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テストプレイ

4日目

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 8月21日、テストプレイ4日目。今日も変わらず、『ARS』をプレイする。と、その前に.....俺は、朝食を食べるためにリビングへ降りていった。

 「ねー、お兄ちゃん知ってる?」

 「なんだ?」

 「最近噂されてる、『囚われの死』について。」

 「『囚われの死』?聞いたことないな。」

 「それはね.....」

 妹曰く、『囚われの死』とはリスポーンしてもまたすぐに死んでしまうことを言うらしい。ただし、それ以外の情報で有力なものといえば、転移魔法がつわれているということだけ。しかし、魔法は街の中では使用できないのに、どうやって魔法を行使しているのだろう。そんな方法はあったか?
 俺は、朝食を食べながら思考するが、食欲に負け考えるのをやめた。
 食事を終え、自室に戻ろうとする俺を妹が止めた。

 「お兄ちゃん、この話を聞いたからって、この謎を解こうとしなくていいんだよ。そんなことで、お兄ちゃんのゲームライフを無駄にして欲しくないから。」

 「分かってる、心配してくれてありがとな。」

 「う.....うん。」

 妹は、頬を赤らめながら自室へ戻っていった。
 ごめんな、俺は俺自身だけでなく他に困ってる人がいたら助けてしまう、奴なんだ。『ARS』は、誰にも壊させない。俺が、この謎を解明しこのゲームを守るんだ。しかし、意気込んだところで俺はまだ何も知らない。どこの街の教会で起こっている事件なのか、誰がどうやってやっているのか。結局、ゼロから始めるしかないんだ。
 クーラーをつけ、ブレインウェーブを装着する。

 「解決するんだ、不正行為は許してはいけないんだ.....。」

 俺は、レルバントラスの宿屋で目覚めた。そういえば、あの後お金を受け取って.....。
 俺は所持金を確認して、驚愕する。

 「な.....なんじゃ、こりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

 そこには、100000レルト以上の大金の表示があった。これだけあれば、テストプレイ期間は苦労しないだろう。ところで....だ。これからどうするか.....情報が1つもない中で、全てに突っ込むか、そこから正確な情報を見極めるか.....あ~も~、考えても仕方ねぇ。片っ端から、情報を入手するしか方法はない。
 俺は、宿屋を飛び出て人が集まるギルドへ向かう。

 「すいません、『囚われの死』について何か知りませんか?」

 「あ?いや~、知らないな。でもな、あんちゃん。そんなんには、首突っ込まん方がええで。自分を1番、大切にな。」

 「は.....はい。ありがとうございます。」

 はぁ~、キャラ作りも大変だ。でも、今のところ有力な情報は1つも手に入れてない。つまり、結局のところ何も進展していない。皆が皆、自分を大切にしろだとか、下手に首を突っ込むなとか言ってくる。あぁ、もぉ、人助けの何がいけないんだよ。でも、愚痴を言っても仕方ないか。言わせとけば、いいんだよな。うん。
 俺は独り合点をし、もう一度調査を再開する。いつになったら、見つかるのやら。先の見えない、長旅が始まりそうだ。

 「待てよ?もしかしたら.....。」

 俺は、調査の途中ある可能性に気づく。それを試すために、1度ゲームをログアウトしてまだ日が上りきってもいないというのに、ベットに入り横になる。そして、目を閉じた。『強襲の巌窟』や『レルバントラス』について、俺は寝ている間に謎の声から聞いた。つまり、今回もそうかもしれないということだ。

 「ハルバントラスへ行け。そこに事件の鍵がある。」

 やっぱり、ヒントがもらえるんだな~これが。でも、なんでなんだろう?まぁ、原因を解明する必要は今のところないか。
 俺は、決められたかのごとく目を覚ます。現在時刻は、約10時。計1時間ほどの、昼寝となった。

 「さて、ハルバントラスへ行きますか。」

 ブレインウェーブを装着して、ゲームにログインする。そして、ギルド員にハルバントラスの場所を聞きそこを目指すために、レルバントラスを飛び出す。
 30分間、全力で走ってハルバントラスに到着した。

 「着いたはいいが、どこで起こっているんだ?」

 『囚われの死』に関する情報は、今のところハルバントラスで起きていることしか、分かっていない。なら、情報収集から始めるか。
 俺は、ハルバントラスを一通り見た後『囚われの死』に関する情報を聞くことにした。

 「へ~、ここは何というか、和が強い感じなんだな。」

 レルバントラスは洋風、ガルバントラスは和洋折衷って感じだったから、新鮮な感じがする。だが、最近の日本は完全な和というわけでもないので、懐かしい感じはしない。そういえば、『殺人鬼キラーデーモン』は裃を着ていたな。ここ出身なのだろうか?おっと、今はそんなこと考えても仕方ないな。
 ハルバントラスには、城下町があった。と、言うことは城がある。まぁ、殿様はAIなんだろうが。

 「ん?あぁ、『囚われの死』ね。実は、俺の友人がそれに引っかかって、アカウントを変えなくちゃ、いけなくなったんだよ。」

 「そうなんですか!?」

 「あ、あぁ。君、そんなこと調べるってことは、解決するつもり?」

 「は、はい。」

 「なら、おすすめはしないよ。後、早くこの街から出るといい。ここに来た時点で、もうアウトって言ってもいいから。」

 「じゃぁ、なんであなたは、この街から出ていないんですか?」

 「あぁ、ここには友人との思い入れがあるからな。それに、あれをしなければ引っかかることもないし。」

 男はそう言うと、この場を立ち去っていった。

 「なるほど、あることをしたら『囚われの死』に引っかかるのか。」
 
 あることを.....一体なんなんだ?あることをしなければ、引っかかっることもない。する、しないで変わることといえば.....あっ、あれか!
 俺は、あることを思いつくとそれを確かめるべくある場所へ向かう。そう、それは.....

 「ここが、もしあることについて関係あるなら、全ての辻褄が合う。」

 教会。死んだ場合、最後に立ち寄った教会で復活する。つまり、『囚われの死』とは、教会で復活しても何かしらの形で死んでしまい、また教会で死んでしまう。つまり、この街から出られなくなってしまうと、いうことだ。
 俺は、覚悟を決めて入ろうとしたがもし返り討ちにあったら、元も子もない。金もあるし、装備一式新調することにした。

 「この剣は、初めて手に入れたものだからな~。そうだ!これなんてどうだ?」

 俺は、高級装備店で防具一式を新調し、鍛冶屋にも寄った。俺にあった剣を打ってもらい、背中の鞘に2本とも収める。

 「よし、準備万端!」

 俺は、そう意気込み教会へと足を進める。教会へ足を踏み入れた瞬間、周りに転移の魔法陣が展開された。

 「なっ、これは.....。」

 そう、展開された魔法陣はボスバトルや『強襲の巌窟』のものと、見た感じは全く同じだった。そもそも、このゲームに転移魔法があるかどうかすら怪しかった。まぁ、俺は魔法にあまり詳しくないから、なんともいえないが.....。
 しかし、今はそんなことを考えている暇はない。どこに転移させられるのか、考える暇はなかった。気づいた時には、見知った場所にいた。

 「ここは.....。」

 コツコツと、静寂な空間に静かな足音が響く。光源があるわけではないのに、現代の夜くらいの明るさくらいはあった。
 見覚えのある光景。ほんの少し前の出来事なのに、懐かしく思えてくるほどのものがここにはあった。そう、ここは.....、

 「ボスバトルの洞窟。一体、なんで.....。」

 半人半牛ミノタウロス鷲獅子獣グリフォンと戦ったこの場所は、今やテストプレイ1の思い出と言ってもいいほどのものだった。しかし、通常ならボスが居るはずなんだが姿形は全く見えない。と、言うことはここはボスバトルの洞窟とは違うのだろうか。
 考えても、答えがでなさそうなので俺は考えるのをやめた。

 「次の挑戦者チャレンジャーは、君か。」

 「誰だ!」

 「誰かと言われると、回答に困るな。僕に名前はないし.....そうだな『01』とでも読んでくれ。」
 
 01?一体なんなのだろう.....しかし、今は考えている余裕はなさそうだ。

 「何が、目的だ!」

 「目的?目的か。そう終われると、明確な目的はないな。僕は、あのお方に指示されてしているだけなわけで。」

 指示されている?あのお方って、誰だ?まだ上がいるのか?あぁもぉ、何もかも全く分からん。ただ1つわかるのは、01が俺のことを挑戦者チャレンジャーと読んだのには理由があるはずだということくらいか。

 「まぁいいか。さて、君には今からあることに挑戦してもらう。成功クリアしたら、ここから出れるから頑張るんだな。」

 そういうと、01は俺の前から姿を消した。それと同時に、地面が陥没しボスモンスターが姿を現した。

 「三頭猟獣ケルベロス.....。」

 犬の顔が3つあり、体の大きさは鷲獅子獣グリフォンと同じくらい。だが、鷲獅子獣グリフォンとは違い、空は飛べない。ならば、今回はこちらに分があるだろう。
 これが、俺の失態になるとはこの時の俺は思いもしなかった。

 「さぁ、かかってこい!」

 3つの顔がそれぞれ、口を大きく開ける。その中には、光線と思われるものが貯められている最中だった。それぞれ色が違い、右から赤、青、緑。属性をしてしているのだろうか?
 属性。剣術、魔法に属性があるように、モンスターにも属性がある。つまり、三頭猟獣ケルベロスは3つの属性を持っていると言うことだ。種類は、数えきれないほどあるとされている。火、水、土、風、葉、氷、雷などなど、似た系統でも風と霧は違うし相性も変わってくる。
 見た感じ、右から火、水、葉。ガルト流剣術は、火属性だから水属性の頭には対処できない。 
 そうこうしているうちに、3つの光線は俺に向かって放たれた。

 「そんなもんか?」

 3頭とも俺を狙っていたため、光線の焦点が俺がいた場所と重なった。だから、光線を放つのを待ち、その場を離れた。どうやら、次の光線を放つには少し時間が開くようで、その間は突進などの打撃を繰り返してくる。

 「くっ、こいつっ!」

 避けは出来るんだが、いかんせん攻撃が通らない。だが、ゲームならどこかに急所があるはずだ。それさえ見つけれれば.....。

 「僕を忘れないで、欲しいな。」

 後ろからの声に動揺してしまい、動きが一瞬遅れる。声に気を取られていると.....、

 「グルァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 光線が俺に、命中した。なんとか受け身は取れたものの、大ダメージを受けてしまった。

 「くっ、」

 「大丈夫か?そんなんじゃ、倒すことは出来ないぞ?」

 分かってるっつうの。ダメージを受けたのは誤算だったが、まだ俺に勝機はある。
 俺は、剣を構えると葉属性の頭目掛けてガルト流剣術、スライト・ポークを放つ。しかし、直線の軌道だったため簡単に避けられてしまった。だが、これも予測済み。すかさず体を回転させ、スライト・エヴィドラネックスを放つ。三頭猟獣ケルベロスは、避けたばかりで動くことはできなかったようで、葉属性の頭を斬り落とすことができた。残り2頭。火属性はなんとかなるが、問題は水属性。剣術では、対処できない。だとすると.....、

 「やるね。でも、これだけじゃ、まだ勝ったとは言えない。きちんと、全部斬り落としてね。」

 「分かってるから、いちいち言うな!」

 そう、01が何を目的としているかは分からないが、今は三頭猟獣こいつを倒すことに集中しないと。
 俺は、先ほどと同じ方法で火属性の頭を斬り落とそうとしたが、学習したのか2発とも避けられてしまった。流石に、そう簡単にはいかないか。

 「グルァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 溜めが終わったのか、また光線を放つ。だが、葉属性の頭がないため、光線は2本だった。そのため、避けるのには苦労しなかった。だが、それに気を取られていたため背後に近づく01に気づけなかった。
 ドスッ、鈍くて重い音が俺の耳に響き渡る。

 「くっ、」

 俺は、01に方を向きそう呟く。

 「片方に注意を取られていると、もう片方が疎かになるぞ?」

 「おい、これがチャレンジャーに対する対応か?」

 俺は、少し湧いてきた怒りを沈めてそう問い詰める。

 「そうだ。挑戦チャレンジの内容は、僕と三頭猟獣ケルベロスを倒すこと。別に、僕が邪魔をしてもいいだろう?」

 確かにそうだ。言葉足らずのやつもあれだが、考えなしに戦っていた俺もそうだ。これからは、先を見据えて行動するとしよう。だとしたら、こいつに指示を出している奴の狙いはなんだ?俺に、何をさせようってんだ。可能性としては.....、

 「何を考えているだ?こちらは2、対してそちらは1だ。ジリ貧なのに、変わりはない。」

 「ふっ、2対1か。三頭猟獣ケルベロスを、1と扱うのは些かおかしいと思うんだが。」

 「それは、君の思考であって僕の考えとは全くの別物。人の思考とは、そこまでなのだから。」

 そういうと、01はまた身を隠し三頭猟獣ケルベロスに俺を襲うよう指示を出した。俺は、01ではなく三頭猟獣ケルベロスに集中する。何故、葉属性の頭を斬り落とせたのかは分からないが、何か理由があるはずだ。前は、1撃を喰らわせたり、挑発もしてきた。つまり、勝ちを確信しているのかあのお方の命令に逆らえないのか.....今考えても仕方がない。

 「さっきは、躱されたがこれならどうだ?」

 俺は、スライト・ポークの5連撃を放つ。1撃目を避けれても、瞬時に放たれる2撃目を躱せるはずがない。
 俺の剣は、三頭猟獣ケルベロスの喉仏を貫通した。その途端、魂が抜けたかのように殺気が1つ消え去った。つまり、死んだということ。

 「よし!これで、残り1体。」

 ぱちぱちぱち、と後方から手を叩く音がする.....まただ。

 「おい!何が目的だ!」

 「何度も言っているだろう?あのお方の指示だと。」

 「その、あのお方って誰だよ!」

 「さぁ、君には教えられないな。」

 そういうと、また姿をくらます。

 「グルァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 三頭猟獣ケルベロスの、咆哮。水属性の光線を、軽々避けた俺はある策を試すことにした。

 「さて、何をするのか、見せてもらうぞ。」

 ガルト流剣術では、太刀打ちできない。だからといって、動作援助システムアシストなしで剣を振るえば、それは初心者そのもの。ボスモンスターに、勝つのは不可能といったところだろう。

 「だったら、これしかないよな。」

 剣術でもダメ、剣でもダメ、ならば魔法を使うしかない。しかし、俺の持っている魔法に攻撃系はない。『デカ・スーダ』を使ば、なんとかならなくもないが相性不利の場合はさらにダメージが減ってしまう。そう、だから今日の分を使うんだ。

 「これが、新たに手に入れた俺の新魔法。」

 俺は、手を三頭猟獣ケルベロスに突き出し、こう叫ぶ。

 「デシ・ルアー!!!」

 手のひらから、無属性の矢が放たれる。もちろん、三頭猟獣ケルベロスは首を倒して矢を避けた。だが.....、

 「あまい!!」

 そう。これは、魔法の矢。操作コントロールすることが、出来る。つまり、躱したところで意味はない。
 俺は、魔法の矢の軌道を変えて三頭猟獣ケルベロスの首を、狙う。魔法の矢は、三頭猟獣ケルベロスの首に的中した。と、同時に三頭猟獣ケルベロスが煙となって消える。

 「さて、後はお前だけだが?」

 「そのようだな。さぁ、次は僕の番d.....。」

 その言葉を待っていたかのように俺は、剣を振るっていた。ガルト流剣術スライトネックスだ。01は、胴体を切り離され下半身はエフェクトとなって消えた。

 「くっ、貴様.....流儀ってものは、ないのか!」

 「あるわけないだろ?急に飛ばしては戦わせる、お前には言われたくないね。」

 そういい、俺は01の髪を掴んで上へと放り投げる。そして、

 「ガルト流剣術 スライト・ポーク!!」

 01の脳天を突き刺した。

 「覚えていろ!次は、ないからなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 断末魔と共に、01はエフェクトとなって消える。
 
 「まぁ、これで一件落着ってことで。」

 そう思っていると、足元に転移の魔法陣が展開された。そして、転移先はハルバントラスの教会。俺は、疲労が溜まっていたので一度ゲームをログアウトする。

 「はぁ~、疲れた。」

 現在時刻は、11時57分。もうすぐで、昼だ。そういえば、作り置きのカレーも昨日の夜で全て、食べ終えてしまったし、今日の朝食の残りもない。現代において、昼食を軽く済ませるのは普通のこと。しかし、今俺は疲労によって、空腹感に襲われている。軽めに済ませたら、夜食まで持つとは思えない。しかも、冷蔵庫にはガッツリ系のものを作れる食材がない。つまり、買い出しに行くしかないということだ。

 「そうだ、ついでに夜食の食材を買ってくるとするか。」

 今日は、前に行った所よりも少し遠い大型ショッピングモールに行くことにする。なぜかと言われれば、少し見たいものがあるからかな。
 大型ショッピングモールということは、少し街の方まで出ることになる。

 「はぁ、街だから少なくとも人はいるか。」

 そんなことを、思っていると1人、キョロキョロとあたりを見回している女性がいた。今時、そんな人なんていないのに。

 「あの、大丈夫か?」

 思い切って、声をかけてみる。

 「あっ、え~と、実は道に迷ってるってゆうか、ここがどこだか分からないんだけど.....。」

 ここが、どこか知らない?一応、今いる場所を教えるとしよう。

 「ここは、東京都 丹狭薇市あかさらしだ。」

 「東京都?丹狭薇市?何よ、それ。」

 え?知らないのか?まぁ、丹狭薇市を知らないのは仕方ないとして、東京を知らないのはおかしいだろ。

 「君は、どこから来たんだ?」

 「札律次島ふりつじとうよ。」

 札律次島?それこそ、聞いたことないんだが.....もしかして、実在するのか?
 俺は、携帯を取り出して検索アプリを開く。あなたへのおすすめの欄に『AIの作り方 ※違法だから真似しないでね』や『AIプレーヤーの可能性』、『キラーデーモン今日は、出没せず。正義の味方、どこへ消えた?』など、AIに関するものが多く出てきたが、今は関係ない。検索バーに、『札律次島』と打ち込む。しかし、関係する情報は、1つも出てこなかった。

 「出てこないな.....。」

 「そうですか.....あっ、そういえば、まだ名前を聞いていなかったね。私は、霧河きりかわ 早苗さな。早苗で、いいわよ。」

 「俺は、降流星 映遊。俺も、映遊で.....いいぞ?」

 俺が、降流星の言葉を言った途端、早苗の表情が一変した。

 「降流星!?降流星って、言うの?」

 「そ、そうだが.....。」

 なんだ?何かまずいことでも、言ったか?

 「でも、映遊か.....ねぇ、望来みらいって知らない?」

 ミライ!?ミライといえば、俺の『ARS』での名前だ。でも、ゲームでは降流星の名は使ってないし、俺自体有名になった覚えもない。ゲーム内で知り合った人に、にた口調の人はいなかったし、俺自体彼女が元いた場所を知らない。つまり、俺とは全くの別人だ。

 「知らないな、そいつ。俺の家族にも、いなかったみたいだし.....。」

 「そう.....、」

 彼女は、先程とは違い、下を向く。

 「そういえば、今日って何年の何月?」

 「えっ?何で聞くんだよ。」

 「いいでしょ、別に。実は、前に時間を越したっていう友人がいてね。莉愛って言うんだけど、私がここに来る前と状況がにてるのよ。」

 「まぁ、そうなら仕方ないか。今日は、2050年8月21日だ。」

 「!?」

 まただ、また表情が一変した。2050年の、何がおかしいのだろう?

 「何か、変だったか?」

 「いえ.....、特には.....。」

 「そうか。それはそうと、どうやってここまできたんだ?」

 「どうやってって.....気づいたらここにいた。これじゃ、ダメ?」

 「ダメでは、ないが.....。」

 この時代に、気付いたらなんてあるか?まぁ、気を失ってここで目覚めたら、確かに言えないとは言えない。しかし、そんなことあるだろうか?そもそも、札律次島が実在しているか分からないし、あったとしてもここまで移動するには飛行機か船を使うしかないだろう。その間に、目を覚ますなんてこともあるはずだ。

 「どんな感じだったんだ?その時。」

 「ん~、そう言われると転移に近かったような気がする。1瞬で、ここにきたから。」

 1瞬、転移に近い.....か。てことは、船や飛行機での移動の線は消えたな。となると、現代では実現不可能な瞬間移動テレポーテーション時間停止タイムストップくらいしか、考えられないがその線も無理。ファンタジーは、ゲームの中だけにしろってな。

 「行くあては、あるのか?」

 「ないわね.....近くに友人もいないし。」

 「そうか.....だったら家、来るか?」

 「えっ、いいの?」

 「もちろん、うちは広いし俺の家族も認めてくれるだろうよ。」

 俺は、彼女を家に滞在させることにした。見ず知らずの場所に居させるよりは、マシだろう。
 しかし、今は昼の食材を買いに来ているわけでそのまま帰るわけにもいかないので、近くのスーパーで買い物を済ませて家に帰ることにした。
 見たかったものもあるが.....また今度でいいだろう。

 「よし、これで最後っと。」

 ラーメンの麺を、カゴに入れ終えるとレジに並んだ。会計を済ませて、帰路を辿る。しかし、道中思わぬ人物と出会した.....彼女が、だが。

 「あなた.....どうしてここにいるの。帝 光輝みかど こうき先生.....。」

 「早苗、どうしたんだこんなところで。あぁ、そうか本来俺はいるはずのない存在だからな。まぁ、簡単に言えば早苗が体験した世界とは、また別の世界線。いわゆる、パラレルワールドから来た存在だ。傍観していたからね、早苗の世界そっちを。」

 「そう.....でも、安心した。知り合いに会えて。ありがとう、映遊。私はもう、大丈夫。だから、心配しないで。また、いつか会える日まで。」

 そういうと、2人は俺の前から姿を消した。知り合いに会えたならと、安堵した俺は家へ、足を進めた。
 家に帰り、昼食を作る。そして、早めに昼食を食べ終え部屋に戻る。そして、ノートを開き今日の出来事を書き留める。何かのヒントに、なるかもしれないと思ったからだ。

 「さて、摩訶不思議なこともあったがまだ半日しか経ってないんだ。ランク上げ、頑張るぞ!」

 残りの時間を使い、俺は条件にある依頼数をこなし、指定された依頼も達成してギルド員も倒し、ランクDになった。今回は、魔術師メイジだったから案外簡単だった。
 今日の成果は、こんなところといった感じか。まぁ、『囚われの死』を解決したことで、案の定2つ名が増えていたんだが.....『救世サヴェーション』か。何を救ったんだか.....まぁ、今更か。
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 「どうだい、あれは。」

 「はい、とあるプレーヤーが解決してくれました。」

 とあるプレーヤー.....あぁ、彼か。それなら、安心だな。

 「それにしても、博羅はどうしたんだ?それについて対処していたのは、博羅だろ?」

 「そ、それが.....実は今日出勤してなくて.....。」

 出勤していない?待てよ、そういえば犯人はまだ未実装の魔法を使ったんだったな。つまり、誰かが手を貸した?それが出来るのは、うちの社員だけ.....つまりそう言うことか。

 「今回の真犯人、それは博羅だ。」

 「えっ?」

 「多分、そのプレーヤーに未実装の魔法を使えるようにしたのはそいつだ。つまり、対処するといいつつ不正の手助けをしていたと、いうこと。」

 「博羅さんが.....てことは、他にもいるかもしれないんじゃないんですか?」

 「確かに、その線もあるかもしれないが博羅は自らの手で入社した。誰かが、手助けしたわけではなく。待てよ?だとしたら、狙いがわからないな。一体何が.....まさか、あれを狙っていたのか?すぐに、確認してくれ!」

 「は、はい!」

 あれが取られると、非常にまずいことになる。計画が、白紙に戻る。

 「はぁはぁはぁ、大丈夫です。何も、取られていませんでした。」

 「そうか、大丈夫だったか.....。」

 ほっと一息をつく。計画が白紙に戻らなかったのが、何よりの救いだがそうなってくると、博羅の目的が分からなくなってくる。何を、したかったんだ.....もしかしたら.....。
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 「分かるわけない、なんせ何も取ってないし。でもまぁ、別のものはとったけどね。少し、支障が出たけど、まだ誤差の範囲だ。ふふ、楽しみにしてるよ.....映遊。」
 
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