優等生と劣等生

和希

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4thSEASON

闇夜を駆け抜ける者たち

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(1)

「愛莉、朝だよ」
「うん……」

朝から様子がおかしい。
いつもならもっと元気よくキスくらいしてくるかと思ったけど。

「愛莉どこか悪いところある?」
「今日なんか冷えるね、寒気がする。貧血みたい。なんか頭が冷たいの?」

頭が冷たい?
どれどれ……。
滅茶苦茶熱いじゃないか!?

「愛莉体温計持ってくるからちょっと待ってて」

急いでリビングに行って体温計を持ってくる。

「体温計なら私持ってるのに」
「いいから体温測って」

凄い汗かいてる。
熱は38度5分あった。

「僕ちょっと日課してくるから愛莉は着替えて寝てて」
「朝ごはん準備しなくちゃ……冬夜君がエンプティになっちゃう」
「自分のごはんくらい自分で何とかするから」

そう言って家を出て日課をこなす。
家に帰るとシャワーを浴びてパンを焼きながら愛莉の朝食を考える。
ご飯が残ってる。おかゆで良いか。
おかゆを作って愛莉の元に持って行く。

「冬夜君が作ったの?」
「他に誰もいないだろ?」

ちなみに遠坂・片桐両家とも親は不在。

「それ食べたら病院に行こう?」
「ただの風邪だから大丈夫だよ」
「愛莉にもしものことがあったら僕がおじさんにおこられちゃう」
「パパさんはそのくらいじゃ怒らないよ。私がちゃんと冬夜君はこんなに優しいんだよって説明するから」
「僕をだめな亭主にしないで」
「うぅ……わかった」

愛莉の説得に成功すると出かける準備をする。
愛莉が着替え終えると病院に向かう。
病院に着くと愛莉が診察を受けてる間スマホで検索する。
暫くすると愛莉が戻ってくる。

「どうだった?」
「ただの風邪だって。インフルとかじゃないみたい。お注射してもらった。お薬も処方してくれるって」

薬を受け取ると家に連れて帰る。

愛莉が部屋着に着替えてる間にアイスノンと氷枕を用意する。
冷たくて気持ちいい。

汗の書いた下着等は洗濯機に入れて洗濯機をまわす。
その間にご飯を炊く。
暫くすると乾燥が終る。
洗濯物を部屋に持って行くとここからが大変。
アイロンというものをかけたことが無い。
ネットで検索した通りにアイロンをかけていく。
……多分上手くできた。
それをクローゼットにしまうと次の難関が待っている。
下着類を仕舞うわけだけど愛莉の下着のたたみ方が分からない。

「私があとでやるからいいよ……」

病人の愛莉を使うわけには行かない。
何、いずれお嫁さんになる人の下着くらいたためるようになっとかないと。
ネットで検索しながら、すでにたたんでしまってある愛莉の下着を観察しながらたたんでいく。
全ての工程が終えると次は昼ごはん。
僕はラーメンでいいとして愛莉はちょっとつらいだろう。
やっぱりおかゆにするか。

「愛莉、ご飯できたよ。一緒に食べよう?」
「わ~い」

愛莉は美味しそうに食べる。
やけにうれしそうだな。

「美味しい?」
「冬夜君が初めて私の為に作ってくれた料理だよ。不味いわけないじゃない」

そうかそれはよかった。

「偶に病気になるのもわるくないね」
「なんで?」
「冬夜君がすっごく優しいんだもん」
「……ごめんな。愛莉のメンテ不足った。最近忙しかったもんな」
「私こそ冬夜君にめいわくかけてごめんなさい。ダメなお嫁さんだと思ってない?」
「思うわけないだろ?」
「うん」

ご飯を食べ終えると薬を飲ませて愛莉を寝させる。
その際汗びっしょりになった愛莉の着替えを用意してやる。
愛莉が着替えてる間に食器類を片付ける。
代えの氷枕とアイスノンを用意して部屋に戻って好感してやる。

「何かできることある?」

愛莉に聞いてみる。

「そばにいてくれるだけでいいよ」

愛莉が答える。
愛莉の話し相手になってやっていると愛莉の声がしなくなった。
ぐっすり眠っているようだ。
愛莉を起こさないようにヘッドホンをしてゲームをする。
愛莉が倒れるなんて珍しいな。
やっぱり最近須藤グループとの戦いでろくに休む時間なかったせいかな?
愛莉は日常の家事もしていたし、過労だろう。
やっぱり少し分担した方がいいのかも。

「冬夜君がそう思ってくれてるだけで十分幸せだよ」

いつの間にか起きた愛莉が。僕にもたれかかる。

「寝てなきゃだめだろ?」
「一緒にいてくれるって言ったのにゲームしてる冬夜君が悪いんだよ」

愛莉をベッドに寝せてやる。
体温を測る。
平熱になってる。薬が効いてるのかな。
油断はできないな。

「夜ご飯どうする?」
「私が作るよ」
「愛莉は駄目。今日は一日オフ。分かった?」
「うぅ……じゃあ、条件があります」
「なに?」
「どこにもいかないで」
「分かった。でも夕食は買いに行かなくちゃ……」
「冬夜君は体が弱ってるお嫁さんを置いてどこかに行っちゃうの?」

それだけ元気があれば少しくらい目を離してもと思ったけど、紅会の事もある。やはり一人にはできないか。

「分かった、じゃあ何か出前とろう。食べたいものある?」
「おうどんが食べたいな」
「わかったよ」

電話をする。

「うどんとカツ丼とから揚げおかずのみととんかつおかずのみと……」

ぽかっ

「一つにしなさい!」
「うどんとカツ丼大盛りでお願いします」

「油断も隙も無いんだから」と愛莉が笑う。

もう大丈夫かな?

ご飯を食べると食器を洗って。シャワーを浴びる。
愛莉はその間に薬を飲んで寝てるはず。
部屋に戻ると愛莉は起きてから着替えを用意する。

「愛莉お風呂は駄目!湯冷めするから!」
「湯冷めしないようにするから大丈夫だよ~」
「一日くらいお風呂入らなかったくらい平気だよ」
「冬夜君に汗臭いと思われるのがいやなの!」
「思わないから」
「いやなものは嫌!」
「しょうがないな……絶対湯冷めしないようにすぐに寝るって約束するか?」
「うぅ……そう来ますか」

愛莉は悩んでいる。

「いいよ。ただし私からも条件出します」
「何?」
「今日は冬夜君も早めに寝る。誓えますか?」

なんか色々突っ込みどころのある条件なんだけど。そもそも愛莉がお風呂に入る条件を提示したのにさらに条件を出されるのっておかしくないか?
でも、ここで愛莉ともめて愛莉の風邪ぶり返すのも得策じゃない。

「愛莉がすぐ寝るって約束するなら」
「うん、寝てる間にベッドから出てたら怒るからね」

そう言って愛莉はお風呂に向かった。
愛莉は5分ほどでお風呂から戻ってきて髪の毛を乾かしている。
乾燥を終えると「早く寝よ?」と僕をベッドに誘う。
テレビをつけたまま照明だけを消す。
ニュースをやってた。
また例の女性を狙った犯行らしい。
アーバニティの組織は膨れ上がり過ぎて狙われている人物の特定ができない。
そして、2度あることは3度ある。

「俺達に手を出すとこうなる unity」

今度の被害者は誠に家に向かった二人だった。

「冬夜君テレビ消して。冬夜君寝る気ないでしょ」

愛莉に怒られたのでテレビを消す。
スマホも取り上げられた。
そして僕を抱きしめる。
私にかまってといわんばかりに。
今夜は我慢した。
翌日愛莉は元気になっていた。

(2)

ドーン!
ガタガタ。

爆風で窓が揺れる。
僕は奈留をベッドに寝させておいてそっと窓を覗く。
あちこちに吹き上がる爆炎。
爆発が起こるたびに窓ガラスが揺れる。
SPが空に向かって銃を乱射している。
空に向かってロケットランチャーを発砲している者もいる。
何が起こっているのか?

「公生!!」

奈留が僕の襟をつかみ引っ張る。
僕が倒れると一発の銃弾が窓を突き破ってきた。

「あれは陽動だよ。狙いはあくまで私達!」

あれの正体が知りたいんだけど。

耳を澄ます。ジェット音が聞こえるわけでもないプロペラ音も聞こえない。
爆撃してるものの正体はなんだ?

「きっとバードマン。忘れたの?九尾の狐のメンバー」

奈留が言う。
ああ、居たな。そんな奴。
僕を仕留め損ねたスナイパーは二撃目は無かった。
バードマンと思われる爆撃手もどこかへ去っていったようだ。
サーチライトで後を追いかけてるようだけど夜闇を舞う一人の人間を探すなんて土台無理な話だ。
その事をユニティの皆に知らせる。
やっぱり九尾の狐のメンバーが動き出したことを知ると動揺したみたいだ。
チャットルームは混乱する。
僕は爪を噛む。
落ち着け、今最優先するべきことはなんだ。
正体の分からない物に怯える事ではないことは確かだ。
今の僕に出来る事。
はっとして奈留を見る。
奈留は僕の服を掴んだまま震えている。
その震える手を包み込む。

「もう大丈夫だよ。そろそろ寝よう」
「私はバードマンが怖いんじゃない。怖いのは無謀に立ち向かおうとする公生。公生に何かあったら私は何を頼りに生きて行けばいいの?」
「……ごめんなさい」
「公生の言う通りだね、そろそろ寝よう?明日の朝また詳しい事は分かるだろうから」
「そうだね」

そう言って僕達は眠りについた。

翌朝綺麗に整備されていた庭は穴ぼこだらけだった。
負傷者も大勢いるらしい。
あれだけ派手に爆撃したんだ。当然だろう。
だけど相手の素性は知れないまま。
聞いた話だと相手はたったの3人だったらしい。
爆撃手、狙撃手、そして運転手。
運転もかなりの凄腕のドライバーだったらしい。追跡をいとも簡単に巻いてしまったとか。
この分だと他の皆のところにも襲撃はあるだろうな。
注意喚起をする。
しかし、昨夜の事件がニュースになることは無かった。
ニュースになったのはユニティの報復の事件のみ。
ユニティもただ座してやられるのを待ってるわけではなかった。

(3)

ピンポーン。

呼び鈴の音が聞こえる。
香織は今シャワーを浴びている。
俺が出るしかないか。

ピンポーン

二度目がなる。
そんなに急かさなくても今出るよ。
のぞき窓から誰がいるのかを確認する。
咄嗟にドアから離れた。

あれは死神だ。

ピンポーン。

3度目が鳴る。

「興毅~!私着替え中だから出てよ~」
「静かにしてろ!」

チュイーン……。

チェーンソーの音が聞こえる。
それをドアに突き刺すとドアを切り裂いていく。

「香織、早く服を着ろ!逃げるぞ!」
「逃げるってここ5階だよ!」

怯える香りを引きずってとりあえず押し入れに隠れる。

ガターン。

ドアを切ったらしい。
だが中に入ってこない。

「きぃ!この狭い扉はなんなの!?憎たらしい!!」
「奈津子様。ここは我々が」
「……任せるわ」

部下らしいものが侵入する足音が聞こえる。
息を殺しながらユニティのメンバーに助けを求める。
アパートの下に4人兵隊が潜んでいたらしいすぐに駆け付けるとの事。
ガラッと押し入れのふすまが開けられる。
黒服の男が3人いる。

「抵抗せずに両手を後頭部に当てて出てこい」

拳銃を突きつけられている状況では何もできない。
観念して押し入れから出る。

「女!早くしろ!!」
「痛い!髪の毛を引っ張らないで!!」

香織の髪を引っ張り引きずり出す男。

「そっちの要求はなんだ?俺達の命か?」

俺は男に訪ねた。

「余計な事は喋るな。命が惜しくばな」

男は俺達を殺すつもりは無いらしい。人質か?

出来るだけ時間を稼いでゆっくり歩く。

「のろのろするな!さっさと歩け!」

その時声が聞こえた。

「目を閉じてください!」

カランカランと何かが投げ込まれる。

「香織!目を閉じて耳を塞げ!」

その投げ込まれたものを見た時俺は叫んだ。
同時に俺も目をつぶって耳を塞ぐ。

男が拳銃を撃つ前にそれは炸裂した。
物凄い光と音をぶちまけるスタングレネード。

耳を塞いだくらいでは耳鳴りは止まらない。
だが男たちの目くらましにはなってる。
今だ!
俺は香織の手を掴み外に出る。
外に出るとスティールレディが顔を手で覆っている。
迷彩服を着た男の後ろに隠れる。

「そのまま下まで逃げて来るまで逃走してください」

言われるままに俺達は逃走する。
車の中には非常用のスニーカーが用意されてある。
それを履くと車を出す。

「どこに逃げるの!?」
「ユニティに連絡を!」

香織がスマホを操作する。

「酒井君の家分かる!?」

それなら近くだ。
俺は安心していた。油断していた。だから気づかなかった。追尾されていることに。
真っ直ぐ酒井君の家に行くと呼び鈴を押す。
晶さんがドアを開けると同時だった。
車に乗せたままの香織から悲鳴が聞こえる。
黒い挑発に黒くて長いひげを生やした中東風の男が香織の腕を取り片腕で香織のこめかみに銃を突き付けている。

「つけられてのね」

晶さんは苦々し気に男を睨みつける。

「そう怖い顔をしなさんな。この女をどうこうしようって気はねーよ。単純な取引だ。あんたとこの女交換しないか?」
「そんな条件を飲むと思っているの?」

そういいつつリストバンドのボタンを押そうとすると男が制止する。

「おっとそいつで奇妙なスーツを装備するのは調べてある。大人しくそれを外しな」

晶さんはリストバンドを外した。

「で、取引はどうする?選択肢はあると思うが」
「いいわ、飲もうじゃない?」
「ありがてえ、こっちも仕事なんでな、物分かりが良いと助かる」

そう言って男は香織を解放する。
香織を解放すると次に晶さんに銃を向ける。

「手荒い真似はしたくねえ。大人しく車に乗ってくれ」

そう言って後ろにとめてあるバンを指す。
バンから黒服の男が数人出てきて、晶さんの身柄を拘束する。

「す、すいません。俺のせいで」
「気にしないで、善君によろしく伝えて」
「女!!歩け!!」

黒服の男がバンに晶さんを乗せると男が運転席に座り走り去っていった。
それを確認すると俺は酒井君に電話する。

「もしもし?」
「すまない、俺を尾行されてたみたいだ。晶さんが捕まってしまった」
「なんだって!!」
「もうしわけない」
「とりあえず家の中に入っていて。すぐに向かいます」
「わかった」

電話はそうして切れた。
晶さんがさらわれた。
その事はすぐにユニティのグループに知れ渡った。

「何やってんだこの間抜け!」

美嘉さんの叱咤が飛ぶ。

「とりあえずそこで待ってなさい、すぐに救援をよこすわ。指示があるまで勝手な行動しちゃだめよ!」

恵美さんが言う。

「分かってる」

恵美さんと晶さんが狙われているのは分かっていた。
俺のミスだ。
片桐君は何も言わない。
思考中なら今声をかけるのはよくない。
俺は泣きわめく香織を宥めながら家に入った。
土曜の寒い冬の出来事だった。

(4)

「すぐに向かいます」

そう言ってスマホを仕舞いながらチェーンソーの斬撃を躱す。
彼女は自分の部下を踏みつけながら突進してくる。
踏みつけられた部下はうめき声を上げる。
多分あばら骨が折れたんだろう。

「ちょこまかと逃げてないで正々堂々と立ち向かったらどうなの!?この卑怯者!」

随分勝手な理屈だ。
振り下ろされるチェーンソーを躱して飛び上がり彼女の頭上を飛び越える。
彼女は息一つ切らさずに僕の方に振り返り突進してくる。
あまり時間をかけていられないな。
晶ちゃんの兵隊には住民の安全の確保をお願いしてある。
兵隊とはいえ、人の命に変わりはない。
こんな化け物の相手をして命を落とすことは無い。
僕も同じことが言える。
なんせグレネード数発くらっても傷一つない装甲を装備していても警戒に動き回る正に化け物だ。
まともに相手していたらくたびれるだけ。
それに晶ちゃんが攫われた今、化け物に費やしてる時間も惜しい。
彼女の首にワイヤーを巻き付けると僕は5階の手すりを飛び越え飛び降りる。
そしてすぐ下の4階の手すりを掴んで4階に逃げ込む。
ワイヤーは簡単には切れない。
簡単に引きちぎった人ならいるけど。
しかし彼女はチェーンソーを持っている。
首の装甲にまきついたワイヤーを切ることは出来ない。
チェーンソーで切っちゃえばいいのにね?
彼女の首に巻きついたワイヤーを引っ張る。
彼女は僕に引っ張られ5階の手すりを破壊して下に落下する。
僕はワイヤーを離す。離さないと今度は僕が引っ張られるから。

ドスン!

4階にまでその衝撃が響き渡り、アスファルトで舗装された地面に食い込む彼女の体。
あの重量で4階から落ちたんだ、普通は死ぬね。
血が飛び散って肉片と化したグロテスクなものを想像した。
だけど、これは恋愛小説。
そんなグロいシーンとは無縁の世界。
まあ、死んだことには変わりないけど。
僕も文字通り死神になってしまったようだ。
そう思って下を見ているとその肉の塊というか鉄の塊はむくりと起き上がり平然と言い放つ!

「それがレディに対する扱いの仕方なの!?さすがは死神とはよく言ったものだわ!」

どこの社交界にチェーンソーを振り回す鉄の塊がいるのか抗議したいところだけどそれはまた上に向かってくる。
僕はさっきの要領で2階まで下りると2階から飛び降りる。
彼女が上に行きついた頃には僕は下で車に乗っている。

「待てえ!てやあ!」

どれだけの重量を持っているんだろうというその鉄の塊はと何のためらいもなく4階から飛び降りる。
5階から飛び降りて無傷だもの。4階から飛び降りたって平気だよね。
そんな滅茶苦茶な理屈で彼女は僕の進路を阻む。

「出てこい!そして私と戦え!!」

このまま跳ね飛ばしても死なないだろうと思ったけどまだローンが残っている車に傷を入れたくなかったので車を降りる。
さてどうしたものか。
普通のやり方では彼女を戦闘不能には出来ない。
とりあえず目で合図をして晶ちゃんの兵隊に撤退を命じる。
兵隊が来るまで走り去ろうとするのを妨害する。
兵隊は躊躇いなくトラックのアクセルを踏み込む。
そういう化け物だと知っているから。
だがその鉄の塊は案の定鉄の塊だった。
トラックの加速をその身一つで止まらせる彼女。
車の前部分はまるで壁に衝突したかのようなダメージを食らっていた。
だが彼女の気がそれた。僕はチェーンソーを振り上げトラックに突き刺そうとするときに鎖を両手に巻き付ける。
そのまま車に乗って全力でバックする。
彼女の体から金属がこすれて火花が飛び散る。
スピードが乗ってきたところでブレーキを踏むと同時に鎖を手放す。
車とは比べ物にならない勢いがついた彼女の体は遥か彼方に跳んでいく。
そのまま星になってくれると良いんだけど。
山に激突したようだ。
土煙を上げている。
手に持っていたスコープで確認する。むくりと起き上がってこちらに向かってくる。
兵隊はまだ動けていない。
やはりあれを黙らせるしかないか?
手に持っていたソーコムじゃ無理だろうな。
とりあえずトラックに急いでこの場を離れるように言う。
トラックは走りだした。
走り出したとほぼ同時に彼女は戻ってきた。

「あんたのお蔭で顔すりむいちゃったじゃないの?乙女の顔に傷をつけた代償は重いわよ」

色々突っ込みどころはあるんだけどとりあえず乙女の顔というのには間違いないでしょうね。
まだもってるチェーンソーを始動しようとするが動かない。故障か燃料切れか?

「……まあ、いいわ。目的は達成したようだし今日はこの辺にしといて上げる。次はその首頂くわよ死神」

次が来ないことを祈りつつもタイヤが悲鳴をあげてそうなバイクに跨り彼女は走り去る。
僕も急いで家に帰った。
家に帰ると亀梨君から事情を聞く。
リストバンドを落したというがそのリストバンドが見つからない。
ああ、そういうことか。
一人納得するとユニティに報告する。

「あれは大人の都合と言う魔法がかかっていて、一度手離しても直ぐに戻るようになってるのよ」

恵美さんがそう言う。ある意味呪いだな。
まあ、多少サスペンス染みてるこのお話に多少のファンタジーはありかもしれない。
何事もバランスが大事。
それにしても片桐君にまったく連絡がつかない。
どうしたんだろう?
何かあったのかい?片桐君や。

(5)

深夜目が覚めるとスマホが鳴り続けていることに気が付いた。
愛莉を見る。
すやすやと眠っている。
額を触ってみる。熱も下がってる。とりあえず安心した。
スマホを手に取りログを辿る。
晶さんが触らわれた!?
ログを追いながら状況を整理する。
九尾の狐が作戦に加わったらしい。
確認するからに二人が。
さらに江口家に襲撃があったらしい、状況からしてバードマンの仕業だろう。
狙撃した相手はわからないけど九尾の狐の連中なのは間違いない。
皆が僕の指示を待っていたらしい。

「ごめん、今起きたところ?」
「寝てた!?この大変な時に呑気なものだな!」

しょうがないだろ愛莉がそう言うんだから。
今も後ろで僕に抱き着いてくる。

「今日はスマホも無しって言ったよ~」
「それどころじゃないんだって」

愛莉に愛莉のスマホを渡す。
愛莉はスマホ見て次第に顔色が悪くなる。

「冬夜君どうしよう!?」

そうだな。まず確認することがある。

「亀梨君達は無事?」
「はい、俺達は無事です。でも晶さんが……」
「君達何も隠してる事無いよね。この際だから全部話して」
「隠すようなことは何も……あ、そういえば……」

何かあるのか?

「あいつら、どうやらまだアーバニティの施設使ってるようです。そういうデータなら送れます」
「酒井君至急二人を誠の家に送って」
「わかりました」
「話はすんだかな?」

「え?晶?」

アカウントは晶さんの者だけど明らかに違うだろう。多分使用してるのは……。

「初めまして皆さん。俺の名前はジャッカル」
「……はじめまして。用件は何?」

誠がアカウントを追放しようとするのを裏で止めておいた。

「何、ただの取引さ。そっちのお望みのものは用意する。俺達の要求をのんでくれればいい」
「要求は何?」
「何もするな」
「何だと!?」

渡辺君が反応する。

「これから起こることをただ見てるだけにして欲しい。そうすれば君達のお望みを叶えよう」
「それじゃ取引にならないね。君達取引の意味分かって言ってるの?」

「ちょっと冬夜君!?」

愛莉が何か言いたげだから話を続ける。

「なるほど、君が片桐冬夜か!意外に冷淡な人間なんだな?人一人の命かかってるんだぜ?」
「何度も言うけどさ、人質は無事だから意味があるの。飼い犬が勝手な真似したらまずいんじゃない?」
「ここには飢えた犬が山ほどいる。彼女と言う極上の餌を放り投げたらどうなるだろうな?」
「取引は対等じゃないと意味がない」
「どういう意味だ?」
「あんた達のカードは確かにある。だけど僕達にはその交渉条件が曖昧過ぎる」
「ワハハ。自分たちが不利だと悟って教えてくれてるのかい。学校卒業したら先生にでもなったらどうだ?」
「考えておくよ」
「じゃあ、この取引は無かったことでいいな?」
「取引にならないんじゃしょうがないね」

ぽかっ

「冬夜君何やってるの?折角の交渉ぶち壊すなんて!晶さんがどうなってもいいの!?」
「どうもする気は無いよ。相手は。折角の貴重なカードをむざむざ捨てる事はしないでしょ」

すると案の定向こうは交渉条件を変えてきた。

「それだとおじさん達が困るんだよね。君達が出せるカードを見せてごらん?」

画面越しだけど少しこのおじさんの思考が読めた。

「……この電話番号知ってるよね?電話かけて来てよ」
「ああ、いいぜ」

するとしばらくしてジャッカルと名乗る者から電話がかかってきた。
中年くらいのおじさんの声だった。

「はじめましてかな?」
「はじめまして」
「で、電話で話したい事ってのはなんだい?」
「まず人質の安否の確認?」
「ああ、今聞かせてやるよ」
「片桐君!?」

晶さんの声だ。

「無事?」
「ええ、なんとか」

余裕のある声だ。思った通り。

「一人で何とかしようとか馬鹿な真似はだめだよ」
「わかってる……それよりこいつらの目的は……きゃっ!」
「夫余計な事を喋ってもらっちゃ困るな」
「彼女に何をした!?」
「ちょっと眠っててもらってるだけだよ。君もやっと本気をみせたようだね」

お互い様だね。
ジャッカルの声を聞いてはっきりわかった事。

余裕。

端からまともな交渉などするつもりは無い。

「最初の条件なんだっけ?確か『何もするな』だったかな?」
「お、気が変わったのか。もう少し強気でくると思ったんだけど。ぶるっちまったか?」
「まあね、で何時返してくれるの?」
「それより先に聞きたい事があるんだけどな」
「その条件のもうじゃないか」
「そうか、意外と話の分かる奴で助かる」
「それより人質の返還はいつ?」
「一週間後、時間は0時場所は坂ノ市の港」
「わかった。で、僕達はどうやって証明すればいい?」
「一週間何もしなかったら返してやるよ」

つまりこの一週間に何かやらかすつもりだな。

「わかった。一週間後だね」
「ああ、約束ちゃんと守ればの話だけどね」
「約束するよ」
「じゃ、また」

愛莉に内容を説明すると誠に電話する。

「誠、そっちはどうだ?」
「ああ、今施設のデータを受け取ったところだ」
「その中に坂ノ市の港はあるか?」
「あるぜ、一か所だけ」
「酒井君に変わってもらえない?」
「ああ、いいけど」
「もしもし?」
「悪いけど明日徹夜仕事になってもいいかな?」
「早速奪還作戦ですか?」
「多分時間が無い」
「仕方ないですね。妻の命かかってますからね」
「お願い、また後で連絡する」

そう言って電話を切ると次々と電話をしていく。

「派手にやるわけね」

恵美さんが言う。

「ああ、思いっきりやろう」

そう言って電話を切るとメッセージを入れる。

「ジャッカル見てるか?」

反応が無い。
晶さんの電話にかけてみる。

「お客様のおかけなった電話番号は……」

電源を切ってるようだ。

晶さんのIDにメッセージを送る。
明日昼に電話する。

「冬夜君、素直に取引受けた方が良いと思うな。だってたった一週間何もしなければいいだけでしょ?」
「その一週間の間に何をやるつもりか知らないけど、価値が無くなったらポイ捨てだよ?」
「それって助からないって事?」

愛莉の体が震えてる。

「愛莉は今日はもう寝て。明日には母さんたちが帰ってくるけど明日は多分ハードになる」
「わかった~みんな無事だよね?」
「もちろん」
「じゃ、冬夜君も早く寝てね。おやすみ」
「おやすみ」

愛莉が眠るのを確認して僕も眠りにつく。
須藤グループが何を企んでるのか知らないけどジャッカルの目的は別にあると確信していた。

挑発。

あからさまな態度。
来るなら来い、相手になってやる。
元々取引をする気なんてないのは条件を聞いた時から分かっていた。
明らかに須藤グループの指示で動いていない。
いや、指示はあったのかもしれない。

ユニティを叩きつぶせ。

そんな指示を受けていたのだろう。
力試しのつもりなんだろうが、こっちはそんなつもりは毛頭ない。
最初から全力で叩きつぶす!
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