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4thSEASON
戦いのドラム
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(1)
「冬夜君待ってよ~!」
「急がないと乗り遅れちゃうぞ!」
「そんなに慌てなくても発着時間まででないってば~」
愛莉とプラットホームに急ぐ。
ずらりと列が出来てる。皆遊びに行くんだろうな。
「ほら、こんなに列が出来たじゃないか」
「指定席だから大丈夫だよ~」
切符を見ながら席を探す……あった。ここだ。
「冬夜君窓側がいいんでしょ?いいよ」
愛莉がそう言うので窓側に座る。
「思ったら初めてだよね。冬夜君と電車の旅」
旅って言うかただの移動だけどな。
「愛莉は電車の旅とかしたいのか?」
「う~ん……」
そんなに悩むこと聞いたかな?
「冬夜君の運転だったら断然車なんだけど、車さんと冬夜君疲れちゃうしな~」
そういう事ね。
やがて電車がゆっくりと動き出し徐々に加速していく。
電車は右に左に揺れながら進んでいく。
「うわぁ、海だよ冬夜君。綺麗だね」
愛莉が身をこちらに乗り出して窓の外に広がる景色を眺めている。
「そんなに見たいなら愛莉が窓側でも」
「わかってないな~。堂々と冬夜君にくっ付けるじゃない」
最初からそれ目的かよ。
僕達は無事期末試験を終え夏休みに入りユニバーシアードの会場・福岡に旅立っていた。
一人くらいなら招待しても良いよと言われて愛莉用のチケットを手配してもらった。
愛莉を誘うと大喜びして今日にいたるわけだけど。
最初は海や国道を眺める事が出来て楽しかった景色もやがて山と田んぼしかみえなくなり愛莉は退屈した挙句本を読みだす始末。
僕はのんびりと田んぼを眺めていた。
あとトンネルが多い。
終点・博多までは2時間ちょっとで着く。
博多に着くと普通電車に乗り換えて最寄りの駅まで行くとタクシーでホテルに着く。
フロントにスタッフの人がいた。
「お久しぶり、やっぱり地元からだと早いね」
「お久しぶりです」
「お久しぶりです、お世話になります」
「片桐君、話は聞いたよ、春季大会大活躍だったんだって?」
「僕一人の力じゃないですよ」
「話は後でゆっくり聞くからまず部屋に荷物置いてすぐ降りてきて、会場入りするから」
「はい」
部屋に入ると僕は渡された制服に着替えてロビーに降りる。
他の皆も到着したようだ。
「冬夜が先に来てるとは珍しいな」
聖人がそう言う。
皆が揃うとバスに乗り込む。
愛莉たちも乗り込む。
愛莉はゆかりさん達ときゃっきゃ騒いでる。
僕は相変わらず窓の景色を見ていた。
陸上競技場に着くと、開会式に参加することになっていた。
愛莉はゆかりさん達と観てるという。
愛莉に耳打ちする。
「愛莉、ここは地元外だけど……」
「わかってる。SPさんも来てくれてるし」
「な~にこそこそやってるんだよ。早く行くぞ」
彩(ひかる)が言うと僕は愛莉と離れて入場行進に参加する。
歓声を浴びる中トラックを歩く僕達。
そしてお偉い人の開会宣言を聞いて、開会セレモニーを聞くと開会式は終わった。
僕達の試合は翌日かららしい。
とはいえ調整しておく必要はある。
ホテル近くの体育館で練習する。
愛莉は大事を取ってホテルで一人待機しているらしい。
練習の間にも他の国の試合は行われているらしくその様子を見る。
しんどそうな相手ばっかりだ。
皆余裕をもって試合をしているように見えるのは気のせいだろうか?
「心配するな、外から見てたらお前も似たようなもんだ。いや、もっとひどい」と雄一郎が言うと皆が笑う。
「雰囲気にのまれるなよ、いつも通りのプレイでいいんだ」と聖人が言う。
そう言われると尚更緊張してしまう。
一戦たりとて落とせないトーナメント型式。
アメリカとは決勝で当たることになる。
「よし、今日はこのくらいにして明日に備えて各自自由行動にする。冬夜、食べ過ぎには注意しろよ!」
食べ過ぎなきゃ食べていいんだろ?
ちゃんと今日という日に備えて食べる物考えてきてあるから。
まず初日はラーメン!外せないでしょ!!
愛莉にメッセージを送ってフロントで待ってると伝える。
暫くすると愛莉が降りてくる。
「じゃご飯食べ行こうか」
「うん、ラーメン以外ね」
へ?
「なんで?」
「うぅ……冬夜君いつもデートの時ラーメンとか食べないじゃない」
「そりゃそうだけど……」
博多だよ!ラーメン食べないで何食べるの?
「私いいとこ見つけたんだ~パスタのお店」
「博多まで来てパスタなの?」
「それ言ったら博多まで来てラーメンなの?」
「冬夜、俺達水炊き食べに行こうと思うんだけどこないか?」
聖人が言った。
愛莉を見る。
愛莉はにっこり笑って言った。
「決まりだね?」
夏なのに水炊きってどうなの?
暑い中エアコンを聞かせて熱い鍋料理を食べるという不毛な状況で僕は食べていた。
出されているものは食べる。出されていなくても注文して食べる!
ぽかっ
「食べ過ぎには注意させてくれってスタッフさんに言われたから」
「ははは、彼女のいう事は聞いておいた方が良いぜ」
彩が言う。
「彩!どういう意味!?」
「嘘は言ってないだろ。ギャーギャー喧しいのを黙って聞いておくくらいがちょうどいいんだって」
彩の言いたい事ちょっとわかる気がする。
「私は彩の事を思って言ってるんだよ!」
「分かったからお前も食えよ。滅多に来ないんだじっくり味わっとけ?最後の晩餐になるかもしれないんだから」
「縁起でもないこと言わないでよ!」
最後の晩餐になるならやっぱりラーメン食っとくかな。
「冬夜君は食べ終わったら真っ直ぐホテルに帰ろうね。私も帰るから」
「あ、いや……締めにラーメンでも……」
「帰ろうね♪」
「……はい」
「まあ、一勝はして帰りたいし、あまり遅くなるのもだめだ。皆真っ直ぐホテルに帰ろう」
聖人が言うと愛莉が言う。
「全部勝ってもらわないと困るんだから!」
「これは参った、冬夜負けられないな」
聖人他人事じゃないぞ……。
「んじゃそろそろ帰るか?」
雄一郎が言う。
もう帰るの!?まだ1時間もたってないよ?
「コースは全部食べただろ?」
そんなんだと試合前にエンプティ起こすよ。
「うだうだ言ってねーで帰るぞ冬夜」
聖人と彩に引きずられて帰る僕。
愛莉はそれを楽しそうに見ている。
「そうだな金メダルとれたら好きなだけ食わせてやるよ」
言質とったからな聖人。
後悔するなよ。
(2)
「先生有難うございます」
老人は私に礼を言ってくれた。
老人の名前は高橋憲伸……というのは仮の名前で本当は別人らしい。
どうしてそんな面倒な事をしてるのかどうかはわからないけど、無事手術を終えた。
その後の診断でも経過はいいみたいなので今月中にでも退院できそうだ。
コンコン。
誰かがノックしてる。
「奈留です。お見舞いに来ました」
「おお奈留か、入っておいで」
入ってきたのはまだ中学生くらいの大人し目の女の子。
良家のお嬢様と言った感じ。
「紹介します、娘の奈留です」
老人がそう言うと女の子が挨拶した。
「初めまして、香崎奈留です。お爺様がお世話になりました」
え?香崎?
「ああ、ちょっと複雑な家の事情がありましてな、血はつながっております」
どっちの血とつながってるの?
あまり深く詮索しない方が良いわね。
私は「じゃあ、あとはご家族の方とゆっくりして言ってください」と言って退室した。
そのあと妙な男とすれ違う。
ぞくっとした。
何だこの悪寒。
男は老人の病室に入る。
心の警鐘が鳴り響く。
咄嗟に病室に戻る。
男が何かを持っている。注射器!?
「あなた何してるの!?」
男は私に気がつくと少女を人質にとる。
騒ぎを聞きつけスタッフが病室に入る。
「俺に近づくな!近づくとこの女の命は無い!」
違和感を感じた。
あのくらいの年なら泣きわめいてもおかしくないはず。
なのにさっきから一言も喋らない。
「助けて」の一言もない。
……確証は無いけど試してみるか。
「その子を離しなさい」
私はそう言って男にゆっくりと近づく。
「ち、近づくな近づいたら打つぞ」
男は注射針を奈留ちゃんの首筋に当てる。
私は無視して男に近づく。
男は腕を振り上げて注射針を奈留ちゃんの首に刺そうとする。
その男の腕掴み捻る。
痛みで男は注射針落とすと男性スタッフが一斉に男を取り押させる。
「……ありがとうございまいた。助かりました」
奈留ちゃんの口元は笑みをこぼしているが目が笑っていない。
「奈留……無事でよかった」
「お爺様こそご無事で」
それらすべてが3文芝居のように思える。
高橋グループは憲伸の死を望んでいる。
そう聞いていたから違和感の正体はすぐにわかった。
皆憲伸の死を望んでいる。
そしてその理由はユニティから聞いていた。
辻褄はあう。
じゃあどうすればいい?
今度の集会で相談してみるか。
それまで憲伸の退院は待った方がよさそうね。
(3)
騒ぎが治まった後私は憲伸の側にいた。
どうしてあの女が気づいたのかはわからない。
だが、高橋グループの策は失敗した。
当然面会も厳しくなるだろう。
私が直接手を下すしかないか?
「時に聞こう奈留よ」
「何でしょうお爺様」
「これは御前のご意志か?」
「私は何も聞いていません」
「そうか……」
憲伸自体もきづいたようだ。
私が近づく事すら危険か?
「のう奈留よ」
「はい、お爺様」
「儂はお前と公生が結ばれるのを見届けたかった」
「はい、心配しなくても見れるでしょう」
「いや、儂に残された時間はそんなに残されていないようじゃ……」
憲伸は悟ったのだろうか?
もう自分は用済みなのだという事を。
私は憲伸の手を握る。
「そんな弱気な事を言わないで下さい。手術は成功したのでしょう。私の花嫁姿を見るまで生きていてもらわないと困ります」
そう、まだ生きてもらわないと困る。
「……すまんかったのぉ。お前を巻き込んでしまった」
「今さらですお爺様」
「……、今からでも遅くない。警察に助けを求めなさい」
「それは無駄だというのはお爺様が一番ご存じなのでは?」
「そうだったの……」
憲伸は笑っている……。
「計画はあと一歩のところまで来ています。どうかそれまでご自愛を」
「公生は頑張っとるか?」
「はい、彼なりに頑張っています」
「そうか……無理はするなよ。忍は薄々気づいておるようじゃ」
「お義父様が気づいたところでもはやどうにもなりません、全ては御前が決めたこと」
「だからこそ儂の抹殺に焦っておるのだろう。今なら息子である忍が継ぐことが出来るからの」
「そんなことさせない」
「……に儂の遺言状を残してある」
「!?」
「弁護士には伝えてある。もしもの事があったら頼りなさい」
「わかりました……」
「早く戻らないとお前も怪しまれるだろう?行きなさい」
「今日は公生とデートの約束をしています。問題ありません」
「そうか、じゃあデートにお行き?あまり待たせるものではないぞ」
「……わかりました。また後日来ます」
「ああ……」
私は病室を出ると電話をかける。
「もしもし、今隠者の居場所にいる」
「中央改札口16:00きっかり」
「わかった」
私は病院を出ると車に乗る。
「駅に向かえ」
「かしこまりました」
運命の羅針盤は徐々に狂いつつあった。
(4)
駅改札口。ライトグリーンのワンピースの少女を確認する。すれ違いざまに一言つぶやく、
「1511発博多行き7号車*-**席」
そう言って素早く彼女のポシェットに切符を入れた。
その後改札口を通って電車に乗る。
指示した席に座っていると彼女が乗ってきた。
席を譲ると電車が走り出すのを待つ。
電車が動き出すと周りを確認する。
怪しい人物がいないのを確認すると。一言つぶやいた。
「ウィザードがしくじった」
彼女は僕を見る。
「最後の切札を失った。これじゃユニティと交渉にならない」
「まさか降伏するっていうんじゃないでしょうね」
「次しくじったら本当に最後だ。それを覚悟するんだね」
「私達も粛正に?」
「君だけは守るよ。この命に代えても」
「何をする気?」
「本当に最後の手札を見せる。それを交渉材料にする」
「それはなに!?」
「……」
「わかった」
彼女の表情は固い。
「私は次の駅で降りる」
「ああ」
「そこから先は私も独自の行動を取る」
「しくじったらアウトだぞ」
「しくじりはしない。ユニティなら必ず動く」
「敵を信用するのもどうかと思うけどね」
僕は笑う。
電車は止まった。
彼女は立ち上がり電車を降りる。
見送る彼女に笑顔を見せる。
そして僕は最後の場所へと向かって行った。
(6)
恵美と僕は西松病院に呼び出されていた。
正確には渡辺班全員に招集がかかっていた。
西松病院は診療を終え待合室はガラガラだった。
そこには西松夫妻とライトグリーンのワンピースを着た女の子が座っていた。
「この子は誰?」
恵美が聞く。
「時間はそんなにないから手短に言うわね。この子はポープ……エゴイストの最高指導者」
深雪さんがいうと、みんな驚いた。
美嘉さんがポープの腕を掴むと引っ張る。
「来いよ!お前をサツに突き出せば全部終わるんだろ!?」
女の子は抵抗する。
「待って!その子を突き出しても事態は好転しないわ。むしろ逆ね。片桐君の命が危ない」
「トーヤの命が危ないって!?お前何企んでるんだよ!」
深雪さんが言うと神奈さんがポープに掴みかかった。
「皆落ち着いて、こういう時冷静さを失った方の負けよ」
恵美が言うと、皆静まり返った。
「深雪さんどういう用件でみんなを集めたの?」
恵美が深雪さんに聞くと深雪さんが答えた。
「さっきポープ……香崎奈留ちゃんが言った通りよ、片桐君の命が危ない」
「だからなんでだよ!」
「落ち着け神奈!」
神奈さんを宥める多田君。
「俺達が最後の切札を奪い取ったからか?」
多田君が言うと奈留さんはうなずいた。
「トーヤに何する気だ!?吐けよ!」
神奈さんが酷く焦ってる。
奈留さんは怯えてる?
「今ウォーロックが博多に向かってる」
「何をしに!?」
「Xデーは8月**日」
「その日って……」
「順当に勝ち上がっていけば決勝の日ですね」
奈留さんが指定した日はバスケットの決勝の日。
「その日に何やる気だ」
「それを話すわ……ここからは取引よ、嘘もはったりも駆け引きもない正真正銘の最後の取引」
「それに乗る必要はあるのか?」
渡辺君が言う。
「言わなければ片桐さんは死ぬわ」
奈留さんが言う。
「彼女本気よ」
白鳥さんが言う。
「……で要求はなんだ?」
渡辺君が言った。
「私達の保護、私達のカードは全て見せる。エゴイストは解散する。これでどう?」
「大方自分達の命が危なくなったから言い出したんだろうけどそれにのる理由は無いよな?」
神奈さんが言う。
「片桐さんの命が軽い物なら構わない。私達と一緒に死ぬだけ」
「なるほどな……」
渡辺君は思案している。
「こいつのいう事なんて聞く事無いぞ渡辺。トーヤは全力で守る。全員で福岡に殴り込みだ!」
「神奈の言う通りだ正志!そんな奴のいう事聞くことはねえ!」
神奈さんと美嘉さんが言うと皆がそうだと喚いた。
でも……
「待ってください!」
僕が叫んでいた。
皆が僕を睨む。
「要人警護で一番防ぎにくい物って何だと思いますか?」
皆が相談する。
「石原君はそれを知っているのかい?」
渡辺君が聞いてきた。
「暗殺です。暗殺すると予告されていても防ぎづらい物。それが暗殺です。どんな形でどんな状況で狙ってくるのか全く分からない状態で密かに守るなんて絶対無理です。ましてや対象が片桐君とは限らない。遠坂さんだって狙われるかもしれないんですよ!」
僕が言うと皆黙ってしまった。
「逆に言えば手段さえ分かってしまえば防ぐことは可能です。ギリギリで手段変更されたら打つ手なしですが」
「石原君はこの取引を飲めというんだな?
「一番大切なのは2人の命です!違いますか?」
「……石原君の言う通りだな」
渡辺君は笑って僕の頭を叩いた。
「言うようになったじゃないか、石原君も」
そう言って渡辺君は笑う。
「奈留ちゃん。その取引飲もうじゃないか。で、具体的に俺たちは何をすればいい?」
奈留ちゃんは考えている。
「先にそっちの手札を見せるのが先じゃないのか?」
美嘉さんが言うと奈留ちゃんは答えた。
「そうね、決勝の日に警備員に成りすまして彼に近づくわ。そして銃で……」
「そんなことできるとは思えないけどな!」
「決勝前日に噂を流す。片桐冬夜を殺すって脅しをFAXで送る。当然警備が固くなるわ。固ければ固いほど紛れ込みやすい」
「なるほどな」
「私の知り得る情報は全て流したわ。それとこれ」
それはUSBチップだった。
「高橋グループの全ての悪事を載せたファイルよ。ダミーじゃないことはあなた達でも確認できるでしょ?」
多田君が確認している。
「これで私の手札は全部見せた。後はそっちが私の要求を呑んでくれるか?」
「いいだろう、言ってみろ?」
渡辺君が答えた。
「先ず私と……ウォーロックの身の安全の確保。お爺様の身の安全の確保それだけでいいわ」
「お爺様ってハーミットの事?」
深雪さんが聞くと頷いた。
「もうここまで来たから喋るけど私のお祖父さんの本当の名前は高木清吾。私の母のお父さん」
高木清吾の娘真梨香さんと香崎雄介さんの間に生まれた子供が奈留ちゃん。
そして影武者に抜擢された高木清吾は戸籍からは抹消されるもそれを怪しんだ香崎雄介が真相を突き止めた時交通事故で無くなってる。
高木清吾が奈留ちゃんを引き取ったが憲伸に引き取られそして後継者に選ばれた。
当然実の息子の忍はそれを良く思わず、奈留ちゃんの失脚を伺っていた。
それが今回のエゴイスト事件がきっかけで事が運びだす。
「じゃあ、本物の高橋憲伸はどこにいるの?」
「御前は隠者として安穏と暮らしているわ」
「その御前と高木清吾のパイプ役が……」
「ええ、執行者です」
「御前とやらの居場所は?」
「最初にゴッドを監禁した場所覚えていますか?」
「あそこだったのね!?」
「なるほど、最初からハーミットとして動いてたわけか」
恵美と渡辺君が納得する。
「お爺様は私に最後の切札。遺言状を残してくれました。お爺様は死ぬつもりです。そしてウォーロックも……」
「ウォーロックは、どういう関係なんだ?」
渡辺君が聞いた。
「ただの友達です。でも凄い優秀な子で優しくて。私のことを話したら親身になって相談に乗ってくれて、彼を巻き込んでしまった」
「参ったなぁ。聞いてはいけないことを聞いてしまった」
渡辺君が頭を掻く。
「だあ!面倒くせえ!結局どうすればいいんだよ!」
美嘉さんが叫ぶ。
「単純だよ美嘉。3人を守る。冬夜と遠坂さんの二人の暗殺を阻止する。それだけだ」
「簡単に言ってくれるわねウォーロックはどこにいるのか分からないんでしょ?」
恵美さんが言うと奈留ちゃんが答えた。
「ウォーロックの目的は攪乱。彼等のBluetoothを乗っ取って指揮系統を混乱させるつもり。少しでも時間稼ぎをって。私の交渉の時間を稼ぐつもり。でもそんなの焼け石に水。下手をすれば彼も……公生も」
奈留ちゃんが泣き崩れるのを深雪さんが支えている。
だけど皆まだ戸惑っている。今まで敵だったものを守れと言われても無理がある。
だから僕は言う。
「僕は行きます。友達を助ける為。それに泣いてる女の子の涙を止める為。人を助けるのにいちいち理由がいるならそれで十分です!」
「よく言った石原君!」
渡辺君が僕の肩を叩く。
「俺も行くぞ!ただ危険な戦いだ。皆を巻き込むわけには行かない!強制はしない!行きたい奴だけ名乗ってくれ」
「卑怯じゃないですかそれ……。そこまで言われて行かないなんて言う人ユニティにはいないでしょ」
酒井君が言うと皆が頷く。
「でも皆行くのはかえって目立つわ。それに奈留ちゃんとその高木さんを守る人も重要よ」
「2人の警備には私のSPを使うわ。恵美の部隊は福岡に行ってちょうだい」
晶さんが言う。
他にバイトで行けない人も残ることになった。
結果行くのは渡辺夫妻、僕と恵美の4人となった。
「まあ、まずはトーヤ達が決勝まで勝ち上がってくること前提だけどな」
神奈さんが言うとみんな笑っている。
「勝たないと話にならねーだろ。ま、あいつにとってはどっちでもいいんだろうけどな」
水島君が言う。
「やっと最終局面に辿り着いたって感じだな」
美嘉さんが燃えている。
「美嘉の言う通りだ。最後に笑うのは俺達だ」
「おお!!」
「もう業務終了の時間ですよ!病院内で騒がないでください!深雪先生まで!!」
看護師の人に怒られると僕達は病院を出た。
「じゃ、また前日に連絡するから」
そう言ってみんな解散した。
助手席に座って俯いている、恵美。
「どうしたの?」
「自分の彼がこんなに素敵に思えたことが嬉しくて涙が止まらないの」
「ごめん」
「謝らなくて良いわ。今夜はご馳走してあげる」
「ありがとう」
「ついでに私もプレゼントしてあげる」
へ?
「……だめ?」
恵美もこういう事言うようになったんだね。
「いいよ」
「ありがとう」
今夜は燃えるような夜を過ごした。
(7)
8月某日。
僕達は激戦を勝ち上がりついに決勝にまで勝ち上がってきた。
メダルは確実に手に入る。
でもどうせなら金メダルが欲しい。
皆の想いは一つだった。
「冬夜、足大丈夫か?」
「へ?」
雄一郎が珍しい事言うな。
雨でも降るんじゃないか?
「大丈夫だよ。泣いても笑っても今日が最後だ」
「終わりじゃねーよ」
「へ?」
「お前はアジア選手権に無事に送り届けなきゃいけないんだからな!変なプレイして怪我とかするんじゃねーぞ」
「コンディションはばっちり。皆のお蔭だよ」
「じゃあ、勝ちに行こうか」
「……ああ」
そうして部屋を出る。
フロントでは愛莉たちが待っている。
「今日で最後だね」
「そうだな」
「最後は笑って迎えようね」
「分かってるよ。早くバスに乗ろう?」
「うん」
バスで会場に着くと愛莉たちと別行動になる。
愛莉の周りには何人もの護衛がついていた。
ユニティのメッセージで知ったんだけど僕の暗殺をもくろんでる奴がいるらしい。
そして前日になってFAXが送られてきた。
厳重な警備体制での試合となった。
皆も緊張している。
こんな時リードしてくれるのが聖人だ。
「冬夜!今日勝ったら食い放題だからな!」
「OK勝ちにいくよ皆!」
「冬夜!調子に乗るなよ!!」
「わかってます」
でも食い放題なんだよね。
待ってろよ食い物!
僕……この試合終わったら食いたいだけ食べるんだ。
「冬夜君待ってよ~!」
「急がないと乗り遅れちゃうぞ!」
「そんなに慌てなくても発着時間まででないってば~」
愛莉とプラットホームに急ぐ。
ずらりと列が出来てる。皆遊びに行くんだろうな。
「ほら、こんなに列が出来たじゃないか」
「指定席だから大丈夫だよ~」
切符を見ながら席を探す……あった。ここだ。
「冬夜君窓側がいいんでしょ?いいよ」
愛莉がそう言うので窓側に座る。
「思ったら初めてだよね。冬夜君と電車の旅」
旅って言うかただの移動だけどな。
「愛莉は電車の旅とかしたいのか?」
「う~ん……」
そんなに悩むこと聞いたかな?
「冬夜君の運転だったら断然車なんだけど、車さんと冬夜君疲れちゃうしな~」
そういう事ね。
やがて電車がゆっくりと動き出し徐々に加速していく。
電車は右に左に揺れながら進んでいく。
「うわぁ、海だよ冬夜君。綺麗だね」
愛莉が身をこちらに乗り出して窓の外に広がる景色を眺めている。
「そんなに見たいなら愛莉が窓側でも」
「わかってないな~。堂々と冬夜君にくっ付けるじゃない」
最初からそれ目的かよ。
僕達は無事期末試験を終え夏休みに入りユニバーシアードの会場・福岡に旅立っていた。
一人くらいなら招待しても良いよと言われて愛莉用のチケットを手配してもらった。
愛莉を誘うと大喜びして今日にいたるわけだけど。
最初は海や国道を眺める事が出来て楽しかった景色もやがて山と田んぼしかみえなくなり愛莉は退屈した挙句本を読みだす始末。
僕はのんびりと田んぼを眺めていた。
あとトンネルが多い。
終点・博多までは2時間ちょっとで着く。
博多に着くと普通電車に乗り換えて最寄りの駅まで行くとタクシーでホテルに着く。
フロントにスタッフの人がいた。
「お久しぶり、やっぱり地元からだと早いね」
「お久しぶりです」
「お久しぶりです、お世話になります」
「片桐君、話は聞いたよ、春季大会大活躍だったんだって?」
「僕一人の力じゃないですよ」
「話は後でゆっくり聞くからまず部屋に荷物置いてすぐ降りてきて、会場入りするから」
「はい」
部屋に入ると僕は渡された制服に着替えてロビーに降りる。
他の皆も到着したようだ。
「冬夜が先に来てるとは珍しいな」
聖人がそう言う。
皆が揃うとバスに乗り込む。
愛莉たちも乗り込む。
愛莉はゆかりさん達ときゃっきゃ騒いでる。
僕は相変わらず窓の景色を見ていた。
陸上競技場に着くと、開会式に参加することになっていた。
愛莉はゆかりさん達と観てるという。
愛莉に耳打ちする。
「愛莉、ここは地元外だけど……」
「わかってる。SPさんも来てくれてるし」
「な~にこそこそやってるんだよ。早く行くぞ」
彩(ひかる)が言うと僕は愛莉と離れて入場行進に参加する。
歓声を浴びる中トラックを歩く僕達。
そしてお偉い人の開会宣言を聞いて、開会セレモニーを聞くと開会式は終わった。
僕達の試合は翌日かららしい。
とはいえ調整しておく必要はある。
ホテル近くの体育館で練習する。
愛莉は大事を取ってホテルで一人待機しているらしい。
練習の間にも他の国の試合は行われているらしくその様子を見る。
しんどそうな相手ばっかりだ。
皆余裕をもって試合をしているように見えるのは気のせいだろうか?
「心配するな、外から見てたらお前も似たようなもんだ。いや、もっとひどい」と雄一郎が言うと皆が笑う。
「雰囲気にのまれるなよ、いつも通りのプレイでいいんだ」と聖人が言う。
そう言われると尚更緊張してしまう。
一戦たりとて落とせないトーナメント型式。
アメリカとは決勝で当たることになる。
「よし、今日はこのくらいにして明日に備えて各自自由行動にする。冬夜、食べ過ぎには注意しろよ!」
食べ過ぎなきゃ食べていいんだろ?
ちゃんと今日という日に備えて食べる物考えてきてあるから。
まず初日はラーメン!外せないでしょ!!
愛莉にメッセージを送ってフロントで待ってると伝える。
暫くすると愛莉が降りてくる。
「じゃご飯食べ行こうか」
「うん、ラーメン以外ね」
へ?
「なんで?」
「うぅ……冬夜君いつもデートの時ラーメンとか食べないじゃない」
「そりゃそうだけど……」
博多だよ!ラーメン食べないで何食べるの?
「私いいとこ見つけたんだ~パスタのお店」
「博多まで来てパスタなの?」
「それ言ったら博多まで来てラーメンなの?」
「冬夜、俺達水炊き食べに行こうと思うんだけどこないか?」
聖人が言った。
愛莉を見る。
愛莉はにっこり笑って言った。
「決まりだね?」
夏なのに水炊きってどうなの?
暑い中エアコンを聞かせて熱い鍋料理を食べるという不毛な状況で僕は食べていた。
出されているものは食べる。出されていなくても注文して食べる!
ぽかっ
「食べ過ぎには注意させてくれってスタッフさんに言われたから」
「ははは、彼女のいう事は聞いておいた方が良いぜ」
彩が言う。
「彩!どういう意味!?」
「嘘は言ってないだろ。ギャーギャー喧しいのを黙って聞いておくくらいがちょうどいいんだって」
彩の言いたい事ちょっとわかる気がする。
「私は彩の事を思って言ってるんだよ!」
「分かったからお前も食えよ。滅多に来ないんだじっくり味わっとけ?最後の晩餐になるかもしれないんだから」
「縁起でもないこと言わないでよ!」
最後の晩餐になるならやっぱりラーメン食っとくかな。
「冬夜君は食べ終わったら真っ直ぐホテルに帰ろうね。私も帰るから」
「あ、いや……締めにラーメンでも……」
「帰ろうね♪」
「……はい」
「まあ、一勝はして帰りたいし、あまり遅くなるのもだめだ。皆真っ直ぐホテルに帰ろう」
聖人が言うと愛莉が言う。
「全部勝ってもらわないと困るんだから!」
「これは参った、冬夜負けられないな」
聖人他人事じゃないぞ……。
「んじゃそろそろ帰るか?」
雄一郎が言う。
もう帰るの!?まだ1時間もたってないよ?
「コースは全部食べただろ?」
そんなんだと試合前にエンプティ起こすよ。
「うだうだ言ってねーで帰るぞ冬夜」
聖人と彩に引きずられて帰る僕。
愛莉はそれを楽しそうに見ている。
「そうだな金メダルとれたら好きなだけ食わせてやるよ」
言質とったからな聖人。
後悔するなよ。
(2)
「先生有難うございます」
老人は私に礼を言ってくれた。
老人の名前は高橋憲伸……というのは仮の名前で本当は別人らしい。
どうしてそんな面倒な事をしてるのかどうかはわからないけど、無事手術を終えた。
その後の診断でも経過はいいみたいなので今月中にでも退院できそうだ。
コンコン。
誰かがノックしてる。
「奈留です。お見舞いに来ました」
「おお奈留か、入っておいで」
入ってきたのはまだ中学生くらいの大人し目の女の子。
良家のお嬢様と言った感じ。
「紹介します、娘の奈留です」
老人がそう言うと女の子が挨拶した。
「初めまして、香崎奈留です。お爺様がお世話になりました」
え?香崎?
「ああ、ちょっと複雑な家の事情がありましてな、血はつながっております」
どっちの血とつながってるの?
あまり深く詮索しない方が良いわね。
私は「じゃあ、あとはご家族の方とゆっくりして言ってください」と言って退室した。
そのあと妙な男とすれ違う。
ぞくっとした。
何だこの悪寒。
男は老人の病室に入る。
心の警鐘が鳴り響く。
咄嗟に病室に戻る。
男が何かを持っている。注射器!?
「あなた何してるの!?」
男は私に気がつくと少女を人質にとる。
騒ぎを聞きつけスタッフが病室に入る。
「俺に近づくな!近づくとこの女の命は無い!」
違和感を感じた。
あのくらいの年なら泣きわめいてもおかしくないはず。
なのにさっきから一言も喋らない。
「助けて」の一言もない。
……確証は無いけど試してみるか。
「その子を離しなさい」
私はそう言って男にゆっくりと近づく。
「ち、近づくな近づいたら打つぞ」
男は注射針を奈留ちゃんの首筋に当てる。
私は無視して男に近づく。
男は腕を振り上げて注射針を奈留ちゃんの首に刺そうとする。
その男の腕掴み捻る。
痛みで男は注射針落とすと男性スタッフが一斉に男を取り押させる。
「……ありがとうございまいた。助かりました」
奈留ちゃんの口元は笑みをこぼしているが目が笑っていない。
「奈留……無事でよかった」
「お爺様こそご無事で」
それらすべてが3文芝居のように思える。
高橋グループは憲伸の死を望んでいる。
そう聞いていたから違和感の正体はすぐにわかった。
皆憲伸の死を望んでいる。
そしてその理由はユニティから聞いていた。
辻褄はあう。
じゃあどうすればいい?
今度の集会で相談してみるか。
それまで憲伸の退院は待った方がよさそうね。
(3)
騒ぎが治まった後私は憲伸の側にいた。
どうしてあの女が気づいたのかはわからない。
だが、高橋グループの策は失敗した。
当然面会も厳しくなるだろう。
私が直接手を下すしかないか?
「時に聞こう奈留よ」
「何でしょうお爺様」
「これは御前のご意志か?」
「私は何も聞いていません」
「そうか……」
憲伸自体もきづいたようだ。
私が近づく事すら危険か?
「のう奈留よ」
「はい、お爺様」
「儂はお前と公生が結ばれるのを見届けたかった」
「はい、心配しなくても見れるでしょう」
「いや、儂に残された時間はそんなに残されていないようじゃ……」
憲伸は悟ったのだろうか?
もう自分は用済みなのだという事を。
私は憲伸の手を握る。
「そんな弱気な事を言わないで下さい。手術は成功したのでしょう。私の花嫁姿を見るまで生きていてもらわないと困ります」
そう、まだ生きてもらわないと困る。
「……すまんかったのぉ。お前を巻き込んでしまった」
「今さらですお爺様」
「……、今からでも遅くない。警察に助けを求めなさい」
「それは無駄だというのはお爺様が一番ご存じなのでは?」
「そうだったの……」
憲伸は笑っている……。
「計画はあと一歩のところまで来ています。どうかそれまでご自愛を」
「公生は頑張っとるか?」
「はい、彼なりに頑張っています」
「そうか……無理はするなよ。忍は薄々気づいておるようじゃ」
「お義父様が気づいたところでもはやどうにもなりません、全ては御前が決めたこと」
「だからこそ儂の抹殺に焦っておるのだろう。今なら息子である忍が継ぐことが出来るからの」
「そんなことさせない」
「……に儂の遺言状を残してある」
「!?」
「弁護士には伝えてある。もしもの事があったら頼りなさい」
「わかりました……」
「早く戻らないとお前も怪しまれるだろう?行きなさい」
「今日は公生とデートの約束をしています。問題ありません」
「そうか、じゃあデートにお行き?あまり待たせるものではないぞ」
「……わかりました。また後日来ます」
「ああ……」
私は病室を出ると電話をかける。
「もしもし、今隠者の居場所にいる」
「中央改札口16:00きっかり」
「わかった」
私は病院を出ると車に乗る。
「駅に向かえ」
「かしこまりました」
運命の羅針盤は徐々に狂いつつあった。
(4)
駅改札口。ライトグリーンのワンピースの少女を確認する。すれ違いざまに一言つぶやく、
「1511発博多行き7号車*-**席」
そう言って素早く彼女のポシェットに切符を入れた。
その後改札口を通って電車に乗る。
指示した席に座っていると彼女が乗ってきた。
席を譲ると電車が走り出すのを待つ。
電車が動き出すと周りを確認する。
怪しい人物がいないのを確認すると。一言つぶやいた。
「ウィザードがしくじった」
彼女は僕を見る。
「最後の切札を失った。これじゃユニティと交渉にならない」
「まさか降伏するっていうんじゃないでしょうね」
「次しくじったら本当に最後だ。それを覚悟するんだね」
「私達も粛正に?」
「君だけは守るよ。この命に代えても」
「何をする気?」
「本当に最後の手札を見せる。それを交渉材料にする」
「それはなに!?」
「……」
「わかった」
彼女の表情は固い。
「私は次の駅で降りる」
「ああ」
「そこから先は私も独自の行動を取る」
「しくじったらアウトだぞ」
「しくじりはしない。ユニティなら必ず動く」
「敵を信用するのもどうかと思うけどね」
僕は笑う。
電車は止まった。
彼女は立ち上がり電車を降りる。
見送る彼女に笑顔を見せる。
そして僕は最後の場所へと向かって行った。
(6)
恵美と僕は西松病院に呼び出されていた。
正確には渡辺班全員に招集がかかっていた。
西松病院は診療を終え待合室はガラガラだった。
そこには西松夫妻とライトグリーンのワンピースを着た女の子が座っていた。
「この子は誰?」
恵美が聞く。
「時間はそんなにないから手短に言うわね。この子はポープ……エゴイストの最高指導者」
深雪さんがいうと、みんな驚いた。
美嘉さんがポープの腕を掴むと引っ張る。
「来いよ!お前をサツに突き出せば全部終わるんだろ!?」
女の子は抵抗する。
「待って!その子を突き出しても事態は好転しないわ。むしろ逆ね。片桐君の命が危ない」
「トーヤの命が危ないって!?お前何企んでるんだよ!」
深雪さんが言うと神奈さんがポープに掴みかかった。
「皆落ち着いて、こういう時冷静さを失った方の負けよ」
恵美が言うと、皆静まり返った。
「深雪さんどういう用件でみんなを集めたの?」
恵美が深雪さんに聞くと深雪さんが答えた。
「さっきポープ……香崎奈留ちゃんが言った通りよ、片桐君の命が危ない」
「だからなんでだよ!」
「落ち着け神奈!」
神奈さんを宥める多田君。
「俺達が最後の切札を奪い取ったからか?」
多田君が言うと奈留さんはうなずいた。
「トーヤに何する気だ!?吐けよ!」
神奈さんが酷く焦ってる。
奈留さんは怯えてる?
「今ウォーロックが博多に向かってる」
「何をしに!?」
「Xデーは8月**日」
「その日って……」
「順当に勝ち上がっていけば決勝の日ですね」
奈留さんが指定した日はバスケットの決勝の日。
「その日に何やる気だ」
「それを話すわ……ここからは取引よ、嘘もはったりも駆け引きもない正真正銘の最後の取引」
「それに乗る必要はあるのか?」
渡辺君が言う。
「言わなければ片桐さんは死ぬわ」
奈留さんが言う。
「彼女本気よ」
白鳥さんが言う。
「……で要求はなんだ?」
渡辺君が言った。
「私達の保護、私達のカードは全て見せる。エゴイストは解散する。これでどう?」
「大方自分達の命が危なくなったから言い出したんだろうけどそれにのる理由は無いよな?」
神奈さんが言う。
「片桐さんの命が軽い物なら構わない。私達と一緒に死ぬだけ」
「なるほどな……」
渡辺君は思案している。
「こいつのいう事なんて聞く事無いぞ渡辺。トーヤは全力で守る。全員で福岡に殴り込みだ!」
「神奈の言う通りだ正志!そんな奴のいう事聞くことはねえ!」
神奈さんと美嘉さんが言うと皆がそうだと喚いた。
でも……
「待ってください!」
僕が叫んでいた。
皆が僕を睨む。
「要人警護で一番防ぎにくい物って何だと思いますか?」
皆が相談する。
「石原君はそれを知っているのかい?」
渡辺君が聞いてきた。
「暗殺です。暗殺すると予告されていても防ぎづらい物。それが暗殺です。どんな形でどんな状況で狙ってくるのか全く分からない状態で密かに守るなんて絶対無理です。ましてや対象が片桐君とは限らない。遠坂さんだって狙われるかもしれないんですよ!」
僕が言うと皆黙ってしまった。
「逆に言えば手段さえ分かってしまえば防ぐことは可能です。ギリギリで手段変更されたら打つ手なしですが」
「石原君はこの取引を飲めというんだな?
「一番大切なのは2人の命です!違いますか?」
「……石原君の言う通りだな」
渡辺君は笑って僕の頭を叩いた。
「言うようになったじゃないか、石原君も」
そう言って渡辺君は笑う。
「奈留ちゃん。その取引飲もうじゃないか。で、具体的に俺たちは何をすればいい?」
奈留ちゃんは考えている。
「先にそっちの手札を見せるのが先じゃないのか?」
美嘉さんが言うと奈留ちゃんは答えた。
「そうね、決勝の日に警備員に成りすまして彼に近づくわ。そして銃で……」
「そんなことできるとは思えないけどな!」
「決勝前日に噂を流す。片桐冬夜を殺すって脅しをFAXで送る。当然警備が固くなるわ。固ければ固いほど紛れ込みやすい」
「なるほどな」
「私の知り得る情報は全て流したわ。それとこれ」
それはUSBチップだった。
「高橋グループの全ての悪事を載せたファイルよ。ダミーじゃないことはあなた達でも確認できるでしょ?」
多田君が確認している。
「これで私の手札は全部見せた。後はそっちが私の要求を呑んでくれるか?」
「いいだろう、言ってみろ?」
渡辺君が答えた。
「先ず私と……ウォーロックの身の安全の確保。お爺様の身の安全の確保それだけでいいわ」
「お爺様ってハーミットの事?」
深雪さんが聞くと頷いた。
「もうここまで来たから喋るけど私のお祖父さんの本当の名前は高木清吾。私の母のお父さん」
高木清吾の娘真梨香さんと香崎雄介さんの間に生まれた子供が奈留ちゃん。
そして影武者に抜擢された高木清吾は戸籍からは抹消されるもそれを怪しんだ香崎雄介が真相を突き止めた時交通事故で無くなってる。
高木清吾が奈留ちゃんを引き取ったが憲伸に引き取られそして後継者に選ばれた。
当然実の息子の忍はそれを良く思わず、奈留ちゃんの失脚を伺っていた。
それが今回のエゴイスト事件がきっかけで事が運びだす。
「じゃあ、本物の高橋憲伸はどこにいるの?」
「御前は隠者として安穏と暮らしているわ」
「その御前と高木清吾のパイプ役が……」
「ええ、執行者です」
「御前とやらの居場所は?」
「最初にゴッドを監禁した場所覚えていますか?」
「あそこだったのね!?」
「なるほど、最初からハーミットとして動いてたわけか」
恵美と渡辺君が納得する。
「お爺様は私に最後の切札。遺言状を残してくれました。お爺様は死ぬつもりです。そしてウォーロックも……」
「ウォーロックは、どういう関係なんだ?」
渡辺君が聞いた。
「ただの友達です。でも凄い優秀な子で優しくて。私のことを話したら親身になって相談に乗ってくれて、彼を巻き込んでしまった」
「参ったなぁ。聞いてはいけないことを聞いてしまった」
渡辺君が頭を掻く。
「だあ!面倒くせえ!結局どうすればいいんだよ!」
美嘉さんが叫ぶ。
「単純だよ美嘉。3人を守る。冬夜と遠坂さんの二人の暗殺を阻止する。それだけだ」
「簡単に言ってくれるわねウォーロックはどこにいるのか分からないんでしょ?」
恵美さんが言うと奈留ちゃんが答えた。
「ウォーロックの目的は攪乱。彼等のBluetoothを乗っ取って指揮系統を混乱させるつもり。少しでも時間稼ぎをって。私の交渉の時間を稼ぐつもり。でもそんなの焼け石に水。下手をすれば彼も……公生も」
奈留ちゃんが泣き崩れるのを深雪さんが支えている。
だけど皆まだ戸惑っている。今まで敵だったものを守れと言われても無理がある。
だから僕は言う。
「僕は行きます。友達を助ける為。それに泣いてる女の子の涙を止める為。人を助けるのにいちいち理由がいるならそれで十分です!」
「よく言った石原君!」
渡辺君が僕の肩を叩く。
「俺も行くぞ!ただ危険な戦いだ。皆を巻き込むわけには行かない!強制はしない!行きたい奴だけ名乗ってくれ」
「卑怯じゃないですかそれ……。そこまで言われて行かないなんて言う人ユニティにはいないでしょ」
酒井君が言うと皆が頷く。
「でも皆行くのはかえって目立つわ。それに奈留ちゃんとその高木さんを守る人も重要よ」
「2人の警備には私のSPを使うわ。恵美の部隊は福岡に行ってちょうだい」
晶さんが言う。
他にバイトで行けない人も残ることになった。
結果行くのは渡辺夫妻、僕と恵美の4人となった。
「まあ、まずはトーヤ達が決勝まで勝ち上がってくること前提だけどな」
神奈さんが言うとみんな笑っている。
「勝たないと話にならねーだろ。ま、あいつにとってはどっちでもいいんだろうけどな」
水島君が言う。
「やっと最終局面に辿り着いたって感じだな」
美嘉さんが燃えている。
「美嘉の言う通りだ。最後に笑うのは俺達だ」
「おお!!」
「もう業務終了の時間ですよ!病院内で騒がないでください!深雪先生まで!!」
看護師の人に怒られると僕達は病院を出た。
「じゃ、また前日に連絡するから」
そう言ってみんな解散した。
助手席に座って俯いている、恵美。
「どうしたの?」
「自分の彼がこんなに素敵に思えたことが嬉しくて涙が止まらないの」
「ごめん」
「謝らなくて良いわ。今夜はご馳走してあげる」
「ありがとう」
「ついでに私もプレゼントしてあげる」
へ?
「……だめ?」
恵美もこういう事言うようになったんだね。
「いいよ」
「ありがとう」
今夜は燃えるような夜を過ごした。
(7)
8月某日。
僕達は激戦を勝ち上がりついに決勝にまで勝ち上がってきた。
メダルは確実に手に入る。
でもどうせなら金メダルが欲しい。
皆の想いは一つだった。
「冬夜、足大丈夫か?」
「へ?」
雄一郎が珍しい事言うな。
雨でも降るんじゃないか?
「大丈夫だよ。泣いても笑っても今日が最後だ」
「終わりじゃねーよ」
「へ?」
「お前はアジア選手権に無事に送り届けなきゃいけないんだからな!変なプレイして怪我とかするんじゃねーぞ」
「コンディションはばっちり。皆のお蔭だよ」
「じゃあ、勝ちに行こうか」
「……ああ」
そうして部屋を出る。
フロントでは愛莉たちが待っている。
「今日で最後だね」
「そうだな」
「最後は笑って迎えようね」
「分かってるよ。早くバスに乗ろう?」
「うん」
バスで会場に着くと愛莉たちと別行動になる。
愛莉の周りには何人もの護衛がついていた。
ユニティのメッセージで知ったんだけど僕の暗殺をもくろんでる奴がいるらしい。
そして前日になってFAXが送られてきた。
厳重な警備体制での試合となった。
皆も緊張している。
こんな時リードしてくれるのが聖人だ。
「冬夜!今日勝ったら食い放題だからな!」
「OK勝ちにいくよ皆!」
「冬夜!調子に乗るなよ!!」
「わかってます」
でも食い放題なんだよね。
待ってろよ食い物!
僕……この試合終わったら食いたいだけ食べるんだ。
0
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