青天の霹靂は、村娘の一言から

tosa

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か、かかか格好いい!!

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 私は肩を落とし項垂れ、タイラントの執務室から調理場に戻った。調理場の人達に事情を話し、厨房内は暗い空気に包まれた。

「リリーカ。俺達の為に国王様に意見してくれてありがとな。しかし、カーゼル料理長はあの個室調理場から出ないだろう」

 副料理長の言葉は最もだった。それはつまり、カーゼルさん抜きで料理対決をしなくてはならないと言う事だった。

 しかも対決は丁度夕食時。お腹を空かした労働者達を放っておいて、厨房を空ける訳にも行かなかった。

 私は自分の浅はかさを猛省したが、今更後には引けなかった。こうなったら、私が責任を持って料理対決に出るしか無い。

「ならリリーカ。リオールとモント、二人を連れて行け。お前達三人でやれるだけやってみろ」

 副料理長は優しく言ってくれた。こんな人手不足の時に、私を含め三人も夕食時に抜ける。その負担は残った皆に重くのしかかる。

 ご、ごめんなさい皆。落ち込む私を、調理場の皆が励ましてくれた。貴族達に一泡吹かせて来い。皆はそう言って私達三人を送り出してくれた。

 時刻は夕刻になり、私達労働者食堂代表は貴族専用の調理場に立った。厨房内は料理人達が夕食の為に忙しなく動き回っている。

 それにしても、ここの食堂は私達労働者食堂と多くの面で違った。木製の長テーブルでは無く、丸いテーブルには高価そうなテーブルクロスがかけられている。

 天井にはシャンデリアが室内を明るく照らしている。自分で料理の皿を取りに行く労働者食堂と異なり、何人もの給仕達が料理を運び、席に座る貴族達にワインを注いでいる。

 そして厨房内も私達より広く設備もいい。あれ?奥に個室みたいな部屋がある。ここにも個室調理場があるのかしら?

「では、こらから勝負の方法を説明致します」

 貴族食堂代表と労働者食堂代表の間にリケイが立ち、説明を始めた。勝負は前菜、肉料理、デザートの三品の総合評価で決まる。

 審判はタイラント。マルフルフ財務大臣。そして労働者代表で庭師のエドロンが選ばれ、三人の判断で決せられる。

 三人は既にテーブルに座っていた。エドロンはタイラントとマルフルフ財務大臣を目の前にして居心地が悪そうだ。ご、ごめんねエドロン。

 公平を期す為に、タイラント達に出される料理は双方どちらの物か伏せられるらしい。

「では始めて下さい」

 リケイの掛け声と共に勝負が始まった。私達は割り当てられた釜戸と流しの前に立ち、料理の準備をしていく。

「うわ。ここの厨房いい包丁使ってんなあ。うへっ。なんだこの食材。俺達とランクが違うぜ」

「あれ? 釜戸の火種はどこだ? 他人の台所は勝手が違うな」

 リオールさんとモントさんが少し戸惑っている。仕方ないわ。ここは使い慣れた厨房じゃないもの。

「違う! もっと新鮮な白菜を持って来なさい! 国王様にお出しするのよ!」

 個室部屋から女性の鋭い声が響いた。び、びっくりした!

「リリーカ。あの声の主が、この貴族食堂の料理長。シャンフさんだ」

 リオールさんが小声で教えてくれた。え? お、女の人なの? あの人がカーゼルさんを目の仇にしている人? それにしても、何故シャンフさんは個室に籠もっているのかしら? ひ、人見知りとか?

 その個室部屋の排気口から煙が出ている。間違いない。シャンフさんは、あの個室内で調理をしている。カーゼルさんと同じだ。その時、リオールさんの叫び声が聞こえた。

「お、おい! リリーカ! 前掛けに火がついてるぞ!!」

「え? き、きゃあ!」

 釜戸に薪を足していた私はよそ見をしてしまい、火力が一瞬増した時に、前掛けに火が燃え移った事に気がつかなかった。

 焦って立ち上がったのがまずかった。私の肘が食材の乗せられたお盆に当たり、高価な食材はお盆ごと床に落ちてしまった。

「しょ、食材が!」

 モントさんが絶叫する。上等な牛肉は足元に落ち。卵は割れ。野菜も汚れてしまった。それを見た私は頭が真っ白になってしまった。ど、どうしよう?

「こ、この食材はもう使えないな。もう一度食材を貰うか?」

「馬鹿! こんな高価な食材、何度も貰える訳無いだろ!」

 リオールさんとモントさんが言い合いながら明らかに動揺している。ぜ、全部私のせいだ。私が余計な事を言いい出したから。

 私は焦げた前掛けを握りながら、泣きそうになっていた。

「食材ならあるぞ」

 その時、私達の耳に聞き覚えのある声が聞こえた。振り返ると、そこに大きな袋を抱えたカーゼル料理長が立っていた。

「お、おい、見ろよ。あの男、腕が四本あるぞ?」

「あれ四手一族か? 俺初めて見たぜ」

 厨房の料理人達から、驚きの声が各所で上がった。驚いたのは私達も同様だったが、私達をよそに、カーゼルさんは無言で個室調理場の前に歩いて行く。

「······カーゼル! あんた正気なの? その姿で外をうろつくなんて」

 個室調理場の小窓が開けられ、シャンフさんの声がした。あ、あの二人、顔見知りなんだ。

「······俺は、穴倉に籠もるのはもう飽きた。シャンフ。お前はまだそこに籠もるのか?」

 カーゼルさんは穏やかな口調でシャンフさんに問いかける。

「······うるさい! あんただけには言われたくないわ!」

 シャンフさんはそう言うと小窓を閉じた。カーゼルさんはこちらに戻り素早く指示を出す。

「リオール、モントは俺達の厨房に戻れ。ここは、俺とリリーカで請け負う」

「は、はい!」

 リオールさんとモントさんは、急いで労働者食堂に戻る為に駆け出した。カ、カーゼルさんは何で来てくれたの?

「リリーカ。俺達の厨房は気にするな。夕食の為に早めに仕込みを済ませてある。リオールとモントが戻ればなんとかなる」

 カーゼルさんはそう言うと、抱えていた袋の中身を取り出す。それは、労働者食堂から持ち出した食材だった。

「いつも使っている食材で勝負するぞ。ぼやっとするなリリーカ。さっさと勝負に勝って、俺達の厨房に戻るぞ!」

「は、はい!」

 か、かかか格好いい! 顔も台詞もやる事も、とにかく全部素敵だわ!! 私の頭の中に、天使達がぞろぞろと集まりだした。

 私が初めてカーゼルさんの四本腕を見た時、天使達は地獄の口にラッパや鐘を捨てた。その愚行を悔い改めるように、天使達は地獄の口に突入する。

 捨てたラッパや鐘を拾い、再びその音色を響かせる為に。


 



 




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