異世界の底辺罠師。

橘一

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異世界の底辺罠師。

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凶暴な魔物、時に残酷で深遠なダンジョン。
外に出れば盗賊や険しい自然。
安全なんてどこにもない世界で暮らしている。
おっと、それでもヒーローはいる。
『勇者御一考、地下100階のボスモンスターを踏破』
朝のコーヒーを飲みながら王都新聞を読むのが日課。

俺は、上級パーティーに属しているわけでもない。ソロの罠師。
罠なんて物は上層の弱い魔物にしかひっかからない。
ゆえに罠師自体が下火になっている。
世間では英雄の活躍に沸いていて、数多あるダンジョン系職業の最底辺に位置している罠師は
話題にすらならない。
国からの補助金無し。

一部の趣味が悪い金持ちや見世物として扱っているマスターに売って生計を立てている。
昨日、しかけた罠を見に行く時間が迫る。

鎧からナイフを身に着け準備万端。
ダンジョンはイレギュラーがつきもの、慣れてきたところが一番危ない。

群れているパーティー達を横目に一人でダンジョンに潜る。
無機質な作りと静けさがヒリヒリした緊張感を生む。

スライムをナイフで追い払い、罠の近くまで来ると、巨体のトロールが道を塞いで邪魔をしている。
レベル3じゃ多分勝てない。
酒場の推奨レベルでは10だった。
離れて様子を伺っていると、目が合った。
巨体を揺らしゆっくりと突進してくる。
上層階にトロールなんていないのだが、おかしいなと思いつつも、脱兎のごとく逃げ出す。
これでは、仕事にならない、今日はどうしようか。
今でさえ貧乏なのに食べていけなくなる。
考えてもお腹は膨れず飯屋に入る。
店は混んでいた、カウンターの席に一人座ってメニューを眺める。

「兄ちゃん。何を難しい顔をしているんじゃ。そんな顔で飯を食べてもおいしくないじゃろ」

隣にいる白髪の老人男性が身を乗り出して話してくる。

「仕事でトラブルがあってね。嫌になるよ」

苦笑しながら答えた。

「稼ぎなんて物はこのエビ天が好きな時に食べられれば幸せなんじゃよ。食べてみぃ」

いつもはトンカツを食べるのだが、エビ天を頼み、食べてみた。

衣はサクサクしてエビは大きくてプリプリ。これは絶品だ。

「おじさんこれ、ほんと美味しいよ」

話しかけると、老人男性はいつの間にか消えていた。

食事で英気を養い、トロール撃退アイテムを買い。
またダンジョンに向かった。
次はトロールから逃げる気はない。
勝てるとは思えないが、罠の様子は確認する。

飯を食べて普通の幸せを再確認した。
特に何かが起きるわけではなく、平凡に細々と罠師で日々を食いつぶすのが俺の人生なんだ。

現場に着くと、トロールどころか魔物の気配はなく、すぐに罠に近づいた。

檻の中には女性が引っ掛かっていた。

「何ぼけっと見てんのよ。はやく開けなさい」

金髪で耳が尖がっていて秀麗な容姿、エルフだ。

「これモンスター用だよ。なんで入ったの?」

そう言って檻を開錠して、エルフが出てくる。

「ストーカーから逃げていたの。私の初めてを奪ったんだから責任持ちなさいよ」

人聞き悪いな。トロールがうろついてたのは彼女が目当てだったのか。
町に戻り、治療をして、食事を与えた。
困ったことに彼女は無一文だった。

「お返しはいらないよ。俺の罠に引っ掛かったんだし」

「服まで買ってもらったのに感謝だけですませるつもりはないわ。私もここで働くわよ」

彼女は強情で引かなかった。
いつもの日常が変わる予感。

かくして罠師は2人体制になったのである。
彼女の魔法の力で罠師とエルフは不思議な騒動、運命に巻き込まれていくのだった。
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