青天の霹靂は、村娘の一言から

tosa

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やっぱり天然だ。こいつ。

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 兵士からの監視を解かれ、私はやたらと広い部屋に連れて行かれた。部屋の床は柔らかく厚みがある絨毯が敷かれており、本棚や机、調度品も高価そうに見える。

「ここは私の執務室だ。娘、そのソファーに座れ」

 タイラントという名の国王に促され、私は応接用と思われるソファーに腰を下ろした。寝癖がついた金髪の魔族も向かいに座る。

 金髪の魔族タイラントの背後には、側近と思われる者が二人立っている。一人は白髪の男。眼鏡をかけ、何だか眠そうな表情をしている。

 もう一人は女だ。紫色の長髪が腰まで伸びている。長身でとても美しい。
 
 ······そして。女性として出る所が物凄く出ている。

 私は無意識に自分の胸を両腕で隠した。タイラントがソファーに背を預け口を開いた。

「娘。では聞かせて貰おうか。お前が受けた教育とやらを」

 タイラントは長い足を組み、その膝の上に片手を置く。きょ、教育と言われても。父さんが村で教師をしていたから、家には本が山のようにあったけど。

 私はそんな熱心な読書家じゃなかったし。それよりもお化粧とか、可愛い衣服を身に着けたりする方が好きだった。

 私は肩の前にかかっていた赤毛のおさげを触っていた。私は酷い癖っ毛だったから、いつも髪を結んでいた。

 タイラントは黙って私を紅い瞳で見つめていた。この金髪の魔族。よく見ると整った端正な顔をしている。

 いや、こいつの顔はどうでもいいわ。とにかく何か話さないと。私は動揺しながらもこの魔族の国王に正論を諭す事を試みた。

「ひ、人の物は盗まない。人の身体と心は傷つけない。まず、これが大前提よ」

「ふむ。相手が人間であってもか?」

「あ、当たり前でしょう! あんたが他人から理不尽に暴力を受けたらどう思うの?」

「ふむ。確かにそれは看過出来ぬな。だが私は子供の頃から教わったのだ。人間は。我々魔族が支配すべき対象であると」

 タイラントは僅かに首を傾げた。私は何となく感じていた。この金髪の魔族は、ふざけている訳では無い。

 私に本当に疑問を投げかけている。何の確証も無かったが、私はそんな気がした。

「じゃあ、あんたに教育を施した教師が間違った事を教えたのよ。その教師を教育した教師も! そのまた教師を教育した教師も! 皆仲良く間違っていたの!」

 私の言葉に、タイラントは絶句していた。指を唇に当て深刻そうに考え込む。ん? よく見ると、タイラントの後ろに立つ側近の二人も同じような顔をしている。なんで?

「失礼致します」

 ドアをノックする音と共に、一人のメイドがお茶を運んできた。ガラスのテーブルの上に、紅茶をカップに淹れて置いていく。この紅茶、ものすごくいい香りがする。

 メイドが私の前にカップを置いた時、目が合った。彼女は私と同い年くらいだろうか? 黒髪のメイドは気さくに私に微笑んだ。

 私はさっきから叫びっぱなしだったので、乾いた喉を潤す為に紅茶に口をつけた。

 ······美味しい! なんて美味しい紅茶なの?

 私が紅茶の味に感動していると、タイラントは突然立ち上がった。ど、どうしたの?

「······娘よ。お前の話がこの世の真理なら、我が家系は。いや。この地上に存在する魔族全てが誤った教えを受けてきた事になる」

 はい? この世の真理? いえいえ。そんな大袈裟な事を言われても困るんですけど。私。

「リケイ! シースン! そなた等の意見を聞かせてくれ!」

 国王タイラントの叱責のような鋭い声に、白髪眼鏡の男は口を開いた。

「······は。タイラント様に申し上げます。タイラント様に教育を施した身としては、頭上に雷が落ちてきたような気分です」

 紫色の長髪美人もそれに続く。

「タイラント様。私もリケイと同意見でございます。私達は、間違った道を歩んできたのでしょうか?」

 な、何を言っているの? あなた達は? いや、もう少し自信を持ちましょうよ。今までの自分自身に。

「······私もリケイと同じだ。頭の上に雷が落ちてきた。これは。この事はこのまま捨て置けぬ!」

 タイラントは拳を握り締め、私を見下ろす。

「娘よ! 自分の言葉に責任を持ってもらうぞ。お前の言葉が正しいか。我々魔族が正しいのか。お前にはそれを証明して貰う!」

 ······やっぱり天然だ。こいつ。私は鼻が抜けるような香りを放つ紅茶を飲み込み、呆気に取られた顔で金髪の魔族を見上げていた。

 
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