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LASTSEASON
それぞれの休日
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(1)
「冬夜さん、今日はどうします?昼まで寝てますか?」
「ああ、おはよう愛莉」
「おはよう、ごめんなさい。朝ごはんどうするか昨夜聞いてなかったから」
ああ、今日は土曜日か。
困っている愛莉を抱きしめる。
「今から起きるよ。今日は僕も愛莉も休日だ」
「冬夜さん疲れてるから気にしないで」
「言ったろ?愛莉も仕事も両立するって」
「でも……」
「買い物行きたかったんだ。ついでに愛莉の買い物もしよう?」
「わかりました。無理言ったみたいでごめんなさい」
愛莉は申し訳なさそうだが、心は嬉しそうだ。
「じゃ、ご飯にしようか。今何時?」
「まだ8時です」
「そうか、じゃあご飯食べて買い物だな」
「はい」
そう言うと愛莉はキッチンに向かう。
僕も着替えて部屋を出る際に気づいた。
自分で脱ぎ散らかしたパジャマを見るとそれを手に取ると洗濯機に入れる。
そんな様子を愛莉は見てたらしい。
愛莉と目が合うと愛莉はにこりと笑う。
「いつもごめんね」
「気づいてくれただけでも嬉しいです」
愛莉と一緒にご飯を食べる。
「愛莉は今年は春服買わないの?」
「今年は良いかな?って無駄なお金使っちゃいけないかなって」
「愛莉を路頭に迷わすような仕事はしてないよ。気にしないで買いなよ」
「そこまでいうなら、一着だけ気になるワンピースがあったから」
冬夜さんワンピース好きでしょ?と笑顔で返す愛莉。
ご飯を食べ終わると愛莉は片づけて出かける準備を始める。
その間リビングでテレビを見てる。
明日の事も考えておかないとな。
あまり出かけるとこもないしな、帰りにDVDでも借りて帰るか。
そんな事を考えてると愛莉の仕度は済んだ。
愛莉を連れて家を出ると、ゴルフ用品店に行く。
初心者でも分かりやすいようにゴルフクラブセットが売っている。
それを買ってあとウェア、シューズ、ボール、グローブ、ティー、マーカー等を買う。
一通り買うとショッピングモールに行ってお昼ご飯を食べる。
その後愛莉の服の買い物に行く。
愛莉の中では何を買うのか決めていたようだ。
目的の店にいって、目的のワンピースを選んでサイズを選んでいる。
「花菜とウィンドウショッピングした時に気になってたの」
「その時に買えば良かったのに」
「冬夜さんの意見聞き方かったから。似合うかな?」
白のストライプのシャツワンピース。
愛莉にぴったりだった。
「似合ってるよ、大丈夫」
「よかった」
愛莉はそれを持ってレジに行く。
支払いを済ませると僕のもとに駆け寄る。
「じゃ、次の店に行きましょう」
次の店?
そこはメンズファッションの店だった。
「愛莉、今日は僕は十分買い物したからいいよ」
「それは必要経費でしょ。素敵な旦那様でいて欲しいから」
そう言って愛莉は服を買った。
「この後どうする?DVDでも借りて帰ろうと思うんだけど」
「大丈夫ですよ」
レンタル店に行くと愛莉と観たいものを選ぶ。
洋画と邦画、アニメとお笑いのを借りて行った。
時計を見る、時間的には夕食じゃないかな。
「どうする、愛莉?一度家に帰る?」
「お願いがあるんですがいいですか?」
「いいよ」
「ゴルフ練習場に行きませんか?」
「いいけど……」
まあ、クラブに馴染んでおくのも重要か。
うちっぱなしの練習場に行くと愛莉は後ろで見てると言う。
ゴルフの練習をしたのは一度だけだけど体が覚えてる。
何度もネットを揺らす。
振り返ると愛莉が小さく拍手をしている。
時間を潰すと練習場を後にする。
「じゃあ、ご飯食べて帰ろうか?」
「買い物して帰りましょう?夕食は私作るから」
「今日と明日は愛莉の休息日。家事は駄目」
「じゃあ、今日は今から作ったんじゃ時間も遅くなるから外食でいいけど、明日は一日家にいるんでしょうから私作りますね。それでいいですか?」
あんまりごねても愛莉を困らせるだけだ。素直に愛莉に従う事にしよう。
「わかった」
「じゃあ、ファミレスで」
ファミレスで注文を取ると、愛莉に聞く。
「そんなに僕の稼ぎだけじゃ不安?」
愛莉は首を振る。
「心配しなくても私が管理してますから。ただ最初の月でしょ?出来るだけ控えて。翌月から参考にしていこうと思って」
僕の生命保険の費用とかも考えないといけないしと愛莉は言う。
「でも、それなら貯えは……」
「それは将来の貯えにしたいの。子供の教育費とかもかかるし」
家計の問題は愛莉に任せておいて問題ないらしい。
「わかった。愛莉に任せるよ」
「はい。任されました」
ご飯を食べると家に帰って先にお風呂に入って。と言うので先に入る。
その後愛莉が入ると愛莉は洗濯を始める。
洗濯機が回ってる間に寝室で愛莉は家計簿をつけている。
「どんな感じ?」
「飲み会があったけど、冬夜さんいつもまっすぐ帰ってきてくれるし。順調ですね」
このままなら貯蓄も出来そうだと、愛莉は言う。
洗濯が終ると愛莉はアイロン掛けをして洗濯物をしまう。
それらが全部終わると愛莉の今日の一日は終わり。
冷蔵庫から酎ハイを持ってきて飲む。
お酒が入ってるからかな?
最近愛莉から構ってと言う事が少ない。
でも今の愛莉は身体を僕に預けてくる。
まだまだ愛莉も構って欲しいお年頃なのかな?
愛莉の肩を抱いてやる、愛莉は僕の顔をじっと見ている。
「いいの?」と語りかけるように。
「そろそろベッドに入ろうか?」
「はい」
ベッドの中で話す。
「愛莉はもう僕のお嫁さんのつもりでいてくれるんだろ?」
「ええ、そうですよ」
「だから僕も愛莉の亭主としてふるまうよ」
愛莉は首を傾げる。
「愛莉の要求くらいは受け止める、愛莉の我儘や不満もちゃんとうけとめてあげる。だから我慢しないでいつでも言って」
「私今幸せですよ。冬夜さんは理想の旦那さまでいてくれるから。これ以上の我儘なんて罰があたります」
「でも現にさっき愛莉言いたくても言えなかったんだろ?そのくらい僕にもわかるよ」
「……本当に私は幸せ者ですね」
愛莉は僕に抱きつく。
そんな愛莉を抱きしめてやる。
今日もいつもと変わらない幸せな夜を過ごした。
(2)
「葵」
「翠」
二人が互いの顔を見ている。
「何かあったの?」
僕は聞いていた。
「つけられてます」
二人は静かに言った。
「どうしましょう?家までつけられるとやっかいです」
運転してる葵さんが言う。
「撒けそうですか?」
「やってみます」
車は進路を変える。
尾行していた車は真っ直ぐ向かった。
撒けた?
葵さんは首を振る。
既に家を突き止めていて待ち伏せの可能性があるという。
「どうしよう?」
有栖が不安そうにしている。
どうもこうもない、家に帰るしかない。
「帰りましょう」
僕はそう判断した。
家のアパートに行くとちょっと小太りの眼鏡をかけた男が待っていた。
手には刃物を持っている。
「お前がALICEちゃんを騙してる悪いマネージャーか」
随分と曲解してるようだけど誤解を解く必要も時間もない。
有栖の前に立つ。
「お前をやっつけて僕がALICEちゃんと一緒になるんだ」
ナイフを突き出して突進してくる。
ナイフを持つ手を掴むと男の体はくるりと一回転して通路に倒れる。
騒ぎを聞いて駆け付けた葵さんと翠さんが男を捕まえる。
僕はその場で警察に通報する。
男は駆け付けた警官に連行され僕達は事情聴取を受けた。
このままじゃまずい。
事情聴取を受けながら僕は違う事を考えていた。
有栖の事情聴取が終わると僕達は有栖の家に帰りついた。
葵さんと翠さんを見送ると有栖に「今日は泊っていきます」と言う。
「そうしてくれると嬉しいけど、家はいいの?」
「有栖の身の危険と比べるまでも無いよ」
そう言いながら、恵美さんのスマホに電話していた。
「もしもし秋吉ですけど、実は有栖が……。はい、それでセキュリティのしっかりた2LDKの部屋を借りて欲しいんですが……ありがとうございます」
何か言いたそうな有栖だったけど、今はおいといて実家に電話する。
「もしもし圭太です。父さんに繋いで」
「どうした?」
「お父さん、前の約束白紙にして欲しい」
その言葉に父さんは言葉を失ったようだ。
有栖も泣きそうな顔をしている。
「お前はもっと一途だと思っていたが、もう飽きたか。この根性なしめ」
「勘違いしないでください。僕が白紙にして欲しいと言ったのは同棲は許さないと言った点です」
「なんだと?」
「有栖の身の危険がかかっている。有栖と一緒にくらします。今すぐ有栖と結婚します。学業はおろそかにしません」
「お前に女性一人養うだけの力があるのか?」
「生活費の仕送りとかはいりません。学費も払えないというなら大学を辞めます。出来るだけ有栖のそばにいてやりたい」
「……大学くらいはでておきなさい。それだけは譲れん。学費はこっちで払う」
「ありがとうございます」
「頼りない所があったが、彼女の存在がお前を変えたんだな。わかった」
「じゃあ、また後日伺います」
そう言って電話を切った。
有栖を見る、有栖は今にも泣きそうな顔をしている。
それがうれし泣きなのか悔し涙なのかわからないけど。
「と、言うわけで明日のライブが始まる前に指輪を買いに行きたいんだけど受け取ってくれませんか?」
「指輪なんていらない!」
そう言って有栖は僕に縋りつく。
「私みたいな女でいいの?圭介にはもっと相応しいしっかりした人が……」
「今の僕には有栖以外に素敵な女性なんて思い当たらない」
「圭介……ありがとう」
意外な形でのプロポーズだったけど、しっかりと伝える事が出来た。
事務所にも報告して週明けにでも発表することになった。
来週は忙しい一週間になりそうだ。
(3)
「ただいま~」
部屋の明りはついてる、時計は2時を回っていた。
疲れ切った体になんの癒しもなくただ、瑛大の笑い声が聞こえてくる。
どうせゲームでもやっているのだろう?
私が帰ってきたことに気づきもしない。
私が着替えを用意してシャワーを浴びてビールでも飲んで寝ようと思った時にようやく気付いたようだ。
しかしそれは私の労働を労う言葉ではなく……。
「あ、亜依?帰ってきてたんだ。遅かったね。俺にもビール」
もっと言う事があるんじゃないのか?
そんな考えを押し殺して「あんまり飲み過ぎるなよ」と缶ビールを渡す。
「サンキュー」
疲れ切った私に気づくことは無い。
なぜなら瑛大はずっとモニターを見ていたのだから。
ビールを飲み、買ってきたコンビニ飯を食べる前にやることがある。
テーブルのごみを片付け、綺麗に拭く。
そして、一人コンビニ飯を食べビールを飲んで。ベッドに横になる。
疲れ切っていたので、瑛大の五月蠅い騒音など気にもせず眠りにつく。
ほんの僅かの休息。
朝6時には起きて準備をしなければならない。
瑛大の朝ごはんと自分と瑛大の弁当を作って準備して出勤する。
宿直室を除くと穂乃果が眠っていた。
「穂乃果、朝だよ」
「え?あ、ごめん、いつのまにか寝てたわ」
「もうじき勤務引継ぎ……」
「亜依大丈夫!?準夜勤から日勤なんて無茶だって!」
「まあ、仕事だし仕方ないわ」
「ちょっと中島さん!なにやってるの!?もう朝の配膳はじまってるのよ!」
鈴木さんがきた。
看護師の間では「般若」と呼ばれている。准看護師の癖に看護師長よりもえらそうな態度。内科科長とできてるとか?
「すいません、今から準備します!」
「もうとっくに終わってるわよ!長浜さんといい。仕事一週間目でだらしがないんじゃない!?」
長浜さんというのは同期の看護師でとにかくおっとりしてる。緊張感が無くミスが多いけど致命的なミスはない。般若のいい的になってる。
「まあまあ、まだ交代制に体が慣れないのよ。仕方ないわ」
そう言って般若を宥めるのが看護師長の早乙女さん。みんなからは「菩薩」といわれてる程慕われてる。しかしその物腰の柔らかさが般若をつけあがらせている。
「早乙女さんがそんなんだから!若いのがだらしがないんです!」
たちまち立場が逆転する。
ちなみに般若はそんなに仕事が出来るわけじゃない、准看護師なので指示なく注射も打てない。というか打ってるところを誰も見たことが無いという。
そんな言い合いが10分ほど続いて私達は解放される。
そして、準備が遅れて引継ぎが遅れてさらに怒られる。
こんな毎日が続いて私達のストレスも頂点に達していた。
「じゃ、亜依、私帰るから頑張って」
「ごゆっくり~」
ゆっくりできないのは私が知ってる。
彼女も来月引っ越す。
仕事始まる前に引っ越しとけばよかったとぼやいている。
ただでさえ、5月に2人そろって連休をとるから「新人の癖に生意気」と陰口をたたかれている。
だから引っ越すのも細かいものは自分で運んでいるらしい。祝日の日は深夜勤にして日中をあけてるらしい。本気で死ぬぞと言ったがしょうがないと穂乃果が言う。
どんなにストレスをためてもそれを患者にぶつけるわけにもいかない。
そんな立場を利用してセクハラを重ねる患者も数少なくない。
学生時代にどれだけ甘い生活をしていたか身に染みる。そしていまだに学生という立場に甘えている主人に苛立ちを覚えていた。
(4)
「では、そういうことで」
「よろしくお願いします」
今一つの商談がまとまったところ。
社長業務とはいえ、日曜に出ないといけないとは思ってもみなかったよ。
僕の言葉一つで数億円規模でお金が動いてると知るとそりゃもう胃が痛くて。
今日も大量の書類にサインをする仕事。
あまりにも粗雑で話にならない稟議書とかは重役が目を通す段階で跳ね除けられる。
「社長、このあと会食の時間になってます」
僕のスケジュールを完全に管理しているのは秘書の佐瀬茉莉さん。敏腕の秘書だ。
基本的に僕が経営する酒井コーポレーションは晶ちゃんの子会社からヘッドハンティングしてきたかなりのキャリアを重ねてきた歴戦の猛者たち。
ぶっちゃけていうと僕が学生生活を満喫している間も彼等だけで運営してたんだから、僕要らないんじゃないと思ったけど。僕の代行をしていた専務があっさりと僕の両肩に重荷を預けてくれた。
仕事に文句を言ってもしょうがないので必死に仕事をこなしている。
といっても会食に赴いたり客先と商談したり決裁書に判を押したりそんな仕事が主。
細かい事はみんな部下がやってくれる。皆僕より年上なんだけどね。
会食や商談には専務や秘書がついて回る。僕がみたいな若輩者が社長ですと言うと舐められるしね。
移動中も休むことは出来ない。
「この後の会議で使う資料です。目を通しておいてください。分からないこところは私が説明します」
こんな感じで、容赦なく仕事はやってくる。
それにしてもこの会社貿易会社とは聞いたけど、本当に色々手を出してるな。
小麦粉から大企業の株式まで、国内外問わず扱っている。
最近では電力事業からゲームソフトの開発まで取り扱ってるよ。
そして小麦粉の中に大量の銃火器が紛れ込んでる事は暗黙の了解。
晶ちゃんは僕を今度は死の商人にするつもりかい?
驚いたのは呉にある戦艦等が福利厚生にあてられてること。
誰がミサイル原潜に乗ってバカンスに行くんだい?
もちろん他にもカモフラージュはしている。関連企業の志水セキュリティサービス、優しく言うと警備会社中味は単なる傭兵派遣会社への供給なども担ってる。
携帯ゲーム機から本物のイージス艦までなんでもござれの会社。
摘発されないのが不思議なくらいだよ。
そんな考えるだけ無駄な事を考えているうちに取引先の会社に着く。
名刺交換から始まって交渉は始まる。
用件は手短に交渉は粘り強く。
最初は「仕事は順調ですか?」といった明るい話題も「それではあまりに不公平だ」と怒り出す客先。
しかし、部下は冷淡で「それではこの交渉は無かったことに。行きましょう社長」と言う佐瀬さん。
うちの企業はどこまで強いんだろうか?
徹底的に冷徹にそして強引に交渉事を続けていく。
そんなことでは敵を作るだけじゃないのかい?
そんな事を聞いていた。
「敵とみなしたら潰すまでですわ。社長」
にっこり笑って出る言葉じゃないよ佐瀬さん。
今日のあいさつ回りも終わって帰ると机には書類が山積みになっている。
それをさっととって分別をする佐瀬さん。
半分以下に減った書類を僕に手渡す。
「一応目を通して押印をお願いします」
パッと見るだけでうんざりするような細かい文章が書かれた書類が山積みになっている。
「残りの書類はどうするんだい?」
「少々問題があるようなので責任者に問いただしてきます」
そう言って佐瀬さんは社長室を出ていく。
僕はその間に書類に目を通していく。
電話はなるけど社長室の前に受付嬢がいてその人が対応する。
だいたいは他の専門部署に回されるんだけどごく一部の人間だけ僕に通される。
そしてその一部の人間が面会に来た。
「社長、奥様が面会に来てます」
「通してあげて」
「かしこまりました」
内線を通して連絡すると晶ちゃんがやってきた。
「今日はどうしたんだい?」
「休日くらい相手してくれないの?」
「生憎と見ての通り書類とにらめっこでね、相手してあげたいのは山々なんだけど……」
すると晶ちゃんは書類を僕から取り上げると部屋に置いてあるシュレッダーにかけだした。
ちょっと何やってんの!?
そして、おもむろに佐瀬さんに電話で叱りつける。
「社長に休日出勤させるような無能の書類など見るに値しないわ。違う?」
「奥様の仰る通りです。大変もうしわけありません」
「社長は今日は疲れたから早退する。問題ないわね」
「後はこちらで対応します。問題ありません」
晶ちゃんは電話を切ると僕を見てにこりと笑う。
「この時間からだと精々映画を見て夕食を食べるくらいかしら」
「そ、そうだね」
晶ちゃんの「映画を見に行きたいから」という理由で破綻した企業が数件あることを後から知った、
そのうち僕刺されるんじゃないかい?
(5)
う~ん。
冬夜さんは甘えたいときは甘えても良いといってくれた。
でも気持ちよさそうに寝ている冬夜さんを見るとやっぱり寝せておいてあげたい。
折角の休日なんだし。
うん、寝せていてあげよう。
でもひょっとしたら起きてくれるかもしれない。
寝室のテレビにセットしたゲーム機はBlu-rayがみれるらしい。
淡い期待を込めて寝室で昨日借りたのを見ていた。
冬夜さんが好きなのはアメコミを実写映画にした作品。
CGが凄くて迫力がある。
近未来って感じがして凄い。
30分くらいすると旦那様がお目覚めになった。
「愛莉何してるの?」
「昨日借りたBlu-ray観てます」
「……今何時!?」
「まだ9時ですよ」
「どうして起こしてくれなかったの?」
そう言って冬夜さんは私に抱きついてくる。
「だって冬夜さん気持ちよさそうに寝てたから」
「今日は愛莉もお休みの日だって言ったよ?」
「主婦にお休みは無いとききました」
「朝ごはんも作ってあるの?」
「トースト焼くだけです」
「じゃ、それ食べてくる」
冬夜さんはそう言ってキッチンに行く。
私もBlu-rayを止めてキッチンに慌てていく。
「冬夜さんは椅子に座って待ってて下さい」
そう言って私は冬夜さんの朝食の支度をする。
冬夜さんはそれを食べながら悩んでる。
どうしたんだろう?
冬夜さんが食べ終えると私が食器を片付ける。
「愛莉は映画見ておいて。後は自分でするから」
「これは私の仕事だからいけません」
「愛莉だけ働かせて僕がだめ亭主みたいだ」
そうか、冬夜さんはそう思うんだ。
冬夜さんを悩ませるのはよくないよね。折角の休日だし。
「じゃあ、あとで二つお願いしてもいいですか?」
「二つ?」
私はうなずいた。
「まずは着替えて出かける仕度して」
冬夜さんは着替えに寝室に行った。
着替えはちゃんと洗濯機に入れてくれた。
それだけで嬉しいのに。
私も着替えて準備する。
「じゃ、行きましょうか?」
「行くってどこに?」
「洗車です」
「洗車?」
「はい、最近してなかったでしょ?」
冬夜さんと洗車に行った。
外も中も綺麗に洗車する。
ピカピカになった。
「この後どうするの?」
「家に帰りましょう。さっきの続き気になるし」
家に帰るとまずは昼食。
食べ終えると片づけてリビングの大きなテレビで観る。
2本くらい見るとちょうどいい時間になる。
「じゃあ、もう一個のお願いいますね」
「ああ、どうした?」
「買い物に連れて行ってください」
「……わかった」
スーパーまで行くと買い物を始める。
「冬夜さん、今日は何がいいですか?」
「煮物」
え?
「かぼちゃの煮物が食べたい」
「わかりました」
私は材料を買ってついでにお酒が切れてたからそれも買ってレジに並ぶ。
荷物は冬夜さんが持ってくれた。
家に帰ると冬夜さんはリビングでテレビを見てる。
私は早速調理にかかる。
出来上がる頃冬夜さんを呼ぶ。
反応が無い。
どうしたんだろう?
そうッと冬夜さんを覗く。
くすっ
余程退屈だったんだろう。
すやすやと寝ていた。
可哀そうだけど、今回は起きてもらわなきゃ。
私は冬夜さんの体を揺すって起こす
「ごはんできましたよ」
冬夜さんはすぐ起きて「ごめんつい」と謝る。
大丈夫だよ。
「ご飯冷めちゃうから早く食べましょう」
「美味しい!いや、最近食べてなかったからなんとなく食べたかったんだよね!」
「よかったです」
ご飯を食べ終わると、片づけをして冬夜さんがお風呂に入るのを寝室で家計簿をつけながら待つ。
「でたよ、愛莉もはいりなよ」
「はい」
お風呂に入ると洗濯機を回す。
その間寝室でテレビを見てゆっくり過ごす。
乾燥が終るとアイロンをかけてしまう作業。
冬夜さんは寝室でテレビを見てる。
私は作業が終わると冷蔵庫からお酒をとってきて冬夜さんに渡す。
「ありがとう」
テレビは洋画をやっていた。
冬夜さんはあまり吹き替え版は好きじゃないらしい。
ネットで調べたんだけど翻訳した人によってはかなり間違った翻訳をしてるんだそうだ。
洋画が終るころ……
「愛莉、愛莉起きて!」
私は冬夜さんの膝の上で寝ていた。
気が付いたらすぐに起きる。
「ごめんなさい、つい……」
「愛莉も疲れてたんだろ?お疲れさん。今日はもうゆっくり休もう?」
「はい……」
ベッドに入る。
冬夜さん怒ってないかな?
「冬夜さん……」
「どうした?」
冬夜さんがこっちを向く。
「怒ってますか?さっき眠っていた事……」
冬夜さんは抱きしめてくれる。
「言ったろ?お疲れ様って。休日に疲れて寝ちゃうまで働かせて申し訳ないとは思うけど怒ったりは無いよ」
よかった。
でもね、そんな気遣いだけで嬉しいの。もっと喜んで欲しくて頑張っちゃうの。
冬夜さんだって疲れてるのに私の事ちゃんと気にかけてくれるのが嬉しいの。
「それじゃ、寝よっか?」
「はい」
冬夜さんは眠りながらもしっかりと私を包んでくれる。
私もそんな冬夜さんに答えながら、とても温かな休日を過ごした。
「冬夜さん、今日はどうします?昼まで寝てますか?」
「ああ、おはよう愛莉」
「おはよう、ごめんなさい。朝ごはんどうするか昨夜聞いてなかったから」
ああ、今日は土曜日か。
困っている愛莉を抱きしめる。
「今から起きるよ。今日は僕も愛莉も休日だ」
「冬夜さん疲れてるから気にしないで」
「言ったろ?愛莉も仕事も両立するって」
「でも……」
「買い物行きたかったんだ。ついでに愛莉の買い物もしよう?」
「わかりました。無理言ったみたいでごめんなさい」
愛莉は申し訳なさそうだが、心は嬉しそうだ。
「じゃ、ご飯にしようか。今何時?」
「まだ8時です」
「そうか、じゃあご飯食べて買い物だな」
「はい」
そう言うと愛莉はキッチンに向かう。
僕も着替えて部屋を出る際に気づいた。
自分で脱ぎ散らかしたパジャマを見るとそれを手に取ると洗濯機に入れる。
そんな様子を愛莉は見てたらしい。
愛莉と目が合うと愛莉はにこりと笑う。
「いつもごめんね」
「気づいてくれただけでも嬉しいです」
愛莉と一緒にご飯を食べる。
「愛莉は今年は春服買わないの?」
「今年は良いかな?って無駄なお金使っちゃいけないかなって」
「愛莉を路頭に迷わすような仕事はしてないよ。気にしないで買いなよ」
「そこまでいうなら、一着だけ気になるワンピースがあったから」
冬夜さんワンピース好きでしょ?と笑顔で返す愛莉。
ご飯を食べ終わると愛莉は片づけて出かける準備を始める。
その間リビングでテレビを見てる。
明日の事も考えておかないとな。
あまり出かけるとこもないしな、帰りにDVDでも借りて帰るか。
そんな事を考えてると愛莉の仕度は済んだ。
愛莉を連れて家を出ると、ゴルフ用品店に行く。
初心者でも分かりやすいようにゴルフクラブセットが売っている。
それを買ってあとウェア、シューズ、ボール、グローブ、ティー、マーカー等を買う。
一通り買うとショッピングモールに行ってお昼ご飯を食べる。
その後愛莉の服の買い物に行く。
愛莉の中では何を買うのか決めていたようだ。
目的の店にいって、目的のワンピースを選んでサイズを選んでいる。
「花菜とウィンドウショッピングした時に気になってたの」
「その時に買えば良かったのに」
「冬夜さんの意見聞き方かったから。似合うかな?」
白のストライプのシャツワンピース。
愛莉にぴったりだった。
「似合ってるよ、大丈夫」
「よかった」
愛莉はそれを持ってレジに行く。
支払いを済ませると僕のもとに駆け寄る。
「じゃ、次の店に行きましょう」
次の店?
そこはメンズファッションの店だった。
「愛莉、今日は僕は十分買い物したからいいよ」
「それは必要経費でしょ。素敵な旦那様でいて欲しいから」
そう言って愛莉は服を買った。
「この後どうする?DVDでも借りて帰ろうと思うんだけど」
「大丈夫ですよ」
レンタル店に行くと愛莉と観たいものを選ぶ。
洋画と邦画、アニメとお笑いのを借りて行った。
時計を見る、時間的には夕食じゃないかな。
「どうする、愛莉?一度家に帰る?」
「お願いがあるんですがいいですか?」
「いいよ」
「ゴルフ練習場に行きませんか?」
「いいけど……」
まあ、クラブに馴染んでおくのも重要か。
うちっぱなしの練習場に行くと愛莉は後ろで見てると言う。
ゴルフの練習をしたのは一度だけだけど体が覚えてる。
何度もネットを揺らす。
振り返ると愛莉が小さく拍手をしている。
時間を潰すと練習場を後にする。
「じゃあ、ご飯食べて帰ろうか?」
「買い物して帰りましょう?夕食は私作るから」
「今日と明日は愛莉の休息日。家事は駄目」
「じゃあ、今日は今から作ったんじゃ時間も遅くなるから外食でいいけど、明日は一日家にいるんでしょうから私作りますね。それでいいですか?」
あんまりごねても愛莉を困らせるだけだ。素直に愛莉に従う事にしよう。
「わかった」
「じゃあ、ファミレスで」
ファミレスで注文を取ると、愛莉に聞く。
「そんなに僕の稼ぎだけじゃ不安?」
愛莉は首を振る。
「心配しなくても私が管理してますから。ただ最初の月でしょ?出来るだけ控えて。翌月から参考にしていこうと思って」
僕の生命保険の費用とかも考えないといけないしと愛莉は言う。
「でも、それなら貯えは……」
「それは将来の貯えにしたいの。子供の教育費とかもかかるし」
家計の問題は愛莉に任せておいて問題ないらしい。
「わかった。愛莉に任せるよ」
「はい。任されました」
ご飯を食べると家に帰って先にお風呂に入って。と言うので先に入る。
その後愛莉が入ると愛莉は洗濯を始める。
洗濯機が回ってる間に寝室で愛莉は家計簿をつけている。
「どんな感じ?」
「飲み会があったけど、冬夜さんいつもまっすぐ帰ってきてくれるし。順調ですね」
このままなら貯蓄も出来そうだと、愛莉は言う。
洗濯が終ると愛莉はアイロン掛けをして洗濯物をしまう。
それらが全部終わると愛莉の今日の一日は終わり。
冷蔵庫から酎ハイを持ってきて飲む。
お酒が入ってるからかな?
最近愛莉から構ってと言う事が少ない。
でも今の愛莉は身体を僕に預けてくる。
まだまだ愛莉も構って欲しいお年頃なのかな?
愛莉の肩を抱いてやる、愛莉は僕の顔をじっと見ている。
「いいの?」と語りかけるように。
「そろそろベッドに入ろうか?」
「はい」
ベッドの中で話す。
「愛莉はもう僕のお嫁さんのつもりでいてくれるんだろ?」
「ええ、そうですよ」
「だから僕も愛莉の亭主としてふるまうよ」
愛莉は首を傾げる。
「愛莉の要求くらいは受け止める、愛莉の我儘や不満もちゃんとうけとめてあげる。だから我慢しないでいつでも言って」
「私今幸せですよ。冬夜さんは理想の旦那さまでいてくれるから。これ以上の我儘なんて罰があたります」
「でも現にさっき愛莉言いたくても言えなかったんだろ?そのくらい僕にもわかるよ」
「……本当に私は幸せ者ですね」
愛莉は僕に抱きつく。
そんな愛莉を抱きしめてやる。
今日もいつもと変わらない幸せな夜を過ごした。
(2)
「葵」
「翠」
二人が互いの顔を見ている。
「何かあったの?」
僕は聞いていた。
「つけられてます」
二人は静かに言った。
「どうしましょう?家までつけられるとやっかいです」
運転してる葵さんが言う。
「撒けそうですか?」
「やってみます」
車は進路を変える。
尾行していた車は真っ直ぐ向かった。
撒けた?
葵さんは首を振る。
既に家を突き止めていて待ち伏せの可能性があるという。
「どうしよう?」
有栖が不安そうにしている。
どうもこうもない、家に帰るしかない。
「帰りましょう」
僕はそう判断した。
家のアパートに行くとちょっと小太りの眼鏡をかけた男が待っていた。
手には刃物を持っている。
「お前がALICEちゃんを騙してる悪いマネージャーか」
随分と曲解してるようだけど誤解を解く必要も時間もない。
有栖の前に立つ。
「お前をやっつけて僕がALICEちゃんと一緒になるんだ」
ナイフを突き出して突進してくる。
ナイフを持つ手を掴むと男の体はくるりと一回転して通路に倒れる。
騒ぎを聞いて駆け付けた葵さんと翠さんが男を捕まえる。
僕はその場で警察に通報する。
男は駆け付けた警官に連行され僕達は事情聴取を受けた。
このままじゃまずい。
事情聴取を受けながら僕は違う事を考えていた。
有栖の事情聴取が終わると僕達は有栖の家に帰りついた。
葵さんと翠さんを見送ると有栖に「今日は泊っていきます」と言う。
「そうしてくれると嬉しいけど、家はいいの?」
「有栖の身の危険と比べるまでも無いよ」
そう言いながら、恵美さんのスマホに電話していた。
「もしもし秋吉ですけど、実は有栖が……。はい、それでセキュリティのしっかりた2LDKの部屋を借りて欲しいんですが……ありがとうございます」
何か言いたそうな有栖だったけど、今はおいといて実家に電話する。
「もしもし圭太です。父さんに繋いで」
「どうした?」
「お父さん、前の約束白紙にして欲しい」
その言葉に父さんは言葉を失ったようだ。
有栖も泣きそうな顔をしている。
「お前はもっと一途だと思っていたが、もう飽きたか。この根性なしめ」
「勘違いしないでください。僕が白紙にして欲しいと言ったのは同棲は許さないと言った点です」
「なんだと?」
「有栖の身の危険がかかっている。有栖と一緒にくらします。今すぐ有栖と結婚します。学業はおろそかにしません」
「お前に女性一人養うだけの力があるのか?」
「生活費の仕送りとかはいりません。学費も払えないというなら大学を辞めます。出来るだけ有栖のそばにいてやりたい」
「……大学くらいはでておきなさい。それだけは譲れん。学費はこっちで払う」
「ありがとうございます」
「頼りない所があったが、彼女の存在がお前を変えたんだな。わかった」
「じゃあ、また後日伺います」
そう言って電話を切った。
有栖を見る、有栖は今にも泣きそうな顔をしている。
それがうれし泣きなのか悔し涙なのかわからないけど。
「と、言うわけで明日のライブが始まる前に指輪を買いに行きたいんだけど受け取ってくれませんか?」
「指輪なんていらない!」
そう言って有栖は僕に縋りつく。
「私みたいな女でいいの?圭介にはもっと相応しいしっかりした人が……」
「今の僕には有栖以外に素敵な女性なんて思い当たらない」
「圭介……ありがとう」
意外な形でのプロポーズだったけど、しっかりと伝える事が出来た。
事務所にも報告して週明けにでも発表することになった。
来週は忙しい一週間になりそうだ。
(3)
「ただいま~」
部屋の明りはついてる、時計は2時を回っていた。
疲れ切った体になんの癒しもなくただ、瑛大の笑い声が聞こえてくる。
どうせゲームでもやっているのだろう?
私が帰ってきたことに気づきもしない。
私が着替えを用意してシャワーを浴びてビールでも飲んで寝ようと思った時にようやく気付いたようだ。
しかしそれは私の労働を労う言葉ではなく……。
「あ、亜依?帰ってきてたんだ。遅かったね。俺にもビール」
もっと言う事があるんじゃないのか?
そんな考えを押し殺して「あんまり飲み過ぎるなよ」と缶ビールを渡す。
「サンキュー」
疲れ切った私に気づくことは無い。
なぜなら瑛大はずっとモニターを見ていたのだから。
ビールを飲み、買ってきたコンビニ飯を食べる前にやることがある。
テーブルのごみを片付け、綺麗に拭く。
そして、一人コンビニ飯を食べビールを飲んで。ベッドに横になる。
疲れ切っていたので、瑛大の五月蠅い騒音など気にもせず眠りにつく。
ほんの僅かの休息。
朝6時には起きて準備をしなければならない。
瑛大の朝ごはんと自分と瑛大の弁当を作って準備して出勤する。
宿直室を除くと穂乃果が眠っていた。
「穂乃果、朝だよ」
「え?あ、ごめん、いつのまにか寝てたわ」
「もうじき勤務引継ぎ……」
「亜依大丈夫!?準夜勤から日勤なんて無茶だって!」
「まあ、仕事だし仕方ないわ」
「ちょっと中島さん!なにやってるの!?もう朝の配膳はじまってるのよ!」
鈴木さんがきた。
看護師の間では「般若」と呼ばれている。准看護師の癖に看護師長よりもえらそうな態度。内科科長とできてるとか?
「すいません、今から準備します!」
「もうとっくに終わってるわよ!長浜さんといい。仕事一週間目でだらしがないんじゃない!?」
長浜さんというのは同期の看護師でとにかくおっとりしてる。緊張感が無くミスが多いけど致命的なミスはない。般若のいい的になってる。
「まあまあ、まだ交代制に体が慣れないのよ。仕方ないわ」
そう言って般若を宥めるのが看護師長の早乙女さん。みんなからは「菩薩」といわれてる程慕われてる。しかしその物腰の柔らかさが般若をつけあがらせている。
「早乙女さんがそんなんだから!若いのがだらしがないんです!」
たちまち立場が逆転する。
ちなみに般若はそんなに仕事が出来るわけじゃない、准看護師なので指示なく注射も打てない。というか打ってるところを誰も見たことが無いという。
そんな言い合いが10分ほど続いて私達は解放される。
そして、準備が遅れて引継ぎが遅れてさらに怒られる。
こんな毎日が続いて私達のストレスも頂点に達していた。
「じゃ、亜依、私帰るから頑張って」
「ごゆっくり~」
ゆっくりできないのは私が知ってる。
彼女も来月引っ越す。
仕事始まる前に引っ越しとけばよかったとぼやいている。
ただでさえ、5月に2人そろって連休をとるから「新人の癖に生意気」と陰口をたたかれている。
だから引っ越すのも細かいものは自分で運んでいるらしい。祝日の日は深夜勤にして日中をあけてるらしい。本気で死ぬぞと言ったがしょうがないと穂乃果が言う。
どんなにストレスをためてもそれを患者にぶつけるわけにもいかない。
そんな立場を利用してセクハラを重ねる患者も数少なくない。
学生時代にどれだけ甘い生活をしていたか身に染みる。そしていまだに学生という立場に甘えている主人に苛立ちを覚えていた。
(4)
「では、そういうことで」
「よろしくお願いします」
今一つの商談がまとまったところ。
社長業務とはいえ、日曜に出ないといけないとは思ってもみなかったよ。
僕の言葉一つで数億円規模でお金が動いてると知るとそりゃもう胃が痛くて。
今日も大量の書類にサインをする仕事。
あまりにも粗雑で話にならない稟議書とかは重役が目を通す段階で跳ね除けられる。
「社長、このあと会食の時間になってます」
僕のスケジュールを完全に管理しているのは秘書の佐瀬茉莉さん。敏腕の秘書だ。
基本的に僕が経営する酒井コーポレーションは晶ちゃんの子会社からヘッドハンティングしてきたかなりのキャリアを重ねてきた歴戦の猛者たち。
ぶっちゃけていうと僕が学生生活を満喫している間も彼等だけで運営してたんだから、僕要らないんじゃないと思ったけど。僕の代行をしていた専務があっさりと僕の両肩に重荷を預けてくれた。
仕事に文句を言ってもしょうがないので必死に仕事をこなしている。
といっても会食に赴いたり客先と商談したり決裁書に判を押したりそんな仕事が主。
細かい事はみんな部下がやってくれる。皆僕より年上なんだけどね。
会食や商談には専務や秘書がついて回る。僕がみたいな若輩者が社長ですと言うと舐められるしね。
移動中も休むことは出来ない。
「この後の会議で使う資料です。目を通しておいてください。分からないこところは私が説明します」
こんな感じで、容赦なく仕事はやってくる。
それにしてもこの会社貿易会社とは聞いたけど、本当に色々手を出してるな。
小麦粉から大企業の株式まで、国内外問わず扱っている。
最近では電力事業からゲームソフトの開発まで取り扱ってるよ。
そして小麦粉の中に大量の銃火器が紛れ込んでる事は暗黙の了解。
晶ちゃんは僕を今度は死の商人にするつもりかい?
驚いたのは呉にある戦艦等が福利厚生にあてられてること。
誰がミサイル原潜に乗ってバカンスに行くんだい?
もちろん他にもカモフラージュはしている。関連企業の志水セキュリティサービス、優しく言うと警備会社中味は単なる傭兵派遣会社への供給なども担ってる。
携帯ゲーム機から本物のイージス艦までなんでもござれの会社。
摘発されないのが不思議なくらいだよ。
そんな考えるだけ無駄な事を考えているうちに取引先の会社に着く。
名刺交換から始まって交渉は始まる。
用件は手短に交渉は粘り強く。
最初は「仕事は順調ですか?」といった明るい話題も「それではあまりに不公平だ」と怒り出す客先。
しかし、部下は冷淡で「それではこの交渉は無かったことに。行きましょう社長」と言う佐瀬さん。
うちの企業はどこまで強いんだろうか?
徹底的に冷徹にそして強引に交渉事を続けていく。
そんなことでは敵を作るだけじゃないのかい?
そんな事を聞いていた。
「敵とみなしたら潰すまでですわ。社長」
にっこり笑って出る言葉じゃないよ佐瀬さん。
今日のあいさつ回りも終わって帰ると机には書類が山積みになっている。
それをさっととって分別をする佐瀬さん。
半分以下に減った書類を僕に手渡す。
「一応目を通して押印をお願いします」
パッと見るだけでうんざりするような細かい文章が書かれた書類が山積みになっている。
「残りの書類はどうするんだい?」
「少々問題があるようなので責任者に問いただしてきます」
そう言って佐瀬さんは社長室を出ていく。
僕はその間に書類に目を通していく。
電話はなるけど社長室の前に受付嬢がいてその人が対応する。
だいたいは他の専門部署に回されるんだけどごく一部の人間だけ僕に通される。
そしてその一部の人間が面会に来た。
「社長、奥様が面会に来てます」
「通してあげて」
「かしこまりました」
内線を通して連絡すると晶ちゃんがやってきた。
「今日はどうしたんだい?」
「休日くらい相手してくれないの?」
「生憎と見ての通り書類とにらめっこでね、相手してあげたいのは山々なんだけど……」
すると晶ちゃんは書類を僕から取り上げると部屋に置いてあるシュレッダーにかけだした。
ちょっと何やってんの!?
そして、おもむろに佐瀬さんに電話で叱りつける。
「社長に休日出勤させるような無能の書類など見るに値しないわ。違う?」
「奥様の仰る通りです。大変もうしわけありません」
「社長は今日は疲れたから早退する。問題ないわね」
「後はこちらで対応します。問題ありません」
晶ちゃんは電話を切ると僕を見てにこりと笑う。
「この時間からだと精々映画を見て夕食を食べるくらいかしら」
「そ、そうだね」
晶ちゃんの「映画を見に行きたいから」という理由で破綻した企業が数件あることを後から知った、
そのうち僕刺されるんじゃないかい?
(5)
う~ん。
冬夜さんは甘えたいときは甘えても良いといってくれた。
でも気持ちよさそうに寝ている冬夜さんを見るとやっぱり寝せておいてあげたい。
折角の休日なんだし。
うん、寝せていてあげよう。
でもひょっとしたら起きてくれるかもしれない。
寝室のテレビにセットしたゲーム機はBlu-rayがみれるらしい。
淡い期待を込めて寝室で昨日借りたのを見ていた。
冬夜さんが好きなのはアメコミを実写映画にした作品。
CGが凄くて迫力がある。
近未来って感じがして凄い。
30分くらいすると旦那様がお目覚めになった。
「愛莉何してるの?」
「昨日借りたBlu-ray観てます」
「……今何時!?」
「まだ9時ですよ」
「どうして起こしてくれなかったの?」
そう言って冬夜さんは私に抱きついてくる。
「だって冬夜さん気持ちよさそうに寝てたから」
「今日は愛莉もお休みの日だって言ったよ?」
「主婦にお休みは無いとききました」
「朝ごはんも作ってあるの?」
「トースト焼くだけです」
「じゃ、それ食べてくる」
冬夜さんはそう言ってキッチンに行く。
私もBlu-rayを止めてキッチンに慌てていく。
「冬夜さんは椅子に座って待ってて下さい」
そう言って私は冬夜さんの朝食の支度をする。
冬夜さんはそれを食べながら悩んでる。
どうしたんだろう?
冬夜さんが食べ終えると私が食器を片付ける。
「愛莉は映画見ておいて。後は自分でするから」
「これは私の仕事だからいけません」
「愛莉だけ働かせて僕がだめ亭主みたいだ」
そうか、冬夜さんはそう思うんだ。
冬夜さんを悩ませるのはよくないよね。折角の休日だし。
「じゃあ、あとで二つお願いしてもいいですか?」
「二つ?」
私はうなずいた。
「まずは着替えて出かける仕度して」
冬夜さんは着替えに寝室に行った。
着替えはちゃんと洗濯機に入れてくれた。
それだけで嬉しいのに。
私も着替えて準備する。
「じゃ、行きましょうか?」
「行くってどこに?」
「洗車です」
「洗車?」
「はい、最近してなかったでしょ?」
冬夜さんと洗車に行った。
外も中も綺麗に洗車する。
ピカピカになった。
「この後どうするの?」
「家に帰りましょう。さっきの続き気になるし」
家に帰るとまずは昼食。
食べ終えると片づけてリビングの大きなテレビで観る。
2本くらい見るとちょうどいい時間になる。
「じゃあ、もう一個のお願いいますね」
「ああ、どうした?」
「買い物に連れて行ってください」
「……わかった」
スーパーまで行くと買い物を始める。
「冬夜さん、今日は何がいいですか?」
「煮物」
え?
「かぼちゃの煮物が食べたい」
「わかりました」
私は材料を買ってついでにお酒が切れてたからそれも買ってレジに並ぶ。
荷物は冬夜さんが持ってくれた。
家に帰ると冬夜さんはリビングでテレビを見てる。
私は早速調理にかかる。
出来上がる頃冬夜さんを呼ぶ。
反応が無い。
どうしたんだろう?
そうッと冬夜さんを覗く。
くすっ
余程退屈だったんだろう。
すやすやと寝ていた。
可哀そうだけど、今回は起きてもらわなきゃ。
私は冬夜さんの体を揺すって起こす
「ごはんできましたよ」
冬夜さんはすぐ起きて「ごめんつい」と謝る。
大丈夫だよ。
「ご飯冷めちゃうから早く食べましょう」
「美味しい!いや、最近食べてなかったからなんとなく食べたかったんだよね!」
「よかったです」
ご飯を食べ終わると、片づけをして冬夜さんがお風呂に入るのを寝室で家計簿をつけながら待つ。
「でたよ、愛莉もはいりなよ」
「はい」
お風呂に入ると洗濯機を回す。
その間寝室でテレビを見てゆっくり過ごす。
乾燥が終るとアイロンをかけてしまう作業。
冬夜さんは寝室でテレビを見てる。
私は作業が終わると冷蔵庫からお酒をとってきて冬夜さんに渡す。
「ありがとう」
テレビは洋画をやっていた。
冬夜さんはあまり吹き替え版は好きじゃないらしい。
ネットで調べたんだけど翻訳した人によってはかなり間違った翻訳をしてるんだそうだ。
洋画が終るころ……
「愛莉、愛莉起きて!」
私は冬夜さんの膝の上で寝ていた。
気が付いたらすぐに起きる。
「ごめんなさい、つい……」
「愛莉も疲れてたんだろ?お疲れさん。今日はもうゆっくり休もう?」
「はい……」
ベッドに入る。
冬夜さん怒ってないかな?
「冬夜さん……」
「どうした?」
冬夜さんがこっちを向く。
「怒ってますか?さっき眠っていた事……」
冬夜さんは抱きしめてくれる。
「言ったろ?お疲れ様って。休日に疲れて寝ちゃうまで働かせて申し訳ないとは思うけど怒ったりは無いよ」
よかった。
でもね、そんな気遣いだけで嬉しいの。もっと喜んで欲しくて頑張っちゃうの。
冬夜さんだって疲れてるのに私の事ちゃんと気にかけてくれるのが嬉しいの。
「それじゃ、寝よっか?」
「はい」
冬夜さんは眠りながらもしっかりと私を包んでくれる。
私もそんな冬夜さんに答えながら、とても温かな休日を過ごした。
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