19 / 52
この忙しい時に喧嘩売ってんの!?
しおりを挟む
調理場の臨時雑用係になった私は、朝早くから起床し、前掛けを着用し厨房内を忙しなく動き回っていた。
「リリーカ! 皿を並べて盛り付け頼む!」
「はーい。今やります」
笑いキノコの毒で料理人三人の欠員が出た影響は甚大だった。厨房内はまるで戦場のように殺気立っている。
この城には二つの食堂がある。身分の高い者専用の食堂と、兵士や城で働く者達の食堂だ。
城中の労働者の胃袋を満たす為に、朝食だけで四百人分を用意しなくてはならない。その人数分の食器が用意されている筈も無く、返却された食器をすぐに洗わないとお皿が足りなくなる。
私は料理の盛り付けやカウンターへの料理の持ち運びの合間を見て、洗い場に駆け込み大急ぎで使用済みの食器を洗っていく。
「娘。またこんな所にいたのか」
私が洗い終わったお皿を重ねていると、背後にタイラントが立っていた。私は次々と増えていく洗い物に忙殺され、金髪紅目魔族を完全無視していた。
「今日は朝食後に講義を行うぞ。忘れるな」
タイラントはそんな私にお構いなく自分の用件だけを伝えてくる。
「今私は忙しいの! アンタに構っている暇は無いの!」
時間に追われ頭の中が一杯一杯の私は、つい声を荒げてしまった。その間にも食べ終わった食器が戻されて来る。
「そんなに忙しいのか?」
タイラントの呑気な質問が癪に障る。このマイペース男は! 元々この調理場の惨状は大元を辿れば国王のアンタの責任なのよ!
ギリギリの人員で現場を回しているから、欠員が出ると大変な事になるのよ! もっと末端の労働環境を考えて改善しなさいよ!
「リリーカ! ちょっとこっち手伝ってくれ!」
調理場の料理人達は、国王が厨房内に居ても誰も気づかなかった。それ程皆、目の前の仕事に精一杯なのだ。
「はーい。今行きます。ちょっとタイラント! アンタ暇だったら、ここで洗い物をしてて!」
「······洗い物? どうやってやるのだ。それは?」
「アンタこの忙しい時に喧嘩売ってんの!?」
私はタイラントを睨みつけたが、金髪魔族は真顔だ。こいつ、本当に知らないんだ。私はこの世間知らずに食器の洗い方を一分で教え、駆け足で他の救援に向かった。
······嵐のような慌ただしさが徐々に収まって行き、厨房内も緊張感が和らいできた。
「山は越したな。皆。この間に飯にしよう」
副料理長が集合をかけ、料理人達がテーブルに集まってくる。目の前には、料理長のカーゼルさんが作ったまかない料理が並んでいた。
今朝のメニューは豚バラ肉の煮込み料理だ。このまかない料理は、表のメニューには無く厨房内の料理人達しか口に出来ない。
このささやかやな特権に感謝し、私は柔らかい豚バラ肉をパンに挟んで頬張る。早朝からの労働による空腹感は、料理の味を更に美味しくした。
あれ? なんか忘れているような? ま、いいか。それにしても、料理人達しか食べれないこのまかない料理の味ときたら凄いわ。料理長のカーゼルさんは天才ね。
「リリーカ。お前さんは働き者だな。本当に助かってるぜ」
「そうそう。このままずっと調理場で働けよ。俺達大歓迎だぜ」
調理場の人達は私が人間でも普通に接してくれる。何故かしら? 同じ仕事をしているから連帯感が生まれるのかな。
昼の仕込みまで一時休憩になり、各々身体を休めに散って行く。私は紅茶を飲みながらひと心地ついていた。
······何か聞こえる。洗い場からだ。私は振り返ると、洗い場で食器を洗っているタイラントの背中が見えた。
「タ、タイラント! あんたずっと洗い物していたの!?」
私は椅子から立ち上がり、金髪魔族の側に駆け寄る。
「娘。今丁度終わったぞ。大皿二百三十枚。小皿四百六十枚。ナイフとフォーク合わせて四百六十本だ」
こ、こいつ洗いながら枚数を数えていたのの?へ、変な奴。
「と、とにかくお疲れさま。まかない料理の残りまだあるから良かったら食べる?」
タイラントは頷きテーブルに座った。こうして金髪の国王は、厨房内で料理人達の残したまかない料理を食し朝食を済ました。
私は休憩時間を利用し中庭の庭園にやって来た。庭の作業を終え、帰る途中のエドロンと挨拶を交し私はベンチに座った。
今日は天気も良く外にいると気持ちがいい。綺麗に整えられた庭園を眺めながら、私は穏やかな気持ちになる。
そう。奴が隣に座るまで。金髪の魔族は無言で私の隣に座った。そして何の前ぶれも無く私の手を握ってきた。い、いきなり何すんのよコイツ?
「······散歩道では手を繋ぐ。だったな」
い、以前に私が言った事? また愛情の実験と言う訳? あんたの実験、私に実害が多すぎるんですけど?
突然タイラントは繫いだを手を乱暴に離した。そして離した自分の手を紅い両目で見つめる。
「······まただ。お前に何かすると、私の中の何かが揺らいで行く」
タイラントは急に立ち上がり私を見下ろした。
「······もう愛情の実験は終わりだ。お前に近づくと何かがおかしくなる。お前は私に講義だけすれば良い」
そう宣言したタイラントは、そのまま歩いて行った。タイラントが私の左手に残していった体温は、いつの間にか消えていた。
「リリーカ! 皿を並べて盛り付け頼む!」
「はーい。今やります」
笑いキノコの毒で料理人三人の欠員が出た影響は甚大だった。厨房内はまるで戦場のように殺気立っている。
この城には二つの食堂がある。身分の高い者専用の食堂と、兵士や城で働く者達の食堂だ。
城中の労働者の胃袋を満たす為に、朝食だけで四百人分を用意しなくてはならない。その人数分の食器が用意されている筈も無く、返却された食器をすぐに洗わないとお皿が足りなくなる。
私は料理の盛り付けやカウンターへの料理の持ち運びの合間を見て、洗い場に駆け込み大急ぎで使用済みの食器を洗っていく。
「娘。またこんな所にいたのか」
私が洗い終わったお皿を重ねていると、背後にタイラントが立っていた。私は次々と増えていく洗い物に忙殺され、金髪紅目魔族を完全無視していた。
「今日は朝食後に講義を行うぞ。忘れるな」
タイラントはそんな私にお構いなく自分の用件だけを伝えてくる。
「今私は忙しいの! アンタに構っている暇は無いの!」
時間に追われ頭の中が一杯一杯の私は、つい声を荒げてしまった。その間にも食べ終わった食器が戻されて来る。
「そんなに忙しいのか?」
タイラントの呑気な質問が癪に障る。このマイペース男は! 元々この調理場の惨状は大元を辿れば国王のアンタの責任なのよ!
ギリギリの人員で現場を回しているから、欠員が出ると大変な事になるのよ! もっと末端の労働環境を考えて改善しなさいよ!
「リリーカ! ちょっとこっち手伝ってくれ!」
調理場の料理人達は、国王が厨房内に居ても誰も気づかなかった。それ程皆、目の前の仕事に精一杯なのだ。
「はーい。今行きます。ちょっとタイラント! アンタ暇だったら、ここで洗い物をしてて!」
「······洗い物? どうやってやるのだ。それは?」
「アンタこの忙しい時に喧嘩売ってんの!?」
私はタイラントを睨みつけたが、金髪魔族は真顔だ。こいつ、本当に知らないんだ。私はこの世間知らずに食器の洗い方を一分で教え、駆け足で他の救援に向かった。
······嵐のような慌ただしさが徐々に収まって行き、厨房内も緊張感が和らいできた。
「山は越したな。皆。この間に飯にしよう」
副料理長が集合をかけ、料理人達がテーブルに集まってくる。目の前には、料理長のカーゼルさんが作ったまかない料理が並んでいた。
今朝のメニューは豚バラ肉の煮込み料理だ。このまかない料理は、表のメニューには無く厨房内の料理人達しか口に出来ない。
このささやかやな特権に感謝し、私は柔らかい豚バラ肉をパンに挟んで頬張る。早朝からの労働による空腹感は、料理の味を更に美味しくした。
あれ? なんか忘れているような? ま、いいか。それにしても、料理人達しか食べれないこのまかない料理の味ときたら凄いわ。料理長のカーゼルさんは天才ね。
「リリーカ。お前さんは働き者だな。本当に助かってるぜ」
「そうそう。このままずっと調理場で働けよ。俺達大歓迎だぜ」
調理場の人達は私が人間でも普通に接してくれる。何故かしら? 同じ仕事をしているから連帯感が生まれるのかな。
昼の仕込みまで一時休憩になり、各々身体を休めに散って行く。私は紅茶を飲みながらひと心地ついていた。
······何か聞こえる。洗い場からだ。私は振り返ると、洗い場で食器を洗っているタイラントの背中が見えた。
「タ、タイラント! あんたずっと洗い物していたの!?」
私は椅子から立ち上がり、金髪魔族の側に駆け寄る。
「娘。今丁度終わったぞ。大皿二百三十枚。小皿四百六十枚。ナイフとフォーク合わせて四百六十本だ」
こ、こいつ洗いながら枚数を数えていたのの?へ、変な奴。
「と、とにかくお疲れさま。まかない料理の残りまだあるから良かったら食べる?」
タイラントは頷きテーブルに座った。こうして金髪の国王は、厨房内で料理人達の残したまかない料理を食し朝食を済ました。
私は休憩時間を利用し中庭の庭園にやって来た。庭の作業を終え、帰る途中のエドロンと挨拶を交し私はベンチに座った。
今日は天気も良く外にいると気持ちがいい。綺麗に整えられた庭園を眺めながら、私は穏やかな気持ちになる。
そう。奴が隣に座るまで。金髪の魔族は無言で私の隣に座った。そして何の前ぶれも無く私の手を握ってきた。い、いきなり何すんのよコイツ?
「······散歩道では手を繋ぐ。だったな」
い、以前に私が言った事? また愛情の実験と言う訳? あんたの実験、私に実害が多すぎるんですけど?
突然タイラントは繫いだを手を乱暴に離した。そして離した自分の手を紅い両目で見つめる。
「······まただ。お前に何かすると、私の中の何かが揺らいで行く」
タイラントは急に立ち上がり私を見下ろした。
「······もう愛情の実験は終わりだ。お前に近づくと何かがおかしくなる。お前は私に講義だけすれば良い」
そう宣言したタイラントは、そのまま歩いて行った。タイラントが私の左手に残していった体温は、いつの間にか消えていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。
有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。
選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。
涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。
彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。
やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる