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テストプレイ

2日目

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 8月19日、テストプレイ2日目。今日は、レルバントラスを目指すのとランクアップをするために、必要最低限の依頼を達成することにした。
 ブレインウェーブを装着し、『ARS』を起動する。今日は、昨日ゲームを終了した宿屋『リーフ』で目覚めた。傷は、完璧に塞がっているようだ。
 まずは、ギルドに行って『強襲の巌窟』の依頼がないか探してみた。

 「ないな、そもそもランク何から受けられるか自体分かってないんだ。」
 
 一応、受付嬢に聞いてみたが、知らないの1つ返事。やはり、この街にはないのだろうか。とりあえずレルバントラスについて聞いてみた。

 「レルバントラスですね。あそこは、ここから北に進んでいけば行けると思います。」

 「分かりました、ありがとうございます。」

 「そういえば、クルルさんもその国にいた気がします。」

 クルルって、初日でランクCになったっていうプレーヤーか。まさか、もうゲームにその情報が刻まれているとは.....やっぱりやることが凄いな。俺もなれるかな、まぁ道は長いんだが.....。
 俺は早速ガルバントラスを飛び出して、北へ進んだ。

 30分後.....道中モンスターに襲われはしたが、どれも緑狼グリーンウルフ並だったので苦戦することはなかった。魔石を6個も手に入れたので、実質60ガルトといったところか。
 そうしているうちに、レルバントラスの城壁が見えてきた。

 「通行証を見せなさい。」

 城門の門番に、そう言われたので、ギルドカードを提出した。

 「ふむ.....分かった、入っていいぞ。」

 ギルドカードを返してもらってから、俺はレルバントラスへと足を進める。

 「え~と、ギルドはどこだ?」

 街路を歩きながら、ギルドを探す。それにしても、街の雰囲気はガルバントラスとはまるで違うな。こっちは洋風といった感じだ。
 街を見回していると、一際目立つ建物があった。

 「ここが、この街のギルドか.....派手だな。」

 俺は、扉を開けて中に入る。内装も、洋風だった。

 「あの~すみません。『強襲n.....』」

 「冒険者さん、ギルドマスターがお呼びです。こちらへどうぞ。」

 何かフラグが立ったのか?幸い、周りには誰もいないので騒ぎにはならなさそうだ。

 「君が受けたい依頼はこれかね?」

 「はい、そうです。」

 目の前には、『強襲の巌窟』と書かれた依頼書が置かれていた。え~と、適正ランクは.....無い!?まさか、誰でも受けられるように、そう設定されているのだろうか。

 「では、ここへ行き『シーダ』と叫んでください。」

 それを言い終えると、俺を部屋から出して扉を閉めた。もう一度開けようとしたが、開かない。と、いうことはこれを達成するしか無いのか。
 俺は、示された場所に向かいこう叫ぶ。

 「シーダ!!」

 ガガガガガ、音を立てて岩山が開く。その先は、ほんの数メートルまで視認できない。枝に火をつけて、先へ進む。
 ガガガガガ、今度は岩山が閉まる音がしたが、俺は歩みを止めない。しかし、すぐに俺は歩みを止めることになる。

 「ミノタウロス、ランクは.....Bくらいか。」
 
 勝てない、だがもう出ることはできない。ならば、挑むしか無い。俺は、スライトの構えを取り、敵が剣線に入ってくるのを待つ。そして、入ってきた瞬間に剣を思いっきり振る。剣撃に乗って、火が飛んでいく。しかし、当たったはいいものの全くダメージを確認できない。

 「くっ、これがランクの差.....ならば、質より量だ!!」

 俺は、5連追撃コンボを放つ。皮に、少し傷がつくぐらいだった。このままだと、ジリ貧だが俺にはこれしか無いんだ。

 「マジか、15回打ち込んで角1本折れるだけかよ.....。」

 後、何回打ち込まないといけないのか.....考えるだけで、頭が痛くなる。どうすれば、一体どうすればいいんだ.....。
 一瞬の焦りが、命取りになる。
 
 「ぐはぁ、」

 俺は、ミノタウロスに腹部を殴られた。くっ、一撃が重い.....死を感じる。デスペナルティだけであっても、死ぬのは嫌だ。どうしたもんか、どうした.....そうだ!これなら、いける!

 「これで終わりだ、ミノタウロス!!」

 俺は、魔法の詠唱を始めた。

 「強者どもを倒すため、内なる力を解き放て!」

 そして、こう叫ぶ。

 「デシ・グレア!」

 そして、強化された剣で5連追撃コンボを放つ。一撃一撃が、さっきの数倍にもなっている。これなら.....。

 「.....。」

 その場に、静寂が流れる。がさっ、俺は膝をついた。バタンッ、ミノタウロスは倒れ煙になる。

 「終わった.....これで達成なのか?」

 多分違うだろう。ランク指定がないと言うことは、まだ何かいるはずだ。

 「ん?」

 右手が勝手に動く。俺は、Σをかきステータスを確認した。
 
 「レベル2だ!1上がっている。」

 レベルが上がる条件は、まだ分かっていない。ただ、今回の件を考えると自分よりもはるかに強い相手を倒しとレベルが上がるのか、ましてや死に瀕した時にその状況を乗り越えることで上がるのか.....どちらにせよ、この依頼を達成できるまでは終われない。
 俺は、それから出てくるモンスターを片っ端から狩り続けた。一体狩るごとに、レベルが1上がっていく。そして.....、

 「はぁはぁはぁはぁ、レベル8.....。」

 アルバレコードには、レベルアップに必要な経験値が100000000とかかれている。ならば、これ以上は流石に上げられないか?まぁレベルが上がったことで、ステータスも上がっているし、レベルが上がることに技能スキルが手に入ったからオッケーか。これは、ゲーム説明にもなかった。隠し機能か?それとも、製品版が発売されると同時に、解放される予定だったのだろうか.....。まぁ、どちらにせよ助かった。特に、『異常耐性』が始めに手に入ったのがありがたい。これがないと、精神が朽ち果てるかも知れなかったからな。後『制御』と『解放』も使えるかもしれない。隠し機能は、バラさない方がいいだろう。レベルも、通常時は1まで制御しておこう。

 「さて、ここから出るとしよう。」

 俺は、入ってきた時に開閉した岩壁を触り破壊できるか考える。その時、依頼書が急に光出した。

 「これは.....、」

 依頼書に、達成のハンコが押されていた。そして、足元にある魔法陣が発現する。

 「まさか、転移魔法!?」

 気づいた時には、体が閃光に包まれていた。

 「くっ.....、」

 俺は、思わず目を瞑る。光が消えたので、目を開ける。そこは、レルバントラスのギルドだった。

 「達成、おめでとうございます。」

 ギルドマスターが、話しかけてきた。ここは、依頼を受けた部屋だった。

 「報酬を支払っていませんでしたね。こちらです。」

 「これは.....、」

 渡されたのは、1冊の分厚い本。

 「これは、この世界でたった6つしかない、魔導便覧です。」

 6つそして便覧、各属性ごとにあると、いうことだろう。
 
 「これをみて、魔法名を叫べばその魔法を扱えるようになります。ただし、1日1つですよ。」

 なるほど、テストプレイ期間は最大で6つ覚えれるということか。

 「それでは、また。」

 俺は、ギルドで討伐依頼を受けて街を飛び出す。緑狼グリーンウルフに至っては、指1本で倒せる。まぁ、レベル8だったらだが.....まぁ技能スキルによってステータスは多少上がってはいるがな。
 俺は、緑狼グリーンウルフを20匹倒した。

 「ふぅ、これで200ガルトか。いや、こっちだと200レルトか。まぁ、価値は同じだからあまり関係ないな。」

 俺は、討伐対象を探すためにさらに奥地を目指す。
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 「はぁぁぁぁぁ!!」

 私は今、謎の黒ローブの男と戦っていた。彼は、ゲーム内で指名手配された組織グループの1人だ。
 組織グループとは、いわばパーティーの集まり。そして、皆から選ばれたものが団長となる。その中には、多種族同士の組織グループもあるという。私は、魔術組織マジックグループに属している。

 「何が目的なんだ、『殺人鬼キラーデーモン』。」

 2つ名。それは、ある所業を行なった場合、それに似合った名が贈呈される。それが、2つ名だ。ちなみに、私の2つ名は『最速ファステス』。ランクCになった時に、アルバレコードに追加されていた。

 「2つ名で呼ばれるのは、嫌いなんですがまぁ、いいです。目的は簡単、強者を倒すこと。そして、私がこの世界で1番となる。」

 「1番となって、どうするんだ?」

 「理由は、ありませんよ。ただ、殺しの快感を覚えた時から、強者と対峙すると疼きが止まらなくなるんですよ。つまり、1番となった時点でこのゲームで私がいる意味がなくなる。」

 「意味を、無くしたいのか?」

 彼は、殺しというものに執着し過ぎている。自分よりも強いものがいなくなると、そこから去ってしまう。私からしたら、ズルイとしか言いようがないが、今はそんなことはどうでもいい。ここで、死ぬわけにはいかない。

 「そういう意味ではないんですが.....おしゃべりは、ここまでです。そろそろ、終わりにしましょうか。」

 まずい。ハルト流剣術は、日本刀を扱う剣術。つまり、速くて正確な剣捌きが特徴だ。

 「くっ.....、」

 私は、魔法でランクCまで上り詰めた。つまり、魔術師メイジということだ。魔術師メイジは、接近戦に弱い。速くて正確に斬ってくるハルト流剣術は、私たちにとっての天敵ということだ。

 「右腕、左腕、右足、左足。得意の魔法も、詠唱できなければ意味はない。さぁ、これで終わりだ。」

 あぁ、これまでなのか。別に、死んだからと言ってこのゲームが終わるわけではない。でも、私はいつも最速を目指してきた。たった1時間の差で、私を超えるものは現れる。現に、彼は私を超えている。まぁ、魔法では負けてないけど.....。あぁ、ちゃんと接近戦の対策しておくべきだったな~。今更遅いけど。

 「遺言は、ないですね?」

 「もちろん、さぁ早く殺してくれ。時間が惜しいんだ。」

 「分かりました、ではまた会う日まで。」

 私は、目を瞑った。ゲームとは言え、死ぬのは怖い。だから、どのゲームでも死なないように努力してきた.....あれ?どうして、死なないんだろう。普通は、特殊な空間に移動するはずなのに。
 カンッ、と甲高い音が私の耳に響き渡る。私は、恐る恐る目を開けた。
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 俺は、ランクEの大狼ハイウルフを討伐するために、さらに奥を目指した。

 「さぁ、これで終わりだ。」

 ん?誰か、いるのだろうか。
 俺は、当たりを見回した。
 あっ、あの奥に人影が見える。1つ.....2つ。

 「もしかして、襲われてるのか。」

 そうだとしたら、『これで終わりだ。』という意味が変わってくる。
 俺は、走った。木々を身軽に避け、スピードを落とさないように体を低くした。

 「分かりました、ではまた会う日まで。」

 まずい、頼む間に合ってくれ!

 「ガルト流剣術 スライト・ポーク!!」

 これは、昨日風呂に入っている時に思いついた、突き技。前に、試したことがあったので、ぶっつけ本番で成功できた。
 カンッ、甲高い音が当たり1面に響き渡る。
 
 「誰ですか?邪魔をするのは。」

 「通りすがりの。冒険者だ。」

 俺は、剣を弾き後退する。
 目の前の男は、被っているフードを脱いで、暗がりに隠された顔を明らかにした。

 「お前は.....、」

 その顔に、見覚えがあった。指名手配者、『殺人鬼キラーデーモン』。

 「なるほど、これを弾きますか.....いいでしょう。私がお相手いたします。」

 そういうと、殺人鬼キラーデーモンが襲いかかってきた。
 遅いな。俺は、寸前で躱す。体制を崩したところを、足で蹴り上げる。空中にいる殺人鬼キラーデーモンに向かって、スライト・ポークを放つ。脳天を突く。
 殺人鬼キラーデーモンは、光のエフェクトとなって粉々になった。

 「ふぅ、」

 ホッとして、1息つく。まさか、2つ名もちと対峙するとは.....あっそうだ。
 俺は、倒れているプレイヤーのもとに近づく。

 「大丈夫か?」

 俺は、手を差し伸べながらそう尋ねる。

 「う、うん。」

 倒れていたプレイヤーは、俺の手を取り立ち上がる。
 ん?どこかで見たことがあるような.....まさか、クルル!?てことは、あいつはクルルが苦戦するほどの相手.....技能スキルが、なかったらあぶなかったな。

 「それじゃぁ、俺はまだ依頼があるから。」

 俺は、この場を立ち去ろうとした。
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 目を開けるとそこには、ある1人の男性がいた。周りに殺人鬼キラーデーモンは、いない。倒したのだろうか。

 「大丈夫か?」

 私は、差し伸べられた手を取る。

 「う、うん。」

 この人は、私より強いのだろう。でも、名前を聞いたことがない。まさか、表に出ないプレイヤーなのだろうか。でも、まだ『ARS』は始まってから2つ日しか、たっていない。殺人鬼キラーデーモンは、その間を殺人に尽くすことで強くなっていった。もちろん、ランクはF。つまり、彼もそうなのだろうか?一体何に尽くしたのだろう.....。

 「それじゃ俺はまだ依頼があるから。」

 そういうと、彼はすぐさまこの場を立ち去ろうとした。

 「あ、あの.....、」

 「ん?何?」

 私は、彼の強さを知りたくなった。彼は見たところ剣士。殺人鬼キラーデーモンと、相性が良かっただけかもしれない。でも、せめて彼の2つ名だけでも知っておきたいと、そう思ってしまった。

 「君の2つ名は、何だい?」
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 立ち去ろうとしたにもかかわらず、足止めを食らってしまった。

 「君の2つ名は、何ですか?」

 「2つ名?」

 俺は、急いでアルバレコードを確認する。『隠匿コンスィオメント』と『異端者ヘアリック』。2つあるのか?隠匿は、本当のレベルを隠しているからだろう。異端者は、隠し機能を使って強くなったから。教えられるものがない。

 「残念だけど、まだ2つ名を持っていないんだ。」

 「そうかい.....。」

 悄げる彼女を横に、俺はこの場を立ち去った。

 「いた!」

 俺は、大狼ハイウルフを見つけるのに少し手こずっていた。なんせ、警戒が強いもんだから。
 依頼は、1体でいい。1撃で仕留める。そこだ!
 俺の放った剣撃は、大狼ハイウルフを討ち取った。魔石を回収して、レルバントラスへ戻る。
 
 ギルドに入り、魔石を提出して依頼を終了した。

 「そろそろ昼か。」

 俺は、近くにあった椅子に腰掛け、一度ログアウトする。

 「あ~、腹減った。」

 俺は、部屋を出てリビングへ向かう。

 「お兄ちゃん、おはよう。」

 「おはようって、もう昼だろ。」

 軽いノリツッコミをしつつ、昨日作ったカレーを食べる。少し休憩したのち、またブレインウェーブを装着する。

 「さて、次はどんな依頼を受けようか。」

 ランクEになるには、あと5つの依頼を受ける必要がある。あと、ギルド員との対人か。とりあえず、これとこれと、これを受けよう。
 俺が、手に取ったのは各種ウルフの討伐依頼。これなら、簡単だしランクを上げるのにはもってこいだ。

 緑狼グリーンウルフ赤狼レッドウルフ討伐依頼は終わった。あとは、青狼ブルーウルフだけだ。

 「ここら辺にいるはずなんだが.....、いた。」

 俺は、スライト・ポークを放つ。少し距離が空いていたため、あと少しのところで躱されてしまった。だが、突きの勢いを回転の勢いに変える。スライト・エヴィドラネックスを放ち、討伐する。これで終わりっと。
 ギルドに戻り、換金する。残り、2つか。さて、何をしたもんか。最近ウルフ系の依頼しか受けていないし、もっと違うものを受けるとしよう。
 俺は、依頼を眺めどれがいいかを考える。

 「これだな。」

 俺が手に取ったのは、『ランクE 小鬼ゴブリン討伐』と書かれた依頼書だ。小鬼ゴブリンは、1体1体は弱いのだが、それが群れるので少々厄介だ。まぁ、一掃すればいい話。
 俺は、依頼書に書かれている場所を目指す。

 「ここか。これくらいなら、いけるな。」

 周りから、小鬼ゴブリンが姿を現す。5.....8.....10.....いや、それ以上か。まぁ、関係ない。
 俺は、スライトの構えをとる。そして、スライト・ポーク→スライト・ネックス→スライト・エヴィドラネックスの順で放つ。これが、オリジナル追撃コンボだ。

 「くらえ!」

 始めの突きで、軍隊の一部を一掃、その後のスライト・ネックスとスライト・エヴィドラネックスによって全軍隊を排除する。空中に避けたやつは、数体いるが全て剣術を使わなくとも、急所を突くことで1撃で倒す。

 「よし、これで依頼達成だな。あと、1つか。もっと、真面目にやったらクルルみたいに、ランクCなってるのかな。」
 
 まぁ、俺とあいつは別人。それに、ランクはレベルが低くても上げることができる。ただし。レベルを上げるには、この世界ではランクを上げることはしてはいけない。まぁ、俺はもう上げれなくなったし、ランク上げてもいいよね。
 ギルドに、小鬼ゴブリンの魔石を提出して最後の依頼。俺と言ったら、ウルフだし、大狼ハイウルフの討伐依頼でも受けるか。
 大狼ハイウルフの依頼もサクッと達成して、最後の難関。ギルド員との対人戦。ランクは、Dに設定されている。2つも上か。まぁ、上に行けば行くほどその差は無くなっていくんだが.....今は関係ない。目の前の敵を、倒すだけだ。

 「よろしくお願いします。」

 「さぁ、構えて。行きますよ!」

 剣と言っても木刀。手加減は、無用。まずは、ギルド員から攻めてきた。俺は、ギルド員の1撃を受け止める。

 「くっ、重い.....。」

 AIならば、レベルが2であってもおかしくはない。つまり、今の俺は圧倒的不利な状況にいるということ。つまり、ランクを上げるのも難しい。しかし、ランクを上げたからといって、強くなるわけではない。相性によって、戦力差なんてどうとでもなるからだ。今回は、剣だったが魔法、槍、弓矢など多種多様な武器を使うギルド員がいるため、相性がいいギルド員と戦えば、ランクは上がりやすくなり、悪いほど上げにくくなる。クルルは、魔術師メイジだから剣を使うギルド員とは戦わなかったのだろう。
 
 「はぁぁぁぁぁ!」

 俺は、ギルド員の剣を上に打ち上げて、脳天を狙う。

 「なっ、」

 ギルド員は、打ち上げられた剣を返し、俺の胴を狙う。俺は、剣撃より高く跳びつつ後ろに後退する。

 「へ~、やるな。だったら、これはどうだ!!」

 俺は、ギルド員の剣を左に弾き、もう一度脳天を狙う。
 しかし、ギルド員は弾かれた方から斜め上に持ってきて俺の剣を、受け止める。そして、剣を返し胴を狙う。俺は、柄頭でギルド員の剣の剣身を地面に打ち付ける。左足で、ギルド員の足を蹴る。ギルド員は、体制を崩しかけたが、そのまま側転することで回避した。しかし、こちらにはギルド員の剣がある。

 「剣をなくしたからと言って、勝負が終わったわけじゃありませんよ?」

 そういうと、ギルド員は俺の懐に潜り込み、俺の横腹に拳を突きつける。

 「ぐはっ.....、」

 俺は、次の攻撃を避けるためにすぐさま後退する。しかし、剣を取り返されてしまった。剣術を使うか?いや、レルト流剣術は水属性だ。対してガルト流は、火属性.....圧倒的の不利、勝機はないだろう。しかも、『隠匿コンスィオメント』の2つ名を手に入れたことでリミッターを解除できなくなってしまった。と、いうことは魔法しか方法がない。

 「デシ・グレア!」

 詠唱破棄、俺の持っているスキルの1つだ。これによって、どれだけ長い詠唱でも破棄することができる。

 「はぁぁぁぁぁぁ!」

 俺は、思いっきり剣を振るう。

 「かの強者どもを倒すため、この身に秘められた新なる力を解き放て。」

 詠唱文が、長い?

 「デカ・グレア!」

 何!?
 デカ・グレア。それは、デシ・グレアの上位互換。

 「私も、無属性なんですよ。」

 ギルド員は、俺の剣を軽々しく受け止め、そして弾き返す。

 「さぁ、終わりです。」

 ギルド員が、俺に向かって剣を振りかざす。
 負けか.....負けるのか.....いや、違う。俺にはまだ、あれがある。

 「デシ・ディフェンシル!」

 これは、魔導書で覚えた防御魔法。ギルド員の1撃くらいなら、受け止められる。予想通り、俺が作ったシールドはギルド員の1撃を凌いだ。そして、

 「くらえ!ガルト流剣術 スライト・ポーク!!!」

 体制を崩したギルド員を狙って、突きを放つ。バタッ、ギルド員が地面に倒れる。

 「ごう.....かく.....だ.....。」

 「やったー!」

 ついに、ランクEになった。そう考えると、よくクルルはランクCまで上り詰めることが出来たな。まぁ、いい。やっとだ、やっとランクを上げることが出来た。はぁ~、疲れた。今日は、ここまでにするか。俺は、レルバントラスの宿屋に行きログアウトした。

 時間は、6時30分を過ぎていた。

 「さて、腹が減ったからカレーでも食べに行こうか。」

 リビングに降りたが、まだ誰も起きてきてはいない。俺は、カレーを温めて風呂を沸かす。

 「今日も、早めに寝ようかな。」
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 「結局何も分からなかった。」

 あの、プレーヤーが一体誰なのか。どんな過程であそこまで強くなったのか。知りたい、彼について知りたい。まぁ、今考えても仕方ない。
 あの後私は、レルバントラスに戻ったが、彼には会えなかった。

 あっ、そういえば今日はあいつにゲームの進行度について聞くんだった。
 私は、受話器を取りボタンを押す。トゥルルルルル、トゥルルルルル、ガチャ。

 「もしもし、」

 「もしもし、映遊?」

 「なんだ、久良岐 愛流留くらき めるる?」

 「フルネームで呼ぶんじゃない!」

 彼は、同じ高校に通う同級生であり、幼馴染。悔しいことに、私よりもゲームが上手い。でも、まだあのゲームで彼の名を聞いたことがない。彼は、ゲームの中では『スバル』という名を使っているのだが.....。

 「で、どうしたんだ?」

 「いや、昨日から始まったゲーム。どこまで行ったかなって。」

 「あぁ、それか。それなら今日やっと、ランクEだよ。」

 ランクE!?私よりも低いじゃないか。一体何をして.....いや、今回はこちらに分があるのか。どうせ、いいキャラを選べなかったんだろう。

 「お前は、どうなんだよ。名前、聞かないけど。」

 「えっ、」

 そういえば今回、母さんにバレるのが嫌で名前変えたんだった。

 「私も、まだまだだ。全然、だめだよ。」

 「そうか、まぁ互いに頑張ろうな。」

 「う、うん。」

 私は、受話器を戻した。まさか、彼も名前を変えているのだろうか。だとしたら、もうあっているかもしれないな。まぁ、流石にないと思うけど.....流石にね。
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 「2日目もすごいな~。」
 
 「そうですよね、ついに2つ名持ちも現れてきましたし.....、」

 「いや、違う。隠し機能に気づいたものがいる。」

 「隠し機能にですか?」

 「あぁ、正式サービス開始のタイミングで発表するはずだったんだが、どうやら見つかってしまった。まぁ、いい。明日、あれを実装するぞ。」

 「あれですか?」

 「そうだ、あれはレベルを上げることはできないが、可能性に気づかせることはできる。さて、彼は行動を取るのだろうか。なぁ、『AIあい』?」

 楽しくなってきた。レベルを上げるには、死を乗り越えなければいけない。まさか、彼にそれが出来るというのか。あぁ、楽しみだ。早く、早くあれを実装したい。そして、そのデータを取りさらにこのゲームを完成させたい。
 新たなる機能。これは、この世界に革新をもたらす。単身の君は、どうやって対応するのかな?行動次第によっては.....まぁ、もう決まったようなものか。3日目も楽しませてくれるよな?待っているぞ。  君。

 
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