知られざる太平洋戦争のドラマ

高石弘明

文字の大きさ
11 / 20

日本軍によるアメリカ本土攻撃とは

潜水艦による砲撃と空襲

 どれだけ日本がアメリカ兵器を破壊したとしても、本土の生産拠点が無事ならいくらでも修理と追加が可能となる。日本が勝つには、本土を攻撃して基地や工業地帯を破壊する必要があった。そのため、アメリカの本土攻撃は日本軍の悲願だった。
 そんな切実な理由とは裏腹に、距離や技術の問題により、日本軍による本格攻撃ができなかったのは歴史が証明している。しかし、日本がまったくアメリカ本土を攻撃できなかったわけではない。なぜなら日本は、開戦初頭に成功していたからだ。
 1942年2月、日本海軍は開戦時より計画していたアメリカ本土攻撃作戦を発動する。作戦内容は、アメリカ西海岸に展開中の潜水艦隊が製油所を砲撃するというもの。当時の潜水艦には砲戦用の小口径砲塔が搭載されていたので、基地攻撃も可能だったのだ。
 作戦には14センチ砲を1門搭載した「伊17」型潜水艦の使用が決まり、2月23日にカリフォルニアのエルウッド製油所への砲撃を実行。被害はポンプ小屋と橋が損傷した程度だったが、攻撃はこれだけで終わらず、同年6月にはオレゴン州のフォート・スティーブン陸軍基地へ「伊25」潜水艦が砲撃し守備隊を混乱におとしいれる。そして集大成として計画実施されたのが、アメリカへの空襲だった。
 本土空襲といっても、作戦内容はフロートを装着して水上でも離発着可能になった水上機の小規模攻撃だ。9月9日、伊25から発進した「零式小型水上偵察機」は、オレゴン州の森林地帯に小型焼夷弾を数発投下。29日にも同様の空爆を決行し、小規模の山火事を引き起こしたのである。

海軍の計画中止と陸軍の新兵器
 
 これらの砲撃と空爆は、被害こそほとんどあたえなかったが、本土を直接攻撃されたアメリカ国民の動揺は相当だったという。真珠湾攻撃に続いて、今度はアメリカ本土への攻撃だ。一部自治体は独自に防空壕を掘りはじめ、本土の米守備軍は2月24日早朝にロサンゼルスに現れた飛行体(陸軍の観測気球とされる)に過剰反応して対空砲火を実施した挙句、パニックで市民6人が死亡してしまった。ルーズベルト大統領ですら、アメリカ本土決戦を視野に入れて山岳地帯での防衛計画を軍に立てさせたほどである。
 潜水艦の攻撃は皮肉にも、その成功がアメリカの沿岸警備強化を招き、続行は不可能となる。それでも海軍は本土攻撃を諦めず、長距離爆撃機「富嶽(ふがく)」の開発で直接空襲を狙おうとしたこともある。だが「富嶽」の開発は技術や資源確保の問題でとん挫し、アメリカ攻撃を再度実行することは二度となかった。
 これに対し、陸軍は奇想天外な方法でのアメリカ攻撃を行っていた。それは爆弾をくくりつけた気球による空襲作戦である。
 現在、その存在はほとんどの国が認知しているものの、当時日本だけが把握していた自然現象がある。「偏西風」だ。太平洋上空を西に流れる偏西風に乗せて気球を飛ばし、アメリカ本土へ到着させようというのが日本陸軍のもくろみだった。
 作戦を実行するため、1944年に開発された新兵器が「ふ号兵器」。この兵器は気球に爆弾を搭載した空襲兵器で、丈夫な和紙をこんにゃく糊で貼り合わせることで高度を確保しつつ、重りを自動的に落として重量を調整する高度維持装置まで開発していた。まさに陸軍の技術を結集した最新兵器だった。

米国政府と国民にあたえたプレッシャー

 軍民一体の生産体制で量産されたふ号兵器は約1万個にもなり、それらは1944年11月から翌年春までにアメリカへと放たれた。気になるのは実際の戦果だが、詳しいことはわからない。陸軍は1945年2月にモンタナ州でふ号兵器らしき気球が発見されたことをつかみはしたが、以後の情報はまったく入らず、結局は戦果なしとされて空襲は中止されてしまった。戦後においても、確実な被害は木に引っかかったふ号兵器に触れたオレゴン州の女性教師と5人の児童が爆死しただけとされている。
 それでも、ふ号兵器はアメリカに少なからず警戒心を抱かせたことが確認されている。アメリカ軍が気球に生物化学兵器が搭載されていると考えたからだ。そのため被害については厳しい報道管制が敷かれ、そのせいで被害状況がわからなかったのだ。
 前述した民間人の殺傷以外でも、空襲によると思われる山火事が各地で発生したといい、デマの可能性が大きいが、マンハッタン計画の施設に着弾して電気系統の一部を破壊したともいわれている。そして空襲への警戒態勢は終戦まで解かれることはなく、それらしき気球が発見されて化学防護の部隊が出動することも稀にあったらしい。
 日本の攻撃は被害こそ軽微ではあったが、確実に米国民や政府にプレッシャーを与えた。アメリカ本土を混乱させたという点に限れば、日本のアメリカ本土攻撃にも効果があったといえなくはない。
感想 0

あなたにおすすめの小説

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?

無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。 どっちが稼げるのだろう? いろんな方の想いがあるのかと・・・。 2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。 あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?