青天の霹靂は、村娘の一言から

tosa

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いい思い出に······なるのかしら?

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 春の感謝祭当日は、朝から曇り空だった。昼時には雷雲が耳に突き刺さる音を鳴らしていたが、幸運にも雨を降らす事はなかった。

 夕暮れが近づいた時刻。感謝祭の会場となった城の中庭には多くの魔族達が集まっていた。

 だが魔族の多くは困惑した表情だ。無理もない。祝祭を開く習慣が無いのだから。なんの為の集まりなのかと思うだろう。

 臨時に設置された壇上に若干二十ニ歳の国王が立った。会場にいた魔族の視線はタイラントに注がれた。

「今日皆に集まって貰ったのは他でもない。我々はこれから春の感謝祭という催しを開く。これは人間達が行っている祭りだ。この機会に人間の文化に触れ、人間への理解を深める一端にしてもらいたい」

 タイラントの言葉に魔族達からどよめきが起こった。私はこの演説をするに当たって一つだけタイラントに注文した。

 お偉方の長い演説ほど聞く者に迷惑な物は無い。とにかく簡潔に短く。私はタイラントにそう念を押した。

「この春の感謝祭は、また新たな春を迎えられたと言う感謝の気持ちを祭りの形にしたらしい。個々に思う所はあるだろう。だが難しく考える必要は無い。皆よく飲み。よく食べ。よく話せばそれで良い」

 タイラント! そろそろよ! それ以上長いと聴衆が苛々してくるからね。だが、私の懸念は現実の物となった。

「所で春の感謝と言えば、今年の我が国の税収は去年と比べ······」

 だあああぁっ! 駄目だって言ったのにあの馬鹿! 私は両手を交差させタイラントに止めるよう促したが、金髪寝癖国王は誰も聞きなくない税収の話を平然と続けようとした。

「国王と春の感謝祭に乾杯!!」

 タイラントの演説を掻き消すかのように、物凄い大声が中庭に轟いた。声の主はザンカルだった。

 魔族達はそれにつられて、手に持ったグラスを掲げ次々と乾杯と叫んでいく。タイラントの演説はその声に埋もれた。

 タイラントは無表情のまま小さくグラスを掲げた。こうして、ザンカルの素晴らしい機転で春の感謝祭は始まった。

 中庭では身分の高い者、そうでない者達が入り混じって食事やお酒を楽しんでいる。私はカーゼルさんとシャンフさん達が共同で開いた臨時厨房へ手伝いに行く。

 十機の竈を並べ、鉄鍋で次々と料理をお客の前で作る光景は祭りの参加者から喝采を浴びた。

 肉や野菜をパンに挟み手掴みで食べる方式は、貴族達の顔を曇らせたが、一口食べその美味しさ魅了された彼等は特段不平を言わなかった。

 労働者食堂と貴族食堂の料理人達が、肩を並べ同じ料理を作っている。ふとカーゼルさんを見ると、シャンフさんと笑顔で何か話していた。

 ······カーゼルさんとシャンフさん。この二人、結構お似合いかも。私は出来上がった料理をテーブルに並べながらそう思った。

「リリーカ。こっちは大丈夫だ」

「そうそう。主催者は祭りを楽しんて来いよ」

 モントさんとリオールさんが私から料理皿を取り私を送り出してくれた。私は皆の心遣いに感謝し、その足でメイド達の手伝いに向かった。

 臨時調理場の斜め向かいに、白いテーブルクロスが敷かれた長テーブルがあった。そこに、メイド達が腕によりをかけた美味しそうな焼き菓子が並んでいる。

 様々な種類の紅茶もここで飲む事が出来、お酒が苦手な者は、芳醇な香りを漂わせる紅茶に惹かれ、ここに立ち寄っで行く。

 カラミィ、ハクラン、エマーリ達も天使の仮面を上手に被り笑顔で接客していた。この三人とは色々あったけど、時間が立てばいい思い出に······なるのかしら?

 私はその判断を未来の自分に委ね、カップに紅茶を注ぎ魔族達に渡していった。

「リリーカ殿。私にも一杯頂けますか?」

「リリーカ。蒸留酒を紅茶に混ぜたのを頂戴」

「リリーカ。菓子も紅茶も要らん。お前も祭りに参加しろよ」

 リケイ、シースン、ザンカルが三人揃って私に同時に注文してきた。この三人とも色々思い出が出来た。

 困った人達だったけど、いざとなったら私を警護してくれる頼れる人達だ。特にザンカル。貴方には感謝しかありません。

 ザンカルに出会えお陰で、優しい心を持つ者は人間、魔族に関係無いと知る事が出来たわ。

 私がそんな思い出に浸っていると、隣からハクラン、エマーリが勢い良く私を押し退けた。
 
「ザンカル様! こちらの焼き菓子は如何ですか!?」

「リケイ様! こちらのお紅茶をどうぞ!」

 ······少し不毛とも思えない事も無いけど、この二人の想いが成就するようお祈りしよう。少しだけ。うん。

 ふとカラミィを見ると、彼女は普段と変わらない様子だった。あの大号泣から落ち着きを見せ、なんだか吹っ切れた感じがする。

「カラミィ!!」

 突然の大声に私は驚き、声が響いた方向を見る。カラミィの前には、花束を抱えた庭師エドロンが立っていた。

 

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