結婚とは案外悪いもんじゃない

あまんちゅ

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第3話 泡沫夢幻-1

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「…………それでは、新婦の入場です。皆様、入り口の方にご注目ください」


「…………ん?」

目の前は真っ白な世界だった。低音で落ち着きのある男の声が聞こえたが、その主がどこにいるのかわからない。よく目を凝らすと、だんだんと世界に色がついていく。

何度か素早くまばたきをして、目をならす。すると、目の前には祭服を着た神父さんが立っていた。

……どういう状況だ、これは。もしかして、昨日と同じように夢を見ているのか? だとしたら、質が悪い幻想だ。

しかも前回と違って、今日はこれが夢だとハッキリ分かっている。もし、新婦として入場してくるのがあいつだとしたら……。


その時、後ろで扉が開いた音が聞こえた。それと同時に、聖歌隊よる合唱が始まった。つられて俺も振り返った。開かれた扉から、美幸と美幸のお父さんが手を繋いで入場してくるのが見えた。

…………やっぱりか。これが夢だと分かっていても、昨日の今日で美幸と顔を合わせるのは気まずい。


そんな思いとは裏腹に、二人はだんだんとこちらに近づいてくる。最近落ちた視力のせいで、ハッキリと姿を確認できるまで少し時間がかかった。
美幸は、純白のウエディングドレスを着ていて、綺麗な装飾が施されたヴェールに身を包んでいる。

俺はそれを見て、素直に綺麗だと思った。


「さあ、手を」

気がつくと、美幸たちはもう目の前まで来ていた。お父さんから、美幸の手を受けとる。祭壇の方を向き直すと、神父に招かれるようにして数段ある階段を歩く。俺が美幸の少し先を歩くようにして。

俺と美幸。二人で神父さんと向かい合うようにして立つ。神父さんから聖歌の歌詞が書いてあるカードを受け取り、二人でそれを持って歌うよう言われる。

その場にいた全員が聖歌を斉唱する。聞き心地の良い歌声が響く。
……というか、距離が近いんだが。

俺と美幸は、密着するようにして歌詞カードを見て歌っている。美幸の体温が伝わってきて、まるで現実のように感じる。これは夢だと分かっているのに、心臓が跳ねて痛い。


聖歌の斉唱が終わり、神父さんが次は指輪の交換ですと告げる。目の前の机には、二つの指輪が納められている箱が置かれていた。

「ではまず、新郎様から新婦様へ」

神父さんから指輪を受け取る。こういうのは詳しくないけど、多分めっちゃ高いやつだこれ。今の俺の収入で買えんのかよ……。

「純平……? どしたの?」
「え? あ、いや、なんでもない」

つまらないことを考えていると、美幸が心配そうに小声で話しかけてきた。咄嗟に返事ができず、しどろもどろになってしまった。

「はい」

美幸がそう言って、左手を差し出した。夢だというのに、俺はなぜこんなに緊張しているんだよ。

とはいえ、ここでやめる気にはなれなかった。美幸の左手の薬指に、ゆっくり指輪をつける。派手すぎない装飾の施されたその指輪は、美幸にとても似合っていた。
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