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4thSEASON
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(1)
「おはよう冬夜君、時間だよ~」
愛莉の声で目が覚める。
いつもより時間が早い。
「今日から学校だよ~。ささっと日課済ませちゃわないと」
そうだったね。今日から後期が始まる。
着替えると急いで日課を済ませる。
日課を済ませるとシャワーを浴びて朝食を食べる。
その後はコーヒーを入れて部屋に持って行く。
愛莉を待っている間にテレビを見る。
相変わらず話題は尽きないようで、ユニティとアーバニティの抗争について取り上げられていた。
肝心のアーバニティの施設破壊については何も取りあげられなかったが。
既に3か所の施設を破壊した。
だけどまだ無数にあるようだ。
人が集まってない場所を狙った。
それは誠君特製ウィルスがGPS機能を使ってアーバニティの関係者が集まっている場所を特定してくれるので簡単に割り出せた。
捕まえたアーバニティの兵隊を奪還しようとする動きは全く見えない。
それが僕達を困惑させる。
まるでいくらでも情報を取ってくださいと言わんばかりの行動。
彼等は「ワンド」と言われる部隊に所属してるらしい。
話だとやはり4部隊に別れている。
ペンタクル・カップ・ソード・ワンドの4部隊。
その上にいくつかの職位があるのだとか?
想像通りの構成だった。
想定外なのは彼らが何も仕掛けてこない事。
工藤さんの件が無かったら今回の件も発展しなかっただろう。
それでも公生たちには仕掛けてくる。
公生たちは余程重要な手がかりを持っているらしい。
この期に及んで公生たちを疑っているわけではないけどやはり公生の握ってる情報が気になる。
なんとなく察しはつくけど。
公生の事はテレビに取りざたされてなかった。
一方的にユニティがアーバニティに仕掛けている。
そんな記事ばかりだった。
ユニティの評判を敢えて貶めている?
そう考えてると須藤グループのマスコミに対する影響力は多大なものなのだろう。
どこかの芸能プロダクションでも抱えている?
そんな考えも生まれていた。
まあ、誠と公生が割り出してくれるだろう。
愛莉が戻ってきた。
慌ててブラウザのタブを閉じる。
「何見てたの~?」
愛莉がノーパソの画面をのぞき込む。
愛莉のしっとりした髪の毛からシャンプーの匂いが漂う。
「今週末愛莉の誕生日だろ?愛莉に何買ってやろうかって迷っててさ」
あらかじめ用意してあったプレゼントのページを見せる。
「う~ん。冬夜君が選んでくれたものなら何でも嬉しいよ。って思うけどそれだと冬夜君困っちゃうよね」
愛莉も悩み始めた。
「じゃあ、また一緒に探そう?私はそれでいいから。デパートとかで良さそうの探そうよ」
「それでいいの?」
「うん」
愛莉は満面の笑みでうなずいた。
「前から言ってるけど冬夜君と街ブラデート楽しいよ。最近バスケとかサークルの抗争とかで全然デートできてなかったし」
「ごめん」
「冬夜君のせいじゃないんだから気にしないで」
愛莉はそう言って着替えを始めて化粧を始める。
そんな愛莉をみながらコーヒーを飲み時間を潰す。
愛莉がカフェオレを飲み終わると愛莉はマグカップを片付け、そして僕との時間を楽しむ。
「服が皴になるから駄目だよ~」とか「折角髪セットしたのに~」とか不満を言いながらも僕とのスキンシップを楽しむ愛莉。
そんな時間があっという間に過ぎて学校に行こうと家を出ると異様な事態に包まれていた。
沢山の報道カメラマンが押し掛ける中、恵美さんがよこしてくれた兵隊が道を開けてくれる。
「報道の自由を侵害するな!」と他人のプライバシーを侵害する連中が喚いてる中。僕達は車に乗り込む。
「本当にしつこい連中だね!」と不満を漏らす愛莉。
「それで飯食ってるんだからしょうがないだろ」と愛莉を宥める。
学校に着くと授業を受けて、昼休みに学食に集まる。
今日もユニティのメンバーは元気に学校に来てた。
皆の所にもマスコミはおしかけていたらしい。
美嘉さんがマジ切れして宥めるのに大変だったと渡辺君が笑う。
「雑魚より質が悪いコバンザメだわ」
相変わらず辛辣な評価の恵美さん。
「雑魚と言えば咲も雑魚が減ったわね?」
晶さんが言う。
「さすがに亭主がいるって言ったらみんな幻滅するでしょ」
咲さんが笑う。
「でも悪い気はしないでしょ?」
恵美さんが言う。
「そうですね、旦那が見てくれてるならそれでいい。それだけに幸せになれる。今ならそれが分かる気がします」
咲さんはそう答える。
咲さんも変わったな。
「え?本当に!?わかった。俺からも連絡してみる」
電話を終えた中島君の顔色が悪い。
「中島君や。どうかしたのかい?」
酒井君が中島君に聞いていた。
「穂乃果が学校に来てないらしい」
「え?」
中島君の言葉に反応したのは愛莉だった。
「昨日まで普通だったのに……」
まさか、また攫われた?
それはないはずだ。
だってちゃんと恵美さんが兵隊をつけてるはず。
中島君が穂乃果に電話する。
「もしもし、穂乃果!?今どこ!?え!?病院!?」
とりあえず穂乃果さんと連絡は取れたようだ。
病院て言葉にぴくっとしたけど。
やっぱり襲撃された?
答えは半分当ってた。
「穂乃果の親父さんが何者かに襲われて昨日西松病院に緊急搬送されたらしい。昨夜から意識が戻らなくてずっと看病してるって」
中島君はこぶしを握り締めていた。
「まさか一ノ瀬さんのお父さんを狙ってくるとはな」
渡辺君もやっぱり怒りを露にしている。
アーバニティの……須藤グループの報復?
「帰りに見舞いに行かないか?冬夜」
「そうだね、聞きたい事もあるし……」
僕は同意する。
相談の結果僕と愛莉、渡辺君と中島君、恵美さんと晶さんの6人で行くことにした。
それ以上で行くのはかえって、迷惑になると思ったから。
(2)
あの日以来僕達はますます疎外感を受けていた。
暴走族との対立。
それは教諭からも避けられる対象になった。
腫れ物に触る扱い。
僕はまだいい。問題は奈留だ。
教室の黒板に「おまえらもう学校に来るな!」と書かれてあった時は唖然とした。
その次に芽生えてきたのは怒り。
ただ手の指の爪を噛んで、一生懸命に黒板に書かれた落書きをけす奈留を見ている事しかできなかった。
怒りをぶちまけてしまえば楽になる。
しかしそれは奈留にさらなる試練を与えることになりかねない。
「時間が経てば皆飽きる」
奈留はそう信じて必死に耐えてる。
しかし次の日奈留は具合が悪いと言い出した。
「今日は学校に行きたくない」と……。
江口家の人と相談した結果今日は休ませることになった。
しかし次の日も奈留はやはり具合が悪いと言う。
それが仮病だという事も分かっていた。
念のため病院に行こうと奈留に声をかけるも奈留は拒絶する。
そんな時、江口グループの総裁。恵美のお父さんが奈留の部屋に訪れた。
「着替えなさい、外で待ってる。学校に行こう」と恵美のお父さんは言う。
無言で首を振る奈留。
奈留の体は微かに震えている。
「どこも悪くないなら君を学校に行かせてあげなければならない、これは『親』の義務だ」と恵美のお父さんは言う。
「私のお父さんはいません」
「知ってる。だからおじさんがこれからお父さんだ」
恵美のお父さんは笑って言う。
「この世で一番強いのは悪だ。強大な悪の力には誰も抗えない。それでも必ず最後に勝つのは愛や正義だと信じてる。何故だか分かるかい?」
奈留は首を振る
「それはね、どんなに逆境に陥っても、踏みつけられても傷ついても最後まで諦めないからだよ。私はそう信じてる。いつか奈留の今の苦労も報われるときがくる。そう信じて戦わなければならない」
「戦う?」
「そう、恵美や公生も戦ってる。巨大な悪。人間の負の感情に踏みつぶされても這い上がる力を正義には与えられている。それは一人だけの者じゃない皆で共有出来る事だよ」
「……僕もおじさんの意見に賛成だよ。逃げてちゃだめだ。戦わなきゃ。奈留が負けそうになったら僕が助けてあげる。真っ先に駆け付けてあげるから」
「公生……おじさん……私……ごめんなさい」
泣く奈留をあやすおじさん。
奈留が落ち着くとおじさんは部屋を後にする。
「おじさん、ありがとうございます」
「心配はいらんよ。娘もそうだった。私が娘の負担になって虐められたことがあってね、同じことを娘に教えたよ」
そういっておじさんは笑う。
「君たちが何も悪い事をしてないとは言わない、今はその過去を清算するときだ。きっと光が差すときがくる。星と月と太陽は君たちにも光を与えてくれる」
そう言っておじさんは去っていった。
着替えた奈留が部屋から出てきた。
「公生……ごめんなさい。学校に行こ?」
「そうだね」
僕達は学校に向かう。
奈留の体は震えてるけど。僕がちゃんと手を繋いでやる。
奈留にとって学校は巨大な壁だろう。
だけどそんな壁僕がぶち壊してやるから。
必ず正義が勝つ。
そう信じて。
(3)
西松医院に6人で行った。
中には看病する一ノ瀬さんと一ノ瀬さんのお母さん。そして深雪さんがいた。
「損傷は酷いけど命に別状はない。峠はとっくに越えてるわ」
深雪さんが説明する。
「いったい何があったの?」
病室の外で、僕が深雪さんに聞いていた。
「高所作業中に足場から落ちたらしいわ」
なぜ安全帯をしていなかった?
なぜ全身に打撲があるのか?
ただ単に足を滑らせたにしては不自然な点がいくつもある。
深雪さんはそう解説する。
「それと警察の人が話をしていたんだけど、不審な黒塗りの車両が何台かいたそうよ」
「やっぱりアーバニティの仕業と見た方がよさそうか?」
「現場はアーバニティの……須藤グループの母体のゼネコン企業が管理してるわ」
すると、サラリーマン風のスーツの男が僕達に礼をして中に入っていった。
話を元に戻す。
「やはりアーバニティの報復か……こういう手段でくるとは思わなかったな」
「どうするの渡辺君?仕掛けたのはこちらからとはいえ、もう黙って指をくわえている必要もないはずよ?」
「そうだな……」
思案する渡辺君。
ここまで来たら情報を警察に提供してアーバニティを一斉取締りって手段も出来ないことは無い。
「それじゃ、つまらないわね。やられっぱなしでいるのは性分じゃないのよ」
「恵美と同感ね。こういう奴らほどひねりつぶしてやらないと気が済まないわ」
恵美さんと晶さんが言う。
「いい加減にしてください!主人が悪いと仰るのですか!?こんな目にあってるんですよ!」
一ノ瀬さんのお母さんが喚いている。
何事かと皆病室に入る。
「お母さん落ち着いて、他の患者さんもいますから」
「先生聞いてくださいこの人達……」
一ノ瀬さんのお母さんが語る。
物騒な車が現場に出入りして現場が落ち着かない。
作業に差支えが出る。
親会社からもクレームが出てる。
だから、長期休暇を取ってくれないか?
あと事故の事は労基に出てこられると面倒だから内密に。
治療費と慰謝料は払う。
反吐が出る話だ。
「すいません、私共も社員の生活がかかってる。ここで元請け企業に切り捨てられたら会社は倒産だ。こらえてくれ」
「納得いきません!悪いのはその物騒な車じゃないですか!?主人は悪くない」
悲痛な叫びをする一ノ瀬さんのお母さんを晶さんが宥める。
「失礼ですが、ご主人の職業は?」
「塗装工です。数十年会社の為に尽くしてきました?」
「それなら心配いらないわ。私の父の協力企業でベテランの塗装工を探してる会社があります。かなり優良な企業です。転職をお勧めしますよ。こんな薄情な企業に拘る必要もないでしょ?どうせ『数年以内に倒産する』会社」
「あ、あなたは一体……?」
「申し遅れました。私酒井晶と申します。結婚しまして、旧姓は志水といいますの」
「し、志水!?まさか」
サラリーマン風の男は狼狽えている。
そんな男に構わず晶さんは話を続ける。
「失礼ですが現在お勤め先の会社は?」
「矢澤建工です」
「ああ、なるほど。よく覚えておきますわ」
晶さんが会社の名前を覚える頃にはサラリーマン風の男は退室していた。
「い、今の話本当ですか?」
ベッドで寝ていた一ノ瀬さんのお父さんが起き上がる。
「お父さん!」
「あなた!大丈夫なの!?」
「今の騒ぎで目が覚めたよ……それよりこの人たちは」
「私の仲間だよ」
一ノ瀬さんが説明する。
「それは娘がいつもお世話に……」
一ノ瀬さんのお父さんが一礼する。
「気にしないで、もとはと言えば私達に責任があるんだから。後始末はきっちりつけるわ」
「お、おい晶さん……」
渡辺君が何か言おうとするがそれを遮るように恵美さんがも続けて言う。
「渡辺君、らしくないわよ。これまでもやってきたじゃない?自分でも言ったじゃない?やられたらやり返すのがユニティの流儀だと」
「こんな力に屈するほどユニティの力は弱い物じゃない。最後に立つ勝者は私達。違う?」
「……そうだな。負けるわけにはいかないな」
渡辺君の決心は固まったようだ。
私服警官がやってきた。一ノ瀬さんのお父さんの容体が回復したのを聞きつけたのだろう。
「悪いが関係者以外は出ていってくれないか?」
僕たちは退室した。
「事情聴取の内容なら後日深雪さんに聞けばいいさ」
僕は渡辺君の肩を叩く。
「冬夜、お前さっきからだんまり決め込んでるけど、お前はどう考えてるんだ?」
「正義に力を……じゃ、答えにならない?」
そう言ってにこりと笑う。
「この勝負俺達に正義がある。必ず勝とう!」
渡辺君がそう言った。
「先ずはどこから手をつけたらいいか?」
「まあ、さすがに関係者全員に兵隊をってわけにはいかないね」
「不可能ではないけど、効率的じゃないわね」
晶さんはそう言った。
藪をつついたら蛇が出る。
でもその蛇の出方が読めない。どうする?
やることは一つしかないか……。
誠がエンペラーの居場所を突き止めるまで出方を伺う?
それじゃ生温いか……。
ならこっちから動くか。
後手後手で手が回らないなら先に仕掛ける。
うん、それがよさそうだ。
「冬夜どうした?」
考え込む僕に話しかけてくる渡辺君。
「渡辺君、こういう時はそっとしておいてあげよう?冬夜君今入ってる」
「あ、なるほどな」
愛莉たちが話している頃に僕は口を開いた。
「恵美さん、須藤グループの関係企業全部洗える?」
「そういうのなら任せて」
「じゃあ、頼むよ」
次は……。
「愛莉にお願いがあるんだけど。愛莉パパと取引がしたい」
「多分大丈夫だと思うけど何を取引するの?」
「それはね……」
「お前本当にやる気なのか!?」
「被害を最小限度にとどめるには仕方ないよ」
「さすがに相手が悪すぎると思うんだが……」
「やられたらやり返すんだろ?」
折角出てきた蛇だ、力づくで押さえつけてやろうじゃないか
(4)
その日は冬夜君と誕生日デート。
冬夜君と駅ビルにお買い物。
誕生日プレゼントを一緒に選ぶの。
冬夜君はアクセサリを選ぼうとしたけど、もう一杯もらってどれつけたらいいか分からないよ。
冬夜君と色んな店を見て回る。
すぐに食べ物屋さんにつられる冬夜君もこの日ばかりは真面目に選んでくれた。
そんな買い物する時間が私にとっては最上の贈り物なのに。
そう言っても冬夜君は納得してくれないだろうな。
するとある物に目がついた。
お洒落なトートバッグ。
これならいつでも持ち歩けるし、ちょうど買い換え時かなと思っていたし、値段もお手頃。
一度やってみたかったんだ~
「冬夜君これ買って~♪」
冬夜君の腕を引っ張り強請ってみる。
「こんなのでいいの?」
戸惑ってる冬夜君だったけど、「これがいい~♪」と主張すれば買ってくれた。
夕食は冬夜君がお店を予約してくれた。
ちょっと洒落なお店。
去年は飲めなかったけど今年は安心して飲めるね。
冬夜君と楽しい一時はまだ終わらない。
予約してあったホテルで一泊する。
特別な日くらいホテルに泊まりなさいって言われてたもんね。えへへ~。
幸せな気分で夜を過ごす。
この日だけは私だけの事を考えてくれる。
冬夜君の中の私の世界。
凄く暖かくて気持ちがいい。
この日くれた冬夜君の最大の贈り物。それはあなた……。
冬夜君の世界が私を包む。
そんなに色んなものプレゼントされたらお返し困っちゃうよ~。
そんな幸せな気分で私の誕生日の夜を過ごした。
「愛莉、おはよう」
冬夜君の口づけで目を覚ます。
まだ私は夢の中にいるようだ。
服を着替えて、朝食を食べるとホテルをチェックアウトする。
その後は今日くらいはと街ブラデート。
色んな雑貨屋さんや洋服屋さんを見て回る。
そして家に帰る。
冬夜君の事だから家に帰っても優しいんだろうな。
いつも家事をすると困るのは冬夜君だから今日だけは冬夜君に甘えよう。
だからゲームなんかに夢中にならないでね?
私を見ていて。
車を止めると冬夜君は私の家に向かう。
「どうしたの?」
「いや、取引の件気になって……」
「そっか~」
「それ終わったら愛莉に構ってやるから」
「ありがとう♪」
冬夜君は私の家の呼び鈴を押す。
りえちゃんが出る。
「おかえりなさい……」
りえちゃんの様子がおかしい。
「とりあえずあがりなさい」
どうしたんだろう?
リビングに行くとパパさんがソファーに座っている。
パパさんの対面のソファーに冬夜君と腰掛けるとパパさん険しい表情で冬夜君を見ている。
冬夜君にもその緊張が伝わったようだ。
冬夜君ならパパさんの真意を読み取っているのだろう。
冬夜君は誠君から預かったUSBメモリを渡す。
「これに全証拠が入っています」
「……うむ」
パパさんはそれを受け取ると冬夜君に茶封筒を渡す。
「その中に言われた資料は入ってある……」
「ありがとうございます」
冬夜君はそれをバッグに仕舞う。
「……冬夜君、家には帰ったのかい?」
「いえ、先にこちらに伺おうと思って……」
「帰った方が良い。出来るだけ急いで」
「何かあったんですか?」
「う、うむ……」
パパさんの様子がおかしいのはそのせい?
私と冬夜君はすぐに冬夜君の家に向かう。
リビングには憔悴した冬夜君のパパさんが。
「父さんなにがあったの?」
「……麻耶が攫われた」
驚きのあまり紙袋を落した。
「あ、愛莉ちゃんは冬夜の部屋にもどっていてくれないかな?」
冬夜君のパパさんはそう言うけど私は拒んだ。
「愛莉にはどうせ話すから一緒だよ。詳しく話を聞かせてくれない?」
そう言って冬夜君は私をソファに座らせ自分も座る。
冬夜君のパパさんも座って話を始めた。
麻耶さんが買い物に行っていつまで経っても帰ってこない。
事故にあったのかと思って電話をかけても出ない。
2時間くらい経ってさすがに何かあったのではと不安になっていたとき麻耶さんからの着信が。
慌てて出る冬夜君のパパさん。
すると出たのは知らない男の人の声。
「あなたか片桐正人さん?」
「あんた誰だ!?」
「あまりこちらの事を詮索しない方が奥さんの為だと思うが?」
「あなたの息子さんの件で話がある?」
「冬夜の?」
「あなたの息子さんの悪戯のお蔭でこちらは迷惑を被っている。説得してくれないか?」
「正体も明かさないやつの言うことを聞くと思ったか?」
「これを聞いてもそれが言えるかな?」
「あなた!」
「麻耶!」
「要求は二つ、ユニティの解散、そして森羅公生と香崎奈留の身柄……取引場所はまずユニティの解散を確認してからだ」
「そんな要求はのめん!」
「飲まなければ奥さんの安否は保証しない。ではまた電話する」
電話はそれで終わった。
冬夜君は静かに話を聞いている。
「麻耶は俺の妻になった日からこうなる危険も覚悟していたはずだ。お前も動じることは無いぞ」
冬夜君のパパさんはそう言っていたけど顔がやつれている。
私も胸の鼓動が早くなってる。
冬夜君どうするの?
「わかったよ……心配いらない」
「冬夜君!?」
麻耶さんの命かかってるんだよ!?
そんなのんびりしていられるの!?
「じゃ、僕達部屋に戻るから……」
そう言って冬夜君は部屋に戻る。
「冬夜君、麻耶さんが心配じゃないの!?麻耶さんの命が危ないんだよ?」
怖くないの?
だけど冬夜君は黙って電話をしている。
「もしもし誠?今から言う電話番号逆探できるか?多分誠のウィルスには感染してると思うんだけど……ああ、今から言うぞ……」
何をするつもり?冬夜君。
「愛莉、疲れてるところ悪いんだけどお昼作ってくれないか?父さんもお腹空いてると思うし」
そのくらいするけど、そんな事言ってる場合なの?
「ついでに父さんに伝えてよ。『取引には応じる』って……」
え?ユニティ解散するの?
「……解散しちゃうの?」
「時間はかかるけど」
冬夜君は悔しくないの?そんな卑劣な手に乗るなんて。
「今必要なのは時間稼ぎ。こっちの手の内を明かさない事」
わかった!冬夜君は取引に応じるつもりはないんだね!
「……普通のインスタントラーメンでいい?」
「ああ、玉子入れてね」
「は~い」
そう言って冬夜君の部屋を出る。
卑劣なアーバニティ……。
絶対に許さないんだから!
「おはよう冬夜君、時間だよ~」
愛莉の声で目が覚める。
いつもより時間が早い。
「今日から学校だよ~。ささっと日課済ませちゃわないと」
そうだったね。今日から後期が始まる。
着替えると急いで日課を済ませる。
日課を済ませるとシャワーを浴びて朝食を食べる。
その後はコーヒーを入れて部屋に持って行く。
愛莉を待っている間にテレビを見る。
相変わらず話題は尽きないようで、ユニティとアーバニティの抗争について取り上げられていた。
肝心のアーバニティの施設破壊については何も取りあげられなかったが。
既に3か所の施設を破壊した。
だけどまだ無数にあるようだ。
人が集まってない場所を狙った。
それは誠君特製ウィルスがGPS機能を使ってアーバニティの関係者が集まっている場所を特定してくれるので簡単に割り出せた。
捕まえたアーバニティの兵隊を奪還しようとする動きは全く見えない。
それが僕達を困惑させる。
まるでいくらでも情報を取ってくださいと言わんばかりの行動。
彼等は「ワンド」と言われる部隊に所属してるらしい。
話だとやはり4部隊に別れている。
ペンタクル・カップ・ソード・ワンドの4部隊。
その上にいくつかの職位があるのだとか?
想像通りの構成だった。
想定外なのは彼らが何も仕掛けてこない事。
工藤さんの件が無かったら今回の件も発展しなかっただろう。
それでも公生たちには仕掛けてくる。
公生たちは余程重要な手がかりを持っているらしい。
この期に及んで公生たちを疑っているわけではないけどやはり公生の握ってる情報が気になる。
なんとなく察しはつくけど。
公生の事はテレビに取りざたされてなかった。
一方的にユニティがアーバニティに仕掛けている。
そんな記事ばかりだった。
ユニティの評判を敢えて貶めている?
そう考えてると須藤グループのマスコミに対する影響力は多大なものなのだろう。
どこかの芸能プロダクションでも抱えている?
そんな考えも生まれていた。
まあ、誠と公生が割り出してくれるだろう。
愛莉が戻ってきた。
慌ててブラウザのタブを閉じる。
「何見てたの~?」
愛莉がノーパソの画面をのぞき込む。
愛莉のしっとりした髪の毛からシャンプーの匂いが漂う。
「今週末愛莉の誕生日だろ?愛莉に何買ってやろうかって迷っててさ」
あらかじめ用意してあったプレゼントのページを見せる。
「う~ん。冬夜君が選んでくれたものなら何でも嬉しいよ。って思うけどそれだと冬夜君困っちゃうよね」
愛莉も悩み始めた。
「じゃあ、また一緒に探そう?私はそれでいいから。デパートとかで良さそうの探そうよ」
「それでいいの?」
「うん」
愛莉は満面の笑みでうなずいた。
「前から言ってるけど冬夜君と街ブラデート楽しいよ。最近バスケとかサークルの抗争とかで全然デートできてなかったし」
「ごめん」
「冬夜君のせいじゃないんだから気にしないで」
愛莉はそう言って着替えを始めて化粧を始める。
そんな愛莉をみながらコーヒーを飲み時間を潰す。
愛莉がカフェオレを飲み終わると愛莉はマグカップを片付け、そして僕との時間を楽しむ。
「服が皴になるから駄目だよ~」とか「折角髪セットしたのに~」とか不満を言いながらも僕とのスキンシップを楽しむ愛莉。
そんな時間があっという間に過ぎて学校に行こうと家を出ると異様な事態に包まれていた。
沢山の報道カメラマンが押し掛ける中、恵美さんがよこしてくれた兵隊が道を開けてくれる。
「報道の自由を侵害するな!」と他人のプライバシーを侵害する連中が喚いてる中。僕達は車に乗り込む。
「本当にしつこい連中だね!」と不満を漏らす愛莉。
「それで飯食ってるんだからしょうがないだろ」と愛莉を宥める。
学校に着くと授業を受けて、昼休みに学食に集まる。
今日もユニティのメンバーは元気に学校に来てた。
皆の所にもマスコミはおしかけていたらしい。
美嘉さんがマジ切れして宥めるのに大変だったと渡辺君が笑う。
「雑魚より質が悪いコバンザメだわ」
相変わらず辛辣な評価の恵美さん。
「雑魚と言えば咲も雑魚が減ったわね?」
晶さんが言う。
「さすがに亭主がいるって言ったらみんな幻滅するでしょ」
咲さんが笑う。
「でも悪い気はしないでしょ?」
恵美さんが言う。
「そうですね、旦那が見てくれてるならそれでいい。それだけに幸せになれる。今ならそれが分かる気がします」
咲さんはそう答える。
咲さんも変わったな。
「え?本当に!?わかった。俺からも連絡してみる」
電話を終えた中島君の顔色が悪い。
「中島君や。どうかしたのかい?」
酒井君が中島君に聞いていた。
「穂乃果が学校に来てないらしい」
「え?」
中島君の言葉に反応したのは愛莉だった。
「昨日まで普通だったのに……」
まさか、また攫われた?
それはないはずだ。
だってちゃんと恵美さんが兵隊をつけてるはず。
中島君が穂乃果に電話する。
「もしもし、穂乃果!?今どこ!?え!?病院!?」
とりあえず穂乃果さんと連絡は取れたようだ。
病院て言葉にぴくっとしたけど。
やっぱり襲撃された?
答えは半分当ってた。
「穂乃果の親父さんが何者かに襲われて昨日西松病院に緊急搬送されたらしい。昨夜から意識が戻らなくてずっと看病してるって」
中島君はこぶしを握り締めていた。
「まさか一ノ瀬さんのお父さんを狙ってくるとはな」
渡辺君もやっぱり怒りを露にしている。
アーバニティの……須藤グループの報復?
「帰りに見舞いに行かないか?冬夜」
「そうだね、聞きたい事もあるし……」
僕は同意する。
相談の結果僕と愛莉、渡辺君と中島君、恵美さんと晶さんの6人で行くことにした。
それ以上で行くのはかえって、迷惑になると思ったから。
(2)
あの日以来僕達はますます疎外感を受けていた。
暴走族との対立。
それは教諭からも避けられる対象になった。
腫れ物に触る扱い。
僕はまだいい。問題は奈留だ。
教室の黒板に「おまえらもう学校に来るな!」と書かれてあった時は唖然とした。
その次に芽生えてきたのは怒り。
ただ手の指の爪を噛んで、一生懸命に黒板に書かれた落書きをけす奈留を見ている事しかできなかった。
怒りをぶちまけてしまえば楽になる。
しかしそれは奈留にさらなる試練を与えることになりかねない。
「時間が経てば皆飽きる」
奈留はそう信じて必死に耐えてる。
しかし次の日奈留は具合が悪いと言い出した。
「今日は学校に行きたくない」と……。
江口家の人と相談した結果今日は休ませることになった。
しかし次の日も奈留はやはり具合が悪いと言う。
それが仮病だという事も分かっていた。
念のため病院に行こうと奈留に声をかけるも奈留は拒絶する。
そんな時、江口グループの総裁。恵美のお父さんが奈留の部屋に訪れた。
「着替えなさい、外で待ってる。学校に行こう」と恵美のお父さんは言う。
無言で首を振る奈留。
奈留の体は微かに震えている。
「どこも悪くないなら君を学校に行かせてあげなければならない、これは『親』の義務だ」と恵美のお父さんは言う。
「私のお父さんはいません」
「知ってる。だからおじさんがこれからお父さんだ」
恵美のお父さんは笑って言う。
「この世で一番強いのは悪だ。強大な悪の力には誰も抗えない。それでも必ず最後に勝つのは愛や正義だと信じてる。何故だか分かるかい?」
奈留は首を振る
「それはね、どんなに逆境に陥っても、踏みつけられても傷ついても最後まで諦めないからだよ。私はそう信じてる。いつか奈留の今の苦労も報われるときがくる。そう信じて戦わなければならない」
「戦う?」
「そう、恵美や公生も戦ってる。巨大な悪。人間の負の感情に踏みつぶされても這い上がる力を正義には与えられている。それは一人だけの者じゃない皆で共有出来る事だよ」
「……僕もおじさんの意見に賛成だよ。逃げてちゃだめだ。戦わなきゃ。奈留が負けそうになったら僕が助けてあげる。真っ先に駆け付けてあげるから」
「公生……おじさん……私……ごめんなさい」
泣く奈留をあやすおじさん。
奈留が落ち着くとおじさんは部屋を後にする。
「おじさん、ありがとうございます」
「心配はいらんよ。娘もそうだった。私が娘の負担になって虐められたことがあってね、同じことを娘に教えたよ」
そういっておじさんは笑う。
「君たちが何も悪い事をしてないとは言わない、今はその過去を清算するときだ。きっと光が差すときがくる。星と月と太陽は君たちにも光を与えてくれる」
そう言っておじさんは去っていった。
着替えた奈留が部屋から出てきた。
「公生……ごめんなさい。学校に行こ?」
「そうだね」
僕達は学校に向かう。
奈留の体は震えてるけど。僕がちゃんと手を繋いでやる。
奈留にとって学校は巨大な壁だろう。
だけどそんな壁僕がぶち壊してやるから。
必ず正義が勝つ。
そう信じて。
(3)
西松医院に6人で行った。
中には看病する一ノ瀬さんと一ノ瀬さんのお母さん。そして深雪さんがいた。
「損傷は酷いけど命に別状はない。峠はとっくに越えてるわ」
深雪さんが説明する。
「いったい何があったの?」
病室の外で、僕が深雪さんに聞いていた。
「高所作業中に足場から落ちたらしいわ」
なぜ安全帯をしていなかった?
なぜ全身に打撲があるのか?
ただ単に足を滑らせたにしては不自然な点がいくつもある。
深雪さんはそう解説する。
「それと警察の人が話をしていたんだけど、不審な黒塗りの車両が何台かいたそうよ」
「やっぱりアーバニティの仕業と見た方がよさそうか?」
「現場はアーバニティの……須藤グループの母体のゼネコン企業が管理してるわ」
すると、サラリーマン風のスーツの男が僕達に礼をして中に入っていった。
話を元に戻す。
「やはりアーバニティの報復か……こういう手段でくるとは思わなかったな」
「どうするの渡辺君?仕掛けたのはこちらからとはいえ、もう黙って指をくわえている必要もないはずよ?」
「そうだな……」
思案する渡辺君。
ここまで来たら情報を警察に提供してアーバニティを一斉取締りって手段も出来ないことは無い。
「それじゃ、つまらないわね。やられっぱなしでいるのは性分じゃないのよ」
「恵美と同感ね。こういう奴らほどひねりつぶしてやらないと気が済まないわ」
恵美さんと晶さんが言う。
「いい加減にしてください!主人が悪いと仰るのですか!?こんな目にあってるんですよ!」
一ノ瀬さんのお母さんが喚いている。
何事かと皆病室に入る。
「お母さん落ち着いて、他の患者さんもいますから」
「先生聞いてくださいこの人達……」
一ノ瀬さんのお母さんが語る。
物騒な車が現場に出入りして現場が落ち着かない。
作業に差支えが出る。
親会社からもクレームが出てる。
だから、長期休暇を取ってくれないか?
あと事故の事は労基に出てこられると面倒だから内密に。
治療費と慰謝料は払う。
反吐が出る話だ。
「すいません、私共も社員の生活がかかってる。ここで元請け企業に切り捨てられたら会社は倒産だ。こらえてくれ」
「納得いきません!悪いのはその物騒な車じゃないですか!?主人は悪くない」
悲痛な叫びをする一ノ瀬さんのお母さんを晶さんが宥める。
「失礼ですが、ご主人の職業は?」
「塗装工です。数十年会社の為に尽くしてきました?」
「それなら心配いらないわ。私の父の協力企業でベテランの塗装工を探してる会社があります。かなり優良な企業です。転職をお勧めしますよ。こんな薄情な企業に拘る必要もないでしょ?どうせ『数年以内に倒産する』会社」
「あ、あなたは一体……?」
「申し遅れました。私酒井晶と申します。結婚しまして、旧姓は志水といいますの」
「し、志水!?まさか」
サラリーマン風の男は狼狽えている。
そんな男に構わず晶さんは話を続ける。
「失礼ですが現在お勤め先の会社は?」
「矢澤建工です」
「ああ、なるほど。よく覚えておきますわ」
晶さんが会社の名前を覚える頃にはサラリーマン風の男は退室していた。
「い、今の話本当ですか?」
ベッドで寝ていた一ノ瀬さんのお父さんが起き上がる。
「お父さん!」
「あなた!大丈夫なの!?」
「今の騒ぎで目が覚めたよ……それよりこの人たちは」
「私の仲間だよ」
一ノ瀬さんが説明する。
「それは娘がいつもお世話に……」
一ノ瀬さんのお父さんが一礼する。
「気にしないで、もとはと言えば私達に責任があるんだから。後始末はきっちりつけるわ」
「お、おい晶さん……」
渡辺君が何か言おうとするがそれを遮るように恵美さんがも続けて言う。
「渡辺君、らしくないわよ。これまでもやってきたじゃない?自分でも言ったじゃない?やられたらやり返すのがユニティの流儀だと」
「こんな力に屈するほどユニティの力は弱い物じゃない。最後に立つ勝者は私達。違う?」
「……そうだな。負けるわけにはいかないな」
渡辺君の決心は固まったようだ。
私服警官がやってきた。一ノ瀬さんのお父さんの容体が回復したのを聞きつけたのだろう。
「悪いが関係者以外は出ていってくれないか?」
僕たちは退室した。
「事情聴取の内容なら後日深雪さんに聞けばいいさ」
僕は渡辺君の肩を叩く。
「冬夜、お前さっきからだんまり決め込んでるけど、お前はどう考えてるんだ?」
「正義に力を……じゃ、答えにならない?」
そう言ってにこりと笑う。
「この勝負俺達に正義がある。必ず勝とう!」
渡辺君がそう言った。
「先ずはどこから手をつけたらいいか?」
「まあ、さすがに関係者全員に兵隊をってわけにはいかないね」
「不可能ではないけど、効率的じゃないわね」
晶さんはそう言った。
藪をつついたら蛇が出る。
でもその蛇の出方が読めない。どうする?
やることは一つしかないか……。
誠がエンペラーの居場所を突き止めるまで出方を伺う?
それじゃ生温いか……。
ならこっちから動くか。
後手後手で手が回らないなら先に仕掛ける。
うん、それがよさそうだ。
「冬夜どうした?」
考え込む僕に話しかけてくる渡辺君。
「渡辺君、こういう時はそっとしておいてあげよう?冬夜君今入ってる」
「あ、なるほどな」
愛莉たちが話している頃に僕は口を開いた。
「恵美さん、須藤グループの関係企業全部洗える?」
「そういうのなら任せて」
「じゃあ、頼むよ」
次は……。
「愛莉にお願いがあるんだけど。愛莉パパと取引がしたい」
「多分大丈夫だと思うけど何を取引するの?」
「それはね……」
「お前本当にやる気なのか!?」
「被害を最小限度にとどめるには仕方ないよ」
「さすがに相手が悪すぎると思うんだが……」
「やられたらやり返すんだろ?」
折角出てきた蛇だ、力づくで押さえつけてやろうじゃないか
(4)
その日は冬夜君と誕生日デート。
冬夜君と駅ビルにお買い物。
誕生日プレゼントを一緒に選ぶの。
冬夜君はアクセサリを選ぼうとしたけど、もう一杯もらってどれつけたらいいか分からないよ。
冬夜君と色んな店を見て回る。
すぐに食べ物屋さんにつられる冬夜君もこの日ばかりは真面目に選んでくれた。
そんな買い物する時間が私にとっては最上の贈り物なのに。
そう言っても冬夜君は納得してくれないだろうな。
するとある物に目がついた。
お洒落なトートバッグ。
これならいつでも持ち歩けるし、ちょうど買い換え時かなと思っていたし、値段もお手頃。
一度やってみたかったんだ~
「冬夜君これ買って~♪」
冬夜君の腕を引っ張り強請ってみる。
「こんなのでいいの?」
戸惑ってる冬夜君だったけど、「これがいい~♪」と主張すれば買ってくれた。
夕食は冬夜君がお店を予約してくれた。
ちょっと洒落なお店。
去年は飲めなかったけど今年は安心して飲めるね。
冬夜君と楽しい一時はまだ終わらない。
予約してあったホテルで一泊する。
特別な日くらいホテルに泊まりなさいって言われてたもんね。えへへ~。
幸せな気分で夜を過ごす。
この日だけは私だけの事を考えてくれる。
冬夜君の中の私の世界。
凄く暖かくて気持ちがいい。
この日くれた冬夜君の最大の贈り物。それはあなた……。
冬夜君の世界が私を包む。
そんなに色んなものプレゼントされたらお返し困っちゃうよ~。
そんな幸せな気分で私の誕生日の夜を過ごした。
「愛莉、おはよう」
冬夜君の口づけで目を覚ます。
まだ私は夢の中にいるようだ。
服を着替えて、朝食を食べるとホテルをチェックアウトする。
その後は今日くらいはと街ブラデート。
色んな雑貨屋さんや洋服屋さんを見て回る。
そして家に帰る。
冬夜君の事だから家に帰っても優しいんだろうな。
いつも家事をすると困るのは冬夜君だから今日だけは冬夜君に甘えよう。
だからゲームなんかに夢中にならないでね?
私を見ていて。
車を止めると冬夜君は私の家に向かう。
「どうしたの?」
「いや、取引の件気になって……」
「そっか~」
「それ終わったら愛莉に構ってやるから」
「ありがとう♪」
冬夜君は私の家の呼び鈴を押す。
りえちゃんが出る。
「おかえりなさい……」
りえちゃんの様子がおかしい。
「とりあえずあがりなさい」
どうしたんだろう?
リビングに行くとパパさんがソファーに座っている。
パパさんの対面のソファーに冬夜君と腰掛けるとパパさん険しい表情で冬夜君を見ている。
冬夜君にもその緊張が伝わったようだ。
冬夜君ならパパさんの真意を読み取っているのだろう。
冬夜君は誠君から預かったUSBメモリを渡す。
「これに全証拠が入っています」
「……うむ」
パパさんはそれを受け取ると冬夜君に茶封筒を渡す。
「その中に言われた資料は入ってある……」
「ありがとうございます」
冬夜君はそれをバッグに仕舞う。
「……冬夜君、家には帰ったのかい?」
「いえ、先にこちらに伺おうと思って……」
「帰った方が良い。出来るだけ急いで」
「何かあったんですか?」
「う、うむ……」
パパさんの様子がおかしいのはそのせい?
私と冬夜君はすぐに冬夜君の家に向かう。
リビングには憔悴した冬夜君のパパさんが。
「父さんなにがあったの?」
「……麻耶が攫われた」
驚きのあまり紙袋を落した。
「あ、愛莉ちゃんは冬夜の部屋にもどっていてくれないかな?」
冬夜君のパパさんはそう言うけど私は拒んだ。
「愛莉にはどうせ話すから一緒だよ。詳しく話を聞かせてくれない?」
そう言って冬夜君は私をソファに座らせ自分も座る。
冬夜君のパパさんも座って話を始めた。
麻耶さんが買い物に行っていつまで経っても帰ってこない。
事故にあったのかと思って電話をかけても出ない。
2時間くらい経ってさすがに何かあったのではと不安になっていたとき麻耶さんからの着信が。
慌てて出る冬夜君のパパさん。
すると出たのは知らない男の人の声。
「あなたか片桐正人さん?」
「あんた誰だ!?」
「あまりこちらの事を詮索しない方が奥さんの為だと思うが?」
「あなたの息子さんの件で話がある?」
「冬夜の?」
「あなたの息子さんの悪戯のお蔭でこちらは迷惑を被っている。説得してくれないか?」
「正体も明かさないやつの言うことを聞くと思ったか?」
「これを聞いてもそれが言えるかな?」
「あなた!」
「麻耶!」
「要求は二つ、ユニティの解散、そして森羅公生と香崎奈留の身柄……取引場所はまずユニティの解散を確認してからだ」
「そんな要求はのめん!」
「飲まなければ奥さんの安否は保証しない。ではまた電話する」
電話はそれで終わった。
冬夜君は静かに話を聞いている。
「麻耶は俺の妻になった日からこうなる危険も覚悟していたはずだ。お前も動じることは無いぞ」
冬夜君のパパさんはそう言っていたけど顔がやつれている。
私も胸の鼓動が早くなってる。
冬夜君どうするの?
「わかったよ……心配いらない」
「冬夜君!?」
麻耶さんの命かかってるんだよ!?
そんなのんびりしていられるの!?
「じゃ、僕達部屋に戻るから……」
そう言って冬夜君は部屋に戻る。
「冬夜君、麻耶さんが心配じゃないの!?麻耶さんの命が危ないんだよ?」
怖くないの?
だけど冬夜君は黙って電話をしている。
「もしもし誠?今から言う電話番号逆探できるか?多分誠のウィルスには感染してると思うんだけど……ああ、今から言うぞ……」
何をするつもり?冬夜君。
「愛莉、疲れてるところ悪いんだけどお昼作ってくれないか?父さんもお腹空いてると思うし」
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「ついでに父さんに伝えてよ。『取引には応じる』って……」
え?ユニティ解散するの?
「……解散しちゃうの?」
「時間はかかるけど」
冬夜君は悔しくないの?そんな卑劣な手に乗るなんて。
「今必要なのは時間稼ぎ。こっちの手の内を明かさない事」
わかった!冬夜君は取引に応じるつもりはないんだね!
「……普通のインスタントラーメンでいい?」
「ああ、玉子入れてね」
「は~い」
そう言って冬夜君の部屋を出る。
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絶対に許さないんだから!
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