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5thSEASON
栄光のファンファーレ
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(1)
「ああ、片桐君達よく来たね。待ってたよ」
羽田空港で日本代表のスタッフさんが待っていた。
冬夜君はそのまま選手村へと向かって行った。
私はゆかりさん達に連れられてホテルに向かう。
ホテルは3人部屋だった。
荷物を置くと夕食を食べに行く。
ゆかりさんお勧めのイタリアンのお店。
「冬夜君の調子はどう?」
「大丈夫だよ。哀田君は?」
そんな感じでお互いの彼氏の近況報告から始まった。
ご飯を食べながら女子トークだったのだが……。
「ねえ愛莉。私不思議に思ってたんだけど」
「どうしたの?」
「どうして冬夜君そんなに真面目に勉強してるの?プロチームから引く手数多でしょ?」
ゆかりさんが突っ込んできた。
うぅ……。
「私も哀ちゃんから言われてたの?NBAからもスカウトきてるそうじゃない。彼は契約するチーム決めてるのか?って聞かれたって」
由衣さんも聞いてきた。
困ったな。
私は答えた。
「多分五輪が終わったら回答が出ると思う。それまでは集中させてあげて」
「……愛莉は答え知ってるんだね?」
「うん……」
「じゃあ、終わったら教えてね」
二人は笑顔で私に言う。
その笑顔が痛いんだけど……。
ご飯を食べ終わった後も二人の話題は冬夜君だった。
将来どうするのか?
その事が気になっているらしい。
じゃあ逆に二人の彼はどうするの?
私は聞いていた。
「彩(ひかる)はBリーグ入りするらしいよ」
「哀ちゃんは悩んでるみたい。NBAにするか日本に戻るか」
2人ともバスケに生きるんだ。
「冬夜君は違うの?」
2人が聞いてきた。
私は返答に悩んだ。
「お誘いが来てるのは確かみたい。どこのチームに行くのか悩んでるんじゃないかな?」
「愛莉は幸せよね、NBAなんて決まったらスポンサー料も凄いだろうし。一躍お金持ちだよ」
「それは二人共同じじゃない?」
「そうだね~」
「あ、そうだ。愛莉ホテルに帰る前に寄るところある」
「ほえ?」
二人は私を駅に連れて行った。
「電子マネー買っておきな。明日から電車移動がメインだから大変だよ」
「それなら大丈夫。地元で買ったやつつかえるから」
「チャージ忘れないようにね。切符買ってたら時間無くなっちゃう」
「わかった~」
私は少しチャージする。
コンビニでお酒を買ってホテルで前祝する。
私は控えめにした。
うっかり口を滑らせたら大変だから。
「明日の昼から開始らしいからのんびりできるね」
「会場までもそんなに離れてないし」
そんな話を聞きながら一夜を過ごした。
(2)
「奇遇だね、こんなところで会うなんて」
それはサッカーの日本代表の沖選手だった。
他にも数名いる。
「ああ、紹介するよサッカーの代表の選手達」
沖選手が紹介すると背の高い選手が言った。
「ああ、こいつがサッカーから逃げだした片桐か」
代表選手ってこうも高飛車な人間が多いんだろうか?
まあ、気にする事も無いか?
「そそ、だから君達とは関係ないよ。じゃあね」
そう言って立ち去る。
「片桐選手だ。サインもらっていいですか?私女バスの代表の……」
その後もサッカー女子の代表やら水泳選手やら色んな選手からサインを求められた。
ちなみに僕は受け取ってない。
愛莉に知られたらまた拗ねられる。
「人気者は大変だな」
聖人が言う。
「食う事に集中したいんだけどね」
「お前にはちょうどいい環境かもしれないな」
聖人がそう言って笑う。
「しかし悠長なもんだな。試合までには間に合うとしてまさか試験を理由に現地入りを遅れさせるとはな」
雄一郎が言う。
「資格とかとっておきたいしね」
「そんなもんとってどうするんだ?お前ならプロになれるだろ?」
「スカウト来てないのか?紹介してやろうか?」
雄一郎と聖人が言う。
「来てるのは来てるよ」
「わけわかんねーぞ、お前のやってる事」
雄一郎の言う事ももっともだな。
「保険だよ、プロで失敗した時の」
嘘をついた。
「そんな時間あったら練習しとけ」
雄一郎が言う。
「そういう話なら俺も聞いたんだけど」
和人が来た
「冬夜NBAのチームからの誘い断ったんだって?知り合いから聞いたんだけど」
そこまで話が広がっていたか。
「断ったんじゃないよ。今は五輪に集中したいからって待ってもらってるだけ」
「進路決まってた方が集中できるんじゃない?」
「色々悩むだろ?それより五輪に集中したかったんだ」
「なるほどね……」
「冬夜、俺も噂で聞いたんだけど……」
彩まで来たか。
「お前就職活動してるんだって?」
うわ、一番触れられたくないとこ触れてきたね。
4人は僕を見る。
「やってる事矛盾してないか?五輪に集中したいと言いながら就活はするって」
雄一郎が問い詰める。
「内々定は6月までに決めないとあと大変だってきいたから」
「てことは就職先は決まってるの?」
和人が聞いた。
「……内々定はもらってる」
「お前ならBリーグで食っていけると思ったんだがな」
彩がそう言って笑う。
感づかれた?
「いつまで飯食ってるんだ。さっさと休め。明日は朝から調整して試合だぞ」
監督が来た。
急いで食べてそして部屋に入る。
明日からか……。
あ、愛莉に電話しなきゃ。
愛莉に電話する
「冬夜君?」
「ああ、愛莉寝てた?」
「まだ3人で騒いでる」
「今大丈夫?」
「うん、部屋を出た。ねえどうしよう?冬夜君」
「どうしたの?」
愛莉から事情を聞く。
やっぱり僕の進路の事を聞かれてるらしい。
「五輪が終わったら話すって伝えたらいいよ」
「うん、そう言ってる」
「明日昼かららしいから」
「聞いてる」
「気をつけてな、迷子になるなよ?」
「大丈夫だよ。二人も案内人がいるんだから」
「それなら大丈夫か、じゃあまた明日」
「冬夜君頑張ってね」
「ありがとう」
「じゃあね」
電話は終わった。
僕はシャワーを浴びてベッドに横たわる。
一試合も落とせない。いけない緊張してきた。
(3)
「それでは前期お疲れ様でした~」
俺が音頭を取ると宴の始まり。
「いよいよ明日からですね」
真鍋君が言う。
「冬夜先輩なら余裕っす楽勝っす」
晴斗が言う。
「油断は禁物」
白鳥さんが言う。
皆が冬夜の事を心配している。
本当に金メダル取れるのか?
俺は言う。
「応援するしかないさ。あいつ自身で選んだ道なんだから」
そう言ってビールを飲む。
「片桐先輩金メダル取ったらやめちゃうんですよね。リーグ戦にはでるんでしょうか?」
高槻君が聞いていた。
「それは出るって言ってました。大丈夫です」
佐倉さんが言う。
「ただそれが最後の公式戦だって」
佐倉さんがはどこか寂し気だ。
「あいつ帰ってきたら祝勝会してやらないとな」
美嘉が言う。
本当の意味での打ち上げになるんだろな。
「しけた話してたってしょうがないぜ!トーヤを送り出したんだ。後は応援してやるしかねーだろ」
神奈さんが言う。
確かにそうだな。
話題を変えよう。
「誠と瑛大はあれからどうなんだ?」
「誠はサッカー部の飲み会すら断るようになったよ」
「瑛大もサークルの飲み会断ってるみたい」
「そうなんですよ~つまんないから私もパスしてます~」
神奈さんと亜依さんと咲良さんが言う。
今日は来てるみたいだが。
「2人とも二次会はカラオケでいいな?」
「当たり前じゃないですか、いやだなあ……ハハハ」
「そ、そうだよ。当たり前じゃないですか」
本当に懲りてるらしい。
なら安心か?
「朝倉さん達はどうなんだ、上手くいってるのか?」
「お陰様で」と朝倉さん。
「たぶん……」と千歳さん。
「自信がありません」と北村さん。
自信がない?
「どういうことだ?」
「私恋人らしいこと何一つしてないから。ていうかどうしたらいいか分からない」
「そういう事なら気にしなくていいよ。今のままの北村さんが好きなんだ」
栗林君が言うと皆が囃し立てる。
「ところで明日からバスケットあるけど皆応援するのか?」
「当然よ、皆決勝戦は絶対に来てね」
恵美さんが言う。
「ああ、その日だけ休みとった」と神奈。
「私達は止めときます。青い鳥休めないし」と北村さん。
「僕も行きたいんだけど北村さん一人じゃまだ無理だし」と酒井君。
あとの皆はくるらしい。
「じゃあ、冬夜最後の晴れ舞台を皆で応援してやろう」
皆拳を高く振り上げる。
あとは冬夜が決勝の舞台に立つのを待ってるだけだった
(4)
大番狂わせだった。
日本代表の快進撃。
リーグ予選を全勝で突破しベスト8に進出。
そして準決勝を勝ち上がりメダル獲得を確定させた。
オリンピック史上初の事態だ。
日本中のバスケファンが注目していた。
その活躍の目にはやはり片桐選手があった。
彼の得点はずば抜けている。
得点だけじゃない、スティールの回数、3Pの成功率。何もかもが桁違いのものになっていた。
彼がついに本気を見せた。
もちろん片桐選手だけの活躍じゃない。
彼がディフェンスを引き付けて鋭いパスを送る。
それを受けてシュートを打つ他の選手も素晴らしかった。
しかし決勝の相手はやはりアメリカ。
ドリームチームと呼ばれる編成だ。
レベルも段違い。
だけどそれでもいい。
メダルを獲得したというだけでも称賛に値する。
決勝を控えて記者会見が開かれた。
皆が決勝に向けての抱負を語る。
そんな中片桐選手が妙な事を言った。
「悔いのない試合にしたいです」
「オーエスの佐古下です。それは負けてもいいということですか?」
私は意地の悪い質問を投げかけていた。
「当然勝ちに行きます」
自信ありげな彼の言動に会場がざわつく。
「では悔いのないという意味は?」
「……スタッフにお願いしています。大会が終わったら単独で会見をしたい」
何を考えているの?片桐冬夜。
(5)
「愛莉そっちじゃないこっち!」
「でも路線案内だと」
「そっち通勤でも使われるから混むのよ!こっちの方が早い」
ゆかりさんに言われてついて行く。
会場まではあっという間だったけど、やはり慣れない。
会場に着くと席に着く。
ブースターの熱狂的な歓声が聞こえてくる。
いよいよだ。
冬夜君の最後の晴れ舞台。
最後じゃないかもしれないけど最後にしてあげたい。
バスケの神様がもしいるなら彼の願いを叶えてあげて下さい。
冬夜君は日本バスケの神様って言われてるんだっけ?
じゃあ、神頼みも通じないか。
「いよいよだよ!」
ゆかりさんが言うと代表チームが入ってきた。
冬夜君はシュート練習の前に床にちょこっと触って念じている。
集中してるんだ。
このコートを支配するつもりでいるんだ。
それが終ると冬夜君は真剣なまなざしでシュート練習をする。
冬夜君のシュートはゴールに吸い込まれるように入っていく。
コンディションは抜群みたい。
チームの皆が円陣を組むと掛け声をかける。
コートに一人ずつ入っていく。
黒のユニフォームが冬夜君達。
皆入ると相手選手と握手する。
そして配置につく。
ボールが高々と放られる。
試合が始まった。
(6)
試合が始まった、私達は恵美先輩の宿泊施設で応援してた。
試合はシーソーゲーム。
アメリカに負けない攻撃力。
アメリカに速攻を許さないオールコートプレス。
そして点を取られてからの速攻。
片桐先輩のデイフェンスにはマイケル選手がついてる。
3Pを簡単に打たせてくれない。
しかし東山監督が提唱したようにポイントガードのマリック選手に片桐先輩をつけてる。
攻撃を元から断とうという作戦だ。
その作戦は功を奏した。
片桐先輩のディフェンスは自陣にボールを放り込む事すら許さない鉄壁のディフェンス。
そしてスティールが決まるとすぐさまボールを拾い3Pに持って行く。
そのわずかな差が日本を優位に立たせていた。
しかしセットプレイになるとやや日本が不利になる。
アメリカの攻撃力も容赦ない。
しかしポイントガードからセンターへのパスは片桐先輩が許さない。
それだけじゃない、相手ポイントガードにバスケのプレイを許さない気迫だった。
シーソーゲームは続く。
けど、アメリカの攻撃力の供給源を断つ片桐先輩のディフェンス力が僅かにアメリカの攻撃力を削ぎ試合を傾かせていた。
第2Qを終え日本は3点のリードを奪う。
試合は第3Qで大きく動いた。
片桐先輩の動きがさらにレベルアップした。
マイケル選手をも引っ掻き回す俊敏な動き。
ドリブルをしながら目を閉じて静かに呼吸を聞いて一瞬の不意を突いて切り込む片桐先輩。
マイケルより半身でも前に出ると跳躍する。
跳躍した片桐先輩はもはやマイケルでも止められない。
片桐先輩がマイケルを上回った瞬間だった。
こうなると片桐先輩にダブルチームをつけざるを得ない。
しかしダブルチームどころかトリプルチームでも止められない片桐先輩の動き。
相手のディフェンスに混乱が起きる。
マイケル選手自身もこんな状況は初めてなんだろう?
最初は心底楽しそうにプレイしていた彼に焦りが見え始めた。
彼の焦りは彼のプレイに混乱を生じその混乱がチームプレイを乱す。
日本代表の監督が動いた。
ディフェンススタイルを変える。
勝負に出たのだろうか?
片桐先輩にマリック選手とマイケル選手両方をディフェンスするように指示する。
残りの4人でゾーンを組む。
ボックスワンだ。
当然マリック選手はマイケル選手にボールを送りたくなる。
が、マリック選手と距離を保ちながらもマイケル選手との間に立ってパスコースを塞ぐ片桐先輩。
スティールが決まる。
マリック選手とマイケル選手が片桐先輩をコーナーに追い込む。
けどそれでいい。
今の日本代表に必要なのはエアウォークじゃない。
3Pだ。一点でも引き離したい。
片桐先輩はその期待に応えた。
この日の3P成功率は100%だった。
苦手と言われていた0度からの3Pをいとも簡単に決めてみせる。
点差は4点差のまま第4Qに入った。
(7)
第4Qに入るとブースターの応援も最高潮に達していた。
あと10分逃げ切れば日本が金メダル。
私達も必死に声を出していた。
冬夜君に届いてたのだろうか?
冬夜君は私を見て笑った。
激しいシーソーゲームも徐々に傾き始める。
オールコートプレスを敷いてくるアメリカ代表に対してボックスワンで守る日本代表。
冬夜君を軸に攻撃を展開する日本代表に対して5人が目一杯動いて2点をもぎ取るのがやっとのアメリカ代表。
冬夜君がしかけたディフェンスはマイケル選手を完全に遮断していた。
時には冬夜君自らディフェンスリバウンドを奪いに行く。
そんな冬夜君も日頃の鍛錬の成果なのか全然疲れを見せない。
この試合ですべての力を出し切るつもりなんだろう。
その甲斐あって日本代表は体力を幾許か温存で来た。
しかしアメリカ代表はそんな余裕は与えてもらえなかった。
冬夜君のスティールからの速攻は3Pに切り替わる。点差をさらに広げていく。
残り時間5分を切った。
尚も攻め続ける冬夜君。
そして残り時間1分を切った時私達は涙していた。
点差は10点。もう大丈夫。
そして最後のアメリカの攻撃。
ボールがマイケル選手に渡る。
冬夜君がディフェンスにつく。
この試合を印象付ける一対一。
マイケル選手が仕掛ける。
冬夜君がそれに対応して動く。
一瞬の出来事だった。冬夜君はボールを弾くとボールに向かって飛びつく。
マイケル選手も負けじと飛びつく。
ボールを奪ったのは冬夜君だった。
冬夜君のディフェンスに着くマイケル選手。
冬夜君の脚力はあの修練でさらに鍛えられたのだろう。
一瞬で振り切るドリブル速度。
冬夜君が飛ぶ。
慌ててもどった選手がブロックに着く。
冬夜君はそれを躱してシュートを決める。
それがこの試合のクラッチシュートだった。
数十秒。
冬夜君は最後まで手加減しなかった。
マリック選手にパスを出させない。
ブザーが鳴る直前にロングシュートを放つも冬夜君は冷淡にそれをブロックする。
ブザーが鳴る。
日本代表の史上初のメダルは黄金のメダルだった。
「やったね愛莉!」
3人で抱き合う私達。
3人とも泣いてた。
そして誰構わず周囲の人たちを巻き込んで喜びを上げる。
夢じゃない。
冬夜君は夢を実現させたんだ。
もういいよ、冬夜君は十分やったよ。これからは自由だよ。
今すぐ抱きしめたかったけど、後の楽しみにとっておこう。
おめでとう冬夜君。
(8)
終わった……。
ブザーが鳴ると僕はその場に倒れた。
やり切った。
満足感が僕を包む。
大声を出して喜びたい。
これは夢じゃないんだ。
アメリカ代表の選手、マリックとマイケルに手を差し出される。
二人の手を取って起き上がる。
「完敗だ。おめでとう」
「文句はない、僕達も全力で戦った。悔いはあるけど……君たちが世界一だ」
二人が言うと握手をする。
背中で浴びる歓喜の声。
それが僕達にむけられたファンファーレ。
スタンディングオベーションが起こる。
仲間たちが集まってくる
「ありがとう、冬夜のお蔭で世界の頂点に立つことが出来た」と聖人が言う
「こんな気持ちになったのは初めてだ、ありがとう」と五郎丸が言う。
「これから大変だぞ、お前も」と雄介が言う。
「いい試合だった……」と彩が言う。
「皆で勝ち取った勝利だ。皆で祝おう」
そう言って僕達はブースター席に向かって礼をする。
皆感極まって泣いている者もいる。
愛莉の姿も見えた。
愛莉、帰ったら一杯甘えさせてやるからな。
そんなメッセージを込めて愛莉を見る。
愛莉は受け取ってくれたらしい。
少し恥ずかし気に笑ってる。
雄一郎も泣いていた。
そのまま表彰式が始まる。
聖人が僕に表彰台に上がれと勧める。
こういうのってキャプテンの仕事じゃないのか?
「良いから大人しく洗礼を受けてこい」
澤が言う。
僕が真ん中の一番高い台に立つ。
写真を撮った後代表チームに金メダルがかけられる。
拍手が鳴りやまない。
勝利の雄たけびが聞こえる。
こうして僕の最初で最後の五輪が終わった。
控室に行くと皆着替えている。
「今日までよく頑張ってきた!これからも頑張ってくれ」
「っす!」
皆は答える。僕は答えなかった。
確かに心地よいものだ。だけど一度味わったらもう十分。そう決めてここまで頑張ってきた。
「監督」
僕は監督を呼んだ。
監督には前もって言ってある。
「ああ、インタビューの件だな。この後用意してある……本当にいいんだな?」
監督が念を押す。
僕はうなずいた。
そうして最後の僕の仕事が始まった。
カメラのフラッシュがたかれる。緊急会見が始まった。
「片桐選手、世界の頂点に立った感想は」
「気持ちよかったです」
「次も期待できますか?」
「わかりません」
会場がどよめく。
「オーエスの記者の佐古下です。それはまだライバルのアメリカに伸びしろがあると?」
「わかりません」
「ではどういう意味でしょうか?」
「その前に僕から一言いいですか?」
「どうぞ……?」
記者が僕に注目する。
僕も緊張してきた。
多分非難を受けるだろうことは覚悟してる。
でもこの時の為に今まで頑張ってきたんだ。
「僕は、今大会を持って日本代表……いやバスケットボールを引退します」
「ああ、片桐君達よく来たね。待ってたよ」
羽田空港で日本代表のスタッフさんが待っていた。
冬夜君はそのまま選手村へと向かって行った。
私はゆかりさん達に連れられてホテルに向かう。
ホテルは3人部屋だった。
荷物を置くと夕食を食べに行く。
ゆかりさんお勧めのイタリアンのお店。
「冬夜君の調子はどう?」
「大丈夫だよ。哀田君は?」
そんな感じでお互いの彼氏の近況報告から始まった。
ご飯を食べながら女子トークだったのだが……。
「ねえ愛莉。私不思議に思ってたんだけど」
「どうしたの?」
「どうして冬夜君そんなに真面目に勉強してるの?プロチームから引く手数多でしょ?」
ゆかりさんが突っ込んできた。
うぅ……。
「私も哀ちゃんから言われてたの?NBAからもスカウトきてるそうじゃない。彼は契約するチーム決めてるのか?って聞かれたって」
由衣さんも聞いてきた。
困ったな。
私は答えた。
「多分五輪が終わったら回答が出ると思う。それまでは集中させてあげて」
「……愛莉は答え知ってるんだね?」
「うん……」
「じゃあ、終わったら教えてね」
二人は笑顔で私に言う。
その笑顔が痛いんだけど……。
ご飯を食べ終わった後も二人の話題は冬夜君だった。
将来どうするのか?
その事が気になっているらしい。
じゃあ逆に二人の彼はどうするの?
私は聞いていた。
「彩(ひかる)はBリーグ入りするらしいよ」
「哀ちゃんは悩んでるみたい。NBAにするか日本に戻るか」
2人ともバスケに生きるんだ。
「冬夜君は違うの?」
2人が聞いてきた。
私は返答に悩んだ。
「お誘いが来てるのは確かみたい。どこのチームに行くのか悩んでるんじゃないかな?」
「愛莉は幸せよね、NBAなんて決まったらスポンサー料も凄いだろうし。一躍お金持ちだよ」
「それは二人共同じじゃない?」
「そうだね~」
「あ、そうだ。愛莉ホテルに帰る前に寄るところある」
「ほえ?」
二人は私を駅に連れて行った。
「電子マネー買っておきな。明日から電車移動がメインだから大変だよ」
「それなら大丈夫。地元で買ったやつつかえるから」
「チャージ忘れないようにね。切符買ってたら時間無くなっちゃう」
「わかった~」
私は少しチャージする。
コンビニでお酒を買ってホテルで前祝する。
私は控えめにした。
うっかり口を滑らせたら大変だから。
「明日の昼から開始らしいからのんびりできるね」
「会場までもそんなに離れてないし」
そんな話を聞きながら一夜を過ごした。
(2)
「奇遇だね、こんなところで会うなんて」
それはサッカーの日本代表の沖選手だった。
他にも数名いる。
「ああ、紹介するよサッカーの代表の選手達」
沖選手が紹介すると背の高い選手が言った。
「ああ、こいつがサッカーから逃げだした片桐か」
代表選手ってこうも高飛車な人間が多いんだろうか?
まあ、気にする事も無いか?
「そそ、だから君達とは関係ないよ。じゃあね」
そう言って立ち去る。
「片桐選手だ。サインもらっていいですか?私女バスの代表の……」
その後もサッカー女子の代表やら水泳選手やら色んな選手からサインを求められた。
ちなみに僕は受け取ってない。
愛莉に知られたらまた拗ねられる。
「人気者は大変だな」
聖人が言う。
「食う事に集中したいんだけどね」
「お前にはちょうどいい環境かもしれないな」
聖人がそう言って笑う。
「しかし悠長なもんだな。試合までには間に合うとしてまさか試験を理由に現地入りを遅れさせるとはな」
雄一郎が言う。
「資格とかとっておきたいしね」
「そんなもんとってどうするんだ?お前ならプロになれるだろ?」
「スカウト来てないのか?紹介してやろうか?」
雄一郎と聖人が言う。
「来てるのは来てるよ」
「わけわかんねーぞ、お前のやってる事」
雄一郎の言う事ももっともだな。
「保険だよ、プロで失敗した時の」
嘘をついた。
「そんな時間あったら練習しとけ」
雄一郎が言う。
「そういう話なら俺も聞いたんだけど」
和人が来た
「冬夜NBAのチームからの誘い断ったんだって?知り合いから聞いたんだけど」
そこまで話が広がっていたか。
「断ったんじゃないよ。今は五輪に集中したいからって待ってもらってるだけ」
「進路決まってた方が集中できるんじゃない?」
「色々悩むだろ?それより五輪に集中したかったんだ」
「なるほどね……」
「冬夜、俺も噂で聞いたんだけど……」
彩まで来たか。
「お前就職活動してるんだって?」
うわ、一番触れられたくないとこ触れてきたね。
4人は僕を見る。
「やってる事矛盾してないか?五輪に集中したいと言いながら就活はするって」
雄一郎が問い詰める。
「内々定は6月までに決めないとあと大変だってきいたから」
「てことは就職先は決まってるの?」
和人が聞いた。
「……内々定はもらってる」
「お前ならBリーグで食っていけると思ったんだがな」
彩がそう言って笑う。
感づかれた?
「いつまで飯食ってるんだ。さっさと休め。明日は朝から調整して試合だぞ」
監督が来た。
急いで食べてそして部屋に入る。
明日からか……。
あ、愛莉に電話しなきゃ。
愛莉に電話する
「冬夜君?」
「ああ、愛莉寝てた?」
「まだ3人で騒いでる」
「今大丈夫?」
「うん、部屋を出た。ねえどうしよう?冬夜君」
「どうしたの?」
愛莉から事情を聞く。
やっぱり僕の進路の事を聞かれてるらしい。
「五輪が終わったら話すって伝えたらいいよ」
「うん、そう言ってる」
「明日昼かららしいから」
「聞いてる」
「気をつけてな、迷子になるなよ?」
「大丈夫だよ。二人も案内人がいるんだから」
「それなら大丈夫か、じゃあまた明日」
「冬夜君頑張ってね」
「ありがとう」
「じゃあね」
電話は終わった。
僕はシャワーを浴びてベッドに横たわる。
一試合も落とせない。いけない緊張してきた。
(3)
「それでは前期お疲れ様でした~」
俺が音頭を取ると宴の始まり。
「いよいよ明日からですね」
真鍋君が言う。
「冬夜先輩なら余裕っす楽勝っす」
晴斗が言う。
「油断は禁物」
白鳥さんが言う。
皆が冬夜の事を心配している。
本当に金メダル取れるのか?
俺は言う。
「応援するしかないさ。あいつ自身で選んだ道なんだから」
そう言ってビールを飲む。
「片桐先輩金メダル取ったらやめちゃうんですよね。リーグ戦にはでるんでしょうか?」
高槻君が聞いていた。
「それは出るって言ってました。大丈夫です」
佐倉さんが言う。
「ただそれが最後の公式戦だって」
佐倉さんがはどこか寂し気だ。
「あいつ帰ってきたら祝勝会してやらないとな」
美嘉が言う。
本当の意味での打ち上げになるんだろな。
「しけた話してたってしょうがないぜ!トーヤを送り出したんだ。後は応援してやるしかねーだろ」
神奈さんが言う。
確かにそうだな。
話題を変えよう。
「誠と瑛大はあれからどうなんだ?」
「誠はサッカー部の飲み会すら断るようになったよ」
「瑛大もサークルの飲み会断ってるみたい」
「そうなんですよ~つまんないから私もパスしてます~」
神奈さんと亜依さんと咲良さんが言う。
今日は来てるみたいだが。
「2人とも二次会はカラオケでいいな?」
「当たり前じゃないですか、いやだなあ……ハハハ」
「そ、そうだよ。当たり前じゃないですか」
本当に懲りてるらしい。
なら安心か?
「朝倉さん達はどうなんだ、上手くいってるのか?」
「お陰様で」と朝倉さん。
「たぶん……」と千歳さん。
「自信がありません」と北村さん。
自信がない?
「どういうことだ?」
「私恋人らしいこと何一つしてないから。ていうかどうしたらいいか分からない」
「そういう事なら気にしなくていいよ。今のままの北村さんが好きなんだ」
栗林君が言うと皆が囃し立てる。
「ところで明日からバスケットあるけど皆応援するのか?」
「当然よ、皆決勝戦は絶対に来てね」
恵美さんが言う。
「ああ、その日だけ休みとった」と神奈。
「私達は止めときます。青い鳥休めないし」と北村さん。
「僕も行きたいんだけど北村さん一人じゃまだ無理だし」と酒井君。
あとの皆はくるらしい。
「じゃあ、冬夜最後の晴れ舞台を皆で応援してやろう」
皆拳を高く振り上げる。
あとは冬夜が決勝の舞台に立つのを待ってるだけだった
(4)
大番狂わせだった。
日本代表の快進撃。
リーグ予選を全勝で突破しベスト8に進出。
そして準決勝を勝ち上がりメダル獲得を確定させた。
オリンピック史上初の事態だ。
日本中のバスケファンが注目していた。
その活躍の目にはやはり片桐選手があった。
彼の得点はずば抜けている。
得点だけじゃない、スティールの回数、3Pの成功率。何もかもが桁違いのものになっていた。
彼がついに本気を見せた。
もちろん片桐選手だけの活躍じゃない。
彼がディフェンスを引き付けて鋭いパスを送る。
それを受けてシュートを打つ他の選手も素晴らしかった。
しかし決勝の相手はやはりアメリカ。
ドリームチームと呼ばれる編成だ。
レベルも段違い。
だけどそれでもいい。
メダルを獲得したというだけでも称賛に値する。
決勝を控えて記者会見が開かれた。
皆が決勝に向けての抱負を語る。
そんな中片桐選手が妙な事を言った。
「悔いのない試合にしたいです」
「オーエスの佐古下です。それは負けてもいいということですか?」
私は意地の悪い質問を投げかけていた。
「当然勝ちに行きます」
自信ありげな彼の言動に会場がざわつく。
「では悔いのないという意味は?」
「……スタッフにお願いしています。大会が終わったら単独で会見をしたい」
何を考えているの?片桐冬夜。
(5)
「愛莉そっちじゃないこっち!」
「でも路線案内だと」
「そっち通勤でも使われるから混むのよ!こっちの方が早い」
ゆかりさんに言われてついて行く。
会場まではあっという間だったけど、やはり慣れない。
会場に着くと席に着く。
ブースターの熱狂的な歓声が聞こえてくる。
いよいよだ。
冬夜君の最後の晴れ舞台。
最後じゃないかもしれないけど最後にしてあげたい。
バスケの神様がもしいるなら彼の願いを叶えてあげて下さい。
冬夜君は日本バスケの神様って言われてるんだっけ?
じゃあ、神頼みも通じないか。
「いよいよだよ!」
ゆかりさんが言うと代表チームが入ってきた。
冬夜君はシュート練習の前に床にちょこっと触って念じている。
集中してるんだ。
このコートを支配するつもりでいるんだ。
それが終ると冬夜君は真剣なまなざしでシュート練習をする。
冬夜君のシュートはゴールに吸い込まれるように入っていく。
コンディションは抜群みたい。
チームの皆が円陣を組むと掛け声をかける。
コートに一人ずつ入っていく。
黒のユニフォームが冬夜君達。
皆入ると相手選手と握手する。
そして配置につく。
ボールが高々と放られる。
試合が始まった。
(6)
試合が始まった、私達は恵美先輩の宿泊施設で応援してた。
試合はシーソーゲーム。
アメリカに負けない攻撃力。
アメリカに速攻を許さないオールコートプレス。
そして点を取られてからの速攻。
片桐先輩のデイフェンスにはマイケル選手がついてる。
3Pを簡単に打たせてくれない。
しかし東山監督が提唱したようにポイントガードのマリック選手に片桐先輩をつけてる。
攻撃を元から断とうという作戦だ。
その作戦は功を奏した。
片桐先輩のディフェンスは自陣にボールを放り込む事すら許さない鉄壁のディフェンス。
そしてスティールが決まるとすぐさまボールを拾い3Pに持って行く。
そのわずかな差が日本を優位に立たせていた。
しかしセットプレイになるとやや日本が不利になる。
アメリカの攻撃力も容赦ない。
しかしポイントガードからセンターへのパスは片桐先輩が許さない。
それだけじゃない、相手ポイントガードにバスケのプレイを許さない気迫だった。
シーソーゲームは続く。
けど、アメリカの攻撃力の供給源を断つ片桐先輩のディフェンス力が僅かにアメリカの攻撃力を削ぎ試合を傾かせていた。
第2Qを終え日本は3点のリードを奪う。
試合は第3Qで大きく動いた。
片桐先輩の動きがさらにレベルアップした。
マイケル選手をも引っ掻き回す俊敏な動き。
ドリブルをしながら目を閉じて静かに呼吸を聞いて一瞬の不意を突いて切り込む片桐先輩。
マイケルより半身でも前に出ると跳躍する。
跳躍した片桐先輩はもはやマイケルでも止められない。
片桐先輩がマイケルを上回った瞬間だった。
こうなると片桐先輩にダブルチームをつけざるを得ない。
しかしダブルチームどころかトリプルチームでも止められない片桐先輩の動き。
相手のディフェンスに混乱が起きる。
マイケル選手自身もこんな状況は初めてなんだろう?
最初は心底楽しそうにプレイしていた彼に焦りが見え始めた。
彼の焦りは彼のプレイに混乱を生じその混乱がチームプレイを乱す。
日本代表の監督が動いた。
ディフェンススタイルを変える。
勝負に出たのだろうか?
片桐先輩にマリック選手とマイケル選手両方をディフェンスするように指示する。
残りの4人でゾーンを組む。
ボックスワンだ。
当然マリック選手はマイケル選手にボールを送りたくなる。
が、マリック選手と距離を保ちながらもマイケル選手との間に立ってパスコースを塞ぐ片桐先輩。
スティールが決まる。
マリック選手とマイケル選手が片桐先輩をコーナーに追い込む。
けどそれでいい。
今の日本代表に必要なのはエアウォークじゃない。
3Pだ。一点でも引き離したい。
片桐先輩はその期待に応えた。
この日の3P成功率は100%だった。
苦手と言われていた0度からの3Pをいとも簡単に決めてみせる。
点差は4点差のまま第4Qに入った。
(7)
第4Qに入るとブースターの応援も最高潮に達していた。
あと10分逃げ切れば日本が金メダル。
私達も必死に声を出していた。
冬夜君に届いてたのだろうか?
冬夜君は私を見て笑った。
激しいシーソーゲームも徐々に傾き始める。
オールコートプレスを敷いてくるアメリカ代表に対してボックスワンで守る日本代表。
冬夜君を軸に攻撃を展開する日本代表に対して5人が目一杯動いて2点をもぎ取るのがやっとのアメリカ代表。
冬夜君がしかけたディフェンスはマイケル選手を完全に遮断していた。
時には冬夜君自らディフェンスリバウンドを奪いに行く。
そんな冬夜君も日頃の鍛錬の成果なのか全然疲れを見せない。
この試合ですべての力を出し切るつもりなんだろう。
その甲斐あって日本代表は体力を幾許か温存で来た。
しかしアメリカ代表はそんな余裕は与えてもらえなかった。
冬夜君のスティールからの速攻は3Pに切り替わる。点差をさらに広げていく。
残り時間5分を切った。
尚も攻め続ける冬夜君。
そして残り時間1分を切った時私達は涙していた。
点差は10点。もう大丈夫。
そして最後のアメリカの攻撃。
ボールがマイケル選手に渡る。
冬夜君がディフェンスにつく。
この試合を印象付ける一対一。
マイケル選手が仕掛ける。
冬夜君がそれに対応して動く。
一瞬の出来事だった。冬夜君はボールを弾くとボールに向かって飛びつく。
マイケル選手も負けじと飛びつく。
ボールを奪ったのは冬夜君だった。
冬夜君のディフェンスに着くマイケル選手。
冬夜君の脚力はあの修練でさらに鍛えられたのだろう。
一瞬で振り切るドリブル速度。
冬夜君が飛ぶ。
慌ててもどった選手がブロックに着く。
冬夜君はそれを躱してシュートを決める。
それがこの試合のクラッチシュートだった。
数十秒。
冬夜君は最後まで手加減しなかった。
マリック選手にパスを出させない。
ブザーが鳴る直前にロングシュートを放つも冬夜君は冷淡にそれをブロックする。
ブザーが鳴る。
日本代表の史上初のメダルは黄金のメダルだった。
「やったね愛莉!」
3人で抱き合う私達。
3人とも泣いてた。
そして誰構わず周囲の人たちを巻き込んで喜びを上げる。
夢じゃない。
冬夜君は夢を実現させたんだ。
もういいよ、冬夜君は十分やったよ。これからは自由だよ。
今すぐ抱きしめたかったけど、後の楽しみにとっておこう。
おめでとう冬夜君。
(8)
終わった……。
ブザーが鳴ると僕はその場に倒れた。
やり切った。
満足感が僕を包む。
大声を出して喜びたい。
これは夢じゃないんだ。
アメリカ代表の選手、マリックとマイケルに手を差し出される。
二人の手を取って起き上がる。
「完敗だ。おめでとう」
「文句はない、僕達も全力で戦った。悔いはあるけど……君たちが世界一だ」
二人が言うと握手をする。
背中で浴びる歓喜の声。
それが僕達にむけられたファンファーレ。
スタンディングオベーションが起こる。
仲間たちが集まってくる
「ありがとう、冬夜のお蔭で世界の頂点に立つことが出来た」と聖人が言う
「こんな気持ちになったのは初めてだ、ありがとう」と五郎丸が言う。
「これから大変だぞ、お前も」と雄介が言う。
「いい試合だった……」と彩が言う。
「皆で勝ち取った勝利だ。皆で祝おう」
そう言って僕達はブースター席に向かって礼をする。
皆感極まって泣いている者もいる。
愛莉の姿も見えた。
愛莉、帰ったら一杯甘えさせてやるからな。
そんなメッセージを込めて愛莉を見る。
愛莉は受け取ってくれたらしい。
少し恥ずかし気に笑ってる。
雄一郎も泣いていた。
そのまま表彰式が始まる。
聖人が僕に表彰台に上がれと勧める。
こういうのってキャプテンの仕事じゃないのか?
「良いから大人しく洗礼を受けてこい」
澤が言う。
僕が真ん中の一番高い台に立つ。
写真を撮った後代表チームに金メダルがかけられる。
拍手が鳴りやまない。
勝利の雄たけびが聞こえる。
こうして僕の最初で最後の五輪が終わった。
控室に行くと皆着替えている。
「今日までよく頑張ってきた!これからも頑張ってくれ」
「っす!」
皆は答える。僕は答えなかった。
確かに心地よいものだ。だけど一度味わったらもう十分。そう決めてここまで頑張ってきた。
「監督」
僕は監督を呼んだ。
監督には前もって言ってある。
「ああ、インタビューの件だな。この後用意してある……本当にいいんだな?」
監督が念を押す。
僕はうなずいた。
そうして最後の僕の仕事が始まった。
カメラのフラッシュがたかれる。緊急会見が始まった。
「片桐選手、世界の頂点に立った感想は」
「気持ちよかったです」
「次も期待できますか?」
「わかりません」
会場がどよめく。
「オーエスの記者の佐古下です。それはまだライバルのアメリカに伸びしろがあると?」
「わかりません」
「ではどういう意味でしょうか?」
「その前に僕から一言いいですか?」
「どうぞ……?」
記者が僕に注目する。
僕も緊張してきた。
多分非難を受けるだろうことは覚悟してる。
でもこの時の為に今まで頑張ってきたんだ。
「僕は、今大会を持って日本代表……いやバスケットボールを引退します」
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