優等生と劣等生

和希

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4thSEASON

不安な心

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(1)

「冬夜君おはよう~朝だよ~」

愛莉に起こされ目を覚ますとまだ7時半!?
いくらなんでも早すぎやしないかい?

「どうして?今日は大晦日だよ?」
「大晦日だと早起きしないといけないの?」
「だって色々片付けたり大変じゃない」
「後でやるからもう少し寝させて」
「……ご飯冷めても知らないからね!」

ご飯につられたわけじゃない。愛莉の機嫌が明かに悪くなってる。

「ごめんごめん、今起きたよ。大丈夫だよ」
「うぅ……またご飯につられて起きたでしょ?」
「そりゃ可愛いお嫁さんの作った朝ごはんだもん、冷めたら悪いでしょ」
「私の機嫌はどうだっていいんだ?」

うわ、そう来たか。それは考えてなかったな。

「愛莉の機嫌はどうやったら治る?」
「きゃっ!」

愛莉が悲鳴を上げたのは僕が愛莉の胸を揉んだから。

「駄目だよ~午前中にお掃除済ませないといけないんだから」
「なんで?」
「忘れたの?今日はお昼から大忙しなんだよ?先に御節とか用意しておきたいし」
「でも、夜だろ?初詣行くの?」
「連れて行ってくれるの?」

あの番組毎年同じパターンで飽きてきたしなあ。愛莉のご機嫌を取るのも重要か?

「春肥神社でいい?」
「うん♪」
「じゃ、早めに行かないとな」
「でしょ!だから冬夜君は今年も働いてもらうんだからね!」
「わかったよ」
「わ~い、今日の冬夜君はいい子いい子」

愛莉に頭を撫でられる。
愛莉に指示された通り換気扇、水回り、窓、車の洗車などを終わらせていく。
その間に愛莉は茶碗等を洗い、掃除機をかけて床を拭き上げる。
母さんたちの部屋は流石に入るのを遠慮したらしい。
僕達の部屋を入念に掃除する。
掃除が終わった頃、愛莉は昼食を作り出す。
洗車を終えた頃には昼食にありつけた。
昼食を食べ終えると片づけて愛莉とお買い物。
御節の食材やら、お餅。しめ縄を買って帰る。
愛莉が御節を作っている間に愛莉の家の鍵を借りて愛莉の家の掃除をする。
と、行っても水回りと窓ガラスを拭いたりだけど。
愛莉の部屋に入るとほとんど物は残っていない。
ベッドと机と箪笥等があるだけだ。
中味は見ない。
愛莉に怒られるから。
フローリングをウェットシートで拭くだけにしておく。
一通りに終わりると家に帰る。
愛莉はまだ御節を作っている。

「手伝おうか?」
「お疲れ様、部屋でのんびりしてて♪」

愛莉は僕がキッチンに立つのをなぜか嫌がる。
そういうのって共同作業じゃないのか?
愛莉に聞いてみる。

「私専業主婦だもん。分担してくれると嬉しいけど料理とかは任せて」

愛莉はまだ学生だろ?と思ったけどあまり食い下がっても愛莉を困らせるだけだと思ったから言わない。
部屋に入って大人しくゲームしてる。
夕方ごろになるとゲームしてるのも飽きて漫画を読みながらゴロゴロしてれば愛莉が部屋に戻ってくる。

「終わったよ~」
「お疲れさん」
「買い物連れてって、今夜のおかず買うの忘れちゃった」
「大晦日ぐらい外食しよう?愛莉も疲れてるだろうし」
「わかった~、じゃあ準備するね」

愛莉はそう言って着替えだす。
僕も着替えるかな。
二人で着替えて、愛莉が準備するまでの間テレビを見ていた。
愛莉の準備が済むとバス停に向かう。
バスの中で愛莉はスマホを弄っている。

「ねえねえ、皆で夕食食べようって~」

愛莉が提案するので僕は断る理由も無いので「いいよ」と言った

駅前に集まると。木元夫妻、丹下夫妻、椎名さん、新名さん、真鍋夫妻を覗く皆が集まっていた。

「これじゃ、忘年会第2弾って感じだな」

渡辺君が言う。
店は渡辺君が手配したらしく、居酒屋に行く。
もっともこれほどの人数が収容できる店がそんなにないのだけど。
愛莉はカンナ達と話が盛り上がっている。
僕は渡辺君、公生、誠、亀梨君の5人で集まって話をしていた。

「あれから何か反応あったか?」
「いや特に?」
「不気味だね、何かしらリアクションがあっていいはずなのに」
「やっぱりそれどころじゃないのか?」

4人の話を聞きながら料理を食べている。
やつらが手を出せない理由、きっと単純な事だろう。

「誠、足跡辿られるような真似はしてないんだろ?」
「そりゃ間に踏み台何台も用意したし絶対に足跡は辿られていない」
「確かハードディスクを破壊するんだったな?」
「ああ、まこちゃんが作動したらもう二度と使い物にならない」
「感染力も抜群なんだよな?」
「ああ、無線だろうが何だろうが感染経路は無数にあるぜ」
「だったら理由は一つ、反撃する手掛かりが無いんだよ」

僕が言うと皆納得した。

「なるほど、反撃する場所を特定できずにいるということだね」

公生が言う。

「書類に残してあるなんてことはないからな。最近は」

渡辺君が言う。

「それでも妙ですよ。アイツら探偵使って資料を集めてるはずなんです。それまで削除は無理でしょう」

亀梨君が言うと僕が答えた。

「それが逆なんだよ、今は彼らは警察に踏み込まれている、下手な資料は残せない。それが証拠になってしまうから」
「それって逆に言えば彼らの手助けをしたことになるのでは?」

亀梨君が言う。
彼等の証拠隠蔽に加担してしまったのではないか?
しかし誠は笑う。

「言ったろ。データは捕獲済みだって。すでに遠坂警視にはデータを送付済みだ」
「あんた達を敵に回すと恐ろしい事が良く分かったよ」

亀梨君が溜息をつく。

「先手必勝とはよく言ったものだな」

渡辺君が言う。

「偶々条件がそろっただけだよ、相手はまだ構えをとれていない、こっちにカードが舞い込んだ。使うタイミングは今だと思ったから使っただけさ」
「なるほどな。その判断力は冬夜ならではだな」
「そんなこともないさ」
「おーい、また男だけしけた話してる。こっちに混ざれよ!」

美嘉さんとカンナが呼んでる。

「わかったわかった今行くから……」

渡辺君が言うと立ち上がる。
僕達もテーブルを移動して女性陣の話に混ざった。
しかし気になることはある。
以前誠が言ってた、物理的に隔離されてるPC。
それは間違い無くあるはずだ。
あとまこちゃんは手動で発動するウィルスだと聞いた。
誠の監視の目を逃れてるPCは無いのだろうか?
不安の種は尽きない。
警戒はしておく必要がある。
その事は口にしなかった。
折角のムードを台無しにしたくない。
相手がいつ反撃をしてくるか分からない以上、いたずらに不安を煽るだけだ。
だけど警戒はしておこう。
今は作戦の成功に満足しておこう。

「あ、冬夜君また難しい顔してる。だめだよ~」

愛莉が言う。

「ごめんごめん、ちょっとね……」
「ちょっと何があるんだよ?」

カンナが食いつく。

「こんなことならホテル用意しとくんだったなって」
「ほえ?」
「お酒も入ったし愛莉と一晩ゆっくりすごしたいなって」
「と、冬夜君たらもう……私はラブホでも平気だよ」
「そうか、じゃあそうするか」
「冬夜君がそう言ってくれるのは嬉しいんだけど……」
「残念だったなトーヤ。今夜は朝まで騒ぐって決めてるんだ!」

カンナが言う。

「そうか、それなら仕方ないな」

夕食をすませるとそれから春肥町のうどん屋まで行ってうどんを食べて、春肥神社に向かいお参りをして街に戻ってカラオケで朝まで騒ぐのだった。

(2)

「海未、蕎麦出来たぞ」

修ちゃんが呼んでる。
作業を止めて手を洗ってダイニングに行く。
月見そばが出来ていた。
二人でお蕎麦を食べながらテレビを見る。
そばを食べ終えると再び作業につく。
気がつくと朝になってた。
修ちゃんは寝てる。
私も隣で寝ていた。
昼になると修ちゃんは起きる。
そして私を起こして「初詣行こうか?」と誘ってくれる。
私は急いでシャワーを浴びて着替えて準備を済ませる。
修ちゃんの車で近くの神社に向かった。
小さいながらも格式のある神社。
今年は幸せな一年になりますように。
そう祈った。
でも多分無理だろう。
忘年会の日皆は覚悟を決めた。
敵と戦う覚悟だ。
その場の勢いもあるだろうけど、気持ちは一つだった。
仲間が増えると増えた分だけ守るものが増える。
どこまで広がるんだろう?
ユニティはありとあらゆるものを巻き込んでいく。
旋風風が竜巻に変わるようにドンドン勢力を拡大していく。
軽い気持ちで入った私達も巻き込まれていった。
でもユニティが無かったら私達は一緒になれなかった。
ユニティの手助けができるか分からないけど私もユニティの一員。
足手まといにはなりたくない。
どうか皆が無事でありますように。
そう祈ることくらいしかできなかった。
目の前にいる人が無事でいてくれたらいい。
そう思った。
皆同じ気持ちなんだろうな。
多田先輩の攻撃は成功したようだ。
私達の情報も見事に抹消したらしく、私達に害は及んでいない。
私達のPCにもウィルスは感染したじゃないかと疑ったが多田先輩はUSBメモリを見せる。

「これで、綺麗サッパリ駆除することは出来る。ハッカーは立つ鳥跡を濁さずってね。単に被害をもたらすだけの芸術性のないウィルスなんて作らないよ」

多田先輩は言う。
芸術か、芸術っていろんな形があるんだな。

「さて、そろそろ帰ろうか?」
「うん」

修ちゃんと新しい年を迎える。
今年は卒業の年。
絵は売れている。
私は絵を描いているだけでいい。
修ちゃんはそう言ってくれてる。
だから私は絵を描き続ける。
最期まで描き続けよう。
雨が降っても虹がかかるまで。

(3)

「あけましておめでとうございます」

かずさんと二人で挨拶をしていた。

「今年もよろしくお願いします」

かずさんと二人で挨拶をしていた。

「じゃ、そろそろ行こうか?」
「はい」

かずさんと二人で春肥神社に初詣に行った。
昨夜は家でのんびり過ごしていた。
滅多にないからそんな日。
私は家事と学校で多忙。
かずさんも仕事で多忙。
夜は一緒に過ごせていたけど、かずさんの帰りは遅い。
その分かずさんに沢山甘えた。
そして昼過ぎに目が覚めて現在に至る。

「やはり遅かったか。ちょっと混んでるね」
「もうちょっと早く出た方がよかった?」
「いや、どうせ3が日は休みだし。のんびりしよう」
「はい」

かずさんは多分無意識なんだろうけど着物姿の女性に目がいっている。
皆すらっとしていて、うなじが綺麗。
私も着物の方がよかったのかな?
でも着付けする時間無かった。
でも私も今日は精一杯お洒落してきたんだよ?
気づいて欲しいな。
そんな目でかずさんを見ていたらかずさんと目が合ってしまった。

「あ、ごめん。無意識でつい見とれてしまって」

分かってる、滅多に見れないもんね。

「去年花菜は成人式で着物着たんだよね」
「はい」
「似合ってたなあ」
「また見たい?」
「え?」
「明日着付けしてもらおうか?」
「……思い出は思い出のままの方が良いって言うから」
「今の私には似合わない?」

ちょっと意地悪言ってみた。

「そ、そんなことないよ。とても似合うと思う」

慌てるかずさんを見たかっただけだから。

ようやく鈴の近くに来る。
鈴を鳴らして再選を入れて二礼二拍手一礼をする。
帰りにおみくじと交通安全のお守りを買う。
おみくじの内容は悪くは無かった。
家に帰るとかずさんはテレビを見ながらお酒を飲んでいる。
私は夕飯の支度。
部屋に漂う匂いに気がつくとかずさんはキッチンに来て配膳を手伝ってくれる。

「お疲れ様」

私のお猪口に熱燗が注がれる。

「お疲れ様です」

かずさんのお猪口に熱燗を注ぐ。

「やっぱり花菜の料理はどれも美味しいな」
「ほとんど出来合いのものだよ?」

また意地悪を言ってみた。

「いや、ほら。愛情が最高の調味料っていうから……」

慌てふためくかずさん。

「いっぱいあるからたくさん食べてね」

にっこり笑って、私はかずさんに言う。

「ああ、残さず食べるよ」

その晩ものんびりテレビを見ながら過ごした。

「3日の新年会行くよね?」
「ああ、もちろん。2次会はちょっと無理だけど」
「わかってるよ」
「今年は冬夜の最後の勝負の年か」
「そうだね」
「勝てると良いな」
「うん」
「花菜……そろそろ寝ようか」
「……はい」

そして私たちは寝室に行くとベッドに入る。
かずさんはすぐに眠りに就いた。
少し寂しかった。
でもかずさんの寝顔を見ていると安心する。
そして不安になる。
須藤グループとの戦争。
今度は相手は学生じゃない、れっきとした大人が相手だ。
私達で対応できるのか?
どうか今の安らぎがもうしばらく続きますように。
そう祈りながら私も眠りについた。

(4)

「お疲れ様でした~!」

友坂主任が言うと忘年会の始まり。

「いやあ、今年ギリギリまで皆よく頑張ってくれました」

真鍋夫妻は新婚旅行に行ってる。
ハワイで年を越すらしい。
芸能人みたいで羨ましい。

「新名さん卒業できそう?」

友坂主任が聞いてくる。

「大丈夫です、卒業制作ももうじき出来上がるし」
「それならよかった。いやさ、ユニティだっけ?皆大変そうじゃない?新名さん大丈夫なんだろうか?ってみんな心配してて」
「すいません」
「いいのよ、あなた達が悪いわけじゃないんだから。自分たちの責任くらい自分で取れる歳になったんだし」
「新名さんは俺が見てるから大丈夫ですよ。友坂主任」

椎名さんが言う。

「椎名君はいつになったら新名さんに求婚するの?」
「もういいましたよ?」

へ?
私聞いてない?

「返事はもらえたの?」
「そういやまだだな」

だから私聞いてない。

「あの……私言われた覚えないんですけど」

私が言うと友坂さんが椎名さんに詰め寄る。

「あれ?言わなかったっけ?『新名さんが卒業したら考えよう』って」
「あれってプロポーズだったんですか!?」
「だから答えはまだ聞いてないって……今聞かせてくれるならいいけど」
「新名さん、私が言うのもなんだけど、こう見えて頼りになる期待株よ!買っておいて損はない!」

友坂主任が言う。

「じゃあ、条件があります」

私が言うと椎名さんは首を傾げる。

「なんだい?」
「今すぐ指輪を用意してとはいいません。でも、せめてちゃんとした言葉くらいは……」

私が言うと椎名さんはやれやれと頭を掻く。

「本当はあの場所で渡したかったんだけどな」

あの場所?ああ、展望台か……。
椎名さんはバッグから箱を取り出すと私に差し出す。

「君が卒業したら結婚しよう。一生幸せにするから」
「いやです」
「へ?」

周りがざわつく。

「に、新名さん。さっきもいったけど、椎名さんは良い奴だよ」
「知ってます」

顔立ちも整ってて、細かい事に気が利いて、どんな我儘も聞いてくれて、時々私は翻弄されるけどそれが楽しくて、そして私が危機に陥ったらきっとすぐに助けに来てくれる。だからこそ……。

「この先自分を犠牲にしてでも私を守ろうとしてくれるでしょう。でもそんなのイヤ。わたしのせいで傷つく椎名さんを見たくない。二人で一緒に幸せになろうって約束してください」

それが私の願い。自分の為に身をぼろぼろにする椎名さんなんて見たくない。

「わかったよ、一緒に幸せになろう」

その時初めて人前で私からキスをした。
祝福の拍手が鳴りやまない中。私達は温まかい人たちに囲まれていて幸せな気分に浸っていた。



「それとこれとは話が別だ!!帰ってくれ」
「お父さん話をちゃんと聞いて」

帰りに私の家に寄ってお父さんに話をしていた。
案の定お父さんは椎名さんとの結婚を認めなかった。

「どうやったら、結婚を認めてもらえますか?」
「表に出ろ!!勝負して勝ったら認めてやる!」
「それは参ったな……まあ分かりました」
「ちょっとお父さん!」
「未来は黙ってろ!」

そしてお父さんと椎名さんは外に出た。
日付はとっくに新年を迎えていた。
新年早々警察沙汰なんて止めなきゃ
私がお父さんを止めようとするとお母さんがそれを制した。

「お母さん!?」
「良いから黙ってみてなさい」

お母さんは笑ってみてる。

お父さんが椎名さんに殴りかかる。
椎名さんは微動だにしない。
お父さんは椎名さんの左頬に拳が当たる寸前で止めていた。

「……どうして抵抗しねえ?」
「殴ってもらっても良かったんですよ?娘を他の男にとられる気持ち理解はできませんが。察することくらいはできる。そんな娘思いのお父さんに僕ができることはこれくらいです。僕に手をあげるなんて無理だ」

椎名さんがそう言うと、お父さんは拳を下ろす。

「娘の大切な亭主に手を上げられねーよ。その代わりしっかり幸せにしてやってくれ」
「ありがとうございます」
「お父さん!」

私はお父さんに抱きつく。

「いい男に巡り会えたな。おめでとう未来。母さん!極上の酒を持ってこい。新年早々目出度いことだ!椎名さんも今夜は付き合ってもらうからな」
「光栄です」

私達の年明けは良い幕を開けた。
これで誰一人傷つかずに、いい年になればいいな。

(5)

家に帰った僕達は疲れてきっていてすぐに寝てしまった。
起きたのは昼の14時過ぎ。
愛莉は今シャワーを浴びてる。
僕は部屋で毎年恒例の番組を見ながらミカンを食べていた。
愛莉が戻ってくると「あ~今年もやってるんだ」と自然に僕の隣にくっ付くように座る。
髪の毛から甘い香りが漂ってきて誘惑する。
誘惑と戦いながら、愛莉は今日は家事は休みだと二人でくっついて、更に誘惑する。
番組が終わると夕方になっていた。
この時間になると色気より食い気になる。
お昼も食べてないもんな。
愛莉にその事を伝えると。

「えへへ~。私もさっきから小腹空いてたんだよね。お餅何個か焼いて来るね」

そう言って部屋を出ていく。
臨時ニュースが入った。
なんでも年末にかけて衣類全部と通帳と財布を取りあげられ素っ裸でアパートに放置されていた女子大生が救助されたとか。
場所は別府の住宅街。
スマホも取り上げられ連絡もつけられず、年末になっても帰ってこないから心配した両親が電話したけど繋がらずに警察に通報したところ。大家立ち合いで合鍵で押し入って保護されたらしい。
女性は、泣きわめいていたらしくて、お隣さんからも通報があったらしい。
事情はこれから詳しく聞いてくそうだ。
年始早々物騒な事件だな。

「冬夜君お待たせ~」

愛莉が焼餅をもってやってきた。
愛莉も僕も砂糖醤油で食べるのが好きだ。
その時スマホがなる。
メッセージの着信だ。

「さっきの事件の女アーバニティの一人だ」

亀梨君からのメッセージだった。
皆が騒然とする。
その事件は一件だけじゃなかった。
何件も他の地域で発生しているらしい。
共通することは皆アーバニティの女性だったという事。

「これが報復か?」

渡辺君が言う。

「警告かもね?」

公生が言う。

「ちょっと!リストは削除したんじゃなかったの!」

亜依さんが言ってる。

「そのつもりだったけど、漏れがあったか独立したPCに入れていたかのどちらかだ」

誠が言うが、もう一つ理由がつくことは、全員分のリストをファイルに綴ってあったこと。
そんな危険な事をやるのかどうかは別としてやつらはアーバーニティの名簿を保持しているという事実。
その事実が浮かんだ時、僕達が優位に立っていたという立場は逆転する。
いつ、だれが、どこでやられるか分からない状態。
さすがに恵美さんと晶さんの力だけでは全員保護なんてできない。

「冬夜君……」
「愛莉……そろそろ晩御飯の時間。お雑煮で良いから作ってくれないかな?」
「それどころじゃないでしょ」
「僕はお餅4つでいいよ」
「……さっき食べたばっかりなのに」

愛莉は僕の意図を察したのかにこりと笑って部屋を出ていく。
その間にも事態は進展していく。

「まこちゃんが消滅してる!馬鹿な!?俺の持っているファイルを使わないと消せないはずなのに!?」

誠が言ってる。特別驚くほどの事ではなかった。誠が作れたんだから他の誰かでも作れる。多分そう言うスキルの持ち主が相手にいるんだろう。

「ちょっと、私達どうなるの!?」

女性陣が怯えている。この事態をどうにかしないと……。
誠に電話する。

「冬夜、すまない!俺の油断だった!」
「いや、それより誠のサーバーは大丈夫なのか?」
「それは問題ない、サイト削除した方が良いか?」
「相手が行動に移っていたらもう遅いよ。こっちが気づいてないと油断させた方が良いかもしれない」
「分かった」
「誠、むやみに足跡残すような真似は寄せよ。同じルートは監視されてると思った方が良い」
「分かってる!」
「落ち着け、相手はアーバニティのリストを保持している。事実はそれだけだ。他は分からないんだ。慌てる状況じゃない」
「アーバニティのリストを持っているなら俺達のリストも持ってるんじゃないのか!?」

多分持ってるだろうな。疑ってかかった方が良い。じゃあどうする……?

「感染した端末は全て把握してるのか?」
「それは、間違いない。ちゃんと保存してある」

なら次の狙いはそれだな。

「誠はとにかくサーバーの警備だけはしっかりしてくれ。公生にも言っとく」
「分かった」
「カンナに落ち着け、まだ慌てる時間じゃない。と伝えてくれないか?」
「それならお前が皆に直接言った方がいいんじゃ、女性陣皆怯えてる」
「わかった、じゃあ一回電話きるよ」
「ああ」

電話を切ると、ユニティのグループメッセージに「落ち着こう、まだ慌てる時間じゃない」と送信する。
そうは言えどやはりみんなの動揺は押さえきれない!
何か有効な手段を考えないと。

「冬夜君、お雑煮で来たよ~部屋で食べる~?」
「いや、ダイニングで食べるよ。今行く」

スマホを置いて下に降りる。
雑煮を食べながら考える。
落ち着かなきゃいけないのは僕だ。
どう対処すればいい?
相手の出方を伺ってやるやり方は危険すぎる。
先手をつくか対の先をとるか。
考えろ。僕に出来ることはなんだ?
相手の出方を考える。相手の気分になってみる。
そもそも、どうしてそんな末端を潰しにかかった?
狙うならもっと中枢……。

「うぅ……あまりおいしくなかった?」
「え?」
「なんかすっごい難しい顔してたから……」
「そんなわけないだろ?愛莉のお雑煮は誰よりも一番おいしいよ」
「ありがとう♪……でもそうじゃないってことはまた難しい問題に直面したんだね?」

愛莉が不安そうに見てる。

「大丈夫だよ、慌てるような時間じゃないから」

愛莉の頭を撫でてやる。

「でもどうして、そんな誰も知らないような人狙ったんだろうね?」

愛莉が言う。
多分メッセージだろう。

お前たちの消した情報はまだ生きているという。

どうしてそんな事をする?
そんな事をしたらどうする?
まず、相手の手札を奪おうとやっきになるだろうな。
だとするとまず動くのは誠……。
狙いは誠か!?
そう判断するにはまだ早い。

「愛莉ご馳走様!」
「う、うん。どうしたの慌てて?」
「ごめん、ちょっと電話してくる」

部屋に戻るとまずは……公生だ。

「もしもし?」
「公生!エゴイストの時に誠の足跡は辿れたのか?」
「ウィザードが突き止めたかな?ウィザードが隠滅したけど?それと今回の事件関係あるの?」
「ありがとう、次亀梨君に確認したいから!」
「ああ、わかった。また明後日新年会でそうだんしよう」
「そうだね、じゃあ!」

ウィザードが見つけたというのは聞いてる。私立大サーバーまでは突き止められたらしいから。そのから私立大に通ってる何人かをしぼったんだろう。
亀梨君に電話した。

「アーバニティのリストにはユニティ皆のリストがあった?そうだね?」
「ああ、間違いない」
「けど、誰がサーバーに侵入してるかまでは分からなかった」
「ああ、うまい具合に足跡消されていてな。ユニティのサーバに侵入しようものならトロイの木馬のプレゼントだ」

てことは足がかりがあるのは私立大の3人。
誠を放置していた理由にも説明がつく。
全部辻褄が合う。今回の拉致事件は罠だ。
相手は侵入するハッカーが誠であることを突き止められなかった。
だから、亜依さん……桐谷君の妻を狙った。
だけど今回ファイルが残っていることをちらつかせて、こっちをおびき寄せる。
誠の行動は最初から予測されていた事だ。
誠に警告しないと!
誠に電話する。誠が電話にでない。なにかあったのか!?
片づけを終えた愛莉がもどってきた。

「誰に電話してるの~?」
「今誠に……」

電話に誰かが出た。

「誠か!?僕だけど……」
「トーヤ!!誠が……誠が……」

ただならぬカンナの気配。遅かったか!?

「片桐君。私晶だけど……」

晶さん!?

「片桐君のメッセージの様子がおかしかったから私も気になって善君と来たのよ。そしたら……」

最悪の事態だ。

「……救急車は?」
「今警察と一緒に手配したわ。相手は取り押さえた」
「誠は無事!?」
「……頭を鈍器で強く殴られたみたい。命に別状は無いみたいよ。西松医院に向かってる。片桐君達もよかったらきて」
「わかった」

電話を切る。

「ねえ?誠君に何があったの?」

愛莉が聞いてくる。

「西松医院に行こう」
「病院に行こうって誠君怪我しちゃったの!?神奈は?」

愛莉を抱きしめる。

「神奈は大丈夫だよ。落ち着いて」
「……私達どうなっちゃうの?」
「大丈夫だから……落ち着いて」

愛莉を落ち着かせながら出かける準備をさせて西松医院に行った。
短い休息の時を終え、よりにもよって元旦早々早速やられた。
僕の判断ミスだ。
苛立つ自分を押さえながら車に乗り込もうとする僕を愛莉が止めた。

「今夜は私が運転するから」
「でも愛莉動揺してるんじゃ」
「冬夜君が苛立ってるの見たら不思議と落ち着いた。今は私が落ち着いて冬夜君を見てなきゃって」

愛莉の運転で、西松医院に向かう。
まだ静かな夜の町を駆け抜けがら、対策を考えていた。
僕なら次誰を狙う?
答えは簡単だった。
落ち着け、相手のカードは見えた。
じゃあ、どう対応する。
手持ちの札を確認しながら。その対応策を考えていた。
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