紳士は若女将がお好き

LUKA

文字の大きさ
上 下
18 / 31

18

しおりを挟む
 「ふぅ・・・」

浴場から上がり、浴衣へ着替えた香は手ぬぐいで汗を拭いながら、静かな廊下を歩いていた。

そして部屋まで辿り着き、ドアを開けると、一揃いのスリッパが戸口に置かれ、一緒に部屋を出た夕貴が先に戻ってきたことが分かった。

それから、ガララと引き戸を開けて、和室の中へ入ると、既に、布団が二組畳の上に敷かれていた。

風呂上がりの夕貴も同じく浴衣に身を包み、窓際で背もたれのある椅子に座って、換気のためか、または身体の火照りを冷ますために、若干開けたガラス窓から、ひんやりした夜気に当たりつつ、夜の真っ暗闇な海を眺めていた。

窓の隙間からは、穏やかな潮騒が香の耳にも届いた。

「湯冷めしちゃいますよ」

香は景色を落ち着いて見入る恋人へ近づいた。

「湯冷め・・・?」

夕貴は窓の外へ向けていた視線を顔ごと香へ移した。

近くで見ると、サラサラと、指通りの良かった夕貴の頭髪は、入浴直後のために生乾きで、しっとりと湿っていた。

それをさり気なく耳へ掛けて、額も出た、無造作に流した髪型は色っぽく、夢心地の香はポーッといつまででも見惚れていられた。

(きゃあああ!!かっこいい・・・!!)

気の多い彼女の心臓は即座にドキドキと高鳴った。

「? 香さん?」

一方、自身の色気が彼女を惑わしている現実に無自覚の夕貴は、無言のまま、自分へ見惚れる香へ問いかけた。

「か、身体、冷えちゃいますよ」

「・・・ああ」

夕貴は開けた窓から吹き込む夜風に気が付くと、にっこりと微笑み、手を窓の木枠へやって、閉めた。

「気が回らず、すみません。あなたの身体を冷やすところでした」

夕貴はにこやかに反省した。

「い、いえ・・・。あっ。お布団、ありがとうございました」

「いえ、とんでもありません。もう寝ますか?」

「えっ。えーと・・・!」

率直に訊かれ、香はおろおろと挙動が不審になった。

「ふふ。もう寝ましょうか」

夕貴は愉し気に質問を変えた。

「・・・はい」

頭のてっぺんまで赤く染まりながら、香は頷いた。


 「おやすみなさい」

夕貴は天井からぶら下がった電灯の紐を引いて、明かりを消した。

カチッと、スイッチが切り替わる無機質な音に続いて、部屋を明るく照らしていた電球から光が失せ、布団の中へ潜り込んだ二人の空間を宵闇に閉ざした。

遠くから潮風に乗って運ばれてくる、波が岸辺へ寄せては返す、ささやかな自然の音だけが、静寂に包まれた暗い和室に響いた。

「・・・」

香は布団の中で悶々と寝られるわけがなかった。

彼女は今か今かと、恋人が自分を求めてくることを待っていた。

彼女の頭の中はすっかり愛し合う事だけで満杯となっていた。

あまり過剰に意識するため、彼女の胸の律動は、一音一音が途轍もなく大きく、逆に、うるさくて寝つけられないくらいだった。

しかし、いつまで経っても、夕貴が彼女へ手を出す素振りや仕草は一向に見えなかった。

(・・・あれ?)

遂に、不思議に感じた香は閉じていた目蓋をパチッと開けて、緊張のために硬くしていた身体を緩めた。

まさか、いや、もしかして、予想は単なる予想で、睦合うのは彼女の思い過ごしだったのだろうか。

というより、彼はもう疲れて、眠ってしまったのだろうか。

何とはなしに、不安に駆られた香は布団の中で寝返りを打って、夕貴の方を向いた。

だが、彼女の方を向いているならまだしも、彼は壁の如く広い背中を向けていたので、香は真偽のほどが判別できなかった。

??

これは一体全体どういう事だろう?

今まで、香は夕貴と寝所を共にしてきて、肌を重ねないときは一度たりともなかった。

よって、彼女はてっきり、今夜も抱き合ってから眠るのだろうと考えていたが、おかしなことに、平時であれば、彼から行為を促してくるのに、何故だか今日に限って、何のアクションも彼は起こさなかった。

もしや、彼は夕方のあれ・・で満足したのだろうか?

しかしながら、それは十分に疑わしい。

満足どころか、彼はさぞかし苦痛だったに違いない。

それとも、考えるだけで目の前が真っ暗になる気がしたが、彼は自分とその肉体に飽きてしまったのだろうか?

だとしたら、香は大いに困るところだ。

何故ならば、頭でごちゃごちゃと考えてはいるが、心の奥で彼女は彼に抱かれたいと、計り知れないくらい彼を純粋に欲しているのだから!

次第に、香はじりじりと、嬲るようなもどかしさと焦りを感じ、最終的に、彼女は淑やかで控えめな一面を大胆にも乗り越えて、恐らく就寝中だろう夕貴の背後へ話しかけた。

「夕貴さん・・・。もう寝ちゃいましたか?」

夕貴は寝返りを打って彼女の方を向くと、微笑んで答えた。

「いいえ、まだ。・・・眠れませんか?」

「・・・あの。一緒に寝てもいいですか・・・?」

「・・・もちろん構いません。どうぞ」

夕貴は片手で布団を捲って示唆すると、香はもぞもぞと動いて、もう一つの布団の中へ入った。

大きくはないが、小さくもない一組の布団からはみ出さないように、彼らは抱き合う形で共に落ち着いた。

(きゃ~~~!!)

内心瞬く間に、夕貴の腕の中、香の心拍数はうなぎ上りに跳ね上がり、彼女は尋常ではない喜びと興奮のために、ますますひどく覚醒してしまった。

それに比べ、夕貴はのんびり平静と、彼女の艶やかな黒髪に指を櫛の如く通して、優しいが、どこか節度を強制的に保った双眸で、腕の中の香にうっとりと見惚れていた。

暗がりの中、自分を見つめる二つの瞳を深く覗き込んだ香は、それらが意味するものを捉えた気がした。

多分、彼もまた、同じくらい強く彼女を欲しているのだ。

だがしかし、今宵の彼は自制的で、どちらかといえば、彼女からの要請を大人しく待っているかのようだった。

とはいえ、香はいつも、恋人同士の営みに関しては受け身かつ消極的で、自分から迫ったことなど数えるまでもなかった。

それは何故かというと、大概夕貴の求愛に押し流され、彼女から誘ったことは一度たりともなかったのだから!

しかしながら、今は彼女のターンなのだ。

「あ、あの・・・。キス、してもいいですか・・・?」

香は勇気を振り絞って、清水の舞台から飛び降りる覚悟で訊ねた。

「・・・訊く必要はありません。どうぞ、してください」

香は布団の中でごそごそと蠢いてから、小さな手を男のごつごつした顔の輪郭へ当て、元から髭が少ないのか、または風呂場で剃ったためか、すべすべと滑らかな横顔へ触れた後、首と顔を伸ばし、真向かいの柔らかな唇へ口づけた。

「んっ・・・♡♡」

二つの唇は瞬時に溶け合い、浅いものから深いものまで、彼らは不規則に唇を交わし合った。

時々、皮膚と皮膚が吸い付く、チュウッと高い音が静かな暗闇に響き、鼓膜を通して聴こえるそれは、二人の官能を甚だ揺さぶった。

「・・・っ夕貴さん・・・♡♡抱いて・・・」

直後、夕貴は枷を解かれて放たれた野獣の如く、いきなり布団からガバッと起き上がりつつ、香を抱き起こすと、荒い動作で腰を一方的に引き寄せ、まるで齧り付くかのように唇を強引に奪い、文字通り彼女にむしゃぶりついた。

「!」

それは余りに咄嗟で性急だったため、香の狼狽と心音は凄まじく激しかった。

「んッ♡♡んんッ・・・♡♡!ふぁ♡♡ゆき、さ・・・♡♡!」

爆音を打つ心臓のせいで、ただでさえ息が苦しいのに、ろくに息もつけないほど荒々しいキスが、更に香から酸素を奪っていった。

だがしかし、呼吸器系は苦しみに悩まされ、警鐘を鳴らすといえども、彼女の心は歓喜に満ち満ちていた。

それからやっとのことで、獣の如く夕貴は香から唇を離すと、息を浅く短くついて整えながら、真剣な面持ちで訊いた。

「香さん。海瀬さんとは一体何を話していたんですか?」

(えっ)

今それを訊くのかと、香も同様に弾む呼気を鎮めつつ、呆然と夕貴を見返した。

「え・・・と」

内容が内容だけに、口からはすぐに答えが出てこなかった。

憎き一年は、夕貴には彼女の知らないところで、彼女以外の女性が他に何人もいるだろうと、失礼千万にも話していたと、どうして本人に向かって言えようか。

故に、香は嘘をつかざる負えなかった。

「べ、別に、何も・・・?」

「何も?」

夕貴は訝し気に訊き返した。

「さ、さあ。忘れちゃいました」

言い放った瞬間、どうやら言葉選びを間違えたらしいと、香は即刻後悔した。

というのも、恋人の顔つきが、注意していなければ見過ごしてしまうほど、微妙に陰ったからだった。

「・・・そうですか。覚えていませんか。・・・なら、思い出したら教えてください」

「えっ」

次いで、夕貴は香を軽々と持ち上げ、膝の上へ乗せると、和室の隅に構えた鏡台へ体躯ごと向いてから、彼女の浴衣がはだけた、艶やかな姿を鏡にはっきりと投映した。

いつの間にか、月を隠していた雲は風によって流され、顔を出した月のために、室内は明かりが差し込み、薄闇の中でも、香は鏡に映っている自分をちゃんと視認できた。

「あ、あの。夕貴さん?これは・・・?」

しかし、夕貴は香の問いには答えず、依然と彼女を鏡台へ映したまま、後ろ頭やうなじへ接吻しながら、手を身八口から入れて、押さえのない、ふっくらと膨らんだ、豊満な双乳を揉んだ。

「あッ♡♡ん・・・ッ♡♡!」

即座に、肢体はビクリと震え、香は愛撫へ敏感に反応した。

唇はチュッ、チュッと啄む如く、音を軽妙に立て、耳殻を食み、しゃぶり、吸い付くと、抗う術のない香は、全身から力がストンと抜けていった。

夕貴は、おのれの手のひらの上で、いいように転がされる香を鏡越しに確認すると、手をはだけた衿元へやり、肩からずり下ろして、彼女の胸部を開放した。

「あ・・・ッ♡♡」

月明りの中、鏡に自身の剥き出た乳房が明瞭に映し出され、香は思わず、恥ずかしさからびっくりしてしまった。

「思い出しましたか?」

「え・・・?」

乱れた浴衣は背中まではだけ、夕貴は開いた背中へ口づけを幾度となく施した。

「ぅん・・・♡♡」

たちまち、唇の熱が繊細な背中へ触れて移った瞬間、ゾクゾクッと、快感の粟立ちが香の背筋を這った。

「あなたが彼と何を話していたのか、俺には知る権利があります」

夕貴は鏡の中の香へ向かって言った。

「だ、だけど・・・!あっ♡♡覚えてな・・・、んッ♡♡」

「構いません。思い出すまで、幾らでも付き合いますので」

「え、ええ・・・っ?あっ、ん♡♡!だめ・・・っ♡♡!」

手のひらが、はだけた浴衣から現れた、彼女の太ももをツツーッと意味深に滑り、こそばゆいような、気持ちが良いような曖昧な感覚の狭間で、香は無意識に撤去を求めた。

「そこ、弱いの・・・♡♡くすぐったい・・・♡♡!」

見ると、鏡の向こうでピクピクと小刻みに揺れている、弱々しい自分が映っていた。

しかしながら、夕貴は恋人の請願を無視すると、そのまま手を両脚の付け根まで滑らせて、はしたなくも、既にじゅわりと浸み切った、熱い雌肉へ指を埋めた。

「あ、いッ♡♡!やっ、夕貴さん・・・っ♡♡!いや、こんなのいやぁ・・・っ♡♡!」

「どうしてですか?あなたはこんなにも素晴らしくて、可愛らしいのに・・・」

夕貴は鏡に映った香の眼差しを捉えつつ、耳元へ情熱的に囁いた。

夕貴の手によって身前は大きくはだけ、水面の如く、曇り一つない鏡が、露わになった彼女の恥部をしっかり反映し、チクチクと香の目に痛いほど射し込んだ上に、クチュクチュと、すかさず淫らな水音が静かな和室へ響き渡り、おかげで、彼女の羞恥は全くもって倍加した。

「あッ♡♡だめ、夕貴さ・・・♡♡!んッ♡♡こんなの、恥ずかしい・・・ッ♡♡!」

「そうでしょうか?俺はそうは思いませんが・・・。あなたはとても綺麗です、香さん・・・」

「あん♡♡も、夕貴さん・・・ッ♡♡!見ないで・・・っ♡♡!」

「分かりました。惜しいですが、見ません。代わりに、普段俺がどういう風にあなたを愛しているか、見届けてくれますか?」

(見届け・・・?)

「ッ無理、そんなの恥ずかし・・・♡♡!」

と言いつつ、自然と香の目は鏡の中の下腹部辺りを漂い、まるで魔法によって吸い込まれるかの如く、彼女はその眼に、至極淫靡な光景をまざまざと焼き付けた。

「っう♡♡ふ♡♡あ♡♡ああ・・・ッ♡♡ん、あッ・・・♡♡!」

平常、わざわざじっくりと時間をかけて見ることのない、自身のふしだらな雌の部分は、無色透明な粘液にまみれた上に、彼女のものよりも、太くて長い男の指で滅多に弄繰り回され、加えて、小さな突起は一段と尖りを帯び、何度も何度も延々と、指先の執拗な愛撫をひたすら受け続けていた。

「んッ♡♡ん~~♡♡!んん~~・・・ッ♡♡!!」

遂に耐え切れず、香は視線をパッと外すと、頭の横で鏡を覗き込んで、羞恥的な自分を見つめている、夕貴の熱心な二つの眼とぶつかり合い、彼女は恥辱的な事実のために、真っ赤に茹で上がった。

ずるい・・・!見ないって言ったのに・・・!)

「あッ♡♡やッ♡♡そこ♡♡!ん♡♡だめッ♡♡激し♡♡!」

だがしかし、口約束を狡くも反故にした恋人を責め立てる暇もなく、香はただ、押し寄せる快楽の波を被り続けるより他に手がなかった。

「ん~~~ッッ・・・♡♡!!もう、だめぇ・・・ッ♡♡だめぇ、イク♡♡!あッ、イっちゃ・・・――ッ♡♡!!・・・ッ♡♡!!」

次の瞬間、香はビクビクッ!と背筋を思いきりしならせて、絶頂まで一気に辿り着いた。

鏡面にだらけ切った女のだらしない面相が見えた。

「どうでしょうか。そろそろ思い出しましたか?」

もし万が一、彼女が本当のことを話せば、彼は怒るだろうか。

香は一か八か、途切れる吐息交じりに真実を語った。

「・・・わたしの、知らないところで・・・、ゆ、きさんに・・・何人も・・・女の人が・・・他に、いるって・・・」

「!・・・どうでしょうか。俺には、彼の全くの言いがかりに聴こえますが。香さんは彼を信じますか?」

「・・・否定、しないんですか・・・?」

「はい。否定すれば、かえって空々しくなってしまいますから」

「・・・わたしは・・・夕貴さんだけを、信じます・・・」

「・・・ありがとうございます。信用してもらえて嬉しいです・・・」

「・・・あの。これって・・・やきもち?ですか・・・?」

「やきもちとは何ですか?焼いた餅のことですか?」

「!?」

夕貴は澄ました顔でとぼけた返答をしたので、意表を突かれた香は泡を喰った。

しかし夕貴は、香のどぎまぎと混乱した表情を鏡越しに見て取ると、茶目っ気たっぷりに笑って言った。

「冗談ですよ。嫉妬ジェラシーですよね?それはもちろん、焼き餅・・・していると思いますよ。だってそうでしょう。考えてみてもください。プロポーズとまではいかないが、お見合いで数回知り合っただけで、結婚を前提にあなたと付き合いたいと言った男ですよ?よっぽどあなたに夢中で首ったけでなければ、こうはいきません。女性というものは、あなたたちが考えるより、総じて移り気な生き物ですから、いつ、誰か別の男に取られるんじゃないかと、俺たち男は内心ヒヤヒヤなんですよ」

「・・・夕貴さんはわたしを信用しています?」

「これは一本取られましたね。もちろん、あなたを心から信じています。あなた以外の女性は目に入らないくらい、あなたを深く信奉しています。でなければ、こう・・なりはしません・・・」

消え入る言葉尻に、香の腰から臀部にかけて、男の盛り上がった箇所がグリッと主張的に当たった。

「!」

「香さん・・・」

夕貴は最高潮の興奮のために、艶めいた妖し気な声で呼ぶと、座骨の辺りを支え持って、鏡の前で香を持ち上げてから、昂ぶりを収めようとした。

刹那、香は鏡に映った、目も当てられない淫猥な体勢を見て、ハッと正気に返った。

(さすがにこれは・・・!)

「・・っだめ!まだ、挿れちゃだめ・・・っ!」

「二度のお預けはご免ですよ?」

「でも、だって・・・、鏡を見ながらするのはいや・・・。直接夕貴さんを見て、したい・・・」

突如、キュウウンッと、心臓が摩訶不思議な音を上げて萎んだかと思うと、夕貴は見えない弓で射られた、現実には存在しない矢によって、射すくめられた。

「・・・!」

それから、自らの乱心を悟られまいと、夕貴はわざとらしく、ゴホンと空咳をついた。

「・・・香さんの言う通りです。失礼しました」

そして、香は気づかれないよう、ホッと安堵のため息を小さく漏らすと、膝の上でくるりと向きを変えて、夕貴と対面すると、自分から進んで夕貴の唇を奪った。

「!」

唇を奪うことはあっても、奪われる経験はあまり多くなかった故に、夕貴は夢見心地で香の接吻へ酔いしれた。

しばらくして、柔くて熱い唇の感触を存分に味わった後、香はいつも夕貴が彼女へするように、顔を様々な方向へ動かして、彼の美麗な顔のすっきりした輪郭、太い首筋、中途、浴衣を肩からずらして、硬い胸板まで晒すと、彼女はどんどん下へ下がっていきつつ、キスの雨を降らせた。

「ッ、香さん・・・?」

ある程度のところまで来ると、両脚の間で出番を待ち構えている肉欲の化身から、覆い被さっていた浴衣を取り除き、香は同様にそれ・・目がけて、唇を突き立てた。

「ッ、香さん・・・!」

動揺した夕貴はすかさず身構えた。

香は黙々と口づけを繰り返していたが、とある一つの助言が頭の中で再生されていた。

『夕貴を大切にね。それから、彼は紳士だから、女をお姫様プリンセスみたいに丁寧に優しく扱ってくれるけど、本当は女王様クイーンのような女に、自由気ままに振り回されたいんじゃないかしら』

もちろんシンシアの入れ知恵もあったが、夕貴が先ほどの彼女の痴態を、ぬけぬけと見ていた点に対する、仕返しの意の方が香にとっては強かった。

「~~香さん・・・!いけません・・・!」

だがしかしながら、女王クイーンは尊大にも、騎士ナイトの制止をあっさりとかわし、遂には、赤い舌をてろっと出して、血が通って膨らんだ、肉色の頂上を小狡く舐め始めた。

「くッ!」

途端に、夕貴は愉悦から面を歪めて、低く呻いた。

(嘘、嬉しい・・・!)

愛しい恋人が、自分の拙い舌技で快く感じている現実を学んで、香はジーンと感無量に耽った。

次いで、経験が圧倒的に不足しているのは分かっていたが、本能から、咥えると、より刺激的な快楽を供給できることを知っていたため、早速、香は口を開けて、柔らかい頬肉の内側でを包み込もうとした。

「か、おり・・・さん!俺は女性にそんなことをさせる趣味はありません!」

夕貴は咄嗟に、腕を強引に引っ張って、香を持ち上げると、間一髪、それを阻止した。

焦りのために、乱れた呼気を整える夕貴の耳へ、香は囁いた。

「もう、挿れて・・・」

夕貴は、普段とは一味違った、今夜の、大胆で情熱的な恋人へ困惑を覚えつつも、新鮮さにワクワク、かつ、振り回されているゾクゾクと、二つの異なった興奮が同居しているために、胸は弾けてしまいそうなほど膨らんで、拍を旺盛に刻んでいた。

自身の内側で暴れ狂う情愛のために、頭が馬鹿になってしまったかの如く、夕貴はクラクラと目が眩んだが、香をフカフカした布団へ押し倒すと、浴衣が大きくはだけた全身から、むせ返るほどの色香を盛大に放ちながら、たっぷりと愛蜜に潤った魅惑の孔へ、今にもはち切れんばかりに憤った雄肉を挿し込んだ。

「あっ・・・♡♡ゆき、さん・・・ッ♡♡!」

ようやく、待ちに待った瞬間が迎えられ、香は並外れた幸福のために、ブルブルッと武者震いならぬ、身震いした。

しかしながら、平時に比べ、今宵の夕貴はどこかしら余裕が綽綽と持てない様子で、ハアッ・・・と恍惚のため息を唇の隙間から漏らすと、黙って腰をゆっくりと動かし始め、香の興奮をじわじわと高めていった。

「あっ・・・♡♡いい・・・♡♡!そこ、凄い・・・っ♡♡!」

悩ましい香は布団の上でもぞもぞと、身を婀娜っぽくくねらせた。

「あっ、ん♡♡っ気持ちいい・・・っ♡♡!もっと、してぇ・・・っ♡♡」

すると次の瞬間、彼女の面食らったこと(「!?」)に、夕貴は突然、膝の下を抱え持って、香の下半身を布団から持ち上げると、傍らから素早く枕を引き寄せ、彼女の浮いた腰へ当てた後、ググッと前へ一段屈んで、姿勢のために可能になった、より深い挿抜を彼女の目の前で急速に繰り返した。

「~~~♡♡!!」(こんな格好・・・!恥ずかしくて死にそう・・・!)

「香さん、気持ちが良い・・・!ずっとあなたとこうしていたい・・・!」

「あッ♡♡!~~夕貴さ♡♡!んぅッ♡♡!~~やだ♡♡!ッひゃ♡♡!~~だめ♡♡!あ♡♡!」

今現在、香の間近で繰り広げられている光景は、単に言葉では言い表せないほど卑猥で、淫らで、ひどく官能的だった。

その上、激しい出入りが、匂い立つ淫靡と共に熱心な媚音を立て、耳との距離が近づいた分、それはより鮮明に、また背徳的に、香の鼓膜へ朗々と響いた。

「んッ♡♡!んぅッ♡♡!あッ・・・♡♡!あ♡♡!」(~~奥・・・♡♡当たって・・・♡♡!)

「香・・・」

夕貴は昂ぶる情熱のあまり、初めて恋人を呼び捨てにしたことにも気が及ばず、蠱惑的な眼差しと声色で香を呼ぶと、唇で唇を塞いで、彼女から余計な問答を封じた。

「――んッ♡♡!んん・・・ッ♡♡!んぅ♡♡!んんッッ・・・♡♡!!」

確かに、それは特殊な体勢のために、一突き一突きが、行き止まりまで寸分違わず、延々と突き当たっていた故、急激な奔流の如く荒々しい快感が、香の中で、溢れんばかりに轟々と音を立てて、彼女を悦楽の果てまで、凄まじい勢いで飲み込んでいった。

「あう♡♡!!(ッもう♡♡!)あッ♡♡!(・・・ッイク♡♡!!)ひぅ♡♡!~~~あッ♡♡!!ああぁ・・・ッ♡♡!!・・・~~~ッ♡♡!!」

刹那、雷が身体を貫いたか、はたまた、素手で心臓を鷲掴みされたかの如く、ビクビクッ!と上体が大仰にしなり、か細い、繊細な白い喉を仰け反らした香は、あっという間に昇りつめた。

それから、夕貴は、香が性的興奮の最高域へ達したのを見届けると、持ち上げた両脚を布団へ下ろし、姿勢を楽にすると、続いて休息を挟もうと、彼女から離れようとした。

しかし、夕貴は香の猛反対に遭い、結局その場に踏みとどまった。

「だめ・・・♡♡!離れないで・・・♡♡このままが、いいの・・・♡♡」

「ふふ。今夜のあなたは甘えん坊ですね?」

「~~ごめんなさ・・・♡♡でも・・・♡♡!夕貴さんが・・・♡♡大好きだから・・・っ♡♡」

「ええ・・・。甘えん坊なんてとんでもない・・・。あなたは相当立派な策士ですよ」

「??」

「・・・俺もあなたと同じくらいあなたが好きです。愛しています・・・。ついては、もう一度父に会ってもらえませんか?次は、あなたを俺の大事な女性として紹介したいんです」

大事な女性。

香は台詞を聴いて理解した瞬間、頬がポッと鮮やかなバラ色に染まった。

「ええっと・・・。嬉しい・・・です」

「それは良かった」

そして、夕貴は屈託なく笑うと、頭をそのまま落とし込んで、大切な恋人の唇へ口づけたのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】聖獣人アルファは事務官オメガに溺れる

BL / 連載中 24h.ポイント:13,966pt お気に入り:1,647

貧乏子爵令息のオメガは王弟殿下に溺愛されているようです

BL / 連載中 24h.ポイント:7,824pt お気に入り:3,315

異世界にきたら天才魔法使いに溺愛されています!?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:19,852pt お気に入り:384

枕営業のはずが、重すぎるほど溺愛(執着)される話

BL / 連載中 24h.ポイント:12,520pt お気に入り:1,219

どういえろ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:511pt お気に入り:2

血の繋がりのない極道に囲まれた宝

BL / 連載中 24h.ポイント:2,535pt お気に入り:471

処理中です...