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第三章 カモフ攻防戦
28 第三王子扇動す
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翌日、カモフの谷に低く灰色の雲が垂れ込める中、前領主ザオラルの葬儀が粛々と執り行われた。
祭壇が設けられた円形広場に神官の祈りが響き、喪主として立つトゥーレやテオドーラ、レオポルドなどの参列者が喪服姿で頭を垂れていた。
その広場には、最後の別れを告げようと多くの住民が集まり、大通りにまで溢れていた。裕福な商人たちには喪服姿が多かったが、誂えることができなかった者は、黒い布を衣服の一部に縫い付けて、遠巻きにザオラルとの別れを惜しんでいた。
やがて祈りが終わると、湖へ向けて葬列がゆっくりと動き始めた。そのタイミングを見計らったかのように、重く垂れ込めた空から雨が降り始めた。
葬列の先頭を行くのはトゥーレだ。
船を象ったトルスター家の紋章を高く掲げてゆっくりと歩いていく。その後ろからテオドーラとエステルが続き、棺が載せられた輦台が続く。
輦台を担いでいるのは、クラウスやシルベストルらザオラルが信頼し、彼に古くから仕えていた重臣たちだ。その輦台の後ろからレオポルドを先頭に騎士が三列で連なっていく。
「ザオラル様ぁ!」
葬列が進む港通りの沿道には、別れを惜しむ住民が人垣を作って口々にザオラルの名を叫ぶ。雨が降りしきる中、最後までその場を離れることなく、港門に消えるまでその葬列を見送るのだった。
門を出て桟橋へと到着した棺は、輦台から白木でできた小舟に乗せ替えられた。
「父上・・・・」
トゥーレはそうひと言だけ呟くと、小枝を黒い棺の上に載せて静かに離れる。
「ザオラル様・・・・うっ」
テオドーラは棺に縋り付くように泣き崩れ、それをトゥーレとエステルが慰めながら母を棺から引き離す。
「ザオラル様、私もドーグラス公の首を土産にすぐに向かいます。少しの間待っていてください」
「・・・・」
クラウスは棺にそう誓い、シルベストルは無言のまま棺に手を乗せて俯いていた。長い時間名残惜しそうにそうしていたシルベストルが、葬列に戻ってきた彼の目は真っ赤になっていた。
やがて参列者の見守る中、小枝に埋もれた白木船が、火を付けられてゆっくりと桟橋を離れて行く。
篠突く雨の中でも消えることなく、赤々と燃え上がった炎はあっという間に小舟全体を包み込むと、人々のすすり泣く声とともに静かに沈んでいった。
その夜、重く引き摺る様な足取りのトゥーレは、ある部屋へと向かっていた。
「はぁ・・・・」
トゥーレにしては珍しく気乗りしない様子で、誤魔化すように窓の外に目をやって何度目かの溜息を吐く。
街の灯はすでに疎らで、所々焚かれた篝火がその周囲の建物を浮き上がらせている。雨は夕方には止んでいたが、雲は晴れずに空と谷の稜線を覆い隠したままだった。
「いい加減、辛気くさい態度は辞めていただけませんか? こっちまで気分が滅入ります」
見かねたユーリがうんざりした表情を浮かべる。傍にいるオレクも彼の言葉に同意するように何度も頷いていた。
「分かってはいる。だが今更ストレートに『密談がしたい』など、面倒ごとの予感しかしないじゃないか」
「ですが、断る訳にもいかないでしょう?」
「ああ、だからこうして向かってるんじゃないか!」
駄々をこねるようなトゥーレを二人して宥め賺しながら、何とか会談場所に指定されたレオポルドの居室まで引っ張っていくと、扉の前に立つ護衛に声を掛けた。
護衛はすぐに扉を開けて三名を部屋の中へと案内していく。
「よく来てくれた。さ、掛け給え!」
この部屋の主レオポルドが、トゥーレの内心を知ってか知らずか機嫌良くソファを進めた。
渋々という態度を隠すことなく、トゥーレは進められたソファに腰を下ろし、ユーリとオレクの二人は静かにトゥーレの後ろに立つ。
「ふふ、何だか嫌われているようだ」
そう言いながらも楽しそうな笑顔を浮かべたレオポルドは、側勤めが煎れたお茶に口を付けトゥーレにも勧めた。
「酒がよければ用意させるが?」
「いえ、結構です」
ぶっきらぼうに答えるトゥーレに、やはり愉快そうに笑みを浮かべている。
このままでは埒があかないと考えたトゥーレは、渋々ながらレオポルドに問い掛ける。
「それで殿下、辺境の田舎騎士に何かご用があるのでしょうか?」
「ははは、ストレートな物言いは嫌いではないぞ。王都に戻る前にその辺境の友人との友誼を深めておきたいと思っただけだが、お気に召さなかったか?」
「それは別に構いませんが、我らは明日をも知れぬ立場に立っております。友誼を深めたところで、それを生かせる機会なぞ来ないと存じますが」
近いうちにドーグラスとの戦いになる。
国力でも戦力でも圧倒されている相手との戦いだ。そのような明日をも知れぬ勢力と友誼を結ぼうなどとは悪い冗談にしか聞こえない。
実際に中央での彼らの評価では、風前の灯火どころか既に終わったと見られているのだ。
「中央の評価はともかく、私は其方らが生き残ると見ているのだよ。そんな者に早くから誼を通じていたとすれば、後々私も色々と動きやすくなるのでな」
そう言って笑う。
前日の会談とは違って、レオポルドの雰囲気が随分変わっていた。
暗愚とは言わないまでも毒にも薬にもならぬ凡庸な雰囲気だったのが、今は掴み所がなく何を考えているか分からなかった。
トゥーレは表情には出さなかったが、彼に得体の知れない恐ろしさを感じていた。
「そこまで殿下に買っていただいて嬉しくは存じますが、我らには少々遠い先のように感じます。実際に殿下の言う通り、我らが生き残る事ができたなら、改めて考えたいと存じます」
警戒したトゥーレは言質を取られないように慎重に言葉を選ぶ。
「ふふっ、警戒させてしまったか? 其方は思った通り一筋縄では行かぬようだ」
レオポルドはそう言うと人払いを命じる。
トゥーレの護衛の二人は彼をひとり残すことに最後まで渋っていたが、レオポルドの護衛や側勤めも黙って退室としていったこともあって出て行かざるを得なくなり、部屋にはレオポルドとトゥーレの二人が残された。
「さて、本音で話そうか」
益々警戒するトゥーレを余所に、機嫌良さそうにレオポルドが口を開いた。同時に彼の言葉遣いも雰囲気もさらに変わり、言葉通りストレートに踏み込んできた。
「貴様はどこを目指している?」
「どことは?」
「惚けるな。私の目は誤魔化せぬぞ。ドーグラスとの戦いを前に汲々としているように見せながら、その実その先まで考えているであろう?」
「っ!?」
トゥーレは心臓を鷲掴みされた気がした。
辛うじて言葉は飲み込んだが、レオポルドにはその態度で充分だったようだ。
「やはり私が見込んだだけのことはある」
満足そうに頷いた彼は席を立つと、グラスをふたつと酒の入ったボトルを取り出すとテーブルの上に置く。
―――はぁぁっ・・・・
この日何度目か分からない溜息を吐いたトゥーレは、諦めたようにボトルを受け取り、封を切るとふたつのグラスに酒を注いだ。
部屋に芳醇な果実の甘い香りが漂よう。
「それで、何を聞きたいんですか?」
ぶっきらぼうな態度を崩そうともせず、トゥーレはレオポルドの真意を測る。
その態度で不興を買って破談になれば儲けものという打算もあったが、レオポルドは愉快そうな態度を崩そうともしない。
それどころか、さらにど真ん中に切り込んできたのだ。
「貴様は新たな覇王になるつもりがあるのか?」
「まさか!? 俺はそんな器じゃありません」
「ならば、ギルドを潰そうとするのは何故だ?」
「サザンのギルドは権力に固執する余り、やり過ぎました。思い通りにならないからと、守るべき者に手を出したのです。相応の罰が必要でしょう」
「では彼らはもう充分に罰を受けたと思うが、今後この街に再びギルドが入ることはあるのか?」
「彼らが分を弁え大人しくしていれば、そのときは再びギルドが入ることがあるかも知れません。が、今の所その必要性は感じておりません」
矢継ぎ早に繰り出される質問に対し、きっちりと回答しているようでいて、トゥーレはそのどれにもまともに答えていない。
レオポルドのことをまだそれほど信用できないのもあるが、一番の問題はその彼の目的がはっきりしないことだ。
無警戒に正直に答えたが故に破滅へ一直線。そのような事態だけは何としても避けなければならなかった。
レオポルドの質問は多岐にわたった。
優秀な情報網を持っているようで、魔法石を使用した新兵器の存在や、サトルトの軍事拠点化まで、こちらが秘匿していることについても、ある程度情報を掴んでいるようだった。
中でもレオポルドの興味を惹いたのは魔砲兵器のようだった。
「新兵器については、是非とも私にも融通して欲しいものだ」
「存在しない兵器についてはお答えしかねます」
さすがにトルスター軍の中でもまだ秘匿扱いの新兵器だ。王子の頼みでも簡単に融通する訳にはいかない。
それでもトゥーレに最初のような警戒心は薄れてきていた。少しではあるが、レオポルドは信用しても良いと思えるようにはなっていた。
「やはり私が見込んだ通り、貴様は面白い。ドーグラスに勝てば私を頼るがいい」
「それはまだ気が早いかと」
「そうか? 貴様が勝てば、第一、第二王子のみならず、中央からありとあらゆる狢が誼を通じようと接触して来るだろう。私相手に辟易しておるようでは保たぬぞ」
「げっ!」
冗談めかした彼の脅しに思わず顔を歪めてしまったトゥーレを、してやったりという表情でレオポルドが笑った。
「これはまだ気が早いと思うが・・・・」
そう言いながら、一転してレオポルドは真剣な表情を浮かべた。その様子にトゥーレは嫌な予感を浮かべながら背筋を正す。
「ドーグラスを討ち、その後ウンダルをも手に入れることができれば、貴様はこの国を滅ぼす存在になるかも知れぬな」
「殿下は俺に何をさせたいのですか!?」
アルテミラ王国の第三王子が、しがない辺境の領主の野心を警戒するでもなく、逆にトゥーレを焚きつけるような言動をおこなう。
トゥーレは思わず取り繕う事も忘れて素で聞き返してしまう。
そのレオポルドはそんなトゥーレの様子に満足した様子で、グラスを一気に飲み干すのだった。
祭壇が設けられた円形広場に神官の祈りが響き、喪主として立つトゥーレやテオドーラ、レオポルドなどの参列者が喪服姿で頭を垂れていた。
その広場には、最後の別れを告げようと多くの住民が集まり、大通りにまで溢れていた。裕福な商人たちには喪服姿が多かったが、誂えることができなかった者は、黒い布を衣服の一部に縫い付けて、遠巻きにザオラルとの別れを惜しんでいた。
やがて祈りが終わると、湖へ向けて葬列がゆっくりと動き始めた。そのタイミングを見計らったかのように、重く垂れ込めた空から雨が降り始めた。
葬列の先頭を行くのはトゥーレだ。
船を象ったトルスター家の紋章を高く掲げてゆっくりと歩いていく。その後ろからテオドーラとエステルが続き、棺が載せられた輦台が続く。
輦台を担いでいるのは、クラウスやシルベストルらザオラルが信頼し、彼に古くから仕えていた重臣たちだ。その輦台の後ろからレオポルドを先頭に騎士が三列で連なっていく。
「ザオラル様ぁ!」
葬列が進む港通りの沿道には、別れを惜しむ住民が人垣を作って口々にザオラルの名を叫ぶ。雨が降りしきる中、最後までその場を離れることなく、港門に消えるまでその葬列を見送るのだった。
門を出て桟橋へと到着した棺は、輦台から白木でできた小舟に乗せ替えられた。
「父上・・・・」
トゥーレはそうひと言だけ呟くと、小枝を黒い棺の上に載せて静かに離れる。
「ザオラル様・・・・うっ」
テオドーラは棺に縋り付くように泣き崩れ、それをトゥーレとエステルが慰めながら母を棺から引き離す。
「ザオラル様、私もドーグラス公の首を土産にすぐに向かいます。少しの間待っていてください」
「・・・・」
クラウスは棺にそう誓い、シルベストルは無言のまま棺に手を乗せて俯いていた。長い時間名残惜しそうにそうしていたシルベストルが、葬列に戻ってきた彼の目は真っ赤になっていた。
やがて参列者の見守る中、小枝に埋もれた白木船が、火を付けられてゆっくりと桟橋を離れて行く。
篠突く雨の中でも消えることなく、赤々と燃え上がった炎はあっという間に小舟全体を包み込むと、人々のすすり泣く声とともに静かに沈んでいった。
その夜、重く引き摺る様な足取りのトゥーレは、ある部屋へと向かっていた。
「はぁ・・・・」
トゥーレにしては珍しく気乗りしない様子で、誤魔化すように窓の外に目をやって何度目かの溜息を吐く。
街の灯はすでに疎らで、所々焚かれた篝火がその周囲の建物を浮き上がらせている。雨は夕方には止んでいたが、雲は晴れずに空と谷の稜線を覆い隠したままだった。
「いい加減、辛気くさい態度は辞めていただけませんか? こっちまで気分が滅入ります」
見かねたユーリがうんざりした表情を浮かべる。傍にいるオレクも彼の言葉に同意するように何度も頷いていた。
「分かってはいる。だが今更ストレートに『密談がしたい』など、面倒ごとの予感しかしないじゃないか」
「ですが、断る訳にもいかないでしょう?」
「ああ、だからこうして向かってるんじゃないか!」
駄々をこねるようなトゥーレを二人して宥め賺しながら、何とか会談場所に指定されたレオポルドの居室まで引っ張っていくと、扉の前に立つ護衛に声を掛けた。
護衛はすぐに扉を開けて三名を部屋の中へと案内していく。
「よく来てくれた。さ、掛け給え!」
この部屋の主レオポルドが、トゥーレの内心を知ってか知らずか機嫌良くソファを進めた。
渋々という態度を隠すことなく、トゥーレは進められたソファに腰を下ろし、ユーリとオレクの二人は静かにトゥーレの後ろに立つ。
「ふふ、何だか嫌われているようだ」
そう言いながらも楽しそうな笑顔を浮かべたレオポルドは、側勤めが煎れたお茶に口を付けトゥーレにも勧めた。
「酒がよければ用意させるが?」
「いえ、結構です」
ぶっきらぼうに答えるトゥーレに、やはり愉快そうに笑みを浮かべている。
このままでは埒があかないと考えたトゥーレは、渋々ながらレオポルドに問い掛ける。
「それで殿下、辺境の田舎騎士に何かご用があるのでしょうか?」
「ははは、ストレートな物言いは嫌いではないぞ。王都に戻る前にその辺境の友人との友誼を深めておきたいと思っただけだが、お気に召さなかったか?」
「それは別に構いませんが、我らは明日をも知れぬ立場に立っております。友誼を深めたところで、それを生かせる機会なぞ来ないと存じますが」
近いうちにドーグラスとの戦いになる。
国力でも戦力でも圧倒されている相手との戦いだ。そのような明日をも知れぬ勢力と友誼を結ぼうなどとは悪い冗談にしか聞こえない。
実際に中央での彼らの評価では、風前の灯火どころか既に終わったと見られているのだ。
「中央の評価はともかく、私は其方らが生き残ると見ているのだよ。そんな者に早くから誼を通じていたとすれば、後々私も色々と動きやすくなるのでな」
そう言って笑う。
前日の会談とは違って、レオポルドの雰囲気が随分変わっていた。
暗愚とは言わないまでも毒にも薬にもならぬ凡庸な雰囲気だったのが、今は掴み所がなく何を考えているか分からなかった。
トゥーレは表情には出さなかったが、彼に得体の知れない恐ろしさを感じていた。
「そこまで殿下に買っていただいて嬉しくは存じますが、我らには少々遠い先のように感じます。実際に殿下の言う通り、我らが生き残る事ができたなら、改めて考えたいと存じます」
警戒したトゥーレは言質を取られないように慎重に言葉を選ぶ。
「ふふっ、警戒させてしまったか? 其方は思った通り一筋縄では行かぬようだ」
レオポルドはそう言うと人払いを命じる。
トゥーレの護衛の二人は彼をひとり残すことに最後まで渋っていたが、レオポルドの護衛や側勤めも黙って退室としていったこともあって出て行かざるを得なくなり、部屋にはレオポルドとトゥーレの二人が残された。
「さて、本音で話そうか」
益々警戒するトゥーレを余所に、機嫌良さそうにレオポルドが口を開いた。同時に彼の言葉遣いも雰囲気もさらに変わり、言葉通りストレートに踏み込んできた。
「貴様はどこを目指している?」
「どことは?」
「惚けるな。私の目は誤魔化せぬぞ。ドーグラスとの戦いを前に汲々としているように見せながら、その実その先まで考えているであろう?」
「っ!?」
トゥーレは心臓を鷲掴みされた気がした。
辛うじて言葉は飲み込んだが、レオポルドにはその態度で充分だったようだ。
「やはり私が見込んだだけのことはある」
満足そうに頷いた彼は席を立つと、グラスをふたつと酒の入ったボトルを取り出すとテーブルの上に置く。
―――はぁぁっ・・・・
この日何度目か分からない溜息を吐いたトゥーレは、諦めたようにボトルを受け取り、封を切るとふたつのグラスに酒を注いだ。
部屋に芳醇な果実の甘い香りが漂よう。
「それで、何を聞きたいんですか?」
ぶっきらぼうな態度を崩そうともせず、トゥーレはレオポルドの真意を測る。
その態度で不興を買って破談になれば儲けものという打算もあったが、レオポルドは愉快そうな態度を崩そうともしない。
それどころか、さらにど真ん中に切り込んできたのだ。
「貴様は新たな覇王になるつもりがあるのか?」
「まさか!? 俺はそんな器じゃありません」
「ならば、ギルドを潰そうとするのは何故だ?」
「サザンのギルドは権力に固執する余り、やり過ぎました。思い通りにならないからと、守るべき者に手を出したのです。相応の罰が必要でしょう」
「では彼らはもう充分に罰を受けたと思うが、今後この街に再びギルドが入ることはあるのか?」
「彼らが分を弁え大人しくしていれば、そのときは再びギルドが入ることがあるかも知れません。が、今の所その必要性は感じておりません」
矢継ぎ早に繰り出される質問に対し、きっちりと回答しているようでいて、トゥーレはそのどれにもまともに答えていない。
レオポルドのことをまだそれほど信用できないのもあるが、一番の問題はその彼の目的がはっきりしないことだ。
無警戒に正直に答えたが故に破滅へ一直線。そのような事態だけは何としても避けなければならなかった。
レオポルドの質問は多岐にわたった。
優秀な情報網を持っているようで、魔法石を使用した新兵器の存在や、サトルトの軍事拠点化まで、こちらが秘匿していることについても、ある程度情報を掴んでいるようだった。
中でもレオポルドの興味を惹いたのは魔砲兵器のようだった。
「新兵器については、是非とも私にも融通して欲しいものだ」
「存在しない兵器についてはお答えしかねます」
さすがにトルスター軍の中でもまだ秘匿扱いの新兵器だ。王子の頼みでも簡単に融通する訳にはいかない。
それでもトゥーレに最初のような警戒心は薄れてきていた。少しではあるが、レオポルドは信用しても良いと思えるようにはなっていた。
「やはり私が見込んだ通り、貴様は面白い。ドーグラスに勝てば私を頼るがいい」
「それはまだ気が早いかと」
「そうか? 貴様が勝てば、第一、第二王子のみならず、中央からありとあらゆる狢が誼を通じようと接触して来るだろう。私相手に辟易しておるようでは保たぬぞ」
「げっ!」
冗談めかした彼の脅しに思わず顔を歪めてしまったトゥーレを、してやったりという表情でレオポルドが笑った。
「これはまだ気が早いと思うが・・・・」
そう言いながら、一転してレオポルドは真剣な表情を浮かべた。その様子にトゥーレは嫌な予感を浮かべながら背筋を正す。
「ドーグラスを討ち、その後ウンダルをも手に入れることができれば、貴様はこの国を滅ぼす存在になるかも知れぬな」
「殿下は俺に何をさせたいのですか!?」
アルテミラ王国の第三王子が、しがない辺境の領主の野心を警戒するでもなく、逆にトゥーレを焚きつけるような言動をおこなう。
トゥーレは思わず取り繕う事も忘れて素で聞き返してしまう。
そのレオポルドはそんなトゥーレの様子に満足した様子で、グラスを一気に飲み干すのだった。
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