28 / 52
料理対決です!
しおりを挟む
朝目覚めて左手を見た時、私は驚いた。赤切れだらけの傷が塞がっていたからだ。昨日タイラントが塗ってくれた薬の効果は素晴らしかった。
お蔭で私は気兼ねなく水仕事が出来る。そう。私の早朝からの労働は再び始まったのだった。
笑いキノコの毒から復帰した三人は、今朝から調理場に立っていた。でも、それと入れ替わりるように泣きキノコの毒にやられた三人は入院中だ。
変わらない。この厨房内の人手不足は何も変わっていないのだ。私は朝食後の休憩時間に、副料理長にある提案をした。
「タ、タイラント様に直接意見するだって?」
副料理長は手に持ったカップを落としそうになるくらい驚く。
「そうです副料理長! そもそもがこの調理場は人数がギリギリでした。もっと料理人を増やしてもらいましょう」
副料理長は怯んでいた。一介の料理人達が国王に意見するなど、とても実現出来る事じゃないらしい。
······そっかあ。皆には皆の立場があるのね。私が肩を落とし椅子に戻ろうとすると、個室調理場の小窓からカーゼルさんが腕を伸ばし手招きしていた。
「······リリーカ。この城には、もう一つ食堂があるんだ」
そう。この城には、身分の高い者専用の食堂があるのだ。カーゼルにさんの話によると、厨房設備。高価な食材。料理人の数。いずれも貴族専用の食堂が優遇されているらしい。
酷い! そんなの不公平じゃない! カーゼルさんは更に教えてくれた。貴族食堂の料理長が、カーゼルさんを目の仇にしているらしい。
貴族達の政治的圧力もあり、私達労働者専用の食堂には充分な予算が回ってこないらしい。
それを聞いた後、私はタイラントの執務室に向かった。扉を明けタイラントの机の前に出来ていた行列に並ぶ。
随分待ったが、自分の順番が来た時に私は両手を机に叩きつけた。
「タイラント! 労働者食堂の予算を増やして!」
タイラントはつむじの寝癖をいつものように見せながら、紅い両目を私に向ける。
「突然来るなりなんだ娘。食堂の予算が何だと?」
私はタイラントに労働者食堂の窮状を必死で訴えた。金髪魔族は暫く無言で考え込み、側にいたリケイに予算の資料を用意させた。
「······ふむ。確かに労働者食堂の予算は潤沢とは言えぬな。しかし、なんとかやっていけない額でも無い。これは、調理場の労働者を酷使しようとする意図が見て取れるな」
顎に指を添えながら資料を見るタイラントは、私達労働者食堂の現状を理解したようだ。ほら! やっぱりそうでしょ!
「タイラント様。下々の者の食堂予算など、その額で充分でございます」
私の後ろから突然声が聞こえた。振り返ると、そこに五十代と思われる魔族の男が立っていた。
派手な装飾品に派手な色調の衣服に身を包んだそのお腹はかなり肥満していた。だ、誰よこの太ったおじさん?
「マルフルフ財務大臣か。予算配分の責任者としてはこれが妥当だと?」
タイラントの言葉に私は驚いた。ざ、財務大臣?じゃあ、この人が労働者食堂の予算を決めているの?
「左様です。タイラント様。もっと予算を回すべき部署は他にも数多とあります」
マルフルフ財務大臣は贅肉で重たそうな胸を反らし偉そうに答えた。
「そんな! 食事は生きる者にとってとても大切な物です。そこを重要視しないで、何を重んじるんですか!?」
私はつい、この太っだおじさんに食ってかかってしまった。マルフルフ財務大臣は心外だと言わんばかりの表情をする。
「軍事。外交。土木工事。予算を優先すべき部署は幾らでもあるのだ」
マルフルフ財務大臣は忌々しいと言わんばかりの口調で答える。
「じゃあ何故、貴族専用食堂はこんなに予算があるんですか? これじゃあ不公平です」
「貴族と平民を同列にするな。人間の娘よ。お前達人間の世界では、国王と庶民が同じテーブルで食事を共にするのか?」
そ、そんな言い方って! 私はただ少ない人員で一生懸命料理を作っている皆が、もっと働きやすい環境になって欲しいだけなのに。
「それとも何か? 平民の食堂に、予算を回す価値があるのか?」
私はマルフルフ財務大臣のこの言葉に、一縷の望みが見えた気がした。
「あります! 価値ならあります! 味です。料理の味は、どこの食堂よりも美味しいです!」
「······どこの食堂よりもだと? 我々の貴族食堂より味が上だと言うのか?」
太ったおじさんが、私の挑発に乗ってくれた!
「はい! 貴方達の食堂より上です! もしそれが証明出来たら予算を増やしてもらえますか?」
「ふん。しかしそんな事をどうやって証明すると言うのだ? 人間の娘よ」
「勝負しましょう! そちらの貴族食堂の料理人とこちらの労働者食堂の料理人とで。料理対決です!」
マルフルフ財務大臣は苦虫を噛み潰すような顔をした。だが、タイラントの一言で全てが決した。
「良かろう。今夜夕食時にその勝負を行おう。異論は無いな? 娘。マルフルフ財務大臣」
た、たまには話が分かるじゃない、国王様! マルフルフ財務大臣もタイラントの判断に逆らわず了承した。
「娘。勝算はあるのか?」
タイラントの質問に私は頷いた。なんて言っても、こちらにはカーゼルさんが居るんだから!
しかし私のその自信は、脆くも崩れ去る事となる。料理対決は貴族専用食堂で行われる事となったからだ。
それは、カーゼルさんが個室調理場を出てその姿を周囲に見せるという事を意味していた。
お蔭で私は気兼ねなく水仕事が出来る。そう。私の早朝からの労働は再び始まったのだった。
笑いキノコの毒から復帰した三人は、今朝から調理場に立っていた。でも、それと入れ替わりるように泣きキノコの毒にやられた三人は入院中だ。
変わらない。この厨房内の人手不足は何も変わっていないのだ。私は朝食後の休憩時間に、副料理長にある提案をした。
「タ、タイラント様に直接意見するだって?」
副料理長は手に持ったカップを落としそうになるくらい驚く。
「そうです副料理長! そもそもがこの調理場は人数がギリギリでした。もっと料理人を増やしてもらいましょう」
副料理長は怯んでいた。一介の料理人達が国王に意見するなど、とても実現出来る事じゃないらしい。
······そっかあ。皆には皆の立場があるのね。私が肩を落とし椅子に戻ろうとすると、個室調理場の小窓からカーゼルさんが腕を伸ばし手招きしていた。
「······リリーカ。この城には、もう一つ食堂があるんだ」
そう。この城には、身分の高い者専用の食堂があるのだ。カーゼルにさんの話によると、厨房設備。高価な食材。料理人の数。いずれも貴族専用の食堂が優遇されているらしい。
酷い! そんなの不公平じゃない! カーゼルさんは更に教えてくれた。貴族食堂の料理長が、カーゼルさんを目の仇にしているらしい。
貴族達の政治的圧力もあり、私達労働者専用の食堂には充分な予算が回ってこないらしい。
それを聞いた後、私はタイラントの執務室に向かった。扉を明けタイラントの机の前に出来ていた行列に並ぶ。
随分待ったが、自分の順番が来た時に私は両手を机に叩きつけた。
「タイラント! 労働者食堂の予算を増やして!」
タイラントはつむじの寝癖をいつものように見せながら、紅い両目を私に向ける。
「突然来るなりなんだ娘。食堂の予算が何だと?」
私はタイラントに労働者食堂の窮状を必死で訴えた。金髪魔族は暫く無言で考え込み、側にいたリケイに予算の資料を用意させた。
「······ふむ。確かに労働者食堂の予算は潤沢とは言えぬな。しかし、なんとかやっていけない額でも無い。これは、調理場の労働者を酷使しようとする意図が見て取れるな」
顎に指を添えながら資料を見るタイラントは、私達労働者食堂の現状を理解したようだ。ほら! やっぱりそうでしょ!
「タイラント様。下々の者の食堂予算など、その額で充分でございます」
私の後ろから突然声が聞こえた。振り返ると、そこに五十代と思われる魔族の男が立っていた。
派手な装飾品に派手な色調の衣服に身を包んだそのお腹はかなり肥満していた。だ、誰よこの太ったおじさん?
「マルフルフ財務大臣か。予算配分の責任者としてはこれが妥当だと?」
タイラントの言葉に私は驚いた。ざ、財務大臣?じゃあ、この人が労働者食堂の予算を決めているの?
「左様です。タイラント様。もっと予算を回すべき部署は他にも数多とあります」
マルフルフ財務大臣は贅肉で重たそうな胸を反らし偉そうに答えた。
「そんな! 食事は生きる者にとってとても大切な物です。そこを重要視しないで、何を重んじるんですか!?」
私はつい、この太っだおじさんに食ってかかってしまった。マルフルフ財務大臣は心外だと言わんばかりの表情をする。
「軍事。外交。土木工事。予算を優先すべき部署は幾らでもあるのだ」
マルフルフ財務大臣は忌々しいと言わんばかりの口調で答える。
「じゃあ何故、貴族専用食堂はこんなに予算があるんですか? これじゃあ不公平です」
「貴族と平民を同列にするな。人間の娘よ。お前達人間の世界では、国王と庶民が同じテーブルで食事を共にするのか?」
そ、そんな言い方って! 私はただ少ない人員で一生懸命料理を作っている皆が、もっと働きやすい環境になって欲しいだけなのに。
「それとも何か? 平民の食堂に、予算を回す価値があるのか?」
私はマルフルフ財務大臣のこの言葉に、一縷の望みが見えた気がした。
「あります! 価値ならあります! 味です。料理の味は、どこの食堂よりも美味しいです!」
「······どこの食堂よりもだと? 我々の貴族食堂より味が上だと言うのか?」
太ったおじさんが、私の挑発に乗ってくれた!
「はい! 貴方達の食堂より上です! もしそれが証明出来たら予算を増やしてもらえますか?」
「ふん。しかしそんな事をどうやって証明すると言うのだ? 人間の娘よ」
「勝負しましょう! そちらの貴族食堂の料理人とこちらの労働者食堂の料理人とで。料理対決です!」
マルフルフ財務大臣は苦虫を噛み潰すような顔をした。だが、タイラントの一言で全てが決した。
「良かろう。今夜夕食時にその勝負を行おう。異論は無いな? 娘。マルフルフ財務大臣」
た、たまには話が分かるじゃない、国王様! マルフルフ財務大臣もタイラントの判断に逆らわず了承した。
「娘。勝算はあるのか?」
タイラントの質問に私は頷いた。なんて言っても、こちらにはカーゼルさんが居るんだから!
しかし私のその自信は、脆くも崩れ去る事となる。料理対決は貴族専用食堂で行われる事となったからだ。
それは、カーゼルさんが個室調理場を出てその姿を周囲に見せるという事を意味していた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。
有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。
選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。
涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。
彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。
やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる