青天の霹靂は、村娘の一言から

tosa

文字の大きさ
4 / 52

悪かったわね! 出る所が出てなくて!

しおりを挟む
 毒殺される悪夢にうなされながら、私は目を覚ました。目覚めは最悪の気分だった。そうだ。私は魔族に拉致されたのだ。

 カーテン越しに朝日が部屋に射し込んでくる。一通りの調度品はこの部屋に揃っており、連中の言うところの奴隷と小間使いの中間の部屋にしては悪くない。

 私は紅い髪の毛を無意識に束ねていた。鏡を見なくても分かる。酷い癖っ毛の私は毎朝メデューサのような頭をしているのだ。

 ベットから起きると同時にお腹が鳴った。そう言えば、誘拐されてから何も食べていない。

 ······母さんのキノコスープが飲みたいな。日常だった母のスープは、遥か彼方の遠い味になったような気がした。

 孤独の余り涙がこぼれそうになった時、ドアがノックされた。

「おはようございます。リリーカ様。食堂にご案内致します」

 部屋の外からの声なのに、私は反射的に三歩後ずさった。だが、待たせてはまずいと思い、大急ぎで着替える。

 ······私は黒髪メイドのカラミィに案内され、城の廊下を歩いていた。相変わらずカラミィの歩き方は非の打ち所がない。

 この愛らしい顔の奥に悪魔が同居しているなんて。待てよ? あの悪魔の顔が本当の顔よね。どう考えてもそうよね。

 あの金髪魔族の連中は、この娘の正体を知っているのかしら? そんな事を考えていたら食堂に着いてしまった。

 食堂は三十席はある長テーブルがいくつも並んでいた。この城で働いていると思われる魔族達が、賑やかに朝食を摂っていた。

 私が食堂に入った途端、魔族達がフォークとナイフを持つ手を止め一斉に私を見る。私は固まってしまい動けない。

 ど、どうしよう。皆が私を見てる。そうよね。人間の小娘がこんな所にいるんだもの。その時、私の後ろで男の声が聞こえた。

「この赤毛の娘は国王タイラントの客人だ! 失礼は許さんぞ!」

 大声の主は大柄の短髪男ザンカルだった。ザンカルの声の後、各テーブルから動揺の声が上がったが
直ぐに収まる。少なくとも私をあからさまに睨む魔族は居なくなった。

 す、すごい。このザンカルって人、すごい発言力がある身分なのかな?

「こっちだ村娘」

 今朝は甲冑を身に着けていないザンカルに伴われ、私は食事を受け取る為の列に並んだ。

「こ、これはザンカル様。我々下々の食堂にどうして? ともかく列の先頭にご案内します」

 ザンカルの前に並んでいた魔族が恐縮している。やっぱりこの人、偉い人なのかな?

「いいんだよ。気にするな。並んだ方がメシのありがたみが増す」

 ザンカルは気さくに返答する。ザンカルは積まれたお盆を一つ持ち、並んだ皿を一つずつお盆に載せでいく。

 私は見よう見まねで同様にお皿を取っていく。席に着いたとき、私のお盆には大量の朝食が盛られていた。

「なんだ村娘。お前、小柄な癖に大食いだな」

 し、しまった。ザンカルと同じお皿を取っていたら彼と同じ量になってしまった。

「まあ、栄養を取る事はいい事だ。そうすれば出る所も出てくるかもしれんぞ」

 ザンカルは短く笑うと、両手を使い豪快に食べていく。悪かったわね! 出る所が出てなくて! 私は怒りに任せてパンをひと切れかじる。

「······美味しい」

 焼き立ての胡麻パンは、口の中で小麦の味がじわっと広がった。その他のスープも、オムレツも、文句のつけようがなく美味しい!

「ここの料理長は腕が良いだろう。ただ少し変わり者でな。あまり近づかんほうがいいぞ」

 へ? 変わり者? 私がこの城に誘拐されて来てから、変わり者しか出会ってないんですけど。

「村娘。じゃあ後でな」

 ザンカルはお盆一杯に乗せた朝食をあっという間に平らげ去って行った。ええ? は、早すぎる! 

 ······無茶な量の朝食を無理やり胃袋に押し込めた後、私はある一室の教壇の前に立っていた。えーと。なんで私が教師が立つ場所にいるんだろうか?

 そして金髪魔族国王。白髪眼鏡魔族。紫長髪美人魔族。何故お前らが生徒が座るべき席に着席している?

「悪いな。遅れた」

 その後、短髪大柄魔族ザンカルが加わり、四人の魔族の前に私は立っていた。

「娘。今のお前は私達に教える側。言わば教師だ。しっかり努めを果たせ」

 タイラントが両腕を組み、偉そうな物言いで授業の開始を促す。い、一体何を話せばいいの私は?

 こんな事なら、父さんの講義をもっと真面目に聞いていれば良かった。私は勉強なんかより友達とお喋りばかりしていた。

「娘よ。お前の双肩に人間達の運命がのしかかっていると思い、心して話せ」

 タイラントが私の緊張を否が応でも上げていく。こ、これってそんなに深刻な話だったっけ?

「村娘。そう強ばるな。思った事を話せばいい」

 ザンカルは気さくに話しかけてくれた。や、やっぱりこの人、いい人なのかな? ともかく、私は一度死を覚悟した人間だ。

 あの時の気持ちを思い出し、私は口を開いた。

「に、人間と魔族は、お互いをもっと良く知るべきよ!」

 四人の魔族が私を食い入るように見つめる。私はもう後に退けなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。

有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。 選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。 涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。 彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。 やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...