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5thSEASON
歯痒くとも切なくとも微笑みを
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(1)
「冬夜君朝だよ~」
冬夜君はすぐに起きてくれるようになった。
すぐに起きると洗面所に顔を洗いに行く。
そして戻ってきて着替え始める。
きっと麻耶さんに言われてだろうけど。なんか寂しい。もっと構って欲しいなと思うのは甘やかしなんだろうか?
日課を済ませると冬夜君がシャワーを浴びてる間に朝食を作る。
朝食を食べ終わると冬夜君が片づけをする。
麻耶さんに言われたからだろう。
シャワーを終える頃には冬夜君の片付けも終わっていた冬夜君はコーヒーを入れている。
冬夜君と一緒に部屋に入る。
髪を乾かしてる間冬夜君はじっと待っていてくれてる。
乾かし終えると冬夜君の隣に座ってカフェオレを飲む。
飲み終わると冬夜君はマグカップをもってキッチンに向かう。
しばらくして冬夜君は戻ってきた。
またやっちゃったらしい。
「……少しだけでいいんだよ?」
「泡出た方が落ちてるって感じしない?」
偶に冬夜君は訳の分からないことを言う。
毎朝やってるんだからいい加減学習しても良いのに。
「愛莉は準備終わった?」
「もうちょっと待って?」
「わかった」
そう言うと素直にテレビを見て待っている。
前はがばってきてくれたのに。
皆に言われた事気にしてるの?
なんか寂しいよ。
「終わったよ」
「じゃあ、行こっか?」
「……」
「?」
試しに待ってみた。
気づいてもらえたみたいだ。
冬夜君は私を抱きしめてそっと言う。
「夜に構ってやるから」
わ~い。
そして学校に行く。
学校に行くと私は2階で冬夜君の練習を眺めている。
水島君と佐倉さん、千歳ちゃんと高槻君も見ている。
二人は上手くいっているようでなんかがぎこちがない。
どうしたんだろう?
練習が終わったあと佐倉さん達に聞いてみた。
「遠坂先輩には気づかれたましたか……」
「実は私もなんですけど……」
2人とも同じ悩みを抱えていたらしい。
行動は改善されたらいいんだけどなんかよそよそしいらしい。
何か影を感じるような彼の行動。
そう、それは私も冬夜君に対して感じていた事。
冬夜君は何でもこなす言われなくても何でもできることはする。それはいい傾向なのかもしれないけど何か寂しい。
私が言うと二人は「それです!」と言った。
皆どうしちゃったんだろう?
「おまたせ」
冬夜君が達が戻ってきた。
「じゃ、行こっか?」
「うん」
私と冬夜君は図書館でお勉強。
2限目からでてそして昼休みになる。
他の皆は変わらずだったらしい。
相変わらず喧嘩して冷戦状態のままだったそうだ。
原因は海から帰るときの昼食までさかのぼる。
相変わらず桐谷君と誠君が話題の中心にいる。
二人の暴走を止める手段がない。
皆非難をする。
「私のパートナーを巻き込まないで!」
そんな中笑うしかないといった感じの男性陣。
それが恵美さんの怒りを買ったらしい。
「望!あなたさっきから自分は関係ないって顔してるけど、まさか望も同じ事考えてるんでないんでしょうね!?」
そんな事はないと慌てて否定する石原君。
するとほかの女性も口々に騒ぎ出す。
慌てて否定する男性陣。
「下らねえ」と一蹴する檜山先輩。
「……どうだか……この前の晩だって私達がいなければついて行ってたんじゃないですか~?」
「それはねーから」
檜山先輩も変わった。結婚は男性を変えるのだろうか?
そんな感じで終わったのが昨日の昼。
そこから冬夜君が変わった。
何でも手伝ってくれる。
部屋の掃除も洗濯もこなしてくれる。
だから私はすることがない。それが寂しい。
「遠坂先輩どうしたんですか?」
咲が聞いてきた。
咲なら分かってくれるかもしれない。
「咲、咲は今日バイトあるの?」
「ありますけど何か相談ですか?」
「うん」
ちらりと冬夜君を見る。
何か感づいたのだろうか?
「そういう話なら女子会チャットでしませんか?」
「わかった」
「愛莉ちゃん私達で良かったら今日午後聞くわよ」
「そうですよ、青い鳥でお話しませんか?」
「……私も言っていいかな?主人の事でちょっと相談が……」
そう言うのは花菜。
冬夜君達は男性陣で話し合ってるみたいだ。
午後の授業が終わると冬夜君に言う。
「今日ちょっと青い鳥で話ししてるから部活終わったら迎えに来て」
「わかった、気を付けてね」
そう言って二人で青い鳥に行くと冬夜君はいつものメニューを頼んで食べてそして部活に行った。
「で、片桐君と何があったの?」
恵美が聞いてくる。
「うん、あのね……」
恵美達に話をした。
「片桐君はそっちに行っちゃったか」
そう言うのは亜依。
「全く相手にしてくれないわけじゃないんだよ。ただそんなに根詰めてそのうち冬夜君がストレス溜めるんじゃないかなって不安になって」
私は一応冬夜君を弁護する。
「私も同じよ、愛莉ちゃん」
「私もその事で恵美と相談してたの」
恵美と晶が言う。
2人とも相手が自分を気遣ってくれるのはいいんだけど、ストレス抱えてるんじゃないか?抱えてないとしたらどこで発散してるのか。
「私もです、主人が昨夜から妙に優しくて」
花菜も同じだという。
「私もです。隆司君やけに優しくて。寝る前におやすみってメッセージ打ってきたり……」
穂乃果も言う。
「これはまた女子会開くしかないわね。浮気の線も考えた方が良いかもしれない」
浮気?
昨日の今日でさすがにそれは無いと思ったけど。
花菜と穂乃果は不安になったらしい。
「どうしよう?」と二人で話してる。
晶さんは酒井君を冷たい目で見てる。
酒井君はなぜか汗をかいてる。
確かに暑いけど空調きいてるよ、このお店。
平然としてるのは私と美里だけだった。
ちなみに中島君は今日はサッカーの練習に行ってる。
「いいわ、この際男性全員の身辺調査をする。どうも怪しいし」
恵美が言う。
「冬夜君に浮気は無いよ。昨日の今日だよ。そんな暇ないって」
「無いに越したことはない。念のためよ」
恵美が言う。
そんな話をしばらくしてると冬夜君が迎えに来た。
「愛莉いる?」
皆が冬夜君を見る。
冬夜君はそのただならぬ雰囲気をさっすると私を見る。
私は笑顔を作って冬夜君に言う
「行こっ?」
冬夜君は私が言う通りに店を出る。
家に帰って夕食を食べてお風呂に入って一缶だけ飲んで。
その間女子会グループは炎上していた。
「みんな!とりあえずスマホのチェックだ!拒否する奴はクロだと思え!」
美嘉さんが言うと皆自分の相手のスマホをチェックしてるようだ。
「何もないよ」と、皆が言ってる。
私もしないと駄目なのかな?
疑ってるみたいでいやだな。でも私だけしないわけにはいかない。
「冬夜君、スマホ見せて」
「え?いいけど?どうしたの?さっき青い鳥でもみんなピリピリしてたけど」
「何でもないから見せて」
「いいよ」
冬夜君はロックを解除して私に渡してくれる。
発信履歴、着信履歴、アドレス、メッセージのアドレスと履歴全部見る。
渡辺班の人しかいない。
シロだった。
「ありがとう」
冬夜君にスマホを返す。
その事を女子会に送る。
「証拠は消したか」
皆はまだ疑ってるみたいだ。
冬夜君に限ってそれは無い。
私は信じていた。
でも不安はある。
冬夜君私の為に無理してる?
そう思うと上手く気持ちが込められなくて。
折角冬夜君が提案してくれた夜の好意を私は拒絶した。
冬夜君部活で疲れてるのに家事までして倒れちゃう。
そう思ったらできなかった。
「愛莉どうしたの?具合でも悪いの?」
冬夜君は私を心配してくれる。
そうじゃないんだよ。心配なのはむしろ冬夜君。
そう言った。
「そんな事心配してたのか?心配いらないよ」
冬夜君は笑ってる。
笑って無理をするのが冬夜君なのは1年生の前期の期末で学んでいた。
冬夜君に訴えた。
「いつも通りの冬夜君でいて。無理しなくていいから。冬夜君すぐ無理しちゃう。言ったでしょ。冬夜君は頑張ってるから私が支えるんだって」
冬夜君は一言っ言てくれるだけでいい。その一言ですくわれる。
形で示してくれるだけでいい、その形をずっと大事にするから。
冬夜君は分かってくれる。
私を抱きしめる。
冬夜君はいつだって形で示してくれていた。
忘れていた。ごめんね。
もう迷わないから。
その気持ちはジェットコースターみたいに浮き沈み。
どこまで続くのだろう?どこまで行けば辿り着けるのだろう?
目の前に積まれた絶望と希望。
あなたに触れていたい。痛みすら伴い歯痒くとも切なくとも、微笑みを下さい。
(2)
「冬夜君朝だよ~起きて~」
愛莉が言うと僕は目を覚ます。
母さんが来る前に顔を洗ってくる。
部屋に戻ると愛莉がうずくまっている。
どうしたんだろう?
「愛莉。日課に行くよ」
「うん」
愛莉は作り笑いをして、家を出た。
日課から戻ると僕はシャワーを浴びる。その後朝食を食べると片づけを始める。
すると愛莉がその手を止める。
愛莉は母さんに言う。
「麻耶さんお願い!これ以上冬夜君を酷使しないで!」
勉強と部活で忙しいのにこれ以上労働させるのはかわいそうだと言う。
「でも愛莉ちゃんだって家事と勉強両立させてるじゃない?」
母さんが言うと愛莉は首を振る。
「私は家事を全部こなしてるわけじゃない。休みの日は冬夜君が色んな所に連れていってくれて家事をしていない。冬夜君も休ませてあげないと可哀そう。同棲を始めたら冬夜君と分担を考えるから、今はバスケに集中させてあげたい」
愛莉が言うと母さんは僕の頭をぽんと叩く。
「あんた自分の幸運に感謝しなさい。こんなに出来た子滅多にいないよ」
それが昨日からの愛莉の不安だったのか?
「冬夜君コーヒー持って部屋で待ってて」
愛莉が笑って言う。
言われたとおりにコーヒーを持って部屋で待ってた。
愛莉が戻ってくると髪を乾かし始める。
カフェオレを飲んでいつものように準備するといつものように家を出る。
体育館で練習している様子を愛莉は2階から見学してる。
時間になって着替えて愛莉たちの元にいくと愛莉は笑顔で手を振っている。
昨日のような迷いはなかった。
昼休みも皆と一緒にわいわい騒いでいた。
バスケの練習が終わると愛莉と迎えに青い鳥に行く。
愛莉は飛びついてくる。
そして家に帰って夜を過ごす。
見えもしないものに頼って逃げるけど、愛莉は形にして欲しいとごねる。
矛盾し合ったいくつもの事が正しさを主張している。
愛するって奥が深い。
どこまで行けば解り合えるのだろう?
歯痒くとも切なくとも愛莉の微笑みを絶やさないように。
愛と言う素敵な嘘に騙されていたい。
あとどれくらいすれば忘れられるのだろう。過去の自分に向けたこの後悔と憎悪。
愛莉の胸の上で覚束ない子守唄をもう一度……。
(3)
「結論からすると全員シロよ」
恵美の結果報告に皆が胸をなでおろす。
でも新たな疑問が増える。
じゃあ、なぜみんなよそよそしいんだろう?
私はその正体を知ったから何も言わない。
現にこの一週間何も無かった。
冬夜君に私の想いは伝わった。
冬夜君の中でも私は微笑んでいるはず。
皆の疑問に答えたのはやはり聡美さんだった。
「だから言ったでしょ。男性は掌で転がしてるくらいがちょうどいいんだって」
聡美さんはそう言って笑う。
「私も同感だわ。そんな不安を抱え込むより多少不満がある方が安心するでしょう」
深雪さんが言う。
「愛するって奥が深いんですね」
千歳さんが言う。
「ちぃちゃんはまず人を心から好きになることからかな?」
神奈が言う。
「私好きでもない人とキスなんてしない」
千歳さんは言う。
そういえばキスはしたって言ってたね。
「何もしてこないと不安を覚えるか……私にもなんとなく分かります」
美里さんが言う。
「美里はどこまで進んだんだ?」
美嘉さんが言う。
「どこへも進んでません。どうしてでしょう?」
「栗林は教育受けてないからな!一度教育しないとだめか?恵美」
「そうね……。でも美里も変わらないとだめよ」
「え?」
「自分から意思を表示したの?」
「いえ」
「まだ、あなたの警戒心を解けていない。そう思っているのかもね」
恵美が言う通りだと思う。
どこまで行けば解り合えるのだろう?この感情と苦悩。
痛みすら伴うけど歯痒くとも切なくとも微笑みを。もう一度微笑みを。
「ところで奈留?今日の男共の行動はどうなってる?」
神奈が聞く。
「大丈夫、公生に問い詰めた。嘘ついたらまたしばらく口聞いてやらないって」
「それで?」
「あっさり口を割ったわ。また駅前の焼き鳥屋にいるみたい」
「どうする?踏み込むか?」
「張り込んだ方がいいわね。どうせまたろくでもない事考えてるんでしょうし」
恵美が言う。
「じゃあ、早めにお開きにするか?」
「そうね」
冬夜君には可哀そうだからそっと教えてあげた。
そんなことしなくても冬夜君は大丈夫だと思うけど。
(4)
「参ったな……」
渡辺君が溜息をついている。
皆疲弊しているようだ。
原因は間違いなく誠と桐谷君だけど。
「皆気にし過ぎなんだよ。堂々としてればいいって」
「そうそう、堂々とすればいいんだって。ばれやしないさ」
誠と桐谷君が言ってる。
「勘弁してくれ、この一週間咲良を宥めるのにどれだけ骨を折ったか。仕事疲れと同時で大変だったんだぜ」
「檜山君の言う通りだ。俺達を巻き込むのは辞めてくれ」
檜山先輩と木元先輩が言う。
その時僕のスマホが鳴る。愛莉からだ。……早めに切り上げた方がいいかな?
公生をを見る。公生にも連絡が言ったようだ。
「みんなそろそろお開きにしないか?」
「僕もそろそろ終わりにした方が良いと思うな」
「そうだな、また女性陣に感づかれると面倒だ。早い所次に行こう」
「あ、僕は帰るよ。大事な彼女が待ってるし」
精算をしながら僕は誠に言う。
「びくびくしてんじゃねーよ冬夜!それでも男か!だから遠坂さんに舐められるんだよ」
「そうだぞ冬夜!だからうちの男性陣は舐められるんだ」
この二人は学習と言うのを知らないんだろうか?
誠と桐谷君はお酒で盛り上がっている。
学習機能はあったようだ。
周りを見回す二人。
「冬夜の言う通りだな。早めに出て正解だったようだ」
「冬夜も機転が利くな!」
「ま、まあね」
僕と公生は気づいていた。物陰に隠れる20名弱の集団に気づくなって言う方に無理がある。
「ぼ、僕は子供だから入れないよね。悪いけどここで失礼するよ。じゃ、行こう奈留」
公生なりに気を使ったんだろう。「奈留」と強調して言ったにも関わらず二人は気づかない。
「僕も帰るよ……」
そんな僕の腕を掴む桐谷君と誠。
「お前には教育が足りない!俺達が一から教育してやる。今夜はついてこい!」
「そうだぞ冬夜!お前は友達付き合いが足りなさすぎるって言われただろ!」
誠と桐谷君に引きずられる僕。
愛莉、これは不可抗力だ。
「今日は前に言っていた店か?」
「ああ、この前は行きそびれたからな!やかましい女房のせいで」
誠と桐谷君は本気で気づかれないようだ。いい加減それフラグだと学習しろよ。
中央商店街を堂々と歩く僕達。
20人弱の集団は堂々と真ん中を歩く。
「ははは、今夜こそ俺達を止める者はいない!」
「ああ、そうだ誠!俺達に怖い者なんてない!」
だめだ……、また一週間やり直しだ。
みんなも顔が青ざめている。
桐谷君と誠以外は気づいている。
そりゃそうだよね。こんな夜の商店街に別の20人弱の女性の集団が尾行してるのに気づくなって言う方が無理があるよね?
渡辺君も「参ったな……」と苦笑いしていた。
「そんなしけた面するな渡辺君。楽しい夜はこれからだぞ」
「そうだな渡辺君!これからだ」
商店街を抜けると横断歩道で待つ。
もはや殺気に近いものが背後に忍び寄る。
しかし酔ってる二人には関係ない。
そして僕は逃げ出したいけど二人に捕まれていて逃げられない。
上手い事繁華街の人混みを利用して抜け出そうとする者もいたがパートナーに腕を掴まれて逃げ出せるものはいなかった。
そして店の前に着いた。
呼び込みのおばちゃんが桐谷君を見て言う。
「おう兄ちゃん。久しぶりだね。今月に入っていい子入ってるよ。今日は大勢だね。後ろの女性陣も一緒なのかい?」
「おばちゃん久しぶりに着たよ!いい子入ってるって?今フリー?」
「今電話で聞いてやるから待ってな」
「さあ、冬夜新しい世界に踏み出そうじゃないか……おばちゃん今なんて言った?」
「冬夜!楽しい世界が待ってるぞ!……今女性陣て言わなかった?」
「ああ、後ろにぴったり混ざってる女性陣がいるじゃないか?珍しいねいつも一人でくるのに。あ、新人空いてるってさ」
そんな情報いらないとばかりに恐る恐る後ろを振り返る桐谷君と誠。
「新しい世界か、楽しみだな」
「楽しい世界がここにあるのか。お前は頻繁に通ってるようだな」
「ああ、月2くらいはくるよ」
余計な情報を遠慮なく発信するおばちゃん。
「か、神奈いつからいたんだ?」
「あ、亜依来てたのか」
もはや男性陣には絶望の色しか見えなかった。
「どうした誠さっさと行こうぜ。止める者なんていないんだろ?」
「瑛大もどうした?怖い者もやかましい女房もいないんだってな?」
口をパクパクさせている二人。
愛莉の言葉を皮切りに女性陣の非難が始まった。
「誠君に桐谷君どういうつもり!?冬夜君に一から教育ってまた変な世界に引きずり込もうとしてるでしょ!」
「悠馬も大人しくついて来てどういうつもりだったの!?」
「断ろうとしたら咲がついてきたんだろ?」
竹本君も隙見て逃げようとした一人だ。
「かずさん!一度なら大目に見ようと思ったけど二度も!」
「だからやめようって言っただろ桐谷君!?」
「望……帰ったら分かってるでしょうね?」
ヘッジホッグと恐れられた彼は文字通り屈んで怯えていた。
「善君。きっちり説明してもらおうかしら」
リーパーと恐れられた酒井君もまさに死神に鎌を向けられていた。
もうこの二人に絶対に幹事は任せない。
皆そう固く誓いながら、それぞれのパートナーに説教を受けていた。
「じゃ、そういう事で帰ろうか愛莉。今夜は二人っきりでのんびり過ごそう?」
「うぅ……そうしたいんだけど……」
愛莉はそう言って、後ろを指差す。
「トーヤ……まさか見逃してもらえると思って無いよな?」
「そうね、最初が肝心だね。片桐君もみっちり叱ってやんないと駄目だよ愛莉!」
「お前ら今日も朝まで説教だ!」
カンナと亜依さんと美嘉さんがそう言う。
愛莉は残念そうにしている。
「ぼ、僕は愛莉に叱ってもらうからいいよ。な、愛莉」
「そ、そうだね。ダメだよ~冬夜君。こんな店に興味持ったら」
愛莉も僕救出しようと努力してくれてた。
しかし3人は僕を捕まえたまま睨みつける。
美嘉さんはいつものカラオケ屋に予約を入れてる。
「愛莉も愛莉だ!そんなんだと本当にこの先苦労するぞ!」
「そうだよ愛莉!いらない知恵を身につけるまえに徹底的にしこんでおかないと!瑛大みたいになっても知らないよ!」
「冬夜君に限ってそれは無いよ」
カンナと亜依さんと愛莉が言い合う他で皆も必死に逃げ出そうとしている。
「は、春奈きてたんすね。いつものバーで一杯どうっすか?」
「無駄……この店がどういう店なのかからちゃんと説明して」
「説明すると長くなるっす!」
「朝まで時間があるそうだから平気」
「翔ちゃん!どういうつもり!?」
「僕が行こうって言ったわけじゃないよ!」
「でも翔ちゃんも楽しそうに店に向かってた!」
「誤解だ!僕は無実だ!!」
「純一さんもこういう店に興味あるんだ?」
「誤解だ美里。俺は全然興味ない!どういう店に行くのかすら知らされてないんだ!」
それぞれが必死に弁明するも空しく。
「今から空いてるってよ。皆行こうぜ!」
美嘉さんが言うとカラオケ屋に引きずられる。
何処まで行けば辿り着けるのだろう?
目の前に積まれていた絶望。
亜依さんとカンナの注意が僕に向けられているうちに誠と桐谷君が掴んでる腕を振りほどいて脱走した。
「あ、待てこら!!」
「待ちなさい!」
2人が後を追う。
今がチャンスだ。
しかし愛莉の手が美嘉さんに繋がれている。
「さすがに愛莉残して逃げるなんて真似はしねーよな?」
うん、無理。
帰る家無くなってしまいそう。
ちなみに二人は捕まった。
みんな忘れている。
あの二人にはまだ奥の手のスーツが残されていたことを。
引きずられて戻ってくる誠と桐谷君。
僕達は今夜も夜が明けるまでお叱りを受けた。
その帰り、愛莉が「ごめんね」と謝る。
「愛莉のメッセージ見てまずいからとめようと思ったんだけどね」
「ちゃんと見てたよ、冬夜君が拒否してるところ」
「そうか」
「冬夜君は大丈夫だよね?」
「だといいね」
「うぅ……また冬夜君の意地悪が始まった」
家に帰るとシャワーを浴びる。
眠くて重かった意識がよみがえる。
部屋に戻ると交代で愛莉がシャワーを浴びる。
それを待ちながら朝の番組を見てる。
「冬夜君まだ寝てなかったの?」
「まあね」
愛莉は髪を乾かし始める。
そんな愛莉にそっと後から抱き着く。
「邪魔したら駄目だってば~」
「今日はお休みだよね?」
「うん」
「じゃあ今日は愛莉もお休みだ」
「ほえ?」
愛莉が髪を乾かし終えた頃を見計らって愛莉をお姫様抱っこする。
「きゃっ」
愛莉をベッドの上に乗せると僕もベッドに入る。
「愛莉が家事しないようにしっかりとロックしておかないとな?」
「うぅ……ロックされたならしかたないね」
そう言うと愛莉は眠りにつく。
とても心地よさそうに。
愛莉の胸の上であの覚束ない子守唄をもう一度。
「冬夜君朝だよ~」
冬夜君はすぐに起きてくれるようになった。
すぐに起きると洗面所に顔を洗いに行く。
そして戻ってきて着替え始める。
きっと麻耶さんに言われてだろうけど。なんか寂しい。もっと構って欲しいなと思うのは甘やかしなんだろうか?
日課を済ませると冬夜君がシャワーを浴びてる間に朝食を作る。
朝食を食べ終わると冬夜君が片づけをする。
麻耶さんに言われたからだろう。
シャワーを終える頃には冬夜君の片付けも終わっていた冬夜君はコーヒーを入れている。
冬夜君と一緒に部屋に入る。
髪を乾かしてる間冬夜君はじっと待っていてくれてる。
乾かし終えると冬夜君の隣に座ってカフェオレを飲む。
飲み終わると冬夜君はマグカップをもってキッチンに向かう。
しばらくして冬夜君は戻ってきた。
またやっちゃったらしい。
「……少しだけでいいんだよ?」
「泡出た方が落ちてるって感じしない?」
偶に冬夜君は訳の分からないことを言う。
毎朝やってるんだからいい加減学習しても良いのに。
「愛莉は準備終わった?」
「もうちょっと待って?」
「わかった」
そう言うと素直にテレビを見て待っている。
前はがばってきてくれたのに。
皆に言われた事気にしてるの?
なんか寂しいよ。
「終わったよ」
「じゃあ、行こっか?」
「……」
「?」
試しに待ってみた。
気づいてもらえたみたいだ。
冬夜君は私を抱きしめてそっと言う。
「夜に構ってやるから」
わ~い。
そして学校に行く。
学校に行くと私は2階で冬夜君の練習を眺めている。
水島君と佐倉さん、千歳ちゃんと高槻君も見ている。
二人は上手くいっているようでなんかがぎこちがない。
どうしたんだろう?
練習が終わったあと佐倉さん達に聞いてみた。
「遠坂先輩には気づかれたましたか……」
「実は私もなんですけど……」
2人とも同じ悩みを抱えていたらしい。
行動は改善されたらいいんだけどなんかよそよそしいらしい。
何か影を感じるような彼の行動。
そう、それは私も冬夜君に対して感じていた事。
冬夜君は何でもこなす言われなくても何でもできることはする。それはいい傾向なのかもしれないけど何か寂しい。
私が言うと二人は「それです!」と言った。
皆どうしちゃったんだろう?
「おまたせ」
冬夜君が達が戻ってきた。
「じゃ、行こっか?」
「うん」
私と冬夜君は図書館でお勉強。
2限目からでてそして昼休みになる。
他の皆は変わらずだったらしい。
相変わらず喧嘩して冷戦状態のままだったそうだ。
原因は海から帰るときの昼食までさかのぼる。
相変わらず桐谷君と誠君が話題の中心にいる。
二人の暴走を止める手段がない。
皆非難をする。
「私のパートナーを巻き込まないで!」
そんな中笑うしかないといった感じの男性陣。
それが恵美さんの怒りを買ったらしい。
「望!あなたさっきから自分は関係ないって顔してるけど、まさか望も同じ事考えてるんでないんでしょうね!?」
そんな事はないと慌てて否定する石原君。
するとほかの女性も口々に騒ぎ出す。
慌てて否定する男性陣。
「下らねえ」と一蹴する檜山先輩。
「……どうだか……この前の晩だって私達がいなければついて行ってたんじゃないですか~?」
「それはねーから」
檜山先輩も変わった。結婚は男性を変えるのだろうか?
そんな感じで終わったのが昨日の昼。
そこから冬夜君が変わった。
何でも手伝ってくれる。
部屋の掃除も洗濯もこなしてくれる。
だから私はすることがない。それが寂しい。
「遠坂先輩どうしたんですか?」
咲が聞いてきた。
咲なら分かってくれるかもしれない。
「咲、咲は今日バイトあるの?」
「ありますけど何か相談ですか?」
「うん」
ちらりと冬夜君を見る。
何か感づいたのだろうか?
「そういう話なら女子会チャットでしませんか?」
「わかった」
「愛莉ちゃん私達で良かったら今日午後聞くわよ」
「そうですよ、青い鳥でお話しませんか?」
「……私も言っていいかな?主人の事でちょっと相談が……」
そう言うのは花菜。
冬夜君達は男性陣で話し合ってるみたいだ。
午後の授業が終わると冬夜君に言う。
「今日ちょっと青い鳥で話ししてるから部活終わったら迎えに来て」
「わかった、気を付けてね」
そう言って二人で青い鳥に行くと冬夜君はいつものメニューを頼んで食べてそして部活に行った。
「で、片桐君と何があったの?」
恵美が聞いてくる。
「うん、あのね……」
恵美達に話をした。
「片桐君はそっちに行っちゃったか」
そう言うのは亜依。
「全く相手にしてくれないわけじゃないんだよ。ただそんなに根詰めてそのうち冬夜君がストレス溜めるんじゃないかなって不安になって」
私は一応冬夜君を弁護する。
「私も同じよ、愛莉ちゃん」
「私もその事で恵美と相談してたの」
恵美と晶が言う。
2人とも相手が自分を気遣ってくれるのはいいんだけど、ストレス抱えてるんじゃないか?抱えてないとしたらどこで発散してるのか。
「私もです、主人が昨夜から妙に優しくて」
花菜も同じだという。
「私もです。隆司君やけに優しくて。寝る前におやすみってメッセージ打ってきたり……」
穂乃果も言う。
「これはまた女子会開くしかないわね。浮気の線も考えた方が良いかもしれない」
浮気?
昨日の今日でさすがにそれは無いと思ったけど。
花菜と穂乃果は不安になったらしい。
「どうしよう?」と二人で話してる。
晶さんは酒井君を冷たい目で見てる。
酒井君はなぜか汗をかいてる。
確かに暑いけど空調きいてるよ、このお店。
平然としてるのは私と美里だけだった。
ちなみに中島君は今日はサッカーの練習に行ってる。
「いいわ、この際男性全員の身辺調査をする。どうも怪しいし」
恵美が言う。
「冬夜君に浮気は無いよ。昨日の今日だよ。そんな暇ないって」
「無いに越したことはない。念のためよ」
恵美が言う。
そんな話をしばらくしてると冬夜君が迎えに来た。
「愛莉いる?」
皆が冬夜君を見る。
冬夜君はそのただならぬ雰囲気をさっすると私を見る。
私は笑顔を作って冬夜君に言う
「行こっ?」
冬夜君は私が言う通りに店を出る。
家に帰って夕食を食べてお風呂に入って一缶だけ飲んで。
その間女子会グループは炎上していた。
「みんな!とりあえずスマホのチェックだ!拒否する奴はクロだと思え!」
美嘉さんが言うと皆自分の相手のスマホをチェックしてるようだ。
「何もないよ」と、皆が言ってる。
私もしないと駄目なのかな?
疑ってるみたいでいやだな。でも私だけしないわけにはいかない。
「冬夜君、スマホ見せて」
「え?いいけど?どうしたの?さっき青い鳥でもみんなピリピリしてたけど」
「何でもないから見せて」
「いいよ」
冬夜君はロックを解除して私に渡してくれる。
発信履歴、着信履歴、アドレス、メッセージのアドレスと履歴全部見る。
渡辺班の人しかいない。
シロだった。
「ありがとう」
冬夜君にスマホを返す。
その事を女子会に送る。
「証拠は消したか」
皆はまだ疑ってるみたいだ。
冬夜君に限ってそれは無い。
私は信じていた。
でも不安はある。
冬夜君私の為に無理してる?
そう思うと上手く気持ちが込められなくて。
折角冬夜君が提案してくれた夜の好意を私は拒絶した。
冬夜君部活で疲れてるのに家事までして倒れちゃう。
そう思ったらできなかった。
「愛莉どうしたの?具合でも悪いの?」
冬夜君は私を心配してくれる。
そうじゃないんだよ。心配なのはむしろ冬夜君。
そう言った。
「そんな事心配してたのか?心配いらないよ」
冬夜君は笑ってる。
笑って無理をするのが冬夜君なのは1年生の前期の期末で学んでいた。
冬夜君に訴えた。
「いつも通りの冬夜君でいて。無理しなくていいから。冬夜君すぐ無理しちゃう。言ったでしょ。冬夜君は頑張ってるから私が支えるんだって」
冬夜君は一言っ言てくれるだけでいい。その一言ですくわれる。
形で示してくれるだけでいい、その形をずっと大事にするから。
冬夜君は分かってくれる。
私を抱きしめる。
冬夜君はいつだって形で示してくれていた。
忘れていた。ごめんね。
もう迷わないから。
その気持ちはジェットコースターみたいに浮き沈み。
どこまで続くのだろう?どこまで行けば辿り着けるのだろう?
目の前に積まれた絶望と希望。
あなたに触れていたい。痛みすら伴い歯痒くとも切なくとも、微笑みを下さい。
(2)
「冬夜君朝だよ~起きて~」
愛莉が言うと僕は目を覚ます。
母さんが来る前に顔を洗ってくる。
部屋に戻ると愛莉がうずくまっている。
どうしたんだろう?
「愛莉。日課に行くよ」
「うん」
愛莉は作り笑いをして、家を出た。
日課から戻ると僕はシャワーを浴びる。その後朝食を食べると片づけを始める。
すると愛莉がその手を止める。
愛莉は母さんに言う。
「麻耶さんお願い!これ以上冬夜君を酷使しないで!」
勉強と部活で忙しいのにこれ以上労働させるのはかわいそうだと言う。
「でも愛莉ちゃんだって家事と勉強両立させてるじゃない?」
母さんが言うと愛莉は首を振る。
「私は家事を全部こなしてるわけじゃない。休みの日は冬夜君が色んな所に連れていってくれて家事をしていない。冬夜君も休ませてあげないと可哀そう。同棲を始めたら冬夜君と分担を考えるから、今はバスケに集中させてあげたい」
愛莉が言うと母さんは僕の頭をぽんと叩く。
「あんた自分の幸運に感謝しなさい。こんなに出来た子滅多にいないよ」
それが昨日からの愛莉の不安だったのか?
「冬夜君コーヒー持って部屋で待ってて」
愛莉が笑って言う。
言われたとおりにコーヒーを持って部屋で待ってた。
愛莉が戻ってくると髪を乾かし始める。
カフェオレを飲んでいつものように準備するといつものように家を出る。
体育館で練習している様子を愛莉は2階から見学してる。
時間になって着替えて愛莉たちの元にいくと愛莉は笑顔で手を振っている。
昨日のような迷いはなかった。
昼休みも皆と一緒にわいわい騒いでいた。
バスケの練習が終わると愛莉と迎えに青い鳥に行く。
愛莉は飛びついてくる。
そして家に帰って夜を過ごす。
見えもしないものに頼って逃げるけど、愛莉は形にして欲しいとごねる。
矛盾し合ったいくつもの事が正しさを主張している。
愛するって奥が深い。
どこまで行けば解り合えるのだろう?
歯痒くとも切なくとも愛莉の微笑みを絶やさないように。
愛と言う素敵な嘘に騙されていたい。
あとどれくらいすれば忘れられるのだろう。過去の自分に向けたこの後悔と憎悪。
愛莉の胸の上で覚束ない子守唄をもう一度……。
(3)
「結論からすると全員シロよ」
恵美の結果報告に皆が胸をなでおろす。
でも新たな疑問が増える。
じゃあ、なぜみんなよそよそしいんだろう?
私はその正体を知ったから何も言わない。
現にこの一週間何も無かった。
冬夜君に私の想いは伝わった。
冬夜君の中でも私は微笑んでいるはず。
皆の疑問に答えたのはやはり聡美さんだった。
「だから言ったでしょ。男性は掌で転がしてるくらいがちょうどいいんだって」
聡美さんはそう言って笑う。
「私も同感だわ。そんな不安を抱え込むより多少不満がある方が安心するでしょう」
深雪さんが言う。
「愛するって奥が深いんですね」
千歳さんが言う。
「ちぃちゃんはまず人を心から好きになることからかな?」
神奈が言う。
「私好きでもない人とキスなんてしない」
千歳さんは言う。
そういえばキスはしたって言ってたね。
「何もしてこないと不安を覚えるか……私にもなんとなく分かります」
美里さんが言う。
「美里はどこまで進んだんだ?」
美嘉さんが言う。
「どこへも進んでません。どうしてでしょう?」
「栗林は教育受けてないからな!一度教育しないとだめか?恵美」
「そうね……。でも美里も変わらないとだめよ」
「え?」
「自分から意思を表示したの?」
「いえ」
「まだ、あなたの警戒心を解けていない。そう思っているのかもね」
恵美が言う通りだと思う。
どこまで行けば解り合えるのだろう?この感情と苦悩。
痛みすら伴うけど歯痒くとも切なくとも微笑みを。もう一度微笑みを。
「ところで奈留?今日の男共の行動はどうなってる?」
神奈が聞く。
「大丈夫、公生に問い詰めた。嘘ついたらまたしばらく口聞いてやらないって」
「それで?」
「あっさり口を割ったわ。また駅前の焼き鳥屋にいるみたい」
「どうする?踏み込むか?」
「張り込んだ方がいいわね。どうせまたろくでもない事考えてるんでしょうし」
恵美が言う。
「じゃあ、早めにお開きにするか?」
「そうね」
冬夜君には可哀そうだからそっと教えてあげた。
そんなことしなくても冬夜君は大丈夫だと思うけど。
(4)
「参ったな……」
渡辺君が溜息をついている。
皆疲弊しているようだ。
原因は間違いなく誠と桐谷君だけど。
「皆気にし過ぎなんだよ。堂々としてればいいって」
「そうそう、堂々とすればいいんだって。ばれやしないさ」
誠と桐谷君が言ってる。
「勘弁してくれ、この一週間咲良を宥めるのにどれだけ骨を折ったか。仕事疲れと同時で大変だったんだぜ」
「檜山君の言う通りだ。俺達を巻き込むのは辞めてくれ」
檜山先輩と木元先輩が言う。
その時僕のスマホが鳴る。愛莉からだ。……早めに切り上げた方がいいかな?
公生をを見る。公生にも連絡が言ったようだ。
「みんなそろそろお開きにしないか?」
「僕もそろそろ終わりにした方が良いと思うな」
「そうだな、また女性陣に感づかれると面倒だ。早い所次に行こう」
「あ、僕は帰るよ。大事な彼女が待ってるし」
精算をしながら僕は誠に言う。
「びくびくしてんじゃねーよ冬夜!それでも男か!だから遠坂さんに舐められるんだよ」
「そうだぞ冬夜!だからうちの男性陣は舐められるんだ」
この二人は学習と言うのを知らないんだろうか?
誠と桐谷君はお酒で盛り上がっている。
学習機能はあったようだ。
周りを見回す二人。
「冬夜の言う通りだな。早めに出て正解だったようだ」
「冬夜も機転が利くな!」
「ま、まあね」
僕と公生は気づいていた。物陰に隠れる20名弱の集団に気づくなって言う方に無理がある。
「ぼ、僕は子供だから入れないよね。悪いけどここで失礼するよ。じゃ、行こう奈留」
公生なりに気を使ったんだろう。「奈留」と強調して言ったにも関わらず二人は気づかない。
「僕も帰るよ……」
そんな僕の腕を掴む桐谷君と誠。
「お前には教育が足りない!俺達が一から教育してやる。今夜はついてこい!」
「そうだぞ冬夜!お前は友達付き合いが足りなさすぎるって言われただろ!」
誠と桐谷君に引きずられる僕。
愛莉、これは不可抗力だ。
「今日は前に言っていた店か?」
「ああ、この前は行きそびれたからな!やかましい女房のせいで」
誠と桐谷君は本気で気づかれないようだ。いい加減それフラグだと学習しろよ。
中央商店街を堂々と歩く僕達。
20人弱の集団は堂々と真ん中を歩く。
「ははは、今夜こそ俺達を止める者はいない!」
「ああ、そうだ誠!俺達に怖い者なんてない!」
だめだ……、また一週間やり直しだ。
みんなも顔が青ざめている。
桐谷君と誠以外は気づいている。
そりゃそうだよね。こんな夜の商店街に別の20人弱の女性の集団が尾行してるのに気づくなって言う方が無理があるよね?
渡辺君も「参ったな……」と苦笑いしていた。
「そんなしけた面するな渡辺君。楽しい夜はこれからだぞ」
「そうだな渡辺君!これからだ」
商店街を抜けると横断歩道で待つ。
もはや殺気に近いものが背後に忍び寄る。
しかし酔ってる二人には関係ない。
そして僕は逃げ出したいけど二人に捕まれていて逃げられない。
上手い事繁華街の人混みを利用して抜け出そうとする者もいたがパートナーに腕を掴まれて逃げ出せるものはいなかった。
そして店の前に着いた。
呼び込みのおばちゃんが桐谷君を見て言う。
「おう兄ちゃん。久しぶりだね。今月に入っていい子入ってるよ。今日は大勢だね。後ろの女性陣も一緒なのかい?」
「おばちゃん久しぶりに着たよ!いい子入ってるって?今フリー?」
「今電話で聞いてやるから待ってな」
「さあ、冬夜新しい世界に踏み出そうじゃないか……おばちゃん今なんて言った?」
「冬夜!楽しい世界が待ってるぞ!……今女性陣て言わなかった?」
「ああ、後ろにぴったり混ざってる女性陣がいるじゃないか?珍しいねいつも一人でくるのに。あ、新人空いてるってさ」
そんな情報いらないとばかりに恐る恐る後ろを振り返る桐谷君と誠。
「新しい世界か、楽しみだな」
「楽しい世界がここにあるのか。お前は頻繁に通ってるようだな」
「ああ、月2くらいはくるよ」
余計な情報を遠慮なく発信するおばちゃん。
「か、神奈いつからいたんだ?」
「あ、亜依来てたのか」
もはや男性陣には絶望の色しか見えなかった。
「どうした誠さっさと行こうぜ。止める者なんていないんだろ?」
「瑛大もどうした?怖い者もやかましい女房もいないんだってな?」
口をパクパクさせている二人。
愛莉の言葉を皮切りに女性陣の非難が始まった。
「誠君に桐谷君どういうつもり!?冬夜君に一から教育ってまた変な世界に引きずり込もうとしてるでしょ!」
「悠馬も大人しくついて来てどういうつもりだったの!?」
「断ろうとしたら咲がついてきたんだろ?」
竹本君も隙見て逃げようとした一人だ。
「かずさん!一度なら大目に見ようと思ったけど二度も!」
「だからやめようって言っただろ桐谷君!?」
「望……帰ったら分かってるでしょうね?」
ヘッジホッグと恐れられた彼は文字通り屈んで怯えていた。
「善君。きっちり説明してもらおうかしら」
リーパーと恐れられた酒井君もまさに死神に鎌を向けられていた。
もうこの二人に絶対に幹事は任せない。
皆そう固く誓いながら、それぞれのパートナーに説教を受けていた。
「じゃ、そういう事で帰ろうか愛莉。今夜は二人っきりでのんびり過ごそう?」
「うぅ……そうしたいんだけど……」
愛莉はそう言って、後ろを指差す。
「トーヤ……まさか見逃してもらえると思って無いよな?」
「そうね、最初が肝心だね。片桐君もみっちり叱ってやんないと駄目だよ愛莉!」
「お前ら今日も朝まで説教だ!」
カンナと亜依さんと美嘉さんがそう言う。
愛莉は残念そうにしている。
「ぼ、僕は愛莉に叱ってもらうからいいよ。な、愛莉」
「そ、そうだね。ダメだよ~冬夜君。こんな店に興味持ったら」
愛莉も僕救出しようと努力してくれてた。
しかし3人は僕を捕まえたまま睨みつける。
美嘉さんはいつものカラオケ屋に予約を入れてる。
「愛莉も愛莉だ!そんなんだと本当にこの先苦労するぞ!」
「そうだよ愛莉!いらない知恵を身につけるまえに徹底的にしこんでおかないと!瑛大みたいになっても知らないよ!」
「冬夜君に限ってそれは無いよ」
カンナと亜依さんと愛莉が言い合う他で皆も必死に逃げ出そうとしている。
「は、春奈きてたんすね。いつものバーで一杯どうっすか?」
「無駄……この店がどういう店なのかからちゃんと説明して」
「説明すると長くなるっす!」
「朝まで時間があるそうだから平気」
「翔ちゃん!どういうつもり!?」
「僕が行こうって言ったわけじゃないよ!」
「でも翔ちゃんも楽しそうに店に向かってた!」
「誤解だ!僕は無実だ!!」
「純一さんもこういう店に興味あるんだ?」
「誤解だ美里。俺は全然興味ない!どういう店に行くのかすら知らされてないんだ!」
それぞれが必死に弁明するも空しく。
「今から空いてるってよ。皆行こうぜ!」
美嘉さんが言うとカラオケ屋に引きずられる。
何処まで行けば辿り着けるのだろう?
目の前に積まれていた絶望。
亜依さんとカンナの注意が僕に向けられているうちに誠と桐谷君が掴んでる腕を振りほどいて脱走した。
「あ、待てこら!!」
「待ちなさい!」
2人が後を追う。
今がチャンスだ。
しかし愛莉の手が美嘉さんに繋がれている。
「さすがに愛莉残して逃げるなんて真似はしねーよな?」
うん、無理。
帰る家無くなってしまいそう。
ちなみに二人は捕まった。
みんな忘れている。
あの二人にはまだ奥の手のスーツが残されていたことを。
引きずられて戻ってくる誠と桐谷君。
僕達は今夜も夜が明けるまでお叱りを受けた。
その帰り、愛莉が「ごめんね」と謝る。
「愛莉のメッセージ見てまずいからとめようと思ったんだけどね」
「ちゃんと見てたよ、冬夜君が拒否してるところ」
「そうか」
「冬夜君は大丈夫だよね?」
「だといいね」
「うぅ……また冬夜君の意地悪が始まった」
家に帰るとシャワーを浴びる。
眠くて重かった意識がよみがえる。
部屋に戻ると交代で愛莉がシャワーを浴びる。
それを待ちながら朝の番組を見てる。
「冬夜君まだ寝てなかったの?」
「まあね」
愛莉は髪を乾かし始める。
そんな愛莉にそっと後から抱き着く。
「邪魔したら駄目だってば~」
「今日はお休みだよね?」
「うん」
「じゃあ今日は愛莉もお休みだ」
「ほえ?」
愛莉が髪を乾かし終えた頃を見計らって愛莉をお姫様抱っこする。
「きゃっ」
愛莉をベッドの上に乗せると僕もベッドに入る。
「愛莉が家事しないようにしっかりとロックしておかないとな?」
「うぅ……ロックされたならしかたないね」
そう言うと愛莉は眠りにつく。
とても心地よさそうに。
愛莉の胸の上であの覚束ない子守唄をもう一度。
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