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4thSEASON
歓喜の歌
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(1)
スマホの着信音が鳴る。
「愛莉?」
「うん、冬夜君おはよう」
時計を見る、随分早いな?
「今どこにいるの?」
「これから石原君たちと一緒に向かうところだよ」
「愛莉試合時間伝えたよね?」
ちょっと早くないか?
「試合前に会えないかなと思って……ダメだった?」
「大丈夫だけどどうしたの?」
「冬夜君におまじないかけてあげようと思って」
「おまじない?」
「うん、昨夜急ごしらえで作ったの!」
「ありがとう。じゃ、着いたら電話するね」
「ああ、わかった。またね」
電話を切ると佐(たすく)が起きていた。
「毎日優しい彼女だな」
「まあね」
「こんなやりとりも今日で最後か」
「最後じゃないさ。まだリーグ戦残ってる。来年だってあるし」
「そうだな……」
スマホの着信音が鳴る。
「いつまでゆっくりしてるんですか!早くしないと朝食の時間終わっちゃいますよ」
佐倉さんからのメッセージだった。
「急ぐとしますか?」
「そうだね」
レストランに来た。
料理を選んで取ってテーブルにつく。
テーブルには佐倉さんがいた。
佐倉さんは佐に腕を出すように言う。
佐は腕を出すと腕に何かをくくっている。
ミサンガだ。
「今日の必勝祈願です」
「さんきゅー」
よく見ると他の選手も皆ミサンガをつけてある。
「佐倉さん、僕の分は?」
「無いですよ?」
当然の様に言う佐倉さん。
「僕だけないの?」
「そりゃそうですよ?あ、ちなみに赤井先輩と藤間先輩、吉良先輩もないですよ」
「え、でもつけてたよ?」
「それは……それぞれの彼女さんがつけてくれたんでしょ?」
あ、朝のおまじないってそういう事か。
「なるほどね……」
「納得したら早くご飯食べて準備してください。今日くらい女子の応援してあげてもいいでしょ!」
「それもそうだな」
女バスは毎試合見に来てくれてたな。
最後くらい見ておくか。
会場につくと試合はもう始まっていた。
最初からの猛攻。そして強気のディフェンス。
「あのディフェンスを40分続けられたら日本一になれるでしょう」
正にその状態が今あった。
第1Qを一桁失点に抑えるディフェンス。
そしてスティールからの流れるような速攻。速攻を防がれた時の戦術。
一方的な展開が続いていた。
それを見ている僕達。
「あんなの相手に練習してたんだな」
真司が言う。
「確かに今更ながら凄いよね。女バス」
「そんな奴らに練習してたんだ。俺達が負けるはずがない。自信もっていこう!」
真司が言うと皆うなずく。
そんな時「冬夜君~いたいた」と愛莉の声がする。
「久しぶりだね~」
「元気だったか?他の皆は?」
「席取ってるって」
「そうか」
「冬夜君腕出して」
はいはい、ミサンガでしょ?分かってるよ……ってめちゃ太い!
「愛莉これじゃ切れないよ」
負けろっていうのか?
「だって冬夜君の目標はこの大会じゃないでしょ?」
「まあそうだけど」
「じゃあそんな簡単に切れたら困ると思って太くしてみた♪」
「こりゃ冬夜の願い事はそう簡単に敵わないな」
佐が見て笑っていた。
(2)
控室に入る。
僕はいつも通りイメージをする。
が、皆は少なからず緊張しているようだ。
勝てば優勝。
負ければ準優勝。
どうせなら優勝したい。
そんな思いが皆を固くする。
ムードメーカーの蒼汰も今日は口数が少ない。
この空気で試合に臨むのは良くない。
どうやって緊張をほぐしたらいいものか?
佐倉さんですら緊張している。
「みんな、負けても準優勝だよ。胸張って帰れるよ。よくここまで来たよ」
「ちょっと片桐先輩、縁起でもないこと言わないで!」
佐倉さんが言う。
「冬夜、今から負ける事考えるなよ」
真司もいく。
「みんな固くなってる。これじゃ負けるよ」
そう言うと皆がますます強張る。
「……イメージして。コートの中で試合してる自分たちの姿を、相手がどういうプレイをしてくるかを」
僕がそう言うと皆イメージする。
「勝って喜びを分かち合う自分たちを想像して」
皆がイメージしているようだ。シーンと静まり返る。
「インサイドで多少やられても僕が得点を重ねていく、いつもの必勝パターンだ」
皆の中でイメージ出来たのだろうか?
「蒼汰、この大会で成長したよ。昨日みたいに強気で皆でリードして」
蒼汰が頷く。
「真司と恭太。もううちのインサイドは弱いとは言わせない。相手のセンターに十分対抗できる。真司のアリウープで試合を決めてやれ」
2人が頷く。
「僕と祐樹が相手のディフェンスを引っ掻き回す。インサイドは自ずとばらけるよ。2対1なら負けっこないて。
祐樹が僕を見る。
「相手がどんな攻撃をしてこようと関係ない。いつも通り打ち合いに持って行けばうちの有利だ」
「そう言える根拠は?」
佐が言う。
「相手は格下相手と思ってうちを舐めてかかってるくるはず。最初に3P決めればうちが有利になる。僕は2人を信じて3Pを躊躇わず打つよ」
「プレッシャーかけてくるな」
恭太が笑う。それを見て僕は満足する。
「それでいいんだ。弱気になったら佐に変えられるよ?佐はオールラウンダーなんだから」
「藤間先輩、勝ったら2次会付きですよ」
佐倉さんがようやく口を開く。
みんな笑ってる。
「マネージャーから許可が出たんだ!来週金曜の夜は派手に遊ぼうぜ!」
真司が言う。
「もう大丈夫だね」
僕が言うと皆が頷く。
「女バス優勝しました!」
一年がやってくる。
「じゃ、お祝いに行こうか?」
皆控室を出る。
「片桐先輩ありがとうございます。私もどう声をかけていいのか分からなくて」
「いつも通り冷静な指示頼んだよ」
「はい!」
通路を歩いていると女バスと出会う。
「真司、ここまで来たらアベック優勝だからね!」
「分かってる」
「蒼汰君。頑張っていつも通りでいいんだから」
「了解っス」
「恭太さん、いつもの強気なプレイで皆を支えてください」
「ああ」
「みんな!蒼汰の為にも勝って女バスと合コンと行こう」
「よっしゃあ!燃えてきた!」
蒼汰が叫ぶとみんな笑っていた。
コートに入ると福岡大が練習している。
余裕の雰囲気を出している。
なにか宣戦布告をしてやりたいものだが。
すると蒼汰がボールを持つと「真司!」といってボールをゴール前に放り投げる。
意図を察知したのか真司が空中でパスを受け取りアリウープを決める。
会場が湧く。
そのボールを受け取った恭太が僕にパスを送る。
ボールを受け取るとフリースローラインからジャンプしダンクを決める。
味方のブースターが湧く。
そうして練習を終える。
「皆さんここは通過点ですよ。ゴールはリーグ制覇です」
「うっす!」
「もうみんなに言う事はありません。自分たちのバスケが出来れば勝てるはずです。片桐君のワンマンプレイとは言わせません。自信をもってください」
「インサイドが弱いとも言わせません。大丈夫です。自分を信じてください」
東山監督と佐倉さんが言うとみんなが円陣を組む。
「勝って美味い酒飲もうぜ!」
「蒼汰の為にも勝つぞ!」
「容赦なくパス出しますからね!受け取れないなら交代っすよ」
「分かってるよ」
「んじゃ勝ってくるか」
「っしゃあ!」
皆で気合を入れると一人ずつ呼ばれていく。
先に呼ばれる僕達。
そして相手のチームが入ってくる。
相手チームと対峙する。
見下している。負けるわけには行かない。
皆が配置につく。
ジャンプボールが放られる。
相手の4番が悠々とボールを味方に飛ばす。
相手のPGボールを保持すると蒼汰がディフェンスにつく。
相手のPGは様子を伺っていたが急にハイポストにボールを放る。
相手の4番がボールを受け取るとそのままダンクに持って行く。
ブロックに入った恭太が弾き飛ばされた。
「何人つこうが俺を止めることは不可能」
4番がそう言っている。
だが恭太はそんなこと構わず攻撃に切り替わる。
「祐樹!」
ボールを受け取った蒼汰は、ボールを祐樹にパスする。
速攻が決まる。
だけど相手は悠々と攻め込んでくる。
攻めは4番任せか。
また4番がカットインする。
4番にパスを出す7番。
だがそれをスティールする僕。
蒼汰が受け取ったのを確認するとすぐに相手陣に走る。
蒼汰のパスが飛ぶ。
すぐさま3Pを打つ。
決まった。
ゾーンディフェンスを展開する。
試合はこちらの思惑通りに運んでいった。
相手の攻撃を受けながらも自分たちは確実に点を取りに行く。
第1Q はこちらがリードして終わった。
「いいですよ、理想のゲーム展開です。もっと相手を焦らして4番にプレッシャーをかけてください」
監督が手短に指示を出す。
「いつもの必勝パターンに入ってます。打たれても3Pを決めるパターン。このままいければ勝てます」
佐倉さんも言う。
第2Qが始まる。
ゴール下には自信があるのだろう、そしてこっちの外からのシュート精度の恐ろしさを知らないのだろう。
僕に楽にボールが回ってくる。
それを容赦なく決める僕。
対して相手の攻撃もパターン化してきている。
スティールするには格好の餌食だ。
点差は広がる一方。
相手陣営がここにきて動き出す。
タイムアウト。
点差は二桁まで広がっていた。
タイムアウトが終ると攻撃が変わってきた。
相手もミドルレンジからシュートを打ち始めた。
外してもゴール下は4番がいるから問題ないと睨んだのだろう。
しかしディフェンスは変わらない。
まだ準決の方がきつかったくらいだ。
ノーマークで打たせてもらうなら遠慮なく。
監督も動く、最初のメンバーチェンジ。
祐樹と佐が入れ替わる。
徹底的に長距離で攻めろ。
そういう指示だろう。
徹底的に3Pを決めて点差を突き放す。
蒼汰も右に左にパスを散らして3Pを狙う。
速攻対遅攻。
ペースはうちが握ってる。
相手のディフェンスがようやく変わった。
「インは俺一人で十分だ!3Pを警戒しろ!」
相手の4番がそう言う。
挑発に乗ってやろうじゃないか。
僕はカットインする。
それを見て蒼汰がパスを出す。
パスを受け取ると跳躍する。
相手がブロックに跳ぶ。
それを躱してダンクを決める。
ディフェンスが外に広がったのならインを付け。
その言葉通りにインサイドを徹底的に狙う。
相手のディフェンスが中に固まってきたらまた3Pを狙う。
一方的な試合展開のまま第2Qを終わった。
(3)
「冬夜先輩まじすげーっす!」
晴斗君が興奮してる。
「相手チーム全然うちの大学ノーマークだっただろ?」
渡辺君が言う。
「まあ、弱小チームだったからね」
恵美が言う。
「ここまで来るともう大丈夫だな」
木元先輩がそう言うなら大丈夫なんだろうな。
「まだ油断は禁物だよ。次からは片桐君狙ってくるかも」
花菜がそう言う。でも大丈夫なんだよ。
「冬夜君はマークが一人ついたくらいで止められるものじゃない。二人でも止められない。それに気づいた時には相手はもう手遅れ。それが冬夜君のチームの勝ちパターンだから」
私が解説すると、皆が頷く。
恵美と渡辺君が電話をしている。
渡辺君が私に聞いてきた。
「遠坂さん達週末は空いてるか?」
「特に用はないけど?」
「じゃあ、大丈夫だな。祝勝会でも開いてやろう」
皆が盛り上がる。
恵美が電話を終えた。
「……成功したみたいよ。しっかり傍受出来たみたい」
「おお!」
誠君が驚いている。
「写真撮って、あらかじめ仕掛けておいた盗聴器で傍受して記録してあるらしいわ」
「盗聴器って……。席まで操作したのか?」
「店員に握らせてね。写真あるのだから楽勝だわ」
「先輩たちまじすげーっす!」
第3Qが始まる。
冬夜君には最初からダブルチームでついてきた。
しかし今の地元大学は冬夜君だけじゃない。
佐君だっている。
佐君がシュートを決める。
それに相手の4番が足に来てるようだ。
戻りが遅い。
監督は勝負に出たようだ。
水島君を下げ青山君を中に入れる。
容赦なくミドルレンジからシュートを決める青山君。
そしてディフェンスはオールコートプレスに切り替える。
相手の7番には冬夜君がつく。
冬夜君につかれた7番には可哀そうだけど、冬夜君はディフェンスも一流だよ。
時に8秒バイオレーションを取られ、そしてスティールされ。点差はますます広がる。
ダブルチームについたところで冬夜君のドライブは止められない。
そして冬夜君は練習で身につけた左腕を使った3Pを打つ。
両腕を使い分ける3Pシューターなんて反則だよ。
早い試合展開についてこれず明らかに4番がばててる。
そして、冬夜君がインサイドに切り込むとディフェンスが4枚つく。
冬夜君はそれをあざ笑うかのようにパスを出す。
吉良君にがパスを受け取るとそのままダンクを決める。
その速さに追いつけずファールをとられる相手4番。
「ファールと分かってて飛び込んでくるなよ、怪我するぜ」と、言う吉良君。
そのプレイにショックを受けた4番は精彩を欠き第4Qには5ファールをもらい退場。
主軸を失った福岡大は空中分解。
地元大の圧勝で幕を閉じた。
「やった!優勝だよ!!」
皆と喜びを分かち合う私達。
女バスの人も泣いている。
冬夜君達が観客席の前に来ると一礼する。
「おめでとう!」
皆で賛辞の言葉を送っていた。
歓喜の声が聞こえる。
そのまま表彰式に臨む選手達。
トロフィーを吉良君が受け取るとそれを高く掲げる。
アリーナは熱狂に包まれた。
(4)
「皆さんお疲れ様でした。よく40分戦いました」
東山監督が話をしている。
「皆さん本当におつかれさまでした」
佐倉さんは泣きながら話している。
「佐、慰めてやれよ」
蒼汰がそう言う。
「帰ったらそうするよ」
佐が言うと佐倉さんが顔を真っ赤にしてる。
「人の話を茶化さないでください!」
佐倉さんがそう言うとみんな笑った。
控室を出ると女バスと合流する。
「やったね!真司!」
「ありがとう夏美」
「蒼汰君もお疲れ様!」
「ありがとう茉里奈!」
「恭太……お疲れ様です」
「そっちもお疲れ様」
アリーナをでるとファンが詰めかけていた。
「片桐選手サインください!」
「俺にも!」
そんなファンを押しのけてくれたのがユニティの皆だった。
「早くバスに乗ってしまえ」
渡辺君がそう言うと皆バスに乗る。
それから、地元大学に帰る。
スマホが鳴っている。
見ると愛莉からだ。
「大学で待っているね」
「わかった」
そう言うと僕は疲れていたのだろう。バスの中で眠っていた。
目が覚めると夕暮れ時だった。
もうすぐ大学に着く。
大学に着くと今日はいったん解散となる。
バスを降りると「冬夜君」と愛莉の声がする。
声のする方に振り向くと愛莉が立っている。
「行ってやれ。今日は彼女に優しくしてやるんだろ?」
佐がそう言うと愛莉の元に駆け寄った。
「冬夜君~」
愛莉が僕に抱き着いてきた。
「一人で着たのか?危ないだろ」
「大丈夫だったよ~」
愛莉が木陰を指差すと黒いスーツの女性が立っていた。
「じゃ、帰ろうか?」
「今日は私が運転するからね」
「はいはい」
愛莉の運転で、家に帰ると親が出迎えてくれた。
「お疲れ、冬夜」
「今日はご馳走用意してあるから」
「祝杯もあげようじゃないか!遠坂さんのところも招待してあるから」
その日は宴会となった。
宴会が終わり、風呂に入ると部屋に戻る。
久々に戻って来たな。
ベッドに横になる。
そのまま眠りについたのだが……
ぽかっ
「今夜は構ってくれるって言ったよ」
そうだったね。
「愛莉おいで」
「うん」
愛莉もベッドの中に入る。
「お疲れ様でした~」
「ありがとう。愛莉も応援ありがとうな」
「ううん」
愛莉が抱きついて来てそれを受け止めて、愛莉の我儘を受け入れようとしたとき。
スマホの着信音が鳴る。
「明日にするっていてたのにな~」
愛莉が不満を言いながらスマホを手に取ると愛莉の動きがかたまった。
「冬夜君大変だよ!」
「どうした?」
愛莉はスマホを見せる。
「一ノ瀬さんから連絡来てないか。まだ帰ってないらしいんだが」
「連絡したの?」
「それが連絡つかなくて……」
「穂乃果どうしちゃったんだろう?」
愛莉の顔は青ざめている。
「大丈夫だよ。ちょっと帰りが遅くなっているだけ……」
またスマホが鳴る。
一ノ瀬さんからだ。
「取引がしたい。内容はいわなくてもわかってるよね」
一瞬時間が止まる。
震える愛莉を抱きしめる。
「期日は来週の日曜日。場所は追って連絡する。扱いはちゃんとしている案ずるな」
そう言って一枚の画像が送られていた。
軟禁されている一ノ瀬さんの画像。
僕のスマホの着信音が鳴る。
「冬夜!今すぐスマホ持ってファミレスに来てくれ。遠坂さんも一緒に!」
「期日は一週間ある、慌てることはないだろ?」
「自分で言ってただろ。『ミイラ取りがミイラになるな』って。一応俺のウィルス対策のアプリを入れておきたい」
「わかった!」
電話を切ると愛莉に伝える。
愛莉と僕は着替えて迎えを待つ。
恵美さんが迎えに来た。
「乗って!」
恵美さんの車に乗ると石原君は車を動かした。
「まさか一ノ瀬さんを狙ってくるとは思って無かったです」
石原君は言う。
「警察に言った方がいいんじゃない?」
「それやると色々まずいのよ、まずウィザードを要求してくるだろうし」
愛莉が言うと恵美さんが答えた。
ファミレスに着くと渡辺班全員集合という事態になっていた。
誠は僕達を見るとまずスマホを出すように提示する。
そして誠のアプリを入れるとウィルスチェックが入る。
どうやらまだ無事だったみたいだ。
「メッセージを使って入れてくるとおもったんだけどな」と誠が言う。
「これからどうするか相談したいんだが……」
渡辺君が言う。
「取引に応じるつもりは無いんでしょ?」
恵美さんが言う。
「しかし、一ノ瀬さんの身の安全も確保したい」
しかし恵美さんは言う。
「心配いらないわ。もう向こうの手の内は全部読めてる」
え?
「今日は遅いわ。片桐君もつかれてるだろうし。明日にしましょう。そうね、またファミレスでいいかしら」
「いいけど、一ノ瀬さん大丈夫なの?」
僕が恵美さんに聞いていた。
「言ったでしょ。相手の手の内は読めてるって。手荒な真似はまずしないわ。遅くても明後日迄には片をつける」
「俺からもお願いします。穂乃果を助けてやってください」
中島君が頭を下げる。
「心配しないで。どこに軟禁してるかも把握してるから」
へ?
「私達が兵隊を送り込めばすぐに助けられる」
晶さんも言う。
「じゃあ、なんですぐしないの?」
僕は当然の事を聞いていた。
「こっちの手を明かしたくない。時が来るまで。一ノ瀬さんには可哀そうだけど」
「言うでしょ『切り札を先に見せるな、見せるならさらに奥の手をを持て』と」
恵美さんと晶さんが言う。
「相手のウォーロックてのも大したこと無いな。こっちのアカウント使ってハッキングくらいしてくるかと思ったけど何の形跡もない」
「それって単に痕跡消してるだけじゃないのか?」
誠に聞いてみた。
「それはないな。うちのサーバーのセキュリティには特徴があってな。ある程度までは侵入できるようになってるんだ」
だめじゃんそれ。
「その代わりアクセスログを自動で追跡するシステムになっていてな。そして次の防壁に着く前に大体の権限をはく奪するようになってるんだ」
……お前どれだけ勉強したんだよ。
「あとはトロイの木馬を自動で侵入させたりな」
「誠君の記録してあるアクセスログとやらを追跡してエゴイストの連中の規模は大体把握してる。もう丸裸よ。あとやることはそうね……ゴッドの正体を公然の場に引きずり出す事なんだけど……」
「なんか問題あるの?」
僕は恵美さんに聞いた。
「逆よ。今日ちゃんと把握してきた。証拠もとってある。その実態が面白くてね。それはまた明日話すわ」
「じゃあ、明日この時間にファミレスで。皆一人で行動は止めてくれ!晴斗も白鳥さんきっちり送り届けろよ!」
「了解っす!」
「向こうはついになりふり構わなくなってきた。ここからが勝負だ!」
「おお!」
そうして今日は。解散となった。
「恵美、本当に穂乃果大丈夫なの?」
愛莉が心配している。
「大丈夫よ。こっちに交渉の意思があるかを確かめている段階だもの。手荒には使わないわ」
「そっか~」
「明日また詳しく話するから」
そう言うと僕達を家に送り届けて。帰っていった。
鍵を開けドアに入ろうとした時妙な気配がした。
咄嗟に愛莉を玄関に押し込みドアを閉める。
パシャッ!
フラッシュがたかれるのが分かった。
カメラを持った男が車に乗り込む寸前を取り押さえる。
「冬夜君!?」
「愛莉は出てきたら駄目だ!父さんを呼んで!」
「分かった!」
父さんが出てくる。
「どうした冬夜!なんだその男は!?」
父さんに男が持っていたカメラを渡す。
「それに愛莉の姿が映ってないか確認して」
父さんはカメラを操作すると首を振る。
「大丈夫だ映ってない」
「一応ファイル全削除して」
父さんはカメラを操作し全削除する。
「お前もエゴイストか!?」
「俺はただのボーンだ!」
「そんなの知るか!父さん警察に電話!」
「分かった」
父さんは母さんに警察を呼ぶように指示する。
「で、何者なんだ?エゴイストって」
「僕達と敵対している組織だよ」
「お前また厄介ごとに巻き込まれているのか?」
「詳しくは警察が来てから話すよ」
直ぐにパトカーの音がする。
僕も警察署に出頭し調書を取らされる。
帰ったのは明け方頃だった。
「冬夜君、少し寝た方がいいよ」
「いや、このまま起きとくよ。今日から学校だろ?その代わりジョギングは勘弁してくれ」
「わかった~、でも無理しちゃだめだよ」
「わかってる」
エゴイストはなりふり構わなくなってきたのは本当のようだ。
本当の意味での歓喜の歌を聞くにはまだ時間がかかりそうだ。
スマホの着信音が鳴る。
「愛莉?」
「うん、冬夜君おはよう」
時計を見る、随分早いな?
「今どこにいるの?」
「これから石原君たちと一緒に向かうところだよ」
「愛莉試合時間伝えたよね?」
ちょっと早くないか?
「試合前に会えないかなと思って……ダメだった?」
「大丈夫だけどどうしたの?」
「冬夜君におまじないかけてあげようと思って」
「おまじない?」
「うん、昨夜急ごしらえで作ったの!」
「ありがとう。じゃ、着いたら電話するね」
「ああ、わかった。またね」
電話を切ると佐(たすく)が起きていた。
「毎日優しい彼女だな」
「まあね」
「こんなやりとりも今日で最後か」
「最後じゃないさ。まだリーグ戦残ってる。来年だってあるし」
「そうだな……」
スマホの着信音が鳴る。
「いつまでゆっくりしてるんですか!早くしないと朝食の時間終わっちゃいますよ」
佐倉さんからのメッセージだった。
「急ぐとしますか?」
「そうだね」
レストランに来た。
料理を選んで取ってテーブルにつく。
テーブルには佐倉さんがいた。
佐倉さんは佐に腕を出すように言う。
佐は腕を出すと腕に何かをくくっている。
ミサンガだ。
「今日の必勝祈願です」
「さんきゅー」
よく見ると他の選手も皆ミサンガをつけてある。
「佐倉さん、僕の分は?」
「無いですよ?」
当然の様に言う佐倉さん。
「僕だけないの?」
「そりゃそうですよ?あ、ちなみに赤井先輩と藤間先輩、吉良先輩もないですよ」
「え、でもつけてたよ?」
「それは……それぞれの彼女さんがつけてくれたんでしょ?」
あ、朝のおまじないってそういう事か。
「なるほどね……」
「納得したら早くご飯食べて準備してください。今日くらい女子の応援してあげてもいいでしょ!」
「それもそうだな」
女バスは毎試合見に来てくれてたな。
最後くらい見ておくか。
会場につくと試合はもう始まっていた。
最初からの猛攻。そして強気のディフェンス。
「あのディフェンスを40分続けられたら日本一になれるでしょう」
正にその状態が今あった。
第1Qを一桁失点に抑えるディフェンス。
そしてスティールからの流れるような速攻。速攻を防がれた時の戦術。
一方的な展開が続いていた。
それを見ている僕達。
「あんなの相手に練習してたんだな」
真司が言う。
「確かに今更ながら凄いよね。女バス」
「そんな奴らに練習してたんだ。俺達が負けるはずがない。自信もっていこう!」
真司が言うと皆うなずく。
そんな時「冬夜君~いたいた」と愛莉の声がする。
「久しぶりだね~」
「元気だったか?他の皆は?」
「席取ってるって」
「そうか」
「冬夜君腕出して」
はいはい、ミサンガでしょ?分かってるよ……ってめちゃ太い!
「愛莉これじゃ切れないよ」
負けろっていうのか?
「だって冬夜君の目標はこの大会じゃないでしょ?」
「まあそうだけど」
「じゃあそんな簡単に切れたら困ると思って太くしてみた♪」
「こりゃ冬夜の願い事はそう簡単に敵わないな」
佐が見て笑っていた。
(2)
控室に入る。
僕はいつも通りイメージをする。
が、皆は少なからず緊張しているようだ。
勝てば優勝。
負ければ準優勝。
どうせなら優勝したい。
そんな思いが皆を固くする。
ムードメーカーの蒼汰も今日は口数が少ない。
この空気で試合に臨むのは良くない。
どうやって緊張をほぐしたらいいものか?
佐倉さんですら緊張している。
「みんな、負けても準優勝だよ。胸張って帰れるよ。よくここまで来たよ」
「ちょっと片桐先輩、縁起でもないこと言わないで!」
佐倉さんが言う。
「冬夜、今から負ける事考えるなよ」
真司もいく。
「みんな固くなってる。これじゃ負けるよ」
そう言うと皆がますます強張る。
「……イメージして。コートの中で試合してる自分たちの姿を、相手がどういうプレイをしてくるかを」
僕がそう言うと皆イメージする。
「勝って喜びを分かち合う自分たちを想像して」
皆がイメージしているようだ。シーンと静まり返る。
「インサイドで多少やられても僕が得点を重ねていく、いつもの必勝パターンだ」
皆の中でイメージ出来たのだろうか?
「蒼汰、この大会で成長したよ。昨日みたいに強気で皆でリードして」
蒼汰が頷く。
「真司と恭太。もううちのインサイドは弱いとは言わせない。相手のセンターに十分対抗できる。真司のアリウープで試合を決めてやれ」
2人が頷く。
「僕と祐樹が相手のディフェンスを引っ掻き回す。インサイドは自ずとばらけるよ。2対1なら負けっこないて。
祐樹が僕を見る。
「相手がどんな攻撃をしてこようと関係ない。いつも通り打ち合いに持って行けばうちの有利だ」
「そう言える根拠は?」
佐が言う。
「相手は格下相手と思ってうちを舐めてかかってるくるはず。最初に3P決めればうちが有利になる。僕は2人を信じて3Pを躊躇わず打つよ」
「プレッシャーかけてくるな」
恭太が笑う。それを見て僕は満足する。
「それでいいんだ。弱気になったら佐に変えられるよ?佐はオールラウンダーなんだから」
「藤間先輩、勝ったら2次会付きですよ」
佐倉さんがようやく口を開く。
みんな笑ってる。
「マネージャーから許可が出たんだ!来週金曜の夜は派手に遊ぼうぜ!」
真司が言う。
「もう大丈夫だね」
僕が言うと皆が頷く。
「女バス優勝しました!」
一年がやってくる。
「じゃ、お祝いに行こうか?」
皆控室を出る。
「片桐先輩ありがとうございます。私もどう声をかけていいのか分からなくて」
「いつも通り冷静な指示頼んだよ」
「はい!」
通路を歩いていると女バスと出会う。
「真司、ここまで来たらアベック優勝だからね!」
「分かってる」
「蒼汰君。頑張っていつも通りでいいんだから」
「了解っス」
「恭太さん、いつもの強気なプレイで皆を支えてください」
「ああ」
「みんな!蒼汰の為にも勝って女バスと合コンと行こう」
「よっしゃあ!燃えてきた!」
蒼汰が叫ぶとみんな笑っていた。
コートに入ると福岡大が練習している。
余裕の雰囲気を出している。
なにか宣戦布告をしてやりたいものだが。
すると蒼汰がボールを持つと「真司!」といってボールをゴール前に放り投げる。
意図を察知したのか真司が空中でパスを受け取りアリウープを決める。
会場が湧く。
そのボールを受け取った恭太が僕にパスを送る。
ボールを受け取るとフリースローラインからジャンプしダンクを決める。
味方のブースターが湧く。
そうして練習を終える。
「皆さんここは通過点ですよ。ゴールはリーグ制覇です」
「うっす!」
「もうみんなに言う事はありません。自分たちのバスケが出来れば勝てるはずです。片桐君のワンマンプレイとは言わせません。自信をもってください」
「インサイドが弱いとも言わせません。大丈夫です。自分を信じてください」
東山監督と佐倉さんが言うとみんなが円陣を組む。
「勝って美味い酒飲もうぜ!」
「蒼汰の為にも勝つぞ!」
「容赦なくパス出しますからね!受け取れないなら交代っすよ」
「分かってるよ」
「んじゃ勝ってくるか」
「っしゃあ!」
皆で気合を入れると一人ずつ呼ばれていく。
先に呼ばれる僕達。
そして相手のチームが入ってくる。
相手チームと対峙する。
見下している。負けるわけには行かない。
皆が配置につく。
ジャンプボールが放られる。
相手の4番が悠々とボールを味方に飛ばす。
相手のPGボールを保持すると蒼汰がディフェンスにつく。
相手のPGは様子を伺っていたが急にハイポストにボールを放る。
相手の4番がボールを受け取るとそのままダンクに持って行く。
ブロックに入った恭太が弾き飛ばされた。
「何人つこうが俺を止めることは不可能」
4番がそう言っている。
だが恭太はそんなこと構わず攻撃に切り替わる。
「祐樹!」
ボールを受け取った蒼汰は、ボールを祐樹にパスする。
速攻が決まる。
だけど相手は悠々と攻め込んでくる。
攻めは4番任せか。
また4番がカットインする。
4番にパスを出す7番。
だがそれをスティールする僕。
蒼汰が受け取ったのを確認するとすぐに相手陣に走る。
蒼汰のパスが飛ぶ。
すぐさま3Pを打つ。
決まった。
ゾーンディフェンスを展開する。
試合はこちらの思惑通りに運んでいった。
相手の攻撃を受けながらも自分たちは確実に点を取りに行く。
第1Q はこちらがリードして終わった。
「いいですよ、理想のゲーム展開です。もっと相手を焦らして4番にプレッシャーをかけてください」
監督が手短に指示を出す。
「いつもの必勝パターンに入ってます。打たれても3Pを決めるパターン。このままいければ勝てます」
佐倉さんも言う。
第2Qが始まる。
ゴール下には自信があるのだろう、そしてこっちの外からのシュート精度の恐ろしさを知らないのだろう。
僕に楽にボールが回ってくる。
それを容赦なく決める僕。
対して相手の攻撃もパターン化してきている。
スティールするには格好の餌食だ。
点差は広がる一方。
相手陣営がここにきて動き出す。
タイムアウト。
点差は二桁まで広がっていた。
タイムアウトが終ると攻撃が変わってきた。
相手もミドルレンジからシュートを打ち始めた。
外してもゴール下は4番がいるから問題ないと睨んだのだろう。
しかしディフェンスは変わらない。
まだ準決の方がきつかったくらいだ。
ノーマークで打たせてもらうなら遠慮なく。
監督も動く、最初のメンバーチェンジ。
祐樹と佐が入れ替わる。
徹底的に長距離で攻めろ。
そういう指示だろう。
徹底的に3Pを決めて点差を突き放す。
蒼汰も右に左にパスを散らして3Pを狙う。
速攻対遅攻。
ペースはうちが握ってる。
相手のディフェンスがようやく変わった。
「インは俺一人で十分だ!3Pを警戒しろ!」
相手の4番がそう言う。
挑発に乗ってやろうじゃないか。
僕はカットインする。
それを見て蒼汰がパスを出す。
パスを受け取ると跳躍する。
相手がブロックに跳ぶ。
それを躱してダンクを決める。
ディフェンスが外に広がったのならインを付け。
その言葉通りにインサイドを徹底的に狙う。
相手のディフェンスが中に固まってきたらまた3Pを狙う。
一方的な試合展開のまま第2Qを終わった。
(3)
「冬夜先輩まじすげーっす!」
晴斗君が興奮してる。
「相手チーム全然うちの大学ノーマークだっただろ?」
渡辺君が言う。
「まあ、弱小チームだったからね」
恵美が言う。
「ここまで来るともう大丈夫だな」
木元先輩がそう言うなら大丈夫なんだろうな。
「まだ油断は禁物だよ。次からは片桐君狙ってくるかも」
花菜がそう言う。でも大丈夫なんだよ。
「冬夜君はマークが一人ついたくらいで止められるものじゃない。二人でも止められない。それに気づいた時には相手はもう手遅れ。それが冬夜君のチームの勝ちパターンだから」
私が解説すると、皆が頷く。
恵美と渡辺君が電話をしている。
渡辺君が私に聞いてきた。
「遠坂さん達週末は空いてるか?」
「特に用はないけど?」
「じゃあ、大丈夫だな。祝勝会でも開いてやろう」
皆が盛り上がる。
恵美が電話を終えた。
「……成功したみたいよ。しっかり傍受出来たみたい」
「おお!」
誠君が驚いている。
「写真撮って、あらかじめ仕掛けておいた盗聴器で傍受して記録してあるらしいわ」
「盗聴器って……。席まで操作したのか?」
「店員に握らせてね。写真あるのだから楽勝だわ」
「先輩たちまじすげーっす!」
第3Qが始まる。
冬夜君には最初からダブルチームでついてきた。
しかし今の地元大学は冬夜君だけじゃない。
佐君だっている。
佐君がシュートを決める。
それに相手の4番が足に来てるようだ。
戻りが遅い。
監督は勝負に出たようだ。
水島君を下げ青山君を中に入れる。
容赦なくミドルレンジからシュートを決める青山君。
そしてディフェンスはオールコートプレスに切り替える。
相手の7番には冬夜君がつく。
冬夜君につかれた7番には可哀そうだけど、冬夜君はディフェンスも一流だよ。
時に8秒バイオレーションを取られ、そしてスティールされ。点差はますます広がる。
ダブルチームについたところで冬夜君のドライブは止められない。
そして冬夜君は練習で身につけた左腕を使った3Pを打つ。
両腕を使い分ける3Pシューターなんて反則だよ。
早い試合展開についてこれず明らかに4番がばててる。
そして、冬夜君がインサイドに切り込むとディフェンスが4枚つく。
冬夜君はそれをあざ笑うかのようにパスを出す。
吉良君にがパスを受け取るとそのままダンクを決める。
その速さに追いつけずファールをとられる相手4番。
「ファールと分かってて飛び込んでくるなよ、怪我するぜ」と、言う吉良君。
そのプレイにショックを受けた4番は精彩を欠き第4Qには5ファールをもらい退場。
主軸を失った福岡大は空中分解。
地元大の圧勝で幕を閉じた。
「やった!優勝だよ!!」
皆と喜びを分かち合う私達。
女バスの人も泣いている。
冬夜君達が観客席の前に来ると一礼する。
「おめでとう!」
皆で賛辞の言葉を送っていた。
歓喜の声が聞こえる。
そのまま表彰式に臨む選手達。
トロフィーを吉良君が受け取るとそれを高く掲げる。
アリーナは熱狂に包まれた。
(4)
「皆さんお疲れ様でした。よく40分戦いました」
東山監督が話をしている。
「皆さん本当におつかれさまでした」
佐倉さんは泣きながら話している。
「佐、慰めてやれよ」
蒼汰がそう言う。
「帰ったらそうするよ」
佐が言うと佐倉さんが顔を真っ赤にしてる。
「人の話を茶化さないでください!」
佐倉さんがそう言うとみんな笑った。
控室を出ると女バスと合流する。
「やったね!真司!」
「ありがとう夏美」
「蒼汰君もお疲れ様!」
「ありがとう茉里奈!」
「恭太……お疲れ様です」
「そっちもお疲れ様」
アリーナをでるとファンが詰めかけていた。
「片桐選手サインください!」
「俺にも!」
そんなファンを押しのけてくれたのがユニティの皆だった。
「早くバスに乗ってしまえ」
渡辺君がそう言うと皆バスに乗る。
それから、地元大学に帰る。
スマホが鳴っている。
見ると愛莉からだ。
「大学で待っているね」
「わかった」
そう言うと僕は疲れていたのだろう。バスの中で眠っていた。
目が覚めると夕暮れ時だった。
もうすぐ大学に着く。
大学に着くと今日はいったん解散となる。
バスを降りると「冬夜君」と愛莉の声がする。
声のする方に振り向くと愛莉が立っている。
「行ってやれ。今日は彼女に優しくしてやるんだろ?」
佐がそう言うと愛莉の元に駆け寄った。
「冬夜君~」
愛莉が僕に抱き着いてきた。
「一人で着たのか?危ないだろ」
「大丈夫だったよ~」
愛莉が木陰を指差すと黒いスーツの女性が立っていた。
「じゃ、帰ろうか?」
「今日は私が運転するからね」
「はいはい」
愛莉の運転で、家に帰ると親が出迎えてくれた。
「お疲れ、冬夜」
「今日はご馳走用意してあるから」
「祝杯もあげようじゃないか!遠坂さんのところも招待してあるから」
その日は宴会となった。
宴会が終わり、風呂に入ると部屋に戻る。
久々に戻って来たな。
ベッドに横になる。
そのまま眠りについたのだが……
ぽかっ
「今夜は構ってくれるって言ったよ」
そうだったね。
「愛莉おいで」
「うん」
愛莉もベッドの中に入る。
「お疲れ様でした~」
「ありがとう。愛莉も応援ありがとうな」
「ううん」
愛莉が抱きついて来てそれを受け止めて、愛莉の我儘を受け入れようとしたとき。
スマホの着信音が鳴る。
「明日にするっていてたのにな~」
愛莉が不満を言いながらスマホを手に取ると愛莉の動きがかたまった。
「冬夜君大変だよ!」
「どうした?」
愛莉はスマホを見せる。
「一ノ瀬さんから連絡来てないか。まだ帰ってないらしいんだが」
「連絡したの?」
「それが連絡つかなくて……」
「穂乃果どうしちゃったんだろう?」
愛莉の顔は青ざめている。
「大丈夫だよ。ちょっと帰りが遅くなっているだけ……」
またスマホが鳴る。
一ノ瀬さんからだ。
「取引がしたい。内容はいわなくてもわかってるよね」
一瞬時間が止まる。
震える愛莉を抱きしめる。
「期日は来週の日曜日。場所は追って連絡する。扱いはちゃんとしている案ずるな」
そう言って一枚の画像が送られていた。
軟禁されている一ノ瀬さんの画像。
僕のスマホの着信音が鳴る。
「冬夜!今すぐスマホ持ってファミレスに来てくれ。遠坂さんも一緒に!」
「期日は一週間ある、慌てることはないだろ?」
「自分で言ってただろ。『ミイラ取りがミイラになるな』って。一応俺のウィルス対策のアプリを入れておきたい」
「わかった!」
電話を切ると愛莉に伝える。
愛莉と僕は着替えて迎えを待つ。
恵美さんが迎えに来た。
「乗って!」
恵美さんの車に乗ると石原君は車を動かした。
「まさか一ノ瀬さんを狙ってくるとは思って無かったです」
石原君は言う。
「警察に言った方がいいんじゃない?」
「それやると色々まずいのよ、まずウィザードを要求してくるだろうし」
愛莉が言うと恵美さんが答えた。
ファミレスに着くと渡辺班全員集合という事態になっていた。
誠は僕達を見るとまずスマホを出すように提示する。
そして誠のアプリを入れるとウィルスチェックが入る。
どうやらまだ無事だったみたいだ。
「メッセージを使って入れてくるとおもったんだけどな」と誠が言う。
「これからどうするか相談したいんだが……」
渡辺君が言う。
「取引に応じるつもりは無いんでしょ?」
恵美さんが言う。
「しかし、一ノ瀬さんの身の安全も確保したい」
しかし恵美さんは言う。
「心配いらないわ。もう向こうの手の内は全部読めてる」
え?
「今日は遅いわ。片桐君もつかれてるだろうし。明日にしましょう。そうね、またファミレスでいいかしら」
「いいけど、一ノ瀬さん大丈夫なの?」
僕が恵美さんに聞いていた。
「言ったでしょ。相手の手の内は読めてるって。手荒な真似はまずしないわ。遅くても明後日迄には片をつける」
「俺からもお願いします。穂乃果を助けてやってください」
中島君が頭を下げる。
「心配しないで。どこに軟禁してるかも把握してるから」
へ?
「私達が兵隊を送り込めばすぐに助けられる」
晶さんも言う。
「じゃあ、なんですぐしないの?」
僕は当然の事を聞いていた。
「こっちの手を明かしたくない。時が来るまで。一ノ瀬さんには可哀そうだけど」
「言うでしょ『切り札を先に見せるな、見せるならさらに奥の手をを持て』と」
恵美さんと晶さんが言う。
「相手のウォーロックてのも大したこと無いな。こっちのアカウント使ってハッキングくらいしてくるかと思ったけど何の形跡もない」
「それって単に痕跡消してるだけじゃないのか?」
誠に聞いてみた。
「それはないな。うちのサーバーのセキュリティには特徴があってな。ある程度までは侵入できるようになってるんだ」
だめじゃんそれ。
「その代わりアクセスログを自動で追跡するシステムになっていてな。そして次の防壁に着く前に大体の権限をはく奪するようになってるんだ」
……お前どれだけ勉強したんだよ。
「あとはトロイの木馬を自動で侵入させたりな」
「誠君の記録してあるアクセスログとやらを追跡してエゴイストの連中の規模は大体把握してる。もう丸裸よ。あとやることはそうね……ゴッドの正体を公然の場に引きずり出す事なんだけど……」
「なんか問題あるの?」
僕は恵美さんに聞いた。
「逆よ。今日ちゃんと把握してきた。証拠もとってある。その実態が面白くてね。それはまた明日話すわ」
「じゃあ、明日この時間にファミレスで。皆一人で行動は止めてくれ!晴斗も白鳥さんきっちり送り届けろよ!」
「了解っす!」
「向こうはついになりふり構わなくなってきた。ここからが勝負だ!」
「おお!」
そうして今日は。解散となった。
「恵美、本当に穂乃果大丈夫なの?」
愛莉が心配している。
「大丈夫よ。こっちに交渉の意思があるかを確かめている段階だもの。手荒には使わないわ」
「そっか~」
「明日また詳しく話するから」
そう言うと僕達を家に送り届けて。帰っていった。
鍵を開けドアに入ろうとした時妙な気配がした。
咄嗟に愛莉を玄関に押し込みドアを閉める。
パシャッ!
フラッシュがたかれるのが分かった。
カメラを持った男が車に乗り込む寸前を取り押さえる。
「冬夜君!?」
「愛莉は出てきたら駄目だ!父さんを呼んで!」
「分かった!」
父さんが出てくる。
「どうした冬夜!なんだその男は!?」
父さんに男が持っていたカメラを渡す。
「それに愛莉の姿が映ってないか確認して」
父さんはカメラを操作すると首を振る。
「大丈夫だ映ってない」
「一応ファイル全削除して」
父さんはカメラを操作し全削除する。
「お前もエゴイストか!?」
「俺はただのボーンだ!」
「そんなの知るか!父さん警察に電話!」
「分かった」
父さんは母さんに警察を呼ぶように指示する。
「で、何者なんだ?エゴイストって」
「僕達と敵対している組織だよ」
「お前また厄介ごとに巻き込まれているのか?」
「詳しくは警察が来てから話すよ」
直ぐにパトカーの音がする。
僕も警察署に出頭し調書を取らされる。
帰ったのは明け方頃だった。
「冬夜君、少し寝た方がいいよ」
「いや、このまま起きとくよ。今日から学校だろ?その代わりジョギングは勘弁してくれ」
「わかった~、でも無理しちゃだめだよ」
「わかってる」
エゴイストはなりふり構わなくなってきたのは本当のようだ。
本当の意味での歓喜の歌を聞くにはまだ時間がかかりそうだ。
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