3 / 4
テストプレイ
3日目
しおりを挟む
8月20日、テストプレイ3日目。今日、この世界に革新が起こる。
「ボスバトルの追加!?」
俺は、食卓でパンをかじりながらそう叫ぶ。
「お兄ちゃん、食事中は携帯見ちゃだめなんだよ。」
「そう言ってもな、ボスバトルだぞ?ボスバトル。まさか、テストプレイ期間に新機能が追加されるなんて.....。」
でも、レベルアップ機能については何も書かれていない。いや、1つある。え~と、『このボスバトルでは、レベルが上がりません』か。なるほど、まぁこれは共闘だから、経験値を振り分けるのが大変なんだろう。
共闘とは、組織同士が協力しあって戦ってもよし、単騎で戦ってもよし。ようは、1人からなら、何人でも参加オッケーだということだ。
俺は、食事を終えるとすぐさま部屋に戻る。そして、ブレインウェーブを装着してゲームの世界へ入り込む。
「ボスバトルか、パーティーを組んでいない俺に取って、難問でしかないな。まぁ、それでこそ面白いってもんだ。」
俺は、早速ギルドへ足を運ぶ。木栓板から、ボスバトルの依頼書を受付嬢に、提出する。
「よろしいのですか?お1人で。」
「大丈夫ですよ。」
俺が依頼を受けると、足元に転移の魔法陣が展開される。あの時と同じだ、つまり『強襲の巌窟』はボスバトルなのか?いや、始めの移動は徒歩だった。つまり、外部からの干渉?想定外の、ことだったのだろう。
ここは.....、
周りを見回すと、岩で覆われた洞窟のようだった。似ているな、あそこと。
「さて、俺が戦うボスモンスターは一体どい.....でか。」
真上を見ると、そこには身長20mくらいの半人牛獣が立っていた。
「マジか、確かにこれなら複数人で戦わないと、勝てないわ。まぁ、単騎で挑んで勝てばいい話。そして、皆んなに希望を見せるんだ。まぁ、公表はしないけど。」
さて、いっちょやりますか。
「ガルト流剣術 スライト!」
火を剣撃に乗せて半人牛獣の足を攻撃する。直接は斬っていないので、実質遠距離攻撃ということだ。
「ははは、やっぱりダメか。」
無傷、やっぱりか。俺の火力じゃ、MAXで腕1本斬れるかどうか.....。しかし、やってみないと分からない。だったら、試すしかないじゃないか。
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺は、ガルト流剣術を追撃として5回、10回、15回、20回.....、永遠と続けていく。同じ箇所を斬りつけていけば、傷はどんどん深くなっていく。
「くっ、」
「ヴァァァァァァァァァァァ!!!!!」
半人牛獣は、雄叫びとともに手に持っていた斧を、俺に振りかざしてきた。
「まずっ、」
俺は、すかさず空中に退避し次の攻撃を交わそうとした。
「ヴァァァァァァァァァァァ!!!!!」
しかし、次の攻撃を俺は避けることが出来なかった。
「しまっ.....、」
バァンッ!!壁に打ちつけられる。壁には、ヒビが入り亀裂が周りへと広がっていく。
俺は、何とか着地には成功したものの、骨が何本か折れた.....気がする。まぁ、ゲームだから実際にどうなっているか分からないが、ダメージは相当なものだろう。
「ふっ、まさかここまで追い詰められるとは.....流石に1人では厳しか。だが、ここで死ぬほど俺も落ちぶれちゃいない。最後まで、抗わせてもらうぜ。」
「ヴァァァァァァァァァァァ!!!!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ゴオオオオンッ!!!斧と剣が混じり合う音。
重いな、でも受けきれないわけじゃない。
「デシ・ディフェンシル!!」
よし、何とか受けきれた。でも、まだ勝ったわけじゃない。慢心するな、その油断が身を滅ぼすことになる。
「ヴァァァァァァァァァァァ!!!!!」
怒りの咆哮、さっきよりも気が強くなっている。だが勝機が無くなったわけじゃない。
「これが、俺の隠し球.....デシ・スーダ!!」
これは、相手のステータスをダウンさせる魔法。これにより、半人牛獣のステータスは、ランクBのモンスターと同じになる。
「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!ガルト流剣術 スライト・ポーク!!!」
俺の突きは、半人牛獣の心臓を捉えた。皮膚は硬かったが、一点だけを突くことで心臓まで剣が届いた。
半人牛獣が、煙になる。
「やっ、やったー!!」
1人で倒せた、これならレベルもって、そうだった。経験値は入らないんだった。
「デシ・スーダか、これはこれからも使えそうだな。」
そうこうしていると、ここに来た時と同じように足元に転移魔法が現れる。気づけば、ギルドに立っていた。
「達成おめでとうございます。こちらが、報酬の50000レルトです。」
5.....50000レルト!!?そ、そうか、これは共闘だから報酬が複数人に分け与えられる。つまり、俺は異例ということか.....ははは。
右手が動く、意識せずとも勝手に。Σをかき、アルバレコードを開く。
「2つ名が.....増えてる!?」
無謀.....か。まさか、3つも2つ名を手に入れてしまうとは.....これは確かに、異例なようだな。まぁ、誇れるものが何1つないのが、ちょっとあれだけど.....まぁいいか。
「あっ、君は.....。」
俺は、声の聞こえた方に視線を向けた。
「クッ、クルル.....。」
そこには、クルルだけでなく1つの組織並の人数がいた。クルルが所属している組織なのだろうか?まぁ、関係のないことか。
「クルル、この方は?」
「あぁ、私を助けてくれた冒険者だよ。前に言ってた。」
「あぁ、彼でしたか。ありがとうございます、この子時間にはうるさくて。デスペナルティでさえ、惜しいと言っているんです。」
「はぁ、そうですか.....。」
デスペナルティも惜しかったのか、でも助けたことを感謝してもらうのは、素直に嬉しいな。
「その様子だと、ボスバトルの後なのか?」
「はい、いや~かなり苦戦しましたよ。そういう貴方は?」
「普通に良い依頼を探してただけだ。流石に1人では厳しいからな。」
「そうですね。」
1人で倒したなんて、隠しておかなくては.....バレると相当まずいことになるぞ。まぁ、バレたらの話だ。バレたらの。
「フェーズ、私を1人にしてくれないか?彼に、お礼を言いたいんだ。」
「いいですよ。さ、皆さん。我々の拠点に戻りましょう。」
拠点。それは、組織ごとに所有している家みたいなものだ。そもそも、組織自体決められた数しかなく、その分しか拠点も用意されていない。
「で、何だ?用って。」
「あの時の礼を、正式に言おうと思ってね。あの時は、逃げられてしまったから。」
「逃げられたって、言い方が悪いだろ。」
まぁ、実際にそうなんですけどね。
「クルルさん、この人誰ですか?」
「ん?あぁ、言ってなかったね。彼は.....えっと、名前を聞いていなかったね。ていうか、私名前を言った覚えがないんだけど.....。」
そういえば、名前聞いていなかったな。
「あぁ、テレビで前に見たからだ。ランクCに、到達したって。」
「あぁ、それでか。それで、君の名前は?」
「ミライだ、ミライ。」
「ミライか、わかったありがとう。あぁ、この子はリーフル。私の友達だ。」
「リーフルです。貴方、一体クルルさんとどういう関係なんですか?」
「え~と、」
関係って言っても、ただ助けただけだし.....深い関係なんてないんだが。
「助けた、だけ?」
「クルルさんが貴方より弱いなんて、あり得ません。」
「ちょっと、リーフル。そんなこと言ったらダメなんだぞ?」
「そうなんですが.....も~う、仕方ありません。今日は見逃します。ですが、次はありませんからね!いいですか!」
「は、はい。」
そういうと、組織の元に戻っていった。いいな、仲間がいるって。まぁ、俺は1人でするって決めたんだし、パーティーも組まないんだけどな。まぁ、組織に入っても、単騎で動けばいいだけかもしれないけど.....。
俺は、ギルドの椅子に腰掛る。
「一旦、ログアウトするか。少し疲れたからな。」
俺は、ブレインウェーブを外してリビングに降りる。
「あっ、お兄ちゃん。ボスバトル、どうだった?」
「凄かった、骨が折れたと思ったぜ。」
「ふ~ん。そうなんだ。」
俺は、棚にしまってあったどら焼きを取り妹の前に座って食べる。
「ねぇ、それを私の前で食べるということは、煽ってるの?お兄ちゃん。」
「は?お前には、前あげただろ。」
「ヤダヤダヤダ、もっと欲し~い。」
「仕方ない、ほら。」
俺は、机にお金を置く。インターネットで買えばいいと思うかもしれないが、この時代では禁止されている。なぜなら、ただでさえ体育の授業より、eスポーツの授業の方が多くなっている上、交通手段もバスや電車。運動なんて、気晴らしにしかしない。そんなのでは、体が脆くなってしまうので、せめて買い物くらい徒歩で行けと.....でも、家の隣にスーパーがあるなんて、この時代では珍しくない。まぁ、ウチはそうでもないし.....ね。
「買ってきてよ~。」
「駄々をこねるな、駄々を。そんなんだったら、この金も渡さないぞ。」
「そんな~、分かったよ、行くよ~。」
ふぅ、妹を動かすのも一苦労。まぁ、素直でいいんだけど。
どら焼きを食べ終えた俺は、部屋に戻りノートを開く。
「さて、今日覚えた魔法は.....。」
俺は、このノートに自分の使える魔法をまとめることにしている。そうすることで、効率よくボスを倒す方法や、依頼を達成する方法を考えられるからだ。時間の制約がなければ、こんなことしないんだけどね。
「ボスは、ランクB以上のモンスターの、巨大でステータスが上がった版だと思えばいいのか。だとしたら、デシ・スーダで対応できそうだな。そして、レベル1の状態ではやはり急所を突くしかない。半人牛獣は、斬撃攻撃だけだったから何とかなったけど、それ以外はそう簡単には行かないだろう。だったら、魔法をランクアップさせるしかないか。」
魔法には、5つの属性と6つのランクが存在する。火、水、土、風、無の5つが魔法の属性の種類だ。そして『デシ→デカ→キロ→メガ→ギガ→テラ』の順で強さが決まっている。ランクは、熟練度によって上げることができる。また、このゲームでは魔法を複数もっている者と使えない者も、存在する。魔法を使えないもののために、剣術が存在している。まぁ、滅多にないことなんだけどね。
「だとしたら、今日は沢山魔法を使って、熟練度を上げるか。」
俺は、ブレインウェーブを装着する。
「さて、魔法の熟練度を上げやすいような依頼は.....と。あった、これだ。」
小鬼は、必ず群れて現れる。つまり、1体1体に魔法を使えばそれだけ熟練度が上がりやすくなる。
「よ~し、張り切ってやるぞ!」
俺は、早速小鬼が出る森を目指して走り出した。
「いた!」
早速、10体のゴブリンを発見する。
1体1体に、デシ・スーダをかけていく。そして、
「はぁ!ガルト流剣術奥義 スライト・エヴィドラネックス!!」
これで、一掃する。次のランクに上げるには、あと90回魔法を使うしかない。しかし、残りのMPを見ると後10回しか使えない。でも、ポーションを大量に持ってきたからそこは心配する必要はない。
結局、2時間もかかってしまった。
「でもこれで.....、」
俺は、アルバレコードを確認する。
「やったー!デカ・スーダになってる。これで、ボスもランクCになる.....はず?いや、ランクBとランクCの間か?まぁ、試せば分かる話か!」
俺は、早速ギルドへ向かう。
「これが、次に倒すボスモンスターか。」
鷲獅子獣か。剣を使う俺にとって、最大の天敵といっても過言ではない。ただ、剣術を使えば倒すこともできる。あたれば、だが。
俺は、一息つくと、こう叫ぶ。
「デカ・スーダ!!!」
これで、今の俺でも倒せるレベルになったはずだ。しかし、どうしたものか.....剣撃に火を乗せて飛ばしても、軽々と避けられてしまう。
「グルァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
鷲獅子獣の攻撃パターンは、突進と口からの光線。そして、羽を自由自在に動かすことができる。
咆哮と共に、無数の羽をこちらに向かって飛ばしてくる。俺は、間合いに入った羽を剣で斬り落とす。しかし、こちらから攻撃をすることは出来ない。
「くっ、このままだとジリ貧だ。鷲獅子獣は、攻撃できるのに俺は、攻撃できない。しかも、向こうは無数の羽を持っている。MPも限られている中、デシ・ディフェンシルで防ぐのは難しい。となると、こちらが持っている攻撃手段は.....投擲、あるいは行動を制限した中での攻撃か.....どちらも現実味がないな。」
結局のところ、ここでは魔法攻撃が推定されているのか。つまり、無属性の俺には勝ち目がない。死ぬか?死んでリセットするか?いや、ダメだな。それじゃぁ、無謀の名が廃る。どんな手を使ってでも、倒してやる。考えろ、考えろ、どんな奇抜な策でもいい。倒せればいいんd.....。
「グルァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
俺は、鷲獅子獣の突進をモロに食らってしまった。また。骨が折れた感じがした。俺は毎回1回は、攻撃を喰らわないと行けないのか?よそ見は、厳禁だな。
「ふっ、やってくれたな!次来たら、デシ・ディフェンシルで防いでや.....デシ・ディフェンシル?そうか!これでいけるかもしれない。」
俺は、策のために鷲獅子獣の真下まで走って移動する。そして、
「デシ・ディフェンシル!」
俺は、跳躍し自分の真下にデシ・ディフェンシルを放つ。そして、それを足場にして、
「デシ・ディフェンシル!」
もう一度、デシ・ディフェンシルを真下に放つ。そして、それを足場にして.....の繰り返し。
「デシ・ディフェンシル!」
もちろん、鷲獅子獣には避けられる。突進してきた場合、突いて倒せるようにと真下まで来たが、やはり意味はないか。だがしかし、俺は鷲獅子獣よりも高い位置にいる。そして今度は、壁を蹴り鷲獅子獣に向かって突進する。鷲獅子獣が躱したときが、好機。俺は、鷲獅子獣に向かって、スライトを放つ。もちろん、移動し始めなので別方向に動くのは難しい。
しかし俺の放ったスライトは、鷲獅子獣の翼に命中した。
「まずっ、」
俺はここで倒せると思っていたので、落下のことは考えていなかった。まさか、空中で狙いがズレるとはな。
もちろん、鷲獅子獣も落下しているが、俺よりも速さは遅い。このままだと、俺が地面に衝突する。
「仕方ない、最後の足掻きだ。」
俺は、そういうと心を決めて、
「デシ・グレア!」
と、叫ぶ。剣ではなく、身体を強化する。まぁ、多分無理だと思うが....賭けだ。耐えれば俺の勝ち、死ねば鷲獅子獣の勝ちだ。
俺は、目を瞑らずそのまま降下する。ドスッ、俺は地面に衝突した。身体中痛いが、死んではいないらしい。
「ははは、俺の勝ちだ鷲獅子獣。」
「グルァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
鷲獅子獣は、最後の足掻きで首をあらゆる方向に向けながら、光線を放つ。しかし、それは俺に当たることはなかった。
俺の体の周りに、転移の魔法陣が展開する。どうやら、鷲獅子獣が死んだらしい。
勝ちか、だがこの傷を治すには最低でも1日はかかるだろうな。実質的な、負けか。
そう思っていると、ギルドの中に立っていた。
「あれ?動ける、痛くない。」
「達成おめでとうございます。こちらが、報酬の50000レルトです。」
そうだった、でも今は痛みが消えたのが衝撃的すぎて頭に入ってこない。
俺は、50000レルトを受け取ると、ギルドを後にした。その後、宿屋に入りログアウトする。現在時刻は、5時39分だった。
俺は、ブレインウェーブを外すとリビングへ降りていく。
「あっ、お兄ちゃん遅~い。昼、食べなかったでしょ?」
「なんだ、別にいいだろ。そういうお前は、勝ってきたのか?どら焼き。」
「うん、でも帰ってきてからまだ食べてないんだ。」
「え?なんで。」
妹が、どら焼きを買って食べないなんて以上事態だ。
「大丈夫か?俺がわかるか?病院行くか?」
「もう、心配しすぎ。そんなんじゃないから。はい、これ。」
「え?」
妹の手には、どら焼きがあった。
「これは?」
「お兄ちゃんの分。前に、買ってきてくれたでしょ?だから、そのお返し。」
うっ、なんて優しいんだ。俺は、こんな妹を持てて幸せだ。
俺と妹は2人、一緒にどら焼きを食べた。妹は、部屋に戻り俺は食べ損ねた昼食を食べる。もちろん、カレーだ。
テレビをつけると、脳にチップを埋め込む可能性についての番組がやっていたが、面白くなかったのでチャンネルを変える。
「”今回は、ボスバトルについての話題を取り上げていきます。“」
初日もそうだったが、やはり『ARS』の話題が多いように見える。まぁ、テストプレイ期間中に新機能を追加するのなんて、前代未聞だからな。
「”テストプレイ期間中の追加機能。明かされていた詳細以外に、我々は新たな情報を手に入れました。まず1つ、ボスモンスターを倒せば、HPは全回復するとのことです。『死に戻り』が開発された中、死ぬより倒した方が早いという運営側からの、挑戦状なのでしょうか?“」
なるほど、だから全回していたのか。バクかと思ったぜ。
「”そして、もう1つ。なんと、ボスモンスターを単騎で討伐したプレイヤーが存在するらしいのです。“」
ブッ、俺はニュースを見て、吹いてしまった。
「俺のことなのか?いや、公表したつもりないんだが.....。」
その悩みは、次の一言で解消される。
「”なんでも、5回挑戦して勝つことが出来たらしいのです。すごいですよね、複数人で戦うのが想定された中、単騎で討伐するなんて。私も憧れますね~、今日のニュースはここまでです。“」
俺じゃない。てことは、俺以外に単騎で倒した奴がいるのか。面白い、どうやって倒したのか気になるが、探し出すのは難しいだろう。いや、公表しているということは少なくとも誰か知っているはずだ。つまり、間違った情報かもしれないということ。まぁ、そんなの流して、特になるわけないんだがな。
俺は、カレーを食べ終えた食器を洗い、ある友人に電話をかける。それはもちろん.....
「なんだい?映遊。」
「珍しいな、この時間帯に起きてるなんて。」
「何言ってるんだい、かけてきたのはそっちだろ?」
まぁ、そうなんだが.....それよりも、
「ボスバトルは、したのか?」
「もちろん、組織のみんなで戦ったよ。」
「勝ったのか?」
「そうだけど.....どうかしたかい?」
「いや.....、」
愛流瑠の所属している組織は、ボスバトルで勝てる強さなのか。と、いうことはそれだけ規模が大きいのか、上位プレーヤーが沢山いるのか.....どちらにせよ、いいところに入れてよかったな。
「そういう君は、どうなんだい?」
「俺は、組織にも所属してないから、縁のない話だ。」
「そうかい、今回は私に分があるようだね。」
「ははは.....、」
まぁ、表上はそうだよな。今の俺を公表したら、それこそチーター認定だ。そうなっては、ゲームを楽しく遊べない。だから、愛流留に分があるというのは、あながち間違ってはいない。
夏の6時なんて、まだ昼といってもいいほどの暑さだ。太陽もまだ沈まず、窓を開けても風なんて入ってこない。ゲームに熱中しすぎて、熱中症になるなんてこの時代にとっては当たり前.....な訳ないよね。クーラーつけるし、普通。
俺は、電話をきり運動がてら近くの空き地まで足を進めた。
「本当、誰もいないよな。」
時間が時間だが、流石に1人もいないのはおかしくないか?やっぱり、『ARS』してるのか?まぁ、無料だし、そうかな。
傾き始めた太陽が、俺を真っ向から照らす。眩しくて、目を瞑るのだが赤さは変わらず、俺の眼を焼き付けるかのように照らしてくる。そのまま足取りを進めて、空き地へ入る。流石に、うるさいことは出来ないので、静かに体操を始める。ここは、芝なので地面に倒れても怪我は少ない.....はずだ。
俺は、子供から体操を続けている。全てをAI.....機械に任せたこのご時世、人がすることといったら、スポーツ以外ありえない。つまり、それぞれが子供の頃から何かを続けているということだ。
なぜ体操をしているのかというと、簡単に言えば親にやらされただな。なんでも、仮想世界の中では、身体能力が反映されるものもあるらしい。だから、体操をして身体能力を上げ、ゲームを有利に進めてほしいとのこと。まぁ、今思えばとてもありがたいことだから、俺はありがたく思っている。
「さて、そろそろ終わろうかな。」
バク転、バク宙、ハンドスプリング、全宙などなど、高難度の技をすらすらとこなす。
回転するたびに、赤々しい陽光が眼に入ってくるがそのたびに目を瞑ってしまう。目を瞑ると、もちろん前が見えなくなるため着地が怖くなってしまう。まぁ、慣れたら大丈夫だけど.....。
俺は、まだ光を失っていない太陽を背に家への帰路を辿る。夏といえど夜が近くなるにつれ気温は、下がっていく。その差が、たった1度であろうとも。
「ただいま。」
現在時刻は、6時57分。誰も起きているはずはない。俺は、誰もいないリビングへと足を進めた。カレーは全て食べてしまったため、夕食は1から作らなければいけない。栄養バランスを考えると.....これか。
俺は、餃子に肉じゃが、親子丼とキャベツを千切りにしたものを作ることにした。これなら、簡単に今ある材料で作ることができる。俺は早速、料理に取り掛かることにした。今のご時世、家を出る人は結婚した場合でしか起きないことだ。つまり、本来なら料理なんてしなくていいんだが.....俺はできることは1人でしたい派だ。それは、ゲームであっても現実であっても、だ。
「さて、大体終わったしこれからどうしようかな.....。」
ゲームを再開するかでも、もうすぐ7時だし夜食と風呂は先に入っておきたい。となると、今から風呂を沸かすとしてその間は何をしようか。テレビはどうせ、ボスバトルの話題で持ちきりだし、ネットもそうだろう。となると、先に夜食を食べるしかないか。
俺は、ご飯をよそい卵をかける。皿に、肉じゃがとキャベツの千切りを盛り付ける。キャベツの千切りに、マヨネーズと醤油をかけて一気に頬張る。気づいた時には、皿の上には何も無くなっていた。茶碗にも2粒のご飯粒を残して大盛りだった親子丼が一瞬にして消えていた。
俺は、食器を洗い丁度沸いた風呂に入る。
「明日は何するかな~、まぁボスバトルか。レベルは上がらないが、楽しいからオッケーということで.....単騎で頑張りますか。」
さて、明日はどんな冒険ができるかな。今から楽しみだ。
____________________________________________________
「なるほど、やはり単騎で戦うか。」
「名乗りを上げた、謎のプレーヤーですか?5回目で倒すなんて、我々の常識を上回ってくる。」
「そうじゃない、これは想定内だ。ただ、まさか2人もいるなんてな。これは予想外だ。」
「2人ですか?まぁ、あの人の言うことはよく分からないし、いっか。」
「それより、最近発覚した不正の方が心配だ。」
「あぁ、あの『囚われの死』ですか?」
「それについては、大丈夫です。私の方で、対処しておきますので。」
「頼んだぞ、博羅。」
「分かりました。」
さて、今回もいいデータが取れたな。まさか、単騎で2回も勝ってしまうなんて、レベルが制限されているにもかかわらず、さすがと言ったところか。明日は、どうなるのか。それに、彼なら残り4日でこのゲームをクリアしてしまうかもしれない。そうなったら、彼を呼ぶとしよう。まぁ、すでに決定事項なんだがな。
「ボスバトルの追加!?」
俺は、食卓でパンをかじりながらそう叫ぶ。
「お兄ちゃん、食事中は携帯見ちゃだめなんだよ。」
「そう言ってもな、ボスバトルだぞ?ボスバトル。まさか、テストプレイ期間に新機能が追加されるなんて.....。」
でも、レベルアップ機能については何も書かれていない。いや、1つある。え~と、『このボスバトルでは、レベルが上がりません』か。なるほど、まぁこれは共闘だから、経験値を振り分けるのが大変なんだろう。
共闘とは、組織同士が協力しあって戦ってもよし、単騎で戦ってもよし。ようは、1人からなら、何人でも参加オッケーだということだ。
俺は、食事を終えるとすぐさま部屋に戻る。そして、ブレインウェーブを装着してゲームの世界へ入り込む。
「ボスバトルか、パーティーを組んでいない俺に取って、難問でしかないな。まぁ、それでこそ面白いってもんだ。」
俺は、早速ギルドへ足を運ぶ。木栓板から、ボスバトルの依頼書を受付嬢に、提出する。
「よろしいのですか?お1人で。」
「大丈夫ですよ。」
俺が依頼を受けると、足元に転移の魔法陣が展開される。あの時と同じだ、つまり『強襲の巌窟』はボスバトルなのか?いや、始めの移動は徒歩だった。つまり、外部からの干渉?想定外の、ことだったのだろう。
ここは.....、
周りを見回すと、岩で覆われた洞窟のようだった。似ているな、あそこと。
「さて、俺が戦うボスモンスターは一体どい.....でか。」
真上を見ると、そこには身長20mくらいの半人牛獣が立っていた。
「マジか、確かにこれなら複数人で戦わないと、勝てないわ。まぁ、単騎で挑んで勝てばいい話。そして、皆んなに希望を見せるんだ。まぁ、公表はしないけど。」
さて、いっちょやりますか。
「ガルト流剣術 スライト!」
火を剣撃に乗せて半人牛獣の足を攻撃する。直接は斬っていないので、実質遠距離攻撃ということだ。
「ははは、やっぱりダメか。」
無傷、やっぱりか。俺の火力じゃ、MAXで腕1本斬れるかどうか.....。しかし、やってみないと分からない。だったら、試すしかないじゃないか。
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺は、ガルト流剣術を追撃として5回、10回、15回、20回.....、永遠と続けていく。同じ箇所を斬りつけていけば、傷はどんどん深くなっていく。
「くっ、」
「ヴァァァァァァァァァァァ!!!!!」
半人牛獣は、雄叫びとともに手に持っていた斧を、俺に振りかざしてきた。
「まずっ、」
俺は、すかさず空中に退避し次の攻撃を交わそうとした。
「ヴァァァァァァァァァァァ!!!!!」
しかし、次の攻撃を俺は避けることが出来なかった。
「しまっ.....、」
バァンッ!!壁に打ちつけられる。壁には、ヒビが入り亀裂が周りへと広がっていく。
俺は、何とか着地には成功したものの、骨が何本か折れた.....気がする。まぁ、ゲームだから実際にどうなっているか分からないが、ダメージは相当なものだろう。
「ふっ、まさかここまで追い詰められるとは.....流石に1人では厳しか。だが、ここで死ぬほど俺も落ちぶれちゃいない。最後まで、抗わせてもらうぜ。」
「ヴァァァァァァァァァァァ!!!!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ゴオオオオンッ!!!斧と剣が混じり合う音。
重いな、でも受けきれないわけじゃない。
「デシ・ディフェンシル!!」
よし、何とか受けきれた。でも、まだ勝ったわけじゃない。慢心するな、その油断が身を滅ぼすことになる。
「ヴァァァァァァァァァァァ!!!!!」
怒りの咆哮、さっきよりも気が強くなっている。だが勝機が無くなったわけじゃない。
「これが、俺の隠し球.....デシ・スーダ!!」
これは、相手のステータスをダウンさせる魔法。これにより、半人牛獣のステータスは、ランクBのモンスターと同じになる。
「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!ガルト流剣術 スライト・ポーク!!!」
俺の突きは、半人牛獣の心臓を捉えた。皮膚は硬かったが、一点だけを突くことで心臓まで剣が届いた。
半人牛獣が、煙になる。
「やっ、やったー!!」
1人で倒せた、これならレベルもって、そうだった。経験値は入らないんだった。
「デシ・スーダか、これはこれからも使えそうだな。」
そうこうしていると、ここに来た時と同じように足元に転移魔法が現れる。気づけば、ギルドに立っていた。
「達成おめでとうございます。こちらが、報酬の50000レルトです。」
5.....50000レルト!!?そ、そうか、これは共闘だから報酬が複数人に分け与えられる。つまり、俺は異例ということか.....ははは。
右手が動く、意識せずとも勝手に。Σをかき、アルバレコードを開く。
「2つ名が.....増えてる!?」
無謀.....か。まさか、3つも2つ名を手に入れてしまうとは.....これは確かに、異例なようだな。まぁ、誇れるものが何1つないのが、ちょっとあれだけど.....まぁいいか。
「あっ、君は.....。」
俺は、声の聞こえた方に視線を向けた。
「クッ、クルル.....。」
そこには、クルルだけでなく1つの組織並の人数がいた。クルルが所属している組織なのだろうか?まぁ、関係のないことか。
「クルル、この方は?」
「あぁ、私を助けてくれた冒険者だよ。前に言ってた。」
「あぁ、彼でしたか。ありがとうございます、この子時間にはうるさくて。デスペナルティでさえ、惜しいと言っているんです。」
「はぁ、そうですか.....。」
デスペナルティも惜しかったのか、でも助けたことを感謝してもらうのは、素直に嬉しいな。
「その様子だと、ボスバトルの後なのか?」
「はい、いや~かなり苦戦しましたよ。そういう貴方は?」
「普通に良い依頼を探してただけだ。流石に1人では厳しいからな。」
「そうですね。」
1人で倒したなんて、隠しておかなくては.....バレると相当まずいことになるぞ。まぁ、バレたらの話だ。バレたらの。
「フェーズ、私を1人にしてくれないか?彼に、お礼を言いたいんだ。」
「いいですよ。さ、皆さん。我々の拠点に戻りましょう。」
拠点。それは、組織ごとに所有している家みたいなものだ。そもそも、組織自体決められた数しかなく、その分しか拠点も用意されていない。
「で、何だ?用って。」
「あの時の礼を、正式に言おうと思ってね。あの時は、逃げられてしまったから。」
「逃げられたって、言い方が悪いだろ。」
まぁ、実際にそうなんですけどね。
「クルルさん、この人誰ですか?」
「ん?あぁ、言ってなかったね。彼は.....えっと、名前を聞いていなかったね。ていうか、私名前を言った覚えがないんだけど.....。」
そういえば、名前聞いていなかったな。
「あぁ、テレビで前に見たからだ。ランクCに、到達したって。」
「あぁ、それでか。それで、君の名前は?」
「ミライだ、ミライ。」
「ミライか、わかったありがとう。あぁ、この子はリーフル。私の友達だ。」
「リーフルです。貴方、一体クルルさんとどういう関係なんですか?」
「え~と、」
関係って言っても、ただ助けただけだし.....深い関係なんてないんだが。
「助けた、だけ?」
「クルルさんが貴方より弱いなんて、あり得ません。」
「ちょっと、リーフル。そんなこと言ったらダメなんだぞ?」
「そうなんですが.....も~う、仕方ありません。今日は見逃します。ですが、次はありませんからね!いいですか!」
「は、はい。」
そういうと、組織の元に戻っていった。いいな、仲間がいるって。まぁ、俺は1人でするって決めたんだし、パーティーも組まないんだけどな。まぁ、組織に入っても、単騎で動けばいいだけかもしれないけど.....。
俺は、ギルドの椅子に腰掛る。
「一旦、ログアウトするか。少し疲れたからな。」
俺は、ブレインウェーブを外してリビングに降りる。
「あっ、お兄ちゃん。ボスバトル、どうだった?」
「凄かった、骨が折れたと思ったぜ。」
「ふ~ん。そうなんだ。」
俺は、棚にしまってあったどら焼きを取り妹の前に座って食べる。
「ねぇ、それを私の前で食べるということは、煽ってるの?お兄ちゃん。」
「は?お前には、前あげただろ。」
「ヤダヤダヤダ、もっと欲し~い。」
「仕方ない、ほら。」
俺は、机にお金を置く。インターネットで買えばいいと思うかもしれないが、この時代では禁止されている。なぜなら、ただでさえ体育の授業より、eスポーツの授業の方が多くなっている上、交通手段もバスや電車。運動なんて、気晴らしにしかしない。そんなのでは、体が脆くなってしまうので、せめて買い物くらい徒歩で行けと.....でも、家の隣にスーパーがあるなんて、この時代では珍しくない。まぁ、ウチはそうでもないし.....ね。
「買ってきてよ~。」
「駄々をこねるな、駄々を。そんなんだったら、この金も渡さないぞ。」
「そんな~、分かったよ、行くよ~。」
ふぅ、妹を動かすのも一苦労。まぁ、素直でいいんだけど。
どら焼きを食べ終えた俺は、部屋に戻りノートを開く。
「さて、今日覚えた魔法は.....。」
俺は、このノートに自分の使える魔法をまとめることにしている。そうすることで、効率よくボスを倒す方法や、依頼を達成する方法を考えられるからだ。時間の制約がなければ、こんなことしないんだけどね。
「ボスは、ランクB以上のモンスターの、巨大でステータスが上がった版だと思えばいいのか。だとしたら、デシ・スーダで対応できそうだな。そして、レベル1の状態ではやはり急所を突くしかない。半人牛獣は、斬撃攻撃だけだったから何とかなったけど、それ以外はそう簡単には行かないだろう。だったら、魔法をランクアップさせるしかないか。」
魔法には、5つの属性と6つのランクが存在する。火、水、土、風、無の5つが魔法の属性の種類だ。そして『デシ→デカ→キロ→メガ→ギガ→テラ』の順で強さが決まっている。ランクは、熟練度によって上げることができる。また、このゲームでは魔法を複数もっている者と使えない者も、存在する。魔法を使えないもののために、剣術が存在している。まぁ、滅多にないことなんだけどね。
「だとしたら、今日は沢山魔法を使って、熟練度を上げるか。」
俺は、ブレインウェーブを装着する。
「さて、魔法の熟練度を上げやすいような依頼は.....と。あった、これだ。」
小鬼は、必ず群れて現れる。つまり、1体1体に魔法を使えばそれだけ熟練度が上がりやすくなる。
「よ~し、張り切ってやるぞ!」
俺は、早速小鬼が出る森を目指して走り出した。
「いた!」
早速、10体のゴブリンを発見する。
1体1体に、デシ・スーダをかけていく。そして、
「はぁ!ガルト流剣術奥義 スライト・エヴィドラネックス!!」
これで、一掃する。次のランクに上げるには、あと90回魔法を使うしかない。しかし、残りのMPを見ると後10回しか使えない。でも、ポーションを大量に持ってきたからそこは心配する必要はない。
結局、2時間もかかってしまった。
「でもこれで.....、」
俺は、アルバレコードを確認する。
「やったー!デカ・スーダになってる。これで、ボスもランクCになる.....はず?いや、ランクBとランクCの間か?まぁ、試せば分かる話か!」
俺は、早速ギルドへ向かう。
「これが、次に倒すボスモンスターか。」
鷲獅子獣か。剣を使う俺にとって、最大の天敵といっても過言ではない。ただ、剣術を使えば倒すこともできる。あたれば、だが。
俺は、一息つくと、こう叫ぶ。
「デカ・スーダ!!!」
これで、今の俺でも倒せるレベルになったはずだ。しかし、どうしたものか.....剣撃に火を乗せて飛ばしても、軽々と避けられてしまう。
「グルァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
鷲獅子獣の攻撃パターンは、突進と口からの光線。そして、羽を自由自在に動かすことができる。
咆哮と共に、無数の羽をこちらに向かって飛ばしてくる。俺は、間合いに入った羽を剣で斬り落とす。しかし、こちらから攻撃をすることは出来ない。
「くっ、このままだとジリ貧だ。鷲獅子獣は、攻撃できるのに俺は、攻撃できない。しかも、向こうは無数の羽を持っている。MPも限られている中、デシ・ディフェンシルで防ぐのは難しい。となると、こちらが持っている攻撃手段は.....投擲、あるいは行動を制限した中での攻撃か.....どちらも現実味がないな。」
結局のところ、ここでは魔法攻撃が推定されているのか。つまり、無属性の俺には勝ち目がない。死ぬか?死んでリセットするか?いや、ダメだな。それじゃぁ、無謀の名が廃る。どんな手を使ってでも、倒してやる。考えろ、考えろ、どんな奇抜な策でもいい。倒せればいいんd.....。
「グルァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
俺は、鷲獅子獣の突進をモロに食らってしまった。また。骨が折れた感じがした。俺は毎回1回は、攻撃を喰らわないと行けないのか?よそ見は、厳禁だな。
「ふっ、やってくれたな!次来たら、デシ・ディフェンシルで防いでや.....デシ・ディフェンシル?そうか!これでいけるかもしれない。」
俺は、策のために鷲獅子獣の真下まで走って移動する。そして、
「デシ・ディフェンシル!」
俺は、跳躍し自分の真下にデシ・ディフェンシルを放つ。そして、それを足場にして、
「デシ・ディフェンシル!」
もう一度、デシ・ディフェンシルを真下に放つ。そして、それを足場にして.....の繰り返し。
「デシ・ディフェンシル!」
もちろん、鷲獅子獣には避けられる。突進してきた場合、突いて倒せるようにと真下まで来たが、やはり意味はないか。だがしかし、俺は鷲獅子獣よりも高い位置にいる。そして今度は、壁を蹴り鷲獅子獣に向かって突進する。鷲獅子獣が躱したときが、好機。俺は、鷲獅子獣に向かって、スライトを放つ。もちろん、移動し始めなので別方向に動くのは難しい。
しかし俺の放ったスライトは、鷲獅子獣の翼に命中した。
「まずっ、」
俺はここで倒せると思っていたので、落下のことは考えていなかった。まさか、空中で狙いがズレるとはな。
もちろん、鷲獅子獣も落下しているが、俺よりも速さは遅い。このままだと、俺が地面に衝突する。
「仕方ない、最後の足掻きだ。」
俺は、そういうと心を決めて、
「デシ・グレア!」
と、叫ぶ。剣ではなく、身体を強化する。まぁ、多分無理だと思うが....賭けだ。耐えれば俺の勝ち、死ねば鷲獅子獣の勝ちだ。
俺は、目を瞑らずそのまま降下する。ドスッ、俺は地面に衝突した。身体中痛いが、死んではいないらしい。
「ははは、俺の勝ちだ鷲獅子獣。」
「グルァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
鷲獅子獣は、最後の足掻きで首をあらゆる方向に向けながら、光線を放つ。しかし、それは俺に当たることはなかった。
俺の体の周りに、転移の魔法陣が展開する。どうやら、鷲獅子獣が死んだらしい。
勝ちか、だがこの傷を治すには最低でも1日はかかるだろうな。実質的な、負けか。
そう思っていると、ギルドの中に立っていた。
「あれ?動ける、痛くない。」
「達成おめでとうございます。こちらが、報酬の50000レルトです。」
そうだった、でも今は痛みが消えたのが衝撃的すぎて頭に入ってこない。
俺は、50000レルトを受け取ると、ギルドを後にした。その後、宿屋に入りログアウトする。現在時刻は、5時39分だった。
俺は、ブレインウェーブを外すとリビングへ降りていく。
「あっ、お兄ちゃん遅~い。昼、食べなかったでしょ?」
「なんだ、別にいいだろ。そういうお前は、勝ってきたのか?どら焼き。」
「うん、でも帰ってきてからまだ食べてないんだ。」
「え?なんで。」
妹が、どら焼きを買って食べないなんて以上事態だ。
「大丈夫か?俺がわかるか?病院行くか?」
「もう、心配しすぎ。そんなんじゃないから。はい、これ。」
「え?」
妹の手には、どら焼きがあった。
「これは?」
「お兄ちゃんの分。前に、買ってきてくれたでしょ?だから、そのお返し。」
うっ、なんて優しいんだ。俺は、こんな妹を持てて幸せだ。
俺と妹は2人、一緒にどら焼きを食べた。妹は、部屋に戻り俺は食べ損ねた昼食を食べる。もちろん、カレーだ。
テレビをつけると、脳にチップを埋め込む可能性についての番組がやっていたが、面白くなかったのでチャンネルを変える。
「”今回は、ボスバトルについての話題を取り上げていきます。“」
初日もそうだったが、やはり『ARS』の話題が多いように見える。まぁ、テストプレイ期間中に新機能を追加するのなんて、前代未聞だからな。
「”テストプレイ期間中の追加機能。明かされていた詳細以外に、我々は新たな情報を手に入れました。まず1つ、ボスモンスターを倒せば、HPは全回復するとのことです。『死に戻り』が開発された中、死ぬより倒した方が早いという運営側からの、挑戦状なのでしょうか?“」
なるほど、だから全回していたのか。バクかと思ったぜ。
「”そして、もう1つ。なんと、ボスモンスターを単騎で討伐したプレイヤーが存在するらしいのです。“」
ブッ、俺はニュースを見て、吹いてしまった。
「俺のことなのか?いや、公表したつもりないんだが.....。」
その悩みは、次の一言で解消される。
「”なんでも、5回挑戦して勝つことが出来たらしいのです。すごいですよね、複数人で戦うのが想定された中、単騎で討伐するなんて。私も憧れますね~、今日のニュースはここまでです。“」
俺じゃない。てことは、俺以外に単騎で倒した奴がいるのか。面白い、どうやって倒したのか気になるが、探し出すのは難しいだろう。いや、公表しているということは少なくとも誰か知っているはずだ。つまり、間違った情報かもしれないということ。まぁ、そんなの流して、特になるわけないんだがな。
俺は、カレーを食べ終えた食器を洗い、ある友人に電話をかける。それはもちろん.....
「なんだい?映遊。」
「珍しいな、この時間帯に起きてるなんて。」
「何言ってるんだい、かけてきたのはそっちだろ?」
まぁ、そうなんだが.....それよりも、
「ボスバトルは、したのか?」
「もちろん、組織のみんなで戦ったよ。」
「勝ったのか?」
「そうだけど.....どうかしたかい?」
「いや.....、」
愛流瑠の所属している組織は、ボスバトルで勝てる強さなのか。と、いうことはそれだけ規模が大きいのか、上位プレーヤーが沢山いるのか.....どちらにせよ、いいところに入れてよかったな。
「そういう君は、どうなんだい?」
「俺は、組織にも所属してないから、縁のない話だ。」
「そうかい、今回は私に分があるようだね。」
「ははは.....、」
まぁ、表上はそうだよな。今の俺を公表したら、それこそチーター認定だ。そうなっては、ゲームを楽しく遊べない。だから、愛流留に分があるというのは、あながち間違ってはいない。
夏の6時なんて、まだ昼といってもいいほどの暑さだ。太陽もまだ沈まず、窓を開けても風なんて入ってこない。ゲームに熱中しすぎて、熱中症になるなんてこの時代にとっては当たり前.....な訳ないよね。クーラーつけるし、普通。
俺は、電話をきり運動がてら近くの空き地まで足を進めた。
「本当、誰もいないよな。」
時間が時間だが、流石に1人もいないのはおかしくないか?やっぱり、『ARS』してるのか?まぁ、無料だし、そうかな。
傾き始めた太陽が、俺を真っ向から照らす。眩しくて、目を瞑るのだが赤さは変わらず、俺の眼を焼き付けるかのように照らしてくる。そのまま足取りを進めて、空き地へ入る。流石に、うるさいことは出来ないので、静かに体操を始める。ここは、芝なので地面に倒れても怪我は少ない.....はずだ。
俺は、子供から体操を続けている。全てをAI.....機械に任せたこのご時世、人がすることといったら、スポーツ以外ありえない。つまり、それぞれが子供の頃から何かを続けているということだ。
なぜ体操をしているのかというと、簡単に言えば親にやらされただな。なんでも、仮想世界の中では、身体能力が反映されるものもあるらしい。だから、体操をして身体能力を上げ、ゲームを有利に進めてほしいとのこと。まぁ、今思えばとてもありがたいことだから、俺はありがたく思っている。
「さて、そろそろ終わろうかな。」
バク転、バク宙、ハンドスプリング、全宙などなど、高難度の技をすらすらとこなす。
回転するたびに、赤々しい陽光が眼に入ってくるがそのたびに目を瞑ってしまう。目を瞑ると、もちろん前が見えなくなるため着地が怖くなってしまう。まぁ、慣れたら大丈夫だけど.....。
俺は、まだ光を失っていない太陽を背に家への帰路を辿る。夏といえど夜が近くなるにつれ気温は、下がっていく。その差が、たった1度であろうとも。
「ただいま。」
現在時刻は、6時57分。誰も起きているはずはない。俺は、誰もいないリビングへと足を進めた。カレーは全て食べてしまったため、夕食は1から作らなければいけない。栄養バランスを考えると.....これか。
俺は、餃子に肉じゃが、親子丼とキャベツを千切りにしたものを作ることにした。これなら、簡単に今ある材料で作ることができる。俺は早速、料理に取り掛かることにした。今のご時世、家を出る人は結婚した場合でしか起きないことだ。つまり、本来なら料理なんてしなくていいんだが.....俺はできることは1人でしたい派だ。それは、ゲームであっても現実であっても、だ。
「さて、大体終わったしこれからどうしようかな.....。」
ゲームを再開するかでも、もうすぐ7時だし夜食と風呂は先に入っておきたい。となると、今から風呂を沸かすとしてその間は何をしようか。テレビはどうせ、ボスバトルの話題で持ちきりだし、ネットもそうだろう。となると、先に夜食を食べるしかないか。
俺は、ご飯をよそい卵をかける。皿に、肉じゃがとキャベツの千切りを盛り付ける。キャベツの千切りに、マヨネーズと醤油をかけて一気に頬張る。気づいた時には、皿の上には何も無くなっていた。茶碗にも2粒のご飯粒を残して大盛りだった親子丼が一瞬にして消えていた。
俺は、食器を洗い丁度沸いた風呂に入る。
「明日は何するかな~、まぁボスバトルか。レベルは上がらないが、楽しいからオッケーということで.....単騎で頑張りますか。」
さて、明日はどんな冒険ができるかな。今から楽しみだ。
____________________________________________________
「なるほど、やはり単騎で戦うか。」
「名乗りを上げた、謎のプレーヤーですか?5回目で倒すなんて、我々の常識を上回ってくる。」
「そうじゃない、これは想定内だ。ただ、まさか2人もいるなんてな。これは予想外だ。」
「2人ですか?まぁ、あの人の言うことはよく分からないし、いっか。」
「それより、最近発覚した不正の方が心配だ。」
「あぁ、あの『囚われの死』ですか?」
「それについては、大丈夫です。私の方で、対処しておきますので。」
「頼んだぞ、博羅。」
「分かりました。」
さて、今回もいいデータが取れたな。まさか、単騎で2回も勝ってしまうなんて、レベルが制限されているにもかかわらず、さすがと言ったところか。明日は、どうなるのか。それに、彼なら残り4日でこのゲームをクリアしてしまうかもしれない。そうなったら、彼を呼ぶとしよう。まぁ、すでに決定事項なんだがな。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
真実の愛ならこれくらいできますわよね?
かぜかおる
ファンタジー
フレデリクなら最後は正しい判断をすると信じていたの
でもそれは裏切られてしまったわ・・・
夜会でフレデリク第一王子は男爵令嬢サラとの真実の愛を見つけたとそう言ってわたくしとの婚約解消を宣言したの。
ねえ、真実の愛で結ばれたお二人、覚悟があるというのなら、これくらいできますわよね?
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる