VR事変 混淆する陰謀と策略

ミライ164

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テストプレイ

3日目

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 8月20日、テストプレイ3日目。今日、この世界に革新が起こる。

 「ボスバトルの追加!?」

 俺は、食卓でパンをかじりながらそう叫ぶ。

 「お兄ちゃん、食事中は携帯見ちゃだめなんだよ。」

 「そう言ってもな、ボスバトルだぞ?ボスバトル。まさか、テストプレイ期間に新機能が追加されるなんて.....。」

 でも、レベルアップ機能については何も書かれていない。いや、1つある。え~と、『このボスバトルでは、レベルが上がりません』か。なるほど、まぁこれは共闘マッチバトルだから、経験値を振り分けるのが大変なんだろう。
 共闘マッチバトルとは、組織グループ同士が協力しあって戦ってもよし、単騎で戦ってもよし。ようは、1人からなら、何人でも参加オッケーだということだ。
 俺は、食事を終えるとすぐさま部屋に戻る。そして、ブレインウェーブを装着してゲームの世界へ入り込む。

 「ボスバトルか、パーティーを組んでいない俺に取って、難問でしかないな。まぁ、それでこそ面白いってもんだ。」

 俺は、早速ギルドへ足を運ぶ。木栓板コルクボードから、ボスバトルの依頼書を受付嬢に、提出する。

 「よろしいのですか?お1人で。」

 「大丈夫ですよ。」

 俺が依頼を受けると、足元に転移の魔法陣が展開される。あの時と同じだ、つまり『強襲の巌窟』はボスバトルなのか?いや、始めの移動は徒歩だった。つまり、外部からの干渉?想定外の、ことだったのだろう。
 ここは.....、
 周りを見回すと、岩で覆われた洞窟のようだった。似ているな、あそこと。

 「さて、俺が戦うボスモンスターは一体どい.....でか。」

 真上を見ると、そこには身長20mくらいの半人牛獣ミノタウロスが立っていた。

 「マジか、確かにこれなら複数人で戦わないと、勝てないわ。まぁ、単騎で挑んで勝てばいい話。そして、皆んなに希望を見せるんだ。まぁ、公表はしないけど。」

 さて、いっちょやりますか。

 「ガルト流剣術 スライト!」

 火を剣撃に乗せて半人牛獣ミノタウロスの足を攻撃する。直接は斬っていないので、実質遠距離攻撃ということだ。

 「ははは、やっぱりダメか。」

 無傷、やっぱりか。俺の火力じゃ、MAXで腕1本斬れるかどうか.....。しかし、やってみないと分からない。だったら、試すしかないじゃないか。

 「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 俺は、ガルト流剣術を追撃コンボとして5回、10回、15回、20回.....、永遠と続けていく。同じ箇所を斬りつけていけば、傷はどんどん深くなっていく。

 「くっ、」

 「ヴァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 半人牛獣ミノタウロスは、雄叫びとともに手に持っていた斧を、俺に振りかざしてきた。

 「まずっ、」

 俺は、すかさず空中に退避し次の攻撃を交わそうとした。

 「ヴァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 しかし、次の攻撃を俺は避けることが出来なかった。

 「しまっ.....、」

 バァンッ!!壁に打ちつけられる。壁には、ヒビが入り亀裂が周りへと広がっていく。
 俺は、何とか着地には成功したものの、骨が何本か折れた.....気がする。まぁ、ゲームだから実際にどうなっているか分からないが、ダメージは相当なものだろう。

 「ふっ、まさかここまで追い詰められるとは.....流石に1人では厳しか。だが、ここで死ぬほど俺も落ちぶれちゃいない。最後まで、抗わせてもらうぜ。」

 「ヴァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 ゴオオオオンッ!!!斧と剣が混じり合う音。
 重いな、でも受けきれないわけじゃない。

 「デシ・ディフェンシル!!」
 
 よし、何とか受けきれた。でも、まだ勝ったわけじゃない。慢心するな、その油断が身を滅ぼすことになる。

 「ヴァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 怒りの咆哮、さっきよりも気が強くなっている。だが勝機が無くなったわけじゃない。

 「これが、俺の隠し球.....デシ・スーダ!!」

 これは、相手のステータスをダウンさせる魔法。これにより、半人牛獣ミノタウロスのステータスは、ランクBのモンスターと同じになる。

 「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!ガルト流剣術 スライト・ポーク!!!」

 俺の突きは、半人牛獣ミノタウロスの心臓を捉えた。皮膚は硬かったが、一点だけを突くことで心臓まで剣が届いた。
 半人牛獣ミノタウロスが、煙になる。

 「やっ、やったー!!」

 1人で倒せた、これならレベルもって、そうだった。経験値は入らないんだった。

 「デシ・スーダか、これはこれからも使えそうだな。」

 そうこうしていると、ここに来た時と同じように足元に転移魔法が現れる。気づけば、ギルドに立っていた。

 「達成おめでとうございます。こちらが、報酬の50000レルトです。」

 5.....50000レルト!!?そ、そうか、これは共闘マッチバトルだから報酬が複数人に分け与えられる。つまり、俺は異例ということか.....ははは。
 右手が動く、意識せずとも勝手に。Σをかき、アルバレコードを開く。

 「2つ名が.....増えてる!?」

 無謀レコース.....か。まさか、3つも2つ名を手に入れてしまうとは.....これは確かに、異例なようだな。まぁ、誇れるものが何1つないのが、ちょっとあれだけど.....まぁいいか。

 「あっ、君は.....。」

 俺は、声の聞こえた方に視線を向けた。

 「クッ、クルル.....。」

 そこには、クルルだけでなく1つの組織グループ並の人数がいた。クルルが所属している組織グループなのだろうか?まぁ、関係のないことか。

 「クルル、この方は?」

 「あぁ、私を助けてくれた冒険者だよ。前に言ってた。」

 「あぁ、彼でしたか。ありがとうございます、この子時間にはうるさくて。デスペナルティでさえ、惜しいと言っているんです。」

 「はぁ、そうですか.....。」
 
 デスペナルティも惜しかったのか、でも助けたことを感謝してもらうのは、素直に嬉しいな。

 「その様子だと、ボスバトルの後なのか?」

 「はい、いや~かなり苦戦しましたよ。そういう貴方は?」

 「普通に良い依頼を探してただけだ。流石に1人では厳しいからな。」

 「そうですね。」

 1人で倒したなんて、隠しておかなくては.....バレると相当まずいことになるぞ。まぁ、バレたらの話だ。バレたらの。

 「フェーズ、私を1人にしてくれないか?彼に、お礼を言いたいんだ。」

 「いいですよ。さ、皆さん。我々の拠点ホームに戻りましょう。」

 拠点ホーム。それは、組織グループごとに所有している家みたいなものだ。そもそも、組織グループ自体決められた数しかなく、その分しか拠点ホームも用意されていない。

 「で、何だ?用って。」

 「あの時の礼を、正式に言おうと思ってね。あの時は、逃げられてしまったから。」

 「逃げられたって、言い方が悪いだろ。」
 
 まぁ、実際にそうなんですけどね。

 「クルルさん、この人誰ですか?」

 「ん?あぁ、言ってなかったね。彼は.....えっと、名前を聞いていなかったね。ていうか、私名前を言った覚えがないんだけど.....。」

 そういえば、名前聞いていなかったな。

 「あぁ、テレビで前に見たからだ。ランクCに、到達したって。」

 「あぁ、それでか。それで、君の名前は?」

 「ミライだ、ミライ。」

 「ミライか、わかったありがとう。あぁ、この子はリーフル。私の友達だ。」

 「リーフルです。貴方、一体クルルさんとどういう関係なんですか?」

 「え~と、」

 関係って言っても、ただ助けただけだし.....深い関係なんてないんだが。

 「助けた、だけ?」

 「クルルさんが貴方より弱いなんて、あり得ません。」

 「ちょっと、リーフル。そんなこと言ったらダメなんだぞ?」

 「そうなんですが.....も~う、仕方ありません。今日は見逃します。ですが、次はありませんからね!いいですか!」

 「は、はい。」

 そういうと、組織グループの元に戻っていった。いいな、仲間がいるって。まぁ、俺は1人でするって決めたんだし、パーティーも組まないんだけどな。まぁ、組織グループに入っても、単騎で動けばいいだけかもしれないけど.....。
 俺は、ギルドの椅子に腰掛る。

 「一旦、ログアウトするか。少し疲れたからな。」

 俺は、ブレインウェーブを外してリビングに降りる。

 「あっ、お兄ちゃん。ボスバトル、どうだった?」

 「凄かった、骨が折れたと思ったぜ。」

 「ふ~ん。そうなんだ。」

 俺は、棚にしまってあったどら焼きを取り妹の前に座って食べる。

 「ねぇ、それを私の前で食べるということは、煽ってるの?お兄ちゃん。」

 「は?お前には、前あげただろ。」

 「ヤダヤダヤダ、もっと欲し~い。」

 「仕方ない、ほら。」

 俺は、机にお金を置く。インターネットで買えばいいと思うかもしれないが、この時代では禁止されている。なぜなら、ただでさえ体育の授業より、eスポーツの授業の方が多くなっている上、交通手段もバスや電車。運動なんて、気晴らしにしかしない。そんなのでは、体が脆くなってしまうので、せめて買い物くらい徒歩で行けと.....でも、家の隣にスーパーがあるなんて、この時代では珍しくない。まぁ、ウチはそうでもないし.....ね。

 「買ってきてよ~。」

 「駄々をこねるな、駄々を。そんなんだったら、この金も渡さないぞ。」

 「そんな~、分かったよ、行くよ~。」

 ふぅ、妹を動かすのも一苦労。まぁ、素直でいいんだけど。
 どら焼きを食べ終えた俺は、部屋に戻りノートを開く。

 「さて、今日覚えた魔法は.....。」

 俺は、このノートに自分の使える魔法をまとめることにしている。そうすることで、効率よくボスを倒す方法や、依頼を達成する方法を考えられるからだ。時間の制約がなければ、こんなことしないんだけどね。

 「ボスは、ランクB以上のモンスターの、巨大でステータスが上がった版だと思えばいいのか。だとしたら、デシ・スーダで対応できそうだな。そして、レベル1の状態ではやはり急所を突くしかない。半人牛獣ミノタウロスは、斬撃攻撃だけだったから何とかなったけど、それ以外はそう簡単には行かないだろう。だったら、魔法をランクアップさせるしかないか。」

 魔法には、5つの属性と6つのランクが存在する。火、水、土、風、無の5つが魔法の属性の種類だ。そして『デシ→デカ→キロ→メガ→ギガ→テラ』の順で強さが決まっている。ランクは、熟練度によって上げることができる。また、このゲームでは魔法を複数もっている者と使えない者も、存在する。魔法を使えないもののために、剣術が存在している。まぁ、滅多にないことなんだけどね。

 「だとしたら、今日は沢山魔法を使って、熟練度を上げるか。」

 俺は、ブレインウェーブを装着する。

 「さて、魔法の熟練度を上げやすいような依頼は.....と。あった、これだ。」
 
 小鬼ゴブリンは、必ず群れて現れる。つまり、1体1体に魔法を使えばそれだけ熟練度が上がりやすくなる。

 「よ~し、張り切ってやるぞ!」

 俺は、早速小鬼ゴブリンが出る森を目指して走り出した。

 「いた!」

 早速、10体のゴブリンを発見する。
 1体1体に、デシ・スーダをかけていく。そして、

 「はぁ!ガルト流剣術奥義 スライト・エヴィドラネックス!!」

 これで、一掃する。次のランクに上げるには、あと90回魔法を使うしかない。しかし、残りのMPを見ると後10回しか使えない。でも、ポーションを大量に持ってきたからそこは心配する必要はない。
 結局、2時間もかかってしまった。

 「でもこれで.....、」

 俺は、アルバレコードを確認する。

 「やったー!デカ・スーダになってる。これで、ボスもランクCになる.....はず?いや、ランクBとランクCの間か?まぁ、試せば分かる話か!」

 俺は、早速ギルドへ向かう。

 「これが、次に倒すボスモンスターか。」

 鷲獅子獣グリフォンか。剣を使う俺にとって、最大の天敵といっても過言ではない。ただ、剣術を使えば倒すこともできる。、だが。
 俺は、一息つくと、こう叫ぶ。

 「デカ・スーダ!!!」

 これで、今の俺でも倒せるレベルになったはずだ。しかし、どうしたものか.....剣撃に火を乗せて飛ばしても、軽々と避けられてしまう。

 「グルァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 鷲獅子獣グリフォンの攻撃パターンは、突進と口からの光線。そして、羽を自由自在に動かすことができる。
 咆哮と共に、無数の羽をこちらに向かって飛ばしてくる。俺は、間合いに入った羽を剣で斬り落とす。しかし、こちらから攻撃をすることは出来ない。

 「くっ、このままだとジリ貧だ。鷲獅子獣あっちは、攻撃できるのにこっちは、攻撃できない。しかも、向こうは無数の羽を持っている。MPも限られている中、デシ・ディフェンシルで防ぐのは難しい。となると、こちらが持っている攻撃手段は.....投擲、あるいは行動を制限した中での攻撃か.....どちらも現実味がないな。」

 結局のところ、ここでは魔法攻撃が推定されているのか。つまり、無属性の俺には勝ち目がない。死ぬか?死んでリセットするか?いや、ダメだな。それじゃぁ、無謀レコースの名が廃る。どんな手を使ってでも、倒してやる。考えろ、考えろ、どんな奇抜な策でもいい。倒せればいいんd.....。

 「グルァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 俺は、鷲獅子獣グリフォンの突進をモロに食らってしまった。また。骨が折れた感じがした。俺は毎回1回は、攻撃を喰らわないと行けないのか?よそ見は、厳禁だな。

 「ふっ、やってくれたな!次来たら、デシ・ディフェンシルで防いでや.....デシ・ディフェンシル?そうか!これでいけるかもしれない。」
 
 俺は、策のために鷲獅子獣グリフォンの真下まで走って移動する。そして、

 「デシ・ディフェンシル!」

 俺は、跳躍し自分の真下にデシ・ディフェンシルを放つ。そして、それを足場にして、

 「デシ・ディフェンシル!」

 もう一度、デシ・ディフェンシルを真下に放つ。そして、それを足場にして.....の繰り返し。

 「デシ・ディフェンシル!」

 もちろん、鷲獅子獣グリフォンには避けられる。突進してきた場合、突いて倒せるようにと真下まで来たが、やはり意味はないか。だがしかし、俺は鷲獅子獣グリフォンよりも高い位置にいる。そして今度は、壁を蹴り鷲獅子獣グリフォンに向かって突進する。鷲獅子獣グリフォンが躱したときが、好機。俺は、鷲獅子獣グリフォンに向かって、スライトを放つ。もちろん、移動し始めなので別方向に動くのは難しい。
 しかし俺の放ったスライトは、鷲獅子獣グリフォンの翼に命中した。

 「まずっ、」

 俺はここで倒せると思っていたので、落下のことは考えていなかった。まさか、空中で狙いがズレるとはな。
 もちろん、鷲獅子獣グリフォンも落下しているが、俺よりも速さは遅い。このままだと、俺が地面に衝突する。

 「仕方ない、最後の足掻きだ。」

 俺は、そういうと心を決めて、

 「デシ・グレア!」

 と、叫ぶ。剣ではなく、身体を強化する。まぁ、多分無理だと思うが....賭けだ。耐えれば俺の勝ち、死ねば鷲獅子獣あいつの勝ちだ。
 俺は、目を瞑らずそのまま降下する。ドスッ、俺は地面に衝突した。身体中痛いが、死んではいないらしい。

 「ははは、俺の勝ちだ鷲獅子獣グリフォン。」

 「グルァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 鷲獅子獣グリフォンは、最後の足掻きで首をあらゆる方向に向けながら、光線を放つ。しかし、それは俺に当たることはなかった。
 俺の体の周りに、転移の魔法陣が展開する。どうやら、鷲獅子獣グリフォンが死んだらしい。
 勝ちか、だがこの傷を治すには最低でも1日はかかるだろうな。実質的な、負けか。
 そう思っていると、ギルドの中に立っていた。

 「あれ?動ける、痛くない。」

 「達成おめでとうございます。こちらが、報酬の50000レルトです。」

 そうだった、でも今は痛みが消えたのが衝撃的すぎて頭に入ってこない。
 俺は、50000レルトを受け取ると、ギルドを後にした。その後、宿屋に入りログアウトする。現在時刻は、5時39分だった。

 俺は、ブレインウェーブを外すとリビングへ降りていく。

 「あっ、お兄ちゃん遅~い。昼、食べなかったでしょ?」

 「なんだ、別にいいだろ。そういうお前は、勝ってきたのか?どら焼き。」

 「うん、でも帰ってきてからまだ食べてないんだ。」

 「え?なんで。」

 妹が、どら焼きを買って食べないなんて以上事態だ。

 「大丈夫か?俺がわかるか?病院行くか?」

 「もう、心配しすぎ。そんなんじゃないから。はい、これ。」

 「え?」

 妹の手には、どら焼きがあった。

 「これは?」

 「お兄ちゃんの分。前に、買ってきてくれたでしょ?だから、そのお返し。」

 うっ、なんて優しいんだ。俺は、こんな妹を持てて幸せだ。
 俺と妹は2人、一緒にどら焼きを食べた。妹は、部屋に戻り俺は食べ損ねた昼食を食べる。もちろん、カレーだ。
 テレビをつけると、脳にチップを埋め込む可能性についての番組がやっていたが、面白くなかったのでチャンネルを変える。

 「”今回は、ボスバトルについての話題を取り上げていきます。“」

 初日もそうだったが、やはり『ARS』の話題が多いように見える。まぁ、テストプレイ期間中に新機能を追加するのなんて、前代未聞だからな。

 「”テストプレイ期間中の追加機能。明かされていた詳細以外に、我々は新たな情報を手に入れました。まず1つ、ボスモンスターを倒せば、HPは全回復するとのことです。『死に戻り』が開発された中、死ぬより倒した方が早いという運営側からの、挑戦状なのでしょうか?“」

 なるほど、だから全回していたのか。バクかと思ったぜ。

 「”そして、もう1つ。なんと、ボスモンスターを単騎で討伐したプレイヤーが存在するらしいのです。“」

 ブッ、俺はニュースを見て、吹いてしまった。

 「俺のことなのか?いや、公表したつもりないんだが.....。」

 その悩みは、次の一言で解消される。

 「”なんでも、5回挑戦して勝つことが出来たらしいのです。すごいですよね、複数人で戦うのが想定された中、単騎で討伐するなんて。私も憧れますね~、今日のニュースはここまでです。“」

 俺じゃない。てことは、俺以外に単騎で倒した奴がいるのか。面白い、どうやって倒したのか気になるが、探し出すのは難しいだろう。いや、公表しているということは少なくとも誰か知っているはずだ。つまり、かもしれないということ。まぁ、そんなの流して、特になるわけないんだがな。
 俺は、カレーを食べ終えた食器を洗い、ある友人に電話をかける。それはもちろん.....

 「なんだい?映遊。」

 「珍しいな、この時間帯に起きてるなんて。」

 「何言ってるんだい、かけてきたのはそっちだろ?」

 まぁ、そうなんだが.....それよりも、

 「ボスバトルは、したのか?」

 「もちろん、組織グループのみんなで戦ったよ。」

 「勝ったのか?」

 「そうだけど.....どうかしたかい?」

 「いや.....、」

 愛流瑠の所属している組織グループは、ボスバトルで勝てる強さなのか。と、いうことはそれだけ規模が大きいのか、上位プレーヤーが沢山いるのか.....どちらにせよ、いいところに入れてよかったな。

 「そういう君は、どうなんだい?」

 「俺は、組織グループにも所属してないから、縁のない話だ。」

 「そうかい、今回は私に分があるようだね。」

 「ははは.....、」

 まぁ、表上はそうだよな。今の俺を公表したら、それこそチーター認定だ。そうなっては、ゲームを楽しく遊べない。だから、愛流留に分があるというのは、あながち間違ってはいない。
 夏の6時なんて、まだ昼といってもいいほどの暑さだ。太陽もまだ沈まず、窓を開けても風なんて入ってこない。ゲームに熱中しすぎて、熱中症になるなんてこの時代にとっては当たり前.....な訳ないよね。クーラーつけるし、普通。
 俺は、電話をきり運動がてら近くの空き地まで足を進めた。

 「本当、誰もいないよな。」

 時間が時間だが、流石に1人もいないのはおかしくないか?やっぱり、『ARS』してるのか?まぁ、無料だし、そうかな。
 傾き始めた太陽が、俺を真っ向から照らす。眩しくて、目を瞑るのだが赤さは変わらず、俺の眼を焼き付けるかのように照らしてくる。そのまま足取りを進めて、空き地へ入る。流石に、うるさいことは出来ないので、静かに体操を始める。ここは、芝なので地面に倒れても怪我は少ない.....はずだ。
 俺は、子供から体操を続けている。全てをAI.....機械に任せたこのご時世、人がすることといったら、スポーツ以外ありえない。つまり、それぞれが子供の頃から何かを続けているということだ。
 なぜ体操をしているのかというと、簡単に言えば親にやらされただな。なんでも、仮想世界の中では、身体能力が反映されるものもあるらしい。だから、体操をして身体能力を上げ、ゲームを有利に進めてほしいとのこと。まぁ、今思えばとてもありがたいことだから、俺はありがたく思っている。

 「さて、そろそろ終わろうかな。」

 バク転、バク宙、ハンドスプリング、全宙などなど、高難度の技をすらすらとこなす。
 回転するたびに、赤々しい陽光が眼に入ってくるがそのたびに目を瞑ってしまう。目を瞑ると、もちろん前が見えなくなるため着地が怖くなってしまう。まぁ、慣れたら大丈夫だけど.....。
 俺は、まだ光を失っていない太陽を背に家への帰路を辿る。夏といえど夜が近くなるにつれ気温は、下がっていく。その差が、たった1度であろうとも。

 「ただいま。」

 現在時刻は、6時57分。誰も起きているはずはない。俺は、誰もいないリビングへと足を進めた。カレーは全て食べてしまったため、夕食は1から作らなければいけない。栄養バランスを考えると.....これか。
 俺は、餃子に肉じゃが、親子丼とキャベツを千切りにしたものを作ることにした。これなら、簡単に今ある材料で作ることができる。俺は早速、料理に取り掛かることにした。今のご時世、家を出る人は結婚した場合でしか起きないことだ。つまり、本来なら料理なんてしなくていいんだが.....俺はできることは1人でしたい派だ。それは、ゲームであっても現実であっても、だ。

 「さて、大体終わったしこれからどうしようかな.....。」

 ゲームを再開するかでも、もうすぐ7時だし夜食と風呂は先に入っておきたい。となると、今から風呂を沸かすとしてその間は何をしようか。テレビはどうせ、ボスバトルの話題で持ちきりだし、ネットもそうだろう。となると、先に夜食を食べるしかないか。
 俺は、ご飯をよそい卵をかける。皿に、肉じゃがとキャベツの千切りを盛り付ける。キャベツの千切りに、マヨネーズと醤油をかけて一気に頬張る。気づいた時には、皿の上には何も無くなっていた。茶碗にも2粒のご飯粒を残して大盛りだった親子丼が一瞬にして消えていた。
 俺は、食器を洗い丁度沸いた風呂に入る。

 「明日は何するかな~、まぁボスバトルか。レベルは上がらないが、楽しいからオッケーということで.....単騎で頑張りますか。」

 さて、明日はどんな冒険ができるかな。今から楽しみだ。
____________________________________________________

 「なるほど、やはり単騎で戦うか。」

 「名乗りを上げた、謎のプレーヤーですか?5回目で倒すなんて、我々の常識を上回ってくる。」
 
 「そうじゃない、これは想定内だ。ただ、まさか2もいるなんてな。これは予想外だ。」

 「2人ですか?まぁ、あの人の言うことはよく分からないし、いっか。」

 「それより、最近発覚した不正の方が心配だ。」

 「あぁ、あの『囚われの死』ですか?」

 「それについては、大丈夫です。私の方で、対処しておきますので。」

 「頼んだぞ、博羅はくら。」

 「分かりました。」

 さて、今回もいいデータが取れたな。まさか、単騎で2回も勝ってしまうなんて、レベルが制限されているにもかかわらず、さすがと言ったところか。明日は、どうなるのか。それに、彼なら残り4日でこのゲームをクリアしてしまうかもしれない。そうなったら、彼を呼ぶとしよう。まぁ、すでに決定事項なんだがな。
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