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人間からのプレゼント
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「え?」
「また変な男に絡まれたとき、これを鳴らすといい」
リアンは、戸惑うエリザベッタの手をとって、ネックレスのように首にかけられるようになっている角笛を手に握らせた。小さくて、つるつるしていた。
「いいの?」
エリザベッタは、ベニータや、セレンナ以外に誰かに何かをもらったことはなかった。だから、受け取っていいのか、どうしたらいいのかわからない。
「ああ、助けてほしいとき鳴らしてくれれば、その笛の音のする方にすぐ駆け付けにいくから」
戸惑うエリザベッタと対照的に、リアンは笑顔だった。
「そう、ありがとう」
この笛をもらってもわたくしは、今後鳴らす機会が訪れるかはわからないけれどね。
すぐ悲観的に考えてしまうのは、エリザベッタの悪い癖だった。
「そんな不安そうな顔するなよ、本当に来るから」
リアンは、そういってまたエリザベッタの頭を優しく撫でた。こうされると、エリザベッタはリアンに何も言えなくなってしまうのだ。
「ありがとう」
そう言って微笑んで見せると、リアンはにっこり微笑んだ。エリザベッタの言葉に安心したように。
わたくしは、あなたに嘘だらけよ、リアン。
エリザベッタは、心の中でぽつりと呟いた。
「じゃあ、また会おうな」
リアンは、エリザベッタに笑顔で手を振った。
「ええ」
リアンの妹弟たちには、期待させないように、「また会えたらね」なんていっておいて、わたくしったら。リアンには「ええ」なんて。
エリザベッタは、リアンの姿がもう見えないように走った。さっき走ったときより、自然と疲れなかった。自分の背中が何かに押されているような感覚さえあった。
もう会う事はないでしょうね。リアン。さようなら。首から下げた角笛が揺れた。
早く帰ろう、ベニータお姉様と、セレンナのところへ。
そして怒られよう。エリザベッタは、正直に2人にいうつもりだった。
エリザベッタは、またあのお屋敷に向けて歩みを進めた。
***
しばらく歩みを進めると、徐々に懐かしいバラの香りがしてきて、エリザベッタはその香りに沿うように、お屋敷を目指した。
「もうすぐね」
暗闇でも、何故かエリザベッタはお屋敷の方へと向かうことができた。懐かしい場所に戻るように、エリザベッタの足はお屋敷に向かっていく。
そして、しばらくして道が開けバラの庭と、お屋敷が眼前に広がった。
「ああ」
帰ってきたんだわ。エリザベッタは、やっと夢の世界から戻ってきたような気持ちになった。
2人は帰ってきたのかしら。エリザベッタの足は、少し歩みを速めた。
バラの庭は、エリザベッタが町に出ていく前と同じようにそこにあって、エリザベッタが町へいったことを咎める様子もなく、ただ静かにエリザベッタを歓迎している。
「ただいま」
エリザベッタは、静かにバラたちに呟いた。上を見上げると、自分の部屋がエリザベッタを見下ろしている。
外の世界に先ほどまでいたエリザベッタは、なんだかずっと過ごしていたあの部屋が自分の部屋ではないよな錯覚に襲われて、ぶるりと体を震わせた。
戻るの?
低く、不気味な声が耳に響いた。エリザベッタの足はぴたりと止まる。
戻るの?またあの部屋に。暗く、冷たい、寂しいあの部屋に。
「やめて」
エリザベッタは、不気味な幻聴に耳をふさいだ。
戻ったらもうきっと、もう一生外の世界には出られないでしょう。
「やめて・・・」
エリザベッタは、耳をふさいでうずくまった。そんなことはわかっている。エリザベッタは、ずっとそれをいい聞かせてきたのだ。
「いいのよ、いいの」
エリザベッタは、リアンからもらった角笛を襟元から取り出した。
角笛を胸の前で祈るように握りしめた。そうしていると、エリザベッタは自然と心が落ち着いてきた。
「お守りの効果もあるのかもしれないわね」
エリザベッタは、角笛を大切に胸元にしまった。
幻聴はもう聞こえなかった。
「戻りましょう」
2人が帰ってきているかもしれないし。エリザベッタは、大きく息を吸ってゆっくり扉を開いた。
「ただいま・・・」
扉を開いて、エリザベッタはなんとなく察した。まだ2人が帰ってきていないことを。
屋敷から出てきたときと同じ、冷えた空気と、空間に取り残されたような雰囲気が玄関から既に渦巻いていた。
「ベニータお姉様・・・セレンナ」
口元に手を添えて2人の名を呼んでみたが、どうや返事がないらしい。エリザベッタは、一瞬ほっとしてしまった自分に酷く罪悪感を覚えながら、自分の部屋へと歩みを進めた。
エリザベッタの生きる場所であり、エリザベッタを守る場所であり、エリザベッタの鳥かごであるあの部屋へと。
エリザベッタは、人の気配が一切ないので、安心と共に、不安も感じていた。
「まだ2人は帰ってきていないの」
エリザベッタは、自分の部屋の扉の前であっちどまった。
この部屋に入ったら最後・・・。
また幻聴が聞こえてきた。
ごくりと喉が鳴って、呼吸が乱れてきた。
「大丈夫、大丈夫、またベニータお姉様と、セレンナをいつものように待つ毎日に戻るだけよ」
無理に明るい声を出し、無理に笑顔を作った。エリザベッタは、震える手で、扉を押した。
扉の向こうには、前と変わらない閑散とした自分の部屋があった。
「ああ・・・」
帰ってきたんだわ。この部屋に。
エリザベッタは、ふらふらとベットまで歩き、ぼふっと倒れこんだ。
いつものベット、なんだか、眠くなってきたわ。エリザベッタは、まどろみの中、もぞもぞと布団に入り、そのまま深い眠りへと落ちていった。
その時、自分でも無意識のうちに服の上から角笛を握って寝ていたことを、エリザベッタは知らない。
「また変な男に絡まれたとき、これを鳴らすといい」
リアンは、戸惑うエリザベッタの手をとって、ネックレスのように首にかけられるようになっている角笛を手に握らせた。小さくて、つるつるしていた。
「いいの?」
エリザベッタは、ベニータや、セレンナ以外に誰かに何かをもらったことはなかった。だから、受け取っていいのか、どうしたらいいのかわからない。
「ああ、助けてほしいとき鳴らしてくれれば、その笛の音のする方にすぐ駆け付けにいくから」
戸惑うエリザベッタと対照的に、リアンは笑顔だった。
「そう、ありがとう」
この笛をもらってもわたくしは、今後鳴らす機会が訪れるかはわからないけれどね。
すぐ悲観的に考えてしまうのは、エリザベッタの悪い癖だった。
「そんな不安そうな顔するなよ、本当に来るから」
リアンは、そういってまたエリザベッタの頭を優しく撫でた。こうされると、エリザベッタはリアンに何も言えなくなってしまうのだ。
「ありがとう」
そう言って微笑んで見せると、リアンはにっこり微笑んだ。エリザベッタの言葉に安心したように。
わたくしは、あなたに嘘だらけよ、リアン。
エリザベッタは、心の中でぽつりと呟いた。
「じゃあ、また会おうな」
リアンは、エリザベッタに笑顔で手を振った。
「ええ」
リアンの妹弟たちには、期待させないように、「また会えたらね」なんていっておいて、わたくしったら。リアンには「ええ」なんて。
エリザベッタは、リアンの姿がもう見えないように走った。さっき走ったときより、自然と疲れなかった。自分の背中が何かに押されているような感覚さえあった。
もう会う事はないでしょうね。リアン。さようなら。首から下げた角笛が揺れた。
早く帰ろう、ベニータお姉様と、セレンナのところへ。
そして怒られよう。エリザベッタは、正直に2人にいうつもりだった。
エリザベッタは、またあのお屋敷に向けて歩みを進めた。
***
しばらく歩みを進めると、徐々に懐かしいバラの香りがしてきて、エリザベッタはその香りに沿うように、お屋敷を目指した。
「もうすぐね」
暗闇でも、何故かエリザベッタはお屋敷の方へと向かうことができた。懐かしい場所に戻るように、エリザベッタの足はお屋敷に向かっていく。
そして、しばらくして道が開けバラの庭と、お屋敷が眼前に広がった。
「ああ」
帰ってきたんだわ。エリザベッタは、やっと夢の世界から戻ってきたような気持ちになった。
2人は帰ってきたのかしら。エリザベッタの足は、少し歩みを速めた。
バラの庭は、エリザベッタが町に出ていく前と同じようにそこにあって、エリザベッタが町へいったことを咎める様子もなく、ただ静かにエリザベッタを歓迎している。
「ただいま」
エリザベッタは、静かにバラたちに呟いた。上を見上げると、自分の部屋がエリザベッタを見下ろしている。
外の世界に先ほどまでいたエリザベッタは、なんだかずっと過ごしていたあの部屋が自分の部屋ではないよな錯覚に襲われて、ぶるりと体を震わせた。
戻るの?
低く、不気味な声が耳に響いた。エリザベッタの足はぴたりと止まる。
戻るの?またあの部屋に。暗く、冷たい、寂しいあの部屋に。
「やめて」
エリザベッタは、不気味な幻聴に耳をふさいだ。
戻ったらもうきっと、もう一生外の世界には出られないでしょう。
「やめて・・・」
エリザベッタは、耳をふさいでうずくまった。そんなことはわかっている。エリザベッタは、ずっとそれをいい聞かせてきたのだ。
「いいのよ、いいの」
エリザベッタは、リアンからもらった角笛を襟元から取り出した。
角笛を胸の前で祈るように握りしめた。そうしていると、エリザベッタは自然と心が落ち着いてきた。
「お守りの効果もあるのかもしれないわね」
エリザベッタは、角笛を大切に胸元にしまった。
幻聴はもう聞こえなかった。
「戻りましょう」
2人が帰ってきているかもしれないし。エリザベッタは、大きく息を吸ってゆっくり扉を開いた。
「ただいま・・・」
扉を開いて、エリザベッタはなんとなく察した。まだ2人が帰ってきていないことを。
屋敷から出てきたときと同じ、冷えた空気と、空間に取り残されたような雰囲気が玄関から既に渦巻いていた。
「ベニータお姉様・・・セレンナ」
口元に手を添えて2人の名を呼んでみたが、どうや返事がないらしい。エリザベッタは、一瞬ほっとしてしまった自分に酷く罪悪感を覚えながら、自分の部屋へと歩みを進めた。
エリザベッタの生きる場所であり、エリザベッタを守る場所であり、エリザベッタの鳥かごであるあの部屋へと。
エリザベッタは、人の気配が一切ないので、安心と共に、不安も感じていた。
「まだ2人は帰ってきていないの」
エリザベッタは、自分の部屋の扉の前であっちどまった。
この部屋に入ったら最後・・・。
また幻聴が聞こえてきた。
ごくりと喉が鳴って、呼吸が乱れてきた。
「大丈夫、大丈夫、またベニータお姉様と、セレンナをいつものように待つ毎日に戻るだけよ」
無理に明るい声を出し、無理に笑顔を作った。エリザベッタは、震える手で、扉を押した。
扉の向こうには、前と変わらない閑散とした自分の部屋があった。
「ああ・・・」
帰ってきたんだわ。この部屋に。
エリザベッタは、ふらふらとベットまで歩き、ぼふっと倒れこんだ。
いつものベット、なんだか、眠くなってきたわ。エリザベッタは、まどろみの中、もぞもぞと布団に入り、そのまま深い眠りへと落ちていった。
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