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第3章 ~ジロー、学校へ行く?~
家庭教師。 後編
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そういえば最初の授業でやたら拍手してくれた女の子がいたような。
「もしかしてアリスの授業にいました?」
そう聞くとフィユは少しだけ残念そうな顔をした。
「はい。何度か目もあったんですけど、覚えてらっしゃらなかったんだったら印象にも残りませんよね。」
シュンとしてしまった。
「いえ、覚えていなかったとかではなく、お恥ずかしながら正直授業中はそんな余裕がなかったというかなんというか。」
それを聞いて納得したのかフィユは、ちらりとアリスを見てから、
「それは……なんとなくわかります。」
アリスは今のチラ見が気になったらしく、「何じゃ?」とか言ってるけどフィユには伝わったみたいだ。
「すいません。覚えていてほしかったのは私の勝手な希望ですから。」
「病気を治しに行ったときは部屋の中も暗かったのであまり顔も見えなかったので。こうして明るいところで会えたのでもう忘れません。」
そう言うとどう思ってくれたのかはわかんないけど、にこっと笑ってくれた。
「父も今度ジローさんがこの街に来られたらぜひあの時のお礼がしたいと言っていました。もっとも、すでに私はウィルタージュ家から籍は抜けていますので、大々的なものではなくあくまでも身内だけの小さなものになってしまいますが。」
「いえ、お気持ちだけで十分ですよ。」
「そういう訳にはいきません。特に私は命を助けて頂いたようなもの。ジローさんは私の命の恩人ですから。」
ひしっと手を握られた。
やばい、目がキラキラしてる。この人の中でおれがどうなってるのかはわからないけど、ものすごい美化されているみたいだ。少し落ち着いてほしい。
「今回の件も私から先生にお願いしたんです。」
えっ、そうなの!?
「最初の時に言ってましたよね。ジローさんは知らないことがたくさんある、だからこの学校で色々なことを学びたいって。
そのこと聞いて私にも何か手伝えることないかなって思いました。
でも私自身まだこの学校で学んでる身で、授業に関しては私なんかよりも先生達の授業の方がよっぽど勉強になりますよね。それに魔法だって今の私が先生の攻撃を受けたらすぐ怪我しちゃいます。身体強化の魔法にしろ他の魔法にしろ私よりもジローさんは凄いんだろうなって思いました。そもそもこの学校の助手にまでなってるジローさんに魔法で勝てる訳ないんですけどね。
きっと私なんかがジローさんの助けになることなんて出来ないと思いました。でもそんな時に先生がジローさんに言葉を教えてくれる人を探してたんです。」
フィユがそう言うとアリスはふふんと胸を張った。
アリス、多分そこは胸を張るところじゃない。
「言葉っていっても精霊文字とかだと思いました。私の出る幕なんてないだろうなと思ってました、けどちゃんと話を聞いたら共通語だって聞いて、それなら私でも力になれるって思ったんです。」
そこでおれの手をずっと握っていたことに気付いたのか顔を赤くしながらそろそろと手を離した。おれもつられて顔が赤くなるのを感じる。
「とにかくですね、それで先生にお願いしたんです。私にジローさんに共通語を教えさせて下さいって。家にいた時にたくさん勉強したので共通語なら私でもしっかり教えられると思うんです。」
彼女は緊張してるのか自分の服の裾をぎゅっと握って服にシワが出来てしまっている。
「それで、その、どうですか?」
「え?どうですっていうのは?」
「ですから、私にジローさんの勉強のお手伝いをさせていただけませんか?」
「あっなんだ、そういうことですか。許可なんていいのに、僕はもう決定なんだと思ってました。けどいいんですか?僕に言葉を教えることで自分の時間が少なくなるのに。今はまだ教えてくれるお礼とかも渡せる状態じゃないので。」
「そんな!私が好きでするんですからお礼なんていりません。むしろ命を助けてもらったのにこんなことしか出来なくて。」
フィユの言葉尻が弱くなる。
そうか。彼女は命を助けられたことへの恩返しって考えてるんだ。でもこの感じだといつまで経ってもその恩は無くなりそうにない。
「わかりました。では、お願いしてもいいですか?」
「本当ですか!?」
「その代わり、僕からも一つお願いがあります。」
「お願い……ですか?」
「はい。僕が言葉を教えてもらう、それでこういうのは終わりにしましょう。」
彼女は僕の言うことがわからなかったのか、少しだけ首を傾げてしまった。
「僕があなたを助けました。そのお礼として言葉を教えてもらう。それで今回の件は終わりにしましょうってことです。」
「そんな、そんな訳には!」
「このままだとウィルタージュさん、助けられたことにずっと気を使いそうで。せっかくこうして知り合えたんだから僕はウィルタージュさんとも早く対等な関係、友達になりたいんです。」
「友達、友達ですか……私なんかがジローさんと友達に、いいんでしょうか。」
「何言ってるんですか。いいに決まってるじゃないですか。それとも、もしかして嫌ですか?」
やっぱり森に引き込もっていた田舎男子なんて都会の女の子はお断りなのだろうか。自分で言ってて悲しい……。
「いえ、そんなこと!じゃあ友達から……お願いします。」
友達から?
どこまで行く気だろうか。
「こちらこそ、これからよろしくお願いします。」
そこで話を黙って聞いていたアリスが口を開いた。
「どうやら話は纏まったようじゃの。場所については基本ここを使うがよい。年頃の男女を同じ部屋に長い間居させる訳にはいかんからの。この部屋ならばアシナ達もおるから安心じゃろ。」
なんの心配をしてるんだ。こちとら最近まで絶賛人見知りだったんだぞ。
「時間についてはジローの暇な時間、フィユの空いている時間で合うときに話し合ってするといい。この部屋には許可された者以外入れぬよう魔法が掛けてあるからいつでもよいぞ。フィユ、これからジローをよろしく頼むぞ。」
「はい。任せて下さい。ジローさんを立派な文化人にしてみせます!」
ん?
いいよ?
普通の人で。
「それよりもじゃ。」
アリスは俺達二人を交互に見ると、
「二人共固い!固いのじゃ!これから友達になるんじゃろ?なのに何じゃ、敬語を使い合って。堅っ苦しくて息が詰まるのじゃ。ジローもウィルタージュさんなんて遠すぎると思わんのか。」
「そんなこと言ったってほぼ初対面だし、ねぇ?」
「私は大丈夫ですよ?」
そんな顔を真っ赤にさせながら言われても……。
「じゃあフィユさん?」
「フィユでいいですよ。」
「……なら僕もジローでいいですよ。」
「えと、ではジロー。」
「……フィユ。」
何これ?
ラブコメ?
「かー、甘酸っぱい!甘酸っぱい!
自分でやらせといてなんじゃがむず痒いのじゃ!
それでフィユ、とりあえずはいつからするのじゃ?」
「あっ、はい。ジローさえ良ければ今日からでも。」
「そうか。ジローはどうじゃ?」
んー、今日はユキ達と遊んでゆっくりするつもりだったけど。でも勉強するっていってもそんな長い時間はしないかな。
「おれも大丈夫だよ。」
「そうかそうか。ではフィユ、後は頼むぞ。わしはちょっと出掛けてくるからの。」
そう言うとアリスは部屋から出ていった。
二人残されたおれ達。
先に口を開いたのはフィユだった。
「では、早速始めましょうか。」
そう言うと持ってきたカバンからたくさんの本を取り出し、机の上にどんっと置いた。
「はい。ジロー、座って。」
おれは言われるがままに席に着く。
「改めて今日からよろしくね。私がジローを立派な文学者にしてみせるから!」
フィユはにこっと最高の笑顔を見せてくれた。
……おれは普通の人でいいんだよ?
「もしかしてアリスの授業にいました?」
そう聞くとフィユは少しだけ残念そうな顔をした。
「はい。何度か目もあったんですけど、覚えてらっしゃらなかったんだったら印象にも残りませんよね。」
シュンとしてしまった。
「いえ、覚えていなかったとかではなく、お恥ずかしながら正直授業中はそんな余裕がなかったというかなんというか。」
それを聞いて納得したのかフィユは、ちらりとアリスを見てから、
「それは……なんとなくわかります。」
アリスは今のチラ見が気になったらしく、「何じゃ?」とか言ってるけどフィユには伝わったみたいだ。
「すいません。覚えていてほしかったのは私の勝手な希望ですから。」
「病気を治しに行ったときは部屋の中も暗かったのであまり顔も見えなかったので。こうして明るいところで会えたのでもう忘れません。」
そう言うとどう思ってくれたのかはわかんないけど、にこっと笑ってくれた。
「父も今度ジローさんがこの街に来られたらぜひあの時のお礼がしたいと言っていました。もっとも、すでに私はウィルタージュ家から籍は抜けていますので、大々的なものではなくあくまでも身内だけの小さなものになってしまいますが。」
「いえ、お気持ちだけで十分ですよ。」
「そういう訳にはいきません。特に私は命を助けて頂いたようなもの。ジローさんは私の命の恩人ですから。」
ひしっと手を握られた。
やばい、目がキラキラしてる。この人の中でおれがどうなってるのかはわからないけど、ものすごい美化されているみたいだ。少し落ち着いてほしい。
「今回の件も私から先生にお願いしたんです。」
えっ、そうなの!?
「最初の時に言ってましたよね。ジローさんは知らないことがたくさんある、だからこの学校で色々なことを学びたいって。
そのこと聞いて私にも何か手伝えることないかなって思いました。
でも私自身まだこの学校で学んでる身で、授業に関しては私なんかよりも先生達の授業の方がよっぽど勉強になりますよね。それに魔法だって今の私が先生の攻撃を受けたらすぐ怪我しちゃいます。身体強化の魔法にしろ他の魔法にしろ私よりもジローさんは凄いんだろうなって思いました。そもそもこの学校の助手にまでなってるジローさんに魔法で勝てる訳ないんですけどね。
きっと私なんかがジローさんの助けになることなんて出来ないと思いました。でもそんな時に先生がジローさんに言葉を教えてくれる人を探してたんです。」
フィユがそう言うとアリスはふふんと胸を張った。
アリス、多分そこは胸を張るところじゃない。
「言葉っていっても精霊文字とかだと思いました。私の出る幕なんてないだろうなと思ってました、けどちゃんと話を聞いたら共通語だって聞いて、それなら私でも力になれるって思ったんです。」
そこでおれの手をずっと握っていたことに気付いたのか顔を赤くしながらそろそろと手を離した。おれもつられて顔が赤くなるのを感じる。
「とにかくですね、それで先生にお願いしたんです。私にジローさんに共通語を教えさせて下さいって。家にいた時にたくさん勉強したので共通語なら私でもしっかり教えられると思うんです。」
彼女は緊張してるのか自分の服の裾をぎゅっと握って服にシワが出来てしまっている。
「それで、その、どうですか?」
「え?どうですっていうのは?」
「ですから、私にジローさんの勉強のお手伝いをさせていただけませんか?」
「あっなんだ、そういうことですか。許可なんていいのに、僕はもう決定なんだと思ってました。けどいいんですか?僕に言葉を教えることで自分の時間が少なくなるのに。今はまだ教えてくれるお礼とかも渡せる状態じゃないので。」
「そんな!私が好きでするんですからお礼なんていりません。むしろ命を助けてもらったのにこんなことしか出来なくて。」
フィユの言葉尻が弱くなる。
そうか。彼女は命を助けられたことへの恩返しって考えてるんだ。でもこの感じだといつまで経ってもその恩は無くなりそうにない。
「わかりました。では、お願いしてもいいですか?」
「本当ですか!?」
「その代わり、僕からも一つお願いがあります。」
「お願い……ですか?」
「はい。僕が言葉を教えてもらう、それでこういうのは終わりにしましょう。」
彼女は僕の言うことがわからなかったのか、少しだけ首を傾げてしまった。
「僕があなたを助けました。そのお礼として言葉を教えてもらう。それで今回の件は終わりにしましょうってことです。」
「そんな、そんな訳には!」
「このままだとウィルタージュさん、助けられたことにずっと気を使いそうで。せっかくこうして知り合えたんだから僕はウィルタージュさんとも早く対等な関係、友達になりたいんです。」
「友達、友達ですか……私なんかがジローさんと友達に、いいんでしょうか。」
「何言ってるんですか。いいに決まってるじゃないですか。それとも、もしかして嫌ですか?」
やっぱり森に引き込もっていた田舎男子なんて都会の女の子はお断りなのだろうか。自分で言ってて悲しい……。
「いえ、そんなこと!じゃあ友達から……お願いします。」
友達から?
どこまで行く気だろうか。
「こちらこそ、これからよろしくお願いします。」
そこで話を黙って聞いていたアリスが口を開いた。
「どうやら話は纏まったようじゃの。場所については基本ここを使うがよい。年頃の男女を同じ部屋に長い間居させる訳にはいかんからの。この部屋ならばアシナ達もおるから安心じゃろ。」
なんの心配をしてるんだ。こちとら最近まで絶賛人見知りだったんだぞ。
「時間についてはジローの暇な時間、フィユの空いている時間で合うときに話し合ってするといい。この部屋には許可された者以外入れぬよう魔法が掛けてあるからいつでもよいぞ。フィユ、これからジローをよろしく頼むぞ。」
「はい。任せて下さい。ジローさんを立派な文化人にしてみせます!」
ん?
いいよ?
普通の人で。
「それよりもじゃ。」
アリスは俺達二人を交互に見ると、
「二人共固い!固いのじゃ!これから友達になるんじゃろ?なのに何じゃ、敬語を使い合って。堅っ苦しくて息が詰まるのじゃ。ジローもウィルタージュさんなんて遠すぎると思わんのか。」
「そんなこと言ったってほぼ初対面だし、ねぇ?」
「私は大丈夫ですよ?」
そんな顔を真っ赤にさせながら言われても……。
「じゃあフィユさん?」
「フィユでいいですよ。」
「……なら僕もジローでいいですよ。」
「えと、ではジロー。」
「……フィユ。」
何これ?
ラブコメ?
「かー、甘酸っぱい!甘酸っぱい!
自分でやらせといてなんじゃがむず痒いのじゃ!
それでフィユ、とりあえずはいつからするのじゃ?」
「あっ、はい。ジローさえ良ければ今日からでも。」
「そうか。ジローはどうじゃ?」
んー、今日はユキ達と遊んでゆっくりするつもりだったけど。でも勉強するっていってもそんな長い時間はしないかな。
「おれも大丈夫だよ。」
「そうかそうか。ではフィユ、後は頼むぞ。わしはちょっと出掛けてくるからの。」
そう言うとアリスは部屋から出ていった。
二人残されたおれ達。
先に口を開いたのはフィユだった。
「では、早速始めましょうか。」
そう言うと持ってきたカバンからたくさんの本を取り出し、机の上にどんっと置いた。
「はい。ジロー、座って。」
おれは言われるがままに席に着く。
「改めて今日からよろしくね。私がジローを立派な文学者にしてみせるから!」
フィユはにこっと最高の笑顔を見せてくれた。
……おれは普通の人でいいんだよ?
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