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4thSEASON
隠者
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(1)
「それじゃ檜山先輩おめでとう!乾杯!!」
今日は檜山先輩の地元銀行への内々定が決まったお祝いの席。
父親とも仲直りして咲良さんとの交際も認めてもらえたらしい。
「皆のお蔭だよ、ありがとう。特に深雪さん」
「医者として当然の務めを果たしたまでよ」
私の経歴を飾ることもできるしね。と一言添える深雪さん。
「企業に医者に銀行ってユニティに敵なしだな!」
美嘉さんがそう言うと、皆盛り上がる。
そう、ここまでは順調だった。
色々トラブルがあったけど。
大事には至らずに済んだ。
でもここから先は冗談ではすまされない。
完全な戦争。
そんな事に皆を巻き込んでいいのか?
僕と愛莉は悩んでいた。
「ところで片桐君たちはさっきから浮かない顔してるけどなにかあったわけ?」
恵美さんが聞いた。
「な、なんでもないよ。ちょっと考え事してるだけ」
「また喧嘩?」
「そんなんじゃないよ。私達ずっとラブラブだよ~」
愛莉はそう言って僕の腕にしがみつくが笑顔が固い。
「お前たちの隠し事なんてろくな事じゃないんだから話せよ」
カンナが言うと皆黙る。
そうだよな、黙っていてもどうせみんな進むんだろうし言ってブレーキになるなら止めよう。
僕と愛莉でなんとかしよう。
たった二人きりの戦争。
今まで経験したこと無いけど。
愛莉とならどんな事だって乗り越えられる。
たった一人で、いや一人じゃないけど大群に立ち向かう勇者ってこういう気分なんだろうか?
「さっきからトーヤ黙ってるけど本当にどうしたんだ?」
「まじっすよ、冬夜先輩なんか顔が怖いっす。どうしたんすか?」
カンナと晴斗が言う。
返す言葉がみつからない。
「冬夜君もさ、そんな顔してないでとりあえずご飯食べよ?ご馳走沢山だよ~」
愛莉が上手く誤魔化してくれた。
「愛莉が食べて良いって言うんだったら一杯食べようかな」
「うんうん、今日のところは忘れて食べて盛り上がろうよ」
2人でうまく誤魔化したつもりだったが、カンナは誤魔化せなかったようだ。
「とりあえず?今日のところは忘れて?……お前ら二人で何隠してる?」
「べ、別に隠しごとなんかないよ。ねえ、冬夜君?」
「あ、ああ何も無いよな?愛莉」
「ふざけるな!何隠してる!?白状するまで今日は帰さないからな!」
カンナが立ち上がる。
「神奈。他のお客さんに迷惑だよ。それに今日は折角のお祝いの席だよ?」
愛莉が宥めるもカンナは下がらない。
「折角のお祝いの席をダメにしてるの誰だよ!」
「神奈落ち着こう。これじゃ話にならない」
誠もカンナを宥める。
「いや、私も神奈に賛成だね。この二人絶対隠し事してる!」
「私も神奈ちゃんに賛成。二人が白状するまで絶対帰さないわよ」
美嘉さんと恵美さんの剣幕に押される愛莉。
「冬夜君~どうしよう?」
愛莉は僕の腕を掴む。
そんな事を今言ったら。
「どうしよう?って事はやっぱり何かあるんだな!?」
「皆落ち着こう、二人もこんな状況じゃ話せることも話せやしない」
渡辺君が援護してくれた。
「この二人の隠し事はろくな事じゃない!」
「だから話す場を作ってやったほうがいい」
そんな意見が飛び交う中椎名さんが言った一言。
「高橋グループの核心を掴んだとか?」
「ち、違いますよ……」
愛莉が明かに動揺してる。
「当たっていたみたいだね?」
椎名さんがにやりと笑う。
「そうなのかトーヤ!?だったら隠すことないだろ!」
「そうよ片桐君どうして黙ってたの?」
「それは……」
「……皆の将来を台無しにしてしまうから……かな?」
「う、うぅ……」
愛莉の反応を見て満足する椎名さん。
「冬夜、もうそこまでバレたんだ。腹を割って話そう。皆のユニティだ。二人で抱え込む問題ではないと思うがな?」
渡辺君が言う。
やっぱり言うしかないか……。
「分かった話すよ。ただしここじゃ駄目だ。人目を集めてしまった。誰に聞かれてるか分からない状態で話せない」
「今なら酔っ払いが何か騒いでるで済むと思うけど?」
聡美さんが言う。
「誰に見られてるか分からない状態で話していい話題じゃない」
僕が言う。
「じゃ、2次会のカラオケの時でもいいか?」
「カラオケは危険だって誠が……」
「何のために俺が毎回ノートPC持ってると思ってるんだよ!?盗聴対策くらいしてやるぜ!」
誠がそう言った。
「……分かった。じゃあ、カラオケで。それと……」
誠と渡辺君と恵美さんを集めてひそひそと概要を話す。
「そういうことか……わかった」
「なるほどな……良く分かった」
「それだと確かにここじゃ危険ね」
3人は納得してくれたみたいだ。
「じゃ、ひとまず盛り上がろう!」
渡辺君が仕切りなおす。
皆は盛り上がっていた。
僕も食べるだけ食べた。
さすがに酔う気にはなれなかった。
軽口で喋ってしまうかもしれないと思ったから。
(2)
2次会のカラオケで。
「大丈夫だ。カメラは乗っ取った」
簡単にとんでもない事を言うようになったな。誠。
「盗聴器の類もついてないようです」
石原君が言う。いつもそんなの持ち歩いてるの?
「じゃあ、話を聞こうか。その前に俺から一言言わせてくれ」
渡辺君が言うと皆静まった。
「これから冬夜が話す事は恐らく皆の生活を危険に晒す事になる。それでも構わないと本気で思った奴だけ残ってくれ。ヤバいと思った奴は咎めはしない。悪いが席を外してくれ」
渡辺君が言うと皆考え込む。
「俺たちは構いませんよ。片桐先輩に作ってもらった未来だ。この先も片桐先輩に預ける」と西松君は言う。
「俺達もだな。ユニティと一連拓生だ」と檜山先輩も言う。
皆ユニティに未来を預ける選択をしたようだ。
皆の顔を見る。
皆は僕の空気を察したのかシーンと静まり返っている。
「じゃあ、最初に僕と愛莉の父さんについてなんだけど……」
僕は静かに話を始めた。
僕と愛莉の父親の事。高橋グループの存在。その根底を覆すファイル「フリージア」の事。あの夜知ったこと全てを話した。
最初は興味深そうに聞いていた皆もざわつきだす。
「さ、さすがにそれはヘビーすぎやしませんか?」と酒井君が言うと「このくらいの事でだらしない!」と晶さんが言う。
さすがに手を引いた方がいいんじゃという者と断固戦うべきだという者に別れた。
渡辺君は静かに最後まで聞いていた。
ユニティの行動は渡辺君が決めると言っていたな。
「渡辺君はどう思う?」
僕は渡辺君に聞いてみた。
「お前はどうしようと思っていたんだ?」
「皆に話すべきかどうか悩んだ」
「皆が手を引くと言ったらどうするつもりだったんだ?」
「……愛莉と二人でどうにかするつもりだった」
「見損なったぞトーヤ!!」
カンナが叫ぶ。
「私達がそんな事でお前を見捨てるような関係だと思ってたのかよ!ふざけるな!」
「神奈の言う通りだそんな薄情な奴ユニティにはいねーぞ」
「美嘉たちはちょっと静かにしていてくれ」
渡辺君が2人を制する。
「俺も同感だな。そもそも二人でどうするつもりだったんだ?相手は警察も牛耳る存在なんだろ?」
「それは2人で考えようって……」
「遠坂さんそれは違うだろう?俺たちは冬夜のお蔭で集まった。冬夜に世話になりっぱなしの存在だ。こういう時に頼ってくれなくていつ頼ってくれるんだ?」
「そうよ、愛莉ちゃん、そういう事なら私達の得意分野。餅は餅屋にまかせろっていうでしょ?」
「恵美……」
「馬鹿ね、片桐君と愛莉ちゃんだけで抱え込む問題じゃないわ。そもそも喧嘩を吹っ掛けられたのはユニティなんだし」
恵美さんは愛莉の頭を撫でる。
「よしっ決めた!ここが正念場だよ!これさえ乗り切ればエゴイストなんて怖くない!」
亜依さんが言う。
「と、言うわけだ冬夜。皆で対策を練っていこう」
「みんな、ありがとう……」
僕が礼を言う。
「礼はこっちが言う方ですよ」と皆が言う。
「じゃあ、まずはフリージアってファイルだな?冬夜は中身見たのか?」
渡辺君が言う。
「いや、PCに接続すらしてない」
「それ今持ってるのか?」
誠が言うと僕は首にぶら下げていたストラップを誠に渡す。
「ファイルのパスワードが『Freesia』だ……」
「分かった」
誠が自分のノートPCに挿すとファイルを開く。
中味は、まさに高橋グループの全容をしめすものだった。過去の汚職事件から謎の要人失踪の事件までどこまでも深く関わっている。
「こいつは……すごいな」
渡辺君も言葉を失うほどの膨大な量のファイル。父さん達の血と汗のファイルだ。
「次の問題はこれをどうするかだな?」
渡辺君が言う。
「ネットに流せばいいんじゃね?」
桐谷君が言う。
「この馬鹿、そんなのすぐに削除されるに決まってるでしょ!」
亜依さんが言う。
「どこに出すかもだけど使用する時期も誤ってはいけない。こういう人達って事前に察知して別のスキャンダルを用意して有耶無耶にしてしまうプロだから」
白鳥さんが言う。
誠はUSBメモリを引き抜くと僕に渡す。
「もしもの時だ。お前が持っておけ。いざとなったらまたどこかに隠しておくんだ。おじさんに返しておいてもいい」
「コピーしたのか?」
「俺のPCが一番安全な保管場所なんだぜ」と誠は言う。
「敵が高橋グループだと分かった。相手の概要も大体把握できた。次は相手の手札だ」
「警察と地元新聞はだめなのよね?地元テレビ局もか」
「高橋憲伸か……どうにかなるかもよ……」
晶さんが言う。
「どういう事だ?晶さん」
渡辺君が聞く。
「高橋憲伸って神部派の末端でしょ?関幹事長とは敵対関係にある」
神部派と関派の対立はニュースでよく見る。
「うちのお爺様と関さんは昔酒を酌み交わした仲でね……」
皆唖然とした。なんかとんでもない世界に入り込んだ気がする。
「神部派を押さえるのも手ね、石生副大臣とは取引関係にあるし」
恵美さんまで……。
「その前に直接検察庁にタレこむ手だってあるんじゃないかな?」
「警察が押さえられてるんだもの、検察も押さえられてると思うのが自然だよ」
木元夫妻がそんな話をしてる。その手段は僕と愛莉も考えた。
「皆さん視野が狭くないですか~。何も地元のマスコミにタレこむ必要なんてないんじゃない?」
咲良さんが言う。
「どっちにしろこれは最後の手段だ。俺達の目的はエゴイストの徹底的壊滅。高橋グループはそのついでだ」
渡辺君がいう。
ついでの仕事の方がでかいと思うんだけど……。
「な?冬夜。皆に話してよかったろ?みんなお前の力になりたがってるんだ」
渡辺君が言う。
「そうだね……」
「まあ、大体の方向は決まったんだし!あとは押せ押せだ今夜は騒ごうぜ!」
「いいね、美嘉。私に端末貸して」
亜依さんがさっそく歌いだす。
その日は朝まで騒いだ。
(3)
「相変わらず体調は良好です」
私は目の前の患者にそう言っていた。
患者の名前は高梨蒼良。誰が見ても分かるだろう、偽名だ。
急性胃潰瘍と診断され緊急入院してきた。
新人の私が担当することになった。
健康状態を把握しながら、栄養剤を点滴するだけの毎日。
しかしある日ミーティングで院長から言われた。
「高梨さんを退院させて」
え?
「彼の体調に問題は無いようだ。あ、それと木山さんも退院させて」
木山さんとはテレビ局の渦中の人?
高梨さんと同時期に入院してきた同じく何の異常も無い患者。
ほとぼりが冷めた?
私は質問していた。
「2人とも体調に変化はありません。退院させる理由を説明してください」
院長は首を振った。
「深雪君、知らない方が良い事もたくさんある。君は入って間もない。大人しく指示にしたがって」
「……わかりました」
その日の総回診で2人に告げられた。
「もう退院して大丈夫ですよ」
「そうか、それは良かった」
2人とも安心していた。
「経過も良好ですし特に問題ないでしょう」
何の治療もしていないのに?
「……父さんの指示か?」
高梨さんはそう言っていた。
「父さん?何のことですか?何も聞いていませんが?」
え?
ユニティの話し合いである程度は話を聞いていた。
どういう意味が?
「どういう事だ?」
「私が何も問題がないと判断したから。高梨さんの退院を許可しただけですよ」
院長はにこりと笑ってそう言った。
何か裏がある。
そう確信した。
木山さんにも同様の説明がなされた。
2人ともほとぼりが冷めた。
そう理解したのだろうか?
しかし私はそうは思えなかった。
退院は明日。
いくらなんでも急すぎる。
私は帰って主人に相談した。
「2人に価値がなくなったか?それはあり得ないな」
主人はそう言う。
「ユニティに報告はしておこう。しかし深雪、そう簡単に患者の個人情報を流していいのか?」
「バレたらクビね」
そう言って笑う。
「わかったよ」
主人はそう言って笑った。
「退院日はいつ?」
恵美さんが聞いてきた。
「明日、昼には病院を出るわ」
私が返した。
「わかった、深雪さんは何もしないで。下手に動くと深雪さんが疑われるわ。私が調査する」
恵美さんが言う。
「分かった」
しかし手遅れだった。二人の背後にはもう手が回っていたのだから。
翌日二人の退院の準備に追われていた。
違和感を覚えた?
一人の出迎えがいるだけで何の護衛もいない。
そして取材陣もいない。
当然と言えば当然か?
2人の退院は秘密裏に行われたのだから。
それにしても出迎えが一人だけ。
白髪の老人だった。
薄汚い格好をしている。
余りにも手薄すぎる。
2人もそれを察したようだ。
2人の入院の意味は理解できる。
しかし退院の理由は?
「父さんからの出迎えはお前だけか?」
高梨さんがそう言う
「お父さんはいませんよ?」
どういう意味で言ったのかは分からないが迎えに来た人がそう言った。
「高橋先生はなんと仰られているのですか?」
木山さんがが言うも迎えに来た人は何も答えない。
「私はただ頼まれてきただけの使いです。『ハーミット』と言われたらわかりますかな?」
その言葉に私が反応した。
その言葉には聞き覚えがある。
エゴイストの関係者だったはず。
その言葉に2人は安心する。
しかし私は一抹の不安しか覚えなかった。
(4)
ハーミットと名乗った男は俺と木山を乗せて郊外へと向かう。
「どこへ向かうつもりだ?家とは違う方向だが?」
木山も首を傾げる。
「我々はどこに連れて行かれるのですか?」
ハーミットは後ろを振り返ると呟く。
「……尾行がいるな。巻けるか?」
「さっきから巻こうとしてるのですが、難しい」
「そうか。じゃあ遠回りするしかないな」
ハーミットはそう言うと再び黙る。
しばらくして尾行はいなくなった。
「目的地に向かえ」
「承知しました?」
目的地?
家ではないのか?
「いい加減に答えろ。どこへ連れて行く気だ」
「察しの悪いお方だ。御前の言葉です『神などいない』」
その言葉に俺も木山も戦慄した。
「俺はゴッドに従ってやっただけだ!何も不始末はしていない!助けてくれ!」
俺を見放す気か?
お前がミスしなければこんな事にはならなかったのだぞ?
「何度もいわせるでない、『神などいない』儂から言えるのはそれだけだ」
神の存在を消す。
そう取れる発言に俺は恐怖した。
「俺を消すつもりか?」
「物騒な事を言われますな」
ハーミットは言う。
「人を殺せば必ず足がつく。素性も分かってしまう。そんな危険は冒しませんよ」
その言葉に木山は安堵の息を漏らす。
だが俺は逆に恐怖を覚えた。
この男は俺達を社会的に消すつもりだ。
「一つ聞きたい。俺の名前はどうなる?」
「あなたの名前は高梨蒼良。何も変わりありませんよ」
変わりはない。
絶望した。
車は山奥深くの小屋に着いた。
「あなた方には儂と一緒にここで暫く暮らしてもらう。何もしませんよ。ゆっくり過ごしてください」
小屋から出るなという事か?
小屋には生活に必要なものすべてが揃っていた。
ただし連絡手段は一切奪われていたが。
情報を得るのはテレビだけ。
テレビのニュースをつける。
高橋蒼良県議員失踪。
しかしそんなニュースも直ぐに消えるだろう。
そう言うのが得意な父さんだ。
高橋蒼良という存在はもう死んだ。
神はもういない。
いるのは高梨蒼良という一人の人物だけ。
俺たちはこれからどうなるのだろう。
木元は一人で狼狽えている。
木元も同様だろう。
社会的に封殺される。
もうこの日本という狭い国に俺達の居場所はない。
日本という国……。
そうか、国外に追放されるのか。
それもバカンスとは程遠い極寒の地へ。
俺達から未来という物が奪われたのだと知った。
(5)
西松医院は大変だったらしい。
高橋蒼良議員を失踪させた犯人としてやり玉に挙げられたが、それも直ぐに収まった。
高橋蒼良という人物の存在を否定したのだ。
入院したのは高梨蒼良という人物。
その人物は検査入院で異常が無かったためすぐに退院した。
そう西松医院は弁明した。
高橋蒼良はいない。
それに食いつく記者はいなかた。
全ては予定調和の中で行われた。
木山デスクについては最初から失踪していたのだから誰も探ろうとしない。
全部は高橋グループの思惑通りに事が進んでいた。
の、様に思えたが、僕達はそうはさせなかった。
高橋蒼良と木山デスクについては既に尾行をしていた。
車のナンバーを確認すると。一度尾行を止める。
誠がナンバーシステムを使って追跡を始める。
行き先を特定すると。衛星のカメラを乗っ取り車を探し出す。
そこは温泉街の外れにある山小屋だった。
「どうする?兵隊を送り込んで奪還する?」
恵美さんが言う。
山の中ならドンパチしても気づかれない。
そう恵美さんは言う。
「2人の身柄を確保したところでどうする?無価値なのは変わらないだろ?」
渡辺君は言う。
その通りだ。二人は既に違う別人物にされてしまっている。今さらどうしようもない。
「そんな事言っても放っておくわけにもいかないでしょ」と亜依さんが言う。
「何か重要なファイルをもっているかもしれない」と誠も言う。
「2人を奪還しようと気取られたら二人は本気で消されるぞ?」と渡辺君が言う。
「それなら何も心配はない。特殊部隊を用意するから」と晶さんが言う。
どんだけ、兵隊を抱えているんだ?
仲間に恐怖すら覚える。
「冬夜どうする?お前に任せる」
渡辺君が言う。
「人命が掛かってる。このまま放っておくわけにもいかないでしょ」
「……じゃあ、決まりだな」
「大勢でって行くわけにもいかないわ行くのは私と望と渡辺君と片桐君で」
恵美さんが言う。
「私も行く!」
愛莉が言う。
「愛莉、今回は危険なんだ。我慢してお家で待っていて」
「危険なら冬夜君も行っちゃだめ!忘れたの?この戦いは2人で始めたんだよ!」
「……恵美さん。いいかな?」
「言い出したら聞かない子なのね。ただし絶対に前に出たら駄目よ。あくまでも後ろで見てるだけ?」
「うん」
「決行日はいつにする?」
渡辺君が聞く。
相手が油断してる時がいい。それはいつだ?
「誠、相手の出方探れるか?」
「それは大丈夫。言ったろ?『サーバーに接続した端末は全部把握済みだ』て。ハーミットも例外じゃない」
「じゃあ、相手が行動に移る瞬間を狙おう。殺しはしないだろう?遺体からDNA鑑定でもされたら素性がばれてしまう」
「つまり相手はどうするつもりなんだ?」
「国内には置いておけないだろ?多分国外に追放する気だと思う。少なくとも小屋に閉じ込めたままは無い」
「身柄を確保したらどうするんだ?」
渡辺君が聞いてきた。
「ウィザードと同じ場所に移すさ。今のところあそこは安全みたいだし」
「一か所に集めておいた方が守りやすいってのもあるわね」
恵美さんが言う。
「誠はサーバーの防衛も頼んだぞ。あの情報が洩れたら一巻の終わりだ」
「分かった。任せておいてくれ」
「あと恵美さんと一緒にウォーロックとポープの素性を洗ってくれ」
「どうしてポープ?」
「今回の重要人物の気がしてならない」
「片桐君の勘は当たるもんね……わかったわ」
「みんな慎重に行動してくれ。こちらも監視されてると思って間違いない」
僕が皆に言うと皆うなずいた。
「あ、そうだ。いう事あったわ」
晶さんが言った。
「関先生が興味をしめしてる。例の『フリージア』に」
「それなら石生副大臣も同じよ。協力してくれるって。身内の汚点は削除したいのはどこも同じみたいね」
恵美さんも言う。
愛莉の顔に笑みがこぼれる。
「冬夜君」
「ああ、そうだな」
希望の花は確かに咲いた。
しかし隠者の存在が気になる。
気にし過ぎか?
だと良いんだけど。
何だこの違和感。
「今日はこのくらいにして皆騒ぐとするか?」
渡辺君が言うと皆ドリンクのオーダーを始める。
「グループ活動してますよってアピールしとかないとな。暗い話ばかりしていても疑われるだろ?」
渡辺君は言う。
その日も夜遅くまで騒いだ。
次の日雨は止んでいた、
いつも通りジョギングをして、家に帰るとポストに何か入ってるのが分かった。
それを取り出す。
切り張りした字で「捕獲した」と書かれてある。
エゴイストの連中か。
愛莉は怯えている。
「大丈夫だよ」
今さらこんな脅しどうってことない。
他の皆も住所割り出されてうちだけ割り出されない方がおかしいんだ。
愛莉に説明する。
「それもそうだね……」
愛莉はまだ緊張しているようだ。
家に入ると。後ろから愛莉を抱きしめる。
「ちょっと冬夜君、ここお部屋じゃないから駄目!」
「お部屋まで我慢できないよ」
「うぅ……、困った旦那さまですね」
愛莉は笑っている。
何の為むかうのか見失いそうな時に、守り抜きたいものがあることを気づく。
それが愛莉の笑顔だった。
今日も無事に一日を過ごせますように。
「それじゃ檜山先輩おめでとう!乾杯!!」
今日は檜山先輩の地元銀行への内々定が決まったお祝いの席。
父親とも仲直りして咲良さんとの交際も認めてもらえたらしい。
「皆のお蔭だよ、ありがとう。特に深雪さん」
「医者として当然の務めを果たしたまでよ」
私の経歴を飾ることもできるしね。と一言添える深雪さん。
「企業に医者に銀行ってユニティに敵なしだな!」
美嘉さんがそう言うと、皆盛り上がる。
そう、ここまでは順調だった。
色々トラブルがあったけど。
大事には至らずに済んだ。
でもここから先は冗談ではすまされない。
完全な戦争。
そんな事に皆を巻き込んでいいのか?
僕と愛莉は悩んでいた。
「ところで片桐君たちはさっきから浮かない顔してるけどなにかあったわけ?」
恵美さんが聞いた。
「な、なんでもないよ。ちょっと考え事してるだけ」
「また喧嘩?」
「そんなんじゃないよ。私達ずっとラブラブだよ~」
愛莉はそう言って僕の腕にしがみつくが笑顔が固い。
「お前たちの隠し事なんてろくな事じゃないんだから話せよ」
カンナが言うと皆黙る。
そうだよな、黙っていてもどうせみんな進むんだろうし言ってブレーキになるなら止めよう。
僕と愛莉でなんとかしよう。
たった二人きりの戦争。
今まで経験したこと無いけど。
愛莉とならどんな事だって乗り越えられる。
たった一人で、いや一人じゃないけど大群に立ち向かう勇者ってこういう気分なんだろうか?
「さっきからトーヤ黙ってるけど本当にどうしたんだ?」
「まじっすよ、冬夜先輩なんか顔が怖いっす。どうしたんすか?」
カンナと晴斗が言う。
返す言葉がみつからない。
「冬夜君もさ、そんな顔してないでとりあえずご飯食べよ?ご馳走沢山だよ~」
愛莉が上手く誤魔化してくれた。
「愛莉が食べて良いって言うんだったら一杯食べようかな」
「うんうん、今日のところは忘れて食べて盛り上がろうよ」
2人でうまく誤魔化したつもりだったが、カンナは誤魔化せなかったようだ。
「とりあえず?今日のところは忘れて?……お前ら二人で何隠してる?」
「べ、別に隠しごとなんかないよ。ねえ、冬夜君?」
「あ、ああ何も無いよな?愛莉」
「ふざけるな!何隠してる!?白状するまで今日は帰さないからな!」
カンナが立ち上がる。
「神奈。他のお客さんに迷惑だよ。それに今日は折角のお祝いの席だよ?」
愛莉が宥めるもカンナは下がらない。
「折角のお祝いの席をダメにしてるの誰だよ!」
「神奈落ち着こう。これじゃ話にならない」
誠もカンナを宥める。
「いや、私も神奈に賛成だね。この二人絶対隠し事してる!」
「私も神奈ちゃんに賛成。二人が白状するまで絶対帰さないわよ」
美嘉さんと恵美さんの剣幕に押される愛莉。
「冬夜君~どうしよう?」
愛莉は僕の腕を掴む。
そんな事を今言ったら。
「どうしよう?って事はやっぱり何かあるんだな!?」
「皆落ち着こう、二人もこんな状況じゃ話せることも話せやしない」
渡辺君が援護してくれた。
「この二人の隠し事はろくな事じゃない!」
「だから話す場を作ってやったほうがいい」
そんな意見が飛び交う中椎名さんが言った一言。
「高橋グループの核心を掴んだとか?」
「ち、違いますよ……」
愛莉が明かに動揺してる。
「当たっていたみたいだね?」
椎名さんがにやりと笑う。
「そうなのかトーヤ!?だったら隠すことないだろ!」
「そうよ片桐君どうして黙ってたの?」
「それは……」
「……皆の将来を台無しにしてしまうから……かな?」
「う、うぅ……」
愛莉の反応を見て満足する椎名さん。
「冬夜、もうそこまでバレたんだ。腹を割って話そう。皆のユニティだ。二人で抱え込む問題ではないと思うがな?」
渡辺君が言う。
やっぱり言うしかないか……。
「分かった話すよ。ただしここじゃ駄目だ。人目を集めてしまった。誰に聞かれてるか分からない状態で話せない」
「今なら酔っ払いが何か騒いでるで済むと思うけど?」
聡美さんが言う。
「誰に見られてるか分からない状態で話していい話題じゃない」
僕が言う。
「じゃ、2次会のカラオケの時でもいいか?」
「カラオケは危険だって誠が……」
「何のために俺が毎回ノートPC持ってると思ってるんだよ!?盗聴対策くらいしてやるぜ!」
誠がそう言った。
「……分かった。じゃあ、カラオケで。それと……」
誠と渡辺君と恵美さんを集めてひそひそと概要を話す。
「そういうことか……わかった」
「なるほどな……良く分かった」
「それだと確かにここじゃ危険ね」
3人は納得してくれたみたいだ。
「じゃ、ひとまず盛り上がろう!」
渡辺君が仕切りなおす。
皆は盛り上がっていた。
僕も食べるだけ食べた。
さすがに酔う気にはなれなかった。
軽口で喋ってしまうかもしれないと思ったから。
(2)
2次会のカラオケで。
「大丈夫だ。カメラは乗っ取った」
簡単にとんでもない事を言うようになったな。誠。
「盗聴器の類もついてないようです」
石原君が言う。いつもそんなの持ち歩いてるの?
「じゃあ、話を聞こうか。その前に俺から一言言わせてくれ」
渡辺君が言うと皆静まった。
「これから冬夜が話す事は恐らく皆の生活を危険に晒す事になる。それでも構わないと本気で思った奴だけ残ってくれ。ヤバいと思った奴は咎めはしない。悪いが席を外してくれ」
渡辺君が言うと皆考え込む。
「俺たちは構いませんよ。片桐先輩に作ってもらった未来だ。この先も片桐先輩に預ける」と西松君は言う。
「俺達もだな。ユニティと一連拓生だ」と檜山先輩も言う。
皆ユニティに未来を預ける選択をしたようだ。
皆の顔を見る。
皆は僕の空気を察したのかシーンと静まり返っている。
「じゃあ、最初に僕と愛莉の父さんについてなんだけど……」
僕は静かに話を始めた。
僕と愛莉の父親の事。高橋グループの存在。その根底を覆すファイル「フリージア」の事。あの夜知ったこと全てを話した。
最初は興味深そうに聞いていた皆もざわつきだす。
「さ、さすがにそれはヘビーすぎやしませんか?」と酒井君が言うと「このくらいの事でだらしない!」と晶さんが言う。
さすがに手を引いた方がいいんじゃという者と断固戦うべきだという者に別れた。
渡辺君は静かに最後まで聞いていた。
ユニティの行動は渡辺君が決めると言っていたな。
「渡辺君はどう思う?」
僕は渡辺君に聞いてみた。
「お前はどうしようと思っていたんだ?」
「皆に話すべきかどうか悩んだ」
「皆が手を引くと言ったらどうするつもりだったんだ?」
「……愛莉と二人でどうにかするつもりだった」
「見損なったぞトーヤ!!」
カンナが叫ぶ。
「私達がそんな事でお前を見捨てるような関係だと思ってたのかよ!ふざけるな!」
「神奈の言う通りだそんな薄情な奴ユニティにはいねーぞ」
「美嘉たちはちょっと静かにしていてくれ」
渡辺君が2人を制する。
「俺も同感だな。そもそも二人でどうするつもりだったんだ?相手は警察も牛耳る存在なんだろ?」
「それは2人で考えようって……」
「遠坂さんそれは違うだろう?俺たちは冬夜のお蔭で集まった。冬夜に世話になりっぱなしの存在だ。こういう時に頼ってくれなくていつ頼ってくれるんだ?」
「そうよ、愛莉ちゃん、そういう事なら私達の得意分野。餅は餅屋にまかせろっていうでしょ?」
「恵美……」
「馬鹿ね、片桐君と愛莉ちゃんだけで抱え込む問題じゃないわ。そもそも喧嘩を吹っ掛けられたのはユニティなんだし」
恵美さんは愛莉の頭を撫でる。
「よしっ決めた!ここが正念場だよ!これさえ乗り切ればエゴイストなんて怖くない!」
亜依さんが言う。
「と、言うわけだ冬夜。皆で対策を練っていこう」
「みんな、ありがとう……」
僕が礼を言う。
「礼はこっちが言う方ですよ」と皆が言う。
「じゃあ、まずはフリージアってファイルだな?冬夜は中身見たのか?」
渡辺君が言う。
「いや、PCに接続すらしてない」
「それ今持ってるのか?」
誠が言うと僕は首にぶら下げていたストラップを誠に渡す。
「ファイルのパスワードが『Freesia』だ……」
「分かった」
誠が自分のノートPCに挿すとファイルを開く。
中味は、まさに高橋グループの全容をしめすものだった。過去の汚職事件から謎の要人失踪の事件までどこまでも深く関わっている。
「こいつは……すごいな」
渡辺君も言葉を失うほどの膨大な量のファイル。父さん達の血と汗のファイルだ。
「次の問題はこれをどうするかだな?」
渡辺君が言う。
「ネットに流せばいいんじゃね?」
桐谷君が言う。
「この馬鹿、そんなのすぐに削除されるに決まってるでしょ!」
亜依さんが言う。
「どこに出すかもだけど使用する時期も誤ってはいけない。こういう人達って事前に察知して別のスキャンダルを用意して有耶無耶にしてしまうプロだから」
白鳥さんが言う。
誠はUSBメモリを引き抜くと僕に渡す。
「もしもの時だ。お前が持っておけ。いざとなったらまたどこかに隠しておくんだ。おじさんに返しておいてもいい」
「コピーしたのか?」
「俺のPCが一番安全な保管場所なんだぜ」と誠は言う。
「敵が高橋グループだと分かった。相手の概要も大体把握できた。次は相手の手札だ」
「警察と地元新聞はだめなのよね?地元テレビ局もか」
「高橋憲伸か……どうにかなるかもよ……」
晶さんが言う。
「どういう事だ?晶さん」
渡辺君が聞く。
「高橋憲伸って神部派の末端でしょ?関幹事長とは敵対関係にある」
神部派と関派の対立はニュースでよく見る。
「うちのお爺様と関さんは昔酒を酌み交わした仲でね……」
皆唖然とした。なんかとんでもない世界に入り込んだ気がする。
「神部派を押さえるのも手ね、石生副大臣とは取引関係にあるし」
恵美さんまで……。
「その前に直接検察庁にタレこむ手だってあるんじゃないかな?」
「警察が押さえられてるんだもの、検察も押さえられてると思うのが自然だよ」
木元夫妻がそんな話をしてる。その手段は僕と愛莉も考えた。
「皆さん視野が狭くないですか~。何も地元のマスコミにタレこむ必要なんてないんじゃない?」
咲良さんが言う。
「どっちにしろこれは最後の手段だ。俺達の目的はエゴイストの徹底的壊滅。高橋グループはそのついでだ」
渡辺君がいう。
ついでの仕事の方がでかいと思うんだけど……。
「な?冬夜。皆に話してよかったろ?みんなお前の力になりたがってるんだ」
渡辺君が言う。
「そうだね……」
「まあ、大体の方向は決まったんだし!あとは押せ押せだ今夜は騒ごうぜ!」
「いいね、美嘉。私に端末貸して」
亜依さんがさっそく歌いだす。
その日は朝まで騒いだ。
(3)
「相変わらず体調は良好です」
私は目の前の患者にそう言っていた。
患者の名前は高梨蒼良。誰が見ても分かるだろう、偽名だ。
急性胃潰瘍と診断され緊急入院してきた。
新人の私が担当することになった。
健康状態を把握しながら、栄養剤を点滴するだけの毎日。
しかしある日ミーティングで院長から言われた。
「高梨さんを退院させて」
え?
「彼の体調に問題は無いようだ。あ、それと木山さんも退院させて」
木山さんとはテレビ局の渦中の人?
高梨さんと同時期に入院してきた同じく何の異常も無い患者。
ほとぼりが冷めた?
私は質問していた。
「2人とも体調に変化はありません。退院させる理由を説明してください」
院長は首を振った。
「深雪君、知らない方が良い事もたくさんある。君は入って間もない。大人しく指示にしたがって」
「……わかりました」
その日の総回診で2人に告げられた。
「もう退院して大丈夫ですよ」
「そうか、それは良かった」
2人とも安心していた。
「経過も良好ですし特に問題ないでしょう」
何の治療もしていないのに?
「……父さんの指示か?」
高梨さんはそう言っていた。
「父さん?何のことですか?何も聞いていませんが?」
え?
ユニティの話し合いである程度は話を聞いていた。
どういう意味が?
「どういう事だ?」
「私が何も問題がないと判断したから。高梨さんの退院を許可しただけですよ」
院長はにこりと笑ってそう言った。
何か裏がある。
そう確信した。
木山さんにも同様の説明がなされた。
2人ともほとぼりが冷めた。
そう理解したのだろうか?
しかし私はそうは思えなかった。
退院は明日。
いくらなんでも急すぎる。
私は帰って主人に相談した。
「2人に価値がなくなったか?それはあり得ないな」
主人はそう言う。
「ユニティに報告はしておこう。しかし深雪、そう簡単に患者の個人情報を流していいのか?」
「バレたらクビね」
そう言って笑う。
「わかったよ」
主人はそう言って笑った。
「退院日はいつ?」
恵美さんが聞いてきた。
「明日、昼には病院を出るわ」
私が返した。
「わかった、深雪さんは何もしないで。下手に動くと深雪さんが疑われるわ。私が調査する」
恵美さんが言う。
「分かった」
しかし手遅れだった。二人の背後にはもう手が回っていたのだから。
翌日二人の退院の準備に追われていた。
違和感を覚えた?
一人の出迎えがいるだけで何の護衛もいない。
そして取材陣もいない。
当然と言えば当然か?
2人の退院は秘密裏に行われたのだから。
それにしても出迎えが一人だけ。
白髪の老人だった。
薄汚い格好をしている。
余りにも手薄すぎる。
2人もそれを察したようだ。
2人の入院の意味は理解できる。
しかし退院の理由は?
「父さんからの出迎えはお前だけか?」
高梨さんがそう言う
「お父さんはいませんよ?」
どういう意味で言ったのかは分からないが迎えに来た人がそう言った。
「高橋先生はなんと仰られているのですか?」
木山さんがが言うも迎えに来た人は何も答えない。
「私はただ頼まれてきただけの使いです。『ハーミット』と言われたらわかりますかな?」
その言葉に私が反応した。
その言葉には聞き覚えがある。
エゴイストの関係者だったはず。
その言葉に2人は安心する。
しかし私は一抹の不安しか覚えなかった。
(4)
ハーミットと名乗った男は俺と木山を乗せて郊外へと向かう。
「どこへ向かうつもりだ?家とは違う方向だが?」
木山も首を傾げる。
「我々はどこに連れて行かれるのですか?」
ハーミットは後ろを振り返ると呟く。
「……尾行がいるな。巻けるか?」
「さっきから巻こうとしてるのですが、難しい」
「そうか。じゃあ遠回りするしかないな」
ハーミットはそう言うと再び黙る。
しばらくして尾行はいなくなった。
「目的地に向かえ」
「承知しました?」
目的地?
家ではないのか?
「いい加減に答えろ。どこへ連れて行く気だ」
「察しの悪いお方だ。御前の言葉です『神などいない』」
その言葉に俺も木山も戦慄した。
「俺はゴッドに従ってやっただけだ!何も不始末はしていない!助けてくれ!」
俺を見放す気か?
お前がミスしなければこんな事にはならなかったのだぞ?
「何度もいわせるでない、『神などいない』儂から言えるのはそれだけだ」
神の存在を消す。
そう取れる発言に俺は恐怖した。
「俺を消すつもりか?」
「物騒な事を言われますな」
ハーミットは言う。
「人を殺せば必ず足がつく。素性も分かってしまう。そんな危険は冒しませんよ」
その言葉に木山は安堵の息を漏らす。
だが俺は逆に恐怖を覚えた。
この男は俺達を社会的に消すつもりだ。
「一つ聞きたい。俺の名前はどうなる?」
「あなたの名前は高梨蒼良。何も変わりありませんよ」
変わりはない。
絶望した。
車は山奥深くの小屋に着いた。
「あなた方には儂と一緒にここで暫く暮らしてもらう。何もしませんよ。ゆっくり過ごしてください」
小屋から出るなという事か?
小屋には生活に必要なものすべてが揃っていた。
ただし連絡手段は一切奪われていたが。
情報を得るのはテレビだけ。
テレビのニュースをつける。
高橋蒼良県議員失踪。
しかしそんなニュースも直ぐに消えるだろう。
そう言うのが得意な父さんだ。
高橋蒼良という存在はもう死んだ。
神はもういない。
いるのは高梨蒼良という一人の人物だけ。
俺たちはこれからどうなるのだろう。
木元は一人で狼狽えている。
木元も同様だろう。
社会的に封殺される。
もうこの日本という狭い国に俺達の居場所はない。
日本という国……。
そうか、国外に追放されるのか。
それもバカンスとは程遠い極寒の地へ。
俺達から未来という物が奪われたのだと知った。
(5)
西松医院は大変だったらしい。
高橋蒼良議員を失踪させた犯人としてやり玉に挙げられたが、それも直ぐに収まった。
高橋蒼良という人物の存在を否定したのだ。
入院したのは高梨蒼良という人物。
その人物は検査入院で異常が無かったためすぐに退院した。
そう西松医院は弁明した。
高橋蒼良はいない。
それに食いつく記者はいなかた。
全ては予定調和の中で行われた。
木山デスクについては最初から失踪していたのだから誰も探ろうとしない。
全部は高橋グループの思惑通りに事が進んでいた。
の、様に思えたが、僕達はそうはさせなかった。
高橋蒼良と木山デスクについては既に尾行をしていた。
車のナンバーを確認すると。一度尾行を止める。
誠がナンバーシステムを使って追跡を始める。
行き先を特定すると。衛星のカメラを乗っ取り車を探し出す。
そこは温泉街の外れにある山小屋だった。
「どうする?兵隊を送り込んで奪還する?」
恵美さんが言う。
山の中ならドンパチしても気づかれない。
そう恵美さんは言う。
「2人の身柄を確保したところでどうする?無価値なのは変わらないだろ?」
渡辺君は言う。
その通りだ。二人は既に違う別人物にされてしまっている。今さらどうしようもない。
「そんな事言っても放っておくわけにもいかないでしょ」と亜依さんが言う。
「何か重要なファイルをもっているかもしれない」と誠も言う。
「2人を奪還しようと気取られたら二人は本気で消されるぞ?」と渡辺君が言う。
「それなら何も心配はない。特殊部隊を用意するから」と晶さんが言う。
どんだけ、兵隊を抱えているんだ?
仲間に恐怖すら覚える。
「冬夜どうする?お前に任せる」
渡辺君が言う。
「人命が掛かってる。このまま放っておくわけにもいかないでしょ」
「……じゃあ、決まりだな」
「大勢でって行くわけにもいかないわ行くのは私と望と渡辺君と片桐君で」
恵美さんが言う。
「私も行く!」
愛莉が言う。
「愛莉、今回は危険なんだ。我慢してお家で待っていて」
「危険なら冬夜君も行っちゃだめ!忘れたの?この戦いは2人で始めたんだよ!」
「……恵美さん。いいかな?」
「言い出したら聞かない子なのね。ただし絶対に前に出たら駄目よ。あくまでも後ろで見てるだけ?」
「うん」
「決行日はいつにする?」
渡辺君が聞く。
相手が油断してる時がいい。それはいつだ?
「誠、相手の出方探れるか?」
「それは大丈夫。言ったろ?『サーバーに接続した端末は全部把握済みだ』て。ハーミットも例外じゃない」
「じゃあ、相手が行動に移る瞬間を狙おう。殺しはしないだろう?遺体からDNA鑑定でもされたら素性がばれてしまう」
「つまり相手はどうするつもりなんだ?」
「国内には置いておけないだろ?多分国外に追放する気だと思う。少なくとも小屋に閉じ込めたままは無い」
「身柄を確保したらどうするんだ?」
渡辺君が聞いてきた。
「ウィザードと同じ場所に移すさ。今のところあそこは安全みたいだし」
「一か所に集めておいた方が守りやすいってのもあるわね」
恵美さんが言う。
「誠はサーバーの防衛も頼んだぞ。あの情報が洩れたら一巻の終わりだ」
「分かった。任せておいてくれ」
「あと恵美さんと一緒にウォーロックとポープの素性を洗ってくれ」
「どうしてポープ?」
「今回の重要人物の気がしてならない」
「片桐君の勘は当たるもんね……わかったわ」
「みんな慎重に行動してくれ。こちらも監視されてると思って間違いない」
僕が皆に言うと皆うなずいた。
「あ、そうだ。いう事あったわ」
晶さんが言った。
「関先生が興味をしめしてる。例の『フリージア』に」
「それなら石生副大臣も同じよ。協力してくれるって。身内の汚点は削除したいのはどこも同じみたいね」
恵美さんも言う。
愛莉の顔に笑みがこぼれる。
「冬夜君」
「ああ、そうだな」
希望の花は確かに咲いた。
しかし隠者の存在が気になる。
気にし過ぎか?
だと良いんだけど。
何だこの違和感。
「今日はこのくらいにして皆騒ぐとするか?」
渡辺君が言うと皆ドリンクのオーダーを始める。
「グループ活動してますよってアピールしとかないとな。暗い話ばかりしていても疑われるだろ?」
渡辺君は言う。
その日も夜遅くまで騒いだ。
次の日雨は止んでいた、
いつも通りジョギングをして、家に帰るとポストに何か入ってるのが分かった。
それを取り出す。
切り張りした字で「捕獲した」と書かれてある。
エゴイストの連中か。
愛莉は怯えている。
「大丈夫だよ」
今さらこんな脅しどうってことない。
他の皆も住所割り出されてうちだけ割り出されない方がおかしいんだ。
愛莉に説明する。
「それもそうだね……」
愛莉はまだ緊張しているようだ。
家に入ると。後ろから愛莉を抱きしめる。
「ちょっと冬夜君、ここお部屋じゃないから駄目!」
「お部屋まで我慢できないよ」
「うぅ……、困った旦那さまですね」
愛莉は笑っている。
何の為むかうのか見失いそうな時に、守り抜きたいものがあることを気づく。
それが愛莉の笑顔だった。
今日も無事に一日を過ごせますように。
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