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深夜のコンビニバイト二十二日目 人魚姫来店
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深夜のコンビニバイト二十二日目。
ピロリロピロリロ
「いらっしゃいませ....あっ!いらっしゃいませ!」
思わず俺は動揺していらっしゃいませを二回行ってしまった。
それは何故か──普通のお客様が、来店してきたからだ。
「見て!扉が勝手に開きましたわ!魔法のようですわ!」
白い長いつばの女優帽に、腰まで伸びる桃色の長い髪、足が隠れるほど長い白いワンピースを着て、車椅子に乗った女優さんかなというくらい美しい女性が、自動ドアに感動しながら来店してきた。
自動ドアに感動したところはちょっと怪しいが、ここまで人間の見た目のお客様は珍しい。きっと人間だ。
このコンビニにも深夜に普通のお客様が来る日が来た!!
後ろには、車椅子を押す黒いスーツに、丸坊主でサングラスの男が付き添っている。
もしかして有名人?後ろの人はボディーガード的な何か?
その美しい女性は、コンビニに入ってくるなり、両手をパンと叩いた。
「まぁ!まぁまぁまぁ!これが人間界のおコンビニですのね!素敵ですわ!」
人間界のという言葉にひっかかった俺は、思わず眉をひそめて彼女を観察した。
よく見たら彼女、耳から魚のエラみたいなのがぴょんって出てる。待って、サングラスの人、全体的にちょっとヌメッとしてない?顔とかちょっとテカってない?
あれ、もしかして...今日深夜のコンビニに初めて人間が来た日、じゃない?
「あら?貴方がこのおコンビニを仕切っておられる方なのかしら?ふふ、今日はどうも、よろしくお願い致しますね」
ぺこりと頭を下げられ、後ろのSPのような人に深々と頭を下げられた為、俺も思わず
「あ、いえ、今日は楽しんでいってください」
なんて言って頭を下げた。
なんだよ!!今日は楽しんでいってくださいって!!恥ずかしい!!何で俺そんなこと言っちゃったんだろ!!
「色々な物があって、ワクワク致しますわね!一周回りますわ!早く!海坊主!」
「はい!人魚姫!」
人魚姫!?人魚姫って...あの人魚姫...?陸に上がってコンビニに!?いやいやいや、まさか。まさか...ね?
ゴーゴー!と腕をつきあげるんるんとコンビニを一周する2人。何だか見ていて微笑ましかった。
「これは何ですの?海坊主?」
海坊主!?何か聞いたことあるぞ。
妖怪の名前だった気がする。
「え、えーっと、これは...な、何でございましょうか、先程の方に伺ってきますね」
そんな声がして、海坊主さんがこちらにおずおずとやってきた。
「あの...一つお聞きしたい事がございまして」
「いいですよ。どうされました?」
ニコッと微笑んで落ち着いた様子で俺は向かった。
向かった先で、人魚姫が持っていたものを見て、俺は思わず足を止めた。
「どうされました?」
海坊主さんの問いかけに俺は目が泳ぎまくっていた。
「あ、いや、あの、その」
「あら!きてくださったのね!人間さん、こちらは何ですの?閉じられていて中が見られませんの」
人魚姫さんが持っていたのは、エロ本だった。頑張って立ち読み禁止の紐をぐっぐっと引っ張って中を見ようとしている人魚姫さんに注意する余裕もなく、エロ本を知らない2人にエロ本をなんて説明しようかという事に全神経を集中させていた。そもそもエロ本なんて知らなくていいだろ。適当に何か嘘を...あぁあ!!!思いつかない!!
「あっ...あの、えっと、その、あれ、ですよ。大人にならないと、この紐は解けないんですよ。まだその本に大人だって認められてないんですよ」
「何ですって!わたくしは、海の魔女にお願いして確かに人間にしてもらいましたわ!...でも、やはり人間の大人でないといけないのですね。偽物だとバレてしまっているのですね」
しゅんとする人魚姫さんに、
「貸してください、私なら大人として認識されるかもしれません」
海坊主さんが手にとってエロ本を回したり上から見たりしたから見たり、紐をぐっぐっと引っ張ったり、見ていてとても心が痛くなった。
「ダメです、私も偽物だとばれてしまっています。元は海坊主...黒い大きな塊の怪物の私がこうして魔女様の力で偽物の血と肉を与えられたというだけですからね...こちらはすごいものですね。私達が人間の大人でないとすぐに見抜くなんて」
違う...違うんですごめんなさい。ただの紐で縛ってあるエロ本なんです。
「どうされたんですか?両手でお顔を隠されて」
「いえ.....なんでも、なんでもありません」
なんて言えばよかったんだ俺は。
エロ本も知らないような純粋な2人にはこうするしかなかったんだ。
「ありがとうございます。また何か気になる事があったらお伺いさせていただきますわ」
にっこり笑うと、人魚姫さんと海坊主さんはまたゴーゴー!とコンビニをまわり始めた。
俺はふらふらとコンビニに戻り、2人の様子を眺めていた。
「これがおカップラーメンというものですのね!?ほわぁ...とっても軽いですわ!シャカシャカですわ!」
「人魚姫、大きいものもありますよ!」
ブンブンとカップラーメンを一つ一つ手に取り振って行く人魚姫さんを見て、コンビニに来たことがないタイプの人はいたけど、こんな風に純粋にコンビニを楽しんでいる人はいなかったな、なんて思いながら眺めていた。
注意すべきなのはわかるが、あんなに俺は楽しそうに店内中のカップ麺をシャカシャカ振る人を見たことが無い。
「わぁ!お菓子がいっぱいですわ!これがお駄菓子というものなのですね!10円のものもありますわ!」
「人魚姫様、勝手に開けて食べちゃダメですよ」
「もう、海坊主。それくらいわたくしも分かっておりますわ。でも、とっても楽しいところですわね、おコンビニ!夢のような場所ですわ!」
うっとりと両手を祈るように絡めて移動して行くラストのお惣菜の通路。
「まぁ!見て!あたためて食べてくださいとわざわざ書いてありますわ!親切ですわね。とっても密封されてますわ」
「そうですね。折角なので温かいものを食べてみましょうか」
なんて言いながら2人は魚介のパスタを会計に持ってきた。
「あたためますか?」
聞くまでもない、人魚姫さんはキラキラした瞳で
「はい!お願いいたします!その後ろの四角い箱でやるんですわよね!」
「そうですよ」
チンしている間に、
「この白い丸いものはなんですの?」
「肉まんです。この白いパン見たいなやつの中に肉とか入ってます」
我ながら超雑な説明だった。
こんな説明で食べたい!ってなるやつはいないだろう。
「すごいわ!パンにお肉をいれるなんてよく思いつくのね!海坊主!折角だからこのお肉まんをいただいていきましょう!」
「そうですね、人魚姫。私も気になっておりました」
この2人何言っても全部感動して純粋に返してくれるから上手く説明できなくてすごく申し訳ないけどめちゃくちゃ癒されるな。
「では、肉まんお二つですね」
いろんな味があるけど、このコンビニで一番人気なの肉まんだからな。
そして俺の説明じゃ多分他のまんも、
あんの入ったパンとか、チーズの入ったパンとかになるだろうから、もう無難にこのまま肉まんを買ってもらおう。
肉まんも追加でちゃんとあわせてお金を払ってくれた2人。片手がふさがってしまうため、海坊主さんの肉まんも袋に入れて人魚姫さんに渡した。
「あったかいですわ!見て!海坊主!あったかいですわ!ふわふわですわ!素敵!」
肉まんに頬ずりしながらうっとりしている人魚姫。
肉まんって頬ずりしたくなるのはすごくわかるけど本当にしてる人初めて見た。
チンが終わったのでパスタにフォークをつけてあげて袋に入れると2人はにっこり笑って、
「ありがとうございました。人間さん、とても幸せな時間でしたわ」
「ありがとうございました」
お礼までいってくれた。
俺はこんな良心的なお客さんに出会った事がなかった為、ちょっと涙が出そうだった。
だが、帰り際──。
「あー!わたくしこれは気がつきませんでしたわ!」
人魚姫さんは入り口前にあるコーヒーメーカーに気がついた。
「なんですの!この機械は」
「コーヒーメーカーです。コーヒーという飲み物が出てきます」
説明下手かよ俺!!もうなんて言えばいいのコーヒーメーカーの説明は!エロ本の説明で脳を回転させすぎてまともに説明できないよ!!
「この機械から飲み物が出るんですの?信じられませんわ!人間界のお蛇口のようにどこにもつながっているようには見えませんし...これも体験したいですわ!海坊主!」
「私も興味があるのでこちらはこの機械を購入すればよろしいんですか?」
海坊主さん、お金結構持ってる感じなんだよな。いい財布使ってるし。
なんだか心配になる。この2人そうです、機械買うんです。一杯一万円です!といっても信じてしまいそうで怖い。
「あ、機械の説明しますね。コーヒー苦いんでこの中で唯一甘い抹茶オレとか飲んでみます?」
お会計を済ませた後、コップをセットして機械のボタンを押すと、シュコーという音がして機械から緑の抹茶オレと抹茶のいい匂いが立ち込める。
「.....出てきましたわ!出てきましたわ!これは神秘的ですわ!神の産物ですわ!すごいですわ!」
キラキラした瞳でコップに注がれていく抹茶オレを眺める人魚姫さんに、
「この機会があれば好きな時に色んな種類の飲み物を飲めるという事ですか?素晴らしいですね。こんな未来の機械が置いてあるなんて、コンビニというところは国から認められた素晴らしい所なのですね」
コンビニをべた褒めしてくれる海坊主さん。
抹茶オレを飲んだ2人は、
「こんなに美味しいお飲み物飲んだことありませんわ!」
「素晴らしいこんなに美味しいものがボタンを押すだけで出てくるなんて!こんなにすごいものがあるなんて!陸に来てみないと分からなかったですね」
感動しながら飲んでいた。嬉しい。
「ありがとう人間さん、実はわたくし達、どうしても人間界を見たくて海の魔女に人間にしてもらいましたの。本当はわたくしは人魚姫、彼は海坊主。日が出るまでに戻ってこなかったら2人とも海の泡になってしまうって契約で」
そこまでして...海の泡になってしまうかもしれないのに。
「人間になれるのは深夜の12時から日が出るまでなんですの。でもそんな時間帯にやっているお店もない。そんな中、24時間やっている本で見たおコンビニを見つけて、思わず駆け込みましたわ。本当に楽しくて、ワクワクして、素敵な所でしたわ。ありがとうございます」
「ありがとうございました。人間界を少ない時間の中で楽しむことができました。人魚姫もとても楽しそうで、あなたのお陰です。これからも、この素敵な場所を守っていってください」
人魚姫さんと、海坊主さんはにっこり笑って帰っていかれた。
いい人たちすぎて本当は帰って欲しくないとまで思ってしまっていたが、2人にはまた是非来て欲しい。
冬には是非おでんを振る舞いたいな、なんて思いながら俺はふっと微笑んだ。
ピロリロピロリロ
「いらっしゃいませ....あっ!いらっしゃいませ!」
思わず俺は動揺していらっしゃいませを二回行ってしまった。
それは何故か──普通のお客様が、来店してきたからだ。
「見て!扉が勝手に開きましたわ!魔法のようですわ!」
白い長いつばの女優帽に、腰まで伸びる桃色の長い髪、足が隠れるほど長い白いワンピースを着て、車椅子に乗った女優さんかなというくらい美しい女性が、自動ドアに感動しながら来店してきた。
自動ドアに感動したところはちょっと怪しいが、ここまで人間の見た目のお客様は珍しい。きっと人間だ。
このコンビニにも深夜に普通のお客様が来る日が来た!!
後ろには、車椅子を押す黒いスーツに、丸坊主でサングラスの男が付き添っている。
もしかして有名人?後ろの人はボディーガード的な何か?
その美しい女性は、コンビニに入ってくるなり、両手をパンと叩いた。
「まぁ!まぁまぁまぁ!これが人間界のおコンビニですのね!素敵ですわ!」
人間界のという言葉にひっかかった俺は、思わず眉をひそめて彼女を観察した。
よく見たら彼女、耳から魚のエラみたいなのがぴょんって出てる。待って、サングラスの人、全体的にちょっとヌメッとしてない?顔とかちょっとテカってない?
あれ、もしかして...今日深夜のコンビニに初めて人間が来た日、じゃない?
「あら?貴方がこのおコンビニを仕切っておられる方なのかしら?ふふ、今日はどうも、よろしくお願い致しますね」
ぺこりと頭を下げられ、後ろのSPのような人に深々と頭を下げられた為、俺も思わず
「あ、いえ、今日は楽しんでいってください」
なんて言って頭を下げた。
なんだよ!!今日は楽しんでいってくださいって!!恥ずかしい!!何で俺そんなこと言っちゃったんだろ!!
「色々な物があって、ワクワク致しますわね!一周回りますわ!早く!海坊主!」
「はい!人魚姫!」
人魚姫!?人魚姫って...あの人魚姫...?陸に上がってコンビニに!?いやいやいや、まさか。まさか...ね?
ゴーゴー!と腕をつきあげるんるんとコンビニを一周する2人。何だか見ていて微笑ましかった。
「これは何ですの?海坊主?」
海坊主!?何か聞いたことあるぞ。
妖怪の名前だった気がする。
「え、えーっと、これは...な、何でございましょうか、先程の方に伺ってきますね」
そんな声がして、海坊主さんがこちらにおずおずとやってきた。
「あの...一つお聞きしたい事がございまして」
「いいですよ。どうされました?」
ニコッと微笑んで落ち着いた様子で俺は向かった。
向かった先で、人魚姫が持っていたものを見て、俺は思わず足を止めた。
「どうされました?」
海坊主さんの問いかけに俺は目が泳ぎまくっていた。
「あ、いや、あの、その」
「あら!きてくださったのね!人間さん、こちらは何ですの?閉じられていて中が見られませんの」
人魚姫さんが持っていたのは、エロ本だった。頑張って立ち読み禁止の紐をぐっぐっと引っ張って中を見ようとしている人魚姫さんに注意する余裕もなく、エロ本を知らない2人にエロ本をなんて説明しようかという事に全神経を集中させていた。そもそもエロ本なんて知らなくていいだろ。適当に何か嘘を...あぁあ!!!思いつかない!!
「あっ...あの、えっと、その、あれ、ですよ。大人にならないと、この紐は解けないんですよ。まだその本に大人だって認められてないんですよ」
「何ですって!わたくしは、海の魔女にお願いして確かに人間にしてもらいましたわ!...でも、やはり人間の大人でないといけないのですね。偽物だとバレてしまっているのですね」
しゅんとする人魚姫さんに、
「貸してください、私なら大人として認識されるかもしれません」
海坊主さんが手にとってエロ本を回したり上から見たりしたから見たり、紐をぐっぐっと引っ張ったり、見ていてとても心が痛くなった。
「ダメです、私も偽物だとばれてしまっています。元は海坊主...黒い大きな塊の怪物の私がこうして魔女様の力で偽物の血と肉を与えられたというだけですからね...こちらはすごいものですね。私達が人間の大人でないとすぐに見抜くなんて」
違う...違うんですごめんなさい。ただの紐で縛ってあるエロ本なんです。
「どうされたんですか?両手でお顔を隠されて」
「いえ.....なんでも、なんでもありません」
なんて言えばよかったんだ俺は。
エロ本も知らないような純粋な2人にはこうするしかなかったんだ。
「ありがとうございます。また何か気になる事があったらお伺いさせていただきますわ」
にっこり笑うと、人魚姫さんと海坊主さんはまたゴーゴー!とコンビニをまわり始めた。
俺はふらふらとコンビニに戻り、2人の様子を眺めていた。
「これがおカップラーメンというものですのね!?ほわぁ...とっても軽いですわ!シャカシャカですわ!」
「人魚姫、大きいものもありますよ!」
ブンブンとカップラーメンを一つ一つ手に取り振って行く人魚姫さんを見て、コンビニに来たことがないタイプの人はいたけど、こんな風に純粋にコンビニを楽しんでいる人はいなかったな、なんて思いながら眺めていた。
注意すべきなのはわかるが、あんなに俺は楽しそうに店内中のカップ麺をシャカシャカ振る人を見たことが無い。
「わぁ!お菓子がいっぱいですわ!これがお駄菓子というものなのですね!10円のものもありますわ!」
「人魚姫様、勝手に開けて食べちゃダメですよ」
「もう、海坊主。それくらいわたくしも分かっておりますわ。でも、とっても楽しいところですわね、おコンビニ!夢のような場所ですわ!」
うっとりと両手を祈るように絡めて移動して行くラストのお惣菜の通路。
「まぁ!見て!あたためて食べてくださいとわざわざ書いてありますわ!親切ですわね。とっても密封されてますわ」
「そうですね。折角なので温かいものを食べてみましょうか」
なんて言いながら2人は魚介のパスタを会計に持ってきた。
「あたためますか?」
聞くまでもない、人魚姫さんはキラキラした瞳で
「はい!お願いいたします!その後ろの四角い箱でやるんですわよね!」
「そうですよ」
チンしている間に、
「この白い丸いものはなんですの?」
「肉まんです。この白いパン見たいなやつの中に肉とか入ってます」
我ながら超雑な説明だった。
こんな説明で食べたい!ってなるやつはいないだろう。
「すごいわ!パンにお肉をいれるなんてよく思いつくのね!海坊主!折角だからこのお肉まんをいただいていきましょう!」
「そうですね、人魚姫。私も気になっておりました」
この2人何言っても全部感動して純粋に返してくれるから上手く説明できなくてすごく申し訳ないけどめちゃくちゃ癒されるな。
「では、肉まんお二つですね」
いろんな味があるけど、このコンビニで一番人気なの肉まんだからな。
そして俺の説明じゃ多分他のまんも、
あんの入ったパンとか、チーズの入ったパンとかになるだろうから、もう無難にこのまま肉まんを買ってもらおう。
肉まんも追加でちゃんとあわせてお金を払ってくれた2人。片手がふさがってしまうため、海坊主さんの肉まんも袋に入れて人魚姫さんに渡した。
「あったかいですわ!見て!海坊主!あったかいですわ!ふわふわですわ!素敵!」
肉まんに頬ずりしながらうっとりしている人魚姫。
肉まんって頬ずりしたくなるのはすごくわかるけど本当にしてる人初めて見た。
チンが終わったのでパスタにフォークをつけてあげて袋に入れると2人はにっこり笑って、
「ありがとうございました。人間さん、とても幸せな時間でしたわ」
「ありがとうございました」
お礼までいってくれた。
俺はこんな良心的なお客さんに出会った事がなかった為、ちょっと涙が出そうだった。
だが、帰り際──。
「あー!わたくしこれは気がつきませんでしたわ!」
人魚姫さんは入り口前にあるコーヒーメーカーに気がついた。
「なんですの!この機械は」
「コーヒーメーカーです。コーヒーという飲み物が出てきます」
説明下手かよ俺!!もうなんて言えばいいのコーヒーメーカーの説明は!エロ本の説明で脳を回転させすぎてまともに説明できないよ!!
「この機械から飲み物が出るんですの?信じられませんわ!人間界のお蛇口のようにどこにもつながっているようには見えませんし...これも体験したいですわ!海坊主!」
「私も興味があるのでこちらはこの機械を購入すればよろしいんですか?」
海坊主さん、お金結構持ってる感じなんだよな。いい財布使ってるし。
なんだか心配になる。この2人そうです、機械買うんです。一杯一万円です!といっても信じてしまいそうで怖い。
「あ、機械の説明しますね。コーヒー苦いんでこの中で唯一甘い抹茶オレとか飲んでみます?」
お会計を済ませた後、コップをセットして機械のボタンを押すと、シュコーという音がして機械から緑の抹茶オレと抹茶のいい匂いが立ち込める。
「.....出てきましたわ!出てきましたわ!これは神秘的ですわ!神の産物ですわ!すごいですわ!」
キラキラした瞳でコップに注がれていく抹茶オレを眺める人魚姫さんに、
「この機会があれば好きな時に色んな種類の飲み物を飲めるという事ですか?素晴らしいですね。こんな未来の機械が置いてあるなんて、コンビニというところは国から認められた素晴らしい所なのですね」
コンビニをべた褒めしてくれる海坊主さん。
抹茶オレを飲んだ2人は、
「こんなに美味しいお飲み物飲んだことありませんわ!」
「素晴らしいこんなに美味しいものがボタンを押すだけで出てくるなんて!こんなにすごいものがあるなんて!陸に来てみないと分からなかったですね」
感動しながら飲んでいた。嬉しい。
「ありがとう人間さん、実はわたくし達、どうしても人間界を見たくて海の魔女に人間にしてもらいましたの。本当はわたくしは人魚姫、彼は海坊主。日が出るまでに戻ってこなかったら2人とも海の泡になってしまうって契約で」
そこまでして...海の泡になってしまうかもしれないのに。
「人間になれるのは深夜の12時から日が出るまでなんですの。でもそんな時間帯にやっているお店もない。そんな中、24時間やっている本で見たおコンビニを見つけて、思わず駆け込みましたわ。本当に楽しくて、ワクワクして、素敵な所でしたわ。ありがとうございます」
「ありがとうございました。人間界を少ない時間の中で楽しむことができました。人魚姫もとても楽しそうで、あなたのお陰です。これからも、この素敵な場所を守っていってください」
人魚姫さんと、海坊主さんはにっこり笑って帰っていかれた。
いい人たちすぎて本当は帰って欲しくないとまで思ってしまっていたが、2人にはまた是非来て欲しい。
冬には是非おでんを振る舞いたいな、なんて思いながら俺はふっと微笑んだ。
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