ヴァンピオーネが笑う夜

ガイア

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子供たちを生捕にしましょう

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 エリザベッタは、ベットに横になっていた。
 幾度として襲ってくる夕食の光景。エリザベッタは、耳鳴りをする耳を塞ぎ、布団の中でうずくまった。
 いつもの2人だったわ。いつもの優しい2人。エリザベッタは、背中をさすってくれた2人の手のぬくもりを思い出していた。
 さっきの2人は、わたくしが外に出たと思ったからあんなに怖かっただけ。わたくしが外に出ていないとわかったからいつもの2人に戻ったんだわ。
 エリザベッタは、余計に2人に本当のことを言えなくなった。
 いつもなら、食べれていたわ。笑顔で食事をとれていたじゃない。3人で楽しくお喋りしながら。
 エリザベッタは、固く目を閉じた。
 忘れたい、あの日のことを。外に出さえしなければ、こんなことにはならなかったわ。
 でも、エリザベッタはまた自然と自分が角笛を握ってしまっていることに気が付かなかった。
 ああ、目が覚めたら全て忘れていたい。
 エリザベッタがそう思った時、一瞬リアンの笑顔が脳裏に浮かんだ。照れたような、はにかんだような笑顔だった。
 また自然と涙があふれてきて、エリザベッタは声を出さずに泣いた。
***
 エリザベッタが目を覚ますと、どうやら随分寝ていたらしい。カーテンの向こうが明るくなっていた。
「朝・・・」
「起きた?」
 ベット横で声がしてエリザベッタはびくりと体を震わせた。
「べ・・・ベニータお姉さま」
 エリザベッタのベット横で、椅子に座ってベニータは微笑んでいた。
「エリザベッタ、体調はどう?」
 ベニータは、心配そうにエリザベッタの頬に触れた。
「大丈夫よ、ベニータお姉さま」
 エリザベッタは、ベニータの手を自分の両手で包み込んだ。いつもと同じ、あたたかくて優しい手。
 ああ、いつもと同じ、優しいベニータお姉さまだわ。わたくしが起きるまでこうしてベットの隣で見守っていてくれたのかしら。エリザベッタは、昨晩と違う、偽りのない、いつも姉妹に見せる笑顔で微笑んだ。
「ありがとう、ベニータお姉さま」
「ええ、いいのよ。セレンナも心配していたわ。元気な顔を見せてあげて」
 すると、こんこんとノックがあって、セレンナがおずおずと部屋に入ってきた。
「大丈夫?エリザベッタお姉さま」
 いつもと違って大人しいセレンナ。随分心配してくれたのだろう、エリザベッタは、少し泣きそうになった。
「ええ、大丈夫よセレンナ。ありがとう」
 エリザベッタがそういうと、セレンナは心底安心した笑顔で駆け寄ってきた。
「よかったわァ。エリザベッタお姉さまが食事前に吐くことなんてなかったから」
「そうね、余程ストレスが溜まっていたか・・・いいえ、とにかくエリザベッタが元気になってよかったわ」
 ベニータは、少し考えた様子ではあったがすぐにいつもの笑顔に戻った。
「今食欲はある?」
 ベニータにそう聞かれて、エリザベッタは素直に「ええ」と答えようとした。お腹は確かにすいている。でも、また昨晩のようになったら?という考えが浮かんで首を横に振った。
「いいえ、まだ・・・」
「そう、まあ今日は豪華な夕食を作るから楽しみにしていて」
「そうねェ、栄養たっぷりなのをね」
 ベニータとセレンナは顔を見合わせて笑った。
「ありがとう、とっても楽しみだわ」
 エリザベッタは、弱弱しく微笑んだ。
「生きのいいのを食べてほしいわね」
「そうねェ、一番いいのは生け捕りかしら」
「鍛冶屋の夫婦以来ね。今日は、生け捕りにしてきましょうか」
「いいわねェ」
「前の鍛冶屋の夫婦に何人か子供がいたわね」
「ああ、殺すとき名前を泣き叫んでいたわね」
 こういう話をする時、食料の話をする時だ。前のエリザベッタであれば、楽しく会話ができていた。だが、今のエリザベッタからは、2人の表情がぞっとする程残虐に見えた。
「あの子供を夫婦の情報を餌におびき出しましょうよ」
「いいわねェ」
 ベニータの提案に、セレンナはぱちんと手を打った。
「ねえ?エリザベッタ」
 ベニータは、同意を求めるようにエリザベッタに微笑みかけた。
「ええ、そうね」
 エリザベッタがそういうと、ベニータとセレンナは立ち上がった。
「では、夕方になったら早速捕まえにいきましょう」
「いいわねェ、夜はご馳走よ。待っていてねエリザベッタお姉さま」
 セレンナは、エリザベッタににっこり微笑んだ。
 エリザベッタは、こくりと頷いた。2人は優しいわ。エリザベッタは、だからこそ2人に嘘をついている罪悪感が頭から離れなかった。
 あの夜のことはもう忘れないと。わたくしはこの屋敷からもう二度とでることはないんだから。前みたいに・・・前みたいに生活していかなくては。エリザベッタは、何度も自分に言い聞かせた。
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