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第2章~ジロー、人里へ出る~
精霊と姫巫女。
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「力だと?服従させるの間違いではないのか。」
「とんでもごさいません。これまで、私達はどの国に対しても中立の立場を示して参りました。精霊信仰の発祥の地であるオースウェルは、どこの国の民に対してもこれまで平等に対応して、精霊を信仰している者であれば誰でも受け入れて参りました。」
アシナはアイリスと名乗った姫巫女の女性の話を興味が無さそうに聞いている。実際にこの森から出る気がないアシナにとって国の事情などいささかの興味もないのだろう。
「しかし、最近になって我が国からさらに南にある帝国が周辺諸国を併合しようという動きを見せて来たのです。オースウェルの信仰者は世界各地におりますのでこれは確かな情報です。」
信仰者って聞こえはいいけど、要はスパイってことだよね。
「今はまだ帝国も表立って動きを見せておりませんが、いずれは周りの国へと手を伸ばし、いずれはオースウェルへもその影響が届くことでしょう。」
アイリスは芝居がかった苦しそうな表情を浮かべる。
「オースウェルは基本的には今後も中立を主張するつもりですが、帝国がすんなりとその主張を受け入れてくれるとは思いません。そしてもしそうなった時に、現在のオースウェルの力では抵抗することすら難しいでしょう。」
その時と言うのは実際に戦乱に巻き込まれた時のことだろう。
「オースウェルは多くの信仰者に支えられて成り立っている国です。しかし、信仰者はあくまで信仰者で、誰もがオースウェルを守る為に戦ってくれる訳ではありません。そこにはやはり一般市民や戦いを嫌い、そのために精霊を信仰している者も多くいます。
聖都に騎士団はいますが、その数だけではとても帝国とは戦えません。だからこそ、今このように秘密裏に我々の力になっていただける存在を探しているのです。」
「私に国を守る力になれと言うのか。私を使役すると言うのだな。」
「とんでもございません。私どもに、そのような考えはございません。ただ、今我々は藁にもすがる思いで、味方になっていただける方をさがしております。精霊と人との架け橋となってきたオースウェルの歴史を我々の代で途切らせる訳には参りません。我々に森の王を縛ろうなどという意思はございません。
しかし、どうか。どうか、オースウェルが危機に瀕した際には森の王の力をお貸しいただきたいのです。」
アシナは、本気を出せば日本の兵器並に危険な存在だもんね。そのアシナを味方に出来ればこれほど力強い存在はないよね。
それにしてもアシナさん、人間には森の王なんて呼ばれてるんだ。
「お前達が中立を保ってきたように、私も常に人間の世界とは一定の距離を保ってきた。それはこれからも変わらぬ。お前達が戦争をしようとしまいが構わぬが、それに私が干渉することはありえぬ。私が人間に干渉する時は、人間が私の領域を侵す時だけだ。」
「森の王よ。我々に出来ることであれば何でも致します。ですから、そのお力を一時の間だけでも我々にお貸しいただけないでしょうか。」
【ジロー、ジロー】
すると、状況を見守っていたおれにユキが話しかけてきた。
「しっ。ユキ、静かにしてなきゃダメだよ。」
【アソコ、アソコ何カイルヨ】
話しかけてきたユキに、静かにするように言うが、ユキは前足を一団の方に向けてあそこに何かいると言ってきた。
改めて一団の方を見るけど先ほどと変わった様子はない。
「帝国とやらはまだ、行動には移しておらぬのであろう。ならば、その他の国でまとまればよいではないか。」
「先ほども申しました通り我々はあくまでも中立の立場を示しております。それに国同士で弱みを見せてしまえば、その後、他の国からのオースウェルへの干渉を許してしまう事態になりかねません。」
その瞬間、大気が軋んだ。
「愚か者め!その考え方自体が傲慢だと言うのだ!人間同士では無理だから私に力を貸せだと!よくそんなことを私に言えたものだ!」
やばいな。アシナの周りの地面が軋んでる。相手の兵士なんてあまりの圧力に震えている者までいる。
「女よ。私がお前達の力になることはない。その者達と共に国へ戻るがよい。先ほどからお前の周りを飛んでいる者と一緒にな。」
「っ!…やはり気付いていらっしゃいましたか。」
アイリスの顔が落胆から驚愕の表情へと変わった。しかし、何か観念したかのように一言呟いた。
「テラ。出て来て。」
【しょうがないわねぇ】
すると。アイリスの横に淡く光輝く女性が出現した。アイリスと同じ色の髪はより神々しく、その表情は独特の貴賓さが感じられた。突然現れた女性は先ほどユキが言っていた「何か」だろうか。
だけどなんとなく分かる。あれはユキと同じ、
「精霊…」
【お久しぶりね。狼さん】
「何が久しぶりか。お前だろう。この者に変な入れ知恵をしたのは。」
【そんなことしてないわよ。ただ私とあなたが昔の知り合いという話をしただけよ】
「何がだけよ、だ。お前のことだ。唆すようなことを言ったのだろう。」
すると、アイリスは慌てたように、
「森の王よ。それは違います。テラからあなた様の話を聞いたのは事実ですが、あなた様に力を借りようと言い出したのは私です。」
アシナは鼻でため息をつくと、
「お前も変わったものだ。人間をあまり好きではなかったであろう。そんなお前が人間に使役されるようになるなどとは、わからぬものだ。」
【人も精霊も時間が立てば変わるものよ。と言っても、今も人間が特別好きになった訳ではないわよ。ただ、この子のことが気に入ってるだけ。この子のそばはとても居心地がいいのよ。】
テラと呼ばれた精霊は、くすくすと笑いながらアイリスの肩に手を置いた。
【そう言うあなたこそ、随分変わったんじゃない?かわいらしい知り合いもいるようだし】
そう言った彼女の目はこちらを見つめていた。その視線は確実ににおれの姿を捉えていた。
【そこに隠れている者!出ていらっしゃい!】
「とんでもごさいません。これまで、私達はどの国に対しても中立の立場を示して参りました。精霊信仰の発祥の地であるオースウェルは、どこの国の民に対してもこれまで平等に対応して、精霊を信仰している者であれば誰でも受け入れて参りました。」
アシナはアイリスと名乗った姫巫女の女性の話を興味が無さそうに聞いている。実際にこの森から出る気がないアシナにとって国の事情などいささかの興味もないのだろう。
「しかし、最近になって我が国からさらに南にある帝国が周辺諸国を併合しようという動きを見せて来たのです。オースウェルの信仰者は世界各地におりますのでこれは確かな情報です。」
信仰者って聞こえはいいけど、要はスパイってことだよね。
「今はまだ帝国も表立って動きを見せておりませんが、いずれは周りの国へと手を伸ばし、いずれはオースウェルへもその影響が届くことでしょう。」
アイリスは芝居がかった苦しそうな表情を浮かべる。
「オースウェルは基本的には今後も中立を主張するつもりですが、帝国がすんなりとその主張を受け入れてくれるとは思いません。そしてもしそうなった時に、現在のオースウェルの力では抵抗することすら難しいでしょう。」
その時と言うのは実際に戦乱に巻き込まれた時のことだろう。
「オースウェルは多くの信仰者に支えられて成り立っている国です。しかし、信仰者はあくまで信仰者で、誰もがオースウェルを守る為に戦ってくれる訳ではありません。そこにはやはり一般市民や戦いを嫌い、そのために精霊を信仰している者も多くいます。
聖都に騎士団はいますが、その数だけではとても帝国とは戦えません。だからこそ、今このように秘密裏に我々の力になっていただける存在を探しているのです。」
「私に国を守る力になれと言うのか。私を使役すると言うのだな。」
「とんでもございません。私どもに、そのような考えはございません。ただ、今我々は藁にもすがる思いで、味方になっていただける方をさがしております。精霊と人との架け橋となってきたオースウェルの歴史を我々の代で途切らせる訳には参りません。我々に森の王を縛ろうなどという意思はございません。
しかし、どうか。どうか、オースウェルが危機に瀕した際には森の王の力をお貸しいただきたいのです。」
アシナは、本気を出せば日本の兵器並に危険な存在だもんね。そのアシナを味方に出来ればこれほど力強い存在はないよね。
それにしてもアシナさん、人間には森の王なんて呼ばれてるんだ。
「お前達が中立を保ってきたように、私も常に人間の世界とは一定の距離を保ってきた。それはこれからも変わらぬ。お前達が戦争をしようとしまいが構わぬが、それに私が干渉することはありえぬ。私が人間に干渉する時は、人間が私の領域を侵す時だけだ。」
「森の王よ。我々に出来ることであれば何でも致します。ですから、そのお力を一時の間だけでも我々にお貸しいただけないでしょうか。」
【ジロー、ジロー】
すると、状況を見守っていたおれにユキが話しかけてきた。
「しっ。ユキ、静かにしてなきゃダメだよ。」
【アソコ、アソコ何カイルヨ】
話しかけてきたユキに、静かにするように言うが、ユキは前足を一団の方に向けてあそこに何かいると言ってきた。
改めて一団の方を見るけど先ほどと変わった様子はない。
「帝国とやらはまだ、行動には移しておらぬのであろう。ならば、その他の国でまとまればよいではないか。」
「先ほども申しました通り我々はあくまでも中立の立場を示しております。それに国同士で弱みを見せてしまえば、その後、他の国からのオースウェルへの干渉を許してしまう事態になりかねません。」
その瞬間、大気が軋んだ。
「愚か者め!その考え方自体が傲慢だと言うのだ!人間同士では無理だから私に力を貸せだと!よくそんなことを私に言えたものだ!」
やばいな。アシナの周りの地面が軋んでる。相手の兵士なんてあまりの圧力に震えている者までいる。
「女よ。私がお前達の力になることはない。その者達と共に国へ戻るがよい。先ほどからお前の周りを飛んでいる者と一緒にな。」
「っ!…やはり気付いていらっしゃいましたか。」
アイリスの顔が落胆から驚愕の表情へと変わった。しかし、何か観念したかのように一言呟いた。
「テラ。出て来て。」
【しょうがないわねぇ】
すると。アイリスの横に淡く光輝く女性が出現した。アイリスと同じ色の髪はより神々しく、その表情は独特の貴賓さが感じられた。突然現れた女性は先ほどユキが言っていた「何か」だろうか。
だけどなんとなく分かる。あれはユキと同じ、
「精霊…」
【お久しぶりね。狼さん】
「何が久しぶりか。お前だろう。この者に変な入れ知恵をしたのは。」
【そんなことしてないわよ。ただ私とあなたが昔の知り合いという話をしただけよ】
「何がだけよ、だ。お前のことだ。唆すようなことを言ったのだろう。」
すると、アイリスは慌てたように、
「森の王よ。それは違います。テラからあなた様の話を聞いたのは事実ですが、あなた様に力を借りようと言い出したのは私です。」
アシナは鼻でため息をつくと、
「お前も変わったものだ。人間をあまり好きではなかったであろう。そんなお前が人間に使役されるようになるなどとは、わからぬものだ。」
【人も精霊も時間が立てば変わるものよ。と言っても、今も人間が特別好きになった訳ではないわよ。ただ、この子のことが気に入ってるだけ。この子のそばはとても居心地がいいのよ。】
テラと呼ばれた精霊は、くすくすと笑いながらアイリスの肩に手を置いた。
【そう言うあなたこそ、随分変わったんじゃない?かわいらしい知り合いもいるようだし】
そう言った彼女の目はこちらを見つめていた。その視線は確実ににおれの姿を捉えていた。
【そこに隠れている者!出ていらっしゃい!】
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