優等生と劣等生

和希

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5thSEASON

心に刻んだ夢を放て

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(1)

「冬夜君朝だよ~」

愛莉の声で目を覚ますと起き上がり着替える。
その後顔を洗って。日課に出かける。
来週末には東京五輪が開催される。
期末テストの事もあって、開会式には出られないけどテストが終わったらすぐに東京に出る予定だ。

「真面目にテスト受ける理由あるのか?」

雄一郎は言うけど理由はある。
その理由はまだ隠していたけど。
とりあえず、そういう事情があるので渡辺班の前期打ち上げには出られない。
そしてこの日課も後わずかの期間となった。
大学バスケのリーグ戦が残ってるけど本格的にやる必要はない。
練習には参加するけどそれより愛莉との時間を作ってやりたい。
9月にはどこか遊びに行こうかと考えてるけど、どこに行こうか悩んでる。
そして今日から始まる期末試験。
バスケ部の活動は休みになってる。
さすがに2週間ボールに触らないってわけには行かないので特別に許可を得て体育館を利用させてもらう事になってる。

「そろそろ時間だよ~」

愛莉が言うので、切り上げる。
家に帰るとシャワーを浴びる。
そして朝食を食べるとコーヒーを持って部屋に戻る。
愛莉が戻ってくるまでの間デスクトップでニュースを見てる。
愛莉が戻ってくるとシャットダウンしてテレビをつける。
テニスがどうだとかそんな話題をやってる。
テニスの選手って肩の筋肉凄いなあとかそんな目で見てると愛莉のぽかって叩かれる。

「冬夜君は他の女性に興味持ったら駄目!」

愛莉の誤解を解くために尽力する。
愛莉に分かってもらえたようだ。
愛莉の準備が済むと僕達は家を出る。
そして体育館を使って練習をする。
他のバスケ部の人はいないので愛莉に手伝ってもらう。

「本当に冬夜君てマークがついてなかったらシュート外さないね。マークがついていても関係なく入れちゃうけど」
「愛莉、バスケットのリングの広さって知ってるか?」
「わかんない?」
「狭そうに見えてボール2個分あるんだ。外すわけないだろ?」
「……そう言えるの冬夜君だけだけだよ」

愛莉はため息をついてる。
時間になると着替えて愛莉と体育館を出る。
もうこの体育館に来るのも後わずかか。
折角だからリーグ戦までは続けようとは思うけど。
ちなみにスポンサー契約は一旦切った。
もし駄目ならまた契約すればいい。
違約金を払わされるリスクを考えたらその方が良い。
僕の中ではもうゴールは見えてるのだから。
昼休みになると皆集まっている。
皆疲れている。試験疲れだろう。
特に北村さんは大変だったみたいだ。
ぎりぎり単位は取れるみたいだけど。
4年間大丈夫なのか?
カンナ達もあれから落ち着きを取り戻したらしい。
そもそも飲み会をしていないのだから。
サッカー部の連中に合コンに誘われてもバイト、カンナを理由に断ってるらしい。
合コンに既婚者を誘う心理がわからないけど、そんなのは理解しなくていいと愛莉に怒られた。
午後の授業が終わると青い鳥で時間を潰す。
いつものメニューを頼んで時間までゆっくり過ごす。
時間になると愛莉と体育館に戻る。
練習が終わると愛莉と家に帰る。
家に帰ると夕食を食べて風呂に入って一缶飲んで愛莉と夜を過ごす。
と、言ってもすべてが終わる頃には22時を回っておりドラマくらいしか見るものがないけど。
愛莉はドラマの展開にハラハラドキドキしている。
ドラマが終る頃には寝る時間になる。
ゲームをするにも今からだと明日の受験に差し支える。
なので二人共ゆっくり寝ることにした。
あとわずかな日常を繰り返していく。

(2)

純一さんと付き合い初めて一月が経とうとしていた。
特に何もしようって気はないらしい。
純一さんの方から誘ってくるのかと思ったけど食事に誘う程度。
大体が駅ビルで済ませてしまう。
料理はりんごの皮向きに挑戦していた。
包丁を使うのは怖いのでピーラーで試していた。
彼が家に遊びに来たときにデザートくらいはとアップルパイを振舞っている。
アップルパイの作り方は恵美先輩に習った。
後はご飯とかみそ汁とか……おかずは純一さんが作ってくれる。
二人で作って二人で食べて二人で片づけて。
こういう楽しみもあるんだなって学んだ。
その後は二人で勉強。
私はどうも苦手だ。
それも純一さんが分かりやすく説明してくれる。
さすが理工学部。教え方が上手い。
彼の説明は理論的で覚えやすい。
さすがに専攻科目は無理だったけど。
22時過ぎには彼は帰ってしまう。
そんな一か月を過ごしていた。
恋愛的なイベントは何一つなかった。
私もまた奥手なのでアクションを起こせずにいた。

「今度もまた花火大会ですね」

この日珍しく彼から話題を振ってきた。

「そうですね」
「皆でわいわい楽しそうですね」
「そうですね」
「俺は美里と二人っきりでも楽しいですけど」

彼から動いてきた。
この誘いに乗るべきか。
明日はどうなるか分からない。
私は意を決した。

「いいんですよ?」
「え?」

彼は私の顔を見る。

「純一さんの好きにしてもらって構わないんです」

どうしてこんな言い方しかできないだろう?
つくづく不器用な自分に嫌気が指す。
彼はくすっと笑って言った。

「じゃあ二人で見に行きましょうか?」

彼が誘ってくる。この誘いに乗らない手は無い。
乗り遅れたら次はいつになるのか分からない。次があるのかすら分からない。

「わかりました。でも試験勉強大丈夫なんですか?」
「大丈夫です。美里さんは?バイト大丈夫なの?」
「大丈夫です」

夕方までのシフトにしてある。

「じゃあ、当日青い鳥に迎えに行きます。どうせ電車で移動した方が早いだろうし」
「そうですね」
「じゃあ、今日はこの辺にしますか?夜更かしは良くない」
「はい」

私は玄関まで彼を見送る。

「じゃあ当日楽しみにしてます」
「私も楽しみにしてます」

そう言うと彼は去って行った。

「あの!」

私は彼に声をかけていた。

「どうしました?」
「私と付き合っていて退屈じゃないですか?」

私の問いかけに彼はくすっと笑った。

「そんなわけないじゃないですか。じゃあまた」

そう言って彼はエレベーターに乗って去って行った。
私は胸をなでおろす。
私は退屈に思われてない。
それだけで安心した。

次の日青い鳥で事件は起こった。

誰か一人でいいから夜のシフトに入って欲しい。

そんなお願いだった。
さすがに3人いて3人とも花火を見に行くは通用しない。
序列的に私が残るべきなんだろう?
手を上げようとしたその時だった。

「じゃあ、僕が残ります」

酒井先輩が手を挙げた。

「おう、酒井君か。助かる、恩に着るよ」

マスターが去った後私は酒井先輩に「いいのか?」と聞いていた。

「北村さんが残ってもまだ一人じゃ仕事をこなせない。なら僕が残るべきだ」
「ですが……」
「僕は既婚者だ。北村さん達とはちがうよ。栗林君と楽しんでおやり」
「すいません……」
「わかったから、仕事に戻ろう」

そう言って酒井先輩は仕事に就いた。

掴もう望むものなら残さず。
輝ける自分らしさで。
信じてる、あの日の想いを。
この瞳に光る涙、それさえも力に変えて。

(3)

花火大会には北村さんと栗林君。酒井夫妻を除く渡辺班全員が集まっていた。
陸上競技場の広場から見る花火は綺麗だった。
この日も愛莉は浴衣で来ていた。
カンナもこの日は浴衣だった。
と、言うか女性全員浴衣だった。
アナウンスは聞こえないけど皆が拍手を送る。

「愛莉立ちっぱなしで辛くない?」
「大丈夫だよ~。ありがとう~」

愛莉はそう言って笑う。
花火が終ると皆お腹を空かしていたらしい。
ファミレスに寄る。

「じゃあ、ファミレスだけど冬夜の壮行会も兼ねて乾杯しようか?」

僕はソフトドリンクだけど乾杯した。

「いよいよだな、冬夜」
「今はテストで大変だよ」
「テストより大変だぞ」
「調整はしてるよ」

誠と話をしている。

「いよいよ片桐先輩の最後の世界戦なんですね」
「最後って決まったわけじゃないよ。

佐倉さんに言う。

「お前本当に後悔してないんだな?今からでも地元銀行にねじ込むことは出来るぞ?」

檜山先輩が言う。

「大丈夫、自分の進路はいつだって自分で選択してきたから」

後悔はしてない。

「俺達は現地には行けないけど応援してるからな」

渡辺君が言う。

「ありがとう。その言葉だけで嬉しいよ。でもまず試験でしょ?」

そう言って僕は笑う。
その後も皆の激励を受けて。この日は帰った。

「残りわずかだね」

家に帰ると愛莉が言った。

「そうだな」

最大の障壁……恐らく一番の山場だろう。
ここを越える事が出来たらあとは下るだけ?
そんな事はない。まだいくつも試練が待ち構えている。
でも愛莉と二人で乗り越えて行こう。

放て心に刻んだ夢を、未来さえ置き去りにして。
限界なんかない、知ったところで意味がない。
自分の力が光り散らす、その先に遥かな思いを飛ばそう。
あの日の誓いを信じてる。
望むものなら残さず輝ける自分らしく掴んでみせる。

「愛莉こそいいのか?」
「ほえ?」
「プロになったほうが楽に生活できるぞ?」

ぽかっ

「冬夜君と一緒になる。それ以上の幸せなんていらないもん!」
「そうか」

愛莉の頭を撫でてやる。

「そろそろ寝ようか?明日も試験だし日課もあるし」
「うぅ……最近冬夜君してくれないね」
「言ったろ?金メダル取ったら思いっきり抱いてやるって」

楽しみは先にとっておいたほうがいいだろ?

「……そうだね!」

僕達は眠りについた。
夢を貫いてく、戸惑うことなく。
傷ついても、走り続ける。
迷いなんて吹き飛ばせばいい、この心が叫ぶ限り誰にも邪魔はさせない。
儚く舞う無数の願いはこの両手に積もっていく。
切り裂く闇に見えてくるのは重く深い切ない記憶。
色あせてく現実に揺れるけど絶望には負けたくない。
僕が今自分であること胸を張って全て誇れる。
僕の夢の集大成が今ここに集まろうとしていた。

(4)

「冬夜君朝だよ~日課の時間だよ~」

愛莉の声で目が覚めると僕は起きて顔を洗い、そして着替えて日課に出る。
念入りに調整する。
シャワーを浴びて朝食を食べるとコーヒーを持って部屋に戻る。
愛莉が戻ってくるまでの間に荷物を確認する。

「ああ!また散らかしてる!きちんとたたんでから入れないと駄目って言ったでしょ!」

愛莉は僕の荷物を整頓する。

「本当にしょうがないんだから」

そう言う愛莉の顔は笑っていた。
愛莉の準備が済むと僕達は体育館に向かう。
今日もザシュッっといい音が鳴る。
いつも通りだ。

「そろそろ時間だよ~」

愛莉が言うと練習を止めてコートを出る。
その時コートに振り返って礼をする。
やるべきことはやり切った。

テストを受けると昼休み皆からプレゼントを受ける。
千羽鶴だ。
いつの間に用意していたんだろう?

「俺達が出来る最大限の応援だ」
「……ありがとう」

テストが終わるとまっすぐ家に帰る。
そして愛莉の準備を待って、家を出る。

「行ってきます」
「頑張りなさい」

母さんに見送られ僕達はバスに乗り駅前から高速バスで空港に行く。
搭乗手続きと手荷物検査を受けロビーで待つ。

「……羽田行き搭乗受付開始しました」

すっと立ち上がる

「愛莉、行くよ!」
「……はい」

愛莉と飛行機に乗る。
地元に仲間を残して。
仲間の想いを積み込んで。
僕たちは決戦の地に乗り込んだ。
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