優等生と劣等生

和希

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4thSEASON

盗めぬ二人の心

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(1)

「乾杯!!」

皆がグラスを鳴らす。
私も隣にいる冬夜君とグラスを鳴らした。
試合は圧倒的な3連勝だった。
冬夜君を自由にさせたらいけない。
でも冬夜君を縛ることは出来ない韓国チーム。
冬夜君に人を割くと他に穴が出来る。
それを逃さない澤選手。
溜まってた鬱憤を晴らすかの如く冬夜君はコートで暴れる。
そして相手を引き付けると藍井選手がフリーになる。
ディフェンスも冬夜君のディフェンスが積極的になった。
ゾーンディフェンスって自分に割り当てられたゾーンを守るものだけど。冬夜君のゾーンはまさに絶対不可侵の領域だった。
入ってきたボールを悉く奪っていく。
そしてそのまま速攻に切り替えて3Pを放つ。
有無を言わせないエアウォーク。相手のブロックをあざ笑うトリプルクラッチ。
散々酷評された冬夜君のドライブも今回は光っていた。
ダブルチームくらいでは冬夜君を止められない。
3人ついたら鋭いパスを放つ。
冬夜君の独壇場と化していた、
李相佰杯は冬夜君の公式戦お披露目となった。
試合後のインタビューで私との仲を取りあげる人はいなかった。
皆冬夜君のプレイについて聞いていた。
その冬夜君は今、澤選手の約束通り焼肉に食いついている。

「冬夜はこれがなかったら完璧なんだけどな」

澤選手は肉を頬張る冬夜君を見てため息を吐く。
無理だよ。私が8年かけても駄目だったんだから。

「家にいる時は私がご飯作って調整してるから」
「遠坂さんが言うなら安心だな」
「愛莉も大変なんだね」

ゆかりさんが言う。

「彩(ひかる)はあんまり食べないから作り甲斐が無くて」
「こいつと違って日頃の体調を調整してんだよ」

藍井選手は冬夜君を見て言う。

「2人とも彼氏にご飯作ってあげらえて羨ましいな。私は和人君につくってあげらえないから」

ああ、哀田選手はアメリカに留学中だったね。

「冬夜はこの後春季大会か?」
「そうだけど?」
「福岡大に凄いセンターいるから気をつけろよ」
「五郎丸より凄いの?」
「身長はある」
「ああ、それなら台湾戦で経験したから大丈夫だよ」
「確かに台湾戦と戦い方は同じかもしれないな」
「地元大って強いのか?」
「どうだろ?まだ4部って言ってたから」
「お前がいればすぐに昇格するだろ?」
「だといいね」

冬夜君はあまり興味がないようだ。
と、言うより目の前の焼肉に興味がいってるだけだろうけど。

「次に会うのはユニバーシアードだな」

ユニバーシアードの言葉に冬夜君の箸が止まった。

「トーナメントだっけ?」
「ああ、一試合でも勝ちたいな」
「僕は優勝するつもりでやるよ」
「大きく出たな、アメリカが勝ち進んでくるんだぜ?」
「それでも勝たなきゃ……」

冬夜君の決意は固い。

「世界の頂点を見たいんだって?ゆかりから聞いた」

藍井選手が言った。

「見たいんじゃなくて見てくるが正しいかな」

冬夜君が答える。

「ノリでいってるわけじゃないよな?」
「本気だよ」
「それならNBAでも行けばいいだろ?なんで大学なんか行ってるんだ?」
「日本で頂点に立つのが目的だから」
「どうして目的に拘るんだ?」

澤選手が聞いた。

「そのくらいしないと周りを納得させられないから」
「自分の実力の証明ってやつか?」
「まあね」
「俺達も足引っ張らないように頑張らないとな」
「まずはアジア選手権で中国と当ってからが勝負だと思う」

哀田選手が言う、

「何で中国?」
「凄いリーチの長いディフェンスに長けた選手がいるんだ。その選手を負かすくらいじゃないとマイケルに勝てないと思う」
「マイケル?」
「運動能力は冬夜に引けを取らない選手」
「そうなんだ?」
「アメリカ選抜相手は厳しいと思うよ。皆化け物じみてるから」

哀田選手が言う。

「どんな相手でも負けない。そう決めたから」

冬夜君はそう言うと再び焼肉を食べ始めた。

「マイケルってやつの他に気をつけるやつっているか?」
「うーん、マイケルが一番秀でてるんだけど皆要注意だよ。背の高い冬夜がうようよいる。そう思った方が良い」
「それは確かに脅威だな」

藍井選手が言う。

「和人、お前なりに勝つ方法は考えてるんだろ?」
「やっぱり冬夜がカギだと思う。打ち合いになるだろうから3Pの精度の高い冬夜が絶対狙われる」

哀田選手がそう言うと皆冬夜君を見る。
冬夜君は何を考えているのか分からないけどひたすら肉を食っていた。

「あ……!」
「どうした冬夜?」

澤選手が言う。
私は拳を振り上げる。

「いや、今日は海鮮鍋にしようかなと思って……」

ぽかっ

「いい加減にしなさい!」
「じゃあ、せめて石焼ビビンバだけでも」
「それでおしまいだからね」
「わかった」
「緊張感のない奴だな」

藍井選手がそう言っていた。

(2)

「だあ!またやられた!」

相手の猛攻に耐えられないうちの面々。
このままではじり貧だ。
ここに冬夜と遠坂さんがいたら楽に局面覆せるのに。
今は韓国にいる。
どうしようもない。
獲得砦無しか。しょうがないな。
すると亜依がバイトから帰ってきた。

「亜依お帰り~。お疲れ様!ちょっとまってね、経費の申請とかあるから」
「ああ……」

なんかいつもと様子が違う。

「亜依どうしたの?」
「いや、ちょとな。ゲーム続けてろよ」

やっぱり様子が変だ。
僕は経費の受け取りをするとすぐにログアウトする。

「僕またなんかドジやらかした?」
「そんなんじゃないから……」
「頼りにならない夫かもしれないけど、妻の愚痴くらいは聞くよ」
「愚痴とかじゃない、ただちょっと」

やっぱり何かあったんだ。

「どうしたの?」
「ちょっと怖い目にあった」
「え?」

亜依でも怖い事ってあるのか?

「バイト先から尾行されてた。白いスポーツカー」

そういえばさっきからエンジン音が聞こえる。
僕はカーテンの隙間から外の様子をうかがった。亜依の言っていた白いスポーツカーの側にたってこっちにカメラを向けている。

「見るな!」

亜依が僕を引っ張る。

「何事?」
「多分多田君が言ってた尾行だと思う」
「そんなことして何になるの?」
「私達の事をネットに上げる気だと思う。学生の身分で同棲してイチャイチャしてるカップルとかなんとか」
「それなら動ずることないだろ?」

夫婦が同棲して何が悪いんだ。

「記事の取り上げ方ひとつだろ?未婚の男女が同棲なんて記事ごろごろしてるだろ?」
「俺達有名人じゃないし、ましてやもう成人してるんだぜ?びくびくすることないって」

亜依はノートPCでwebを見せる。

そこには亜依の顔とヌードモデルの体を合成した写真が。

亜依が僕にしがみ付く。

「瑛大……こんなの初めて。私怖い……」
「ぼ、僕が守るから。亜依を!」

そう言って亜依を抱きしめると外に出る。

「待て瑛大!」

亜依をこんな目にあわせるやつを許せない!
白いスポーツカーの側にいるやつを見つけて怒鳴りつける。

「お前何やってんだ!」

カメラを持った男とは違うフルフェイスのヘルメットをかぶった男が近づいてくる。
何か持ってる……金属バットだ。
男はバットを振りかぶる。

僕はのけぞって、振り回されたバットを躱す。
そして。相手の腰に突進してそのまま押し倒す。
そのままマウントポジションに立つと男の手からバットを取りあげ、ヘルメットを剥がそうとする。
その時一瞬眩しくなった。
写真を撮られた?
僕に倒されていた相手はその隙を縫って僕を倒してバットを拾うと僕に向かて振り下ろす。
やられる!
そう思った時、いつのまにか側にいた多田君が男がバットを持っていた方の腕を掴む。

「何やってんだお前?」

多田君はキレてる。
またカメラのフラッシュがたかれる。
が、カメラを持った男もまた別の男・渡辺君に腕を掴まれる。

「同じ手が通用すると思うなよ」

渡辺君はカメラを奪い取ると美嘉さんに渡す。
美嘉さんは写真の中味を確認すると全削除する。
多田君の握力が強くバットを掴んでいた腕を握り締めると男はバットを落す。
そのバットを思いっきり蹴飛ばす。
白い車には運転手が残っていたらしく車をバックさせて逃げ出そうとするがそれは神奈さんの車が道を塞ぐ。
渡辺君はカメラを持っていた男を引きずって車の運転席に向かう。

「出てこい……」

静かだが威圧感のある声。
運転手は出てこない。

「出てこいって言ってんだろ!!」

渡辺君の怒鳴り声が響く。
運転手はでてくる。
金髪のチャラそうな男だった。

「おまえら、エゴイストの連中だろ?」

渡辺君が金髪の男を睨みつける。

「渡辺君、ここじゃまずい」

亜依が降りてきて渡辺君に周りを見るように言う。
アパートの住人がベランダから何事かと見ている。

「……青い鳥はつかえないか、近所にファミレスあったな」
「ああ、あるけど」
「そこに移動しよう。話はそれからだ、……逃げるなよ!」

渡辺君は男たちの車に乗り、美嘉さんが渡辺君の車を運転する。
長い夜の始まりだった。

(3)

ファミレスに移動すると、先に待っていた檜山先輩と咲良さんが手を振った。
男3人を取り囲むように男性陣が座り、女性陣が対面に座る。

「さて、言い分を聞こうか?」
「何の話だ?」

金髪の男がしらを切る。
3人とも金髪で髪をセットしてるんだけど。
ヘルメットをかぶっていた男はセットした髪がつぶれてくしゃくしゃになっていた。

「美嘉……証拠を出せ」

渡辺君が言うと美嘉さんがスマホを出す。

「お前らは夢中で気づかなかったんだろうけどな。ちゃんとネタは上がってんだよ」

渡辺君のドスの聞いた声で脅す。

「これ俺らだって証拠あるのかよ」
「悪いがこれ、暗視カメラもついててな。お前らの顔ばっちり映ってるんだよ。美嘉」

美嘉さんはノートPCにスマホを接続するとアプリを立ち上げる。
そこには男がうちを盗撮してる風景、男に近づく僕にバットを振る光景、そして多田君が助太刀に入る場面まできっちり入っていた。

「しらを切ってやり過ごそうったってそうはいかねーぞ!さっさと白状しやがれ!お前ら何者だ!?」

美嘉さんが凄むと男は喋った。

「……言わなくても気づいてるんだろ?」
「お前らがエゴイストの連中だって認めるんだな」

3人は黙ってうなずいた。

「何が目的だ。この期に及んで隠し事は許さんぞ」

渡辺君が静かに語る。その方がかえって怖い。

「分かってるんだろ?お前らのスキャンダルを掴むんだよ」
「掴むんじゃなくて作るんだろ?。誠」

渡辺君が多田君に言うと多田君はノートPCを立ち上げる。
そして一枚の画像を出す。
亜依のさっきの写真だ。

「下手な合成だな。継ぎ目がはっきりわかる。こんな雑な真似しか出来ないやつらが何考えてる?言っとくがこれをアップロードした奴の住所まで特定してるからな?」

誠君がそう言う。

「この証拠持って警察に突き出しても構わんのだぞ?」

渡辺君が警察という言葉を出すと男たちが一斉に謝罪した。

「すいませんでした!頼まれてやっただけなんです!」
「誰に頼まれてやってたんだ?」
「名前はわかりません、皆『エンペラー』と呼んでました」
「エンペラーか……。何者なんだそいつは?」
「わかりません、お互い深くは追及しなかったんで」
「エゴイストの目的はなんだ?」
「わかりません、やり目のサークルみたいな感じでした。会費は全部エンペラーが握ってます」

亜依が3人の写真を撮る。

「お前ら名前を言え」

3人が名前を名乗る。

「もう、馬鹿な真似はするなよ。次やったら今度は問答無用で警察に突き出すからな」
「わかりました。」
「じゃあ、もう行け。2度とその面みせるんじゃねーぞ」

美嘉さんが言うと3人は店を出ていった。

「警察に突き出さなくてよかったの?」
「あっさり喋る。そしてエゴイストの頭の素性を知らない。例え警察に突き出してもエゴイストにはたどり着けない」

亜依が言うと渡辺君が答えた。

「頭の名前と素性は分かってるよ。その事を言わなかったのは?」
「切り札は先に見せた方が負けだ。最後まで取っておくさ。相手がどこまでこっちの事を把握するのも大事だと思ったからな」
「今後どうするの?」
「誠、例のサイト更新しておいてくれ」
「今日の事を暴露するんだね」
「ああ」

多田君は亜依と美嘉さんからスマホを受け取ると画像をコピーする。

「そろそろ反撃か?」
「まだだ、うちの最大のネックが残ってる」
「……西松と咲か?」
「あの二人の行動は隠ぺいしようがないからな。あることはあるが……最後の手段にしておきたい」

渡辺夫妻が話している間に多田君はサイトの更新を済ませる。

「ところで瑛大」
「なに?」

亜依が僕を呼ぶ。

「私の話を最後まで聞かずに飛び出すな!お前丸腰で向かって何かあったらどうするんだ!」
「亜依を傷つけるやつを許せなかった」
「それでお前が傷ついたら意味がないだろ」
「瑛大、亜依の気持ち分かってやれ。勇敢と無謀は全然違うぞ」
「わかったよ。ごめん」

僕は謝った。

「じゃ、そろそろ解散しようか?今後の対策は後日考えよう。決して一人で無茶しないこと。軽はずみな行動は避ける事。徹底してくれ」

渡辺君が言うと皆頷いた。
エゴイストの正体は分かってる、だが目的が分からない、ただのやり目サークル?
胡散臭い集団だな。
だけど今はそれよりも……。

「亜依大丈夫?」

車の中で亜依に聞いていた。
亜依は黙ってスマホを弄っている。

「まだ怒ってる?」

亜依の指がぴたりと止まった。

「怒ってる?お前にはそう見えるのか?」
「違うの?」
「……車を端に寄せろ」

僕はハザードランプをつけて車を脇に寄せる。

「どうしたの?」

亜依は僕に抱き着いた。

「心配なんだよ!お前は片桐君や石原君と違う。普通の男なんだ。今日だって誠君が間に合わなかったら病院送りだったろうが!」
「やっぱり怒ってるんじゃないか?」
「そうじゃない、お前がまた同じことをしでかして今度は怪我でもしたらと思うと怖くて不安なんだ」
「……もうやらないから。渡辺君にも釘刺されたし」
「約束だぞ。私の大切な旦那さんなんだ。心配させないで」

同じくらい大切な妻だよ。
僕はハザードを消して車は走り出す。
亜依の写真を乗せたサイトは誠が乗っ取りファイルを全削除した。
また、サーバー管理者に通報してサイトの削除を要求した。
しかしエゴイストの攻撃はさらに激化する。

(4)

僕は手紙をシュレッダーにかけていた。
宛先は全部咲宛てだ。
エゴイストの連中が僕達の住所を調べたんだろう。
もしくはつけられたか。
住所が書かれてないのが大半なところを見ると後者の方が可能性あるか。
とりあえず咲に見つかる前に処分しなくちゃ。
ときどき中にカミソリが入ってあったりするものもある。
重要書類もあるかもしれないから、一つ一つ確認しながらする。

「ただいま~」

間の悪いときに帰ってきた。

「お、おかえり」

咄嗟に手紙を隠す。

「シュレッダーの前に座り込んで何してるの?」
「別になにもしてないよ?」
「……何隠した?」
「たいしたものじゃない……あっ!」

しまった。

「……出しなさい」

大人しく大量の手紙を渡す。

「これ全部私宛じゃない。ラブレターでもはいってるの?私が浮気すると思った!?私信用されてない?」

結婚しておいてそれは無いよ。

「……『この尻軽女!私の彼氏を返せ!!』……なにこれ」

咲は、一枚一枚手紙の中味を確認していく。

尻軽女、この性悪女。誰にでも股を開くちょろい女。魔性の女。男を返せ!
数えたらきりがないくらいの誹謗中傷。
気にすることはないんだ。今の咲は違うんだから。
でも咲には心当たりがあることがいくつかあったようだ。

「まあ、こんなの気にしてたってしょうがないよね!」

咲は自分の手でシュレッダーにかけていく。

「そっか、悠馬は私を気づかってくれてたんだ」

シュレッダーにかけながら咲は言う。

「でも、私の自業自得もあるかもね……。書かれてるようなことしてたもんね。なんて馬鹿な事やってしまったんだろう私……」

咲の手が止まる。
その場に泣き崩れる。
うずくまる咲の隣に座って肩を抱く。
咲は僕の胸に顔をうずめる。

「ごめんね、私悠馬にも迷惑かけてる」
「迷惑なんて思ってないよ」
「でもこれだけは信じて、私『誰にでも股を開く軽い女』なんかじゃない!」
「わかってるって。今の咲が真実だろ?」

咲は泣いている。
僕は怒りを覚えた。
こんな目にあわせたやつら許せない。
ユニティのメンバーに知らせる。

「咲さんのところにも来たか……」

西松君がメッセージを残した。

「俺のところにも来てな、参ったよ。否定できないところがな」
「でも全部が全部本当なわけじゃないんだろ?」
「今まで捨ててきた女の数なんて一人一人覚えてないから区別がつかない」
「……」
「自業自得だけどな」
「2人とも冷静に行動してくれ。バカな真似は絶対によせよ」

渡辺君から、通達が入る。

「咲は僕がいるから大丈夫。心配しないで」

そうメッセージを送った。

「咲にとって頼れるのはお前だけだ。頼んだぞ」

渡辺君からメッセージが来た。

「今日は僕がご飯作るよ。ゆっくりしといて」
「……ごめん」
「こんな時の夫だろ?気にしないで」
「うん」

いつまで続くんだろうか、この卑劣な手口は。

(6)

地元空港に着くとさっそく取材陣が押し寄せてきた。
羽田の時と違ってスタッフがいない。
サングラスを買ってつけて笑いあって変装にとつかってみたけど意味は無かった。
押し寄せるマスコミ。
そして投げつけられる誹謗中傷。
誹謗中傷は僕じゃない、愛莉に向けられていた。
愛莉は僕の腕を掴みそして俯いている。
僕の腕を掴む愛莉の手は震えている。

「はいはい、どいてどいて」

黒服の男が二人人混みをかき分ける。
一人は背の低い男、もう一人はひょろっとした男。
かき分けられた人混みの先にいるのは黒いワンピースの女性。
サングラスを取るとその女性は言った。

「2人ともこっちよ!急いで」

晶さんだ。
僕と愛莉は駆け抜ける。

そして黒い高級車に乗せられる。

「良いわよ。風見!車を出してちょうだい」

晶さんがそう言うと車をゆっくりと走り出す。

「大丈夫だったかい?片桐君」

酒井君が声をかけた。

「助かったよ」
「きっとこんなんだろうと思って増援を恵美に頼んだのよ」
「私も予測してたから……あなた達が韓国に行ってる間こっちは散々よ」

それから僕達が韓国に滞在している間に起きたことを聞いた。
そんなことが……。

「で、これからどうするかなんだけど」

落ち着いて考えよう。
今一番心配なのは来週から春季大会に行ってる間誰が愛莉を守るかだ。
愛莉も連れて行く?無理だ。

「愛莉ちゃんの事は心配しないで。私が責任もって護衛をつけるから」

恵美さんが言ってくれた。とりあえず安心か?

「それより、片桐君も気をつけなさい。どうやらエゴイストの連中無差別にやってるみたいだから」
「みたいだね」
「このままやられっぱなしは癪だわ……。必ず報復してやる」
「やっぱりさっさと潰しにかかったほうがいいんじゃない?」

晶さんが言う。

「同じくらい屈辱を味あわせて潰さないと意味がない」

恵美さんが言う。
愛莉は相変わらず震えている。
愛莉の頭を撫でてやると愛莉は僕の胸に顔を近づける。
このままでは済まさない。
ユニティに牙を剥いたらどうなるか思い知らせてやらないと。
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