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第2章~ジロー、人里へ出る~
絶叫マシン再び。
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忘れていた。
ええ、忘れていましたよ。
だって随分前だもんね。
そう、この時までおれは忘れていたんだ。
アシナさんがとんだ絶叫マシンだということを。
背中に乗るまではよかった。
しかし、おれが背中に乗ったことを確認するとアシナさんは急に狼から絶叫マシンへと変貌した。
真正面から風をもろに浴び、すかさず全身を風魔法で覆ったけど、この速さには改めてびっくりした。
しかも以前はアシナなりに子供を気遣っていたんだと分かるほどに、段違いに速い。
肩にいたはずのユキはスタートしたと同時に姿を消した。こういう時の精霊は本当に便利だなっと思いながらも口に出す余裕などない。
森を猛スピードで疾走したかと思えば、急に開けた場所に出たかと思えば100メートルぐらいの高さの崖から普通にダイブを決め込んだ。
お股がひゅんってするんだよ!お股が!
と、思ったら突然の急ブレーキ。
「と、到着?」
「うむ。ここなら向こうからこちらの姿は認識しにくいだろう。」
そう言うと若干高台のようだけど草木が生い茂り、外からは姿を隠しやすそうなところにおれを下ろした。
怖かった。帰りもこれを味わうと思うと寿命が縮みそうだ。帰りは思い出した分、行きよりはマシだと信じたい。
止まったのを確認したのか肩にユキの重みを感じた。おれは途中、おれを置いていなくなったユキをじとっと睨むけど、当の本人は【何カ?】みたいな顔してる。
そうこうしているうちにアシナは森の中を、高台から下に下るように進んで行った。
アシナの進んで行った先に目をやると、その先には開けたような平地が広がっていた。
そこを横切るように20人程の一団が歩いていた。
まだ距離があるけれどあちらは小高い木々がないのでこちらが目立った動きをすればすぐにでもバレてしまいそうだ。
姿勢を低くして息を潜める。ユキにも口に人差し指を当て、息を潜めるように合図する。ユキは首を縦に振り了解の合図を送ってきた。
改めて歩いて来る一団を確認する。ほとんどが鈍く銀色に光る鎧を見に纏っている。その手には剣や槍、弓などの武器を持っている。おそらく傭兵か騎士に当たる人達だろう。
そしてその人達が周りを囲むように、その内側に木の杖を持ったロープ姿の人達がいる。絵に描いたような魔法使いの格好をした人達だった。
こんな森の中をあんなロープ姿で邪魔じゃないのかな。
これがおれ達の正装だ、と言わんばかりの顔で歩いてるからあんまりそういうのは考えてないんだろうな。
ロープの人達の真ん中で一人だけ、異質な空気を醸し出す人物がいる。白色の修道服に金の刺繍を編み込んだ格好。腰まで届く髪はここからでも太陽の光を反射しているのが分かる。
明らかにあの人がこの集団の中心だ。あんなに目立って、私がこの集団のトップですよって大手を振って歩いているようなものだ。戦場だったら真っ先に狙われるタイプ。
それほどに自分たちの力に自信があるのだろうか。でも見た感じ鎧の人達はまだしもあの魔法使いだと思われる人達にも魔力を感じない。そんな状態でいきなりの攻撃に対応できるのだろうか。
魔素の流れも乱れているように感じないし、それともこちらにそれさえも感じさせないプロ集団だろうか。
そんな中、違和感を感じるのはやっぱりあの修道服の女性だ。
何がと問われると分からないとしか答えるしかない。そんなぐらいの違和感だけど、おれの中の勘があの人は何かあると告げている。
観察を続けていると、木々の中に何かの気配を感じたのか、一団が歩く足を止めた。
それと同時に兵達は一斉に剣や槍を構える。
木々の中からアシナがゆっくりと一団の前に姿を現した。その姿は威厳すら感じさせるようなゆったりとした足取りだった。
一団がアシナの姿を確認すると、修道服の女性は、兵達に武器を下げさせた。修道服の女性が兵達を掻き分けて前に出ていく。
そんな中、一人の兵士が女性の歩みを塞いだ。何か話し合いをしているみたいだけど、そのうちに兵士の方が折れたのか女性に道を譲っている。
女性は、また歩き出し一団の先頭に立つ。そして、やって来たアシナと相対した。
「人間よ。ここはお前達が来るような場所ではない。どのような用があるかは知らぬがすぐに自分達の国へ帰るがいい。素直に帰らぬと言うならそれ相応の対応をするまでだ。」
すると、若く見える兵士の一人が女性へのアシナの物言いに腹を立てたのか、
「この狼風情が!誰に口を…」
と、前に進み掛けたが、すぐに女性がそれを制する。
「下がりなさい!」
「うっ。」
「誰に口を利いているか分かっていないのはあなたの方です!私達がここにいる意味を理解していないのなら、即刻この場から立ち去りなさい!」
女性に叱責された若い兵士は、すごすごと一団の中に下がって行った。それを確認してから女性は流れるような所作でアシナに一礼をする。
その所作だけで、この女性がその身分に相応しい教育を受けてきたのが分かるほどに。
「偉大なる森の王よ。お見苦しいところをお見せいたし、申し訳ありませんでした。
私はオースウェルで姫巫女を努めております、アイリス・オーウェンと申します。私達にあなた様と争う意思はございません。
ただ、お話しをさせていただく機会をいただきたいのです。」
「話だと?」
「はい。」
そして、アシナが何も言わずにいるとその沈黙を肯定と捉えたのか、アイリスはアシナに告げる。
「森の王よ。どうか私達に力を貸していただきたいのです。」
ええ、忘れていましたよ。
だって随分前だもんね。
そう、この時までおれは忘れていたんだ。
アシナさんがとんだ絶叫マシンだということを。
背中に乗るまではよかった。
しかし、おれが背中に乗ったことを確認するとアシナさんは急に狼から絶叫マシンへと変貌した。
真正面から風をもろに浴び、すかさず全身を風魔法で覆ったけど、この速さには改めてびっくりした。
しかも以前はアシナなりに子供を気遣っていたんだと分かるほどに、段違いに速い。
肩にいたはずのユキはスタートしたと同時に姿を消した。こういう時の精霊は本当に便利だなっと思いながらも口に出す余裕などない。
森を猛スピードで疾走したかと思えば、急に開けた場所に出たかと思えば100メートルぐらいの高さの崖から普通にダイブを決め込んだ。
お股がひゅんってするんだよ!お股が!
と、思ったら突然の急ブレーキ。
「と、到着?」
「うむ。ここなら向こうからこちらの姿は認識しにくいだろう。」
そう言うと若干高台のようだけど草木が生い茂り、外からは姿を隠しやすそうなところにおれを下ろした。
怖かった。帰りもこれを味わうと思うと寿命が縮みそうだ。帰りは思い出した分、行きよりはマシだと信じたい。
止まったのを確認したのか肩にユキの重みを感じた。おれは途中、おれを置いていなくなったユキをじとっと睨むけど、当の本人は【何カ?】みたいな顔してる。
そうこうしているうちにアシナは森の中を、高台から下に下るように進んで行った。
アシナの進んで行った先に目をやると、その先には開けたような平地が広がっていた。
そこを横切るように20人程の一団が歩いていた。
まだ距離があるけれどあちらは小高い木々がないのでこちらが目立った動きをすればすぐにでもバレてしまいそうだ。
姿勢を低くして息を潜める。ユキにも口に人差し指を当て、息を潜めるように合図する。ユキは首を縦に振り了解の合図を送ってきた。
改めて歩いて来る一団を確認する。ほとんどが鈍く銀色に光る鎧を見に纏っている。その手には剣や槍、弓などの武器を持っている。おそらく傭兵か騎士に当たる人達だろう。
そしてその人達が周りを囲むように、その内側に木の杖を持ったロープ姿の人達がいる。絵に描いたような魔法使いの格好をした人達だった。
こんな森の中をあんなロープ姿で邪魔じゃないのかな。
これがおれ達の正装だ、と言わんばかりの顔で歩いてるからあんまりそういうのは考えてないんだろうな。
ロープの人達の真ん中で一人だけ、異質な空気を醸し出す人物がいる。白色の修道服に金の刺繍を編み込んだ格好。腰まで届く髪はここからでも太陽の光を反射しているのが分かる。
明らかにあの人がこの集団の中心だ。あんなに目立って、私がこの集団のトップですよって大手を振って歩いているようなものだ。戦場だったら真っ先に狙われるタイプ。
それほどに自分たちの力に自信があるのだろうか。でも見た感じ鎧の人達はまだしもあの魔法使いだと思われる人達にも魔力を感じない。そんな状態でいきなりの攻撃に対応できるのだろうか。
魔素の流れも乱れているように感じないし、それともこちらにそれさえも感じさせないプロ集団だろうか。
そんな中、違和感を感じるのはやっぱりあの修道服の女性だ。
何がと問われると分からないとしか答えるしかない。そんなぐらいの違和感だけど、おれの中の勘があの人は何かあると告げている。
観察を続けていると、木々の中に何かの気配を感じたのか、一団が歩く足を止めた。
それと同時に兵達は一斉に剣や槍を構える。
木々の中からアシナがゆっくりと一団の前に姿を現した。その姿は威厳すら感じさせるようなゆったりとした足取りだった。
一団がアシナの姿を確認すると、修道服の女性は、兵達に武器を下げさせた。修道服の女性が兵達を掻き分けて前に出ていく。
そんな中、一人の兵士が女性の歩みを塞いだ。何か話し合いをしているみたいだけど、そのうちに兵士の方が折れたのか女性に道を譲っている。
女性は、また歩き出し一団の先頭に立つ。そして、やって来たアシナと相対した。
「人間よ。ここはお前達が来るような場所ではない。どのような用があるかは知らぬがすぐに自分達の国へ帰るがいい。素直に帰らぬと言うならそれ相応の対応をするまでだ。」
すると、若く見える兵士の一人が女性へのアシナの物言いに腹を立てたのか、
「この狼風情が!誰に口を…」
と、前に進み掛けたが、すぐに女性がそれを制する。
「下がりなさい!」
「うっ。」
「誰に口を利いているか分かっていないのはあなたの方です!私達がここにいる意味を理解していないのなら、即刻この場から立ち去りなさい!」
女性に叱責された若い兵士は、すごすごと一団の中に下がって行った。それを確認してから女性は流れるような所作でアシナに一礼をする。
その所作だけで、この女性がその身分に相応しい教育を受けてきたのが分かるほどに。
「偉大なる森の王よ。お見苦しいところをお見せいたし、申し訳ありませんでした。
私はオースウェルで姫巫女を努めております、アイリス・オーウェンと申します。私達にあなた様と争う意思はございません。
ただ、お話しをさせていただく機会をいただきたいのです。」
「話だと?」
「はい。」
そして、アシナが何も言わずにいるとその沈黙を肯定と捉えたのか、アイリスはアシナに告げる。
「森の王よ。どうか私達に力を貸していただきたいのです。」
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