結婚とは案外悪いもんじゃない

あまんちゅ

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第6話 楚夢雨雲-2

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「お前、なんで?」

神田は泥まみれだった。顔にも服にも汚れが付着しており、おまけに全身ずぶ濡れだ。そのせいでシャツが透けて若干下着が見……。

「と、とりあえずタオル持ってくるから待ってろ!」

先ほどまでとはうって代わり、ダッシュでタオルを取りに行く俺。女性の肌を直視するのは危険だ。直視ではないけども。むしろ直視より危険な気がする。


「ありがとうございます、高坂さん。助かります」

俺が持ってきたタオルで顔を拭く神田。どこに目線をやっていいか迷いながら、俺は神田に聞いた。

「なんでそんなずぶ濡れなんだよ? 外雨降ってんのか?」
「まあ若干降ってますね。実は、水溜まりがあるところで転んでしまいまして……あはは」
「転んでしまいましてって……マジか。ていうか、なんで俺んちに?」
「ああ、肝心の用事を忘れるところでした。高坂さんに渡すものが2つあります。まずはこれです」

神田はそう言って、持っていた傘を(今気付いた)差し出した。昨日俺が職場に忘れて帰った傘だ。わざわざ持ってきてくれたのか。

「それから、これです」

そう言って差し出された神田の手には、俺のスマホが乗っていた。

「え」
「これ、道に落ちてました。見覚えのあるスマホだったので。それにその……見るつもりはなかったんですが、メッセージが」
「メッセージ?」

スマホの画面を確認すると、美幸からLIMEのメッセージが届いていた。
『今日は18時集合でいいよね?』

「昨日、高坂さんが電話を取ったときに、チラッと画面が見えちゃって……。その時も、美幸さんって名前が見えたから、同じ人からのメッセージかなと思って」
「なるほどな。確かに俺のスマホだ。探してから、助かったよ。……ったた」
「高坂さん? どうしたんですか?」
「いや、ちょっと頭が痛くて」

ちょっとどころかめっちゃ痛いけどな。再び頭痛が襲ってきた。立っているのもしんどいくらいだ。俺は思わず、その場に座り込む。

「ちょ、高坂さん!? 大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫大丈夫。ちょっとしんどいだけだから。ありがとうな神田。スマホと傘、届けてくれて。そういやお前、なんで俺の家知ってんの?」
「えっと、店長に教えてもらいました。落とし物と忘れ物届けたいからって。……高坂さん、体調悪いみたいですけど本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫だってこれくらい……。てか、あれだったら風呂入ってくか? そんな濡れてたら風邪引くぞ」

「え……?」
「まあどっちでもいいけど。家近いなら自分ん家で入ればいいしさ。着替えなら、俺の貸してや…………」

そこで、フッと自分の意識が遠のいていくのがわかった。調子のって喋りすぎたのかもしれない。最後の方なに喋ってたか記憶が……。

ああ、これ死ぬやつかもしれん……。そんなことを考えながら、俺の意識は闇に落ちていった。

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