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4thSEASON
調和の国
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(1)
「冬夜君朝だよ~」
寝袋をマット代わりにして寝ているとはいえやはり固い。
「もうちょっと寝させて」
そう言うと僕はもう一度眠ろうとした。
「だ~めっ!今日は朝から散歩するって言ったよ~」
愛莉はそう言って容赦なく体を揺すってくる。
しょうがないな。
上身を起こすと背伸びをする。
「早く行こう?」
腕を引っ張り急かす愛莉。
テントの外に出ると霧がかかっていた。
夜は見えなかった木々や花や草を見ながら歩いていると石原夫妻と公生と奈留にあった。
「おはよう」
声をかけると向こうも挨拶をしてくれた。
「片桐君達も散歩ですか?」
「うん、まあね」
そう言うと6人で歩きながら話をする。
「そういえば、公生君は奈留ちゃんの寝顔見れたの?」
愛莉の質問は容赦ない。
すると公生は笑い、奈留は俯いて黙ってしまう。
何か進展あったのかな?
「何々?何かあったの~?」
こういう時愛莉は近所のおばちゃん並に執拗な質問攻めをする。
「別に何もなかったよ……ただ」
そこで公生は思い出したかのように笑う。
「公生言ったら絶交だよ!」
奈留さんが珍しく感情をあらわにしている。
この年頃ならこれが普通なんだろうな。
「隠す事じゃないだろ……ただ……」
「ただ?」
恵美さん達も関心をもったようだ。
「寝顔は間近で見ました、朝起きたら奈留が僕に抱き着いてて……」
「テントが狭かったんだし仕方なかったんじゃない!」
そんな二人の会話が微笑ましく感じた。
「そろそろ部屋を一緒にした方がいいのかしら?」
恵美さんが悪戯に2人に言う。
「僕は全然かまわないんだけどね」
「結構です!」
公生が主導権を握ってるようだ。
「でももう、着替えてるところは見られたんでしょ?一緒に寝たんでしょ?じゃあ、いいじゃない?」
「らしいけどどうする?]
公生が奈留に聞く。
「……公生の好きにしたら?」
奈留もまんざらではないらしい。
「奈留ちゃん、私と冬夜君は中3の時にしたよ」
愛莉、そういうデリケートな事は言わない方が良い。
「私と公生はまだそんな仲じゃない!」
ほら、奈留が怒った。
「僕はいつでもいいんだけどね」
公生まで揶揄う。
奈留は本気で拗ねたようだ。
先を行ってしまう。
「あんまり離れると危ないですよ!」
慌てて石原君が追いかける。
「実際僕たちまだ狙われているんですか?」
公生が恵美さんに聞いていた。
「つけられたりしてる様子はないみたい。でも油断は禁物よ」
恵美さんが答える。
「そうですか……」
「公生来て!湖が綺麗!」
「ああ、今行くよ」
奈留に呼ばれると公生が先を行く。
「仲が良いのか悪いのか分からないわね」
「そういう年頃なんだよ奈留は」
恵美さんが言うと僕が答える。
僕達は湖を一周するとテントに戻った。
誠や渡辺君達が朝食の準備をしている。
「どこ行ってたんだお前たち?」
神奈が聞く。
「ちょっと湖の周りの散策」
「ふーん……。飯もう出来てるぜ」
朝からボリュームのある食事だった。
ご飯にみそ汁に焼きそばに目玉焼き。
ちゃんと残さず食べたよ。
愛莉が残したからそれも食べた。
「今日は後帰るだけですか?」
白鳥さんが聞いた。
「いや、あと一か所言っておこうと思う」
渡辺君が言う。
それは初耳だ。
「どこ行くんすか?」
晴斗が聞いていた。
渡辺君がにやりと笑って言った。
「調和の国だよ」
「げ!!」
僕と誠は同じリアクションを取っていた。
そういや、誠も行ったことあるって言ってたっけ?
僕も愛莉と行ったことがある。親に連れて行ってもらった。
「どうした?行ったことあるのか?」
渡辺君は行ったことがないらしい。
「あることはあるんだけど……なあ?冬夜」
「そうだね……」
2人とも言葉を濁した。
「なんだ?奈留達にはちょうどいいと思ったんだけど不満なのか?」
神奈が言うと「とんでもない!!」と二人で同じリアクションをとった。
「じゃあ、決まりだな」と渡辺君が言う。
朝食を食べ終えると女性陣が片付けてる間にテントを片付ける。
誠が公生に耳打ちしてた。
「いいか、何があっても笑顔だぞ?絶対つまらなそうな顔はするな」
「そんなことくらいわかってるよ」
あの苦痛は多分行ったことがある者にしかわからない。
(2)
朝目を覚ますと服を着ていた。
咲はまだ疲れて寝ているようだ。
寝させてあげたいんだけど朝食の時間だ。
仕方なく咲を起こす。
「もっと早く起こしてくれてもよかったじゃない!」
「咲が気持ちよさそうに寝ていたから。良い夢でも見てるのかな?って」
咲は僕に抱きついて言った。
「夢は所詮夢!現実には敵わない!」
咲にとって夢よりも現在の方が重要らしい。
咲が着替えるのを待って朝食を食べに行った。
朝食を食べ終えるとチェックアウトの時間まで時間を潰す。
慌てて出ることもないだろう。
二人で寛ぐ。
「あんたまさか今夜からバイトなんて真似してないでしょうね?」
「まさか!ちゃんとカレンダーに書き込んでおいたろ?」
「じゃあ、今夜は私が料理を振舞ってあげる」
「それは楽しみだ」
チェックアウトの時間になると部屋を出る。凄い並んでた。
帰りに寄りたいところがあるという。
咲に言われた通りファストフード店でドライブスルーで食べ物を買うと、駐車場に車を止めて防波堤に腰掛けて昼食を食べる。
「こんなのでいいの?」
「こんなのがいいのよ」
二人でゆっくりと時間を過ごす。
帰りに丹下夫妻と青い鳥にお土産を持っていた。
「ありがとうね」
一ノ瀬さんと中島君が礼を言う。
「ここで出逢えたことから全ては始まったんだよね?」
「いきなり水かけられたけどね」
「傷つけあう日もあったもんね」
咲は思い出すように笑う。
一緒にいたいととそう思えることが、まだ知らない明日へとつながっていく。
「咲は今でも僕と一緒にいたいと思ってるの?」
「思って無かったら今頃離婚届だよ!」
言葉は怒っているけど表情は笑顔だった。
「咲は変わったね。保証する。今の方がずっと素敵だよ」
「悠馬も変わったよ。私が保証する。今の悠馬がいるから今の私がいるんだよ」
二人でゆっくりコーヒーを飲んでそれから家に帰る。
そこからは日常が始まる。
変わった事。
それはなるべく夜は一緒に過ごす事。
会えない夜は決まって淋しさが襲うらしいから。
咲を不安にはさせたくない。
好きだから不安になる、そんな思いが悲しいらしいから。
甘えたいときは思いっきり甘えさせてやる。
そんな事しかできないけど。
そんな事が大事なんだと思った。
「悠馬、ご飯できたよ」
「わかった」
夏休みの間くらいは夜は一緒にいてあげよう。
そう思うことがまだ知らない明日へとつながっていくんだって知った。
(3)
やっと出来上がった。
今日はお披露目の時。
県庁のホールにはお偉い人がたくさん並んでる。
私と修ちゃんもその中にいる。
赤い布切れが外された。
片桐先輩が跳躍している時の瞬間をとらえたその像に拍手が送られた。
お偉い人の言葉を聞いて。そしてセレモニーは終わった。
まもなく油彩の方も終わる。
「次の作品はいつできるのかね?」
そんな質問を次々と受ける。
回答は修ちゃんがしてくれる。
そしてその日地元大学の修ちゃんの準備室による。
そこで油彩を書いてる。
『情熱』と修ちゃんに題してもらった物はまさに情熱に燃える片桐先輩を表していた。
そして私の情熱のありったけをキャンバスにぶつけていた。
時間を忘れる程没頭していると、気付くと辺りが暗くなっている。
「そろそろ帰ろうか?海未」
修ちゅんが言うと私は道具を片付ける。
家に帰るとまた私は絵を描き始める。
いつか見た風景。
薄紅色の雪が舞う悲しい風景。
でもいつか上手に笑える時が来るから。
そんな絵。
「海未夕ご飯で来たぞ」
修ちゃんがそう言うと私は片づけてご飯を食べる。
その後にお風呂に入って修ちゃんとテレビを見る。
ドラマを見ていた。
普通のドラマだった。
ただ、キスシーンがあった。
未来との話を思い出した。
どっちが先にキスするか勝負しようか?
未来がキスをしたという話は聞いてない。
エゴイストとやらの件でそれどころじゃなかったから。
何でもないキスシーンだった。
それを見て想っただけ。
私は修ちゃんの目を見つめる。
修ちゃんと目が合う。
「どうした?海未」
私は決心して聞いてみた。
「修ちゃんはキスしたことある?」
「そりゃあるさ、この歳でしたことないなんておかしいだろ?」
修ちゃんは笑っていた。
修ちゃんと飲んでいるお酒の勢いもあったのかもしれない。
「じゃあ、私はおかしいままなの?」
「どうした海未?」
私は合宿で会ったことを打ち明けた。
「結婚してるのにキスもまだなんておかしいって言われた。修ちゃんにとって私は何?」
私はそういう対象じゃないの?
修ちゃんは何も言わない。
「私まだ子供だから?」
私はもう大人だよ?
何か言ってよ?
「私は修ちゃんのお嫁さんだよ?」
修ちゃんは私を抱きしめる。
「そんなに慌てる事でもないだろ?」
「私は今修ちゃんとキスがしたい!」
「海未……目を閉じて」
私は目を閉じて修ちゃんを受け入れる準備をする。
修ちゃんの熱い口づけが待っていた。
「どうだ?初めてのキスは?」
修ちゃんは笑っていた。
ちょっとタバコの香りがした。
「タバコ臭かった」
「ブレスケアするべきだったな。すまん」
そう言って修ちゃんは笑っていた。
私は部屋に戻り寝る準備をする。
コンコン
修ちゃんがノックする。
「入っても良いか?」
「いいよ」
修ちゃんは枕をもって私の部屋に来た。
「どうせだからたまには一緒に寝るか?」
そう言って笑ってた。
私は黙ってうなずいた。
修ちゃんに包まれて寝る。
結婚して以来初めての体験。
それ以上は無かった。
それは式を挙げてからの楽しみにしていようと思ったから。
今日は一歩前進出来た。
それだけでよしとしよう。
初めて一緒に夜を過ごした。
(4)
「お疲れ様でした!」
「送るよ新名さん」
最近はずっと椎名さんが家まで送ってくれる。
けど、この日はちょっと違った。
お店でご飯を食べて、展望台に行って夜景を見る。
どうしたんだろう?
「綺麗だろ?」
椎名さんが言う通り別府の夜景は綺麗だった。
「どうしてこんなところに?」
私は椎名さんに聞いていた。
椎名さんは黙っていた。
「君と初めてデートした場所だよ」
あれをデートと呼ぶのだろうか?
「そうですね」
世間では拉致と言うと思うんだけど。
「僕も初めて女性をこの場所に連れて来たのは君が初めてだったんだ」
「そうだったんですね」
辺りを見回す。
皆腕を組んだり抱き合ったり当たり前の愛し方をしていた。
私達もその中にいつの間にか溶け込んでいた。
椎名さんは私の肩を抱きよせる。
それを受け入れる私。
そうか、今がその時なんだ。
私は悟った。
それを彼が望んでいる。
そして私も……。
私は椎名さんを見て目を閉じる。
椎名さんの顔が近づいてくるのが分かった。
眼鏡、邪魔にならないのかな。
心配いらなかったようだ。
初めてのキスはタバコの香りがした
苦くて切ない香り。
立ち止まる時間が動き出そうとしている。
忘れたくない事ばかり。
明日の今頃には私はきっと笑ってる。
あなたを想って笑っている。
キスが終ると、私は紅潮していた。
「初めてだった?」
椎名さんは笑っている。
私はこくりとうなずいていた。
「どうだった?」
「タバコ止めた方が良いと思います」
「それは手厳しいな」
椎名さんは笑っている。
椎名さんは電話している。
「あ、俺です。椎名です。はい、今未来さんと一緒にいます。今夜うちに泊まってもらおうと思って。はい、すいません」
え?私なにも準備してないよ?
心の準備だってまだ……。
椎名さんは電話を終えていた。
「いいってさ」
「良いって言われても私なにも準備してない」
着替えすら……。
「朝には送るから」
たまに強引なところがある、彼の性格。
でもいやじゃない。
ただ……。
「どうして今日なんですか?」
「特に意味は無いよ?明日は君のオフだって聞いたから」
「……初めてなんですよ?記念日とかにしたいとかあるじゃないですか」
「記念日は決められている日じゃない。その日が記念日になるんだって誰かが言ってた気がするけど」
「……わかりました」
「じゃ、そろそろ行こうか?」
「あの、どうしてここに?」
「君の初めてのキスの場所……考えてあげただけ」
「どうして今日なんですか?」
「勝負してたんだろ?どっちが先にキスするか?」
そう言って椎名さんは笑った。
この日を刻んでおこう。
海未ちゃんにキスしたことを伝えたら海未ちゃんも今日したって言ってた。
こういう勘はするどいんだね。椎名さん
(5)
冬夜先輩や多田先輩の懸念してたことがわかった。
可愛らしいキャラクターのアトラクションやグッズが売ってあり、女性陣はキャーキャー騒いでいる。
パレードがあると写真を撮るのに女性陣が群がる中男性陣は近くの花壇に腰掛けて項垂れている。
春奈も一生懸命に記念写真を撮ってる。
「晴斗も一緒に撮ろう?」
そう言われればマスコットのぬいぐるみを着た人と一緒に一枚写真を撮る。
冬夜先輩が撮ってくれた。
アトラクションは自由行動で乗ることになった。
奈留と公生には石原夫妻が付き添っていたけど。
石原先輩のボディガード付なら一番安全だと思う。
多田先輩に言われた言葉。
「どんなことがあっても笑顔でいろ」
その心配は無かった。
こんなにはしゃいでる春奈を見るのは初めてかもしれない。
女性の憧れの場所。そんなところだった。
園内が案外広い。
しかし春奈は関係なく色々な場所を見て回る。
俺は少し疲れてきた。
どんなことがあっても笑顔でいろ
こういう事か?
春奈が癒しになると言えどもさすがにうんざりするこの遊園地。
食事までご丁寧に可愛らしいデザインになっていた。
嬉しそうに写真を撮る春奈。
春奈の趣味ってこういうのなのだろうか?
「春奈はこういうのが好きなんすか?」
「晴斗はこういうの苦手?」
不安にさせてしまったかもしれない。
「そ、そんなことないっすよ?」
「じゃあ、もう一周しよう?」
まじか!?
「いいっすよ」
笑って誤魔化す。
今日一日が試練の日だった
最後に観覧車に乗る。
時間的にもこれがラストだろう。
一瞬の気のゆるみが出てしまう。
ため息を吐く。
慌てて息を止める。
だけど春奈は見逃してくれなかった。
「晴斗は楽しくなかった?」
淋しそうな目で俺を見る春奈。
「そ、そんなことないっすよ。春奈とならどこへ行っても楽しいっす」
「じゃあ、また来ようね」
シーズンによってパレードの内容違うみたいだし。と春奈は言う。
「了解っす」
元気に答えた。それが精一杯の俺に出来る事。
「冗談だよ。晴斗無理してるのくらい私にもわかる」
バレバレだった。
気まずい空気が流れたかと思った。
「だからつい意地悪したくなったの?焦る晴斗を見たくて」
へ?
「いつもそう、晴斗は私を楽しませてくれようと無理してる。私の事を思ってしてくれてるんだって嬉しく思う」
「だったらまた来ても大丈夫っす」
「次は晴斗の行きたいところに行きたい」
「俺のっすか?多分春奈が行ってもつまんないっすよ」
「晴斗の世界、私も共有したい」
春奈がそう言う。
「晴斗はどこに行ってみたいの?」
「彼女と行ってみたかったところっす」
「どこ?」
「水族館」
「え?」
春奈には意外だったようだ。驚いている。
そしてこう言った。
「よかった、そこは私も『彼と行ってみたかった場所』だから」
それは良かった。
春奈は突然俺の隣に座るとキスをしてきた。
突然の事に驚く俺。
そんな俺にキスを終えた。彼女が一言。
「今日は一日お疲れ様」
その一言でどれだけ癒される事か。
「でも突然どうしたんすか?」
元の位置に座りなおす春奈に聞くと一つ下の籠に乗っているカップルを指す。
正に今キスをしている二人だった。
「観覧車ってそういう乗り物なのかと思って。違った?」
ある意味当ってるかもしれない。
2人だけの時間を共有する場所。
観覧車を降りると集合場所に向かう。
「待って」
春奈がそう言って俺が立ち止まると春奈は俺の腕に組みつく。
「少しくらい待ってくれるよ」
「そうっすね」
ゆっくりと周りを見ながら歩いて帰っていった。
(6)
僕達は今お土産屋さんの前に立って待っている。
なんとなく誠達と一緒に行動していた。
するとほかのカップルも集まってくる。
女性陣は中で和気藹々とグッズを見て回ってる。
「相変わらず変わらねーなここも」
誠が呟く。
「……確かにね」
いい意味でも悪い意味でも。
パレードを見ていたのはほぼ女性。
男性陣はみな後ろの方で項垂れいている。
疲れ果てて立ち尽くす戦士の群れのようだ。
僕はまだ結婚していないし、誠達も子供を持っていないからまだいい。
子連れのお父さんは子供を肩車してなおかつカメラで撮影するという荒業をやってのける。
テンションの上がりっぱなしの女子供と反比例して疲れを隠せない男達。
それでも不愉快にさせまいと精一杯の笑顔で彼女に応える。
地獄絵図だ。
よくまあこんなテーマパーク作ったもんだと地元の男なら誰もが怨恨を持っているだろう。
「でも冬夜と誠君は前にも来たことあったみたいだが」
渡辺君が聞いてきた。
渡辺君もやや疲れ気味だ。
「俺は家族とですね。妹がはしゃいでるのをつまんなさそうに見てた記憶しかないな。デートコースには絶対入れないと思いましたね。彼女と来てそんな態度取ったら破滅の未来しか見えない」
だろうな……。
「冬夜はどうなんだ?」
「僕は愛莉と来たかな。まさに誠の言う通りだったよ。どうにかして愛莉にあわせようと必死だった記憶がある」
「冬夜も苦労してるんだな……」
「……今もしてるけどね」
「冬夜君!選ぶの手伝って~」
ほらね。
「がんばれ~」
生気のこもってない誠の声援に押されて店の中に入る。
だが餌食になるのは僕だけじゃなかったようだ。
「誠、てか男共なにやってんだ。少しは一緒に選ぶとかすることあるだろ!ぼーっとしてんじゃねーよ!」
神奈が言うと皆のろのろと歩く。
渡辺君は苦笑していた。
店の中は大混乱だった。大人子供問わずみなが色んなマスコットキャラクターのグッズを物色する。
人混みにもくちゃにされながら買い物をする。
「冬夜君どっちがいいと思う?」
ここで「どっちでもいいよ」と言おうものなら確実に愛莉の機嫌を損ねる。
愛莉の中に入るという特殊技能を駆使して選んでやる。
「やっぱりこっちだよね。でもさ、こっちも気になるんだよね~」
「もう両方買っちゃえよ」なんて言葉は絶対使用したらいけない地雷だ。
言ったら最後「私との買い物そんなにつまんない!?」と機嫌を損ねる原因になる。
そんな地雷を酒井君は踏み抜いてしまったらしい。
不貞腐れる晶さんを宥めるのに必死になっていた。
こういう時はやはり特殊技能を用いて店の中を見る。
これだと思ったぬいぐるみを選んで「これが一番いいんじゃないか?」という、ストレートに言うんじゃない。
「適当に選んだでしょ!?」って怒られるから。
悩むふりをしてチョイスするのが肝心。
「ああ、冬夜君もそう思う?私もそれ気になってたんだ。じゃあ、これにするね」
愛莉はそれを持ってレジに並ぶ。こっちは作戦成功。
皆を見る。皆上手くやれてるみたいだ。
「愛莉、店の外で待ってるからな」
「は~い」
公生と奈留はというと。
「こんな子供じみたの要らない!」
「そんな事無いよ。このキーホルダーとかお揃いで使うと良いんじゃない?」
「公生は恥ずかしくないの?」
「奈留とペアで使うのって恥ずかしい事?」
「公生がそこまで言うなら買うよ」
「ああ、僕が買うから」
公生は女子の扱いになれてるらしい。
店の外に出ると先に晴斗が出ていた。
疲れて項垂れている。
「どうしたの?」
「……今日はもう燃え尽きたっす」
……ご愁傷様。
皆が買い物を済ませると店から出てきた。
みんな揃ったところでテーマパークを出る。
駐車場で渡辺君が言う。
「二日間お疲れ様、別府のファミレスで夕食食って解散にしようと思うけど良いか?白鳥さんもいるし別府がいいだろ」
渡辺君の提案に皆が賛成していた。
そしてファミレスで夕食を食べると、皆解散していった。
僕達も家に帰る。
「ねえ?冬夜君」
「どうしたの?」
「男の人ってああいうテーマパーク嫌なの?」
選択肢をミスれば愛莉が激怒する。
「そ、そんな事は無いと思うけど、どうしてそう思ったの?」
「だって最初に行った遊園地の時よりみんなテンション下がってたよ?疲れていたのかもしれないけど……」
「まあ苦手ってことはないけど大好きって男の人もそんなにいないと思うよ」
「って事は冬夜君も好きじゃないんだ!」
ああ、選択ミスったかも。
「……今度から冬夜君とデートするときはあのテーマパークは除外だね」
愛莉は笑ってそう言った。
「ごめん」
「謝らなくてもいいよ、いつも冬夜君私にあわせてくれるし。……昔あのテーマパークに行ったこと覚えてる?」
忘れられるはずがない。デートというものがトラウマになりかねない大惨事だったのに。
「あの時さ、冬夜君もっと詰まらなさそうな顔してた。普段からやる気なさそうだったけど。私とデートする事ってそんなにイヤな事なのかな?って」
「そんなわけないだろ」
「うん、今日もあのテーマパーク行くって言った時にえ!?って顔してたからちょっと怖かったんだ。冬夜君嫌いなのかな?って」
そういうことね。
「あの時から私達変わったんだね」
愛莉が寂しそうな顔をしている。
どうしたんだろ?……なるほどね?」
「変わったね」
「やっぱり……」
「愛莉を想う気持ちは強くなる一方だよ」
愛莉の表情が笑顔に変わる。
「私も冬夜君を想う気持ち強くなってるよ」
「ありがとう」
「当然の事だもん」
愛莉の機嫌はよくなったようだ。
家に帰りつくと荷物を下ろして家に入る。
「おかえり~」と両親が言うのを聞いてお土産を渡して部屋に戻る。
愛莉は着替え等を整理している。
そんな愛莉を見て言う。
今夜くらいいっか?
「愛莉一緒にお風呂入ろうか?」
愛莉は僕を見上げて言う。
「良いの?」
「愛莉が嫌じゃなければ」
「嫌って言うわけないじゃない!急いで準備しなくちゃ!冬夜君の気が変わらないうちに」
ゆっくりでいいよ。もうその気だから。
僕と愛莉の中で世界はとっくに調和しているんだろう。
それは少しずつ成長している。
辿り着くべきゴールを探して。
「冬夜君朝だよ~」
寝袋をマット代わりにして寝ているとはいえやはり固い。
「もうちょっと寝させて」
そう言うと僕はもう一度眠ろうとした。
「だ~めっ!今日は朝から散歩するって言ったよ~」
愛莉はそう言って容赦なく体を揺すってくる。
しょうがないな。
上身を起こすと背伸びをする。
「早く行こう?」
腕を引っ張り急かす愛莉。
テントの外に出ると霧がかかっていた。
夜は見えなかった木々や花や草を見ながら歩いていると石原夫妻と公生と奈留にあった。
「おはよう」
声をかけると向こうも挨拶をしてくれた。
「片桐君達も散歩ですか?」
「うん、まあね」
そう言うと6人で歩きながら話をする。
「そういえば、公生君は奈留ちゃんの寝顔見れたの?」
愛莉の質問は容赦ない。
すると公生は笑い、奈留は俯いて黙ってしまう。
何か進展あったのかな?
「何々?何かあったの~?」
こういう時愛莉は近所のおばちゃん並に執拗な質問攻めをする。
「別に何もなかったよ……ただ」
そこで公生は思い出したかのように笑う。
「公生言ったら絶交だよ!」
奈留さんが珍しく感情をあらわにしている。
この年頃ならこれが普通なんだろうな。
「隠す事じゃないだろ……ただ……」
「ただ?」
恵美さん達も関心をもったようだ。
「寝顔は間近で見ました、朝起きたら奈留が僕に抱き着いてて……」
「テントが狭かったんだし仕方なかったんじゃない!」
そんな二人の会話が微笑ましく感じた。
「そろそろ部屋を一緒にした方がいいのかしら?」
恵美さんが悪戯に2人に言う。
「僕は全然かまわないんだけどね」
「結構です!」
公生が主導権を握ってるようだ。
「でももう、着替えてるところは見られたんでしょ?一緒に寝たんでしょ?じゃあ、いいじゃない?」
「らしいけどどうする?]
公生が奈留に聞く。
「……公生の好きにしたら?」
奈留もまんざらではないらしい。
「奈留ちゃん、私と冬夜君は中3の時にしたよ」
愛莉、そういうデリケートな事は言わない方が良い。
「私と公生はまだそんな仲じゃない!」
ほら、奈留が怒った。
「僕はいつでもいいんだけどね」
公生まで揶揄う。
奈留は本気で拗ねたようだ。
先を行ってしまう。
「あんまり離れると危ないですよ!」
慌てて石原君が追いかける。
「実際僕たちまだ狙われているんですか?」
公生が恵美さんに聞いていた。
「つけられたりしてる様子はないみたい。でも油断は禁物よ」
恵美さんが答える。
「そうですか……」
「公生来て!湖が綺麗!」
「ああ、今行くよ」
奈留に呼ばれると公生が先を行く。
「仲が良いのか悪いのか分からないわね」
「そういう年頃なんだよ奈留は」
恵美さんが言うと僕が答える。
僕達は湖を一周するとテントに戻った。
誠や渡辺君達が朝食の準備をしている。
「どこ行ってたんだお前たち?」
神奈が聞く。
「ちょっと湖の周りの散策」
「ふーん……。飯もう出来てるぜ」
朝からボリュームのある食事だった。
ご飯にみそ汁に焼きそばに目玉焼き。
ちゃんと残さず食べたよ。
愛莉が残したからそれも食べた。
「今日は後帰るだけですか?」
白鳥さんが聞いた。
「いや、あと一か所言っておこうと思う」
渡辺君が言う。
それは初耳だ。
「どこ行くんすか?」
晴斗が聞いていた。
渡辺君がにやりと笑って言った。
「調和の国だよ」
「げ!!」
僕と誠は同じリアクションを取っていた。
そういや、誠も行ったことあるって言ってたっけ?
僕も愛莉と行ったことがある。親に連れて行ってもらった。
「どうした?行ったことあるのか?」
渡辺君は行ったことがないらしい。
「あることはあるんだけど……なあ?冬夜」
「そうだね……」
2人とも言葉を濁した。
「なんだ?奈留達にはちょうどいいと思ったんだけど不満なのか?」
神奈が言うと「とんでもない!!」と二人で同じリアクションをとった。
「じゃあ、決まりだな」と渡辺君が言う。
朝食を食べ終えると女性陣が片付けてる間にテントを片付ける。
誠が公生に耳打ちしてた。
「いいか、何があっても笑顔だぞ?絶対つまらなそうな顔はするな」
「そんなことくらいわかってるよ」
あの苦痛は多分行ったことがある者にしかわからない。
(2)
朝目を覚ますと服を着ていた。
咲はまだ疲れて寝ているようだ。
寝させてあげたいんだけど朝食の時間だ。
仕方なく咲を起こす。
「もっと早く起こしてくれてもよかったじゃない!」
「咲が気持ちよさそうに寝ていたから。良い夢でも見てるのかな?って」
咲は僕に抱きついて言った。
「夢は所詮夢!現実には敵わない!」
咲にとって夢よりも現在の方が重要らしい。
咲が着替えるのを待って朝食を食べに行った。
朝食を食べ終えるとチェックアウトの時間まで時間を潰す。
慌てて出ることもないだろう。
二人で寛ぐ。
「あんたまさか今夜からバイトなんて真似してないでしょうね?」
「まさか!ちゃんとカレンダーに書き込んでおいたろ?」
「じゃあ、今夜は私が料理を振舞ってあげる」
「それは楽しみだ」
チェックアウトの時間になると部屋を出る。凄い並んでた。
帰りに寄りたいところがあるという。
咲に言われた通りファストフード店でドライブスルーで食べ物を買うと、駐車場に車を止めて防波堤に腰掛けて昼食を食べる。
「こんなのでいいの?」
「こんなのがいいのよ」
二人でゆっくりと時間を過ごす。
帰りに丹下夫妻と青い鳥にお土産を持っていた。
「ありがとうね」
一ノ瀬さんと中島君が礼を言う。
「ここで出逢えたことから全ては始まったんだよね?」
「いきなり水かけられたけどね」
「傷つけあう日もあったもんね」
咲は思い出すように笑う。
一緒にいたいととそう思えることが、まだ知らない明日へとつながっていく。
「咲は今でも僕と一緒にいたいと思ってるの?」
「思って無かったら今頃離婚届だよ!」
言葉は怒っているけど表情は笑顔だった。
「咲は変わったね。保証する。今の方がずっと素敵だよ」
「悠馬も変わったよ。私が保証する。今の悠馬がいるから今の私がいるんだよ」
二人でゆっくりコーヒーを飲んでそれから家に帰る。
そこからは日常が始まる。
変わった事。
それはなるべく夜は一緒に過ごす事。
会えない夜は決まって淋しさが襲うらしいから。
咲を不安にはさせたくない。
好きだから不安になる、そんな思いが悲しいらしいから。
甘えたいときは思いっきり甘えさせてやる。
そんな事しかできないけど。
そんな事が大事なんだと思った。
「悠馬、ご飯できたよ」
「わかった」
夏休みの間くらいは夜は一緒にいてあげよう。
そう思うことがまだ知らない明日へとつながっていくんだって知った。
(3)
やっと出来上がった。
今日はお披露目の時。
県庁のホールにはお偉い人がたくさん並んでる。
私と修ちゃんもその中にいる。
赤い布切れが外された。
片桐先輩が跳躍している時の瞬間をとらえたその像に拍手が送られた。
お偉い人の言葉を聞いて。そしてセレモニーは終わった。
まもなく油彩の方も終わる。
「次の作品はいつできるのかね?」
そんな質問を次々と受ける。
回答は修ちゃんがしてくれる。
そしてその日地元大学の修ちゃんの準備室による。
そこで油彩を書いてる。
『情熱』と修ちゃんに題してもらった物はまさに情熱に燃える片桐先輩を表していた。
そして私の情熱のありったけをキャンバスにぶつけていた。
時間を忘れる程没頭していると、気付くと辺りが暗くなっている。
「そろそろ帰ろうか?海未」
修ちゅんが言うと私は道具を片付ける。
家に帰るとまた私は絵を描き始める。
いつか見た風景。
薄紅色の雪が舞う悲しい風景。
でもいつか上手に笑える時が来るから。
そんな絵。
「海未夕ご飯で来たぞ」
修ちゃんがそう言うと私は片づけてご飯を食べる。
その後にお風呂に入って修ちゃんとテレビを見る。
ドラマを見ていた。
普通のドラマだった。
ただ、キスシーンがあった。
未来との話を思い出した。
どっちが先にキスするか勝負しようか?
未来がキスをしたという話は聞いてない。
エゴイストとやらの件でそれどころじゃなかったから。
何でもないキスシーンだった。
それを見て想っただけ。
私は修ちゃんの目を見つめる。
修ちゃんと目が合う。
「どうした?海未」
私は決心して聞いてみた。
「修ちゃんはキスしたことある?」
「そりゃあるさ、この歳でしたことないなんておかしいだろ?」
修ちゃんは笑っていた。
修ちゃんと飲んでいるお酒の勢いもあったのかもしれない。
「じゃあ、私はおかしいままなの?」
「どうした海未?」
私は合宿で会ったことを打ち明けた。
「結婚してるのにキスもまだなんておかしいって言われた。修ちゃんにとって私は何?」
私はそういう対象じゃないの?
修ちゃんは何も言わない。
「私まだ子供だから?」
私はもう大人だよ?
何か言ってよ?
「私は修ちゃんのお嫁さんだよ?」
修ちゃんは私を抱きしめる。
「そんなに慌てる事でもないだろ?」
「私は今修ちゃんとキスがしたい!」
「海未……目を閉じて」
私は目を閉じて修ちゃんを受け入れる準備をする。
修ちゃんの熱い口づけが待っていた。
「どうだ?初めてのキスは?」
修ちゃんは笑っていた。
ちょっとタバコの香りがした。
「タバコ臭かった」
「ブレスケアするべきだったな。すまん」
そう言って修ちゃんは笑っていた。
私は部屋に戻り寝る準備をする。
コンコン
修ちゃんがノックする。
「入っても良いか?」
「いいよ」
修ちゃんは枕をもって私の部屋に来た。
「どうせだからたまには一緒に寝るか?」
そう言って笑ってた。
私は黙ってうなずいた。
修ちゃんに包まれて寝る。
結婚して以来初めての体験。
それ以上は無かった。
それは式を挙げてからの楽しみにしていようと思ったから。
今日は一歩前進出来た。
それだけでよしとしよう。
初めて一緒に夜を過ごした。
(4)
「お疲れ様でした!」
「送るよ新名さん」
最近はずっと椎名さんが家まで送ってくれる。
けど、この日はちょっと違った。
お店でご飯を食べて、展望台に行って夜景を見る。
どうしたんだろう?
「綺麗だろ?」
椎名さんが言う通り別府の夜景は綺麗だった。
「どうしてこんなところに?」
私は椎名さんに聞いていた。
椎名さんは黙っていた。
「君と初めてデートした場所だよ」
あれをデートと呼ぶのだろうか?
「そうですね」
世間では拉致と言うと思うんだけど。
「僕も初めて女性をこの場所に連れて来たのは君が初めてだったんだ」
「そうだったんですね」
辺りを見回す。
皆腕を組んだり抱き合ったり当たり前の愛し方をしていた。
私達もその中にいつの間にか溶け込んでいた。
椎名さんは私の肩を抱きよせる。
それを受け入れる私。
そうか、今がその時なんだ。
私は悟った。
それを彼が望んでいる。
そして私も……。
私は椎名さんを見て目を閉じる。
椎名さんの顔が近づいてくるのが分かった。
眼鏡、邪魔にならないのかな。
心配いらなかったようだ。
初めてのキスはタバコの香りがした
苦くて切ない香り。
立ち止まる時間が動き出そうとしている。
忘れたくない事ばかり。
明日の今頃には私はきっと笑ってる。
あなたを想って笑っている。
キスが終ると、私は紅潮していた。
「初めてだった?」
椎名さんは笑っている。
私はこくりとうなずいていた。
「どうだった?」
「タバコ止めた方が良いと思います」
「それは手厳しいな」
椎名さんは笑っている。
椎名さんは電話している。
「あ、俺です。椎名です。はい、今未来さんと一緒にいます。今夜うちに泊まってもらおうと思って。はい、すいません」
え?私なにも準備してないよ?
心の準備だってまだ……。
椎名さんは電話を終えていた。
「いいってさ」
「良いって言われても私なにも準備してない」
着替えすら……。
「朝には送るから」
たまに強引なところがある、彼の性格。
でもいやじゃない。
ただ……。
「どうして今日なんですか?」
「特に意味は無いよ?明日は君のオフだって聞いたから」
「……初めてなんですよ?記念日とかにしたいとかあるじゃないですか」
「記念日は決められている日じゃない。その日が記念日になるんだって誰かが言ってた気がするけど」
「……わかりました」
「じゃ、そろそろ行こうか?」
「あの、どうしてここに?」
「君の初めてのキスの場所……考えてあげただけ」
「どうして今日なんですか?」
「勝負してたんだろ?どっちが先にキスするか?」
そう言って椎名さんは笑った。
この日を刻んでおこう。
海未ちゃんにキスしたことを伝えたら海未ちゃんも今日したって言ってた。
こういう勘はするどいんだね。椎名さん
(5)
冬夜先輩や多田先輩の懸念してたことがわかった。
可愛らしいキャラクターのアトラクションやグッズが売ってあり、女性陣はキャーキャー騒いでいる。
パレードがあると写真を撮るのに女性陣が群がる中男性陣は近くの花壇に腰掛けて項垂れている。
春奈も一生懸命に記念写真を撮ってる。
「晴斗も一緒に撮ろう?」
そう言われればマスコットのぬいぐるみを着た人と一緒に一枚写真を撮る。
冬夜先輩が撮ってくれた。
アトラクションは自由行動で乗ることになった。
奈留と公生には石原夫妻が付き添っていたけど。
石原先輩のボディガード付なら一番安全だと思う。
多田先輩に言われた言葉。
「どんなことがあっても笑顔でいろ」
その心配は無かった。
こんなにはしゃいでる春奈を見るのは初めてかもしれない。
女性の憧れの場所。そんなところだった。
園内が案外広い。
しかし春奈は関係なく色々な場所を見て回る。
俺は少し疲れてきた。
どんなことがあっても笑顔でいろ
こういう事か?
春奈が癒しになると言えどもさすがにうんざりするこの遊園地。
食事までご丁寧に可愛らしいデザインになっていた。
嬉しそうに写真を撮る春奈。
春奈の趣味ってこういうのなのだろうか?
「春奈はこういうのが好きなんすか?」
「晴斗はこういうの苦手?」
不安にさせてしまったかもしれない。
「そ、そんなことないっすよ?」
「じゃあ、もう一周しよう?」
まじか!?
「いいっすよ」
笑って誤魔化す。
今日一日が試練の日だった
最後に観覧車に乗る。
時間的にもこれがラストだろう。
一瞬の気のゆるみが出てしまう。
ため息を吐く。
慌てて息を止める。
だけど春奈は見逃してくれなかった。
「晴斗は楽しくなかった?」
淋しそうな目で俺を見る春奈。
「そ、そんなことないっすよ。春奈とならどこへ行っても楽しいっす」
「じゃあ、また来ようね」
シーズンによってパレードの内容違うみたいだし。と春奈は言う。
「了解っす」
元気に答えた。それが精一杯の俺に出来る事。
「冗談だよ。晴斗無理してるのくらい私にもわかる」
バレバレだった。
気まずい空気が流れたかと思った。
「だからつい意地悪したくなったの?焦る晴斗を見たくて」
へ?
「いつもそう、晴斗は私を楽しませてくれようと無理してる。私の事を思ってしてくれてるんだって嬉しく思う」
「だったらまた来ても大丈夫っす」
「次は晴斗の行きたいところに行きたい」
「俺のっすか?多分春奈が行ってもつまんないっすよ」
「晴斗の世界、私も共有したい」
春奈がそう言う。
「晴斗はどこに行ってみたいの?」
「彼女と行ってみたかったところっす」
「どこ?」
「水族館」
「え?」
春奈には意外だったようだ。驚いている。
そしてこう言った。
「よかった、そこは私も『彼と行ってみたかった場所』だから」
それは良かった。
春奈は突然俺の隣に座るとキスをしてきた。
突然の事に驚く俺。
そんな俺にキスを終えた。彼女が一言。
「今日は一日お疲れ様」
その一言でどれだけ癒される事か。
「でも突然どうしたんすか?」
元の位置に座りなおす春奈に聞くと一つ下の籠に乗っているカップルを指す。
正に今キスをしている二人だった。
「観覧車ってそういう乗り物なのかと思って。違った?」
ある意味当ってるかもしれない。
2人だけの時間を共有する場所。
観覧車を降りると集合場所に向かう。
「待って」
春奈がそう言って俺が立ち止まると春奈は俺の腕に組みつく。
「少しくらい待ってくれるよ」
「そうっすね」
ゆっくりと周りを見ながら歩いて帰っていった。
(6)
僕達は今お土産屋さんの前に立って待っている。
なんとなく誠達と一緒に行動していた。
するとほかのカップルも集まってくる。
女性陣は中で和気藹々とグッズを見て回ってる。
「相変わらず変わらねーなここも」
誠が呟く。
「……確かにね」
いい意味でも悪い意味でも。
パレードを見ていたのはほぼ女性。
男性陣はみな後ろの方で項垂れいている。
疲れ果てて立ち尽くす戦士の群れのようだ。
僕はまだ結婚していないし、誠達も子供を持っていないからまだいい。
子連れのお父さんは子供を肩車してなおかつカメラで撮影するという荒業をやってのける。
テンションの上がりっぱなしの女子供と反比例して疲れを隠せない男達。
それでも不愉快にさせまいと精一杯の笑顔で彼女に応える。
地獄絵図だ。
よくまあこんなテーマパーク作ったもんだと地元の男なら誰もが怨恨を持っているだろう。
「でも冬夜と誠君は前にも来たことあったみたいだが」
渡辺君が聞いてきた。
渡辺君もやや疲れ気味だ。
「俺は家族とですね。妹がはしゃいでるのをつまんなさそうに見てた記憶しかないな。デートコースには絶対入れないと思いましたね。彼女と来てそんな態度取ったら破滅の未来しか見えない」
だろうな……。
「冬夜はどうなんだ?」
「僕は愛莉と来たかな。まさに誠の言う通りだったよ。どうにかして愛莉にあわせようと必死だった記憶がある」
「冬夜も苦労してるんだな……」
「……今もしてるけどね」
「冬夜君!選ぶの手伝って~」
ほらね。
「がんばれ~」
生気のこもってない誠の声援に押されて店の中に入る。
だが餌食になるのは僕だけじゃなかったようだ。
「誠、てか男共なにやってんだ。少しは一緒に選ぶとかすることあるだろ!ぼーっとしてんじゃねーよ!」
神奈が言うと皆のろのろと歩く。
渡辺君は苦笑していた。
店の中は大混乱だった。大人子供問わずみなが色んなマスコットキャラクターのグッズを物色する。
人混みにもくちゃにされながら買い物をする。
「冬夜君どっちがいいと思う?」
ここで「どっちでもいいよ」と言おうものなら確実に愛莉の機嫌を損ねる。
愛莉の中に入るという特殊技能を駆使して選んでやる。
「やっぱりこっちだよね。でもさ、こっちも気になるんだよね~」
「もう両方買っちゃえよ」なんて言葉は絶対使用したらいけない地雷だ。
言ったら最後「私との買い物そんなにつまんない!?」と機嫌を損ねる原因になる。
そんな地雷を酒井君は踏み抜いてしまったらしい。
不貞腐れる晶さんを宥めるのに必死になっていた。
こういう時はやはり特殊技能を用いて店の中を見る。
これだと思ったぬいぐるみを選んで「これが一番いいんじゃないか?」という、ストレートに言うんじゃない。
「適当に選んだでしょ!?」って怒られるから。
悩むふりをしてチョイスするのが肝心。
「ああ、冬夜君もそう思う?私もそれ気になってたんだ。じゃあ、これにするね」
愛莉はそれを持ってレジに並ぶ。こっちは作戦成功。
皆を見る。皆上手くやれてるみたいだ。
「愛莉、店の外で待ってるからな」
「は~い」
公生と奈留はというと。
「こんな子供じみたの要らない!」
「そんな事無いよ。このキーホルダーとかお揃いで使うと良いんじゃない?」
「公生は恥ずかしくないの?」
「奈留とペアで使うのって恥ずかしい事?」
「公生がそこまで言うなら買うよ」
「ああ、僕が買うから」
公生は女子の扱いになれてるらしい。
店の外に出ると先に晴斗が出ていた。
疲れて項垂れている。
「どうしたの?」
「……今日はもう燃え尽きたっす」
……ご愁傷様。
皆が買い物を済ませると店から出てきた。
みんな揃ったところでテーマパークを出る。
駐車場で渡辺君が言う。
「二日間お疲れ様、別府のファミレスで夕食食って解散にしようと思うけど良いか?白鳥さんもいるし別府がいいだろ」
渡辺君の提案に皆が賛成していた。
そしてファミレスで夕食を食べると、皆解散していった。
僕達も家に帰る。
「ねえ?冬夜君」
「どうしたの?」
「男の人ってああいうテーマパーク嫌なの?」
選択肢をミスれば愛莉が激怒する。
「そ、そんな事は無いと思うけど、どうしてそう思ったの?」
「だって最初に行った遊園地の時よりみんなテンション下がってたよ?疲れていたのかもしれないけど……」
「まあ苦手ってことはないけど大好きって男の人もそんなにいないと思うよ」
「って事は冬夜君も好きじゃないんだ!」
ああ、選択ミスったかも。
「……今度から冬夜君とデートするときはあのテーマパークは除外だね」
愛莉は笑ってそう言った。
「ごめん」
「謝らなくてもいいよ、いつも冬夜君私にあわせてくれるし。……昔あのテーマパークに行ったこと覚えてる?」
忘れられるはずがない。デートというものがトラウマになりかねない大惨事だったのに。
「あの時さ、冬夜君もっと詰まらなさそうな顔してた。普段からやる気なさそうだったけど。私とデートする事ってそんなにイヤな事なのかな?って」
「そんなわけないだろ」
「うん、今日もあのテーマパーク行くって言った時にえ!?って顔してたからちょっと怖かったんだ。冬夜君嫌いなのかな?って」
そういうことね。
「あの時から私達変わったんだね」
愛莉が寂しそうな顔をしている。
どうしたんだろ?……なるほどね?」
「変わったね」
「やっぱり……」
「愛莉を想う気持ちは強くなる一方だよ」
愛莉の表情が笑顔に変わる。
「私も冬夜君を想う気持ち強くなってるよ」
「ありがとう」
「当然の事だもん」
愛莉の機嫌はよくなったようだ。
家に帰りつくと荷物を下ろして家に入る。
「おかえり~」と両親が言うのを聞いてお土産を渡して部屋に戻る。
愛莉は着替え等を整理している。
そんな愛莉を見て言う。
今夜くらいいっか?
「愛莉一緒にお風呂入ろうか?」
愛莉は僕を見上げて言う。
「良いの?」
「愛莉が嫌じゃなければ」
「嫌って言うわけないじゃない!急いで準備しなくちゃ!冬夜君の気が変わらないうちに」
ゆっくりでいいよ。もうその気だから。
僕と愛莉の中で世界はとっくに調和しているんだろう。
それは少しずつ成長している。
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