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4thSEASON
月の導き、星屑の幻灯
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(1)
「おはよう冬夜君」
「……おはよう」
そう返して愛莉の頭を撫でてやる。
「えへへ~」
愛莉はそう笑うと僕にじゃれつく。
「もう朝だよ、日課の時間だよ」
忘れてはいないのね。
あまり愛莉にストレスを抱えさせるのも可哀そうだ。
「よいしょ!」
気合を入れて上身を起こすとベッドを出る。
服を着替えて、愛莉に行くよというが、愛莉は元気がない。
何か悩んでるようだ。ベッドに腰掛け膝を抱えている。
隣に座って愛莉の肩を抱く。
「どうしたの?」
愛莉は首を振る。
「なんか僕やらかした?」
「違うの~……私の問題だから冬夜君は関係ないよ。心配しないで」
愛莉の問題、朝から悩む……誠が言ってたなそう言えば。
「まさか愛莉子供ができたとか!?」
ぽかっ
「そんなんじゃないもん!人が真面目に悩んでる時に……あっ!」
愛莉は慌てて口を押える。
「前にも言ったろ?愛莉の愚痴くらいちゃんと受け止めてやるから一緒に考えようって?」
「……うぅ。朝の仕度すんでからでもいい?」
「いつでもいいよ」
「じゃあ、取りあえず日課行こう?」
日課を済ませて、朝食を取ると着替えてコーヒーを入れて部屋で愛莉を待つ。
シャワーを浴びた愛莉が部屋に戻ってくると着替えて化粧を始める。
ニュースはカーチェイスのことで騒然としていた。
暴走族による凶行という事で問題は片付いていたが、紅会は全支部また家宅捜索受ける羽目になった。
それでもまだ把握できてない支部が点在していたみたいだけど。
紅会の母系企業は把握できてる。
高橋グループと須藤グループの共同出資だという事らしい。
IRISを調べて発覚したこと。
その事は既にマスコミにリークしている。
須藤会長は地元大病院に入院したらしい。
それが雲隠れだという事も把握している。
誠がいるから分かるという事もあるが、それにしても簡単に手の内を明かしすぎじゃないか?
そんな疑問が湧いたのは「真実に愛はいらない」というキーワードを聞いた時。
多分何かの暗号なのだろう?
しかし真実とは何かなのさえつかめずにいた。
「うぅ……」
腕を掴んで隣に座って言う愛莉に気づいた。
また入っていたようだ。
愛莉の愚痴聞いてやるんだったな。
愛莉の髪を撫でて優しく抱いてやる。
「どうしたんだい?可愛いお嫁さん」
「あのね、冬夜君を困らせることになるけどいい?」
今抱えてる悩みに比べたら愛莉の悩みなんてどうって事無いよ。
「いいよ、話してごらん?」
「うん、朝の事なんだけど……」
それを聞いて僕は笑ってしまった。
愛莉は「笑わなくてもいいじゃない!人が真面目になやんでるのに!」とちょっと拗ねてる。
愛莉の悩みは本当に可愛い物ばかりだ。
僕が朝素直に起きないのも困るけどすぐに起きて支度をするのも寂しい。もっと甘えたい。それだけのことだった。
愛莉と頭を寄せ合って考えてみる。
「もう少し早起きするか?」
「それだと冬夜君寝不足で死んじゃうよ」
「それは困るな。でも愛莉が困ってるのを見過ごすわけにはいかないな」
「うぅ……やっぱり冬夜君困らせちゃったね?」
少し気分が沈んでる感じの愛莉。
「じゃあ、方法は一つしかないな?」
「どうするの?」
「なるべく準備早く終わらせて愛莉に甘える時間を作ってやる」
「そんなことできるの?」
「朝スマホはお休み、それだけで違うんじゃないか?」
「本当にできる?」
「約束するよ。罰ゲームも受け入れるよ」
「罰ゲームかぁ~」
愛莉は悩んでいる。
スマホ没収くらいの事は言うかと思っていた。
「うん、決めた……罰ゲームはしないから~。冬夜君のスマホ一緒に見よ?」
「へ?」
「スマホを弄りながらいちゃいちゃするの~。冬夜君も私に見られて不味い内容なんてないよね?」
「あ、いや。誠から……」
あいつ何送ってくるか分からないからな。
「ないよね?」
こういう時は大人しく従っていた方がいいはず。
「わかったよ」
「じゃ、決まりだね」
愛莉はそう言うとさっそくじゃれついてきた。
それを優しく受け止めてやる。
するとさっそくスマホが鳴る。
どうせ誠か渡辺君からだろう?
昼に済ませたらいいや。
そう思って放置しておいた。
けど愛莉は僕のスマホを手にして弄りだす。
すると朝から早速送ってきたよ。
「これでも二人で見て気分盛り上がれよ」
そうメッセージを添えて。
機嫌が良かった愛莉の機嫌がみるみる悪くなる。
愛莉は自分のスマホに持ち替え操作する。
「冬夜君に変な動画送るの止めて!いつもそれが喧嘩のもとなんだから!」
「冬夜何遠坂さんにチクってんだよ!こんなの神奈に見られたら……!」
一緒に見ろって書いたのはお前だぞ誠。それにそういう事は思っていても口にしない方がいいぞ……。どうせカンナは見るんだろう?
「愛莉ごめん!この馬鹿まだ分かってないらしい。ちょっときつく言っておくから」
カンナのメッセージが返ってきた。
「まあまあ男同士の話に無理矢理混ざってくるのもどうかと思うけどな。女同士の会話に混ざってこられたらいやだろ?」
渡辺君が仲裁にはいる。
「女同士でこんな動画送ってこねーよ!」
「それは男なら仕方ないってこの前理解してもらえたと思っていたんだが……」
「誠は限度を超えてるんだよ!」
「瑛大!!あんたも他人事だと思ったら大間違いだからね!ちゃんとネタは上がってるんだから!」
亜依さんにまで?
ユダが男の中に混ざっているらしい。
「それって咲良からか?」
檜山先輩が自ら名乗ったような発言をする。
「そうだけど、檜山先輩も見てるんですか!?」
「男子会でそういうの乗ってるって咲良と話してただけだよ。二人で笑ってる」
やはり檜山先輩がユダだったようだ。
「まあ、昼休みにでもみんな集まろうや」
渡辺君が言うけど皆まだ喧々囂々言い合いしている。
こりゃ昼休み荒れるな……。
(2)
「この馬鹿が!!前にも言ったよな!?自分の彼氏が妙なもの見て妙なことしてるの見た時の彼女の気持ち考えてやれって!」
カンナがさっそく言った。
「妙な事はしてないよ」
「じゃあ、なんで愛莉が怒ってるんだよ?」
「冬夜君と約束したの~。冬夜君が朝ゆっくりいちゃいちゃしてくれるっていうからじゃあいっしょにスマホ見ようて。そしたらこれでも見て処理しとけって誠君からメッセージ来たから。私が注意しただけ」
愛莉が言うと「遠坂さんは羨ましいな」と渡辺君が言う。
「冬夜お前根本的に間違えてるだろ?朝の処理なんて遠坂さんで十分だろ?」と佐(たすく)が言えば「冬夜君お嫁さんをそういう為だけに使いたくないんだって~♪ちゃんと気持ち込めてしたいって言うの~」と愛莉が嬉しそうに返す。
「佐もだろ?なんせ黒子の位置を把握してるくらい佐倉さんの裸把握してるんだから」と僕が言えば「冬夜君も前に覚えてくれたっていってたじゃない~」と愛莉が言う。
「石原君と酒井君と中島君と真鍋君と竹本君はどうなんだ?」と渡辺君が聞く。
「自分の欲求ていうより咲の気持ち優先ですね」と竹本君が返す。
「夫婦になって頻度はへりましたね。もともとそんなにがっついてないし」と真鍋君が言う。
「滅多に一緒に夜過ごせないから。会った日はちゃんとしてます」と中島君が言う。
石原君と酒井君は滅多にないらしい。それが恵美さんと晶さんには不満らしい。
それでも恵美さんはまだ特別な日にはしてくれるからと満足してるようだけど。
石原君は大変だろうな。勉強とバイト、そして突然舞い込む任務。さらに恵美さんの相手。
そう僕が言うと、石原君は「任務は報酬出るからバイトみたいなもんですよ」と笑う。
そんな危険なバイト僕は間違っても受けたくないね。
酒井君も似たようなものだが、大体誘うのは晶さんらしい。偶には善君から誘って欲しいと愚痴をこぼすほどだ。
「渡辺君はどうなの?」
「俺は休みの日に構ってやってるよ。美嘉の方から誘ってくる方が多いけどな」
「それって美嘉さんから苦情でませんか?」
酒井君はやはり気にしてるらしい。
「俺はちょうどいいサインだと思ってる。美嘉がそう言う気分になってるんだなって。その代わりやさしくしてやってるぞ」
「なるほどですね~」
酒井君は何か悩んでるようだ。
「前にも言ったが、やっぱり男にはしょうがない性ってものがあるんだ。そこは分かってやって欲しい」
渡辺君が言う。
「私はわかってるよ~だから冬夜君と見てる~。でも偶に誠君酷いの送ってくるから~」
僕は動画を見たままコピーする。だからあまり酷いのを送ってこられると私が恥ずかしくて困るって愛莉は言う。
「それは冬夜の判断だな。これは遠坂さんには無理だと思ったら真似しないとか決まり作らないと」
渡辺君が言う。
「そうだね」と返す。
さっきから神奈が黙ったままだ。どうしたんだろう?
「私も誠の事受け入れてるつもりなんだけどまだ足りないんだろうか?」
「神奈は十分やってるよ。私ならとっくに喧嘩だよ」
「誠君を矯正する必要がありそうね」
愛莉と恵美さんが言っている。
「そういうのは二人の問題だから基本的に二人で解決していくしかないな。俺達がああだこうだ言う問題じゃない」
渡辺君が言う。
「それにしてもうちのグループは女性の方が本当に強いな。色んな意味で」
「それは違うわよ渡辺君。男がしっかりしてないからそう見えるんじゃなくて?」
恵美さんが渡辺君に返す。
「まあ、それもそうだな」
渡辺君は苦笑いする。
「でも、こういう話もなんか久しぶりでいいですね?ここ最近そう言うの無かったから」
石原君が言う。
「それだけ俺達にもゆとりが出来たってことだろうな」
渡辺君が返す。
「私はこういう話題の方が好きだな。何より平和だし」
愛莉が言う。
「今月下旬が見頃らしいし一応その日を手配してるんだが……」
「その日ならバスケも終わってる頃です」
佐倉さんが渡辺君に言う。
「じゃあ、その日までに片付くように頑張ろう。何、手札は揃ってるんだ。後は攻めるだけだ」
「本当にそうかな?」
僕が渡辺君に言う。
「どういう意味だ冬夜?」
渡辺君が僕に聞いてきた。皆も僕をじっと見ている。
「朝のニュース見た?」
「例のカーチェイスの件?国営放送までは隠蔽工作できないみたいね?」
恵美さんが答える?
「それだけかな?民放でもやってた。ヤッパリ手の内をみせすぎだ」
「IRISの件がバレてから隠しきれなくなったとかじゃないの?」
咲さんが言う。
僕はうなずいた。
「そう、IRISの情報をまるで誤魔化したいかのようにアーバニティ・紅会・須藤グループの情報を切り売りしてる」
実際IRISの情報が全く報道されなくなった。それは他の話題の方が派手だから?IRISの情報を握りつぶされているから?
「僕達がエゴイストとやっていたとき、ニーズヘッグに襲撃されてその間に雲隠れされたことあったよね?その時と状況が似てるんだ」
「冬夜に言われると確かにその通りに気がしてきたな」
渡辺君がうなずく。
「確かにIRISの報道なくなりましたね……でかいネタのはずなのに。ただの事務所の圧力だと思っていたけど妙ですね?その事務所のつながりも乗せていたファイルなのに」
竹本君が言う。
「紅会には4つの部隊があるんでしたっけ?後残るは二つですか?」
「いや、一つだよ」
僕は真鍋君の問いに即答する。
「どうして?だって4-2=2でしょ?」
「違うよ愛莉。3-2=1なんだ。4枚あるように見せかけて1枚は死に札だ」
「どうしてそう言えるわけ?」
晶さんが言う。
「カードの意味を考えたら多分ペンタクルは別の役割を担ってるはず」
「なるほどね……そういうことか残るは棒ってわけね」
晶さんが言うと僕は頷いた。
「むしろ相手が毎回全部の手札の全部を使い切ってる事前提の話だけど」
それに本命は死神の部隊だろ。
死神は何度でも襲ってくる。
その通り何度でも迫ってくる死神。
悪魔を押さえるのが手っ取り早いんだけどそれにはまだ時間がかかりそうだ。
考えろ僕。
僕が悪魔なら何を狙う?
新たな交渉手段?
それとも……相手の手札を掻っ攫う?
どちらも有効だな。
でもどうしてIRISを狙う?
真実に愛など必要ない
真実とは多分IRISを指しているのか?
だとしたらキーワードの意味は何となく把握した。
だがそれが意味する言葉が浮かばない。
ライジングサン?
確か日本を表現する言葉だと聞いたな。
そんなにでかいものか?たかだか地元にそんなでかい組織が存在するか?
皆の話を聞きながら考え込んでいた。
「冬夜君はどう思う?」
愛莉が突然話を振ってきた。
「え?いいんじゃないかな?」
適当に話を合わせたつもりだった。
だけどそれは愛莉にはみえみえだったみたいで。
ぽかっ
「神奈の話してたんだよ?誠君の悪癖をどうしたら直せるって」
「あ、ああ。ごめん」
「ぶーっ。やっぱり聞いてなかったんだね!本当は『どうしてIRISに拘るんだろう』って話だったのに……」
同じことを考えていたのか。
「トーヤは何か目星つけたみたいだけど。なんか心当たりないか?」
「無い事はないけど……まだ自信を持って言えるほどの事でもないんだ。わかったら話すよ」
「冬夜君が頭を捻ってもわかんないことってあるんだね」
愛莉が悩んでる。
頭を捻る……?
その時、ふと目にした物は石原君が手にしていた電子辞書。
そういやritterってドイツ語で騎士だっけ?じゃあSは……?
「冬夜君、そろそろ時間だよ」
もうそんな時間だったか?
僕達は急いで教室に向かう。
「あんまり考えすぎたら体に毒だよ?」
愛莉が心配しくれてる。
「ありがとね」
愛莉の頭を軽く撫でてやると愛莉は嬉しそうに腕に組みつく。
そんな愛莉の相手をしてやりながら誠にメッセージを送っていた。
「RSのキーワードで重要っぽいの洗い出して」
「分かった。今夜会えるか?」
「ああ、いいよ」
ぽかっ
「どうしたんだ愛莉?」
「また勝手に夜の約束決めて。私の相手はしてくれないんだ?」
「愛莉も一緒に行くんだよ?」
「また、ユニティの活動でしょ?」
「まあ、そうだけど」
「本当にしょうがないんだから……」
「ごめん」
「大丈夫だよ。冬夜君の役割だもん。仕方ないよね」
そう言う愛莉の表情はどこか寂しげだった。
こうまで言わせて「うん」と言えるほど僕も強くない。
愛莉に耳打ちする。
「今夜大丈夫?」
え?と愛莉が僕の方を振り向く。
僕はにこりと笑う。
「私また我儘言ってる?」
「男の性欲馬鹿にしちゃいけないって言わなかったっけ?」
「しょうがないんだから……」
そう言う愛莉の顔は笑っていた。
(3)
昼休み、学校の屋上で。
「昨夜無事護送されたそうで」
「無事とは言い難いけどね」
「誠君も完全かと思ったけどそうでもないみたいだね。自分たちが探知されているのを気づかなかったらしい」
「自分を完璧だと思い込んでる人間ほど崩しやすい物はないもの」
「確かに……君にもいえることだよ。麗しの君」
「前にも言ったけど、その呼び方変えることは無いんだね」
奈留も前ほど嫌がるそぶりは見せなくなった。単に諦めただけかもしれないけど。
「でも昨日の件と言い気になることがある」
奈留が言う。
「なんだいそれは?」
「どうして皇帝と女帝それに教皇と女教皇に固執するの?まだ二人に手札があるみたいに……」
「それはどうかな?その四人に気を逸らせている間に肝心なものを隠蔽する手段かもしれないよ?」
「そのこと、ユニティには伝えたの?」
「一応ね。片桐君は分かったみたいだけど」
「あなたも分かっているんでしょう?何を隠したいのか?」
「まあね、多分IRISの事だと思う」
「あれはもう切ってしまったカードよ?今更何の価値があるというの?」
「まだ知らない秘密があるのかもね。そこまでは僕にはわからない」
今夜集まるからその時に皆と相談するよ。
そんな話をしていた時だった。
タイヤを切りつけながら校門から侵入するバイクと高級車達。
「公生と奈留!!でてこいやぁ!!紅会の特隊『ソード』だ馬鹿野郎!!」
またか……。
先生たちももう対策は練っているらしい。すぐに警察に連絡を入れる。
「外にいる生徒はすぐに校舎に避難しなさい。繰り返します……」
皆が一目散に校舎の中に入る。
僕達も狙撃されないとも限らない。
奈留の顔を見ると校舎に入り込み、外の様子を伺う。
すると逃げ遅れた子が捕まっていた。
逃げ遅れた女子生徒は泣きわめく。
「この可愛い子の顔に傷を入れられたくなかったらすぐに公生と奈留を出せ3分間だけ待ってやる」
しょうがないな。
僕は昇降口に靴を取りに行くと正面玄関に向かう。
すると奈留がついてくる。
「危険な目に晒せない」
「そのやりとりは前にもした。二人なら怖くない」
目でそんなやりとりをすると。二人で正面玄関から出る。
リーダー格の男がこっちに気づいたようだ。
「この前は世話になったな。だが今回は大人しく死んでもらうぜ」
「嫌だと言ったら?」
「残念だけど殺すようにいわれてるんだよ」
「誰に?」
「頭にだよ」
「君より偉い存在がいるわけだね?」
「無駄話をしに来たんじゃねえ。死ねや!!」
そう言って日本刀を振り下ろす男。
その日本刀を砕く女性の拳打。
その女性はふわっと飛び上がると首に回し蹴りを食らわせる。
急所を撃って気絶させるつもりだったのだろうが、男は吹き飛びそして倒れた。
「奈留、公生。大丈夫?」
黄色いコスチュームを着た白鳥さんは私達をかばうように抱きしめたのは、その後に来た銃撃に備えてだった。
リキッドアーマーに身を包まれた彼女は痛くもかゆくも思ってないらしい。
僕達に校舎に戻るように言うとくるりと反転し呆気にとられる男たちに向かって手招きして挑発する。
「この女ぶちころせぇ!」
そう言って大勢の男が襲ってくる。
それらを躱しながら打撃を加えていく白鳥さん。
警察が来る頃には一人残らず制圧していた。
変身を解いた彼女は「7分足らず……余裕ある」と一言漏らす。
警察に事情を説明する彼女。
だが、警察も信じがたい。
僅かの間にこれだけの男をこんな華奢な彼女が制圧するなんて。
僕達も校舎を出て事情を話す。
男たちはとりあえず警察に連行された。
「公生達無事っすか?」
車で後からやってきた晴斗がそう言う。
「冬夜先輩から多分次に狙われるのは公生達だから見に行ってやってと言われてきたっす」
読んでいたのか……てことは?
「片桐君達もIRISの調査を?」
「真実に愛はいらない。その事を伝えるようにと伝言です」
「それがエンペラーの切札?」
「みたいっすね。分かるんすか?先輩たちも今悩んでるようっすけど」
全然分からない。意図は分かるんだけど意味を理解するのに少し時間が必要だった。
「もう一つあったっす」
「何?」
「『隠者』はやはり一人。そうも言ってたっす」
そっちの意味は察しがついた。
と、なると後は賢者の特定か。
大体察しはつくけど。
だってドラゴンの素性が分かってるんだ。賢者の地位を考えたら。自ずとわかるだろう?
その時何か車の爆発音が聞こえた。
校門を出ると異様な世界に入り込んで気分だった。
爆発炎上するパトカーのエンジン部分にチェーンソーを突き立てる甲冑を着た大柄の女性。
警官が発砲するも甲冑に弾かれ意にも介さない。
女性は僕達に気づいたのかゆっくりと振り返りにやりと笑う。
笑ったと思ったらその刹那凄い速さで突進してくる女性。
その突進力だけで岩をも砕きそうな勢いだ。
「公生下がって!」
再び変身した白鳥さんが比較的装甲の薄い部分、首を狙って飛び蹴りを打ち込む。
女性の軌道は大きくそれ自分自身でも自制が聞かないのか囲んでいたパトカーに当たる。
パトカーのフロント部分は大きく損傷しエンジンにもダメージがあって爆発するが。女性はまったく無傷のようだ。
「あなたが、ユニティの『化け猫』ね?」
女性はそう言うとゆっくりと近づいてくる。
白鳥さんも戸惑っている。
多分最初の一撃も遠慮なんかしなかったはずだ。
にもかかわらず女性はダメージを負った様子は全くない。
「数多の善良な男をかどわかす性悪の化け猫、この場で成敗してやりたいところだけど今日は立て込んでるの。見逃してあげる。私の名前は安藤奈津子人呼んで『スティールレディ』」
女性はそう言うとバイクに跨り。バイクのタイヤが悲鳴を上げそうな重量だったが軽快に走り去っていた。
「性悪な化け猫……?私の事?私性悪なの?晴斗」
「そんなことねーっす。春奈は純粋な子っす。俺が保証するっす」
この二人のやりとりも場違いだったが、次から次へと化け物じみた人間が現れるものだ。
その後緊急的に全校生徒は帰宅するように命じられた。
(4)
ファミレスで。
「冬夜調べて来たぜ。お前が言ってるRSってやつ……、でも何も引っかからなかった」
「そうだろうな……」
誠が言うと僕が答えた。やっぱり捻るで正解だったのか。
「冬夜RSって何なんだ?」
誠とカンナが聞いてくる。
すると公生が答えた。
「IRISは真実だよ。それは間違いない。それに愛はいらないんだろ?少しは考えなよ」
「愛はいらない……?」
「あ、そういうことか!それでRSか!」
誠には分かったようだ。
「だと思ったんだけど違うようだね」
「冬夜はそう思ってないんだろ?」
「まあね」
渡辺君が言うと答える。
「お前の悪い癖だぞ冬夜。回りくどい事してないでさっさと要点を言えよ」
佐(たすく)が言うので次の段階に進んだ。
「誠、ritterで検索かけてくれないか?」
「?ああ、わかった」
誠は検索をする。
「ritterってドイツ語で騎士っていみだよね?」
亜依さんが言う。
「そうだよ」
「どうしてその単語を選んだの?」
「ひらめきだよ」
「は?」
亜依さんは声を出す?
「冬夜君、そんなあてずっぽうなやり方で本当に大丈夫なんですか~」
咲さんが言う。
「暗号の解読にはひらめきも必要らしいよ」
愛莉が説明する。
「きっかけは昼休み石原君がドイツ語の電子辞書開いてたから」
僕が説明してる間に誠が何かを見つけたようだ。
「あったぜ!引っかかった単語が。Sonnenritter……ゾンネンリッターとでも読むのか?」
「ドイツ語で太陽の騎士ですね」
石原君が翻訳する。
「じゃ、開くぜ……」
「待て!」
僕が誠を制する。
「念のため聞いておく。ここから先の情報は恐らくエゴイストの情報よりヤバいと思う。それでもいいと思った人だけ……」
「今さらですよ。片桐先輩」
真鍋君が言う。
「いまさら途中下車はできない。でしょ?」
真鍋君が言うと皆うなずく。
「誠、開いて……」
誠がファイルを開くとパスワードの提示を求められる。
「どうする?力づくで突破するか?」
誠が聞いてくる。
「グランディア……偉大なる可能性……」
愛莉が突然不思議な言葉を発した。
「あ、昔の歌の歌詞であったの。なんとなく閃いて」
「んじゃそれで言ってみるぜ……。ビンゴ!!」
誠は門を突破したようだ。
「えらいぞ愛莉」
「えへへ~」
愛莉の頭を撫でてやると愛莉は喜んでいる。
「凄いな……これ……地元の有名企業大体入ってるじゃん!」
誠がノートPCの画面を見て息をのむ。
画面に表示リストには地元の3大巨悪企業と噂されている企業を筆頭に有名企業がずらりとならんでいた。
表示されていない有名企業を上げて言った方が早いんじゃないかというくらいに。
その次に地元の大物政治家が与野党関係なくリストアップされている。
「こういう地方での政治ってね?政党の支持より企業の支持を得る方が重要なのよ」と、恵美さんが説明してくれた。
檜山先輩は言葉を失っている。それもそうだ、最初に載っていたのは地元銀行なのだから。
地元の3大巨悪企業・地元銀行・合同新聞・デパートその三つがそろい踏みしていた。
「父さんに問いただす必要があるな……」
檜山先輩はそう呟く。
「地元の基盤を根底から覆すファイルか……まさにその通りだな……」
「これで引き下がれなくなったな……」
渡辺君が言う。
だから最初に言ったろ?
「もともと戻る気ねーっす!こうなったら行くところまで行けっす!」
「皆就職先なら心配しなくていいからね。私の家の傘下の企業に就職させてあげるから」と恵美さん。
「そういう支援なら私もするわよ」と晶さん。
「私もできる、そういう支援なら」と白鳥さん。
僕も地元銀行に就職は諦めかな?
苦笑いする僕。
「問題はこのデータをどこにばらまくかだな」
「まだだよ」
誠が言うと僕が答えた?
「でも気付かれたら削除されてしまうぜ?」
「コピーくらいできるだろ」
「まあ、してるけどな。ねつ造ファイルって言われたらそれまでだぜ?」
「今暴露しても肝心なものが乗ってない」
「なんだそれは?」
「賢者の正体」
「……なるほどな、やるなら一撃で仕留めろか」
誠は納得したようだ。
「でもあまり時間をかけるのは得策じゃない」
白鳥さんが言う。
白鳥さんが今日公生の学校で起きたことを話した。
「そりゃまた化け物みたいなやつがでてきましたね」
酒井君が溜息を吐く。
「多分本格的に死神が動き出したとみるべきだろうね。相手のハッカーのスキルも侮ってはいけない。例の別荘も危険だよ。長い時間滞在させられる場所じゃない」
公生がそう言う。
「なおさら慎重にいくべきだ、なりふり構わなくなったら途中で逃亡される恐れがある」
「でも私達の身の危険度も高まっているのは事実よ。早い所見切りつけた方が良いんじゃない?」
意見が二つに分かれる。
どうするべきか?どちらの意見も理解はできる……。全部とっ捕まえるのを諦めるか。それとも……。
ガタン!!
「皆落ち着いてください~!今焦ったら相手の思うつぼですよ~。……忘れてない?優位なのは私たちなのだと」
咲良さんが言う。
確かに立場的位置は圧倒的に優位なんだ。ただ、犠牲者無しの完勝するには……。
「片桐先輩もう一歩って言ってるんですから頑張りましょうよ~。……ただのババア一人相手にみっともない」
「そうだな、あと一手で詰めるんだ。だからこそ慎重に行こう。死神は苦し紛れの一手にしかすぎないさ。もうなりふり構ってられないところまで追いつめてる。あと少しの戦いだ。頑張ろう」
咲良さんと渡辺君が言うと皆静まる。
あと一歩が欲しい。だけどその一歩がとても遠い。
「指揮官も疲れていたらいいアイデア浮かばないよ?今日は帰って休もう?」
愛莉が言うと皆賛同する。
「じゃあ、また何かあったら連絡入れる」
渡辺君がそう言うとみんな解散した。
僕達も家に帰ると部屋に戻る。
「で、冬夜君どうしたらいいの?」
「え?」
「本当は次の一手決めてるんでしょ?とどめになるかは分からないけど」
「……まあね」
わ~い、当たった~とはしゃいでる愛莉の頭を撫でてやる。
僕は奈留のIDに直接メッセージを打った。
「アーバニティとエゴイストの関係はIRISに書いてあったことが真実?そうだね?」
返事はしばらくして返ってきた。
「そうです」
「隠者は一人……それも確かだね?」
「はい」
「賢者は竜に守られてる?」
「……人に竜は操れない」
「わかった。ありがとう」
「いえ、でもどうしてそれを?」
「確認したかっただけだよ。最後の塔がやっと攻略できそうだ」
「世界に審判が下る日は?」
「近いうちに」
「わかりました」
「じゃあ、おやすみ」
これですっきりした。
さて、明日に備えてゆっくり寝るか
ぽかっ
「一人で納得するなんてズルい!私にはちんぷんかんぷんだよ!」
「所詮竜も人の親。そして子供は親の掌で踊るだけでは済まないってことだよ」
「?」
「あとは如何にその二人を舞台に引きずり出すかだね」
「やっぱりわかんな~い」
愛莉が抱きついてくる。
「きっと近いうちに分かる時が来るから」
「今知りたいの!」
困ったお嫁さんだ。
じっくりと愛莉に説明してやる。
「……そういうことだったんだね!」
やっと理解したようだ。
「やっぱり冬夜君凄いよ。何のヒントも無しにそこに辿り着いたんだから」
「見えていたさ、夜空に光る月の導き。星屑の幻灯が答えを導いてくれた」
「私には何も見えなかった~。冬夜君だから見えるんだよ!」
「……そうかもな」
嬉しそうに抱き着く愛莉。
「うぅ……」
今度はどうした?
「どうしたの?」
「……いいの。疲れたから早く休ませてあげようって言ったもんね。早く寝よう?」
寂しそうな愛莉の声。
「じゃ、おやすみ」
「……おやすみなさい」
そう言って照明を落とすと二人でベッドに入る。
「あっ……」
愛莉の声が息遣いと共に聞こえてくる。
どんなに宵闇の中でも目を凝らしていれば見えてくる月の導き、星屑の幻灯。
後は閃いた通りに行動すればいい。
きっとそれは後悔の無い道だから。
「おはよう冬夜君」
「……おはよう」
そう返して愛莉の頭を撫でてやる。
「えへへ~」
愛莉はそう笑うと僕にじゃれつく。
「もう朝だよ、日課の時間だよ」
忘れてはいないのね。
あまり愛莉にストレスを抱えさせるのも可哀そうだ。
「よいしょ!」
気合を入れて上身を起こすとベッドを出る。
服を着替えて、愛莉に行くよというが、愛莉は元気がない。
何か悩んでるようだ。ベッドに腰掛け膝を抱えている。
隣に座って愛莉の肩を抱く。
「どうしたの?」
愛莉は首を振る。
「なんか僕やらかした?」
「違うの~……私の問題だから冬夜君は関係ないよ。心配しないで」
愛莉の問題、朝から悩む……誠が言ってたなそう言えば。
「まさか愛莉子供ができたとか!?」
ぽかっ
「そんなんじゃないもん!人が真面目に悩んでる時に……あっ!」
愛莉は慌てて口を押える。
「前にも言ったろ?愛莉の愚痴くらいちゃんと受け止めてやるから一緒に考えようって?」
「……うぅ。朝の仕度すんでからでもいい?」
「いつでもいいよ」
「じゃあ、取りあえず日課行こう?」
日課を済ませて、朝食を取ると着替えてコーヒーを入れて部屋で愛莉を待つ。
シャワーを浴びた愛莉が部屋に戻ってくると着替えて化粧を始める。
ニュースはカーチェイスのことで騒然としていた。
暴走族による凶行という事で問題は片付いていたが、紅会は全支部また家宅捜索受ける羽目になった。
それでもまだ把握できてない支部が点在していたみたいだけど。
紅会の母系企業は把握できてる。
高橋グループと須藤グループの共同出資だという事らしい。
IRISを調べて発覚したこと。
その事は既にマスコミにリークしている。
須藤会長は地元大病院に入院したらしい。
それが雲隠れだという事も把握している。
誠がいるから分かるという事もあるが、それにしても簡単に手の内を明かしすぎじゃないか?
そんな疑問が湧いたのは「真実に愛はいらない」というキーワードを聞いた時。
多分何かの暗号なのだろう?
しかし真実とは何かなのさえつかめずにいた。
「うぅ……」
腕を掴んで隣に座って言う愛莉に気づいた。
また入っていたようだ。
愛莉の愚痴聞いてやるんだったな。
愛莉の髪を撫でて優しく抱いてやる。
「どうしたんだい?可愛いお嫁さん」
「あのね、冬夜君を困らせることになるけどいい?」
今抱えてる悩みに比べたら愛莉の悩みなんてどうって事無いよ。
「いいよ、話してごらん?」
「うん、朝の事なんだけど……」
それを聞いて僕は笑ってしまった。
愛莉は「笑わなくてもいいじゃない!人が真面目になやんでるのに!」とちょっと拗ねてる。
愛莉の悩みは本当に可愛い物ばかりだ。
僕が朝素直に起きないのも困るけどすぐに起きて支度をするのも寂しい。もっと甘えたい。それだけのことだった。
愛莉と頭を寄せ合って考えてみる。
「もう少し早起きするか?」
「それだと冬夜君寝不足で死んじゃうよ」
「それは困るな。でも愛莉が困ってるのを見過ごすわけにはいかないな」
「うぅ……やっぱり冬夜君困らせちゃったね?」
少し気分が沈んでる感じの愛莉。
「じゃあ、方法は一つしかないな?」
「どうするの?」
「なるべく準備早く終わらせて愛莉に甘える時間を作ってやる」
「そんなことできるの?」
「朝スマホはお休み、それだけで違うんじゃないか?」
「本当にできる?」
「約束するよ。罰ゲームも受け入れるよ」
「罰ゲームかぁ~」
愛莉は悩んでいる。
スマホ没収くらいの事は言うかと思っていた。
「うん、決めた……罰ゲームはしないから~。冬夜君のスマホ一緒に見よ?」
「へ?」
「スマホを弄りながらいちゃいちゃするの~。冬夜君も私に見られて不味い内容なんてないよね?」
「あ、いや。誠から……」
あいつ何送ってくるか分からないからな。
「ないよね?」
こういう時は大人しく従っていた方がいいはず。
「わかったよ」
「じゃ、決まりだね」
愛莉はそう言うとさっそくじゃれついてきた。
それを優しく受け止めてやる。
するとさっそくスマホが鳴る。
どうせ誠か渡辺君からだろう?
昼に済ませたらいいや。
そう思って放置しておいた。
けど愛莉は僕のスマホを手にして弄りだす。
すると朝から早速送ってきたよ。
「これでも二人で見て気分盛り上がれよ」
そうメッセージを添えて。
機嫌が良かった愛莉の機嫌がみるみる悪くなる。
愛莉は自分のスマホに持ち替え操作する。
「冬夜君に変な動画送るの止めて!いつもそれが喧嘩のもとなんだから!」
「冬夜何遠坂さんにチクってんだよ!こんなの神奈に見られたら……!」
一緒に見ろって書いたのはお前だぞ誠。それにそういう事は思っていても口にしない方がいいぞ……。どうせカンナは見るんだろう?
「愛莉ごめん!この馬鹿まだ分かってないらしい。ちょっときつく言っておくから」
カンナのメッセージが返ってきた。
「まあまあ男同士の話に無理矢理混ざってくるのもどうかと思うけどな。女同士の会話に混ざってこられたらいやだろ?」
渡辺君が仲裁にはいる。
「女同士でこんな動画送ってこねーよ!」
「それは男なら仕方ないってこの前理解してもらえたと思っていたんだが……」
「誠は限度を超えてるんだよ!」
「瑛大!!あんたも他人事だと思ったら大間違いだからね!ちゃんとネタは上がってるんだから!」
亜依さんにまで?
ユダが男の中に混ざっているらしい。
「それって咲良からか?」
檜山先輩が自ら名乗ったような発言をする。
「そうだけど、檜山先輩も見てるんですか!?」
「男子会でそういうの乗ってるって咲良と話してただけだよ。二人で笑ってる」
やはり檜山先輩がユダだったようだ。
「まあ、昼休みにでもみんな集まろうや」
渡辺君が言うけど皆まだ喧々囂々言い合いしている。
こりゃ昼休み荒れるな……。
(2)
「この馬鹿が!!前にも言ったよな!?自分の彼氏が妙なもの見て妙なことしてるの見た時の彼女の気持ち考えてやれって!」
カンナがさっそく言った。
「妙な事はしてないよ」
「じゃあ、なんで愛莉が怒ってるんだよ?」
「冬夜君と約束したの~。冬夜君が朝ゆっくりいちゃいちゃしてくれるっていうからじゃあいっしょにスマホ見ようて。そしたらこれでも見て処理しとけって誠君からメッセージ来たから。私が注意しただけ」
愛莉が言うと「遠坂さんは羨ましいな」と渡辺君が言う。
「冬夜お前根本的に間違えてるだろ?朝の処理なんて遠坂さんで十分だろ?」と佐(たすく)が言えば「冬夜君お嫁さんをそういう為だけに使いたくないんだって~♪ちゃんと気持ち込めてしたいって言うの~」と愛莉が嬉しそうに返す。
「佐もだろ?なんせ黒子の位置を把握してるくらい佐倉さんの裸把握してるんだから」と僕が言えば「冬夜君も前に覚えてくれたっていってたじゃない~」と愛莉が言う。
「石原君と酒井君と中島君と真鍋君と竹本君はどうなんだ?」と渡辺君が聞く。
「自分の欲求ていうより咲の気持ち優先ですね」と竹本君が返す。
「夫婦になって頻度はへりましたね。もともとそんなにがっついてないし」と真鍋君が言う。
「滅多に一緒に夜過ごせないから。会った日はちゃんとしてます」と中島君が言う。
石原君と酒井君は滅多にないらしい。それが恵美さんと晶さんには不満らしい。
それでも恵美さんはまだ特別な日にはしてくれるからと満足してるようだけど。
石原君は大変だろうな。勉強とバイト、そして突然舞い込む任務。さらに恵美さんの相手。
そう僕が言うと、石原君は「任務は報酬出るからバイトみたいなもんですよ」と笑う。
そんな危険なバイト僕は間違っても受けたくないね。
酒井君も似たようなものだが、大体誘うのは晶さんらしい。偶には善君から誘って欲しいと愚痴をこぼすほどだ。
「渡辺君はどうなの?」
「俺は休みの日に構ってやってるよ。美嘉の方から誘ってくる方が多いけどな」
「それって美嘉さんから苦情でませんか?」
酒井君はやはり気にしてるらしい。
「俺はちょうどいいサインだと思ってる。美嘉がそう言う気分になってるんだなって。その代わりやさしくしてやってるぞ」
「なるほどですね~」
酒井君は何か悩んでるようだ。
「前にも言ったが、やっぱり男にはしょうがない性ってものがあるんだ。そこは分かってやって欲しい」
渡辺君が言う。
「私はわかってるよ~だから冬夜君と見てる~。でも偶に誠君酷いの送ってくるから~」
僕は動画を見たままコピーする。だからあまり酷いのを送ってこられると私が恥ずかしくて困るって愛莉は言う。
「それは冬夜の判断だな。これは遠坂さんには無理だと思ったら真似しないとか決まり作らないと」
渡辺君が言う。
「そうだね」と返す。
さっきから神奈が黙ったままだ。どうしたんだろう?
「私も誠の事受け入れてるつもりなんだけどまだ足りないんだろうか?」
「神奈は十分やってるよ。私ならとっくに喧嘩だよ」
「誠君を矯正する必要がありそうね」
愛莉と恵美さんが言っている。
「そういうのは二人の問題だから基本的に二人で解決していくしかないな。俺達がああだこうだ言う問題じゃない」
渡辺君が言う。
「それにしてもうちのグループは女性の方が本当に強いな。色んな意味で」
「それは違うわよ渡辺君。男がしっかりしてないからそう見えるんじゃなくて?」
恵美さんが渡辺君に返す。
「まあ、それもそうだな」
渡辺君は苦笑いする。
「でも、こういう話もなんか久しぶりでいいですね?ここ最近そう言うの無かったから」
石原君が言う。
「それだけ俺達にもゆとりが出来たってことだろうな」
渡辺君が返す。
「私はこういう話題の方が好きだな。何より平和だし」
愛莉が言う。
「今月下旬が見頃らしいし一応その日を手配してるんだが……」
「その日ならバスケも終わってる頃です」
佐倉さんが渡辺君に言う。
「じゃあ、その日までに片付くように頑張ろう。何、手札は揃ってるんだ。後は攻めるだけだ」
「本当にそうかな?」
僕が渡辺君に言う。
「どういう意味だ冬夜?」
渡辺君が僕に聞いてきた。皆も僕をじっと見ている。
「朝のニュース見た?」
「例のカーチェイスの件?国営放送までは隠蔽工作できないみたいね?」
恵美さんが答える?
「それだけかな?民放でもやってた。ヤッパリ手の内をみせすぎだ」
「IRISの件がバレてから隠しきれなくなったとかじゃないの?」
咲さんが言う。
僕はうなずいた。
「そう、IRISの情報をまるで誤魔化したいかのようにアーバニティ・紅会・須藤グループの情報を切り売りしてる」
実際IRISの情報が全く報道されなくなった。それは他の話題の方が派手だから?IRISの情報を握りつぶされているから?
「僕達がエゴイストとやっていたとき、ニーズヘッグに襲撃されてその間に雲隠れされたことあったよね?その時と状況が似てるんだ」
「冬夜に言われると確かにその通りに気がしてきたな」
渡辺君がうなずく。
「確かにIRISの報道なくなりましたね……でかいネタのはずなのに。ただの事務所の圧力だと思っていたけど妙ですね?その事務所のつながりも乗せていたファイルなのに」
竹本君が言う。
「紅会には4つの部隊があるんでしたっけ?後残るは二つですか?」
「いや、一つだよ」
僕は真鍋君の問いに即答する。
「どうして?だって4-2=2でしょ?」
「違うよ愛莉。3-2=1なんだ。4枚あるように見せかけて1枚は死に札だ」
「どうしてそう言えるわけ?」
晶さんが言う。
「カードの意味を考えたら多分ペンタクルは別の役割を担ってるはず」
「なるほどね……そういうことか残るは棒ってわけね」
晶さんが言うと僕は頷いた。
「むしろ相手が毎回全部の手札の全部を使い切ってる事前提の話だけど」
それに本命は死神の部隊だろ。
死神は何度でも襲ってくる。
その通り何度でも迫ってくる死神。
悪魔を押さえるのが手っ取り早いんだけどそれにはまだ時間がかかりそうだ。
考えろ僕。
僕が悪魔なら何を狙う?
新たな交渉手段?
それとも……相手の手札を掻っ攫う?
どちらも有効だな。
でもどうしてIRISを狙う?
真実に愛など必要ない
真実とは多分IRISを指しているのか?
だとしたらキーワードの意味は何となく把握した。
だがそれが意味する言葉が浮かばない。
ライジングサン?
確か日本を表現する言葉だと聞いたな。
そんなにでかいものか?たかだか地元にそんなでかい組織が存在するか?
皆の話を聞きながら考え込んでいた。
「冬夜君はどう思う?」
愛莉が突然話を振ってきた。
「え?いいんじゃないかな?」
適当に話を合わせたつもりだった。
だけどそれは愛莉にはみえみえだったみたいで。
ぽかっ
「神奈の話してたんだよ?誠君の悪癖をどうしたら直せるって」
「あ、ああ。ごめん」
「ぶーっ。やっぱり聞いてなかったんだね!本当は『どうしてIRISに拘るんだろう』って話だったのに……」
同じことを考えていたのか。
「トーヤは何か目星つけたみたいだけど。なんか心当たりないか?」
「無い事はないけど……まだ自信を持って言えるほどの事でもないんだ。わかったら話すよ」
「冬夜君が頭を捻ってもわかんないことってあるんだね」
愛莉が悩んでる。
頭を捻る……?
その時、ふと目にした物は石原君が手にしていた電子辞書。
そういやritterってドイツ語で騎士だっけ?じゃあSは……?
「冬夜君、そろそろ時間だよ」
もうそんな時間だったか?
僕達は急いで教室に向かう。
「あんまり考えすぎたら体に毒だよ?」
愛莉が心配しくれてる。
「ありがとね」
愛莉の頭を軽く撫でてやると愛莉は嬉しそうに腕に組みつく。
そんな愛莉の相手をしてやりながら誠にメッセージを送っていた。
「RSのキーワードで重要っぽいの洗い出して」
「分かった。今夜会えるか?」
「ああ、いいよ」
ぽかっ
「どうしたんだ愛莉?」
「また勝手に夜の約束決めて。私の相手はしてくれないんだ?」
「愛莉も一緒に行くんだよ?」
「また、ユニティの活動でしょ?」
「まあ、そうだけど」
「本当にしょうがないんだから……」
「ごめん」
「大丈夫だよ。冬夜君の役割だもん。仕方ないよね」
そう言う愛莉の表情はどこか寂しげだった。
こうまで言わせて「うん」と言えるほど僕も強くない。
愛莉に耳打ちする。
「今夜大丈夫?」
え?と愛莉が僕の方を振り向く。
僕はにこりと笑う。
「私また我儘言ってる?」
「男の性欲馬鹿にしちゃいけないって言わなかったっけ?」
「しょうがないんだから……」
そう言う愛莉の顔は笑っていた。
(3)
昼休み、学校の屋上で。
「昨夜無事護送されたそうで」
「無事とは言い難いけどね」
「誠君も完全かと思ったけどそうでもないみたいだね。自分たちが探知されているのを気づかなかったらしい」
「自分を完璧だと思い込んでる人間ほど崩しやすい物はないもの」
「確かに……君にもいえることだよ。麗しの君」
「前にも言ったけど、その呼び方変えることは無いんだね」
奈留も前ほど嫌がるそぶりは見せなくなった。単に諦めただけかもしれないけど。
「でも昨日の件と言い気になることがある」
奈留が言う。
「なんだいそれは?」
「どうして皇帝と女帝それに教皇と女教皇に固執するの?まだ二人に手札があるみたいに……」
「それはどうかな?その四人に気を逸らせている間に肝心なものを隠蔽する手段かもしれないよ?」
「そのこと、ユニティには伝えたの?」
「一応ね。片桐君は分かったみたいだけど」
「あなたも分かっているんでしょう?何を隠したいのか?」
「まあね、多分IRISの事だと思う」
「あれはもう切ってしまったカードよ?今更何の価値があるというの?」
「まだ知らない秘密があるのかもね。そこまでは僕にはわからない」
今夜集まるからその時に皆と相談するよ。
そんな話をしていた時だった。
タイヤを切りつけながら校門から侵入するバイクと高級車達。
「公生と奈留!!でてこいやぁ!!紅会の特隊『ソード』だ馬鹿野郎!!」
またか……。
先生たちももう対策は練っているらしい。すぐに警察に連絡を入れる。
「外にいる生徒はすぐに校舎に避難しなさい。繰り返します……」
皆が一目散に校舎の中に入る。
僕達も狙撃されないとも限らない。
奈留の顔を見ると校舎に入り込み、外の様子を伺う。
すると逃げ遅れた子が捕まっていた。
逃げ遅れた女子生徒は泣きわめく。
「この可愛い子の顔に傷を入れられたくなかったらすぐに公生と奈留を出せ3分間だけ待ってやる」
しょうがないな。
僕は昇降口に靴を取りに行くと正面玄関に向かう。
すると奈留がついてくる。
「危険な目に晒せない」
「そのやりとりは前にもした。二人なら怖くない」
目でそんなやりとりをすると。二人で正面玄関から出る。
リーダー格の男がこっちに気づいたようだ。
「この前は世話になったな。だが今回は大人しく死んでもらうぜ」
「嫌だと言ったら?」
「残念だけど殺すようにいわれてるんだよ」
「誰に?」
「頭にだよ」
「君より偉い存在がいるわけだね?」
「無駄話をしに来たんじゃねえ。死ねや!!」
そう言って日本刀を振り下ろす男。
その日本刀を砕く女性の拳打。
その女性はふわっと飛び上がると首に回し蹴りを食らわせる。
急所を撃って気絶させるつもりだったのだろうが、男は吹き飛びそして倒れた。
「奈留、公生。大丈夫?」
黄色いコスチュームを着た白鳥さんは私達をかばうように抱きしめたのは、その後に来た銃撃に備えてだった。
リキッドアーマーに身を包まれた彼女は痛くもかゆくも思ってないらしい。
僕達に校舎に戻るように言うとくるりと反転し呆気にとられる男たちに向かって手招きして挑発する。
「この女ぶちころせぇ!」
そう言って大勢の男が襲ってくる。
それらを躱しながら打撃を加えていく白鳥さん。
警察が来る頃には一人残らず制圧していた。
変身を解いた彼女は「7分足らず……余裕ある」と一言漏らす。
警察に事情を説明する彼女。
だが、警察も信じがたい。
僅かの間にこれだけの男をこんな華奢な彼女が制圧するなんて。
僕達も校舎を出て事情を話す。
男たちはとりあえず警察に連行された。
「公生達無事っすか?」
車で後からやってきた晴斗がそう言う。
「冬夜先輩から多分次に狙われるのは公生達だから見に行ってやってと言われてきたっす」
読んでいたのか……てことは?
「片桐君達もIRISの調査を?」
「真実に愛はいらない。その事を伝えるようにと伝言です」
「それがエンペラーの切札?」
「みたいっすね。分かるんすか?先輩たちも今悩んでるようっすけど」
全然分からない。意図は分かるんだけど意味を理解するのに少し時間が必要だった。
「もう一つあったっす」
「何?」
「『隠者』はやはり一人。そうも言ってたっす」
そっちの意味は察しがついた。
と、なると後は賢者の特定か。
大体察しはつくけど。
だってドラゴンの素性が分かってるんだ。賢者の地位を考えたら。自ずとわかるだろう?
その時何か車の爆発音が聞こえた。
校門を出ると異様な世界に入り込んで気分だった。
爆発炎上するパトカーのエンジン部分にチェーンソーを突き立てる甲冑を着た大柄の女性。
警官が発砲するも甲冑に弾かれ意にも介さない。
女性は僕達に気づいたのかゆっくりと振り返りにやりと笑う。
笑ったと思ったらその刹那凄い速さで突進してくる女性。
その突進力だけで岩をも砕きそうな勢いだ。
「公生下がって!」
再び変身した白鳥さんが比較的装甲の薄い部分、首を狙って飛び蹴りを打ち込む。
女性の軌道は大きくそれ自分自身でも自制が聞かないのか囲んでいたパトカーに当たる。
パトカーのフロント部分は大きく損傷しエンジンにもダメージがあって爆発するが。女性はまったく無傷のようだ。
「あなたが、ユニティの『化け猫』ね?」
女性はそう言うとゆっくりと近づいてくる。
白鳥さんも戸惑っている。
多分最初の一撃も遠慮なんかしなかったはずだ。
にもかかわらず女性はダメージを負った様子は全くない。
「数多の善良な男をかどわかす性悪の化け猫、この場で成敗してやりたいところだけど今日は立て込んでるの。見逃してあげる。私の名前は安藤奈津子人呼んで『スティールレディ』」
女性はそう言うとバイクに跨り。バイクのタイヤが悲鳴を上げそうな重量だったが軽快に走り去っていた。
「性悪な化け猫……?私の事?私性悪なの?晴斗」
「そんなことねーっす。春奈は純粋な子っす。俺が保証するっす」
この二人のやりとりも場違いだったが、次から次へと化け物じみた人間が現れるものだ。
その後緊急的に全校生徒は帰宅するように命じられた。
(4)
ファミレスで。
「冬夜調べて来たぜ。お前が言ってるRSってやつ……、でも何も引っかからなかった」
「そうだろうな……」
誠が言うと僕が答えた。やっぱり捻るで正解だったのか。
「冬夜RSって何なんだ?」
誠とカンナが聞いてくる。
すると公生が答えた。
「IRISは真実だよ。それは間違いない。それに愛はいらないんだろ?少しは考えなよ」
「愛はいらない……?」
「あ、そういうことか!それでRSか!」
誠には分かったようだ。
「だと思ったんだけど違うようだね」
「冬夜はそう思ってないんだろ?」
「まあね」
渡辺君が言うと答える。
「お前の悪い癖だぞ冬夜。回りくどい事してないでさっさと要点を言えよ」
佐(たすく)が言うので次の段階に進んだ。
「誠、ritterで検索かけてくれないか?」
「?ああ、わかった」
誠は検索をする。
「ritterってドイツ語で騎士っていみだよね?」
亜依さんが言う。
「そうだよ」
「どうしてその単語を選んだの?」
「ひらめきだよ」
「は?」
亜依さんは声を出す?
「冬夜君、そんなあてずっぽうなやり方で本当に大丈夫なんですか~」
咲さんが言う。
「暗号の解読にはひらめきも必要らしいよ」
愛莉が説明する。
「きっかけは昼休み石原君がドイツ語の電子辞書開いてたから」
僕が説明してる間に誠が何かを見つけたようだ。
「あったぜ!引っかかった単語が。Sonnenritter……ゾンネンリッターとでも読むのか?」
「ドイツ語で太陽の騎士ですね」
石原君が翻訳する。
「じゃ、開くぜ……」
「待て!」
僕が誠を制する。
「念のため聞いておく。ここから先の情報は恐らくエゴイストの情報よりヤバいと思う。それでもいいと思った人だけ……」
「今さらですよ。片桐先輩」
真鍋君が言う。
「いまさら途中下車はできない。でしょ?」
真鍋君が言うと皆うなずく。
「誠、開いて……」
誠がファイルを開くとパスワードの提示を求められる。
「どうする?力づくで突破するか?」
誠が聞いてくる。
「グランディア……偉大なる可能性……」
愛莉が突然不思議な言葉を発した。
「あ、昔の歌の歌詞であったの。なんとなく閃いて」
「んじゃそれで言ってみるぜ……。ビンゴ!!」
誠は門を突破したようだ。
「えらいぞ愛莉」
「えへへ~」
愛莉の頭を撫でてやると愛莉は喜んでいる。
「凄いな……これ……地元の有名企業大体入ってるじゃん!」
誠がノートPCの画面を見て息をのむ。
画面に表示リストには地元の3大巨悪企業と噂されている企業を筆頭に有名企業がずらりとならんでいた。
表示されていない有名企業を上げて言った方が早いんじゃないかというくらいに。
その次に地元の大物政治家が与野党関係なくリストアップされている。
「こういう地方での政治ってね?政党の支持より企業の支持を得る方が重要なのよ」と、恵美さんが説明してくれた。
檜山先輩は言葉を失っている。それもそうだ、最初に載っていたのは地元銀行なのだから。
地元の3大巨悪企業・地元銀行・合同新聞・デパートその三つがそろい踏みしていた。
「父さんに問いただす必要があるな……」
檜山先輩はそう呟く。
「地元の基盤を根底から覆すファイルか……まさにその通りだな……」
「これで引き下がれなくなったな……」
渡辺君が言う。
だから最初に言ったろ?
「もともと戻る気ねーっす!こうなったら行くところまで行けっす!」
「皆就職先なら心配しなくていいからね。私の家の傘下の企業に就職させてあげるから」と恵美さん。
「そういう支援なら私もするわよ」と晶さん。
「私もできる、そういう支援なら」と白鳥さん。
僕も地元銀行に就職は諦めかな?
苦笑いする僕。
「問題はこのデータをどこにばらまくかだな」
「まだだよ」
誠が言うと僕が答えた?
「でも気付かれたら削除されてしまうぜ?」
「コピーくらいできるだろ」
「まあ、してるけどな。ねつ造ファイルって言われたらそれまでだぜ?」
「今暴露しても肝心なものが乗ってない」
「なんだそれは?」
「賢者の正体」
「……なるほどな、やるなら一撃で仕留めろか」
誠は納得したようだ。
「でもあまり時間をかけるのは得策じゃない」
白鳥さんが言う。
白鳥さんが今日公生の学校で起きたことを話した。
「そりゃまた化け物みたいなやつがでてきましたね」
酒井君が溜息を吐く。
「多分本格的に死神が動き出したとみるべきだろうね。相手のハッカーのスキルも侮ってはいけない。例の別荘も危険だよ。長い時間滞在させられる場所じゃない」
公生がそう言う。
「なおさら慎重にいくべきだ、なりふり構わなくなったら途中で逃亡される恐れがある」
「でも私達の身の危険度も高まっているのは事実よ。早い所見切りつけた方が良いんじゃない?」
意見が二つに分かれる。
どうするべきか?どちらの意見も理解はできる……。全部とっ捕まえるのを諦めるか。それとも……。
ガタン!!
「皆落ち着いてください~!今焦ったら相手の思うつぼですよ~。……忘れてない?優位なのは私たちなのだと」
咲良さんが言う。
確かに立場的位置は圧倒的に優位なんだ。ただ、犠牲者無しの完勝するには……。
「片桐先輩もう一歩って言ってるんですから頑張りましょうよ~。……ただのババア一人相手にみっともない」
「そうだな、あと一手で詰めるんだ。だからこそ慎重に行こう。死神は苦し紛れの一手にしかすぎないさ。もうなりふり構ってられないところまで追いつめてる。あと少しの戦いだ。頑張ろう」
咲良さんと渡辺君が言うと皆静まる。
あと一歩が欲しい。だけどその一歩がとても遠い。
「指揮官も疲れていたらいいアイデア浮かばないよ?今日は帰って休もう?」
愛莉が言うと皆賛同する。
「じゃあ、また何かあったら連絡入れる」
渡辺君がそう言うとみんな解散した。
僕達も家に帰ると部屋に戻る。
「で、冬夜君どうしたらいいの?」
「え?」
「本当は次の一手決めてるんでしょ?とどめになるかは分からないけど」
「……まあね」
わ~い、当たった~とはしゃいでる愛莉の頭を撫でてやる。
僕は奈留のIDに直接メッセージを打った。
「アーバニティとエゴイストの関係はIRISに書いてあったことが真実?そうだね?」
返事はしばらくして返ってきた。
「そうです」
「隠者は一人……それも確かだね?」
「はい」
「賢者は竜に守られてる?」
「……人に竜は操れない」
「わかった。ありがとう」
「いえ、でもどうしてそれを?」
「確認したかっただけだよ。最後の塔がやっと攻略できそうだ」
「世界に審判が下る日は?」
「近いうちに」
「わかりました」
「じゃあ、おやすみ」
これですっきりした。
さて、明日に備えてゆっくり寝るか
ぽかっ
「一人で納得するなんてズルい!私にはちんぷんかんぷんだよ!」
「所詮竜も人の親。そして子供は親の掌で踊るだけでは済まないってことだよ」
「?」
「あとは如何にその二人を舞台に引きずり出すかだね」
「やっぱりわかんな~い」
愛莉が抱きついてくる。
「きっと近いうちに分かる時が来るから」
「今知りたいの!」
困ったお嫁さんだ。
じっくりと愛莉に説明してやる。
「……そういうことだったんだね!」
やっと理解したようだ。
「やっぱり冬夜君凄いよ。何のヒントも無しにそこに辿り着いたんだから」
「見えていたさ、夜空に光る月の導き。星屑の幻灯が答えを導いてくれた」
「私には何も見えなかった~。冬夜君だから見えるんだよ!」
「……そうかもな」
嬉しそうに抱き着く愛莉。
「うぅ……」
今度はどうした?
「どうしたの?」
「……いいの。疲れたから早く休ませてあげようって言ったもんね。早く寝よう?」
寂しそうな愛莉の声。
「じゃ、おやすみ」
「……おやすみなさい」
そう言って照明を落とすと二人でベッドに入る。
「あっ……」
愛莉の声が息遣いと共に聞こえてくる。
どんなに宵闇の中でも目を凝らしていれば見えてくる月の導き、星屑の幻灯。
後は閃いた通りに行動すればいい。
きっとそれは後悔の無い道だから。
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アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
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以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
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