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4thSEASON
ゆりかごはない
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(1)
トゥルルルル……。
「もしもし~」
「おはよう冬夜君~」
「今日も早いね」
「迷惑だった?」
「いや、そんなことないよ。嬉しいよ」
わ~い。
「今日いよいよ準決だね」
「相手も手ごわいみたいだし難しいかもね」
「冬夜君なら大丈夫だよ」
「バスケは5人でする試合だから」
いつも冬夜君の独り舞台じゃない。
「明日のチケット無駄にしないでね」
「わかったよ」
「明日には帰ってくるの?」
「ああ、その予定だよ。帰ったら一杯構ってあげるからな」
わ~い。
「楽しみにしてる~♪」
「じゃあ佐(たすく)起きるから切るね」
「うん」
朝一の仕事終了っと。
あとは朝ごはん作って食べて洗濯物して冬夜君のお部屋掃除して……。
今日は学校休みだから。何しようかな~?
みんな何してるんだろ?
「みんな何してる~?」
ユニティのグループメッセージに送ってみた。
「寝てた」
「今からバイトの準備」
「家事が片付いたところ。愛莉ちゃんはなにしてるの?」
「今家事終わって、部屋で寛いでる」
「暇な人で集まりませんか?」
花菜の提案に暇な人が乗る。
「いいわね、またファミレスでいいかしら?」
「いいんじゃない?」
「じゃあ、愛莉ちゃんには私達が迎えに行くわね」
恵美がそう言ってくれた。
「休日は平気だと思うけど?」
「油断は禁物よ。神奈ちゃんの過去まで蒸し返してくる連中だし」
「許せないよね!」
「ああ、その事で話があるんだけど。誠君も来れないかしら?」
「俺?今日はオフだからいけるよ」
「じゃあ、会った時に話すわ」
ログがどんどん流れていく。
「こっちから仕掛けるにはまだ準備が必要だ。皆用心してくれ」
渡辺君が言ってる。
「その準備の打ち合わせよ。心配しないで」
「わかった。今日は俺もバイト休みだし俺も行く」
しばらくすると恵美が迎えに来た。
後部座席に座る。
「愛莉ちゃんはあれから何もない?」
「無いよ?」
「それはよかった」
石原君の運転でファミレスへ向かう。
ファミレスに着くと酒井夫妻、渡辺君、誠君、木元夫妻、がいた。
「土曜だというのに皆大変ね」
「明日休みとる為ってのもあるんだろうな」
恵美と渡辺君が言う。
「で、話って?」
誠君が恵美に言う
恵美は茶封筒を誠君に渡す。
「なにこれ……ってまじかよ!?」
誠君は中身を見て驚いた。何が入っていたのだろう?
「電話番号まで調べてくれたんだもの。そのくらいわけないわ。餅は餅屋よ?」
そう言って恵美は笑う。
「こいつは恐れ入りました」
「で、何を調べたんだ?」
「誠君が流してくれたスマホの持ち主を洗い出しただけよ。プリペも多かったけどそれでも造作もなかったわ」
恵美って親何やってるんだろう?
「で、こいつを使ってどうするんだ?」
「それを皆で話しあおうと思って」
「この中にゴッドってのはいるのか?」
「それはわからないわ。だってコードネームまでは流石に分からなかったもの」
さすがにコードネームで契約する人はいないでしょ?と笑う恵美。
「報復で一人一人調査して晒しだすか?」
「圧力かけたらあっという間にプー太郎よ?」
渡辺君と恵美の会話が物騒になってる。
「圧力で思い出した。実はすでに盗聴始めてるんだけどさ……」
誠君が言う。
ほえ?
「あいつら白鳥カンパニーと地元銀行の関係探ってるらしい」
「それってまずいんじゃないですか?」
不安気に花菜が言う。
「すでに地元銀行の株を酒井カンパニーが買い取ったところまでは嗅ぎ付けてる」
「大丈夫よ、資料はどこにも流出してない。どちらも痛手を被るはずがないわ」
恵美が言う。
「取りあえず皆隠し事は無しで行こう。それウィークポイントになる可能性があるから」
「そうね……」
誠君が言うと恵美がうなずく。
「そろそろ反撃する?ささっと頭の首取ったら終わりでしょ?」
晶が言うと渡辺君は首を振った。
「誠が言うにはエンペラーの上にゴッドと呼ばれる存在がいるらしい」
エンペラーを切ったところで次のエンペラーが誕生するだけだという。
「まずはウィザードってやつを抑えたいな。そいつがサーバー管理してるらしいから」
「抑えるってどうするの?警察に突き出す?」
私が聞くと誠君が首を振った。
「もうウィザードってやつの首切りを考えてるらしい。次のウィザードを探してる」
「それにウィザードってのはもう少し泳がせておいた方がいいかもね」
恵美が言う。
「明日皆と会うんでしょ?その時の音声ログと写真と名前の確認がしたいわ。手配はしてある」
「明日は面白くなりそうね」
晶が笑う。
「ところで神奈は大丈夫?」
私が誠君に聞いてみた。
「どうだろうな。表向きは平静を装ってるけど……って感じだな」
「ショックだよね」
「冬夜には申し訳ない事をしたって悔やんでるよ」
「冬夜君の心配より自分の心配だよ」
「そうだな……」
「明日の会合にはゴッドってやつは出てくるのか?」
渡辺君が誠君に聞いてみた。
「わからない、ファミリアってやつとキングってやつ。あとエンペラーのウィザードのログしか残ってなかったから」
「そうか……」
「そう悲観することは無いわ。誠君の通話ログと電話番号から割り出した通話記録を照合したらゴッドってやつの身元も確認したから」
「まじか!?」
皆が驚く。
「高橋蒼良。27歳。与党の若手県議員よ。高橋グループの総裁の一人息子。少々厄介な人物ね」
高橋グループとは日本でも有名な財閥で政治・経済両方の巨頭らしい。警察どころか検察庁にもパイプがあり少々の事はもみ消すことができるらしい。
「またデカいのが出て来たな」
渡辺君がそう言った。
「そんなの相手にして大丈夫なのかい?」
酒井君が不安気に言う。
「善君?こういうのはね。相手がデカければデカいほど有利なの」
晶が酒井君に教える。
「デカければデカいほど敵も増える。こういう情報をリークしたら喜んで食いついてくる奴もいるわ」
マスコミもこういう奴のスキャンダルには敏感だしね。と付け足す。
「でももみ消されちゃうんじゃないですか?」
石原君が言うと恵美が石原君に教える。
「大丈夫そう言う圧力に屈しないタフなマスコミってのも付きものでね。ツテがあるわ」
「その高橋ってやつのスマホにもちゃんと確保してる。とっておきのネタが出るまで泳がせておくつもりだ」
「それって保存できるの?」
「大丈夫、そこで俺達の力ではどうにもできないから……」
「分かってる。サーバーマシンは用意したわ。アドレスは誠君にSMSで送っておいたわ」
「ああ、早速利用してる。ユニティのサイトもそっちに移動しておいた。例の暴露サイトもね」
「あの、話がよくつかめないんだが、要は相手の頭もきっちり抑えたって事かい?」
「早い話がそういうことですね」
木元先輩が聞くと誠君が答える。
「それじゃ、いよいよ……」
花菜が聞く。
「ああ、そうだな。反撃開始と行こうじゃないか?それでまず考えたんだが……」
「それなら私からも提案があるわ。またテレビ局から取材の依頼が来てるの前の放送が受けがよかったみたい」
「じゃあ、そこから反撃開始と行こうか」
「いよいよね」
「ああ、耐える時は終わった。次はこっちのターンだ」
渡辺君と江口さんが言う。
「具体的には何をするの?」
「俺もそれを考えた。仕掛けは時間をかけて、短期決戦で挑みたいところなんだが……糸口がつかめない。皆で相談したい」
「まさかそれを、放送で流すの!?」
「まさか。誠がせっかく爆弾を仕込んでるんだ。やるんだったら一度に全部爆破させたい」
「じゃあ、当分の間はまだ探り?」
「高橋グループの弱みを握る。と、思ったんだが……」
渡辺君はにやりと笑う。
「蒼良の存在がすでにウィークポイントなんだよな。そして奴らはそれを掴んだ事に気づいてない」
「なるほどね……」
恵美も笑う。
私の頭の理解が追い付かない。
「で、私達はなにをしたらいいの?」
「とりあえずは明日冬夜の応援に行こう。会合の件は恵美に任せておけばいい」
「それは間違いないわ。信じて」
「わかった」
私は返事した。
全部は冬夜君達の大会が終わってから。
そこから反撃が始まる。
どんな事をするんだろう?
怖い半面ドキドキしていた。神奈まで酷い目に合わせた連中。
ただじゃおかないんだから!
(2)
「お嬢様着きましたよ」
「ありがとう、帰りは心配いらないから」
「かしこまりました」
私は一人で地元のショッピングモールにやってきた。
サッカー場の近くにある郊外のショッピングモール。
近くには住宅街がある。
一人で買い物に来るのは初めてだ。
って買い物が目的なんじゃない。
初めての場所に戸惑う。
案内所に訪ねてみる。
「あの『アナーキー』って店を探してるのですが」
「それなら2階のガーデンウォークにありますよ」
2階に降りて地図を確認する。
あった。
私はその店に真っ直ぐ向かう。
骸骨や竜、蛇などのいかついものをデザインしたものから迷彩模様のズボンやTシャツを扱う店だった。
彼の趣味なのだろうか?
「いらっしゃいませ……ってうわっ!春奈じゃないっすか!どうしたんすかいきなり」
「こんにちは晴斗」
「いらっしゃいませ、晴斗の知り合い?」
「恋人です」
「晴斗!お前こんな可愛いお嬢ちゃんつかまえたのかよ!」
後からやってきた人は以前の晴斗よりも奇抜な恰好をしていた。
この店の物をコーディネートしたような服装とアクセサリー。
耳にはいくつものピアスをつけてある。
頭は軽くパーマをかけた金髪の人、ガタイは良い。晴斗もそうだけどいつ鍛えているのだろう?」
「で、お嬢ちゃんもこの店の物買ってくれるのかい?」
「残念だけど趣味じゃないわ」
即答した。
「そっかぁ、残念だな。てことは晴斗目当て?」
私はうなずいた。
「晴斗昼まだだったな。1時間くらいデートしてこい」
「いいんすか?」
「せっかく来てくれたんだ。休憩してこい」
「あざっす。じゃあ行こうか春奈」
晴斗と私はファストフード店に入った。
私はアップルパイとオレンジジュースを注文する
商品を受け取ると二人掛けのテーブルに座った。
「それにしてもどうしたんすか?いきなり?」
「寂しかったから」
「へ?」
「晴斗と会社であってから一度も晴斗とあってなかったから」
寂しい。
そんな負の感情も恋愛にはついてくるのね。
「さーせん。土日祝日にバイト休めなくてつい」
「バイトなら仕方ないと思って私から会いに来たの。迷惑だったかしら?」
「そんなことねーっす。春奈から会いに来てくれるなんて思ってもみなかったから驚いたっす」
「それならいいけど」
「今度から平日遊べる時に時間作るっす。心配かけてごめん」
その時女性二人組が晴斗に話しかけてきた。
「あっれぇ!晴斗じゃん!?どうしたのその頭?」
「ほんとだよく見たら晴斗じゃん!どうしたの!?最近顔見ないけど」
「色々あるんだよ」
「で、その彼女だれ。新しい女?」
一人が私を指差した。
「めっちゃ可愛いじゃん。やめとけって。あんたまた振られるよ!」
「俺が誰と付き合おうとかんけーねーだろ!」
「うっわぁ、マジになってるし。ヤバい超ウケる」
「晴斗、誰この人達」
自分でも怖いと思えるほどの冷たい声。
怒り。
こんな感情もあるの?
嫉妬。
私は2人に妬いてるの?
「ああ、高校時代のダチっす。今は短大に通ってるっす」
「よろしくねえ」
「ねえねえ、付き合ってどれくらいになるの?」
「その質問に答える義務は無いわ」
「なんかつまんない女。晴斗こんな女より私の方が良くない?」
「あんたも「っす」って体育会系入っちゃってるし。堅苦しいの嫌いでしょあんた」
つまんない女。
その一言が私を揺さぶる。
晴斗は私といてつまらない?
不安。
一言で心が震える弱さ。
恋は人を弱くするの?
「春奈とはマジでつきあってるんだよ。お前たちみたいな遊びとは違うんだ」
「ひっどい。私達とは遊びだったわけ!」
「遊びも何も振ったのは麗華達だろ?」
「最悪……行こっ千絵」
「本当、バイバイ」
二人は去っていた。
「ったく……春奈も気にする事ないっすよ」
「私といて楽しくない?」
何てことを聞いてるんだろう?
でも聞かずにはいられなかった。
「そんなわけないっす。春奈といて超楽しいっすよ。わざわざこんなところまで会うために来てくれる春奈がめっちゃ大好きっす」
こんなところでそんな台詞言わないで。
顔が熱い。
心がどきどきする。
脈も早い。
焦燥。
大好きと言われることはもっと心を震わせる。
私も言った方がいいのかな?
「私も大好きよ。晴斗」
「春奈からそんな事言われるなんて夢みたいっす!」
彼のテンションが最高潮に達していた。
最高潮かどうかは分からない。天井を見たことが無いから。
「あ、そろそろ時間っす。ゴメンまたちゃんと誘うっすから」
「……だめよ」
「へ?」
「今日何時に終わるの?」
「シフトは17時までっすけど?」
「じゃあ、それまで時間潰してる。終わったら電話ちょうだい」
「……了解っす」
晴斗はそう言うと店に戻っていた。
私は洋服屋さんを見て回ってた。
晴斗はどんな格好が好きなんだろう?
もっと派手目の方がいいんだろうか?
晴斗に直接聞いた方がいいかな?
本屋さんに入った。
面白そうな本を数点と最新のファッション雑誌を買っていた。
それを読みながらコーヒーショップで時間を潰す。
ふと周りを見る。
流行りの服を着た若い男女が手を繋いで歩いている。
2人はアイスクリームを食べながら仲良く歩いている。
お店の中も見た。
みんな同じようなカップルばかりだ。
私は洋服屋に再び向かった。
よくわからないけどファッション雑誌を見てピンと来たのを買っていた。
ついでに靴屋さんにも向かった。
すると晴斗からメッセージが。
「今終わったっす。どこにいるっすか?」
「分からない靴屋さんの前にいる」
「じゃあ、そこから動かないで待っててください」
「いえ、私がそっちに行くわ。待ってて」
「……了解っす」
晴斗の店に向かった。
店はまだやってるようだ。
「ねえ、晴斗。ここにはレディースってあるの?」
店の中を見回しながら晴斗に尋ねた。
「あるっすけどまさか……」
そのまさかだよ。
「ペアルックって興味ない?」
「ああ、だめっす。ここの服は春奈には似合わないっす」
「どうして?」
「おい、似合わないとかお前営業妨害する気か!」
さっき会った店員さんが来た。
この人が店長らしい。
「服が似合わなくてもアクセとかお揃いにするとかあるだろが!」
「アクセサリー」
レジの前にある陳列棚を見る。
髑髏の指輪……私には無理。
プラチナのブレスレットを見つけた。これくらいなら。
「これ二つ下さい」
「まいどーっす!」
ブレスレットを二つ受け取ると一つを晴斗につける。
そしてもう一つを私に。
「これでお揃いね」
共有。
2人だけの物。
それが意味する物。
意味などないかもしれない。
でも私には興味深い物だった。
「じゃ、おつかれさんでした」
「おつかれー」
晴斗は私の手を握り店を出る。
「さて、飯でも食って帰りますか?」
「その前に晴斗、お願いがあるんだけど」
「なんすか?」
「アイスクリームが食べたい。二人で」
2人で同じ物を食べる。
意味はたいしてないのかもしれない。
でも私には興味があった。
それがどういう気持ちにさせてくれるのかを。
「了解っす」
アイスクリーム屋さんに言ってアイスクリームを買って二人で食べながらショッピングモールを散策した。
「明日はいよいよ、冬夜先輩達の決勝っすね!」
「……今日勝ったの?」
「バイト中にスマホで見たっす接戦を勝ち上がったらしいっすよ」
「そうか、じゃあ明日は皆で応援だね」
「春奈も来るんすか?」
「行かない理由が知りたい」
そんなのあるわけないじゃない。
あなたと時間を共有する。
それだけの為ならなんだってする。
廻り行く安らぎ、月のゆりかご。
願わくばそこで永遠に眠りたい。
彼とレストランで夕食を食べながら聞いていた。
「今夜あなたの家に泊ってもいい?」
「へ?」
「一度私の家に行って着替えとか用意する必要あるけど」
「あの……」
「私には教えてくれないの?」
恋の終着点。
「と、泊まるのは良いっすけどそれはちょっと」
「何か不都合があるの?」
「ないっす。寧ろ超嬉しいっすけどまだ早いっす!」
「早いと不都合があるの?」
「春奈の事大事にしてるから、大切にしたいっす!」
大事にされ過ぎるのも困るわよ。
(3)
「くそったれ!」
俺はスマホをベッドに投げつけた。
熊本に派遣したボーンがしくじった。
制裁を恐れたボーンは自ら警察に駆け込んだ。
奴は自分が知ってる事を洗いざらい話したらしい。
これで、計画がすべてパーだ。
「失態だな。エンペラー」
PCのモニターに浮かぶゴッドの冷徹な一言。
「重大な失態ですよエンペラー」
ポープも言う。
「だが、案ずるな。エンペラー。今回の件はこちらで片づけよう。お前が気にする必要はない。ただのボーンの裏切りだ」
「ウィザードの功績も合わせて±0といったところでしょうか」
「ボーンは徹底してしつけておく必要があるようだがのぅ」
ハーミットが語る。
「より忠実なる僕、ナイトの出番かもしれないな」
「ボーンには相応の雑務をこなさせるとしましょう」
「ゴッドの御心のままに」
「今度の会合、我らも行った方がよさそうですね」
「……そうすることにしよう。場所は……」
その時ウィザードから電話が鳴る。
「どういう事だ!?エンペラー!新居の周りに私服警官が張り込んでる!」
「なんだと!?」
「俺は何もしてないぞ!?言われたとおりに行動しただけだ!」
「落ち着けウィザード。ただの偶然かもしれん」
「そんなことはない、コンビニに買い物に行った時も尾行されてる気配がした」
「すぐに新居を手配する。心配するな。もうお前は何もしなくていい。後はこっちから連絡する」
そう言うと俺は電話を切った。
「どうした。エンペラー?」
「……ウィザードがしくじった。私服警官にマークされてるらしい」
「……仕方ない、こちらで処理しよう」
ゴッドの冷淡な一言。
俺はウィザードの連絡先をブロックして削除する。
着信履歴送信履歴もクリアした。
「新しいウィザードの準備は?」
「当面はウォーロックにさせる。相手もなかなかの手練れらしいしな」
「分かりました」
「俺にさせるならまずは奴のサーバーを機器ごと廃棄して欲しい」
ウォーロックが話に加わった。
「わかった。新しいサーバーを用意する」
「それと全員のPCを交換してくれ。すでにウィルスに感染してる可能性がある」
「了解した」
「一台たりとも残さないでくれ」
「分かってる」
「と、いうわけだ。招かざる客よ。ご退室願おうか?」
ウォーロックがそう言うとチャットにアクセス不可になった。
意図を理解するとすぐにLANケーブルを引っこ抜く。
ウォーロックはウィザードよりレベルの高い者だという事は理解した。
しかしこの後どうする?
俺はこの後どうすればいい?
電話が鳴る、知らない電話番号だ。
電話に出る、少年のような少女の声だった。
「ゴッドから通達だ。場所を変更する、日時に変更はない。場所は……」
「お前は誰だ」
「ウォーロックといえば分かるか?」
こんな子供のような声がウォーロックだと。
「ボイスチェンジャーを使っている。少しは頭を使え」
「なんだと!?」
「俺はゴッド直属の配下だ。お前よりクラスは上だ」
「……」
「じゃあ、明日楽しみにしている」
電話はそれで切れた。
このままでは俺の立場も危うそうだ。
何か名誉挽回せねば。
落ち着け冷静になれ。
こういう時に下手に動くと相手の思うつぼだ。
明日になってゴッドの指示を仰ごう。
その場で処分されるかもしれないが。
その夜は眠れなかった。
(4)
「もうお前は何もしなくていい。後はこっちから連絡する」
直感でやばいと思った。
俺はPCの電源を切るとハードディスクを粉砕する。
必要最低限のものを持ってそっと、家を抜け出す。
私服警官に気づかれぬようにそっと闇に紛れて歩く。
部屋の電気をつけっぱなしにしてるので油断してるのだろう?
アパートから出ていく者にまで目は届かなかった。
宵闇の中あてもなく彷徨う。
いや、あてはある。
バスに乗って駅まで出る。そこから電車に乗って4駅ほど移動する。
そこから徒歩で10分ほど歩く。
そこに目的地はあった。
呼び鈴を鳴らす。
「誠~鍵忘れたのか~?」
神奈の声だ。
ドアが開く。
神奈は俺の顔を見て青ざめる。
「お前……誰だ」
「ウィザードと言えば分かるか?エゴイストの」
「エゴイスト!?」
エゴイストの名前を出したのはまずかったらしい。
相手に余計に警戒させてしまった。
「な、何の用だ!?」
神奈は腰を抜かし怯えている。
「落ち着け……俺は」
「誰だ!?俺の家で何をしている!?」
誠が帰って来たらしい。
誠は俺を押しのけ神奈を起こす。
「こ、こいつエゴイストだって」
「なんだと?」
誠の顔の表情が険しい。
取りあえず誤解を解かねば……。
「ま、待て落ち着け。俺はもうエゴイストじゃない」
「どういう意味だ?」
「ウィザードと呼ばれていた。だが、用済みになって今は追われる身だ」
「それを信じる証拠はあるのか?」
「証拠はある。だが、ここだと不味い。中に入れてくれないか?」
「素性の分からないやつを家に入れるほど俺はお人好しじゃないぞ」
どうすればいい?
俺は頭を働かせた。
そして辿り着いた答えは一つ。
ポケットから免許証を取り出して見せる。
こいつが誠なら俺がウィザードだと分かるはずだ。
分かってもらえたらしい。
「上がれ……、神奈立てるか?」
「あ、ああ。もう大丈夫。それよりこいつ大丈夫なのか?」
「様子からしてかなり切羽詰まってるらしい。多分大丈夫だ」
そうして家に入れてもらえた。
「つまりへまをやらかしたから用済みだと判断されたわけか?」
誠に事情を説明すると誠はそう言った。
俺はうなずいた。
「逃げ込む先が違うんじゃないのか?警察に駆け込めば済む話だろ?」
「警察はダメだ。ゴッドの手が回ってる」
「ここにもエゴイストの部下が張ってるんじゃないのか?」
「今狙ってるのは白鳥と檜山の二人だ。お前たちはノーマークだ」
「白鳥カンパニーと地元銀行のつながりを洗ってるわけだな?」
誠が言うと俺は頷いた。
「で、俺達にどうしろと?」
「協力はする。だから身の安全を確保させてほしい」
俺は自分より年下の若造に頭を下げた。
誠は神奈と相談している。
やがて神奈が電話をしだした。
「もしもし恵美?今家にウィザードってのが来てるんだが……ああ。頼む」
神奈は俺に言った。
「ついてこい、とっておきの場所を用意してやる」
もしも女神というのがいるのなら目の前にいるものがそうなのだろう。
俺は2人に感謝した。
(5)
その晩ユニティに緊急招集がかかった。
何事だろう?
恵美さんが家に迎えに来た。
石原君の車でファミレスに移動する。
「恵美、何があったの?」
私は恵美に聞いてみた。
「神奈ちゃんから電話あってね。ようやく狐のしっぽを捕まえたってところかしら」
「?」
「詳しくはファミレスで話すそうよ」
恵美はそう言った。
ファミレスに着くとユニティの何人かが待っていた。知らない黒いパーカーにサングラスとマスクといういかにも怪しい男が言うけど。
「グラサンとマスク外せよ。ここには誰もいねーよ」
美嘉さんが言うと男はグラサンとマスクを外した。
うつろな目をした髭ぼうぼうのちょっと年上の人。
「名前は?」
渡辺君が聞く。
「上田龍平。エゴイストでは『ウィザード』と呼ばれてました」
エゴイスト!?
皆が動揺する。
渡辺君は落ち着いて質問を続ける。
「俺たちに接触してきた目的は?」
「避難です」
避難?
どういう事だろう?
渡辺君が詳しく説明するように求める。
彼はエゴイスト内でのサイトの管理、ハッキング等ネット関係を任されていたらしい。
しかし、誠君相手に失敗の連続。住所まで突き止められ私服警官にマークされる事態に。
私服警官がついた理由は分からない。
誠君と恵美はしばらく泳がせておくつもりだったらしい。
そうだよね?明日には皆と接触するんだから。
それを「エンペラー」に知らせたら今の状態に陥ったらしい。
言われた通り家で待っていたら「執行者」によって「執行」されるだろう。
恵美のスマホがなる。
恵美が電話に出る。
その間も話は続く。
「俺たちに散々仕掛けておいて。今さら助けてくださいとか随分虫のいい話じゃないか?」
渡辺君が言う。
「分かってる。だが、他に安全な場所が無いんだ。あんた達には悪い事したと思ってる。でも仕方なかった。やらなきゃ俺が消される」
「仕方ない?」
神奈が反応した?
「仕方ないで済ませられると思ってんのかこら!!」
「神奈落ち着け」
誠君が宥める。
「マジすいませんでした!お願いですどうか助けてください」
「警察に頼んだ方が良いんじゃないのか?」
「あいつらの手は警察にも及んでる。警察に行ったところで保釈されてあんた達を脅した3人の『ボーン』のようになる」
「ボーンってのはあの簀巻きにされてた3人の事か?」
「そうだ」
「分かったわ……ありがとう。もう帰っていいわ。また何かあったら連絡するから」
恵美の電話が終わったらしい。
「その男の言ってる事は本当みたいよ。その男のアパートに黒服の怪しい男の集団が押し入ったそうよ」
「執行者だ」
ウィザードさんの声が震えてる。
「お前足跡残すようなへましてないだろうな?」
誠君がウィザードさんを睨みつける。
「大丈夫です。PCもスマホも全部叩き壊してきた。アパートを出る時も誰にも気づかれていない」
「その男の言う通りよ。誠君の家周辺に怪しい集団はいないらしいから」
「まあ、まさか敵の家に逃げ込むなんて考えませんよね普通」
恵美と石原君が言う。
「問題はこの男をどうするかか……警察に突き出しても効果ないみたいだし」
「男の住処は私が確保しておくわ」
「晶?」
「別府の山奥にもうしばらく使ってない別荘があるの、そこなら問題ない。移動と見張りは私の家の『兵隊』にやらせるから」
兵隊って……。
そう言って電話をする晶。
「それで俺たちに協力するってのは本当なんだな?」
「ああ、何でも話すよ。例えば明日の『集合』の時間とか……」
「それなら聞いても無駄よ。もうとっくに変えたみたいだし」
「え?」
「買い換えるならPCだけじゃなくてスマホも変えるべきだったな。全部録音済みだ」
誠君が言うとウィザードさんは驚いた。
「あんた一体何者なんだ」
「ただのサッカー選手だよ」
「誠、新しい場所ってのは分かってるのか?」
「ああ、しっかり聞いてある。ついでに新しい『ウォーロック』ってやつの情報ももらっておいたぜ」
渡辺君が聞くと誠君が答えた。
「PC変えたのに分かるものなの!?」
恵美が誠君に聞いた。
「どこまでも間抜けな奴だよな。PC変えてもルーター変えなきゃ意味ないだろっての」
「まさか誠君……ルーターのセキュリティまで破ってるの?」
「まあね」
ルーターの設定なんて大抵デフォルトのままだろ?中にはポケットWi-Fiなんてものでやってるやつもいるしなと簡単に言う誠君。
「じゃあ、今後の予定だが俺たちは明日予定通り熊本に行こう。冬夜の応援してやらないとな?」
渡辺君が言うと酒井君が「この人はどうするんだい?」と聞く。
「当分は晶さんの別荘に『軟禁』だな。必要な情報がある時連絡する。それまで勝手な行動するなよ」
渡辺君はウィザードさんに言うと男は「頼まれても出ないよ」と言う。
「じゃあ、若干事が優位に運びそうだが、最初の手順通り行こう。明日が楽しみだ」
渡辺君が言うと今日は解散になった。
ウィザードさんはその後やってきた晶さんの「兵隊」に連れて行かれた。
(6)
「ふぅー」
今日はしんどかった。
執拗にポンプフェイクをしかけてくる相手チーム。
僕も2回くらいファールを食らった。
でも攻略自体は簡単だった。
練習で身に着けた戦術を駆使してノーマークを作って打つだけ。
そして恭太が驚くべき進化を遂げていた。
ディフェンスはもちろんオフェンスまでしっかりやっていた。
そして相手のディフェンスが中に縮まったとみるや監督が祐樹と佐を交代させる。
外角からガンガン決めて、そして広がったら中に2人で切り込んでいく。
速攻自体は止められた。
迂闊に攻め込むとチャージングを取られる。
あんなディフェンスもあるんだなと痛感した。
接戦になったけど最後はきっちり勝った。
後は明日の決勝だけ。
コンコン
「はい」
「来たな」
佐倉さんが入ってくる。
「2人とも体調はどうですか?」
「俺は大丈夫だよ」
「佐は久々の試合だから心配なんです!片桐先輩は?」
「僕も平気。明日が待ち遠しくて眠れないくらいかな?」
「ちゃんと寝てくださいね。明日が最後なんだから」
「わーってるよ」
「じゃ、僕ちょっと電話してくるから」
「遠坂さんにか?」
「ああ、そっちも二人でなかよくな」
「片桐先輩!!」
「あいよ」
部屋を出ると愛莉に電話する。
「もしもし?」
「愛莉、僕だよ」
「あ、冬夜君。あのね~……」
愛莉から色々聞いた。
そうか、相手幹部が逃走したか。
「誠に伝えておいて。ミイラ取りがミイラになるなよって」
「大丈夫みたい、誠君はスマホとPC二種類のアカウント使い分けてるらしいから。第一サーバーには絶対入れない仕掛けを施してるって」
「過信は禁物だよ」
「冬夜君もだよ?」
え?
「冬夜君も過信して無茶なプレイしたら駄目だよ」
「ああ、気をつけるよ。ありがとう」
「明日朝早いからもう寝るね」
「気をつけてくるんだよ」
「うん、おやすみなさい」
「おやすみ」
電話を切ると部屋に戻る。
……一応ノックした方がいいかな?
コンコン
「冬夜か?」
「うん、入っても良いかな」
「ああ、いいぜ」
僕は部屋に入る。
「どうしたんですか?先輩改まってノックなんて?」
「いや、エチケットだろ?」
「まあ、そうだけど」
「2人きりになって妙な雰囲気になってたら大変だしね」
「片桐先輩!!そんなこと絶対にないから!」
「無いのかよ!ちょっと寂しかったな」
佐まで悪乗りしたらしい。
「佐!!」
「まあ、決勝前夜にスタミナ切れ起こしたらマネージャーとしてはたまらんわな」
「佐本気で怒るよ!!」
2人のやり取りを見てると愛莉の事を想う。
明日は愛莉に優しくしてやろう。
「片桐先輩?」
「なに?」
「いや、なんか遠くを見てたから」
「遠坂さんの事でも考えてたか?」
「まあね、二人を見てたら考えちゃってね」
「え?」
「僕も明日終わったら愛莉に優しくしてやるから佐もそうしてやれ」
「お前も言うようになったな」
「片桐先輩まだ言うんですか!?私もう帰ります!」
バタン!
「……ちょっとやり過ぎたかな?」
「どうかな?」
佐はスマホを弄っている。
そして笑いだした。
「どうした佐?」
「いや、これみてくれよ」
佐がスマホを見せる。
どれどれ……
「あんまり怒るなよ。冬夜だって悪気があって言ったわけじゃなんだから」
「許せません、明日勝つって約束してください。そしたら許します」
「俺としては負けてもいいんだけどな?」
「どうして?」
「負けたら桜子が慰めてくれるんだろ?」
「バカ!!」
「……なるほどね」
「だろ?」
「まあ、謝って寝るとしようか?」
「そうだな……」
僕も佐倉さんに「ごめん言い過ぎた」と送る。
「明日絶対勝たなきゃだめですからね!九州一になれない人が世界一なんて笑われますよ」
「わかったよ、おやすみ」
そう送ってベッドに横になる。
「泣いても笑っても明日で最後か……」
佐が言う。
「どうせなら笑って最後にしたいね」
「そうだな」
いよいよ明日決勝だ。
トゥルルルル……。
「もしもし~」
「おはよう冬夜君~」
「今日も早いね」
「迷惑だった?」
「いや、そんなことないよ。嬉しいよ」
わ~い。
「今日いよいよ準決だね」
「相手も手ごわいみたいだし難しいかもね」
「冬夜君なら大丈夫だよ」
「バスケは5人でする試合だから」
いつも冬夜君の独り舞台じゃない。
「明日のチケット無駄にしないでね」
「わかったよ」
「明日には帰ってくるの?」
「ああ、その予定だよ。帰ったら一杯構ってあげるからな」
わ~い。
「楽しみにしてる~♪」
「じゃあ佐(たすく)起きるから切るね」
「うん」
朝一の仕事終了っと。
あとは朝ごはん作って食べて洗濯物して冬夜君のお部屋掃除して……。
今日は学校休みだから。何しようかな~?
みんな何してるんだろ?
「みんな何してる~?」
ユニティのグループメッセージに送ってみた。
「寝てた」
「今からバイトの準備」
「家事が片付いたところ。愛莉ちゃんはなにしてるの?」
「今家事終わって、部屋で寛いでる」
「暇な人で集まりませんか?」
花菜の提案に暇な人が乗る。
「いいわね、またファミレスでいいかしら?」
「いいんじゃない?」
「じゃあ、愛莉ちゃんには私達が迎えに行くわね」
恵美がそう言ってくれた。
「休日は平気だと思うけど?」
「油断は禁物よ。神奈ちゃんの過去まで蒸し返してくる連中だし」
「許せないよね!」
「ああ、その事で話があるんだけど。誠君も来れないかしら?」
「俺?今日はオフだからいけるよ」
「じゃあ、会った時に話すわ」
ログがどんどん流れていく。
「こっちから仕掛けるにはまだ準備が必要だ。皆用心してくれ」
渡辺君が言ってる。
「その準備の打ち合わせよ。心配しないで」
「わかった。今日は俺もバイト休みだし俺も行く」
しばらくすると恵美が迎えに来た。
後部座席に座る。
「愛莉ちゃんはあれから何もない?」
「無いよ?」
「それはよかった」
石原君の運転でファミレスへ向かう。
ファミレスに着くと酒井夫妻、渡辺君、誠君、木元夫妻、がいた。
「土曜だというのに皆大変ね」
「明日休みとる為ってのもあるんだろうな」
恵美と渡辺君が言う。
「で、話って?」
誠君が恵美に言う
恵美は茶封筒を誠君に渡す。
「なにこれ……ってまじかよ!?」
誠君は中身を見て驚いた。何が入っていたのだろう?
「電話番号まで調べてくれたんだもの。そのくらいわけないわ。餅は餅屋よ?」
そう言って恵美は笑う。
「こいつは恐れ入りました」
「で、何を調べたんだ?」
「誠君が流してくれたスマホの持ち主を洗い出しただけよ。プリペも多かったけどそれでも造作もなかったわ」
恵美って親何やってるんだろう?
「で、こいつを使ってどうするんだ?」
「それを皆で話しあおうと思って」
「この中にゴッドってのはいるのか?」
「それはわからないわ。だってコードネームまでは流石に分からなかったもの」
さすがにコードネームで契約する人はいないでしょ?と笑う恵美。
「報復で一人一人調査して晒しだすか?」
「圧力かけたらあっという間にプー太郎よ?」
渡辺君と恵美の会話が物騒になってる。
「圧力で思い出した。実はすでに盗聴始めてるんだけどさ……」
誠君が言う。
ほえ?
「あいつら白鳥カンパニーと地元銀行の関係探ってるらしい」
「それってまずいんじゃないですか?」
不安気に花菜が言う。
「すでに地元銀行の株を酒井カンパニーが買い取ったところまでは嗅ぎ付けてる」
「大丈夫よ、資料はどこにも流出してない。どちらも痛手を被るはずがないわ」
恵美が言う。
「取りあえず皆隠し事は無しで行こう。それウィークポイントになる可能性があるから」
「そうね……」
誠君が言うと恵美がうなずく。
「そろそろ反撃する?ささっと頭の首取ったら終わりでしょ?」
晶が言うと渡辺君は首を振った。
「誠が言うにはエンペラーの上にゴッドと呼ばれる存在がいるらしい」
エンペラーを切ったところで次のエンペラーが誕生するだけだという。
「まずはウィザードってやつを抑えたいな。そいつがサーバー管理してるらしいから」
「抑えるってどうするの?警察に突き出す?」
私が聞くと誠君が首を振った。
「もうウィザードってやつの首切りを考えてるらしい。次のウィザードを探してる」
「それにウィザードってのはもう少し泳がせておいた方がいいかもね」
恵美が言う。
「明日皆と会うんでしょ?その時の音声ログと写真と名前の確認がしたいわ。手配はしてある」
「明日は面白くなりそうね」
晶が笑う。
「ところで神奈は大丈夫?」
私が誠君に聞いてみた。
「どうだろうな。表向きは平静を装ってるけど……って感じだな」
「ショックだよね」
「冬夜には申し訳ない事をしたって悔やんでるよ」
「冬夜君の心配より自分の心配だよ」
「そうだな……」
「明日の会合にはゴッドってやつは出てくるのか?」
渡辺君が誠君に聞いてみた。
「わからない、ファミリアってやつとキングってやつ。あとエンペラーのウィザードのログしか残ってなかったから」
「そうか……」
「そう悲観することは無いわ。誠君の通話ログと電話番号から割り出した通話記録を照合したらゴッドってやつの身元も確認したから」
「まじか!?」
皆が驚く。
「高橋蒼良。27歳。与党の若手県議員よ。高橋グループの総裁の一人息子。少々厄介な人物ね」
高橋グループとは日本でも有名な財閥で政治・経済両方の巨頭らしい。警察どころか検察庁にもパイプがあり少々の事はもみ消すことができるらしい。
「またデカいのが出て来たな」
渡辺君がそう言った。
「そんなの相手にして大丈夫なのかい?」
酒井君が不安気に言う。
「善君?こういうのはね。相手がデカければデカいほど有利なの」
晶が酒井君に教える。
「デカければデカいほど敵も増える。こういう情報をリークしたら喜んで食いついてくる奴もいるわ」
マスコミもこういう奴のスキャンダルには敏感だしね。と付け足す。
「でももみ消されちゃうんじゃないですか?」
石原君が言うと恵美が石原君に教える。
「大丈夫そう言う圧力に屈しないタフなマスコミってのも付きものでね。ツテがあるわ」
「その高橋ってやつのスマホにもちゃんと確保してる。とっておきのネタが出るまで泳がせておくつもりだ」
「それって保存できるの?」
「大丈夫、そこで俺達の力ではどうにもできないから……」
「分かってる。サーバーマシンは用意したわ。アドレスは誠君にSMSで送っておいたわ」
「ああ、早速利用してる。ユニティのサイトもそっちに移動しておいた。例の暴露サイトもね」
「あの、話がよくつかめないんだが、要は相手の頭もきっちり抑えたって事かい?」
「早い話がそういうことですね」
木元先輩が聞くと誠君が答える。
「それじゃ、いよいよ……」
花菜が聞く。
「ああ、そうだな。反撃開始と行こうじゃないか?それでまず考えたんだが……」
「それなら私からも提案があるわ。またテレビ局から取材の依頼が来てるの前の放送が受けがよかったみたい」
「じゃあ、そこから反撃開始と行こうか」
「いよいよね」
「ああ、耐える時は終わった。次はこっちのターンだ」
渡辺君と江口さんが言う。
「具体的には何をするの?」
「俺もそれを考えた。仕掛けは時間をかけて、短期決戦で挑みたいところなんだが……糸口がつかめない。皆で相談したい」
「まさかそれを、放送で流すの!?」
「まさか。誠がせっかく爆弾を仕込んでるんだ。やるんだったら一度に全部爆破させたい」
「じゃあ、当分の間はまだ探り?」
「高橋グループの弱みを握る。と、思ったんだが……」
渡辺君はにやりと笑う。
「蒼良の存在がすでにウィークポイントなんだよな。そして奴らはそれを掴んだ事に気づいてない」
「なるほどね……」
恵美も笑う。
私の頭の理解が追い付かない。
「で、私達はなにをしたらいいの?」
「とりあえずは明日冬夜の応援に行こう。会合の件は恵美に任せておけばいい」
「それは間違いないわ。信じて」
「わかった」
私は返事した。
全部は冬夜君達の大会が終わってから。
そこから反撃が始まる。
どんな事をするんだろう?
怖い半面ドキドキしていた。神奈まで酷い目に合わせた連中。
ただじゃおかないんだから!
(2)
「お嬢様着きましたよ」
「ありがとう、帰りは心配いらないから」
「かしこまりました」
私は一人で地元のショッピングモールにやってきた。
サッカー場の近くにある郊外のショッピングモール。
近くには住宅街がある。
一人で買い物に来るのは初めてだ。
って買い物が目的なんじゃない。
初めての場所に戸惑う。
案内所に訪ねてみる。
「あの『アナーキー』って店を探してるのですが」
「それなら2階のガーデンウォークにありますよ」
2階に降りて地図を確認する。
あった。
私はその店に真っ直ぐ向かう。
骸骨や竜、蛇などのいかついものをデザインしたものから迷彩模様のズボンやTシャツを扱う店だった。
彼の趣味なのだろうか?
「いらっしゃいませ……ってうわっ!春奈じゃないっすか!どうしたんすかいきなり」
「こんにちは晴斗」
「いらっしゃいませ、晴斗の知り合い?」
「恋人です」
「晴斗!お前こんな可愛いお嬢ちゃんつかまえたのかよ!」
後からやってきた人は以前の晴斗よりも奇抜な恰好をしていた。
この店の物をコーディネートしたような服装とアクセサリー。
耳にはいくつものピアスをつけてある。
頭は軽くパーマをかけた金髪の人、ガタイは良い。晴斗もそうだけどいつ鍛えているのだろう?」
「で、お嬢ちゃんもこの店の物買ってくれるのかい?」
「残念だけど趣味じゃないわ」
即答した。
「そっかぁ、残念だな。てことは晴斗目当て?」
私はうなずいた。
「晴斗昼まだだったな。1時間くらいデートしてこい」
「いいんすか?」
「せっかく来てくれたんだ。休憩してこい」
「あざっす。じゃあ行こうか春奈」
晴斗と私はファストフード店に入った。
私はアップルパイとオレンジジュースを注文する
商品を受け取ると二人掛けのテーブルに座った。
「それにしてもどうしたんすか?いきなり?」
「寂しかったから」
「へ?」
「晴斗と会社であってから一度も晴斗とあってなかったから」
寂しい。
そんな負の感情も恋愛にはついてくるのね。
「さーせん。土日祝日にバイト休めなくてつい」
「バイトなら仕方ないと思って私から会いに来たの。迷惑だったかしら?」
「そんなことねーっす。春奈から会いに来てくれるなんて思ってもみなかったから驚いたっす」
「それならいいけど」
「今度から平日遊べる時に時間作るっす。心配かけてごめん」
その時女性二人組が晴斗に話しかけてきた。
「あっれぇ!晴斗じゃん!?どうしたのその頭?」
「ほんとだよく見たら晴斗じゃん!どうしたの!?最近顔見ないけど」
「色々あるんだよ」
「で、その彼女だれ。新しい女?」
一人が私を指差した。
「めっちゃ可愛いじゃん。やめとけって。あんたまた振られるよ!」
「俺が誰と付き合おうとかんけーねーだろ!」
「うっわぁ、マジになってるし。ヤバい超ウケる」
「晴斗、誰この人達」
自分でも怖いと思えるほどの冷たい声。
怒り。
こんな感情もあるの?
嫉妬。
私は2人に妬いてるの?
「ああ、高校時代のダチっす。今は短大に通ってるっす」
「よろしくねえ」
「ねえねえ、付き合ってどれくらいになるの?」
「その質問に答える義務は無いわ」
「なんかつまんない女。晴斗こんな女より私の方が良くない?」
「あんたも「っす」って体育会系入っちゃってるし。堅苦しいの嫌いでしょあんた」
つまんない女。
その一言が私を揺さぶる。
晴斗は私といてつまらない?
不安。
一言で心が震える弱さ。
恋は人を弱くするの?
「春奈とはマジでつきあってるんだよ。お前たちみたいな遊びとは違うんだ」
「ひっどい。私達とは遊びだったわけ!」
「遊びも何も振ったのは麗華達だろ?」
「最悪……行こっ千絵」
「本当、バイバイ」
二人は去っていた。
「ったく……春奈も気にする事ないっすよ」
「私といて楽しくない?」
何てことを聞いてるんだろう?
でも聞かずにはいられなかった。
「そんなわけないっす。春奈といて超楽しいっすよ。わざわざこんなところまで会うために来てくれる春奈がめっちゃ大好きっす」
こんなところでそんな台詞言わないで。
顔が熱い。
心がどきどきする。
脈も早い。
焦燥。
大好きと言われることはもっと心を震わせる。
私も言った方がいいのかな?
「私も大好きよ。晴斗」
「春奈からそんな事言われるなんて夢みたいっす!」
彼のテンションが最高潮に達していた。
最高潮かどうかは分からない。天井を見たことが無いから。
「あ、そろそろ時間っす。ゴメンまたちゃんと誘うっすから」
「……だめよ」
「へ?」
「今日何時に終わるの?」
「シフトは17時までっすけど?」
「じゃあ、それまで時間潰してる。終わったら電話ちょうだい」
「……了解っす」
晴斗はそう言うと店に戻っていた。
私は洋服屋さんを見て回ってた。
晴斗はどんな格好が好きなんだろう?
もっと派手目の方がいいんだろうか?
晴斗に直接聞いた方がいいかな?
本屋さんに入った。
面白そうな本を数点と最新のファッション雑誌を買っていた。
それを読みながらコーヒーショップで時間を潰す。
ふと周りを見る。
流行りの服を着た若い男女が手を繋いで歩いている。
2人はアイスクリームを食べながら仲良く歩いている。
お店の中も見た。
みんな同じようなカップルばかりだ。
私は洋服屋に再び向かった。
よくわからないけどファッション雑誌を見てピンと来たのを買っていた。
ついでに靴屋さんにも向かった。
すると晴斗からメッセージが。
「今終わったっす。どこにいるっすか?」
「分からない靴屋さんの前にいる」
「じゃあ、そこから動かないで待っててください」
「いえ、私がそっちに行くわ。待ってて」
「……了解っす」
晴斗の店に向かった。
店はまだやってるようだ。
「ねえ、晴斗。ここにはレディースってあるの?」
店の中を見回しながら晴斗に尋ねた。
「あるっすけどまさか……」
そのまさかだよ。
「ペアルックって興味ない?」
「ああ、だめっす。ここの服は春奈には似合わないっす」
「どうして?」
「おい、似合わないとかお前営業妨害する気か!」
さっき会った店員さんが来た。
この人が店長らしい。
「服が似合わなくてもアクセとかお揃いにするとかあるだろが!」
「アクセサリー」
レジの前にある陳列棚を見る。
髑髏の指輪……私には無理。
プラチナのブレスレットを見つけた。これくらいなら。
「これ二つ下さい」
「まいどーっす!」
ブレスレットを二つ受け取ると一つを晴斗につける。
そしてもう一つを私に。
「これでお揃いね」
共有。
2人だけの物。
それが意味する物。
意味などないかもしれない。
でも私には興味深い物だった。
「じゃ、おつかれさんでした」
「おつかれー」
晴斗は私の手を握り店を出る。
「さて、飯でも食って帰りますか?」
「その前に晴斗、お願いがあるんだけど」
「なんすか?」
「アイスクリームが食べたい。二人で」
2人で同じ物を食べる。
意味はたいしてないのかもしれない。
でも私には興味があった。
それがどういう気持ちにさせてくれるのかを。
「了解っす」
アイスクリーム屋さんに言ってアイスクリームを買って二人で食べながらショッピングモールを散策した。
「明日はいよいよ、冬夜先輩達の決勝っすね!」
「……今日勝ったの?」
「バイト中にスマホで見たっす接戦を勝ち上がったらしいっすよ」
「そうか、じゃあ明日は皆で応援だね」
「春奈も来るんすか?」
「行かない理由が知りたい」
そんなのあるわけないじゃない。
あなたと時間を共有する。
それだけの為ならなんだってする。
廻り行く安らぎ、月のゆりかご。
願わくばそこで永遠に眠りたい。
彼とレストランで夕食を食べながら聞いていた。
「今夜あなたの家に泊ってもいい?」
「へ?」
「一度私の家に行って着替えとか用意する必要あるけど」
「あの……」
「私には教えてくれないの?」
恋の終着点。
「と、泊まるのは良いっすけどそれはちょっと」
「何か不都合があるの?」
「ないっす。寧ろ超嬉しいっすけどまだ早いっす!」
「早いと不都合があるの?」
「春奈の事大事にしてるから、大切にしたいっす!」
大事にされ過ぎるのも困るわよ。
(3)
「くそったれ!」
俺はスマホをベッドに投げつけた。
熊本に派遣したボーンがしくじった。
制裁を恐れたボーンは自ら警察に駆け込んだ。
奴は自分が知ってる事を洗いざらい話したらしい。
これで、計画がすべてパーだ。
「失態だな。エンペラー」
PCのモニターに浮かぶゴッドの冷徹な一言。
「重大な失態ですよエンペラー」
ポープも言う。
「だが、案ずるな。エンペラー。今回の件はこちらで片づけよう。お前が気にする必要はない。ただのボーンの裏切りだ」
「ウィザードの功績も合わせて±0といったところでしょうか」
「ボーンは徹底してしつけておく必要があるようだがのぅ」
ハーミットが語る。
「より忠実なる僕、ナイトの出番かもしれないな」
「ボーンには相応の雑務をこなさせるとしましょう」
「ゴッドの御心のままに」
「今度の会合、我らも行った方がよさそうですね」
「……そうすることにしよう。場所は……」
その時ウィザードから電話が鳴る。
「どういう事だ!?エンペラー!新居の周りに私服警官が張り込んでる!」
「なんだと!?」
「俺は何もしてないぞ!?言われたとおりに行動しただけだ!」
「落ち着けウィザード。ただの偶然かもしれん」
「そんなことはない、コンビニに買い物に行った時も尾行されてる気配がした」
「すぐに新居を手配する。心配するな。もうお前は何もしなくていい。後はこっちから連絡する」
そう言うと俺は電話を切った。
「どうした。エンペラー?」
「……ウィザードがしくじった。私服警官にマークされてるらしい」
「……仕方ない、こちらで処理しよう」
ゴッドの冷淡な一言。
俺はウィザードの連絡先をブロックして削除する。
着信履歴送信履歴もクリアした。
「新しいウィザードの準備は?」
「当面はウォーロックにさせる。相手もなかなかの手練れらしいしな」
「分かりました」
「俺にさせるならまずは奴のサーバーを機器ごと廃棄して欲しい」
ウォーロックが話に加わった。
「わかった。新しいサーバーを用意する」
「それと全員のPCを交換してくれ。すでにウィルスに感染してる可能性がある」
「了解した」
「一台たりとも残さないでくれ」
「分かってる」
「と、いうわけだ。招かざる客よ。ご退室願おうか?」
ウォーロックがそう言うとチャットにアクセス不可になった。
意図を理解するとすぐにLANケーブルを引っこ抜く。
ウォーロックはウィザードよりレベルの高い者だという事は理解した。
しかしこの後どうする?
俺はこの後どうすればいい?
電話が鳴る、知らない電話番号だ。
電話に出る、少年のような少女の声だった。
「ゴッドから通達だ。場所を変更する、日時に変更はない。場所は……」
「お前は誰だ」
「ウォーロックといえば分かるか?」
こんな子供のような声がウォーロックだと。
「ボイスチェンジャーを使っている。少しは頭を使え」
「なんだと!?」
「俺はゴッド直属の配下だ。お前よりクラスは上だ」
「……」
「じゃあ、明日楽しみにしている」
電話はそれで切れた。
このままでは俺の立場も危うそうだ。
何か名誉挽回せねば。
落ち着け冷静になれ。
こういう時に下手に動くと相手の思うつぼだ。
明日になってゴッドの指示を仰ごう。
その場で処分されるかもしれないが。
その夜は眠れなかった。
(4)
「もうお前は何もしなくていい。後はこっちから連絡する」
直感でやばいと思った。
俺はPCの電源を切るとハードディスクを粉砕する。
必要最低限のものを持ってそっと、家を抜け出す。
私服警官に気づかれぬようにそっと闇に紛れて歩く。
部屋の電気をつけっぱなしにしてるので油断してるのだろう?
アパートから出ていく者にまで目は届かなかった。
宵闇の中あてもなく彷徨う。
いや、あてはある。
バスに乗って駅まで出る。そこから電車に乗って4駅ほど移動する。
そこから徒歩で10分ほど歩く。
そこに目的地はあった。
呼び鈴を鳴らす。
「誠~鍵忘れたのか~?」
神奈の声だ。
ドアが開く。
神奈は俺の顔を見て青ざめる。
「お前……誰だ」
「ウィザードと言えば分かるか?エゴイストの」
「エゴイスト!?」
エゴイストの名前を出したのはまずかったらしい。
相手に余計に警戒させてしまった。
「な、何の用だ!?」
神奈は腰を抜かし怯えている。
「落ち着け……俺は」
「誰だ!?俺の家で何をしている!?」
誠が帰って来たらしい。
誠は俺を押しのけ神奈を起こす。
「こ、こいつエゴイストだって」
「なんだと?」
誠の顔の表情が険しい。
取りあえず誤解を解かねば……。
「ま、待て落ち着け。俺はもうエゴイストじゃない」
「どういう意味だ?」
「ウィザードと呼ばれていた。だが、用済みになって今は追われる身だ」
「それを信じる証拠はあるのか?」
「証拠はある。だが、ここだと不味い。中に入れてくれないか?」
「素性の分からないやつを家に入れるほど俺はお人好しじゃないぞ」
どうすればいい?
俺は頭を働かせた。
そして辿り着いた答えは一つ。
ポケットから免許証を取り出して見せる。
こいつが誠なら俺がウィザードだと分かるはずだ。
分かってもらえたらしい。
「上がれ……、神奈立てるか?」
「あ、ああ。もう大丈夫。それよりこいつ大丈夫なのか?」
「様子からしてかなり切羽詰まってるらしい。多分大丈夫だ」
そうして家に入れてもらえた。
「つまりへまをやらかしたから用済みだと判断されたわけか?」
誠に事情を説明すると誠はそう言った。
俺はうなずいた。
「逃げ込む先が違うんじゃないのか?警察に駆け込めば済む話だろ?」
「警察はダメだ。ゴッドの手が回ってる」
「ここにもエゴイストの部下が張ってるんじゃないのか?」
「今狙ってるのは白鳥と檜山の二人だ。お前たちはノーマークだ」
「白鳥カンパニーと地元銀行のつながりを洗ってるわけだな?」
誠が言うと俺は頷いた。
「で、俺達にどうしろと?」
「協力はする。だから身の安全を確保させてほしい」
俺は自分より年下の若造に頭を下げた。
誠は神奈と相談している。
やがて神奈が電話をしだした。
「もしもし恵美?今家にウィザードってのが来てるんだが……ああ。頼む」
神奈は俺に言った。
「ついてこい、とっておきの場所を用意してやる」
もしも女神というのがいるのなら目の前にいるものがそうなのだろう。
俺は2人に感謝した。
(5)
その晩ユニティに緊急招集がかかった。
何事だろう?
恵美さんが家に迎えに来た。
石原君の車でファミレスに移動する。
「恵美、何があったの?」
私は恵美に聞いてみた。
「神奈ちゃんから電話あってね。ようやく狐のしっぽを捕まえたってところかしら」
「?」
「詳しくはファミレスで話すそうよ」
恵美はそう言った。
ファミレスに着くとユニティの何人かが待っていた。知らない黒いパーカーにサングラスとマスクといういかにも怪しい男が言うけど。
「グラサンとマスク外せよ。ここには誰もいねーよ」
美嘉さんが言うと男はグラサンとマスクを外した。
うつろな目をした髭ぼうぼうのちょっと年上の人。
「名前は?」
渡辺君が聞く。
「上田龍平。エゴイストでは『ウィザード』と呼ばれてました」
エゴイスト!?
皆が動揺する。
渡辺君は落ち着いて質問を続ける。
「俺たちに接触してきた目的は?」
「避難です」
避難?
どういう事だろう?
渡辺君が詳しく説明するように求める。
彼はエゴイスト内でのサイトの管理、ハッキング等ネット関係を任されていたらしい。
しかし、誠君相手に失敗の連続。住所まで突き止められ私服警官にマークされる事態に。
私服警官がついた理由は分からない。
誠君と恵美はしばらく泳がせておくつもりだったらしい。
そうだよね?明日には皆と接触するんだから。
それを「エンペラー」に知らせたら今の状態に陥ったらしい。
言われた通り家で待っていたら「執行者」によって「執行」されるだろう。
恵美のスマホがなる。
恵美が電話に出る。
その間も話は続く。
「俺たちに散々仕掛けておいて。今さら助けてくださいとか随分虫のいい話じゃないか?」
渡辺君が言う。
「分かってる。だが、他に安全な場所が無いんだ。あんた達には悪い事したと思ってる。でも仕方なかった。やらなきゃ俺が消される」
「仕方ない?」
神奈が反応した?
「仕方ないで済ませられると思ってんのかこら!!」
「神奈落ち着け」
誠君が宥める。
「マジすいませんでした!お願いですどうか助けてください」
「警察に頼んだ方が良いんじゃないのか?」
「あいつらの手は警察にも及んでる。警察に行ったところで保釈されてあんた達を脅した3人の『ボーン』のようになる」
「ボーンってのはあの簀巻きにされてた3人の事か?」
「そうだ」
「分かったわ……ありがとう。もう帰っていいわ。また何かあったら連絡するから」
恵美の電話が終わったらしい。
「その男の言ってる事は本当みたいよ。その男のアパートに黒服の怪しい男の集団が押し入ったそうよ」
「執行者だ」
ウィザードさんの声が震えてる。
「お前足跡残すようなへましてないだろうな?」
誠君がウィザードさんを睨みつける。
「大丈夫です。PCもスマホも全部叩き壊してきた。アパートを出る時も誰にも気づかれていない」
「その男の言う通りよ。誠君の家周辺に怪しい集団はいないらしいから」
「まあ、まさか敵の家に逃げ込むなんて考えませんよね普通」
恵美と石原君が言う。
「問題はこの男をどうするかか……警察に突き出しても効果ないみたいだし」
「男の住処は私が確保しておくわ」
「晶?」
「別府の山奥にもうしばらく使ってない別荘があるの、そこなら問題ない。移動と見張りは私の家の『兵隊』にやらせるから」
兵隊って……。
そう言って電話をする晶。
「それで俺たちに協力するってのは本当なんだな?」
「ああ、何でも話すよ。例えば明日の『集合』の時間とか……」
「それなら聞いても無駄よ。もうとっくに変えたみたいだし」
「え?」
「買い換えるならPCだけじゃなくてスマホも変えるべきだったな。全部録音済みだ」
誠君が言うとウィザードさんは驚いた。
「あんた一体何者なんだ」
「ただのサッカー選手だよ」
「誠、新しい場所ってのは分かってるのか?」
「ああ、しっかり聞いてある。ついでに新しい『ウォーロック』ってやつの情報ももらっておいたぜ」
渡辺君が聞くと誠君が答えた。
「PC変えたのに分かるものなの!?」
恵美が誠君に聞いた。
「どこまでも間抜けな奴だよな。PC変えてもルーター変えなきゃ意味ないだろっての」
「まさか誠君……ルーターのセキュリティまで破ってるの?」
「まあね」
ルーターの設定なんて大抵デフォルトのままだろ?中にはポケットWi-Fiなんてものでやってるやつもいるしなと簡単に言う誠君。
「じゃあ、今後の予定だが俺たちは明日予定通り熊本に行こう。冬夜の応援してやらないとな?」
渡辺君が言うと酒井君が「この人はどうするんだい?」と聞く。
「当分は晶さんの別荘に『軟禁』だな。必要な情報がある時連絡する。それまで勝手な行動するなよ」
渡辺君はウィザードさんに言うと男は「頼まれても出ないよ」と言う。
「じゃあ、若干事が優位に運びそうだが、最初の手順通り行こう。明日が楽しみだ」
渡辺君が言うと今日は解散になった。
ウィザードさんはその後やってきた晶さんの「兵隊」に連れて行かれた。
(6)
「ふぅー」
今日はしんどかった。
執拗にポンプフェイクをしかけてくる相手チーム。
僕も2回くらいファールを食らった。
でも攻略自体は簡単だった。
練習で身に着けた戦術を駆使してノーマークを作って打つだけ。
そして恭太が驚くべき進化を遂げていた。
ディフェンスはもちろんオフェンスまでしっかりやっていた。
そして相手のディフェンスが中に縮まったとみるや監督が祐樹と佐を交代させる。
外角からガンガン決めて、そして広がったら中に2人で切り込んでいく。
速攻自体は止められた。
迂闊に攻め込むとチャージングを取られる。
あんなディフェンスもあるんだなと痛感した。
接戦になったけど最後はきっちり勝った。
後は明日の決勝だけ。
コンコン
「はい」
「来たな」
佐倉さんが入ってくる。
「2人とも体調はどうですか?」
「俺は大丈夫だよ」
「佐は久々の試合だから心配なんです!片桐先輩は?」
「僕も平気。明日が待ち遠しくて眠れないくらいかな?」
「ちゃんと寝てくださいね。明日が最後なんだから」
「わーってるよ」
「じゃ、僕ちょっと電話してくるから」
「遠坂さんにか?」
「ああ、そっちも二人でなかよくな」
「片桐先輩!!」
「あいよ」
部屋を出ると愛莉に電話する。
「もしもし?」
「愛莉、僕だよ」
「あ、冬夜君。あのね~……」
愛莉から色々聞いた。
そうか、相手幹部が逃走したか。
「誠に伝えておいて。ミイラ取りがミイラになるなよって」
「大丈夫みたい、誠君はスマホとPC二種類のアカウント使い分けてるらしいから。第一サーバーには絶対入れない仕掛けを施してるって」
「過信は禁物だよ」
「冬夜君もだよ?」
え?
「冬夜君も過信して無茶なプレイしたら駄目だよ」
「ああ、気をつけるよ。ありがとう」
「明日朝早いからもう寝るね」
「気をつけてくるんだよ」
「うん、おやすみなさい」
「おやすみ」
電話を切ると部屋に戻る。
……一応ノックした方がいいかな?
コンコン
「冬夜か?」
「うん、入っても良いかな」
「ああ、いいぜ」
僕は部屋に入る。
「どうしたんですか?先輩改まってノックなんて?」
「いや、エチケットだろ?」
「まあ、そうだけど」
「2人きりになって妙な雰囲気になってたら大変だしね」
「片桐先輩!!そんなこと絶対にないから!」
「無いのかよ!ちょっと寂しかったな」
佐まで悪乗りしたらしい。
「佐!!」
「まあ、決勝前夜にスタミナ切れ起こしたらマネージャーとしてはたまらんわな」
「佐本気で怒るよ!!」
2人のやり取りを見てると愛莉の事を想う。
明日は愛莉に優しくしてやろう。
「片桐先輩?」
「なに?」
「いや、なんか遠くを見てたから」
「遠坂さんの事でも考えてたか?」
「まあね、二人を見てたら考えちゃってね」
「え?」
「僕も明日終わったら愛莉に優しくしてやるから佐もそうしてやれ」
「お前も言うようになったな」
「片桐先輩まだ言うんですか!?私もう帰ります!」
バタン!
「……ちょっとやり過ぎたかな?」
「どうかな?」
佐はスマホを弄っている。
そして笑いだした。
「どうした佐?」
「いや、これみてくれよ」
佐がスマホを見せる。
どれどれ……
「あんまり怒るなよ。冬夜だって悪気があって言ったわけじゃなんだから」
「許せません、明日勝つって約束してください。そしたら許します」
「俺としては負けてもいいんだけどな?」
「どうして?」
「負けたら桜子が慰めてくれるんだろ?」
「バカ!!」
「……なるほどね」
「だろ?」
「まあ、謝って寝るとしようか?」
「そうだな……」
僕も佐倉さんに「ごめん言い過ぎた」と送る。
「明日絶対勝たなきゃだめですからね!九州一になれない人が世界一なんて笑われますよ」
「わかったよ、おやすみ」
そう送ってベッドに横になる。
「泣いても笑っても明日で最後か……」
佐が言う。
「どうせなら笑って最後にしたいね」
「そうだな」
いよいよ明日決勝だ。
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