4 / 5
3-4 王女の館のおとこの娘
しおりを挟む
3-4 王女の館のおとこの娘
どうしてそう思うのだろうか。
いや、その思いが正しいことはわかっている。
ただ、その思いが何であったのかを、おれが忘れているだけだ。
「ガーナの姫を救出せよ」
あれは、天皇陛下からの勅命を奉じて、おれが初めて国連の外人部隊に出向した時の作戦だ。
反政府組織に狙われているアフリカのガーナの大統領の長女を救出して、イギリスに亡命させることが目的だった。
その作戦と今回のガルナ王女救出作戦が、同じような歴史を繰り返していると感じているのだが.....
現世の作戦の記憶が霧の中に隠されているみたいに、どうしても思い出すことができなかった。
「どうした玉響(たまゆら)?
もうすぐ湖岸に到着するぞ」
チャード小隊長の声に夢から覚めた気分だ。
「あ.....了解です」
気の抜けた返事にルーコラがからかう。
「ぼうっとしてると湖に落ちちゃうよ」
その通りだった。
おれたちは魔物を退け、ボートで湖を渡っていた。
先程までの緊張感が嘘のように、美しい水面の上を2艘のボートが走っている。
青く大きな空が湖面に映り込んでいる。
まるで鏡の中を飛んでいるような神秘的な光景だった。
ボートが作る波が、空に模様を編んでいるようだ。
前方に大きな館が見えてきた。
あれが王女が避難している別荘だろう。
「我々は周囲を索敵してから上陸する。
チャード小隊は先に上陸してくれ」
ガプス小隊長が声を掛けてきた。
先程の魔物との戦闘はチャード小隊の活躍が大きかったこともあり、気を使ってくれたのだろう。
「了解です」
そう答えて、我々のボートは館の船着場に向かった。
「お待ちしておりました」
館の二人の侍女が出迎えてくれたが、グスタヴのことを思い出して侍女の頭のてっぺんから爪先まで確認せずにはいられなかった。
ちゃんと地面に着いてる足を見て、みんなが胸を撫で下ろした。
我々は先に館に向かったが、程なくして到着したガプス小隊が侍女を見て悲鳴を上げたものだから、侍女達は機嫌を損ねてしまった。
プリプリと不機嫌な侍女と、首をうなだれたガプス小隊が、無事(?)に館に到着した。
館に到着すると広い部屋に通された。
そこでは食事も用意され、自由に休憩を取ることも許されていた。
だが、最低限の侍女との接触があるだけで、王女との謁見もなかった。
騒がしくすることのないように小隊長からの指示が出されたが、最低限の礼節は守って食事をいただいた。
かなり広い部屋だが、そこは食堂ではないようだ。
2階までの吹き抜けになっていて、天井には豪華な装飾がされたシャンデリアが鎮座していた。
シャンデリアと言っても、魔力で発光しているようだ。
丈夫な鎖で天井から吊り下げられているので、落下の危険性は少ないと思う。
2階の高さには部屋を取り巻く廊下があった。
ドアが見えるので、2階には部屋がいくつかあるのだろう。
侍女が時折上の廊下を歩き、2階の部屋に出入りしている。
もし今、サブマシンガンを持った敵が上の廊下から発砲したら、我々は逃げ場がない。
ふと気がつくと、チャードと九郎も警戒しているようだった。
この二人が警戒しているならば、おれは別のところを見ていればいいか。
「どうしたバキバキ?
元気ないな」
普段よりおとなしいバキバキに、おれは声を掛けた。
あまり食事も摂っていないようだ。
バキバキは自慢の斧「ジャイアントアックス」を見せた。
「オラの斧が、ボロボロになってしまった」
湖岸での魔物との戦いで、斧の刃こぼれがあったようだ。
常に研ぎ澄まされていた刃は、ところどころ欠けてしまい、小さなヒビも入っていた。
「さすがにミスリルと打ち合ったから、刃もこぼれてしまったのね」
トリィもバキバキを気遣っている。
「帰ったら斧を作り直してやるから、ちょっとだけ待っていろ」
ガングルジオンがバキバキの肩を叩いた。
「あの鉈と同じように作ってやる。
いや、ミスリルが手に入ったから、もっとすごいのができるかもしれないぞ」
「ほんとうか?」
バキバキの顔が明るくなった。
「ミスリルはバキバキの戦利品だもんね」
ルーコラの言葉を聞いて、バキバキは嬉しそうに食事を続けた。
肉料理は少ないが、その分魚料理はボリュームがあった。
スパイスの効いた豆料理と、果物は特に美味かった。
限られた水だけで一日中歩き続けた身体に、果物の水分が染み渡っていくのを感じた。
「打ち合わせをします。
呼ばれた方だけ2階に上がってください」
他人に媚びることはないだろうと思う、いかにもデキる秘書って感じの侍女が声を掛けてきた。
彼女が侍女頭だろうか。
「小隊長のお二人と、そこの女性」
「........?」
トリィを見ると、おれを見てる。
ルーコラを見ても、おれを見てる。
もしかしたらと侍女を見ると、やっぱりおれを見ていた。
「💢おr」
「ちょっと待て玉響‼️」
チャードが言葉を遮った。
「とりあえず2階に行こう」
傭兵達が肩を震わせて笑いを堪えているのを確認して、おれは階段を上がった。
あとで絶対ブッ飛ばす💢
三人が通された部屋には、王女と10人の侍女がいた。
「お食事はお口に合いましたか?」
王女と目が合った。
「美味かったです」
わざとぶっきらぼうに答えた。
それでも笑顔を見せる王女の佇まいは、気品に満ちていた。
年齢は、おれと同じくらいだろうか?
身長は、彼女の方が大きい気がする。
身体のラインは水着のモデルのようにメリハリがあった。
現世のアフリカと違い樹木の多いガルナ王国には、黒人はいないらしい。
王女も侍女も褐色の肌が健康的に見える。
「私のボディガードは、やはり女性にお願いしたいのです」
眉間に皺を寄せるおれを、チャードが横目で制した。
王女に変わって、侍女頭と思われる女性が説明を続けた。
「あなた方が食事をした場所は、どこからでも狙われる場所でした。
食事に夢中になって安全確保ができない方に王女様の護衛は任せられません。
女性の中で、あなただけが周囲の安全を確認していました。
なのであなたに、王女様の護衛をお願いします。
理解できたら王女様にご挨拶してください」
高圧的な物言いだった。
「仔細承知致ししました。
私は玉響と申します。
21歳の男性です」
細い手足。
小ぶりだが丸いお尻。
くびれたウエスト。
胸は......ない。
中性的な顔立ち。
長い栗色の髪を後ろでまとめた姿に、女性らしさを感じるのはしょうがないことだ。
王女も侍女も目を見開いている。
「まぁ、どうしましょう?」
困惑する王女。
「それはそれで.....」
「かえって美味しいのでは?」
侍女達が何か言ってる?
「確認します」
ツカツカと歩み寄る気の強い侍女頭。
確認って何と思った時には股間を握られていた。
面子を潰された侍女のプライドと、性別を間違われた玉響の怒りが、至近距離で火花を散らす。
恥をかかされた分だけ、股関を掴む力が増してくるみたいだ。
「戻りなさい沙羅」
沙羅と呼ばれた侍女頭が悔しそうに王女の元に戻り、そっと耳打ちした。
「え?
......ほんと?
ええ?
そんなに.....きいの?」
王女が顔を赤らめた。
侍女達が集まって会議が始まった。
嫌な予感がする。
「失礼しました玉響。
できることなら、このまま男性のあなたに護衛をお願いしたいのです。
私はガルナ王国第1王女、カタリーナ=菜々緒です。
お願いできますか?」
侍女頭とは違い穏やかな王女の言葉に、おれは護衛の任に応じようと思った。
「おれで良ければ、万全を尽くします」
「ありがとうございます」
王女の笑顔と侍女達の目付きが変わった気がした。
チャードとガプスの挨拶はすぐに終わり、明日朝に出発することが決められた。
そして、なぜかおれだけ別室に案内された。
「頑張れよ」
チャードの言葉が虚しく通り過ぎていく。
不安だ。
侍女達の目付きがおかしい。
「王女様の護衛に相応しい服装に着替えていただきます。
そして、今夜中に王女様の護衛に相応しい振る舞いを覚えていただきます」
沙羅と呼ばれた侍女頭が勝ち誇った表情をしている。
嫌な予感しかない。
「このドレスなら似合うと思うの」
王女がドレスとハイヒールと女性用の下着と、その他いろいろ持って来た。
「お化粧もしましょうね」
楽しそうな王女様と侍女達。
武器も衣服も下着も靴下も、身につけているものは全て剥ぎ取られた。
髪も解かれた。
「あら!」
「まぁ!」
それはどんな意味だ?
「やっぱりバストは無いのですね」
王女が残念そうな顔をしている。
「その分あっちの方は大丈夫みたいですよ」
生まれて初めての経験に、頭のてっぺんから爪先まで緊張していた。
おれは着せ替え人形じゃない。
おれの心の叫びが誰かに届くことはなかった。
まずは下着を穿かされる。
「やっぱりはみ出しますね?」
「じゃあ、小さくしましょう」
王女がひざまずく。
そして重なり合う。
その間、ブラにパッドが縫い重ねられる。
トップスはブラの上に紺色のブラウスを着て、体形を誤魔化すためにビスチェを重ねる。
ボトムスは下着の上にガードルとスパッツを重ねて膨らみを抑える。
スカートはウエストが入らないため、前合わせの黒い巻きスカートに改造された。
どれも刺繍やレースが高級感と女性らしさを感じさせるデザインだった。
しかし、太ももがスースーするのが落ち着かない。
脚を開いたら股関が丸見えになりそうだ。
拳銃のホルスターは、見えないようにスカートの内側に固定した。
日本刀は左手で持つことにした。
ガルナ王国民は刀の存在を知らないから、持ち歩いても大丈夫らしい。
銀の首輪と緋色の手甲はそのままになった。
履き物はどれもサイズが合わないので、歩いても脱げないミドルヒールのショートブーツに決定した。
試着を繰り返す合間に、ガルナ王国に漢字の名前がある理由を教えてもらった。
まだ魔法がない時代、ヒノモトの民は小舟で海を渡り世界の至る所に国を作った。
アルディラの森と呼ばれるこの世界の国の3割は、ヒノモトの民が国作りに関係しているそうだ。
ガルナ王国もそのひとつなので、身分の高い人には漢字の名前が多いらしい。
「ヒノモトってどこの国なの?」
なんとなくわかるけど、この異世界では聞いたことがなかった。
「今はヤマトノクニやヒタカミノクニなど周辺12国をまとめた呼び方です」
やっぱり日本のことらしい。
「では、次に化粧をします。
王女様の化粧品を使わせていただくのですから、感謝を忘れませんようお願いします」
高圧的な言葉にも慣れてきた自分が嫌いになる。
侍女達はあからさまにはしゃぎながら、おれの顔をいじくり回した。
「化粧や衣装はこれで完成ですが、今のままでは一歩歩いただけで男性と見破られてしまいます。
なのでまずは、階段を降りる練習をしましょう」
階段の下には、傭兵団のみんながいるだろう?
「ちょっと待てよ」
と言った時に、九郎が迎えに来た。
「さぁ、これからは俺が先生だ。
女性らしい仕草を覚えよう」
「そのニヤけた顔はやめろ」
泣きそうな顔で階段を降りた。
そして、割れんばかりの拍手に迎えられたおれは、それからの3時間をウォーキングの練習に費やした。
早くこの異世界から脱出したい。
3-5 脱出につづく
どうしてそう思うのだろうか。
いや、その思いが正しいことはわかっている。
ただ、その思いが何であったのかを、おれが忘れているだけだ。
「ガーナの姫を救出せよ」
あれは、天皇陛下からの勅命を奉じて、おれが初めて国連の外人部隊に出向した時の作戦だ。
反政府組織に狙われているアフリカのガーナの大統領の長女を救出して、イギリスに亡命させることが目的だった。
その作戦と今回のガルナ王女救出作戦が、同じような歴史を繰り返していると感じているのだが.....
現世の作戦の記憶が霧の中に隠されているみたいに、どうしても思い出すことができなかった。
「どうした玉響(たまゆら)?
もうすぐ湖岸に到着するぞ」
チャード小隊長の声に夢から覚めた気分だ。
「あ.....了解です」
気の抜けた返事にルーコラがからかう。
「ぼうっとしてると湖に落ちちゃうよ」
その通りだった。
おれたちは魔物を退け、ボートで湖を渡っていた。
先程までの緊張感が嘘のように、美しい水面の上を2艘のボートが走っている。
青く大きな空が湖面に映り込んでいる。
まるで鏡の中を飛んでいるような神秘的な光景だった。
ボートが作る波が、空に模様を編んでいるようだ。
前方に大きな館が見えてきた。
あれが王女が避難している別荘だろう。
「我々は周囲を索敵してから上陸する。
チャード小隊は先に上陸してくれ」
ガプス小隊長が声を掛けてきた。
先程の魔物との戦闘はチャード小隊の活躍が大きかったこともあり、気を使ってくれたのだろう。
「了解です」
そう答えて、我々のボートは館の船着場に向かった。
「お待ちしておりました」
館の二人の侍女が出迎えてくれたが、グスタヴのことを思い出して侍女の頭のてっぺんから爪先まで確認せずにはいられなかった。
ちゃんと地面に着いてる足を見て、みんなが胸を撫で下ろした。
我々は先に館に向かったが、程なくして到着したガプス小隊が侍女を見て悲鳴を上げたものだから、侍女達は機嫌を損ねてしまった。
プリプリと不機嫌な侍女と、首をうなだれたガプス小隊が、無事(?)に館に到着した。
館に到着すると広い部屋に通された。
そこでは食事も用意され、自由に休憩を取ることも許されていた。
だが、最低限の侍女との接触があるだけで、王女との謁見もなかった。
騒がしくすることのないように小隊長からの指示が出されたが、最低限の礼節は守って食事をいただいた。
かなり広い部屋だが、そこは食堂ではないようだ。
2階までの吹き抜けになっていて、天井には豪華な装飾がされたシャンデリアが鎮座していた。
シャンデリアと言っても、魔力で発光しているようだ。
丈夫な鎖で天井から吊り下げられているので、落下の危険性は少ないと思う。
2階の高さには部屋を取り巻く廊下があった。
ドアが見えるので、2階には部屋がいくつかあるのだろう。
侍女が時折上の廊下を歩き、2階の部屋に出入りしている。
もし今、サブマシンガンを持った敵が上の廊下から発砲したら、我々は逃げ場がない。
ふと気がつくと、チャードと九郎も警戒しているようだった。
この二人が警戒しているならば、おれは別のところを見ていればいいか。
「どうしたバキバキ?
元気ないな」
普段よりおとなしいバキバキに、おれは声を掛けた。
あまり食事も摂っていないようだ。
バキバキは自慢の斧「ジャイアントアックス」を見せた。
「オラの斧が、ボロボロになってしまった」
湖岸での魔物との戦いで、斧の刃こぼれがあったようだ。
常に研ぎ澄まされていた刃は、ところどころ欠けてしまい、小さなヒビも入っていた。
「さすがにミスリルと打ち合ったから、刃もこぼれてしまったのね」
トリィもバキバキを気遣っている。
「帰ったら斧を作り直してやるから、ちょっとだけ待っていろ」
ガングルジオンがバキバキの肩を叩いた。
「あの鉈と同じように作ってやる。
いや、ミスリルが手に入ったから、もっとすごいのができるかもしれないぞ」
「ほんとうか?」
バキバキの顔が明るくなった。
「ミスリルはバキバキの戦利品だもんね」
ルーコラの言葉を聞いて、バキバキは嬉しそうに食事を続けた。
肉料理は少ないが、その分魚料理はボリュームがあった。
スパイスの効いた豆料理と、果物は特に美味かった。
限られた水だけで一日中歩き続けた身体に、果物の水分が染み渡っていくのを感じた。
「打ち合わせをします。
呼ばれた方だけ2階に上がってください」
他人に媚びることはないだろうと思う、いかにもデキる秘書って感じの侍女が声を掛けてきた。
彼女が侍女頭だろうか。
「小隊長のお二人と、そこの女性」
「........?」
トリィを見ると、おれを見てる。
ルーコラを見ても、おれを見てる。
もしかしたらと侍女を見ると、やっぱりおれを見ていた。
「💢おr」
「ちょっと待て玉響‼️」
チャードが言葉を遮った。
「とりあえず2階に行こう」
傭兵達が肩を震わせて笑いを堪えているのを確認して、おれは階段を上がった。
あとで絶対ブッ飛ばす💢
三人が通された部屋には、王女と10人の侍女がいた。
「お食事はお口に合いましたか?」
王女と目が合った。
「美味かったです」
わざとぶっきらぼうに答えた。
それでも笑顔を見せる王女の佇まいは、気品に満ちていた。
年齢は、おれと同じくらいだろうか?
身長は、彼女の方が大きい気がする。
身体のラインは水着のモデルのようにメリハリがあった。
現世のアフリカと違い樹木の多いガルナ王国には、黒人はいないらしい。
王女も侍女も褐色の肌が健康的に見える。
「私のボディガードは、やはり女性にお願いしたいのです」
眉間に皺を寄せるおれを、チャードが横目で制した。
王女に変わって、侍女頭と思われる女性が説明を続けた。
「あなた方が食事をした場所は、どこからでも狙われる場所でした。
食事に夢中になって安全確保ができない方に王女様の護衛は任せられません。
女性の中で、あなただけが周囲の安全を確認していました。
なのであなたに、王女様の護衛をお願いします。
理解できたら王女様にご挨拶してください」
高圧的な物言いだった。
「仔細承知致ししました。
私は玉響と申します。
21歳の男性です」
細い手足。
小ぶりだが丸いお尻。
くびれたウエスト。
胸は......ない。
中性的な顔立ち。
長い栗色の髪を後ろでまとめた姿に、女性らしさを感じるのはしょうがないことだ。
王女も侍女も目を見開いている。
「まぁ、どうしましょう?」
困惑する王女。
「それはそれで.....」
「かえって美味しいのでは?」
侍女達が何か言ってる?
「確認します」
ツカツカと歩み寄る気の強い侍女頭。
確認って何と思った時には股間を握られていた。
面子を潰された侍女のプライドと、性別を間違われた玉響の怒りが、至近距離で火花を散らす。
恥をかかされた分だけ、股関を掴む力が増してくるみたいだ。
「戻りなさい沙羅」
沙羅と呼ばれた侍女頭が悔しそうに王女の元に戻り、そっと耳打ちした。
「え?
......ほんと?
ええ?
そんなに.....きいの?」
王女が顔を赤らめた。
侍女達が集まって会議が始まった。
嫌な予感がする。
「失礼しました玉響。
できることなら、このまま男性のあなたに護衛をお願いしたいのです。
私はガルナ王国第1王女、カタリーナ=菜々緒です。
お願いできますか?」
侍女頭とは違い穏やかな王女の言葉に、おれは護衛の任に応じようと思った。
「おれで良ければ、万全を尽くします」
「ありがとうございます」
王女の笑顔と侍女達の目付きが変わった気がした。
チャードとガプスの挨拶はすぐに終わり、明日朝に出発することが決められた。
そして、なぜかおれだけ別室に案内された。
「頑張れよ」
チャードの言葉が虚しく通り過ぎていく。
不安だ。
侍女達の目付きがおかしい。
「王女様の護衛に相応しい服装に着替えていただきます。
そして、今夜中に王女様の護衛に相応しい振る舞いを覚えていただきます」
沙羅と呼ばれた侍女頭が勝ち誇った表情をしている。
嫌な予感しかない。
「このドレスなら似合うと思うの」
王女がドレスとハイヒールと女性用の下着と、その他いろいろ持って来た。
「お化粧もしましょうね」
楽しそうな王女様と侍女達。
武器も衣服も下着も靴下も、身につけているものは全て剥ぎ取られた。
髪も解かれた。
「あら!」
「まぁ!」
それはどんな意味だ?
「やっぱりバストは無いのですね」
王女が残念そうな顔をしている。
「その分あっちの方は大丈夫みたいですよ」
生まれて初めての経験に、頭のてっぺんから爪先まで緊張していた。
おれは着せ替え人形じゃない。
おれの心の叫びが誰かに届くことはなかった。
まずは下着を穿かされる。
「やっぱりはみ出しますね?」
「じゃあ、小さくしましょう」
王女がひざまずく。
そして重なり合う。
その間、ブラにパッドが縫い重ねられる。
トップスはブラの上に紺色のブラウスを着て、体形を誤魔化すためにビスチェを重ねる。
ボトムスは下着の上にガードルとスパッツを重ねて膨らみを抑える。
スカートはウエストが入らないため、前合わせの黒い巻きスカートに改造された。
どれも刺繍やレースが高級感と女性らしさを感じさせるデザインだった。
しかし、太ももがスースーするのが落ち着かない。
脚を開いたら股関が丸見えになりそうだ。
拳銃のホルスターは、見えないようにスカートの内側に固定した。
日本刀は左手で持つことにした。
ガルナ王国民は刀の存在を知らないから、持ち歩いても大丈夫らしい。
銀の首輪と緋色の手甲はそのままになった。
履き物はどれもサイズが合わないので、歩いても脱げないミドルヒールのショートブーツに決定した。
試着を繰り返す合間に、ガルナ王国に漢字の名前がある理由を教えてもらった。
まだ魔法がない時代、ヒノモトの民は小舟で海を渡り世界の至る所に国を作った。
アルディラの森と呼ばれるこの世界の国の3割は、ヒノモトの民が国作りに関係しているそうだ。
ガルナ王国もそのひとつなので、身分の高い人には漢字の名前が多いらしい。
「ヒノモトってどこの国なの?」
なんとなくわかるけど、この異世界では聞いたことがなかった。
「今はヤマトノクニやヒタカミノクニなど周辺12国をまとめた呼び方です」
やっぱり日本のことらしい。
「では、次に化粧をします。
王女様の化粧品を使わせていただくのですから、感謝を忘れませんようお願いします」
高圧的な言葉にも慣れてきた自分が嫌いになる。
侍女達はあからさまにはしゃぎながら、おれの顔をいじくり回した。
「化粧や衣装はこれで完成ですが、今のままでは一歩歩いただけで男性と見破られてしまいます。
なのでまずは、階段を降りる練習をしましょう」
階段の下には、傭兵団のみんながいるだろう?
「ちょっと待てよ」
と言った時に、九郎が迎えに来た。
「さぁ、これからは俺が先生だ。
女性らしい仕草を覚えよう」
「そのニヤけた顔はやめろ」
泣きそうな顔で階段を降りた。
そして、割れんばかりの拍手に迎えられたおれは、それからの3時間をウォーキングの練習に費やした。
早くこの異世界から脱出したい。
3-5 脱出につづく
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
思いを込めてあなたに贈る
あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる