと別れてコートに入る。
彩に頭をこつんと叩かれた。
「また派手にやってくれたな」
彩は笑っている。
「ったくよ。色々問題持ってきやがって……一緒にプレイする仲間の事もちっとは考えろ」
雄一郎が言う。
「しかし、将来を約束した仲か……、そんな人が応援に来てるんじゃ頑張らないとな」
聖人が言う。
やっぱり、試合前に会見してよかった。
すっきり爽快に遠慮なく試合に集中できる。
シュート練習が終わるとベンチ前に集まる。
「今日は勝つぞ。冬夜、色ボケしたとか言うなよ」
「勝って焼肉食いたいから」
「2勝したら奢ってやるよ」
聖人が言う。
「当然2試合ともフル出場してもらうからな」
「当然です」
「よし行ってこい!」
監督が言うと円陣を組む。
「今日の試合は冬夜と遠坂さんの二人に捧げてやろう。絶対勝つぞ!」
聖人が言うと「っしゃあ!」と皆が叫ぶ。
メンバーの名前がコールされるとコートに入っていく。
今日は黒色のユニフォーム。
相手の背は高い。
皆が配置につく。
ジャンプボールが放られる。
僕の初めての公式戦が幕をあげた。
「愛莉準備出来た?」
「うん出来たよ♪」
木曜日、僕達は大学から帰ると荷物をまとめた。
パスポートもしっかり持った。
「愛莉急がないとバスに遅れちゃう」
「は~い」
バス停に急ぐとバスに乗る。
「今度も冬夜君フル出場したいね!」
「そのつもりで練習してきたつもりだよ?」
「そうだね!」
駅前で降りると高速バスに乗る。
行き先は空港。
搭乗手続きを澄ませると。一息つく。
「何とか間に合ったな」
「だから大丈夫だっていったじゃない~」
そう言いながらスマホを弄る愛莉。
「今空港につきました」
そんなメッセージをユニティと家に送る。
「気をつけてね」
と皆から返ってくる。
「2人そろって2度目の海外旅行だね♪」
旅行じゃないけどな。
「愛莉、落ち着いたら海外旅行でも行こっか?」
「いつ落ち着くの?」
うーん……8月はユニバーシアード、9月はアジア選手権。冬は多分ユニティの皆で遊ぶから……。
「来年のオリンピックが終わったら?」
「……遠いねえ」
「ごめん」
「いいの。パスポート取ったんだしいつでも行けるんだから」
「そうだな」
そう話をしているとアナウンスが流れる。
「18:10発羽田行き……」
チケットを見せて飛行機に乗り込む。
愛莉は機内放送を聞きながら本を読んでいる。
僕も機内放送を聞きながら外を眺める。
飛行機がゆっくりと動き出す。
離陸ポイントに着くと加速してそして上昇する。
羽田までは1時間半くらい。
その間空を見てる。
下を見ると四国が見える。
何度乗ってもやっぱり楽しい。
「空から見ても夜景綺麗なんだね」
愛莉が身を乗り出してきた。
「そうだな」
夕暮れ時だったから富士山は見えなかった。
羽田に着くと交通機関を使ってホテルの最寄りの駅まで行く。
渡された地図を見ながらホテルを探すと……あった。
ホテルに行きチェックインを済ませるとロビーに見慣れた人がいる。
「愛莉~お久しぶり~」
「由衣さんにゆかりさんも来てたんだ~」
3人は感動の再会を果たしている。
「今回はちゃんと前日入りしたんだな?」
「まあね」
雄一郎の悪態の捌き方も慣れた。
「でも皆練習後だぞ」
「授業後慌てて準備したんだよ」
「相変わらず真面目にお勉強かよ」
「そりゃ留年なんてことになったら大変でしょ」
「明日の授業は大丈夫なのか?」
「ああ、代わりに授業聞いてもらってるから」
ちょうど時間の空いてる人、授業が被ってる人に頼んでおいた。
「片桐、ちょっと話があるんだがいいか?」
監督が呼んでいる。なんだろう?
「お前サークルとか掛け持ちしてるのか?」
「してないですけど?」
「このサイトなんだが……」
監督がタブレットを操作してサイトを見せる。
絶句した。
「乱交狂いのサークルにバスケ日本代表選手加入!?」
そんな見出しが出ていた。
「……ただの悪戯です。僕はサークルには入ってません」
だけど……。
ユニティのサイトが取りざたされていた。
そこには愛莉の画像が。
「この子今連れてきた遠坂さんで間違いないな?」
「間違いないです」
「納得のいく説明してくれないか?お前がそういう事をするとは思えない。だがこういうスキャンダルに敏感にならなければいけない時期だ」
「監督には話しておいた方が良いかもしれないですね」
そう言って3人で話をしている愛莉を呼ぶ。
「どうしたの~?」
監督がサイトを見せる。
「何これ酷い……」
愛莉の顔が青ざめている。
「監督にユニティの説明しないといけないから一緒に来て欲しい」
「う、うん」
愛莉の肩を支えてやる。
愛莉の体は震えている。
監督と別室に行って。事情を話した。
「ユニティって言うのはサークルじゃないのか?」
「ただの仲間の集まりです。現に今はメンバー募集していない」
「タブレット貸してもらえますか?」
愛莉が監督に言うと監督は愛莉にタブレットを渡す。
すると愛莉は検索にユニティと入れてユニティのサイトを見せる。
「これが私達の本当のユニティです」
監督はそれを見る。
「未成年に酒を飲ませてたりしないか?」
「してません!」
「わかった、マスコミにはこちらから正式な回答書を送っておく。お前たちは一切この事をしゃべるな」
「わかりました」
「じゃあ、長旅で疲れたろ?夕食食べてゆっくり休め」
「はい」
そう言って退室する。
「エゴイストの仕業かな?」
「かもな、早速反応してきたらしい」
「冬夜君大丈夫?不祥事で代表入りがダメになったりしない?」
「監督が回答書出すから大丈夫だよ」
「私顔思いっきり出てる。冬夜君のお嫁さんって知られたら……」
そういう事をこういう場で言うんじゃない。
「私文芸秋冬の記者ですけど先程のお嫁さんというのは結婚してるんですか?」
「答える義務はありません」
「そちらのお嬢さんはどういう関係で」
「こ、答える義務はありません」
「実はこういう画像がネットに出回ってましてね」
記者さっき監督に見せられた画像を見せる。
「これ彼女さんですね」
「そういう関係じゃありません」
え?
愛莉の顔を見る。
顔が青ざめてる、唇まで真っ青だ。
記者には気づかれなかったが、愛莉の手が僕のスーツの裾を掴んでいる。
こんなときってやれる事は唯一つだ。
「彼女の言う通りです、彼女とかそんな関係じゃない」
愛莉は泣き出しそうだ。
僕は笑って言った。
「れっきとした婚約者です。やましい事なんて何もない」
愛莉は驚いて僕の顔を見る。
「しかしその婚約者が乱交パーティに出席してるって問題じゃないですか?」
「片桐君!何してるの!?」
スタッフの人が現れた。
スタッフの人は記者を見て言う。
「またあんたか!勝手な取材は止めてくれと言ったはずだ!」
スタッフの人が凄むと記者は退散していった。
「監督から事情は聞いた。何か変な事しゃべらなかったろうね?」
「冬夜君が……私を婚約者って……」
「片桐君!軽はずみな言動は慎んでもらわないと!」
「軽はずみも何も事実ですから」
「公式に記者会見するから。くれぐれも余計な事言わないでくれよ」
「いつするんですか?」
「向こうで試合が終わった後」
「わかりました」
そう言うとスタッフは愛莉を連れて僕には部屋に戻るように言った。
部屋は雄一郎と一緒だった。
「通路での一件聞いたぜ」
「ああ、あれね」
「お前何考えてるんだよ。今が大事な時期だって分かってるだろ?」
「何もやましい事はしてないよ」
「ならいいけどよ……」
心配してくれてるんだな。
「ありがとな」
「礼を言われるようなこと言った覚えないぞ」
「そうだな」
「明日は早く現地入りして調整して午後から試合だ。早く寝ておけ」
「ああ」
そう言いながらメッセージをユニティに送っていた。
(2)
「愛莉大丈夫?」
ゆかりさんが聞いてくる。
大丈夫なわけない。私のせいでまた冬夜君の足を引っ張った。
それでも私の事を冬夜君は「大事な婚約者」と言ってくれた。
嬉しいけど、冬夜君の足を引っ張ってる。
卑劣なのはエゴイストだ。
ありもしない風評被害を流して陥れようとしてくる。
許せない。
皆も注意しないと。
メッセージをユニティに送っていた。
「私もさ、こんなんだからさ彩(ひかる)の負担になってるって思う時あるんだよね」
ゆかりさんがそう言った。
「でも彩は言ってくれた『気にすることねーよ』って……。片桐君も同じじゃじゃないかな?」
「マスコミってそういうスキャンダルに食いついて来るけど時期が経てば飽きてくるから。今良くも悪くも冬夜君注目の的だから」
由衣さんも言ってくれる。
「でも私のせいで冬夜君の夢潰れたらどうしよう?」
「夢って?」
由衣さんが聞いてきた。
あ、言っちゃまずかったかな。
「うん、冬夜君の夢。世界の頂点に立つこと」
「片桐君そんな事かんがえてたの!?」
ゆかりさんが驚いていた。無理もない。
「でも冬夜君なら可能かもね」
由衣さんが言ってくれた。
「でも慢心は禁物だよ。今回みたいにマスコミに足引っ張られることあるし」
「分かってる」
でも不可抗力もあるよ。今回の件みたいにありもしないことを流されたらどうしようもない。
「しっかり自分をもって、何も悪いことしてないなら恐れる必要はない。堂々としてていんだからね」
「うん」
ユニティからメッセージが入った
「愛莉、気にしちゃだめだよ。こんなの想定の範囲内なんだから」
「遠坂さん、ここは我慢する時だと思う。決して馬鹿な考えはよせ」
「愛莉!トーヤの支えになるのはお前しか出来ないんだ。自信持て」
「片桐君、こんなの気にしてたらキリ無いからね、対策はすぐにするから今は試合に集中して」
「片桐先輩だけじゃないんだ。俺も同じ目にあってる」
え?西松君も?
「どういう事?」
「あいつらどういう情報網を持ってるか知らないけど俺の過去の悪戯を蒸し返してネットに流してる。多分それが火種だと思う」
ああ、そういうことね?
「啓介の場合は自業自得だけど遠坂さんは許せないわね」
「大丈夫、ソースはどこにも無いんだ。気にすることはない」
皆が励ましてくれる。
「ありがとう」
「皆なんて?」
ゆかりさんが聞いてきた。
「気にすることはないって」
「そうだって、愛莉が悪いことしてないなら気にすることないよ」
「うん……」
私の事より冬夜君が心配だ……。
(3)
「参ったな……」
ネットの掲示板を見てそう漏らした。
「気にしてるの?」
深雪が聞いてきた。
「俺の場合は事実だしな。隠しようがない」
あいつは女をとっかえひっかえしてポイ捨てしてきた女たらし。
そう書かれてあった。
ご丁寧に過去の写真まで用意して。
地元大の乱交サークル。
そう誹謗されていた。
どう手を打って良いのか分からない。
今更俺がユニティを抜けたところでダメージは変わらないだろう。
大学側からも呼び出しを食らった。
下手すれば退学処分もあり得ると。
ユニティの無実は訴えた。
しかし俺の過去は消えない。
どうすればいい?
そんな時深雪がガムを差し出した。
「それ噛んだら?」
深雪は考えが煮詰まるとガムをかむ。
俺にもやってみろという事だろう。
俺はガムをかむ。
「少しは頭冷えた?」
「ああ」
「啓介のやってきたことは消えない。多くの女性を傷つけてきた」
そうだな。
「でも今は私の旦那として立派に生きている」
「お前にも迷惑かけるかもしれないぞ」
「私は実力で跳ね返して見せる。啓介も同じよ、有無も言わさない実績を残せばいい」
「どうやって残せばいい?」
「これからの行動で態度を示せばいい。今は違うと言えば良い。過去は消せない。でも上書きは出来る」
どう行動すればいいんだ?
「過去のことを暴かれたからって焦る必要はない。そんなの時が経てば忘れられていく。一部の人間が面白がって書いてるだけ」
そうだな……。
「深雪、すまんな。大事なオペの前に……」
「私は大丈夫。誰にも流されない」
深雪はそう言って笑う。
今はその深雪の笑顔だけが頼りだった。
(4)
ファミレスで緊急招集を行った。
お題は西松と冬夜の件。
「あったまくるよね~」
亜依さんが憤慨している。
「でも、事実もあるから……」
咲さんが落ち込んでいる。
そう言えば咲さんもやり玉にあげられていたな。
「咲は変わったよ。それは僕が保証する」
竹本君がそう言う。
「私達大学に在籍できるかどうかも分からないって噂流れてるけど気にする必要ないわ。証拠がないんだから。そんなものあるわけない」
恵美さんが言うと皆頷く。
「私ユニティ抜けた方がいいかな?」
咲さんがそう言う。
俺は首を振った。
「いまさらだよ、抜けたところで相手の言い分を肯定するだけだ」
「恵美さんからネタはもらってる。報復するか?」
誠がそう言う。
「いや、今更だよ。そんな事をしたところで何が変わるわけでもない」
「正志はこれからどうしろって言うんだよ」
「とりあえず今は我慢のしどきだ。俺と亜依で確証を握ってる。問題はそれを出すタイミングだ」
「私の父の会社の下請けだから潰すことも可能よ」
晶さんが言う。
「最後の奥の手だな。今は証拠固めをしつつひたすら耐えよう。皆馬鹿な真似はよせよ。特に晴斗」
「うっす!」
「晴斗は白鳥さんの事もあるんだから慎重に行動してね」
「了解っす!」
亜依さんが念を押すと晴斗は返事した。
「みんな悔しいが今は耐えるしかない。でも反撃のチャンスは必ず来る。それを待とう」
俺が言うと集まってる皆が頷いた。
(5)
朝早くからホテルを発ち羽田に向かいソウルに旅立った。
ソウルに向かうとさっそくアリーナに入る。
皆が練習してる中、僕は無理を言って試合の前に記者会見をしてもらった。
試合に集中したいから。
そう言うとスタッフは承知してくれた。
「くれぐれも軽はずみな言動はとらないでくれよ」
スタッフに念を押された。
そして記者会見は始まった。
「今回の試合の意気込みは?」
当たり障りのない質問が飛ぶ。
「勝ちます。それだけです」
次に直球な質問が飛んでくる。
「片桐選手はサークル活動をしているそうですが」
「してません」
「しかしユニティというサークルに彼女が入っていると」
「彼女じゃありません、将来を約束した大切な人です」
記者団がどよめく。
「しかしその大切な人がふしだらなサークルに入っているのはどう思ってるんですか?」
「ユニティはサークルじゃありません」
「え?」
「ユニティは大切な身内のグループであり掛け替えのない仲間です」
「しかし毎週乱痴気騒ぎをしていると……」
「ユニティのサイト見てください。ただのお遊びです」
「そのお遊びの内容が……」
「記者さんはサイトをみてませんね?そんな遊びは一切してません」
その場でノートPCを開きサイトを確認する記者もいた。
「ではなぜこのような噂が?」
「僕達の噂『縁結びの不思議なグループ』それを悪用するサークルがあると聞いてます。多分そいつらの仕業です」
「あくまでも、自分は関係ないとおっしゃるのですね?」
「そんなに疑うなら証拠を持ってきてください。あるんですか?」
「そ、それは……」
「あるんですか?ないんですよね?」
記者団は黙ってしまった。
それを見てスタッフが言った。
「片桐選手の調整もしたいので、次の質問で最後にして下さい」
一人の女性が手をあげた。
佐古下さんだ。
「片桐選手にとってユニティとはどういうグループですか?」
「高校時代からの友達のグループです。今はメンバーも増えてますが」
「ユニティとバスケどちらかを選べというならどちらを選びますか?」
「迷わずユニティを選びます。でもそんな質問無意味です。選択する必要すらないのですから」
「ありがとうございました」
「それでは以上で会見を終了させてもらいます」
そう言うと僕は退室した。
(6)
「トーヤの馬鹿が!」
朝から緊急記者会見が開かれると聞いていたので見ていたら冬夜がとんでもない事を言い出した。
ユニティの存在の在り方。遠坂さんとの関係。敵対するサークルの存在。それらを全部暴露した。
神奈の口調は怒ってるように見えるが顔は笑っている。
そのとき渡辺君からメッセージが入った。
「冬夜がきっかけを作ってくれた。今がチャンスだ。例の件アップしてくれ」
「わかった」
俺はノートPCを操作してその準備を始める。
あらかじめ作ってはある。ネットに上げるタイミングを待っていただけだ。
「誠何してるんだ?」
「渡辺君からゴーサインがでた。反撃の準備だ」
「おお!ついにか!」
その時ユニティのグループメッセージにメッセージが出る。
「恵美さんも計画を実行してくれ」
「わかったわ」
恵美さんの計画?
「恵美と亜依と渡辺が集めた情報を関係筋を通してマスコミに流すらしい」
神奈が言った。
そうか、それでとりあえず。ユニティの疑いは晴れるな。
ネットの情報だけでは信憑性が薄いから。
「これだけで済まさないからな。エゴイスト。覚悟しておけ」
神奈はそう言って意気揚々としている。
それは神奈だけじゃない。
「こっからは攻撃あるのみだな!」
美嘉さんも興奮してるみたいだ。
しかし、こういう時こそ油断は禁物。
慎重に行かないといけない。
まだ、相手の全体を網羅したわけじゃないんだから。
それに、西松君と咲さんの件も残っている。
どうするべきか?
考えてもしょうがない。
冬夜にでも聞けばすんなり答えてくれるのだろう?
今は冬夜の応援に励もう。
「よし、アップ終わり」
俺はノートPCを閉じる。
「お疲れ」
神奈がこえをかける。
「じゃ、あと頼む。俺そろそろ授業だから」
「あ、私もだ」
そう言って二人で家を出ると、パシャっと写真を撮られる。
神奈は何が起こったのか分からない。
俺はすぐにシャッターを切った男を追いかける。
が、そばにとめてあった車に乗り込むとすぐに走り去った。
やられた!
「どうしたんだ誠?」
「相手はこちらの住所まで把握してたらしい」
「え?」
「同棲生活の事を書き込む気なんだろう?」
「そんな……」
神奈の足は震えている。明らかに動揺している。
「神奈、今日は休め。そんなんで運転は危険だ」
「だ、大丈夫。私は平気だから。それより誠問題にならないか?」
「気にするな。大丈夫だ」
そう言って神奈を抱きしめる。
「落ち着いたか?」
「うん、ありがとう」
「じゃ、気をつけて行って来いよ」
「誠もな」
「分かってる」
車を出す前に、渡辺君にメッセージを送る。
するとすぐに返事が返ってきた。
「相手の手口が分かりやすくていいな。卑劣な手口だ。それなら俺達も遠慮なくやらせてもらおう」
「どうする?」
「先ずは今日の攻勢を見て相手の出方待ちだな」
また出方待ちか。
切り札は先に見せるな。見せるなら、さらに奥の手を持て……か。
まだ先手を取るには時間を要する様だ。
(7)
「冬夜君!」
「愛莉?」
振り返ると愛莉が突然抱きついてきた。
こんなところ記者の前で見せたら……。
フラッシュがたかれる。
慌ててスタッフが間に入って壁を作るが。
「こんなところでそんなことしたらまたスクープになるだろ?」
「冬夜君、『将来を約束した人』って言ったよ。じゃあ問題ないでしょ」
「……聞いていたんだね?」
愛莉は満面の笑みでうなずいた。
「ちょっとだけでいいからさ、愛莉の相手してやってよ」
そう言うのはゆかりさんと由衣さんだったか。
「どうしたんだ突然」
「冬夜君が公衆の面前で『将来を約束した人』とか言ってくれたから嬉しくて」
「そのくらい言わないと通じないだろうなと思ったから」
「それでもいいの♪」
愛莉はご機嫌のようだ。
機嫌悪いよりはいいか。
「じゃ、僕練習あるから」
「うん、応援してるね」
「ありがとう。じゃ、試合終わったらまた」
そう言って愛莉たちと別れてコートに入る。
彩に頭をこつんと叩かれた。
「また派手にやってくれたな」
彩は笑っている。
「ったくよ。色々問題持ってきやがって……一緒にプレイする仲間の事もちっとは考えろ」
雄一郎が言う。
「しかし、将来を約束した仲か……、そんな人が応援に来てるんじゃ頑張らないとな」
聖人が言う。
やっぱり、試合前に会見してよかった。
すっきり爽快に遠慮なく試合に集中できる。
シュート練習が終わるとベンチ前に集まる。
「今日は勝つぞ。冬夜、色ボケしたとか言うなよ」
「勝って焼肉食いたいから」
「2勝したら奢ってやるよ」
聖人が言う。
「当然2試合ともフル出場してもらうからな」
「当然です」
「よし行ってこい!」
監督が言うと円陣を組む。
「今日の試合は冬夜と遠坂さんの二人に捧げてやろう。絶対勝つぞ!」
聖人が言うと「っしゃあ!」と皆が叫ぶ。
メンバーの名前がコールされるとコートに入っていく。
今日は黒色のユニフォーム。
相手の背は高い。
皆が配置につく。
ジャンプボールが放られる。
僕の初めての公式戦が幕をあげた。
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