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批判神髄〜悪口と文学〜(後書きに変えて)

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私が思うに、人というのは人のことを批判したがる生き物である。人は悪口や批判を通して仲を深め、また、絶縁する。

人がする他人への批評というのはこの人間社会で生きていく上で欠かせないものであり、その批判、批評をする覚悟と、それを受ける覚悟の両方が必要である。

「悪口」というと少々幼稚な表現かもしれないが、人を「批評」、「批判」することは楽しい。その楽しさの境地が本作である。書く人も楽しい、読む人も楽しい。筆者と読者が意気投合して楽しめる本を作ることは難しいことだが、やはり「悪口」や「批評」は人を結びつける。

ましてや、いつもは下品な口調で行うはずの人間批評がここでは堂々と不可思議な文体で思い表現を使って書かれているのだから、そのギャップもまた面白いのだろう。


「悪口の本質」とは一体なんなのだろうか?「悪口の本質」と言われると、人間社会の政治的なものなのか、ただの遊びの一つなのか様々な可能性があるが、わたしはただ一つだと考えている。それは悪口というのは人を批評するなかで人とのコミュニケーションを深める最も有効で身近なツールだということだ。

これは少し違う話になるが、恋愛において長続きするカップルというのは嫌いなものが一致していることが多いそうだ。
それはやはり、その一つの「嫌なもの」、「嫌な人」に対して批判をしあえるからだ。この点もまた一つの人間批判の効果だと言えるだろう。

読者諸君は人の楽しかったとか嬉しかったという話を聞いて自身も楽しかったことがあるだろうか?あったとしても少なくはないか?

結局の所、楽しいという定義において、会話時に両方や多くの人が楽しめる話というのは「人間批評」、「人間批判」、すなわち悪口が最も有効である。


最も有効とはいうものの、やはり批評にもある程度の質が伴うべきである。

かの三島由紀夫氏も悪名高き彼の著書、
「不道徳教育講座」でこう書いている。

『悪口と笑いには密接な関係があります。』

このように書く一方だが、
批評家たちがよく語る「批評(批判)には悪意は含まれずまったく別のものである。」という倫理に対して、三島は
『批評家の悪口(批評)には悪意がないとも言えないのです。』と解説している。

つまり、悪口のプロとも言える批評家でさえもその批評には、悪意があるわけだが、問題なのはそのさじ加減である。
批評家がプロたるゆえんはそのさじ加減の巧みさであり、その様は一種の職人とでも言えるだろう。

「悪口はうなぎ飯よりもうまい」なんて言うけれど、そのうまさに釣られて笑いをとるためだけにある悪口なんてのはどうぞしてほしい。

ただ、危険なのは「人を貶めるため」だけにある悪口である。これをする代償は大きい。きっと瞬く間に周りの人間はスルスルと離れていくだろう。そんなに強大な悪意を抱えている人はむしろ、文にすべきだ。それこそ文がスルスル、スラスラと書けるだろう。(私の場合は悪意というよりも単なる興味の方が原動力である。)文なら、そのような強大な悪意があったとしても笑いに変えやすい利点がある。
(そういえば、どっかの国語教師が批判と批評はまったく別物と堂々と語っていたが、きっとほとんど同じものである。)

世の人々には、
「悪口は言うな、陰口はするな」という謎の建前があるが、私は
「悪口はして当たり前、されて当たり前のものだ。」と考えている。

(それは前述の通り、100%の悪意というよりかは、嘲笑のものがよろしい。)

芸術的な悪口に気づけたものこそ、
そして、それをほどよく楽しめる者こそ
人生の勝者である。

この反社会的批判文を読んで、
そんな一端を感じてくれれば幸いだ。






       -完-
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みんなの感想(2件)

にした
2020.06.06 にした

いつも見させてもらってます。とても面白いです、これからも頑張ってください!

解除
じろ〜らも
2020.05.07 じろ〜らも

これまでこのサイトで多くの作品を読んできましたが、あなたのようなタイプは非常に珍しい。
観察能力に長けた人間は説明力に乏しい場合が
多いと考えられているが、あなたはそうでは無い。
むしろ文章力、アピール力、など様々な部分に
常人ではないものを秘めている。
また、時期的な意味合いもあるが、現在自粛生活が続く中、このような詳細な人間像に触れる事は、ストレス解消や社会的交流不足の解消などに一役買うことが出来るだろうと思う。
私はこれからもあなたの「人間観察」を読み続けていきたいと思う。

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