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第3章 ~ジロー、学校へ行く?~

家庭教師。 前編

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 今日は学校に行くようになってから初めての休みだ。

 あの日から連日のように、アリスから助手の手伝いという名のサンドバッグのような扱いを受けていた。
 助手に誘ってくれた時に他の講師には断られるという話をしていたけど、助手になってみてそりゃ断られるよと納得してしまった。
 おそらくだけど、講師の人にも同じようにしたんだろうな。それをその人は受け止めきれなかったのだろう。そこから噂は噂を呼び、アリスの手伝いをしてくれる人は少なくなってしまったんだと思う。もしかしたら元からアリスの攻撃を受けきれる人も少ないのかもしれないけど、おれはこの学校にいる講師を全員知っている訳ではないからなんとも言えないよね。

 一応魔法で防御してるとはいえ、受けきれない攻撃も少しとは言わずにある。そういうのは痣になったりしての残ってしまうのだ。
 もちろんアリスの魔法を間近に見るのは自分にとってもいい勉強になる。しかし、連日のことで体は悲鳴を上げていた。

 そして、やっと来た初めての休日なのだ。今日は何もせずにゆっくりすると決めていた。アシナは部屋の中の日の当たる場所ですでに日向ぼっこをしている。
 おれもアシナを枕にして日向ぼっこを始める。アシナの毛並みはいつ触ってもさらさらもふもふだ。いつまでも触っていられるな。
 
 顔を押し付ける。森の匂いみたいな太陽の匂いというかほっこりする匂いがするな。まるで森に帰って来たみたいだ。安心してすぐ寝てしまいそうになる。

 【ジロー、今日オ休ミ?】

 ユキが、とてとてと近づいてくる。

 「休みだよー。今日は遊んであげられるよ。」
 【本当ニ!?】

 ユキは肩まで上がってくるとおれの顔に体を擦り付けてくる。最近忙しくて構ってやれなくて寂しがってたみたいだから今日はユキが満足するまで遊んでやろうかな。

 アシナさんはこれだけ抱きついても軽く呻くだけで起きようとはしない。森にいたときには毎日、何かしら動いていた記憶があるのにここに来た時からこんな感じだ。犬と間違えられたら怒るくせに室内犬と変わらない生活をしている。運動不足になったりしないのだろうか。

 あまりにも気持ち良すぎて日が暮れてしまいそうだ。こうもだらだらしているとユキと遊ぶ時間がなくなってしまいそうなので、水分だけ補給したら遊んでやろうと立ち上がる。

 そしてちょうどその時、まるでタイミングでも計ったように部屋の入口のドアが、けたたましい音をさせながら開いた。

 【怖イ!】

 ユキはそういうと姿を消してしまった。ちなみにアシナさんは耳をピクピクとさせただけでそれ以外は微動だにしなかった。この駄狼め。

 音の方を見ると、アリスがドアを開けた状態の格好で、ドヤ顔で立っていた。

 「わしじゃ!」

 いや見ればわかるよ。毎回こんな感じだけどもう少し静かを出来ないのだろうか。自己アピールが凄すぎる。

 「はぁ、アリス、もう少し静かに帰って来てよ。心臓に悪いしユキも驚いて隠れちゃったよ。」
 
 呆れて言うと、アリスはドヤ顔だったのがニヤニヤし始めた。

 「そんなことを言ってもいいのかのう。わしはジローに吉報を持って来たのじゃぞ?」
 「吉報?なんか良いこと?」
 「うむ。ジローをこの学校に誘った際にここで語学を学べばよいと言ったじゃろう?しかしこの学校に共通語を教えてくれるような授業がなかったからのう。誘った手前さすがに悪いと思っての。お主に語学を教えてくれる者を急ぎ探して来たのじゃ。」

 それは所謂家庭教師というやつではないだろうか。

 「え?ほんとに?どんな人?」
 「ふふふ、お主の知っておる者じゃよ。誰じゃと思う?」

 おれの知っている人?
 自慢じゃないけど、おれ知り合い少ないんだよね。自分で言ってて悲しくなってくるな。
 誰だろう、おれが知っている人となると結構絞られると思うんだよね。
 ローデンス?は、ないな。そもそもアリスが連れて来なそうだよな。 
 校長先生かな?いやさすがのアリスでも校長先生には頼まないかな。エルフの人は知り合いって訳じゃないしな。

 「んー、校長先生?」
 「ぶっぶーなのじゃ。」
 「じゃあローデンス?」
 「ぶっぶーなのじゃ。誰が好きであいつに頼むのじゃ。ほれほれ、他にはおらぬか?おるじゃろ?よく考えるのじゃ。」
 
 その他にか……いないなぁ。涙が出そう。これから知り合いたくさん出来るといいな。

 「ごめん、わかんないや。」
 「なんて薄情なやつなのじゃ。実はすでに来てもらっておる。本人を見てとくと思い出すがいいのじゃ!ほれ、入って来るのじゃ。」

 アリスが声を掛けると部屋の外で待機していただろう人物が部屋の中に入ってきた。

 …………?

 誰?

 入ってきたのはまるでお人形さんのような美少女だった。ゆるくウェーブのかかった金髪は腰のところまであるだろうか。顔も整っていてモデルですと言われても信じたかもしれない。

 でも残念だけどおれの知り合いリストにはいなかった。

 「ほれ、思い出したじゃろう?」

 アリスはそう言うけど全然わからない。

 「ごめん、ちょっと……。」
 「ぐすっ。」

 すると女の子が涙ぐんでしまった。と、同時にアリスからのビンタが飛んできた。

 「このばかもんジローが!おお、大丈夫じゃぞ。ジローにはきつくお仕置きしとくからのう。」
 「いえ、先生、大丈夫です。確かに直接顔を合わせた訳ではありませんから分からなくて当然です。ジローさん、ウィルタージュ伯爵の娘と言ったらわかるでしょうか。」

 ウィルタージュ伯爵?
 それって前にアリスが……

 「あっ!思い出した!」

 おれの反応が嬉しかったのだろうか。女の子はニコッと笑ってから、

 「その節は本当にお世話になりました。フィユ・ウィルタージュです。」


 
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