極東の魔王~魔法使い、現代日本に転生す~

山形くじら2号

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第一章 ~ 祈りは魔法となりて

#07 ~ 現状

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「――科学、ねぇ」

 何の変哲もないある休日。
 祐真は、自室のベッドに転がりながら、声を漏らした。

 部屋の中には誰もいない。それは一見すればただの独り言に思えたが、しかし実のところそうではなかった。

『はい。どうやらこの世界の国家は、科学という理論で作られた兵器によって、軍事力を構成しているようです』

 祐真の脳内に響いたのは、今ここにはいない、使い魔による声だった。

「魔法を戦争に使っている様子はない、か」

『はっ。少なくとも、表では間違いなく』

 祐真は、フィノスを使った情報収集の成果を聞いていたのだ。
 今、家の中には誰もいない。両親は仕事、妹の雪は琴羽の家に行っていて不在だ。
 琴羽と雪はなぜか非常に仲が良い。それこそ、まるで姉妹のように。
 兄としては疎外感というか嫉妬を感じなくもないが、妹が楽しそうであればオールハッピーである。

 本来なら、妹の雪に祐真も同行するはずだが……今日に限って言えば、他の女友達を交えた『じょしかい』らしく、同行を断られてしまったのだ。
 そんなわけでお留守番。

『正確な戦力評価を下せたわけではありませんが……どうやら中には、上級魔術以上の破壊力を持つ兵器も存在しているようです』

「それはまた……物騒と言うか、危険だな」

 魔法、正確に言えば魔術には階級がある。第一から第十までの階梯で表されるが、このうち、第十から第八までを下級、第七から第四までを中級、そして第三以上を上級と呼び表す。
 第三階梯以上ともなれば、一撃で都市を丸ごと吹き飛ばすような、非常識なものも存在するのだ。

『こうした大量破壊兵器は、各国が厳重に保管しているようですが』

「それが俺たちに向けられんとも限らん」

 ――この世界は歪だ。少なくとも祐真の目にはそう見える。

 科学という、極めて発達した理論体系を持ち、その枝葉は様々に見て取ることができる。
 たとえば、家電製品。この家にもあるテレビ、その他もろもろ、節々に信じられないほど高度な技術が用いられている。

 だがその一方で、魔法の気配が欠片も存在しない。
 前世において、技術の根底には常に魔法があった。だがこの世界はそうではない。どれほど嗅いでも、魔法の気配がしない……。

 まさか、という考えが脳裏をよぎる。
 だがそれをすぐに打ち捨て、祐真はため息を吐いた。

「それで? この国はどうなんだ」

『主サマの認識の通り、極めて平和で安定していますね。キナ臭さは多少あるようですが』

「政治に興味はない。こちらに危害を加えるなら叩き潰すだけだ」

『はっ』

 フィノスは、何一つ反論せずにただ首肯した。

 この日本という国は、確かな平和な国だ。だが未来に渡ってそうであり続けるかは、はっきり言って疑問だ。
 強大な軍事力を持つ隣国が、野心をむき出しにしているのだから当たり前の話である。

 だが、だ。
 それで状況がどう転ぼうと、この主は見向きもしないだろう。
 誰が相手だろうと、手を出せば破滅するだけ。

「――しかし、まぁ」

 祐真は、虚空に向かって手を伸ばす。
 その指先に……不意に火が灯った。

 炎はゆらゆらと揺れながら、複雑に枝分かれし、空中に模様を描きだしていく。
 しかしその火からは、一切の熱を感じない。
 自然の法則から完全に脱した何か。その炎が魔法的に、完全に制御されていることの証だ。

 やがて、ふっと指を振ると、音もなく炎は掻き消えた。

「そろそろ、本格的に魔法の試し打ちでもしたいところだ」

 げっ、という声を、寸でのところでフィノスは止めた。

 それはの主の悪癖である。
 家に籠って魔法を研究する、というのが前世の祐真のライフワーク。言い方を飾らなければ千年単位の引きこもりニート魔法オタクだ。
 なのだが、時折開発した魔法を試し打ちしに出かけることもある。
 ……結果、前世でいくつの山河が吹き飛んだか、もう数えきれない。
 確か島一つ消し飛ばしたこともあったな……と遠い目をするフィノスは、しかし、祐真を止めることはしない。

 別に、その結果何人死のうと、どう地形が変わろうと、フィノスには全く関係ないのだ。自分が巻き込まれなければ。

「ただ、それで雪が悲しむのは却下だ」

『はあ』

 たとえば日本のどこかを吹き飛ばし、それがニュースにでもなれば、雪は悲しむかもしれない。
 祐真にとって妹とは、慈悲深く心優しい天使なのだから。

『それでしたら――』

 フィノスの出した提案に、「ほう」と祐真は口元をゆがめた。
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