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判決を言い渡します
しおりを挟む「それでは開廷します。被告人は前に出て下さい」
父親が席を立ち前の方に出る。深刻な表情である。それだけ、自分の罪に反省をしているということなのであろうか。
今回の裁判は被告人が父親、原告は娘である。
起訴内容は、テレビのチャンネル権の独占である。この父親は、娘が毎週楽しみにしているドラマやバラエティー番組があるにもかかわらず、チャンネル権を独占し毎日のように野球中継を観ていた。
裁判長である母親は続けた。
「被告人に尋ねます。この起訴内容に間違いはありませんか?」
父親がフローリングを見つめながらボソボソと答える。
「私は、独占しているつもりなど毛頭ありません。チャンネル権を譲れと言われれば譲っているに違いありません」
ひとしきり被告人の主張を聞いた後、裁判長は弁護人である兄に意見を求めた。
兄は父親の主張を肯定し、野球中継はオフシーズンには観ることができないため、その時のチャンネル権は妹にあるということを述べた。
妹になにか恨みがあるのであろうか。兄は目の色を変えて、父親の弁護をする。
裁判官は次に原告側の証人による発言を許可した。
証人である1番年下の弟が自身ありげな表情で前に出る。その表情を見た父親と兄はお互い目を合わせると、生唾を飲み込み下を向いた。
「僕は、お姉ちゃんがパパに観たいドラマがあると言っていたのを何回も見たことがあります。その度に、断られていました」
「そんなことは…」
父親は裁判長に発言を制止される。
「証人は続けてください」
「パパは野球がないときも、サッカーや高校野球の録画を観ていました。以上です」
裁判長は少し黙り、その間全員が固唾を飲んで待っていた。少しして、裁判長が口を開く。
「被告人は最後に述べておきたいことはありますか?」
「…私は本当にチャンネル権を独占などしていません」
「判決を言い渡します。判決は…」
裁判長は全員の顔を見た後、しっかりと前を見据えた。
「…テレビ、もう1個買おっか」
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