優等生と劣等生

和希

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4thSEASON

死神の騎行

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(1)

「冬夜君おはよう~朝だよ~起きる時間だよ~」

朝から機嫌が良い愛莉。
その機嫌を偶に損ねてしまうのが僕。
まだ眠気があったので愛莉を無視して眠っていた。

「うぅ……ごはん抜きにするよ」

別に慌てる時間じゃない、ちょっと早めに出ればコンビニでおにぎりくらい食べれる。

「お嫁さんのごはんよりおにぎり選ぶの!?」

愛莉は本当に僕の心を読んでいるようだ。
……ちょっと悪戯してみるか?
愛莉の裸を想像してみる。
ほとんど毎日見てる愛莉の裸なんて容易に想像できる。

「うぅ……」

この「うぅ……」はまずい予感がする。
何かやってしまったかな?みたいな。
分かりやすく言えば地雷を踏みぬいたっていうか。

「麻耶さ~ん」

愛莉は部屋を出ようとする。
いや、そこで母さん呼びに行くのはまずいだろ!?
慌てて飛び起きる僕。
すると愛莉の足はドアの前でぴたりと止まってくるりと反転する。

「やっと起きた~」

そう言う罠だったのか?
愛莉が何を考えてるのかしっかり見ないとダメだな。

「まったく、毎朝起こさなきゃいけないお嫁さんの身にもなってよ~」
「ごめんごめん、どうしても朝眠くてさ」
「ブーッ!言い訳になってません!」
「愛莉は僕の気持ちが読めるんだろ?」
「まあ、多少はなんとなくわかるよ」
「だったら毎朝の僕の気持ちわかるだろ?」

可愛いお嫁さんが一生懸命に僕を起こすために悩んでる姿を愛でる僕の気持ち。
そんな可愛いお嫁さんを襲いたくなる衝動を必死に抑える僕の孤独な闘い。
愛莉はしっかり読み取っているのだろう。
愛莉が葛藤してる間に着替えを済ませると愛莉に声をかける。

「準備出来たよ。急ごう」
「え?あ……うん」

そして日課を済ませると僕はシャワーに愛莉は朝食を作りに。
朝食を食べると僕はコーヒーを入れて部屋に愛莉はシャワーを浴びに行く。
愛莉が部屋に戻ってくるとコーヒーを飲むために僕の隣にぴったりとくっついて座る。
朝から密着して起こしてきたり、コーヒーを飲むためだけなのに密着して座ってきたり、愛莉絶対朝から誘ってるだろ。
そう思って愛莉の腰に手を回してみたら愛莉の方がから密着してくる。
顔を見たら目を閉じたりしててさ。
お互いにその気になったところで、スマホの着信音が鳴る。
誰かに監視されているんじゃないかというくらいの絶妙なタイミング。
やれやれとスマホに手を伸ばすと愛莉がその手に自分の手を重ねる。
愛莉の顔を見ると「やだやだ」と首を振って寂し気な顔をする。
朝からそんな顔されたら、僕だって男だぞと言い訳にならない言い訳をして愛莉を押し倒す。
愛莉の服を脱がしながら自分も脱いでいくと「床は冷たいからやだ~」と駄々をこねる愛莉。
愛莉をベッドの上に運んでやり、愛莉の意思を確認すると愛莉はうなずく。
今日は時間はある。少しだけゆっくりできるな。
愛莉のブラのホックを外そうとしたときまたスマホが鳴りだす。
今度は少し長めに鳴っている。電話の着信てわけじゃない。メンションと言う機能があって特定の人に対して呼びかけをするメッセージの機能の一つだ。

「うぅ……」
「すぐにすませるから」

半裸になった愛莉から離れベッドから出るとスマホを手に取る。

「誰から~?」

背中越しに愛莉が密着してスマホを覗き込む。
愛莉の柔らかい胸が背中にしっかりと密着している。
メッセージの主は渡辺君だった。

「どうしたの?」
「おお、何か取り込み中だったか?」
「まあね。で、どうしたの?」
「急ぎってわけじゃないんだが、いや緊急か……」

どっちなんだ?

「とにかく今日昼に学食で話がしたい。来れるか?」
「いいよ」
「悪いな。それじゃまた」

本当に急ぎじゃない要件だったな。
さて、愛莉と続きを楽しもうか。
愛莉を再びベッドに運んで優しく愛莉の体にタッチする。
愛莉は紅潮し時折声を上げながら息遣いが荒くなる。
難しいのがここからだ、急いでやらないと愛莉の準備の時間が無くなる。
かといって乱暴に、手短に済ませようとすると愛莉の機嫌を損ねてしまう。
僕自身も愛莉をそんな道具のように扱いたくない。
優しく丁寧に扱ってやりたい。
そうするとどうしても準備の時間に時間を費やしてしまう。
愛莉の体も潤ってきて準備が完了、さて本番に行こうかという時愛莉は僕を突き放す。

「どうしたの?」
「冬夜君の意地悪。折角いい気分だったのにもう時間だよ?」

時間調整に失敗したらしい。

「続きは夜するから」
「そうやっていつも夜はユニティの活動じゃない」

今日の愛莉はややご機嫌斜めだ。
こんな日が続けば愛莉もいい加減機嫌が悪くなるだろう。

「金曜の夜だって冬夜君遠征に行っちゃうし……」

愛莉が珍しく不満を口にする。
こりゃ相当溜まってるな。
愛莉を再び抱く。

「じゃあ、今日は授業さぼるか?」
「だ~めっ!ちゃんと学費払ってもらってるんだからサボるなんて許しません」

僕はどうすればいい、どうすれば愛莉の機嫌を取り戻すことが出来る?
答えは簡単だった。

「愛莉、準備しながら話しないか?」
「ほえ?」

すでに愛莉は服を着ている。

「愛莉ここ数日でかなり不満抱えてるだろ?僕に対して」
「それはそうだけど喧嘩にならない?」

やっぱりそう考えてたか?

「お嫁さんの不満ぐらい黙って聞いてやれって誰かが言ってたんだ。何の解決にもならないかもしれないけど聞いてあげるから、言ってごらん?」
「うぅ……」

それから愛莉の不満の告白タイムが始まった。
と、いってもそんなに不満を持っていないようだった。夜構ってくれない、朝起きてくれない、朝その気にさせるだけさせといて終わりにする、週末試合で遊びに連れて行ってくれない。ユニティの活動でのんびり二人で過ごす事すらできない等。
やっぱり可愛い不満だった。
だがその不満を解決する策を見いだせないでいた。
愛莉の話を聞きながら考えこんでると愛莉が抱きついてきた。

「ごめんね、冬夜君だって好きでしてるんじゃないんだもんね。私の唯の我儘だよね……やっぱり言わない方がよかったかな」

また愛莉に不安を作ってしまったようだ。
目の前の不安から取り除いていこう。

「そんな事はないよ。愛莉。言ってくれてありがとう。確かに僕もユニティの活動で愛莉に構ってやれなかった」
「でも……」
「愛莉の我儘なんて可愛いものだよ。少なくとも僕はそう思ってる。愛莉のお願い一つずつでも叶えてあげるから」
「本当?」
「今日は無理だけどまた時間があったらドライブデートでもしよっか」
「うん♪」
「12月になればリーグ戦も終わるから。そしたら時間取れるよ」
「無いと困るよ。冬夜君の誕生日お祝いしたいし」
「ありがとう」

そう言っておでこにキスをする。
嬉しいのか愛莉は僕にじゃれつく。

「そろそろ時間だ行かないと」
「そうだね」

そう言うと愛莉と二人で部屋を出た。

(2)

「輸送護衛任務?」

渡辺君が言った言葉をそのまま聞き返した。

「ああ、実は今日15時に皇帝と女帝が退院する。そこで別府の別荘まで護送したいんだが、冬夜頼まれてくれないか?」
「僕に頼み事って?」
「簡単に言うと運転だよ。お前の運転技術なら相手を振り切れるだろ?」
「護送って言う事は僕達1台だけじゃないんだろ?」
「そっちは晶さんと恵美さんの部隊が運転する。主に足止めが役割だ。その足止めをすり抜けてきた相手を振り切って欲しいんだ」
「そんなの恵美さん達の兵隊さんに任せればいいじゃない!」

愛莉が抗議する。

「相手は銃を持ってるんだよ!冬夜君にそんな危険な目に合わせられない!」
「遠坂さん。それは俺達も考えた。だが、運転技術において一番優秀なのはやはり冬夜だよ。冬夜にお願いしたい」
「愛莉。万が一の時はお前がトーヤを守れるだろ?例の道具で」

カンナが言う。

「じゃあ、私が助手席に乗ってもいいんだね?」
「ああ、そのつもりでお願いしてる」
「それなら私は良いけど冬夜君はどう考えてるの?」

愛莉を危険な目に会わせたくは無いけど。多分例の道具がある以上基本戦闘力は男性陣より女性陣の方が上だ。ここは渡辺君の策に乗るか。

「ルートは考えてるの?」
「それは大丈夫だ」

渡辺君はノートPCを開いて地図を表示させた。
西松医院と別荘を繋ぐルートをが緑色で表示されている。

「高速を使いたいところだが、他の車を巻き込んだ時のリスクが高いからな」

渡辺君はそういう。
多分一般道の方が安全だろう。
だけどこのルートだと……。

「夕方に渋滞に巻き込まれる危険がある」
「それはいつもの誠の技術でどうにかするさ」

またあれやるわけね。
まだ不安要素はある。

「僕達の車両が足止めにあった場合の安全確保は?」
「石原夫妻を同じ車両に乗せる。それで相手を潰すことは可能のはず。車も特別車両を用意する手はずになっている」

僕はただ誠の指示に従いながら皇帝と女帝を別荘まで運べばいい。後の事は皆で対応してくれる。
相手の追跡は味方の別車両がしてくれる。僕はそれでも食らいついてきた相手を巻いてしまえば良い。
もし振りほどけない時の手段はちゃんと考えてある。
内容は理解できた。

「冬夜君どうする?」

愛莉が聞いてくる。

「楽しいドライブができそうだね」
「本当に願い事少しずつ叶えてくれるね」

そう言う愛莉の頭を撫でたやる。

「ドライブ気分でいられちゃ困るんだがな」

渡辺君がそう言って笑う。
この際だからみんなに聞いてみるか。

「あのさ、別の話題になるんだけど……」
「どうした?」

渡辺君の表情が険しくなる。
まあ、そんなに真剣に聞かれても困るんだけど。

「渡辺君とかは……その奥さんに不満とか言われない?カンナも誠に不満もったりしてない?」
「は?」
「え?」
「ほえ?」
「愛莉が不満溜まってるみたいだから聞いてみたんだけど色々あってさ、簡単に言うと愛莉に構ってやれる時間が無いって言うか」
「冬夜君、その話はもういいから!冬夜君の気持ち聞けただけで十分だよ」

慌てる愛莉。

「いや、やっぱり聞いておきたいなと思って。僕も初めてだったから」
「うぅ……」
「ハハハそんな事か?そりゃもう時間を作って構ってやるしかないんじゃないのか」

渡辺君は笑いながら言う。

「愛莉に寂しい思いさせてんのかお前は!?」

カンナが僕を睨みつける。
ユニティとサークル掛け持ちしながら愛莉の相手までするって身がいくつあってもたりないよ。

「と、冬夜君も色々考えてくれてるんだよ。遠征中はメッセージ送ってくれたり時間作って電話してくれたり。今日はちょっと私が拗ねただけ」

愛莉が弁護してくれる。そうか拗ねただけか。それならいいんだけど。

「お前と話していると緊張感が全くなくなるな。まあ、それが本来のユニティなんだろうけどな」

渡辺君はそう言って笑っている。

「愛莉ちゃん、そういう時は女性も心を広く持たないと駄目よ?私だって望が何日も家空ける時あるし」

恵美さんが話した。

「そうだよね。女の度量の広さの見せ所だよね!?」

愛莉が意気込んでいる。

「片桐先輩でも悩むことあるんですね」

真鍋君が言う。

「そりゃトーヤだって人間だし悩みもするよ。その背中を押してやるのが愛莉の仕事ってもんだ。なあ?愛莉」
「うん!」

とはいえ、このままストレスを抱えさせたままはかわいそうだ。どこかで発散させてやらないとな。

(3)

防弾耐爆仕様のSUV型4WD車が3台用意されていた。
僕達はそのうちの一台に乗る。
搭乗しているのは僕と愛莉、皇帝と女帝、石原夫妻、渡辺夫妻が乗っている。
前後の車両には酒井夫妻と恵美さんと晶さんの兵隊が乗っている。

皇帝の左右には石原夫妻。その後ろに座るのが女帝とその左右に挟むように渡辺夫妻が乗っている。
男性陣二は念のためボディアーマーを着用するように指示されていた。

「じゃ、行ってくるね~」

愛莉が深雪さんに手を振ると深雪さんもにこりと笑って手を振る。

「楽しいドライブを」

深雪さんがそう言うと車を出した。
市街地を通るのは他を巻き込む危険があるので湯布院経由で遠回りすることにした。
皇帝と女帝は緊張しているようだ。
車内に張り詰める緊張感。
どうにかしたいな。

「愛莉なんかCD持ってきた?」
「ほえ?」
「いや、あまりにも静かだからさ」
「ああ、いいよ。えっとね~……」

バッグからスマホを取り出す愛莉。

「これ繋げないかな?」
「多分大丈夫だと思うけどコード持ってきてる?」
「こんな事だろうと思って持ってきておいたよ~」
「冬夜……」

渡辺君が何か言おうとしている。
それが何を意味するかもルームミラーで確認した。
後についてるSUV車の後ろについてる。派手な車ともっと派手な単車の群れ。

単車は僕達の前にでると妨害にでる。
単車に乗った男は全員特攻服を着ており「諸行無常」や「暴走天使」「悪霊退散」など意味の分からない4字熟語の刺繍がしてある。
なんでこの手の輩って4字熟語好きなんだろ?
僕だったら「麻婆豆腐」かな?
男たちは手に持った金属バッドで車体を叩くが。耐爆仕様を施されてある車に傷一つ入れられず。逆にはじき返されバランスを崩し転倒する単車もいた。
この手の輩に信号操作なんてものは意味がなさない。

「紅会!『杯』の特隊だ!馬鹿野郎!」

とか叫んでいたらしいけど全く聞こえなかった。
愛莉のかけた曲が車内を包む。
愛莉の書けた曲はクラシックで「死神の騎行」というやつだ。
勇ましいBGMを流しながら次々と勝手に自滅していく単車達。
ヘルメットも被ってないみたいだし痛いだろうな?
痛いで済む問題じゃない気もするけど。
まあ、事故るやつは「不運と踊っちまった」だけだっていうしな。
後に付いて来てた車が少し速度を落とした。
後に付いて来てる車両を妨害しようって魂胆なのだろう。
こっちもそれに合わせて速度を上げたいが前方車両のさらに前方にいるまだ生き残ってる特隊が行く手を阻んでる。
どうする?
悩んでる時間は無かった。
悩む必要すらなかった?
誠が信号を操作して赤に切り替える。
それを無視して突っ込む特隊。
彼らは任務を理解しているのだろうか?
事故は偶然ではなく必然に起きる。
青で突っ込んできた車両に当り勝手に自爆する特隊。
すると前方の車両がハザードを点灯させる。

「片桐君!」

石原君が叫ぶ。

「分かってる!」

アクセルを踏み込み前方の車両を追い越してさらに加速する。
信号の問題は誠が解決してくれる。
問題はその他のイレギュラーだ。
飛び出しがこないか?信号無視がいないか?
全神経をとがらせてそれらを素早く察知する。

お前に生命を吹き込んでやる!

早い車が一台来た。

「片桐君そのまま止まらないで!」

そう言って石原君が右側のウィンドウを開けて銃を構える。
防弾ガラスと言ってもフロントガラスに打ち込まれたら亀裂が生じて視界が遮られてしまう。
絶対に相手より前にいないと駄目だ。

お前に魂があるのなら……応えろ!!

右車線に入って追い越そうとする車両のタイヤを狙って発砲する石原君。
タイヤがバーストした車は挙動を崩しスピンする。
湯布院に入るとやはり混んでいる。
誠が信号を操作してくれているおかげで比較的スムーズに進めたがスピードは出せない。
後の部隊が足止めしてくれてるお蔭で追尾してくる車両もいない。
一難去ったっといったところか。
そこから先は比較的すんなりと進んでいた。
あと少しで別荘に着く。
そのとき全力で嫌な予感がした。

まだ尾けられてる!?

後から猛スピードで突っ込んでくるバイクと車の群れ。
足止めを失敗した?
違う!

「皇帝!スマホの電源切って!」

僕が叫ぶと皇帝たちは慌てて自分のスマホを確認するが電源は入れてないという。
となると後の可能性は……。

「Nシステムだよ冬夜君!」

愛莉が叫ぶ。

「冬夜、プランBだ!今誠に指示を送るから。誘導に従ってくれ!」

渡辺君が言うと分かったという。
車がギリギリ入るほどの狭い車幅になりちょっと開けたところがあってそこで行き止まりになる。

「後続の部隊がたどり着くまでに15分。スーツの使用限界は20分。大丈夫なんとかなる」

恵美さんと美嘉さん、それに愛莉は車を降りる。

「冬夜君はそこで休んでて。お疲れ様。ここからは私達の出番だよ」

愛莉はそう言うと手首にはめたバンドのスイッチを押し変身する。

「ヘッジホッグ!!いるんだろ!?あの時の続きしようぜえ!」
「あいつは僕が仕留めます。皆さんは他の敵を。渡辺君は二人の護衛を!片桐君はいつでも車を出せるように準備しておいて」
「任せろ!」
「いつでも行くよ!」

皆がそれぞれに役割を確認すると敵と対峙する。

「じゃあ、行くよ!エンゲージ!!」

愛莉たちが飛び出す。
車からでた黒服の男は銃を発砲するが全部愛莉たちのスーツが弾き返す。
バイクにのった特攻服の男を一人一人確実に仕留めていく愛莉たち。
石原君は恐らくアズライールと呼ばれる男と対決してるのだろう。二人の影が木陰に消えて行った。
愛莉たちが戦闘を始めて10分ほどたつと後続の部隊が追い付いてきた。
容赦ない兵隊たちの攻撃に相手は全員拘束した。
その際にピーっという音が鳴る。
作戦失敗の合図だろうか?
全員を木々に縛り付けると酒井君が「石原君は僕たちが待ちますから、片桐君たちは先に行ってください」と言う。
恵美さんも「私も残る」という。
来た道を引き返し先にある別荘地に着き皇帝たちを降ろす。
そして石原君達をむかえに行った。
無事だと良いんだけど。

(4)

「この時をまっていたぜえ。ヒャハハハハ」

でたらめに撃ちまくるアズライール。
木の陰に隠れてリロードのタイミングを確かめる。
敵も馬鹿じゃない。ある意味馬鹿だけど。
リロードしている間は木の陰に隠れている。
逃げてばかりじゃ埒が明かない。
リロードの瞬間を待って少しずつ間合いを詰める。

「本当に引きこもってるのが上手だよなあ!?ヘッジホッグは!」

トリガーハッピーにでも入ってるのだろうか?
こっちが間合いを詰めていることにまったく気づいてない。
こっちの有効射程には入った。
目を閉じて周りをイメージして僕とアズライールの位置関係を確認する。

「いつまで引きこもってるつもりだ?ヘッジホッグよぉ!」

冷静に敵がリロードしての発砲数を数える。11,12……今だ!
刹那身を出しアズライールが隠れているであろう、木に向かって正射する。

デザートイーグルは反動がでかく僕みたいな小柄な人間が打つと肩の骨を外すと言うけどちゃんとした姿勢で撃てば何の問題も無い。
そして50AE弾は木ぐらい簡単に貫通する。

二発撃つと二発両肩に当る。

「ぎゃあっ!」と短い悲鳴を上げて倒れる。アズライール。

それを視認すると銃をアズライールに向けながら構えそしてゆっくりと近づく。

「やるな、お前。流石オロチを倒したというだけあるぜ?だが甘く見てないか?肩を潰されてくらいで俺は……」

パンパン。

二発撃つと両拳を貫通する。

「それでもうあなたの好きな曲芸もできない。大人しく投降してください」
「気に行ったぜお前!俺をもっと楽しませてくれそうだ」

アズライールの眉間に照準を合わせる。

「脅しじゃないですよ。分かってもらえますよね」
「こっちもマジにならないと駄目か~?」

その時ピーっという音が聞こえた。
一瞬の油断だった。
音のする方に注意がそれたときアズライールは僕の足を払う。
僕は姿勢を崩しながらもアズライールに照準を合わせせる。

「そこで迷いも無く撃てないところがお前の弱点だな!」

そう言ってアズライールは逃走する。

「もっと遊んでやりてーが時間だ。また今度遊ぼうね~」

狙うなら脚か!
しかしこの距離ではもう足止めも出来ないだろう。
これ以上の無意味な追跡を止め恵美たちの元に戻った。

「望!!」

変身を解いた恵美が僕に抱き着く。

「無事でよかった」
「恵美こそ無事で何よりだよ」
「銃声が聞こえたときは不安だったのよ」
「一応ボディアーマーつけてるから大丈夫だよ」

辺りを見回す。
敵部隊は全員捕獲、拘束。
現状、クリア。

「ところでアズライールはどうなったの?」

恵美が聞いてくる。

「ごめん、あと一歩のところでミスしちゃった」
「そう、残念ね……」
「片桐君たちは?」
「ああ、ちゃんと送り届けてきたよ」

片桐君達も戻ってきていた。

「これで任務遂行だな」

渡辺君が言う。

「じゃ、これからファミレスでも行くか……」
「行くなら銭湯がいいな」

僕が言うと皆が笑う。

「まあ、それもいいだろう。今日はお疲れ様でした」

渡辺君の声と同時に僕は一人眠りについていた。

(5)

追跡を足止めしている時、一人の男が立っていた。
ゆらゆらと歩きながら何かを投げてくる。
それを食らった晶ちゃんの兵隊は次々と倒れる。
苦無とか飛び道具系の物かな?
ただならぬ気配を感じた僕は晶ちゃんに車に乗っているように指示する。
まずはこの場から離さないとな。
ガードレールの下は緩やかな下り坂になっている。
場所的にはおあつらえ向きか。
男は僕を見ると同時に何かを投げつける。
僕はそれを右手の人差し指と中指で挟む。
ノーモーションのスローだけどキーパーだったからね。なんとなく分かっちゃうんだよね。
男は満足そうに笑みをこぼし、そしてガードレールの外側をちらりと見る。
意見は合致したようだ。
次の瞬間一足飛びでガードレールを飛び越え坂を下りていく。
その間も敵の攻撃は続いた。
それをよけながら弾切れを待つが無尽蔵に出て来る刃物の数に辟易していた。

「名乗れ!俺の名前は『サリエル』」
「名乗るような存在じゃないんで遠慮します」

しかしいくつ刃物を持っているんだろうね。
まさか体からメスが出てきたりしないだろうね。
僕は相手が刃物を投げてそれが隠れている木に刺さすのを見るとナイフを投げた。
肩に刺さった。
避けて欲しかったんだけどな。
これじゃ暴行罪だよ。
その前に銃刀法違反かな?
正当防衛とは認めてもらえないだろうな。
そんな現実とは無関係の現状にいるわけだけど、不本意ながら。
相手も痛かったろうな。ごめんね。でも躱すと思ってたんだ。
そんな心配は杞憂に終わる。
彼は肩に刺さったナイフを抜き取るとにやりと笑う。
肩に刃物刺さってるのに笑ってるってどういう心境なんだろう。
まさか、無痛症とか言わないよね?
ナノマシンで回復するとか言い出さないよね?
こういう敵を倒すには頭部を粉砕するのが一番て聞いたけどさすがに21歳で殺人犯は嫌ですよ。
ていうかラブストーリーですよ。主要キャラが殺人じゃまずいでしょ。
そんなこっちの都合などお構いなく攻撃をしてくる。
手持ちの道具を確認する。
……やってみますか?
あさっての方向に苦無を投げつける。
もちろんただの苦無じゃない。
そっちに気を取られたサリエルさんを見て反対側に飛び出す。
背中を僅かにそれていく刃物の風を切る感覚。
あまり気持ちのいい物じゃありませんね。
そのままサリエルさんを中心にグルグルと旋回する。
ある程度回るとぐいっとそれを引っ張る。夕日に照らされた細いそれはサリエルさんを木に縛り付ける。
念のためもう何周か回して。動きが取れないように拘束する。

「これで勝ったと思うなよ」
「別に勝ちたいと思ったことは無いんで。あ、下手に動くとそれ容赦なく肉に食い込みますよ?」

さすがにあなたでも何重に輪切りにされたら生きてないでしょ?
僕は彼が行動不能に陥ったのを確認すると坂を上る。

「待て!戻って来い!!俺と勝負しろ!!決着をはっきりつけるまで俺はお前を狙うぞ!」

僕はその言葉に足を止めるとサリエルさんを見た。

「勝負にこだわって任務を忘れるのはプロの仕事じゃないですよ」

いや、僕もプロになった覚えは無いんですけどね。
尚も喚くサリエルさんを置いて僕は晶ちゃんの下へ帰った。

(6)

「皆さんお疲れ様でした~」

地元に帰ると皆でパーティしていた。

「しかし石原君も酒井もとんでもない化け物になっちまったな」

誠がそう言ってる

「多田君に言われるのは非常に心外ですけどね」

酒井君が返す。

「しかし今日の事で分かったことはやはり相手には誠君クラスのハッカーがいるってことだな」
「みたいですね、まさかこっちが追跡されるとは思ってもみなかった」

渡辺君が言うと誠がそう返す。

「でも作戦は無事成功したんだろ!?今日は良しとしようぜ!」

美嘉さんとカンナは盛り上がっている。

浮かれている場合か?

何か大事な事を見落としてないか?

そんな予感がする。
この感覚はエゴイスト戦でも感じた違和感。
その正体を探っていた。

「冬夜君まだ一人で難しい顔してる~良くないよそういうの」

愛莉に気づかれたみたいだ。

「トーヤ、まだ何かあるって言うのか?」

カンナが言う。

「まだ何かあるも何もまだドラゴンを引きずり出してない。隠者も賢者も有耶無耶のままだ」
「そんなしけた話はまた明日にして今日は盛り上がろうぜ」

美嘉さんが言う。
確かに美嘉さんの言う通り取りあえずおいておいて今は勝利の宴を楽しむべきか。

「ああ、そうだ。冬夜に伝言があったんだ」

渡辺君が言う。

「伝言?」
「皇帝からだ『真実に愛などない。しっかり覚えておけ』ってな」
「なんだそれ?ただの僻みか?」

美嘉さんが言う。

真実に愛などない。

真実とは何だろうか?
それを探ることからだな。
それと公生や皇帝たちを付け狙う本当の理由が隠されてる気がする。

「公生、何か身に覚えはないか?」
「全然、僕の情報は君たちに全て伝えたよ」

普通に考えるとIRISに何か隠されている気がするんだけどな。

「ほら、トーヤまたしけた顔してんぞ!今日は忘れて楽しんでいけよ!それがユニティだろ!」

カンナの言う通りかもしれない
僕は料理を食べ始めた。



みんな疲れているという事で2次会は無しにしてお開きになった。
僕にはこの後重要な任務が課せられている。
愛莉と家に帰ると風呂に入る。
風呂を浴びて一杯飲むと愛莉の帰りを待つ。

「あ~先に始めてズルい~」

そう言って愛莉も飲みだす。

「このまま上手くいくと良いね」
「そうだな」
「今月中には片付きそうだね」
「そうだといいな」
「そうじゃないと困るもん」
「わかってるよ」

そう言うと愛莉を押し倒す。

「いきなりですか?」
「だめ?」

愛莉は首を横に振る。

「ただ頭ぶつけて痛かった」
「ごめんごめん」

愛莉をお姫様抱っこするとベッドの上に寝させる。

「約束だしな。愛莉との大切な約束」
「うん」

愛莉は目を閉じる。
そして照明を落として薄明りの中で愛莉と絡み合っていた。
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