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第4話 夢中説夢-3
しおりを挟む「…………嫌です」
俺がこんなこと言う資格がないのは分かっている。でも、それでもあいつと話がしたい。今まで何してたんだとか、なんで急に東京行っちゃったんだとか色々。
それが、正直な気持ちだった。
「俺は、また昔みたいに話がしたいです」
「そっか。じゃあ話そう!」
真由美さんは満面の笑みでそう言うと、スマートフォンを取り出した。そして誰かに電話をかけている。……まさか。
「あ、もしもし美幸? 今電話大丈夫?」
「えっ」
行動はやっ。いや、話したいって言ったけどさ、善を急ぎすぎじゃね? もうちょっと考える時間ほしくね? 昨日あんな別れ方したばっかなんだし、気まずくね?
「……うん、大丈夫なのね。そうそう、お母さん今、純平くんといるんだけど、なんか美幸に話したいことあるみたいだから、電話代わるね」
真由美さんは、俺にスマートフォンを差し出した。……マジか。ここまで来たら、俺も腹をくくるしかなさそうだ。
スマートフォンが雨で濡れないよう注意しながら受け取る。
「えっと、もしもし?」
「…………」
返事がない。
「…………」
「………………」
「えーっと、聞こえてる?」
真由美さんの視線を気にしながら電話を続ける。頼む、返事くらいはしてくれ……!
「……はい」
「あ、よかった」
「それで、話って?」
「う、うん」
まさか、こうやって美幸と電話する日が来るとは思ってなかった。耳元から聞こえてくる声に妙にどぎまぎしながら、なんとか言葉を絞り出す。
「俺、話したいことあるんだ」
「だから、何を?」
「電話じゃなくて、直接話がしたい」
「…………」
「もし時間とれるなら、少しでもいいから俺と会ってほしいんだ。……美幸と、話がしたいから」
「少しって、お母さんと一緒にいるなら聞いてない? 私いま、社員旅行で来てるんだけど。私一人だけ別行動なんてできない」
「自由散策の時間とかないのか? ほんと5分10分でいいから。……無理か?」
俺の心臓は早鐘を打ち、痛いくらいだった。口がカラカラに乾いて、頭がクラクラする。二日酔いのせいって訳じゃない。
「……無理だよ」
「…………わかった」
予想通りの答えが返ってきた。だが、俺はもう決めた。自分の気持ちに嘘は吐かないと。この程度では引き下がらない。
「じゃあ、昨日の忘れ物渡せないな」
「忘れ物?」
「そう。昨日お店に来てくれたとき、誰のか分からないけど、ハンカチが机の上に忘れっぱなしだったからさ。会ってくれないなら渡せないなって思って」
「……わかった、じゃあそれを受け取りにいく。受け取ったらすぐに帰るから」
「ん、了解。じゃあまた連絡する。連絡先は……」
「お母さんに聞いといたらいいんじゃないの」
「そうだね、そうする。じゃあ、また」
「…………」
そこで、電話は切れた。それと同時に俺の緊張の糸も切れ、体の力が一気に抜けた。何とか、美幸と会う約束を取り付けることができた。
まあ、忘れ物なんてのはとんだ嘘っぱちだけど。
「真由美さん、ありがとうございました」
借りていたスマートフォンを返す。突然スマートフォンを渡されたときはどうしようかと焦ったが、意外と何とかなった。土壇場に強いタイプらしいな俺。
「純平くんって、中々やり手よね」
「え?」
「ううん。何でもなーい。それで? どうなったの?」
「えと、とりあえず会うことになりました。それで、連絡先を教えてほしいんですけど」
俺の言葉を聞いた真由美さんは、本当に嬉しそうにニコッと笑った。
「そっか。よかったね純平くん。あ、美幸の連絡先ね? えーっと」
「LIMEで教えてもらえると助かります」
「あーおっけおっけー」
真由美さんから、美幸の連絡先を教えてもらった。いつ頃連絡しようかな。ていうか、美幸はいつまでこの街にいるんだろう。社員旅行といっても、そんな長いこといるとは思えないし。最悪、会うタイミングを逃してしまう。
明日だったら休みだから、ちょうどいいんだけど。上手いことタイミングが合うだろうか。
「って、もうこんな時間か」
もうすぐ出勤の時間が迫っていた。勤務先に向かいながらメッセージを送るとしよう。
俺は、もう一度真由美さんにお礼を言ってからその場を後にした。
去り際に、真由美さんが母さんに向かって何かを言ってる気がしたが、ハッキリとは聞き取れなかった。
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