深夜のコンビニバイト始めたけど魔王とか河童とか変な人来すぎて正直続けていける自信がない

ガイア

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深夜のコンビニバイト二十一日目 勇者再来店

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深夜のコンビニバイト二十一日目。

出勤したら、既に休憩スペースに座るサングラス、黒いパーカーにジーンズの明らかに怪しげな男。
 
「よっ!」

へへっと笑いながらちょりーっす!と挨拶してくる金髪の青年。
 
「.....あぁ」

「なんだよ!その反応!ひどいよ!ひどいよ!俺が折角出勤してきた君をこうして出迎えたっていうのにさ!今日もわざわざ深夜にコンビニまで出勤お疲れ様!すごいね!俺は深夜にこんなコンビニに物を買いに来るわけもなく、レジに立ち続けるなんて、考えただけで眠っちゃいそうだよ」

「出勤ついで殴っとくか」

腕を軽くぐるりと回す。

「いやいやいや!待って待って!何!?出勤ついでって!そんな買い物ついでにみたいなノリで世界的ユーチューバーの俺を殴っちゃだめだよ!こう見えて俺、顔も商品だからさ?」

ふふんとテーブルに肘をついてサングラスを格好良く外しキメ顔をした勇者に、

「はぁ....」
 
深いため息をついてしまった。
出勤して早々ちょっと疲れたんだけど俺。

「まっ!ここで待ってるからさ!どうせ深夜なんてお客さん来ないでしょ!ちょっと今日は俺話したいことがあってきたんだよね!話そうよ!店員さん!」

足をぶらぶらさせながらハイテンションでまくしたてるように話すと、勇者は整った顔でにっこり笑った。
本当にこの人、色々残念だよなぁ...。

準備をしてレジに立つと、

「おかえり~店員さん、ちょっと今日真剣な話があるんだよね、ちょっとこっちきてくれる?」

なんとなく話の内容はわかる。
このタイミングで、俺の出勤前までこのコンビニで待つくらいの内容だ。

「昨日動画のコメントに「お仲間が来たよ」って来てたんだけどさ、店員さんだよね。俺のパーティメンバー昨日このコンビニに来たの?」
 
珍しく真面目な顔で切り出した勇者。
仲間に会いたいんだろうな.....勇者は。
他のメンバーは、

『そうですか。わたくし達は会いたくありませんとお伝えくださいまし。それでは御機嫌よう』

クレアさんの帰りがけの氷のように冷たい言葉を思い出して苦笑する。
マジでお前あの人たちに何やらかしたんだよ。

「来ましたよ。見事に三人揃って」

「そっかぁ...!よかった、皆無事で!元気そうだった?」

本当に安心したように微笑む勇者に、何だか気の毒になって来た。

「元気そうでしたよ」

「今どこにいるって?」

勿論聞いたんだろ?みたいな顔で言われても...。

「それが.....聞いてないんですよ」
 
「えぇ!?なんで!?普通聞くよね!?来たよ!だけ言われても会えないじゃん!」

カチンと来たので、ついに俺は真実を口にしてしまった。

「いや、会いたくないって言ってましたよ。クレアさんが」

「........え?」

「会いたくない、って、言ってましたよ?」

勇者は、ショックでサラサラの砂のように崩れ落ちた。

「.....ぐっ...ぐぅ...まだ...許してくれてないっていうのかよぉ」

やっぱり何かしたんだなこいつ。

「はぁ、皆さんに何したんですか?」

「.....別にぃ、大したことはしてないよ。ただ、パーティメンバーの三人と同時に付き合ってただけだよ」


























...............................................は?

「今、な、何て?」

「え?だから、パーティメンバー全員と付き合ってたんだって、それがバレて、お灸を据えられたって感じかな」

「死ねよ」

「いや、待って!なんでそんなさらっとそんなひどいこと言えるの!?声ひっく!怖すぎるよ!!しかも息を吐くように言ったよね!?今しかも顔!顔何とかして!めっちゃ今怖い顔してるよ!?」

顔やばいよ!と俺を指差す勇者に、俺は表情を一切変えなかった。

「じゃあ死ねよ」

「同じ事だよ!!待って、待ってね!?理由を述べさせてくれる?あのね、ちゃんとした理由があるんだよ!勇者ならではの苦悩ってやつがあるんだよ」

必死に弁解しようとする勇者に、俺は無表情に、ただ怒りだけを心に爆発させ、その怒りの熱を拳に宿し、一応弁解だけでも聞いてやろうと口を閉じた。

「あぁ、あのね。これ勇者あるあるね。勇者なら誰でも通る道なの。ほら、本屋で並んでる勇者系のライトノベルとかでもあるじゃん?あれは大体俺をモチーフにしてると思うんだけどさ!やっぱ勇者って格好よくてモテるんだよね!主人公補正最初からついてんのよ」

俺の怒りを鎮めようと必死に身振り手振りで説明を始めた勇者。
全世界の勇者が出るライトノベルを書いている作者様に謝れ。
今まで俺はパーティメンバーのヒロイン全員と作中で付き合ってお灸を据えられた勇者なんて見た事ないぞ。

「.......」

「それでね、プラス、そういう勇者についてくるのは、やっぱり、ヒロイン!そうパーティメンバーがめちゃくちゃ可愛いの、もうめちゃくちゃ。うちのパーティメンバー見たでしょ!?めちゃくちゃ可愛いじゃん?ね?ね?」

「........」

確かに全員美少女だった。特にクレアさん、めちゃくちゃ美人だった。
こいつ、あんな美人な人とも付き合ってたのかよ殺そう。

「で、大体普通のね?一般ピーポーな勇者って、パーティメンバーのヒロインから言い寄られるハーレムルートで1人だけ選ぶわけよ!悩んで苦悩したあげく、それってさ、必ず失恋するヒロインが出てくるわけじゃん?涙を流す女の子が出るわけじゃん?そんなの俺は耐えられないわけよ!」

「.......」

「そこで俺は考えた!!そう、考えたんだよ!苦悩したよ!大変だった!頭を振り絞ったんだ!それでね、全員を幸せにするにはどうしたらいいかな?って俺の大事なパーティメンバーの美少女達を幸せにするには、三人と付き合うしか...それしか方法がなかったんだよ!!!」

「どうやって三股してる事がバレたんだ?」

「皆が夜に一緒に寝てるんだけど、寝る前に好きな人せーので言い合おうってやつでバレた」

修学旅行かよ!!!!
三人は仲よかったんだな...なんて事をしてくれたんだ。
三人の仲はこいつのせいでめちゃくちゃになったんだろうな。

「三人は、俺に言いよるメンバーが気に入らなくて毎日嫉妬で喧嘩ばっかりしてたんだけどさ、俺をボコボコにして裸で吊るし上げて山頂に捨てた時にさ、何か三人で泣きながら肩組んで笑いあってて、すごく仲良くなってたんだよね。だから俺、そんな三人を見て、俺がやったことは無駄じゃなかったんだって。終いには吊るし上げられた裸の俺を囲んで火を焚いてマイムマイム踊り出したからね」

怖っ...。何そのシュールな絵。
失恋した女三人で当事者の男を裸で吊るし上げて火を焚いてそれ囲んでマイムマイム踊るってどんな状況だよ...狂気すぎるだろ。

「まだ許してもらってないんだよね。俺が裸で吊るされた後に、縄をなんとか解いて謝りに行ったんだよね。裸だから、拠点の裏口から入ってその時に部屋で鎧をまず着込んで、その後にこっちに来たんだ。4人で来たかと思ったら俺1人でさ、ちゃんと訳を話して謝りたいんだよね」

俺だったらのこのこ目の前に現れた瞬間に殺してるけどな。

「謝りたい、ねぇ...」

勇者の真剣な眼差しに、俺は少し殺意が揺らいだ。もしかしてちゃんと反省してるのか?こいつ。
でも話を聞く限りパーティメンバーの方々にこいつを会わせるのは危険すぎる気がする。

「うん、まぁ。今度来た時にすごく反省してたって伝えておいてみるよ」

「本当かい?じゃあ今度こそ一応連絡先交換しておこうよ!はい、名刺」

『勇者ユーチューバーマックの異世界動画配信』

マックだよ!よろしくね!
かなりのクオリティの高い勇者の似顔絵が描かれたちゃんとした名刺を渡された。

「ちゃんと絵師さんに頼んで描いてもらったんだ。俺ほら、お金あるからさ」

「あっ...うん」

魔王とは大違いだな...あ、そういや!!

「魔王!そうだ、魔王最近来ないんだよ!空腹でのたれ死んでないかな!?」

「え?魔王?あぁ、大丈夫だよ!前に俺と魔王が一回会った時なんだけど、最初に魔王がホームレスって聞いた時にさ、"あっ"って思って。その時、どこの公園に住んでるか聞いておいたんだ」

確かに聞いてたな。

『ホームレスって、あのテレビでやってた...あっマジか...苦労してんだね...ちなみにどこに住んでるの?』

『ここからすぐ近くの広い公園にテントを立てて暮らしている』

「コンビニから出た後俺がこのコンビニの700円くじ全部やってみた!って企画で当たった食料品の食べきれないやつを持ってってあげたんだよ。中にはカツサンドもあったしさ。俺あんなに食べきれないし」

「それ本当なのか!?」

「うん、ホームレスのおっちゃん達も涙を流して俺に頭下げてたよ。魔王も感謝してた」

俺は、勇者の見る目が少しずつ変わって来てしまった。
待て、村松晴...こいつは三股クズ勇者なんだぞ。

「ユーチューバーってさ、やっぱり新発売のこの味買ってみたとか、あれ大量に食べてみた、とかさ。結構食べ物、増えちゃうんだよね。それを困っているホームレスの人達にあげればウィンウィンの関係になると思うんだ。お腹も空いてるだろうし、沢山買って腐らせるより全然いいよ。動画で出したらもうその食べ物は実質もう動画に出ないから食べるだけでしょ?」

勇者は、休憩スペースの椅子からよいしょ、と立ち上がり、ポケットに手を突っ込み俺に背を向けた。

「でもさ、俺があげた食料よりホームレスのおっちゃん達は魔王の買ってたカツサンドの方が美味しそうに、号泣しながら食べてたな。何か、羨ましかった。魔王って悪い奴のはずなのにさ、俺の周りには誰もいなくて、いつも魔王の周りには人が集まるんだよね」

「そりゃお前が三股したからだろ」

「俺が、三股したのだって彼女達の為を思ってした事なのに、いっつもこうだ。俺はいっつもやりたい事、人の為にする事が空回って1人になる。俺なんかと唯一仲間になってくれた三人だって、もう俺には会いたくないって...」

声が震えていた。
勇者なのに、孤独で、仲間がいなくて、
ユーチューバーしてても嘘つき、イキリって言われてるんだよな。

「俺くらいは話聞くから、また深夜にコンビニにこればいいよ。後、魔王に食料をありがとう安心した。きっと魔王はホームレスの方々は、勇者に感謝してると思うよ」

勇者は、バッと勢いよく俺を振り返った。

「ありがとう。これが友達ってやつか...へへ、男の友達なんて、初めてできたよ。こんな感じなんだな。男の友情って、嬉しいや」

「いや、別に友達になった覚えはない」

「俺の事はこれからマックでいいぜ?店員さんの名前は...ふーむ?ムラマツ?俺が友達としてイカしたアダ名つけてやるよ!...そうだな!ムラオ。ムラオにしよう」

「全力でやめろ話を聞け」

「ムラオ!ありがとうな。俺、前を向いて生きるよ!また来るからさ!客としてじゃなく、ムラオの"友達"(ダチ)として。アーディオス!!!」

高い声で高らかに、心底楽しそうにスキップしながら店を後にした勇者。
なんだかんだ俺は、勇者も魔王も放っておけないようだ。

***

昼頃。
目がさめると新着動画に、

勇者ユーチューバーマックの異世界動画配信~人間界で初めての友達ができた~
が上がっていた。
そこには、嬉しそうにハイテンションで

「俺の友達は深夜にコンビニの店員なんてやってんだぜ!すげぇだろ!眠くないんだぜ!」

なんて話す勇者がいた。

「ふっ...」

意図せぬ笑いが出てしまった。
高評価ボタンを押してやり、俺はまた布団にもぐった。
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