優等生と劣等生

和希

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5thSEASON

温めた約束の産声

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(1)

「冬夜君おはよう」
「おはよう愛莉」

冬夜君は最近素直に起きてくれる。
そしてそそくさと顔を洗いに行く。
喜ばしい事なんだけど、なぜか寂しい。
少しは私に構って欲しい。
だけど朝食を食べ終わると私が片づけを終えるのをダイニングで待っていてくれてる。
片づけが終る頃を見計らってコーヒーをマグカップに注いでくれる。
私のには砂糖とミルクを入れて。
部屋に戻ると苦いコーヒーを飲みながら甘い時間を過ごす。
でもそれもわずかな時間。
すぐに準備して学校に行く。
もう学校は始まっていた。
学校で授業を受けると私達は学食に集まる。

「秋吉君は毎日大変だね」
「でも毎日彼女に会えますから」

冬夜君が言うと秋吉君はそう答えた。
3日の初ライブは大成功だったらしい。
桐谷君と誠君、中島君と如月君も行ったらしい。
グッズを一杯買ったんだとか。
みんなお嫁さんに怒られないといいんだけど。
今日は皆で新年会。
50人近くともなると会場を探すのも大変らしい。
結局いつもの店になるんだけど。
皆が学食にあつまると賑やかになる。
冬夜君は黙々とお弁当を食べているけど。
そしてそっと席を立つ。
私はその腕を掴む。

「どこに行くのかな?」
「いや、イタリアンチーズチキンとオムハヤシが気になってさ……」

ぽかっ

冬夜君は大人しく席に着く。
本当に油断も隙も無い人なんだから。

「冬夜は相変わらずだな」

水島君が言う。

「佐(たすく)達も凄いじゃないか。2部に昇格したんだって」
「まあな、お前ひとりの地元大じゃないってプレッシャーを抱えていたからな。ほっとしたよ」

あとは後輩に任せると言う。
昼休みが終ると皆、授業に行く。
私達も授業に向かう。
今日の授業を終えると今日はまっすぐ家に帰る。
冬夜君はPCで物件探し。良い物件があれば不動産屋に電話して物件を実際に見る。
冬夜君のチェックは凄く適当。
ぼろくなければいい。
そうはいかない!

キッチンの広さ。ユニットバスの傷み具合。壁などの傷の有無。細かい所を見て回る。
私がダメ出しすると冬夜君は大人しく従う。
お店までの距離、コンビニが近くにあるか?バス停までの距離は?
全部見て回る。
周りの環境もチェックする。
駐車場代とかも確認する。
欲を言い出したら切りがないけどそれでも最低限の事は確認しておきたい。
新居探しは難航していた。
時間になると私達は仕度を始める。
そして家を出てバス停に向かう。
バスに乗って街に向かう。
そして、お店に向かうと晴斗君と春奈が既に来ている。
最後に来たのは如月君と伊織。

「んじゃ、今年も後わずかだ。頑張ろう!」

渡辺君がそう言うと宴の始まり。

「愛莉ちゃんお部屋探しは順調?」

恵美が聞いていた。

「それがなかなかいいのが見つからなくて」
「愛莉が結構細かいんだよね」

冬夜君が言う。うぅ……。

「片桐君、これからの生活の拠点になるのよ。細かく調べるのは当たり前でしょ!」

晶が言う。

「片桐君は何を基準に選んでるの?そこに問題があるんじゃない?」
「築年数と家賃とアクセス」
「……片桐君に任せていたら埒があかないわね。私が探してあげる。愛莉の希望を教えて」

私は冬夜君の希望と私の希望を伝える。

「わかったわ。任せておいて。今月中に決めればいいのね?」
「出来ればそうしたいかな?」

手続きや、家具の購入、その他いろいろあるし。引っ越し先を決めたからと言ってすぐに引っ越せるわけじゃない。
やることは沢山あるってりえちゃんが言ってた。

「もうちょっと早めの方がいいかもしれませんね。業者も混みだす時期だし」

石原君が言う。

「わかったわ、来週には手ごろな物件を見つけてあげる。2LDKを希望って言ったわね?」
「うん」
「任せておいて!」

晶はそう言った。

「遠坂さん達は順調みたいだな」

渡辺君が来た。

「結構難航してるよ」

冬夜君が言う。

「こういうのは女性の希望に合わせた方がいい。お前たちただでさえ遠坂さんが家にずっといるんだろ?なおさらだ」

渡辺君が言う。

「そう思って、愛莉の希望を聞いてるよ」

選んでくるのは適当なのに。

「いっそのこと条件から整理したらどうだ?」

渡辺君が言う。

「検索条件を遠坂さんと整理して決めるんだ。お前が適当に選んでるんだろう?」
「まあ、そうだけど……」
「もう部屋探しから二人の共同作業なんだ。遠坂さんの希望組み込んでやれ」
「わかった。愛莉はどういうのが良いの?」

冬夜君が聞いてきた。

「んとね。冬夜君の部屋はまず間取りが問題なの」

私は自分の希望を冬夜君に伝える。
そうして相談していると。ラストオーダーの時間が来た。

「じゃあ、2次会はいつも通りカラオケでいいか?」

そう言いながら渡辺君は電話してる。
私は冬夜君に耳打ちする。

「私我儘言ってる?」
「そんなことないよ、愛莉が一番長い時間過ごす部屋なんだ。愛莉が住みやすい部屋に越したことはないよ」

本当に優しい旦那様だな~

1次会で公生君と奈留ちゃんはお別れ。

「そろそろ受験勉強。形だけでもしておかないとね」
「それでは、次は後期の打ち上げですよね?」
「そうなるな」
「それじゃ、また。必要な事があったらメッセで連絡する」

公生君がそう言って去って行った。

「さて、そろそろ俺達も移動しようか」

渡辺君がそう言うと皆移動を開始した。

(2)

「参ったよ……」
「さっそく洗礼を浴びてるようだな」

僕は渡辺君と石原君と酒井君と相談していた。
愛莉の部屋探しの条件が厳しい。
やれ、トイレと脱衣室が一緒なのは嫌だとかキッチンが狭いとかここ壁薄いよとか。収納スペースが少ないとか。
いっその事家買った方がいいんじゃないかとすら思えてきた。

「いきなり家プレゼントされるのも考え物ですよ」

酒井君が言う。

「でも2LDKをいきなりせがまれるのも確かに厳しいです」

石原君も苦労したらしい。

「でもこのくらいで音を上げてたら二人で暮らすなんて絶対無理ですよ」

酒井君が言う。

「そうだな、これから女性の要求が果てしなく続く。これはまだ序の口だ」

渡辺君が断言する。

「渡辺君からそう言う愚痴聞かないね?そういえば」

僕は渡辺君に聞いていた。

「俺か、俺は美嘉に叱る側だからな」

そう言って渡辺君が笑っている。

「だから言ったろ冬夜。結婚するともっと厳しくなるぜ。地獄だ」
「瑛大は混ざらなくていい!こっちにこい!」
「俺だって経験者として冬夜にアドバイスを」
「お前のアドバイスなんてどうせろくでもない事なんだ!」

亜依さんに引きずられる桐谷君。

「ああはなるなよ……」
「うん……」
「あの……ちょっと相談してもいいですか?」

秋吉君が有栖さんを連れてやって来た。

「どうした?」
「その話なら私も加わるわ」

渡辺君が言うと恵美さんが入ってきた。

「何事だ?」
「彼女尾行されてるのよ」

恵美さんが言う。
アイドルならしょうがないだろ?

「一応警備に兵隊つけてるんだけどね。ストーカーとかそういうものとは異質なのよ」
「と、いうと?」
「捕まえてないから断定はできないけど、スティンガーが嗅ぎ付けた可能性が高い」

恵美さんが言う。

「どうしてそう断定するの?ただのストーカーの仕業の線もあるでしょ?」

恵美さんは一枚の紙きれを渡す。

手を出すな。

紙切れにはそう書かれてあった。

「ストーカーのメッセージには思えないでしょ?」
「……たしかにね?」

うちの急所を狙って来たか?

「あの……手を出すな?ってどういう意味ですか?」

有栖さんが聞いた。
渡辺君が森重さんの件を話す。

「私……足手まといになってますか?」

有栖さんの声は震えていた。

「心配しなくていい。君には手が出せない。そうだな。恵美さん」
「ええ、有栖は渡辺班の一員であると同時にUSEの大事なタレントなの。手出しさせない。全力で守る」
「僕も合気道くらいは習ってます。彼女を守るくらいはできますよ」
「ついにこっちに牙をむいてきたな、冬夜どうする?」

渡辺君が聞く。

「まだ下手には動けない。僕達と有栖さんの繋がりを突き止めたって事は森重さんとのつながりも突き止めてるだろうし」

暴露サイトを作るにはまだ証拠不十分だ。

「そう言う話なら俺も混ざるぜ。今のスティンガーはもはやサークルなんて生易しいものじゃない。ただの暴力団だ。それと太陽の騎士団、衛藤信一郎の繋がりを突き止めればいいんだろう?」

誠が言う。
だけど僕は首を振った。

「それだけじゃ、まだ足りない……そうだな。例えば選挙期間中の公職選挙法違反とか。一撃で息の根を止めるくらいの威力がないとだめだ」
「それは厳しいな……」
「もしくは、太陽の騎士団自体をバラバラに引き裂く方法……」

こっちの命綱は浮動票の存在。
森重さんが培ってきた物を台無しにするようなことをするわけには行かない。
とはいえ、ALICEの件も大事だ。
ここでALICEのアイドル生命を傷つけるような真似は許さない。
まずはそっちからどうにかするか?

「有栖さんが尾行されてるのはいつの話?」
「この前のライブが終ってからずっとです」
「毎日なんだね?」
「ええ……」

それなら簡単だ。

「石原君……頼まれてくれるかな?」
「尾行を追跡すればいいんですね?」
「うん」
「わかりました、うちの大事なタレントです。守り抜きます」

石原君は言った。

「て、事はいよいよ戦いか」
「やられたらやり返す。それも何倍にでもして」

渡辺君が言うと僕が返した。
口実は出来た。
ALICEを守る戦い。

「誠はさっき言った件を洗ってくれ。一つ心当たりがある」
「それはなんだ?」
「誠が言ってたろ?アーバニティのときからやっていた悪事」
「あの中に衛藤信一郎がいるってことか?」
「多分ね」

それを公開したら政治家としては生きていけないだろう。

「誠君頑張りますよ!」
「頼むよ!」
「私も暴力団と衛藤信一郎のつながりを徹底的に洗うわ」

恵美さんが言う。

「有栖さんがいた時のスティンガーの状態を教えて」

僕が有栖さんにきいていた。
そもそも有栖さんがどうしてスティンガーに入ったのか?
割のいいバイトがある。
お金の工面に何個もバイトを掛け持ちしていた時に誘われた。
その内容は言うまでもない。
断ろうと思ったけど、断ればひどい仕打ちが待っている。
大丈夫だ捕まることは無い。お前は言われたとおりに動けばいい。
そう言われたそうだ。
縁結びでも何でもない金儲けの闇ビジネス。
彼女は触れたらいけないものに触れてしまった。
一度染まったら二度と洗うことは出来ない。
自首すら許されない。
警察への影響力もまだ残っているらしい。
そして僕達に会ってへまをした。
一度へまをしたら二度と使い物にならない。
結果彼女は子会社の地下アイドルの事務所に売られた。
そこで借金を返さなくてはならなくなった。
もう戻れない。
地下アイドルの実態そのものだった。
彼女は人気が出て売れた。
そしてその商法がエスカレートしていった。
触れたらいけない彼女の過去。
だけど決して背を向けてはいけない事実。
彼女の話が終る頃には彼女は泣いていた。
女性陣は怒りをあらわにしていた。

「徹底的に潰す必要があるわね」

恵美さんが言う。
彼等が擁立する地下アイドルWHITEの対抗馬となった今ALICEを放っては置けないんだろう。
と、すれば彼等が次にする手は自ずと見えてくる。
彼女の過去の暴露。
しかも彼等の都合のいいように曲解して。
事実で有れ虚構であれ、彼女へのダメージはでかいだろう。

「冬夜どうする?」

渡辺君が聞いてきた。

「どうするって?」

僕が言うと野次が飛んでくる。

「片桐君!何を聞いていたの!?彼女は完全に被害者じゃない!」

恵美さんがいうと口々に女性陣からの口撃が始まる。

「過去の清算は必要だと言ったはずだけど」
「それが彼女のアイドル活動なんでしょ?」
「誰が何と言おうと彼女が望むことが唯一の真実。歌と踊りで夢と希望を分け与えていく人生を完遂することが彼女の戦い。その舞台を用意してやることが僕達の役割」
「歌と踊りで……」

有栖さんが呟く。

「君の舞台に乱入する部外者は排除するのも僕達の仕事。君はただ一心にステージで自分を表現したらいい」
「って事は……」

カンナが言う。

「忙しくなるね。森重さんの件もあるし」

僕が言うと皆が盛り上がる。

「具体案はあるのか?」

渡辺君が聞いてくる。

「誠、忙しいと思うけど頼まれて欲しい」
「何でも言ってくれ。有栖さんの為なら何でもやる!」
「ALICEの公式サイトを作って欲しい。できれば明日にでも」

早ければ早いに越したことは無い。今回は先手を打つとしよう。

「普通の公式サイトでいいのか?」
「ああ、まずは相手を引きずり出す。もちろん秋吉君との交際の件も載せてくれ」
「いいのか?アイドルにとって恋人の存在は致命傷だぞ?」
「正統派アイドルならそうだろうね?でもどのみち奴等はスキャンダルにしてしまうだろう?だったら先に手札を切ってやる」
「分かったそう言う事なら、任せてくれ」
「それと例のトラップも頼む」
「私達は何をすればいい?」

恵美さんと晶さんが言う。

「有栖さんと秋吉君の警護、相手の絞り込み。それが済んだら攻勢にでる。今回は時間をかけない。力づくでねじ伏せる」

大義名分がある。力押しするだけの力はある。ならば先手を打つのみ。

「短期決戦だな。みんな、やるぞ!」

渡辺君が言う。

「森重さんの事もあるし時間をかけてられないね」

恵美さんが言う。

「ぱっと派手にやって最後は笑って卒業しようね!」

亜依さんが言う。

「私なんかの為に……すみません」

有栖さんが言う。

「渡辺班は仲間を見捨てない。覚えておくと良い」

渡辺君が言う。
この日僕達の意思は一つにまとまった。
決して挫けることのない強固な意志。
その後皆は朝まで盛り上がってそして帰った。

(3)

まただ……。

「つけられてるね」

有栖が言う。
あからさまな尾行。
有栖に渡辺班に連絡するように伝える。
返事はすぐ返ってきた。

「そのまま迂回して洗車場に向かってください」

有栖がその事を僕に伝える。
僕は迂回して国道沿いの洗車場にむかった。
この時間に洗車場は誰もいない。誰もいないからこそ選んだのだろう?
フラッシュが光る。
写真を撮られた!?
車はすぐに逃走しようとしていたがいつの間にか後をつけていた石原先輩を乗せた車がぴたりとつく。
追尾していた車から男が4人降りてくる。
石原先輩が乗っていた車からは石原先輩一人降りて来た。
多勢に無勢だ。
僕は有栖に車に乗っているように言うと車を降りる。

「秋吉君はその場から動かないで、有栖さんを守ってあげて!」

石原君が言う。

「人の心配をしている場合がチビ」
「勇ましいのは結構だが勇気と無謀は違うんだぜ?」

男達がいう。

「確かに自信はありませんね」

石原君は笑顔だ。

「やれ」

男の一人がそう言う前に石原君は行動していた。

4人にめがけて突進する。
まず一人、懐に掻い潜り鳩尾に掌底を決める。
二人目、苦痛に歪む男の腕を取り投げ飛ばすとその後ろにいた男の側頭部に回し蹴りを決める。
こめかみを正確に蹴りつける。
三人目、横にいた男の急所を蹴り上げ屈みこむ男の顎に膝蹴りを決める。
顎を砕かれ血を吐きながらもんどりうつ。
四人目が行動を移す前に懐から出した拳銃を突きつけていた。

「やっぱり無理だったみたいです。もう少し手加減してあげなきゃと思ったんだけど、酔いと怒りがそれを許しませんでした。手を上げてください。さっきも言いましたが今の僕は理性を保てていません。何するか分かりませんよ」

四人目の男が手を上げると、恵美さんが車から降りて来た。

「あなた達スティンガーの手のものね。正直に答えなさい!隠すと3人と同じ運命が待ってるわよ!?」
「お、俺達は言われたとおりにやっただけだ!」
「ALICEの尾行とスキャンダルの証拠集め!そうね?」
「ああ、そうだ」
「恵美さん、その4人には用がないから帰してやれって片桐さんが!」

有栖が言う。

「命拾いしたわね。ただしまた私達の前に現れたら命の保証はしないわよ!」

そう言って石原君の乗せた車が道を開けると男たちは車に乗り逃走した。

「あなた達大丈夫?」

恵美先輩が言う。

「……写真を撮られました。僕達のツーショットの写真」
「なるほどね、そのくらいの事は片桐君の想定済みなんでしょうね」

僕が言うと恵美先輩がそう言う。
片桐先輩はそう言う人間なのだと。

「知りたかったのはスティンガーの確認だけだったって事でしょうか?」
「でしょうね。これで遠慮なくスティンガーに攻撃が出来る」

石原夫妻が話し合ってる。

「でもこれで終わりなんかじゃないですよね?私またスティンガーに狙われてる。皆に迷惑をかけてる」

有栖が車から降りてきて言う。
そんな有栖の頭を撫でて恵美先輩が微笑む。

「迷惑だなんて渡辺班の誰もが思っていないわ。心配ない。すぐにケリがつく。片桐君が動いたって事はそう言う事なの」

恵美先輩が言う。
片桐先輩は信頼されてるんだな。

「馬鹿な真似を考えたら駄目よ。私達との約束はやっと産声をあげたばかりなのだから」
「うちの唯一のアイドルに手を出したら、どうなるかこの際はっきりさせとかないといけないしね」

恵美先輩と石原先輩が言う。

「じゃ、秋吉君後は任せるわ」
「大丈夫なんでしょうか?」
「ただ帰したわけじゃない。ちゃんと車のナンバーくらい控えてる。後は所在を割り出すだけよ」

恵美先輩達はそう言ってその場を立ち去った。
僕も有栖を車に乗せると有栖の家に送った。

「ねえ?」
「どうされました?」
「私達の事撮られたって事はもう隠せないってことだよね?」
「そうなりますね」
「じゃあ、これからは堂々と一緒に歩けるよね」
「ええ、秋吉圭太と下村有栖として歩いてきましょう」

彼女は笑っていた。
彼女の家に着くと車を止める。

「……今夜は泊まって行かない?」
「え?」
「今更一緒に部屋を出る写真撮られたって一緒でしょ?あなたも疲れたろうし休んで行って」

有栖もまだ恐怖が残っているのだろう。

「わかったよ」

僕達はまた一歩進むことを許された。
僕達の交わした約束は未だ温められている。将来その産声をあげる時を夢見て。

(4)

「う~ん……」

愛莉が悩んでいる。

「どうしたの?」
「どうして、4人を帰したの?警察に突き出せばよかったんじゃない?」

愛莉が聞く。

「そうだね、普通ならそれでいいんだ」
「今回は普通じゃないの?」
「ああ、そうだね。どうせあの4人を絞ったところで大した情報を得ることは出来ない」
「まあそうだけど」
「宣戦布告ってところかな」
「宣戦布告?」

愛莉を抱き寄せる。

「やるんだったらこっちも相手になりますよ。徹底的にやり合いましょうって」
「冬夜君の意図通りに進んでるの?」
「まあね、次に出る手段もなんとなく分かる」
「そっか~、じゃあ問題ないね?」
「だと、いいね?」
「何か不安があるの?」

愛莉が不安そうにしている。

「大したことじゃないよ……、それよりも」
「それよりも?」
「愛莉のお望みの物件を探す方が大変だよ」

僕は笑って言った。

「ごめんね、我儘ばかり言って」

愛莉を抱きしめる。

「愛莉の我儘くらいちゃんと受け止めてあげるから」
「ありがとう」
「じゃあ今日もう寝ようか?」
「そうだね、おやすみなさい」
「おやすみ」

そう言って愛莉は眠りについた。
この次に相手が出る手段は想像がつく。
それで一気に片をつける。
そう決めていた。
仲間を傷つけるものは決して許さない。
こっちの手札は見せた。
さあ、次の手札を見せてみろ。
今は愛莉を抱きしめつかの間の休息を楽しんだ。
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