優等生と劣等生

和希

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LASTSEASON

春に舞う風

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(1)

「冬夜さん、朝ですよ。今日から出勤ですよ」

愛莉に優しく起こされる。
愛莉は変わった。それは嬉しいけど、少し寂しい部分もある。
以前のように甘えてくることは無くなった。
そのかわり偶に細やかな願いを要求してくる。
そのくらいどうってことない。
以前よりも愛莉を大切にするようになった。
僕も愛莉に大切にされている。
花見の席で愛莉の考えを打ち明けられて以来変わった事。

「朝ごはん用意できてますよ。支度できたらいらしてくださいな」

仕度を済ませて、愛莉の朝ごはんを食べながら朝のニュース番組を見る。
ご飯を食べ終わるともう出勤の時間。

「はい、お弁当」
「ありがとう」
「夕飯なにかご希望ありますか?」
「天ぷらが食べたいかな」
「わかりました。お気をつけて。お仕事頑張ってくださいね」
「ありがとう、行ってくる」
「行ってらっしゃい」

愛莉に見送られ通勤する。
事務所に着くとロッカーに荷物を入れてバッグを机の下に置く。
PCを起動するとメールのチェックをする。
特に業務連絡はない。
定時になると朝礼が始まる。
今日の朝のスピーチは僕の番だ。
緊張しながらも一分間喋り続ける。
スピーチがあると業務連絡がある。
それが終ると達彦先輩から仕事を受け取る。
まだ研修期間の間は担当の顧客はおらず、達彦先輩の仕事を補佐する。
主に会計入力が主だ。
事務所内だけのメッセージソフトがあり、偶に笑わせてくれる。
事務所内での話題はバスケの話が多い。
贔屓のBリーグのチームがある。
地元のチームだったが愛媛に買収されたチームだ。
今年はどうだろう?
とはいえまだリーグが始まってないので選手の評判とかが主なのだが。
スポーツ全般に興味があるらしい。

「冬夜、多田誠の友達なんだって?」
「ええ、先週花見にいってきたばっかしですよ」
「今度サインもらってきてくれよ」
「時間があったら頼んでみます」

そんな話をチャットでしながら仕事を進める。
お昼になると達彦先輩や夏美さんとお弁当を食べる。

「そういや、冬夜。お前麻雀とかしないか?」
「いや、ルールすら知らないんですよ」
「それは好都合。今夜麻雀いかね?ルールなら教えてやるから」
「せっかくですが、すいません。彼女が待ってるから」

それに絶対カモる気だこの人。

「社会人なら、麻雀くらい覚えておくべきだって!」
「上原!自分が弱いからって新人いびるのやめろ!」

郡山先輩が言った。

「だっていつも三麻じゃつまらないすよ!社長入ると接待になっちゃうし。顧客との付き合いも必要でしょ?」
「そうだな、バスケで接待は厳しいな。……せめてゴルフくらいは覚えておいた方がいいかもな」

下田先輩が言った。
にぎりとかはやらないから心配するな。と一言付け足して。
ゴルフくらいは必要かもしれないな。
今度用具買うかな。
愛莉と相談だな。
そんな話をしているとお昼休みが終る。
午後の仕事も問題なく終わると。達彦先輩に渡す。

「OK。後チェックしとく。冬夜の仕事だから問題は無いと思うけど。お疲れ様」
「お先に失礼します。お疲れ様でした」

この時期は大体みんな定時で上がる。
月末になると忙しいらしい。
とはいえ作業の電子化が進んだために昔と比べると緩和されたらしいけど。
仕事が終わるとまっすぐ家に帰る。
家に帰ると愛莉が待っている。

「おかえりなさい」

温かい愛莉の言葉が待っている。

「ただいま」

愛莉に荷物を渡す。

「先にお風呂にしますか?」
「ごはん冷めたら悪いだろ?ご飯食べるよ」
「揚げたてを召し上がってもらいたいと思ってまだ揚げてないんです。お風呂の間に仕上げますから」
「じゃあ、先に風呂にするよ」
「はい」

お風呂に入ると、愛莉が天ぷらを揚げてる。
終わると配膳をする。
そして愛莉と酎ハイを開ける。

「お疲れ様でした」
「愛莉もおつかれ」

テレビを見ながら食事をしてると愛莉が「仕事はどうですか?もう慣れました?」と聞いてくる。
愛莉に説明する。
まだ試用期間だから会計入力だけしてる。今は、閑散期だけど来月は繁忙期に入るから残業あるかもしれない。残業と言っても21時には上がれるらしいからそんなに遅くならないよ。と伝える。
終始笑顔で聞いてる愛莉。あ、伝える事があった。

「今週末買い物がしたいんだけどいいかな?」
「何か欲しいものがあるのですか?」
「ゴルフ用具、接待に必要らしいから」
「必要経費だから仕方ありませんね……でも」

でも?

「冬夜さん、ゴルフもこなすし接待になるのですか?」
「下手に手加減とかしない方がいいらしいから」
「そうなんですね」

愛莉は笑ってる。

「今日は青い鳥行ったの?」
「ええ、家事もコツ覚えて午後が暇なので。ごめんなさい。冬夜さんが働いてる時に」
「僕だってずっと働いてるわけじゃない。休憩時間くらいある。愛莉も休んでいいよ」
「ありがとう。青い鳥で思い出しました。今日は大学の方で沢山渡辺班に入る人がいたみたいですよ」
「そうなんだ。どんな人?」
「私立大の子と、地元大の子。それに私立大で有栖の知り合いがはいったそうです」

初日からそんなに入ったのか?

「ご馳走様、美味しかったよ」
「お粗末様でした。そう言ってもらえると嬉しいです」

愛莉は片づけを終えるとお風呂に入る。
その間リビングでテレビを見ている。
愛莉が戻ってくると隣に座っている。
23時をすぎてドラマが終わった頃寝室に行く。
愛莉とベッドに入りテレビをつける。今日のニュースをチェックする。

「あまり夜更かしすると明日の朝に差し支えますよ」

愛莉にそう言われるとテレビを消して眠りにつく。
愛莉も疲れているらしくすぐに眠る。
あまり夜更かしして朝愛莉を困らせるのは可哀そうだな。
そう思って僕も瞼を閉じる。
接待ゴルフか、愛莉に構ってやる時間が減ってしまうな。
その分構える時間に存分にかまってやろう。
そんな事を考えながらいつの間にか寝ていた。

(2)

今日から前期がはじまる。
悠馬と授業を受けると昼休み学食で皆集まる。

「めぼしい情報ははいってこないわね」

私が言うと晴斗が反応した。

「渡辺班に相応しいのかはわかんないけどめぼしい奴なら聞いたっす」
「どんな奴なの?」
「もう本当にチャラい奴っす。すかしたいけ好かない野郎だって聞いたっす」
「それは面白いわね」

接触できるものなら接触してみたい。そう思った。

「そんなに人増やしてどうするんですか?これ以上は多いと思うんですけど」

北村さんが言う。
卒業生が引退したわけでもないし、これ以上増やすべきではないんじゃないか?
しかし渡辺先輩に任された身としては適した人材を増員する義務がある。

「そいつ学科は?」
「理工学部っていってたっす」
「わかった。私が接触してみる」

直接話してみた方が早い。

「そいつ梅本でしょ?渡辺班を探してるらしいから案外簡単にみつかるかもしれないな」

真鍋君が言った。
名前は梅本と言うらしい。
渡辺班を探してるなら好都合だわ。

「真鍋君に晴斗。そいつと接触出来たら連絡してちょうだい。青い鳥に来るように仕向けてくれると助かるわ」
「まさかそいつをいれるんですか!?」

真鍋君が聞いた。
私はうなずいた。

「だ、大丈夫なんでしょうか?」

伊織が聞く。

「そんなちょろい奴にどうこうされる渡辺班じゃない。返り討ちにしてやるわ」

私がそう言った。
そして午後の授業が終わり悠馬と歩いていると。標的は向こうからやって来た。

「君、可愛いね。どこかいいサークル知らない?渡辺班ってグループ探してるんだけど、君の入ってるサークルでもいいんだけど。どこかサークル入った?」
「あなた、まず名乗るくらいの事はしたらどうなの?」
「あ、ごめん。俺の名前は梅本永遠。永遠とかいてとわって読むんだ。君の名前は?」
「竹本咲。となりにいるのが主人の竹本悠馬」

私がそう言うと悠馬が軽く礼をした。

「結婚してたんだ。親許してくれたの?」
「もう成人してるから自分の相手くらい自分で決めるわ」
「うそっ!てっきり同い年かと思った。すっごい可愛いからさ。……ひょっとして噂の花山さん?」
「どんな噂か知らないけど多分あってる」
「もう結婚してるって噂になってるよ。じゃあ、咲さんも渡辺班のメンバー?良かったら入れもらえないかな?」
「いいわよ」

噂通りのちょろい奴。冬夜君がどう調理するか見ものだわ。

「で、活動って何すればいいの?」
「駅前の青い鳥って喫茶店でしゃべっていればいい。あとはたまにみんなで飲み会やってる」
「めっちゃ楽しそうなグループじゃん。入会条件とかあるの?」
「特にないわ。私が面接して相応しいと思ったら入れる。」
「咲ちゃんは俺を選んでくれたんだね。ありがとう」

梅本は私の両手を握り締める。悠馬はそれを見て苦笑いをする。

「じゃ、今日いくから青い鳥だね?」
「ええ、またあとで」

梅本は去っていった。悠馬が聞く。

「大丈夫なの?すっごい軽い奴に見えたけど。晴斗以上だ」
「だから決めたのよ。恵美先輩とか好きそうでしょ?続くかどうかはしらないけど」

面白そうだ。そう直感した。
あとは先輩の判断に委ねよう。
渡辺先輩にメッセージを送っていた。

「咲にまかせるよ」

渡辺先輩からすぐにメッセージか返ってきた。
自信はあった。
相手も探さないといけないな。
どんな相手がいいだろう?
だが、そんな事考えるまでもなかった。

(3)

「この女調子にのりやがって!」

そんな怒声が聞こえてきた。
ちょっとした騒ぎになってる。
騒ぎの中に紛れてみると男三人で女性一人を取り囲んでいる。
素行の悪そうなワル3人組だが、女性も劣らず素行の悪そうな女性だった。
金髪で右耳にピアスを3つ開けている。
デニムのミニスカートに緑のジャケットの下に赤いシャツを着ている。
青い帽子をかぶり白いスニーカーの女性は風船ガムを膨らませてて男性を見ている。
顔は綺麗めだが、男性が声をかけて口論になったらしい。

「正直に言っただけじゃねーか!女性が皆おまえらみたいなヤル事しか頭にない奴に股を開くと思うなよ!」

口説こうとして断られて逆切れしたってところだろうか?

「痛い目見ないとわからないみたいだな!」

一部の学科を例外として素行の悪い大学と有名だけど白昼堂々と光り物を出すのはどうかと思うんだけど。
ぼーっと見ているわけにはいかない。
私は女性と男の間に割って入る。

「事情はしらないけど、女性一人に大の男3人が凶器まで持ち出すのはどうかと思いますよ~」
「誰だお前?」
「通りすがりの一大学生です~。……お前ら程度の男に名乗る名前は持ってない」
「お前も一緒にやられてーか!?」

言いがかりをつけられた女性に下がってるように指示する。

「どいつもこいつも舐めやがって!」

男の一人が刃物を振り上げて襲い掛かる。
……素人が刃物を持っていても怖くない。
がら空きになった脇を蹴りつける。
腹を押さえる男の顎を続けて蹴り上げる。
男は仰向けに倒れた。
受け身の取り方も知らなかったらしい。
残った二人が怯む。
そんな男たちに一言言う。

「あなた達も同じ目に遭いたいですか~」

男たちは倒れた男を抱えて立ち去った。

「あんたには借りができたな。助かったよ。ありがとう。私の名前は桜木祥子。あんたは?」
「檜山咲良。だめですよ~あの手の男に馬鹿正直に対応したら」

そう言いながら私は、桜木祥子と言う名前を思い出していた。
今年入ってきた生意気と噂の子。

「何か礼をしたい。どこか良い店知らないか?」
「……車ありますか~?」
「ああ、あるけど」
「ちょっと遠いですけどいいですか~?」
「いいけど?」
「じゃあ、ちょっとお茶でもどうですか?良い店があるんです。青い鳥っていうんだけど?」
「青い鳥ってあの幸せを呼ぶグループの集まる店か?」

噂は私立大にも届いてるらしい。

「そうですよ。私もグループの一員です~」
「悪いけど私そう言うの。間に合ってるんだ。彼氏を作る気はないんだ」
「無理矢理カップリングさせるつもりはありませんよ~。ただグループに入っておくメリットはありますよ」
「メリット」
「さっきみたいなやつらに絡まれた時に断る口実が出来ます。基本的に何もしないグループだし~」
「そういうことなら入れてくれ。檜山さんみたいな人がいるグループなら安心だ~」
「咲良でいいです。スマホのID交換してもらえませんか?」

スマホのIDを交換するとまず咲に確認を取る。
咲から許可が下りるとグループに招待する。

「これだけでいいのか?」

桜木さんが聞いてきた。

「ええ、じゃあ。行きましょうか」

場所を説明すると私達は青い鳥に向かった。

(4)

「痛っ」
「あ、ごめんなさい」

廊下ですれ違った女性。綺麗な女性だった。

「ちょっとどこ見て歩いてるのよ!危ないでしょ!」
「ごめんなさい」
「鈍くさい男ね」

それが最初の出会いだった。
次に出会ったのは、学校の帰り。
男に絡まれていた

「美味しい店知ってるから一緒にディナーでもどう?サークルにも入ってないんでしょ?学生生活充実しないと。勉強ばかりが能じゃないよ」
「勉強が一番に決まってるでしょ。何しに学校にきてるの?」
「ひょっとして彼氏いたりする?」
「どうしてそうなるのか理解に苦しむんですけど。男なんて勉強の邪魔だわ」
「そんなことないって証明してあげるから。一回だけでいいから一緒に遊ぼうよ」

女性の腕を引っ張る男。

「痛いっ嫌だって言ってるでしょ!離して」

放っておけなかった。

「あの、彼女嫌がってるし止めてあげた方が……」

僕がそう言った。

「なんだこの冴えないやつ。君の知り合い?」
「あ!朝の鈍臭い男!」

酷い覚えられ方だな。

「知り合いなの?」
「知らないわよ、たまたま朝ぶつかって来ただけのどうでもいい男だわ!」

本当に酷い印象だ。

「と、いうわけだから邪魔しないでくれない?」

男が凄んでくる。怖い。
するとまた新たな介入者が現れた。

「そう言われも放っておけないのが男ってもんだよね。君の行為は称賛に値するよ」

その男はとても長身でスタイルも良くそして顔立ちも整っていた。

「まあ、そう言うわけで俺はこの二人に用件があるから今日のところはお引き取り願えないかな?」
「あんただれ?」
「西松啓介。渡辺班の一員ていえばわかってもらえるかな?」
「わ、渡辺班……けっ」

そう言うと男は立ち去って行った。

「ありがとうございました」

僕は西松さんに俺を言っていた。

「ありがとうございました。では私はこれで」

そう言って立ち去ろうとする女性。

「待ってくれないか?僕達は二人に用件があると言ったはずだけど」
「あなたにはあるかもしれませんが私にはありません」
「こいつは手厳しいな」

余裕の笑みを浮かべる西松さん。

「君は勉強以外に大学に価値はない。そう言ったね?」
「はい、あなたも私をナンパですか?」
「生憎と妻がいるんだ。ナンパなんてとんでもない」
「じゃあ、何の用があるんですか?」
「勉強以外することはないんだよね?」
「そうですけど?」
「じゃあ、僕と暇つぶしにゲームをしないか?」
「ゲーム?」

彼女は興味を示したようだ。

「本当に勉強以外にすることが無いのか?それを試してみないか?君の勉強の邪魔をするような真似はしない」
「……サークル勧誘ですか?」
「そんなところかな?」
「悪いけどそんなに暇じゃないんで」
「言ったろ?勉強の邪魔はしない。毎日活動に参加しろって言ってるんじゃないんだ。息抜きにイベントに参加してくれるだけでいい」
「……どのくらいの頻度ですか?」
「ご自由に?」
「わかりました、そのゲームとやらに参加しましょう。どうすればいいんですか?」
「まず君の名前は?」
「小鳥遊(たかなし)つばめ」
「では小鳥遊さん。今から言うところに来てくれないか」
「喫茶店?わかりました」

西松さんは僕を見て少し考えている。

「君の名前は?」
「月見里(やまなし)秋空(あきら)」
「じゃあ、月見里君もきてくれ」

僕にも場所を指示してもらった。
喫茶青い鳥。
そして僕達は西松さんの言う通り青い鳥に向かった。

(5)

「石原君、君の報告書完ぺきだったよ。そのまま上に通すから」
「はい」
「石原君、例の案件の分析まだ?」
「今日中には終わらせます」
「よろしくね」
「すごいわね、一週間で凄い成長ぶりよ」

砂原先輩が言った。

「ありがとうございます」
「来月のプレゼン楽しみにしてるわ」
「頑張ります」

そうかプレゼンの準備もしないとな。
パソコンにメールが届いた。
スマホだと仕事中に確認できないからPCメールで連絡してもらうように恵美に言ったんだった。
メールを開く。

「今日新人の面接やるから仕事終わったら。これない?」
「今日中に片づけたい仕事があるからその後でいいなら」
「わかった。終わったら連絡ちょうだい」

今日も忙しくなりそうだ。
仕事を片付けると、USEに向かう。

「お疲れ様です」

受付の人が言った。

「恵美は?」
「応接室にいます」
「ありがとう」

応接室に行くと有栖さんと知らない有栖さんと同じ年頃の二人組がいた。一人はショートヘアで茶髪の童顔の子、化粧はしてないようだ。もう一人はポニーテールの綺麗めの子。スリムで身長が高い。
あとやはり同じ年頃の男性が。お洒落で顔も整ってる。
恵美に事情を聞いてみた。
今度は芸人志願者らしいコンビでやりたいらしい。もう一人の男は偶然応募してきたマネージャー希望の子。

「で、オーディションはやったの?」

恵美に聞いてみた。

「筋はあるんだけど、養成所に通うかベテラン芸人に弟子入りすることをすすめたんだけど……」

どうしてもうちでデビューしたいというらしい。

「私からもお願いできませんか?二人とは幼馴染で」

有栖さんが言う。
僕達も事務所を立ち上げたばかりだ。
タレントは喉から手が出るほど欲しい。
お笑い担当の本田さんに聞いてみた。

「本当は修行させたいところなんですけどね」

飛び込みでは難しい世界だという。
しかし僕達も芸能界にいきなり飛び込んだ身。一から始めるという条件は一緒だ。

「3人の名前は?」

お笑い担当の二人はショートヘアの子が篠原美月、ポニーテールの子が吉野香澄。マネージャー志望の子は大原紀維。

「オーディションは問題なかったんだよね?」
「ええ、筋はあるわ、大器晩成って感じだけど」
「……恵美の考えてる通りでいいんじゃないかな?」
「いいの?」
「うん、3人揃って修行させよう」

3人に笑みがこぼれる。

「まずはALICEの前座に漫才をさせる。その間に紀維(きずな)君はショッピングモールの出し物とかでもいいから、とにかく仕事をとってくる練習。もちろん二人のマネージメントをしながら」
「はい!」
「よろしくお願いします」
「頑張ります!」
「ありがとうございます」

最後に有栖さんが頭を下げる。
有栖さんを見ていて閃いた。

「恵美、この二人渡辺班にどうかな?」
「え?」

恵美が聞きかえす。

「渡辺班の飲み会にこの二人を試してみるんだよ。渡辺班でウケれば自信もつくでしょ?」
「それは良い案ね。さっそく渡辺君に聞いてみるわ」

恵美がスマホを操作する。

「いいって!」
「じゃあ、二人を招待して」
「わかった」

恵美は二人を渡辺班に加入させる。
その後詳細を詰めて、3人は帰る。

「恵美あの二人でまた経営が……」
「大丈夫阿南と仲も少しずつだけど仕事請け負ってる。ALICEの売れ行きも凄いし赤字にはなってない」
「ならよかった」
「私達も帰りましょうか?望も疲れたでしょう」

時計は、22時を回っていた。
僕達は家に帰った。

「それにしても望は変わったわね」
「え?」
「仕事を始めてはっきりわかった。凄く頼りになる旦那様になってる」
「ありがとう。今日もファミレスにしようか?」
「そうね」

男は責任を持つと変わる。責任感を持つと生まれ変われる。
その事を実感していた。

(6)

「寄るな気持ち悪い!!」

桜木さんが叫び声がした。
私達も思わず振り返る。

「ごめんごめん、君みたいなかわいい子を見るとついね」
「気持ち悪いセリフ喋るな!」

桜木さんは梅本君に対して明らかに嫌悪感を示している。
そして西松君が連れて来た二人小鳥遊さんと月見里君も気まずい空気だ。

「西松先輩、これが暇つぶしになるのですか?」
「……いい見世物になってるだろ?」
「くだらない」

そう言う小鳥遊さん。
月見里君は何も喋らない。

「せめて、名前くらい教えてくれたって良いじゃない。俺は梅本……」
「あんたなんかに教える名前なんてない!」

私達はそんな4人のやり取りを見て微笑ましく思った。
晶なんかは特にそうだろう。
その証拠に晶の口角があがってる。

「ま、私達も自己紹介くらいしておこうかしら」

晶が言う。
皆自己紹介を始めた。

「随分と女性が多いグループなんですね?」
「みんな亭主が働いてるからね」

私が言うと梅本君は驚いていた。
そしてこういう。

「そんなグループで俺達が出逢ったのも何かの縁良かったら連絡先交換しない?」
「誰がお前なんかと!?」

梅本君は桜木さんに目をつけたようだ。
対して月見里君と小鳥遊さんは冷戦状態。
話しかけることすら許されないといった状態で月見里君は戸惑っている。
小鳥遊さんは我関せずと参考書を読んでいる。

「皆今日が初対面なんだし、仲良くしなよ」

私が言う。

「初対面が最悪の男なんてどういうグループなんですか?」

桜木さんが言う。

「それはこれからのお楽しみ」

私が答える。

「あ、私そろそろ夕飯の準備しなくちゃ」

遠坂先輩が帰ると主婦陣は皆帰る。

「あ、俺もそろそろバイトだ。じゃあね、祥子ちゃん」
「気安く名前で呼ぶな!」

梅木君が帰ると桜木さんが咲良に詰め寄る。

「これが先輩の言ってたメリットのあるグループなんですか!?まさかあの男が私の相手なんて言わないでしょうね?」
「俺達はそう言う押しつけがましいことはしない。自然とそうなるんだ」

西松君が言う。

「話にならない。私も帰る!」

桜木さんも帰っていった。

「私達もお暇しましょうか?月見里君?」
「え?あ……はい」

こうして残ったのは私と咲良と西松君だけ。

「あれでよかったのか?」

西松君が言う。

「大丈夫です~。4人とも文句言ってた割には誰一人抜けてない」
「片桐先輩も忙しい、俺達で考えていかないとな」
「そうだね……」

片桐先輩という魔法に頼らず私達だけでどうにかしないといけな。
でも私達に不安は無かった。
4人とも嫌ってる。でもそれは無関心じゃない。
少なからず今日の対面で分かった。
私達に奇跡という魔法がつかえたのなら、すでに効果は出てるんじゃないか?
そんな予感がした。

(7)

朝目を覚ます。
冬夜さんを起こさないようにそっとベッドを出ると朝食の支度にかかる。
同時にお弁当も作らないといけない。
冬夜さんは朝はパン食だからそんなに手間がかからない。
そのかわりお昼のお弁当はしっかり食べさせてあげないと。
冬夜さんが目を覚ます時間にあわせてトーストを焼き始めると、冬夜さんを起こしに行く。

「冬夜さん、朝ですよ。起きて」
「おはよう愛莉」

トーストが焼き上がるとジャム、バター、マーガリン。
好きなのを塗って食べる。
偶にスライスチーズをのせて焼いてあげると喜ぶ。
ニュースを見ながら冬夜さんは朝食を食べる。
朝食を食べ終わると冬夜さんにお弁当を渡して、お見送り。
その後食器を片付けて部屋にある冬夜さんの脱ぎ散らかした衣服を洗濯機に入れる。
洗濯機を回してる間に部屋のお掃除。
今日は天気がいい。
お布団も干しておこうかな?
ベランダにお布団を干すと、洗濯が終る。
アイロンをかけてたたんで収納して午前が終る。
寂しいときは冬夜さんにメッセージを送る。
すると電話がかかってくる。

「愛莉今何してる」
「お昼済ませたところです」
「今日もいつも通り帰れそうだから」
「はい」

冬夜さんもまだ入社して一週間ちょい。他の社員とも仲良くなっておきたいだろうから手短に済ませて電話を切る。
あなたの声が聴けるだけで嬉しいから。
お昼の片づけを済ませると布団を取り込み、ワイドショーを見る。
頃合いを見て買い物に出かける。
出かけたついでに青い鳥に寄る。
新しい人が4人も入って賑やかになった。
みんな個性的で楽しい人達。
そのやりとりが懐かしくて微笑ましい。
時間になると店を出る。
家に帰ると夕飯の支度。
しばらくすると冬夜さんが帰ってくる。

「おかえりなさい」

お疲れ様でした。

冬夜さんが会社であったことを話してくれる。
人間関係に問題はないようだ。
私も青い鳥であったことを話す。
「なるほどね~」と冬夜さんは聞いてくれる。
そんなのんびりした時間を過ごしながら夜を過ごして眠りにつく。
冬夜さんの腕の中で眠りにつく。
そうして一日が終わり、また新しい朝が訪れる。
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