ヴァンピオーネが笑う夜

ガイア

文字の大きさ
10 / 12

あなたの両親を食べたのは──

しおりを挟む
 リアンは、衣服が綺麗に整頓されているクローゼットの中で耳をふさいでうずくまっていた。
「リアン、大丈夫?ごめんなさい」
 その弱弱しい様子に、エリザベッタは急いでリアンに声をかけた。
「ああ、大丈夫だよ。それより、エリザベッタこそ、大丈夫だったか?怒られたりしなかったか?」
 リアンは、がしっとエリザベッタの肩を掴んでそう言った。エリザベッタは、大きく目を見開いた。
「リアン、耳をずっと塞いでいてくれたの?」
「ああ、エリザベッタがそういったんじゃないか」
 さも、当然というようにいうリアンに、エリザベッタは思わず微笑んだ。
「リアンは、とっても素直で正直者ね」
「エリザベッタもだろう」
 リアンは、その様子に安心したように微笑んだ。
「よかった、エリザベッタ、元気になって。さっきは少しぴりぴりしていたからな」
 リアンは、クローゼットからそろそろと出てきた。
「ごめんなさい」
「気にするなよ」
 エリザベッタは、最初他人のフリをしてリアンを追い出そうとしていましたが、リアンの素直さに、正直になってしまうのでした。「でも、リアン。もうここには来ない方がいいわ」
 エリザベッタは、リアンから一歩離れた。
「どうしてだ?優しそうなお姉さんたちじゃないか。あ、安心してくれ。エリザベッタが外に出たこと、行ってないぞ」
 リアンは、純粋な瞳でそういった。そんなリアンを見ていると、エリザベッタは、涙が出そうになった。
「そうじゃないの、そうじゃないのよ。リアン」
 エリザベッタは、首を振ってまた1歩リアンから遠ざかった。自分は、人を食べるヴァンピオーネだということを彼に打ち明ける?できるはずがない。
 ベニータと、セレンナは手違いでリアンを屋敷連れてきてしまった。
 人違いだと、外に出た時にわたくしを助けてくれた人なのと、エリザベッタは2人を説得するつもりだった。
「エリザベッタ」
 リアンは、離れていくエリザベッタと対照的に、エリザベッタに近づいて行った。
「エリザベッタがオレにこの屋敷にいてほしいのはわかったよ。でも、オレはエリザベッタのお姉さんたちと話をしなくちゃいけないことがあるんだ」
 リアンは、真剣な瞳でそう言った。
「話をしなくちゃいけないこと?」
「ああ、前に話しただろう?オレの父ちゃんと母ちゃん」
 その先は、エリザベッタの耳に入ってきた情報が頭に入ってくるまで時間がかかった。
 そういえば、鍛冶屋の夫婦を食べたっけ。
 そういえば、あの時、3人の男たちは言っていたっけ。「鍛冶屋の息子」と。
 そういえば、リアンはいっていたっけ。両親が行方不明になったって。
 そういえば、ベニータお姉さまとセレンナはいっていたっけ。夫婦の子供を、夫婦の情報をダシにここに連れてこようって。
「だからさ、エリザベッタ」
 そういったリアンは、エリザベッタの表情を見て息を飲んだ。
「エリザベッタ」
「ああ・・・あああああああああああ」
 リアンの顔、子供たちの顔、リアンの笑顔、子供たちの笑顔、リアンのあの寂しそうな顔、子供たちの寂しそうな顔。
「ああああああああああああ」
 美味しかった料理。筋肉質で噛み応えがあって、血もコクがあった。
「ああああああああああああああ」
 ベニータと、セレンナと一緒に食事をしたあの夜のこと。
 楽しく食事をしたあの日のこと。
 リアンたちと出会ったあの日のこと。
「あぁ・・・」
 ソウダ、ワタクシダワ。
 カレノタイセツナカゾクヲタベタノハ。
 ずっとエリザベッタは、考えないようにしていた。薄々勘づいていた。でも、考えないようにしていた。考えようとする自分を必死に止めていた。別のことを考えてずっと止めていた。帰ってきてからも、笛を痛い程握りしめて。笛を捨てるときもそうだった。そのことが浮かんで、やめたのだ。
「どうしたんだ?エリザベッタ」
 リアンの問いかけにも、エリザベッタは答えなかった。
 ずっと、涙を流しながら天井を見て動かない。
「エリザベッタ?」
「リアン」
 エリザベッタは、がくんと膝をついて床に手をついた。
「ごめんなさい」
 死ねない自分を呪った。エリザベッタは、今まで以上に、死ぬことのできないヴァンピオーネという種族の特質を呪った。
「リアン」
 自分はリアンの両親の仇だ。子供たちにとってもそうだ。そのことを隠して彼とこうして話すことは、許されないことだ。
「あなたのお父さんとお母さんを殺したのは、わたくしなの」
 エリザベッタは、視線を床から驚愕に目を見開いているリアンに移した。
「どういう・・・ことだ」
 リアンは、やっと声を絞り出しだいたという様子だった。
 エリザベッタは、自分が人間じゃないこと、人を食べて生きているヴァンピオーネであることをリアンに打ち明けようと思ったが、踏みとどまった。
 自分が殺したことにして、2人は関係ないことにしよう。そして、打ち明けた後、姉妹からも、そしてリアンの前からも姿を消そう。
 エリザベッタがヴァンピオーネだと、人間じゃないことをリアンに伝えると、2人までここにいられなくなると考えたエリザベッタは、覚悟を決めました。
「さっきの2人は関係ないの。わたくしが、あなたの両親を殺したの」
 そういって、エリザベッタは窓を開けて、指さした。
「ここは鍵がかかっているわ。わたくしに殺されたくなければ、この窓から逃げることね」
 エリザベッタは、本当に嘘が苦手だった。
 早くここから逃げてほしい。
 それだけが、エリザベッタの切実な願いだった。ここにいたらリアンは確実に殺され、自分の食卓に並ぶだろう。それだけは、阻止しなくてはならない。
「早く!!」
 エリザベッタは、懇願するようにそう言って、近くにあった花瓶を振り上げた。
「・・・・・・・・・・・・・」
 リアンは、絶句していた。
 到底信じられない話だ。目の前にいる同じ年くらいの少女が自分の両親を殺した?
 信じられるわけがない。
 腕も、体も細くて華奢だ。
 ちょっと走っただけで倒れてしまうような少女が。
 涙を流しながら、自分にここから逃げるようにいうエリザベッタに、リアンはとても、エリザベッタが自分の両親を殺したとは思えなかった。
 だからこそ、リアンは混乱していた。
「エリザベッタが、殺した?オレの・・・父ちゃんと母ちゃんを・・・?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

2回目の逃亡

158
恋愛
エラは王子の婚約者になりたくなくて1度目の人生で思い切りよく逃亡し、その後幸福な生活を送った。だが目覚めるとまた同じ人生が始まっていて・・・

【完結済】25年目の厄災

恋愛
生まれてこの方、ずっと陽もささない地下牢に繋がれて、魔力を吸い出されている。どうやら生まれながらの罪人らしいが、自分に罪の記憶はない。 だが、明日……25歳の誕生日の朝には斬首されるのだそうだ。もう何もかもに疲れ果てた彼女に届いたのは…… 25周年記念に、サクッと思い付きで書いた短編なので、これまで以上に拙いものですが、お暇潰しにでも読んで頂けたら嬉しいです。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

処理中です...