VR事変 混淆する陰謀と策略

ミライ164

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テストプレイ

1日目

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 2050年、8月18日。今はまさに、夏休み真っ只中だった。窓を開ければ、蝉がうるさく鳴き、窓を閉めれば、部屋に熱気が溜まる。悪循環だ。地球温暖化が収まった今では、最高気温が28度。昔は、40度以上あったと聞く。想像するだけで恐ろしい。
 自己紹介を忘れてたな。俺の名前は『降流星ふるほし 映遊えいゆう』。この名前は気に入らないが、ゲームでは別の名前もあるし気にしてはいない。

 夏休みの宿題は、『ARSアルス』のテストプレイに参加すること。今となっては、全家庭、人数分のVR機『ブレインウェーブ』を持っている。『ARS』は、『ブレインウェーブ』に無料ダウンロードすることが出来ため、日本中のプレイヤーが、今か今かとテストプレイ開始を待ち望んでいる。

 俺は、昼も食べ終え、ブレインウェーブを装着して椅子に寄りかかり、ダイブを開始する。
 『ARS』は、午後1時からテストプレイが始まる。今の時間は、12時59分。テストプレイ期間は、1週間。ゲーム時間とリアルの時間はリンクしている。こうしている間にも時間は、刻一刻と迫ってくる。この頃にはもう、うるさかった蝉の鳴き声も聞こえなくなっていた。

 「ゲームスタート!」

 高らかに叫ぶが、意味はない。そういうノリなのだ。ちなみに、家族全員このゲームに参加している。
 『ARS』は、アルバントラスという、地球と同規模の世界である。5つの大陸に分かれており、それぞれ北西に『ノアウェスト』北東の『ノアシスト』南西に『サウウェスト』南東に『サウシスト』真ん中に『ミドル』がある。
 このゲームを開始した時、それぞれどの種になりたいか選択することが出来る。選択した種族によって、スタート地点、目的が変わってくる。ちなみに、人間はサウウェストスタートだ。

 俺は、純粋に人間族を選択した。他にも、エルフ、ヴァンパイア、猫族、狼族などの、亜人も存在している。しかし、俺はファンタジーにもリアリティを求めてしまう。魔法が使えなくても、種族は必ず人間にしてきた。

 「名前か.....。」

 名前を打ち込む場面になって、なんの名前にするか困ってしまう。今の社会では、本名を使うことが禁止されている。そこで、それぞれゲームの名前を持っているのだが、このゲームは規模がデカすぎる。もしかすると、リア友と会うかもしれない。俺は、ゲームの中では1人になりたい派だ。名前がバレているからには、同じものを使うわけにはいかない。
 絞りに絞り出した結果、

 「ミライっと。」

 ミライという名前には、『このゲームがより良いものになってほしい』という意味を込めた。この名前なら、友人にバレることはないだろう。
 人間族の目的は、魔獣討伐。そして、この世界に存在する魔王を倒すこと。至ってシンプルだ。魔王はサウシスト大陸に存在している。ちなみにこの世界の王は、プレイヤーではなくAIである。しかし、魔族はプレイヤーであり彼らの目的は魔王の保護。永遠に終わらないとは、逆に面白いのか?だが、テストプレイでここまでやり込めるのは流石としか言いようがない。
 
 俺は、『ガルバトラス』の宿屋『リーフ』で目覚めた。まずは、武器を仕入れないとな。お金は、始めから1000ガルト持っている。1ガルト、日本円で10円換算なので1万円持っているということになる。
 初期装備を揃えるのには、400ガルト必要なので残りの所持金は600ガルトになる。宿屋に泊まるには、一泊10ガルト必要なため最低でも60日間、2ヶ月はここに滞在できる。しかし、食料も必要なためそれ以上のお金が必要となる。
 この世界でお金を稼ぐ方法はただ一つ、クエストをクリアすることだ。早速俺は、ギルドへと足を運んだ。
 
 「ギルドを利用されるのは初めてですか?」

 これも、AIなのだろう。それにしては、仕草が自然としている。さすが、最新鋭の技術を使っているだけはある。

 「はい、登録をしにきたんですけど。」

 「登録ですね、では、こちらの水晶に手をかざしてください。適性属性が分かります。」

 恐る恐る、水晶に手を乗せる。水晶は冷たく、月白色に光り輝いた。

 「なるほど、無属性ですね。」

 無属性か。強化、付与に長けた魔法を扱える。つまり、剣主体の戦闘スタイルになるということだ。

 「登録が終わりました。こちらがギルドカードとなります。無くさないようにしてください。」

 「ありがとう。」

 なるほど、指紋認証機能も付いていたのか。ギルドカードは、通行書にもなるから、無くさないようにしないとな。
 もちろんここは、ゲームの世界。手で空中に、Σを描くと.....
 目線の先には、ステータス画面のようなものが出ていた。

 「これが、『アルバレコード』か。」

 『アルバレコード』とは、自分が使える魔法、レベル、ログアウト等が載っているステータス画面だ。
 今のレベルは、当然1。使用できる魔法は、『デシ・グレア』か。数分間だけ、強化できるというシンプルな魔法。対象は、自分だけだはなく、他人、武器、防具などにも付与できるのか。これなら、剣術を覚える必要がありそうだな。
 
 剣術というものは、魔法を使えないものでも扱うことのできる、共通のものだ。それぞれの王国ごとに流派が分かれており、この世界には数十個も存在している。ここ、ガルバトラス王国では、『ガルト流』の剣術を習得できる。
 『ガルト流』はこのギルドでも、習えるようだ。

 「剣術を習いたいのですが。」

 「剣術ですね、ではこちらにお越しください。」

 教えてくれる人も、AIなのだろう。俺は、受付嬢について行くと少し広けた、空き地のような場所に出た。周りには、的やダミー人形など、訓練に必要なものが置いてあった。
 そんなことを思っていると、目の前から図体のでかい男が歩いてきた。

 「お前が、今日の生徒か?」

 「はい、よろしくお願いします。」

 「そうか、俺の名前は『ガーバル』では、早速手本を見せよう。今日出来るようになってもらう技は、これだ。」

 そう言うと、剣を鞘から抜き、右肩に鍔を当てた。そこから、前に一歩踏み出しおもいっきり振り下ろす。目の前に置いてあった木は、真っ二つに分かれ、薪として扱いやすいサイズになった。

 「この剣術の名前は、『ガルト流剣術 スライト』だ。この剣術は、真上から相手を斬るものだ。図体のでかい敵には有利だが、素早い奴には遅れをとる。そこでもう一つの剣術。」

 そう言って、もう一度剣を鞘から抜き、スライトの構えをとる。そして、思いっきり振り下ろすが、途中で上に切り返す。

 「この剣術の名は、『ガルト流剣術 スワロー』だ。一撃目を避けた相手を、下から切り崩す剣術だ。」

 「ん?それって、素早い相手には通用しないんじゃ・・・。」

 「ん?そうか.....、すまん。最近は、あまり剣を振れていなくてな。そうか、もうあれから10年か.....はやいな。」
 
 10年前?このゲームは、今日から始まったから、介入不可能イベントか。この先物語を作る上で、必要な布石なのだろう。
 俺は、楽しみは取っておきたいので、これについては聞かないことにした。

 「あの~、素早い相手に通じる剣術ってなんですか?」

 俺は、その場に黙り込んでいるガーバルに、話しかけた。

 「おっ、思い出した。こっちだこっち。」

 そういうと、今度は剣身を地面と平行にして持ち、体を捻る。そこから今度は、真横に斬り込んだ。今度は的が、上下に分かれた。

 「これが、『ガルト流剣術 スライト・ネックス』だ。自分の間合いに入ってきた相手を、斬る剣術だ。」

 なるほど、確かにこれなら間合いに入った相手を、確実に斬ることが出来る。でも結局、それ以外の方向から攻められれば、ジ・エンドだ。

 「なんだ、その顔は。はぁ、仕方ない。こいつも教えてやる。他のやつには、内緒だぞ。」

 内緒なんて言葉、AIが使うものなのか?もしそうだとしたら、ゲームはここまで進化したのか。流石だな。
 そうこうしているうちに、ガーバルはもう一度スライト・ネックスの、構えをとる。そして、同じように真横に斬り込んだ。が、剣を体の左側にくる前に逆の方向に振り直した。遠心力によって、全方位に剣撃が迸る。
 この世界では、術を使う際武器がある1色に発光する。光によって属性は変わる。ガルト流剣術は、火属性のようだ。この光は、剣撃に乗ってその先に飛んでいく。今、ガーバルが放った剣術は、全方位にこの炎が飛んでいく。それにより、自分の間合いに入り込んできた相手を確実に仕留められる。
 ちなみに、スワローは1撃目では火の剣撃が発生しない。

 「これが、『ガルト流剣術奥義 スライト・エヴィドラネックス』だ。遠距離の相手には通じないが、それ以外の相手には必ず通じる。そして、剣術を繋げる追撃コンボを鍛えるのも、確実に相手を仕留める方法だ。」

 なるほど。ガルト流剣術は全て、スライトを変化させているのか。
 そして、追撃コンボ。ゲームシステム上、最大で5個まで繋げることが出来る。ちなみに、スライト・エヴィドラネックスは、スライト・ネックスとの追撃コンボ判定になる。しかし、スワローは、スライトとの追撃コンボ判定には、ならない。

 ガルト流剣術の基本追撃コンボとして『スライト→スライト・ネックス→スライト・エヴィドラネックス→スワロー→スライト』と、いうものがある。それぞれの流派によって、基本追撃コンボが設定されている。

 テストプレイが始まって、1時間が経っただろうか。俺は、ガルト流剣術を習得した。しかし、ゲームなのにも関わらず、疲労感が半端ない。ここまで再現されているとは・・・いやはや、流石としか言いようがない。
 さらに、剣術は流派を理解したなら、そこから進化させることもできる。次は、これをしてみようと思う。

 ガルト流は、スライトを変化させているので、スライトを元にして考えていく。ガルト流には、上から斬り崩す剣術と、真横に切り崩す剣術があった。つまり、まだ下から切り崩す剣術はない。(スワローは、2撃の剣術だから、1撃の剣術はまだない)スライトの応用で、上から振り下ろす力を下から振り上げる力に変える。そうするためには、構えを考える必要がある。スライト・ネックスの構えを取り、前進すると同時に剣を下から楕円を描くようにして、振り上げる。火の斬撃が剣撃に沿って前に飛んでいく。
 できた!これなら新しい剣術と言えるだろう。名前は.....『ガルト流剣術 スライト・スウィンガー』にしよう。

 新しく作った剣術は、名前を登録した時点で正式に剣術として認められる。そうなった場合、剣術を習う際新しく増えた剣術も覚えられる。また、剣術が登録された時点で、それに似た剣術は作れなくなる。一種の対策なのだろうか。まぁ、先に作ってしまえば、問題はない。さて、剣術を作ったことだし、早速試してみるか!

 俺は、空き地を出てギルドに戻る。ちなみに、ガーバルは講習を終えると、そそくさとギルドに、戻っていった。
 ギルドに入り、木栓板コルクボードに貼ってある、依頼書から自分が受けられるものを探す。自分にランクは、まだF。つまり、一つ上の、Eまでしか受けることが出来ない。
 おっ、これなんかどうだ?

 俺は『ランクE 緑狼グリーンウルフ討伐』と書かれた依頼書を、受付嬢に提出した。
 
 「はい、受理しました。お気をつけて、あっ、それと武器はお持ちですか?」

 「あっ、」
 
 しまった、この剣は、キルドのものであって俺のじゃない。この石剣は、かなり硬質なものだけど、これを受注するとなるといくらかかるのだろうか。初期装備の中に、剣はなかった。剣は、別口か~。

 「そう言うことなら、腕の利く職人がいる鍛冶屋を紹介しますよ。」

 「良いんですか!」
 
 「はい、なんと言っても、ギルド初の登録者ですから。」

 ギルド初の、登録者!?初期装備を揃えていた時間を差し引いても、一番だったのか?それとも、開始したのが早くて、ログイン数が少ないのだろうか。いや、人間族を選ぶ人が少なく、ここで始まった人が少なかったのだろうか。まぁ、今更考えても仕方ないな。
 
 「是非、お願いします。」

 受付嬢から、道を教えてもらった俺は、ガルバトラス王国を散策しつつ目的地に向かっていた。
 周りにいるのは、全員プレーヤーか?まぁ、そろそろ2時30分だし、ログイン数も増えてくるか。
 そんなことを思いつつも、気づけば目的地の目の前に立っていた。

 「ここか。」

 看板には、『鋼硬ブラックスミット』と書かれている。ここが、紹介された腕利きのいる鍛冶屋か。一体どんな人なんだろう。いや、どんなAI・・・か。
 俺は、鍛冶屋の扉を開いた。カン、カン、と金属を打つ音。部屋一面に飾られた、防具の数々。部屋の奥からは、外界とは比べものにならないほどの熱気が伝わってくる。
 
 「あの~、すみません.....剣を、買いに来たんですが....。」

 .....、返事はない。いや、工房と思わしき場所から、コツ、コツ、と足音が近づいてくる。
 
 「誰だ?一体。この私に剣を打ってほしい奴は。」

 「なっ.....。」

 女性!?まぁ、AIだから容姿はどうあれ、結局変わらないのか。とりあえず、剣を頼んでみるか。

 「あっ、あの~。剣を、打ってほしいんですが.....。」

 「.....、」

 女性AIは、俺の体をじっくりと見回してから、工房に戻っていった。

 「あっ、あの.....何ですか。」

 「そこで待ってな。今、お前にあった剣を作ってやる。」

 え、一体何だったんだ?まさか、体を見ただけで俺にあった刀身の剣を、見極めたと言うのか.....やっぱり凄いな。
 数分後、剣を作り終わったのか、奥から女性AIが現れた。

 「ほれ、これでどうだ。」

 「ここここ、これは.....。」

 刀身に使われている鋼は、光を反射し自らを写すだす。一から、心を込めて作っているのだろう。まぁ、AIだから完璧というだけかもしれないが。そんなことは、どうでもいい。

 「500ガルトだ。」

 「え?」

 「500ガルト、適正価格だ。」

 500ガルト、つまり日本円で5000円。まぁ、剣にしては安いのか?

 「わ、分かりました。こ、これでどうです?」

 俺は、500ガルトを女性AIに手渡した。

 「大丈夫、あと、私の名前はアドリカ。」

 「あっ、有難うございます。アドリカさん。」

 「頑張るのよ、新人。」

 俺は、鍛冶屋を飛び出すと、走って王国の城門を抜けた。緑狼グリーンウルフは、主にガルバトラス王国周辺の森に出没する。今回は、北門を抜けたすぐそこにある森に向かった。
 森の中は、木々が生い茂っているため、剣を振るには些か分が悪いが、身を隠すにはもってこいだ。俺は、緑狼グリーンウルフを誘い出し、平野で決着をつけようとした。

 「ほらほら、こっちだ。ついてこい!」

 よし、3匹ついてきている。依頼には、2匹と書かれていた。これなら、早めに達成できそうだな。

 「くらえ、これが『ガルト流剣術 5連追撃コンボ』だ!」

 俺の剣撃は、全て1匹の緑狼グリーンウルフに命中した。その緑狼グリーンウルフは、煙になって魔石を落とした。これで、一体目。もう一体も同じ方法で・・・。
 重い衝撃が、体を走る。よそ見した、不意をつかれた。くっ、これが実践。やっぱり、経験が足りない。もっとだ、もっと戦わないと。この体に、経験を叩き込むんだ。

 「はぁぁぁぁぁぁ!」

 俺は、スライトを放つ。そして、後ろへ退却した時にスライト・ネックスを放つ。緑狼グリーンウルフは、空中にいるため避けることはできない。2匹目。

 「お前で最後だぁぁぁぁ!」

 緑狼グリーンウルフが、俺の間合いに入った時にスライト・エヴィドラネックスを放つ。避けたとしても、突きで1撃。これで、終わり。

 「よし、依頼には2匹って書いてあったけど、3匹でもいいか。」

 俺は魔石を回収して、ギルドへと足を進めた。初めての依頼にしては、上出来だったんじゃないか。まぁ、腹部に少しだけ打撃をくらってしまったが、これぐらいなら大丈夫だろう。
 城門を抜け、ギルドへ急ぐ。ギルドにつくと、扉を思いっきり開けて、中へ飛び込む。

 「すみません、これを換金してください。」

 「え~と、緑狼グリーンウルフの魔石が3つと依頼達成なので、全部で70ガルトになります。」

 「は、はい。ありがとうございます。」

 依頼達成が、30ガルト。緑狼グリーンウルフの魔石1つにつき10ガルト。合計、70ガルトか。手持ちと合わせると、170ガルト。少しは期待したが、まぁランクが低いうちはこれくらいでも多い方だろう。コツコツ、頑張るか。
 それにしても、この剣は凄いな。刃こぼれすらしていない。流石は、AIが打った剣だ。

 テストプレイが開始してから、まだ2時間しか経っていない。つまり、1日経つにはあと、9時間もあると言うことだ。今日は、どこまでしようか。あと、少しだけ依頼を受けてから、今日は終えるとしよう。まだ、6日あるわけだしな。
 俺は、あと2つ依頼を受けることにした。手に取ったのは、ランクEの討伐依頼と、ランクFの採取依頼だ。まずは、採取依頼から取り掛かることにした。

 「え~と、この薬草はここら辺に生えているのか。」

 この薬草は、似ている雑草が多いためよく見る必要がある。まあ、茎に棘があるのが薬草の特徴だから、そこを見れば1発で分かるんだが・・・まず、その薬草が少なすぎる。流石に初日と言うだけあるな。全員スタートは、ランクFから。つまり、この依頼は誰しもが通る道。俺は、少し出遅れたか。まぁ、地道にやるか。
 結局、2時間もかかってしまった。10本見つけるのにこれだけか。しかも、これでたったの10ガルト。まぁ、ランクアップに必要なことだから、受けるしかないのだが。ただし、その間に赤狼レッドウルフの討伐依頼を達成できた。これで、今日に依頼は終わりだ。街に戻るとしよう。

 街に戻る途中、負傷した冒険者を発見した。

 「大丈夫か!今治療を.....、」

 「あっ、いいよいいよ。どうせ、死んだら治るし。」

 「えっ、デスペナルティはどうするだ?」

 「たった、1時間だろ、完全回復するまでには、必ずそれ以上の時間がかかる。だから、死んだ方が早いんだよ。お前も腹部、怪我してるだろ?完治するまでには、最低でも5時間はかかるぞ。」

 確かに、このゲームではあまりデスペナルティが重くない。だから、回復を待つより死んで全回した方が圧倒的に早い。だが、死ぬというのはそう簡単に出来ることではない。まぁ、テストプレイは7日間しかないからの判断なのかもしれないが。ただ、このぐらいならポーション飲んで、3時間程度で治る。ログアウトしておけば、その状態が放置されるため、勝手に回復してくれる。どうせ、風呂や食事の時間もあるから、その間にでも回復してくれるだろう。
 俺は、再度街への歩みを進めた。現在時刻は、3時30分だった。

 俺は、宿屋『リーフ』の1室を借りてゲームをログアウトした。現実世界では、日が少し傾き、陽光が俺を照らしていたが、まだ眩しくはなかった。
 家族は、まだゲームをやっている最中だ。まぁ、ゲーム内では空腹は回復するが現実ではしないから、どうせ料理を作るためにそろそろ起きてくるだろう。その間に買い出しにでも行くか。
 俺は、家を出て大通りに出た。

 「誰もいないな。」

 流石に、テストプレイ初日と言うこともあって、皆まだプレイを続けているんだろう。まぁ、その代わりに歩きはやすいんだが。
 俺は、近くのスーパーに寄って今日の夕食の材料を買う。

 「え~と、ジャガイモ、ニンジン、肉肉.....。」

 カレーか。カレーなら保存も効くし、こりゃあと3日は同じだな。俺は、レジに食材を置いてから、料金を支払う。

 「ありがとうございました。」

 現代のAIは、全て人間に管理されている。つまり、人工知能と銘打っている割に知能を持っていないのと等しいのだ。理由は簡単、AIに全てを許してしまうと何をしでかすか分からないからだ。だから、家庭用AIには必ず何かしらのロックがかかっている。内容としては、感情を学ばないようにすることなどが挙げられる。感情を持つと、それこそ人間に等しい存在になってしまうからだ。ただ、ゲームはそうはいかない。NPCと会話する上で、感情表現は必要になってくる。だから、ゲームの運営は全て人間がしているのだ。
 まぁ、俺には全く関係のない話だ。さて、そろそろ帰るとしますか。

 「ただいま。」

 「おかえり、兄ちゃん。」

 出迎えたのは、3歳下の妹。俺の年齢は、16歳だから中1ということになる。

 「ゲームは、終わったのか?」

 「いや、少し小腹を.....てっ、それは.....。」

 「これか?」

 俺は、レジ袋からどら焼きを取り出す。どら焼きは、妹の大好物だ。一応自分の分も買ってきてあるので、俺は躊躇なく渡す。てか、何で分かったんだ?

 「ほら。」

 どら焼きを妹の前に出すと、気づいた時には手の上からどら焼きが消えていた。

 「ふんふふ~ん。」
 
 スキップしながら、廊下を歩いていく妹の後ろ姿が見える。一瞬の間に、どら焼きをとってあそこまでいったのか.....さすが、どら焼き好きではあるな。
 とりあえず、俺はキッチンに買った食材を持っていった。本来なら、母さんが作るはずなんだが、まだゲームをしているし、起こすのも良くはない。
 手を洗い、ルウ入っている箱の裏側を見ながら、手順通りにカレーを作る。煮込んでいる間は、少し休憩。俺は、テレビをつけソファーに腰掛ける。

 「やっぱり、『ARS』のテストプレイ開始の話題で持ちきりだな。ん?上位プレーヤー?」

 「“今回、ゲストとして『ARS』テストプレイ初日でランクCに到達した、『クルル』さんにお越しいただきました。”」

 「なっ、女性!?」

 まぁ『ARS』では、運動神経は関係ないし、女性でも可能性はあるのか。それにしても、ランクCか。ランクは『F→E→D→C→B→A』の順番で強さが示される。ランクを上げる方法は、指定された数以上依頼を達成する。指定された種類の依頼を1回以上達成する。ギルド員との対人戦で勝利する。この3つだ。ランクCになるには、100以上もの依頼を達成しないといけないし、ギルド員はもちろんAI。つまり、強さは相当なもの。テレビには、『ARS』アバターで出ていたので彼女は人間族ということになる。魔法に才でもあったのだろうか。まぁ、同じ目的を持つもの同士、強い仲間がいるのは心強いな。

 カレーを作っているのを思い出し、すぐに鍋を確認する。

 「うん、大丈夫かな。」

 現在時刻は、4時30分。完全回復までは、あと2時間かかる。少し、休憩するか。俺は、もう一度ソファーに腰掛け、今度は横になる。そのまま、眠りについた。

 「『強襲の巌窟』そこに、覚醒の手がかりがある。」

 は!?今のは?
 
 俺は、ソファーから跳ね起きた。夢の中で聞こえた声。『強襲の巌窟』?『ARS』の中にそんな依頼あったか?でも、覚醒の手がかりか.....。気になるな。
 現在時刻は、6時20分だった。後、10分。その前に、夕食と風呂を済ませるとしよう。

 「あら、起きたの?」
 
 「母さん。」

 俺は、ソファーから起き上がると、ダイニングチェアに腰掛ける。

 「カレー作ってくれて、ありがとね。」
 
 「いいよ。それと、父さんは?」

 「まだ熱中してる。私は、夕食を作らないといけないと思って降りてきたんだけど、意味なかったわね。」

 「俺先に食べてるから、戻っててもいいよ。」

 「そうするわ、ありがとうね。」

 母さんがリビングから出て行った後、俺はさらにご飯とカレールーを盛る。カレーを食べ、シャワーを浴びる。風呂から上がると、時刻は7時を過ぎていた。

 部屋に戻ると、もう一度ブレインウェーブを装着しようとしたが、何故か知らないが眠気が襲ってきたため、今日はここまでにした。
 布団に入り、目を瞑る。

 「レルバントラスへ行け。そこに、覚醒の手がかりがある。」

 レルバントラス?聞いたとないな。ガルバントラスと近いのだろうか.....。まぁ、そこで『強襲の巌窟』を受けることが出来るのだろう。だとしたら、寝るたびにヒントが聞けるのだろうか、それともこれは全て嘘なのだろうか。結局のところ、明日はそこを目指すのとランクを上げることを、目標に頑張るとしよう。
____________________________________________________

 「へ~、なかなかいい結果が出たじゃないか。」

 「はい、特に彼女なんか初日でランクCになっています。」

 「まぁ、『ARS』でランクなんてあまり意味をなさないのだが、初日でそこまでいくのは流石だな。」

 「ランクは、関係ないんですか?」

 「いや、関係はある。ただし、ランクよりレベルを上げるのを難しく作ったからね。」

 さて、初日はまずまずといったところか。『死に戻り』という裏技が開発されたのがいい結果と、いったところか。さて、後6日でどこまで行けるかな?プレーヤー諸君、楽しみにしているよ。
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