優等生と劣等生

和希

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4thSEASON

反撃

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(1)

ピピピピ……。

ぽちっ。

アラームのボタンを押さえる。
わざわざ外を見に行かなくてもいいくらいはっきりとわかる雨音。
今日も雨か。ここ最近続くな。
梅雨だし仕方ないか。
でも一度起きたら二度と眠れない状況にある。
愛莉がしっかりとしがみ付いてる。
朝からこんなに密着して。
愛莉の体の温もりを感じ、そして密着感も心地よい。二度寝するには完ぺきな状態なんだけど多分二度寝したら「ぽかっ」とくるだろう。
愛莉は気持ちよく眠っているように感じる。しかしさっきのアラームの音は聞いてるはず。
ぴくっと愛莉がの体が動くのを感じたから。
これだけくっついていれば愛莉がぴくっと動くことくらいはっきりわかる。

「愛莉、朝だよ。おはよう」

そう声をかけてみたものの愛莉が気づく様子が無い。
正確に言うと気づいてるはずなのに反応しない。
もう9年目に入ろうかというくらい愛莉と過ごしてるのだから愛莉の考えている事くらいわかる。
ただ、何年たっても抵抗を感じることくらいある。
朝からそんなことしたら止まらなくなっちゃうんじゃないか?
愛莉の事だから嫌がるそぶりどころか喜んで受け入れるだろう。
無視して起き上がることも考えた。
でも朝から愛莉の機嫌を損ねることもしたくない。

「愛莉、そろそろ起きないと」

念のためもう一度確認するように声をかけるが微動だにしない。
一度は無理に起きようとするが愛莉の抱き着く腕が許さない。
やるしかないか。
嫌がってるわけじゃない、愛莉のような美人に朝から密着されて理性を保ってる自分を褒めたいくらいだ。
寝顔も穏やかで可愛い。
リップはしてないと思うけど十分艶のある美味しそうな唇が軽く笑みをこぼしている。
絶対に起きているね。断言してもいい。
このまま抱きつかれていても何も進歩しない。
しょうがないから愛莉の誘いにのってやる。
愛莉の唇に僕の唇を重ねる。
案の定愛莉の僕を抱きしめる腕に力が入る。
軽くするはずだったのだが、愛莉の舌がそれを許さなかった。
愛莉の舌を受けいれ濃厚なキスを交わす。
キスを終えると愛莉は目を開け微笑んでいた。

「おはよう冬夜君」

天使のささやきのような声が耳元でささやかれる。

「起きてたんだろ?本当に困ったお嫁さんだな」

愛莉の頭をこつんと叩く。

「えへへ~」

悪びれる様子もなく舌を出して笑う愛莉。

「そろそろ起きたいんだけど?」

このままの姿勢でいたらそれ以上を愛莉に要求しそうなのでとりあえず起きて顔を洗いたい。
だが天使の顔をした小悪魔はそれを許さなかった。

「今日も雨だよ?もうちょっとゆっくりしよう?」
「愛莉、いつも言ってるけど僕も男だぞ……朝からこんなことしてると……」
「なにかあるの?」

寧ろ何かあって欲しいと願っている様子の愛莉。
愛莉の背中に手を回し、ブラのホックを外す。
愛莉の抵抗はない。
愛莉は僕の胸に顔を当てて目を閉じている。
愛莉の服を脱がしにかかる僕。
愛莉は両手をあげてそれを受け入れる。
愛莉の胸を揉む。

「あっ……」

愛莉が声を出す。
愛莉に再びキスをして愛撫を続ける僕。
その手が愛莉の下半身に伸びた時、スマホのアラームが鳴る。
愛莉は朝食の準備をしないといけない時間だ
こういうことをしてる時って時間が経つのが早いよね。
肩透かし感が半端ないのは僕だけじゃなかったようで。

「うぅ……」と唸りながらブラをつけ服を着る愛莉。

ベッドから起き上がろうとする愛莉に抱き着く僕。

「もう時間切れだよ。朝の準備しなくちゃ」
「愛莉はこのままでいいの?」

ちょっと意地悪な質問をしてみた。

「いいわけないでしょ。冬夜君の意地悪~」
「……今夜まで取っておくか?」
「今夜してくれるの?」

しないと拗ねるだろ?
僕が頷くと愛莉は、上機嫌になる。

「じゃあ、待ってるね」

そう言うと愛莉は部屋を出てキッチンに向かう。
そうして僕達の朝が始まった。
部屋を出て支度をしていると愛莉の朝食が出来上がる。
それをダイニングのテーブルに運んでやる。
そして両親と4人そろって朝食。
朝食を食べるとキッチンの流しに食器を置いて部屋に戻る。
着替えると、朝のニュースを見る。
ネットで地元のニュースを見る。
大物議員と地元企業の贈賄疑惑。
地元大学の経営陣のスキャンダル。
県庁の官僚の贈賄疑惑。
地元放送局の失態。
地元の記事がこれでもかってくらい賑わっていた。
どれもこれも興味のあるニュースだった。
それもそのはず。どの疑惑もユニティが仕向けた報復攻撃の結果だったのだから。
デカいものほど叩けば埃がでる。
そのままの展開となった。
これでゴッドはしばらく動けないだろう。

「あ、もう記事になっちゃったんだね?」

愛莉が仕度を終えてマグカップを持ってきていた。

「そうみたいだね」
「私達大丈夫かな?」
「それどころじゃないんじゃない?」
「そうだね」

カフェオレを飲み終えると愛莉は化粧を始める。
その間にノートPCをたたみバッグにしまう。
テレビをつけると、地元のニュースでもちきりだ。
新人県議員と地元大手企業の贈賄疑惑。
記者に取り囲まれながら車に乗る、県議員。
そんなニュースに食いついてみてた。
スマホも鳴り響いている。
多分ニュースの事についてだろう。
愛莉の仕度が終ると愛莉は僕の隣に座って密着してくる愛莉。朝から容赦ないな。こっちもテレビのニュースどころじゃない。
愛莉の腰に手を回すと抱き寄せる。

「お化粧したからだめだよ~」

愛莉がそう言うも、愛莉は離れようとはしない。
上から触るだけならいいか?
そう思って服の上から愛莉の体を撫でる。

「あっ……くすぐったい……だめだってば~」

そう言いながらも愛莉は僕に体を預けてくる。
そして僕の下半身の異常事態に気がつく。

「本当にしょうがないんだから……」

そう言って笑う愛莉。
誘ったのは愛莉だからな。
思い切って愛莉を押し倒す

「キャッ!」

愛莉が可愛い悲鳴をあげる。今度は抵抗してきた。

「そんなに時間ないってば~」
「今日は2限からだろ?」
「変わんないよ~私また髪とかセットしないといけないんだよ?」
「愛莉を満足させるくらいは出来る」

ぽかっ

「そんなに簡単に満足しないもん!今夜じっくり冬夜君に甘えるんだから」
「今からでも甘えて良いんだよ」
「ほら、服にしわが寄っちゃう」
「脱げばいいだろ!」
「うぅ……」

あと一押しかな?」
そう思った時にスマホが鳴る。

「……もうちょっとだったのに」
「えへへ~残念だったね」

僕は電話に出る。渡辺君からだ。

「ああ、冬夜。取り込み中だったか?」

まあ、色々取り込み中だったね。

「大丈夫、どうかした?」
「今のニュース見たか?」
「ニュース?」
「3チャンネル見てみろ」

渡辺君の言った通り3チャンネルを見る。

地元県議員緊急入院

そんなテロっプが流れている。
それだけじゃない。

地元テレビ局員失踪。

これって……。

「なんかすごいことになって来たな」

渡辺君の言う通り大変なことになっていた。
愛莉も驚いている。

「詳しい事は昼にでも話そう」
「わかった」

電話を切ると。愛莉が聞いてくる。

「渡辺君なんて?」
「大変なことになったな。だってさ」
「そうだね」

愛莉が不安そうな顔をしている。
愛莉を抱き寄せる。

「心配することないって」
「うん……」

浮かない顔の愛莉。

「そろそろ学校にいくかい?」
「そうだね」

愛莉はそう言って立ち上がる。
まだ引きずっているようだ。
こういう時はどうしたらいいか誠から聞いていた。
愛莉のワンピースを思いっきりめくりあげる。

「今日は花柄か」

ぽかっ

「うぅ……違う心配が増えたよ。冬夜君がえっちになってきた」

そう言いながら笑う愛莉。
効果はあったみたいだ。

「一回やってみたかったんだよね」
「冬夜君でもそう思うときあるんだ?」

愛莉は驚いている。
僕だってもう二十歳だぞ。そのくらいの感情はある。

「こまったな~」

何が?

「いつされてもいいようにいつでもちゃんとした下着準備しておかなくちゃ」
「……誠が言ってた『素のままの下着もギャップがあっていい』って……」

愛莉は、無言でスマホを操作する
しばらくして、誠からメッセージが飛んできた。

「お前何チクってんだよ。こっちは大変だぞ!」

次にカンナから!

「この馬鹿!余計なことは真似しなくていい!」

犯人は愛莉だろうな。



2限を受けると学食に向かう。
渡辺君との会話の前に神奈から注意を受ける。

「誠に何言われたのか知らねーけど真に受けてるんじゃねーよ!愛莉心配してるぞ!『冬夜君、誠君の変態癖の影響受けてるみたい。朝からスカートめくってくるんだよ~』って……」
「それは単に愛莉の気を紛らわそうと……」
「知ってるよ~」

知ってるならカンナに言うなよ。

「でもね、神奈嬉しい事もあるんだよ。冬夜君朝から押し倒してくるの~」

だから余計な事を言うなって……。
神奈が僕を睨みつけてる。
愛莉的には僕の援護したつもりなんだろうが、ただの燃料投下だぞ」

「この馬鹿は……」
「まあ、いいじゃないか。遠坂さんも嫌がってるわけじゃなさそうだし。二人で問題を解決するさ」

渡辺君がやってきた。

「ちょっとその話題は置いておいていいか?」
「なんかあったのか?」

話題そらしには成功したみたいだ。

「ああ、ゴッドが緊急入院したのは知ってるか?」
「ああ、朝ニュースでやってたな。誠も知ってるはずだ」
「じゃあ、ルークがどうなったか知ってるか?」
「ルーク?」

初めて出る単語だ。

「地元TVのデスクのクラスだよ」

ああ、なるほどね。

「で、そのルークがどうなったの?」
「テレビで失踪したこと知ってるだろ?」

渡辺君の声が小声になる。
皆顔を寄せ合って聞いていた。

「2人とも西松医院に入院してるらしい」
「まじか!」

カンナが驚いている。

「しかも、二人とも面会謝絶らしいんだが、どこも異常はないらしい」
「雲隠れってやつ?」
「多分な」
「ふ~ん」

僕はそんなに興味がわかなかった。
相手のボスが雲隠れしたっていうのになんでだろう?
もっと重要な何かを隠されてる。
そんな気がしてならない。

「丹下先生の謹慎処分解けたらしいわよ」

江口夫妻と酒井夫妻がやってきた。

「真鍋君とこも県の不正が発覚して改めて仕事を受注できたみたい」
「それはよかったね」
「冬夜、さっきから何か反応が薄いんだがなんでだ?」

渡辺君が聞いてきた。
隠す事でもないしいいか?

「単なる直感だよ」
「直感?」

恵美さんが聞き返した。

「うん、まだ何か大きな存在を見落としてるって気がするんだ」
「確かに言われてみるとゴッドって呼ばれてる割には小者感がするわね」

晶さんが言う。

「でもいいんじゃないですか?これでエゴイストってグループはとりあえずは潰せたわけだし」

石原君が言う。
本当にそうなんだろうか?まだエンペラーもウォーロックも捕まっていない。

「ゴッドも捕らえたんだしエンペラーもさっさとやってしまう?」

晶さんが言う。

「うん、攻勢に出てもいいのは間違いない。アドバンテージはこっちにある……だけど……」
「だけど?」

志水さんが聞き返す。

「何かまだ切り札というか隠している何かがある気がするんだ。……そして」
「……そして?」
「これ以上踏み込んだらやばい!僕の勘がそう言っている」
「やばいってどういうこと?」

恵美さんがそう言う。

「なんか僕達の手には負えない巨大なバックがついてる、そんな気がするんだ」
「そんなの今更じゃない。今だって十分ヤバい領域よ。そんなの皆覚悟のうえでやってるんじゃない」
「これからもそう言える?もっとヤバい奴がきたって平気だって皆いえる?」
「それは……」

恵美さんが言葉に詰まった。

「そんなにヤバい組織なの~?」

愛莉が聞いてくる。

「多分ね」
「……上等じゃない!徹底的にやってやろうじゃない。渡辺君も言っていた。やられたらやり返す!それがユニティ流だって」
「皆にその覚悟があるか聞いてみる必要があるな……」

渡辺君が言った。

「それにはまず相手のデカさを知る必要がある。まず相手を知ってから切り崩していく。これまでのスタンスを崩す必要はない。冬夜がそこまでいうんだ。実態を調べてみようじゃないか」
「……それでみんなが良いなら」
「じゃ、それまでは皆これまで通り動く方向で行こう。ヤバいと俺が判断したら手を引く。それでいいか冬夜」
「うん……」

まだ僕達は知らなかった。その相手が愛莉にとって、僕にとって因縁の相手だという事を……

(2)

高橋家。

市内に広大な土地を持つ名家。
親族に総理大臣を務めた者もいる名門。
世話人に、案内されたのは広い茶室。庭には日本庭園が綺麗に整理されてある。
綺麗な畳に正座して茶を入れる老人を見る。
この老人が俺の親。高橋憲伸。地元の真の支配者。
父親に茶を渡されるとそれをすする。
その間一言も会話が無い。
俺が茶を飲み干し茶碗を置くと、父さんが口を開いた。

「お前の息子にも困った者よのう……」
「面目ありません」

俺が深く頭を下げる。
息子とは新人県議員の高橋蒼良。
悪ふざけで作ったグループエゴイストの頭。
自らをゴッドと名乗っている。

「過ぎたことはしょうがない。だが、この家を継ぐことは無理だろうな。……ゴッドか。愚民に持ち上げらえたただの道化にすぎんな」

自分の孫を酷評する父さん。

「息子の不始末は私の不始末私が片付けます」
「だめだ、お前が手を出すことは許さんぞ」

口調は穏やかだが、その真意は冷徹だった。

「もうあ奴も20を過ぎた身。自分の不始末くらい自分でつけさせなければな……」
「……御意に」
「お前を呼んだのは他に用があっての……」
「仰せのままに」
「持ってまいれ」

秘書にそう言うと秘書は茶封筒を差し出した。
中味を見る。

「片桐正人と遠坂佑太……この二人は?」
「片桐と遠坂、二人の名前に興味が湧いてのちと調べさせた。わしの勘も衰えてなかった」

かつて高橋グループを追い詰めた二人。話には聞いていたが……。

「この二人に気取られる前に証拠を隠蔽しろ」

高橋グループと蒼良のつながりを気取られるな。
そういう事か。
それはつまり……。

「あの二人も今は牙を抜かれた狼になってるとは聞くが、そう思わせてるだけかもしれん。気をつけろよ」
「分かりました」
「相手には志水家と江口家も絡んでいる。強敵だぞ」
「息子の不始末は私が」
「息子?お前には息子はおらんよ、儂にいるのは可愛い孫娘のみ。その娘も立派な恋人を手に入れたらしい」
「蒼良の始末は誰が?」
「滅多なことを言うな!」

父さんが一喝する。

「言ったはずだぞ。『私にいるのは可愛い孫娘のみ』だと……」
「……承知しました」

それ以上の発言は許されなかった。
証拠の隠蔽、息子はいない。
それを事実にするのが俺の仕事。
誰に命じられたものでもない。自分の独断でやった事。
そう言う筋書きだろう。
まずやらなければならないのは息子はいないという事実の作成。
その後にその足跡を消す事。

「分かったなら下がっていいぞ。お前も何かと忙しいだろう?すまんかったな」
「いえ……では失礼します」

そう言うと茶室を出る。
家を出る際に封筒を預かる。
車に乗ってそれを見ると今後の指示書が書かれてあった。
家に帰ってそれを読むとシュレッダーにかける。
シュレッダーにかけるとファミレスに行く。
指定された位置に座るとスーツの男がやってきた。
男はテーブルの対面に座る。
準備しておいた封書を渡す。
男はそれを受け取ると。席を立つ。
これで一仕事終わり。
車に戻ると、電話をかける。

「ああ高森といいますが」

それがサイン。

「用件は?」
「私の息子はもういない」
「……承知しました」

許せ息子よ。
全ては自分の身から出た錆だ。
親心で涙はしたが。それ以上の感情は禁物だ。
下手に情けをかければ次に消されるのは俺だ。

「心中お察しします」

運転手が言う。

「滅多なことを言うな」
「口が過ぎましたお許しを」
「それでいい。出せ」

今日は忙しい日になりそうだ。

(3)

「やはり神なんてただの偶像だったね」

目の前にいるグレーのパーカーを着た少年はそういう。
ゴッドはへまをやった。
忠告はしたはずなのに。
その忠告を無視した結果がこれだ。

「次の手は考えてあるの?ウォーロック」
「ああ、彼等の手を使わせてもらおうと思う」
「と、いうと?」
「こっちの手札を全部見せる。偽物を混ぜてね」
「どういうこと?」
「神はいない。だが、彼等は神がいると信じている。それを利用するのさ」

組織の実態をはぐらかす事からはじめるわけね?

「僕達の役割は変わった。組織の維持じゃない。隠ぺいだよ」
「確かにそうね」

お爺様の書簡にはそう書かれてあった。

「それだけでは足りない」

私はそう言った。
彼はそれを聞いて笑っていた。

「分かっている。組織の再生が必要だ。まったく別のものに作り替える」

要らないものは切って捨てると彼は言う。

「切り取った者の処理は?」
「執行者に任せるよ」

執行するのか。
大がかりな執行になりそうだ。

「執行者も忙しいはずよ?」
「だね、最優先事項がある」
「私達の目的も遂行しなければならない」
「わかってる。麗しい君の御心のままに」
「先ずはどこから手をつける?」
「君ならどこから手を付ける?」
「汚点の排除」
「それはだめだ、汚点に触れたら君の手まで汚れてしまう」
「なら?」
「汚点は汚点のまま残せばいい」
「それだと足がついてしまう」
「汚点に洗浄剤を入れたらいいのさ?」
「洗浄剤を入れたところで汚点は汚点だ」
「君は賢いね。その通り。だけど、誤魔化しはきく」
「……欺くのか」
「そういこと」

ウォーロックの言いたい事は大体わかった。
具体案は敢えて聞かなかった。

「じゃあ、僕達もこうしている余裕はないはずだ。行こうか。麗しい君」
「そうね」

部屋を出ると精算をすませる。

「電話も危険だ、定期的に会う日を決めよう。一週間おきにでいいかい?」
「わかった」
「じゃあまたね」

彼は手を振る。
私もその場から立ち去る。
しばらく歩くと黒い高級車が止まってあった。
車の横に立つと。運転手が降りてきてドアを開ける。

「首尾の程はいかに?」
「問題ない、ウォーロックに任せよう」
「御意に。『教皇』」

車を出す。

「サヨナラ義兄さん」

そう一言つぶやいて私は義兄の冥福を祈った。

(4)

こんこん

「冬夜達ちょっときなさい。愛莉ちゃんも」

麻耶さんに呼ばれる私と冬夜君。
2人で顔を見合わせて立ち上がると部屋を出る。
リビングには冬夜君のパパさんと私のパパさんがいた。
2人は私達に座るように言う。
冬夜君と二人でソファに腰掛けた。

「どうしたの?」

冬夜君が聞く。

「高橋蒼良……知ってるな?」
「あ、テレビでやってる人ね」
「エゴイストの主犯格、ゴッドと呼ばれる存在。そしてお前たちは対立している組織ユニティのメンバー……そうだね?」

冬夜君のパパさんが言う。どうしてそこまで詳しいんだろう。

「……高橋グループとは父さん達とも因縁があってね……母さんたちには黙っていたんだが……」
「父さん達と?」

冬夜君が聞き返すと二人共無言でうなずいた。

「関わるのは止めておきなさい。非常に危険だ」

冬夜君のパパさんが言う。
冬夜君は動じずに聞き返した。

「どう危険なの?」
「……冬夜君達の将来をどん底に落とすことになるかもしれない」

パパさんが言った。

「言ってる意味が分からないんだけど」
「一庶民の将来など好きにできる存在だという事だ」

冬夜君のパパさんが言った。
冬夜君が考えている。
そう言えば冬夜君言っていたね。これ以上踏み込むのは危険な気がするって。冬夜君の予感よく当たるね。
冬夜君は手を引くと言うと思った。けど違った。

「高橋グループと父さんたちの間に何があったの?」
「……昔遠坂さんと二人で高橋グループの闇を探っていたことがあってな。あと一歩で壊滅寸前にいたる重要な証拠を見つけたんだ。すると突然左遷されてな。閑職に追い込まれたよ」

冬夜君のパパさんが言うとパパさんも続けて言った。

「父さんも捜査2課で働いていてね。敏腕刑事として活躍していたんだ。だけど高橋グループを追い詰めたら証拠を全部差し押さえられて父さんは捜査4課に配置換えされたよ」

2人の言葉に私は声が出なかった。
冬夜君の言う通り危険な相手だ。止めた方が良いよ。冬夜君本気でバスケ出来なくなっちゃうよ?
でも冬夜君は言った。

「父さんに聞くけどさ。そんな話聞いて『分かった』というような息子に育てたわけ?」

冬夜君が言うとにやりと笑った「そんなわけあるか」と言って。
冬夜君のパパさんはUSBメモリを手にした。

「これは?」

冬夜君が冬夜君のパパさんに聞いた。

「父さん達が調べた証拠をまとめたファイルだ。言っておく。見たら引き返せないぞ?」
「そのつもりでくれるんでしょ?」
「まあな、流石は俺の息子だ。勘は冴えてる」
「お父さん待ってください!この子たちの将来がどうなってもいいんですか!?安っぽい正義感で投げ出していい物じゃないでしょ」
「男ならそのくらいの度胸を持った子供にと願って育てたつもりだ『冬の寒い厳しい夜に灯る温かい夜』そう言う願いを込めて名付けた」
「……娘もそういう人にもらってもらえたら。『好きな人と愛を育む清浄無垢な愛想のいい子』という意味を込めてつけたんだ」

冬夜君が躊躇ってる。
私の顔を見る。
冬夜君の意思は固まってる。でも私や皆の事を考えて踏み出せないでいる。私のしてあげられることは……。
冬夜君の手を握る。

「私は最後まで冬夜君についていくよ」

冬夜君にそう伝えると冬夜君は意を決してそのUSBメモリを受け取る。

「冬夜!」

麻耶さんが言う。それを冬夜君のパパさんが制する。

「お前も言っただろ、冬夜はもう大人だ。自分の事くらい自分で決められると」

パパさんが言う。

「愛莉、梨衣も言っていたよ。嫁ぐ気になってるなら最後まで支えてあげなさいと」

分かってるよ。ちゃんと支えてあげるよ。

「パスワードは「希望の花」だ。皆で相談して見るかは決めなさい」

冬夜君のパパさんが言う。
冬夜君は頷いた。

「ありがとう、大切に使わせてもらうよ」
「ああ、慎重に扱え。それが最後の希望なんだ」
「悪かったね、あとは2人で話しあうといい」
「愛莉、部屋に戻ろうか?」
「うん……」

私達は部屋に戻った。

「パパさん達の話びっくりしたね」
「ああ……」
「……どうする?」
「大切にしないとな」
「そうだね……」
「愛莉?」
「なに?」
「後悔してない?」
「なにを?」

冬夜君が決めたことだもん。私はそれについて行くって決めた。
だから後悔なんてしないよ。冬夜君と前を進むだけ。
冬夜君はUSBメモリを机の引き出しにしまう。

「これは今度皆が集まるときまでとっておこう」
「そうだね」

冬夜君と私とパパさん達が繋いだ希望の花。
反撃の旗は上がった。後は進むだけ。
私は見守ることしかできないけど。
パパさん達の意思をちゃんと受け取った。
絶対に散らせたりしない。
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